タイトル:【虐】 涼域探査
ファイル:涼域探査.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:5983 レス数:3
初投稿日時:2007/06/20-01:10:39修正日時:2007/06/20-01:10:39
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夏
じりじりと照付ける太陽
公園の茂みの陰にダンボール箱がひとつ

「あ〜、あ゛づ いデス〜。」
「テェェ…。」

親と仔が2匹の実装石の家族は、纏わりつく暑さと自らの放つ汗臭さに我慢の限界が来ていた
入り口を開けっ放しにしても、そよ風一つすら入ってこない
これ以上は生死に関わると感じた親実装は、すくりと立ち上がり我が仔達に話しかける

「大丈夫デス?」
「あ、暑くて死にそうテチィ…。」
「お水が飲みたいテチュ…。」

親実装はダンボールから出て公園内の噴水をチラリと見たが、そこに水は無い
ここ数週間、雨が少ないので自治体により水の使用制限がされているからだが実装石にそのことを知る術は無い
去年の夏は、あの噴水で水浴びをしたりして夏をなんとかやり過ごせた
おかげで去年の春に産んだ仔達は、無事成長して冬には新天地を求め旅立った
今居るこの仔達もどうにか育ててやりたい
水が無いのは仕方が無いとしても、なんとかして暑さを凌がねば

「お前達、ママについてくるデス。」

危険な賭けになるが行動しなければ状況は変わらない
親実装はある決心をして、仔達にも立つよう促した

「テエ?どこに行くテチ?」
「少し危険デスが、ニンゲンの建物に行ってみるデスゥ。」
「どうしてテチュ?」
「人間の造った建物の中は、なぜかとても涼しいんデス。だから巧く中に入って暑さを凌ぐデス。」
「じゃあニンゲンサンに飼ってもらえばいいテチ!ワタチ天才テチ!」
「バカ言うんじゃないデス!ニンゲンは恐ろしいデスゥ。捕まったらたくさん痛いことされて殺されてしまうデス!」
「テェェ…。」
「さぁ、わかったらおとなしくついてくるデスゥ。」

こうして野良親仔は危険を承知で涼をとるべく出掛けていった

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

アスファルトから立ち昇る熱気に耐えながら、親仔は人通りの多い大通りへとやってきた
ここならドアが自動で開く建物が多いと親は考えたからだ
実装石がドアの前に立ってもセンサーが感知しない事もあったが、その時は誰かニンゲンが入った隙に自分達も入ればいい
親仔はまず、やたらと派手で大きな建物に入ることにした
やはりセンサーは親仔を感知しなかったが、人間が中から出てきたのでその隙に入ることが出来た
その人間が随分気落ちした様子だったのが、少し気になったがとりあえず進んでみる
建物の中には、なにかキラキラと光る機械が規則正しく並べてあり、人間たちは椅子に座ってその機械を無言で見つめている
何かの音楽がやたらと大きな音で流れていてうるさく感じたが、外とは比べ物にならないほどそこは涼しかった

「テェェ〜。生き返るテチュ〜。」
「勝手に動き回ったらダメデスゥ。早くどこか隠れる場所を探すデス。」

仔を引き連れ中をうろついてみるが、広いばかりで隠れられそうな場所はなかなか見つからない
途中、椅子に座った人間や自分達と同じようにそこらをうろつく人間が驚いた顔をして親仔を見たが
何事も無かったように、元の方向に向き直ると黙ってその機械を見つめ続けていた
とりあえずここに自分達に危害を加える人間はいないようだ
親がそう安心したときだった
仔実装たちの足元に銀色に輝く小さなボールが転がってきた

「テエ?何かキレイなボール発見テチ!」
「きっと宝物テチ!あそこにいっぱいあるテチュ〜!」

仔実装達は床に置かれた銀色のボールがたくさん入った箱を見つけるとそれに向って走り出す

「デ!?お前達、ママから離れちゃダメデスッ!!」

親実装が呼び止めるが、仔実装達は構わず箱の中に手を突っ込みジャラジャラとボールを掻き回して遊ぶ
箱に目一杯入れられていたボールは次々に箱から溢れ落ちれ床を転がっていく

「んん?うわっ、なにしてんだコイツッ!!」

仔実装達が遊ぶすぐ横の椅子に座っていた人間がその音に気付いて声を上げた
無邪気に銀のボールで遊ぶ仔実装
だがそれを見た人間の顔が見る見るうちに紅潮していく

「オ、お前達!早く逃げるデスッ!!」

その人間が怒っていると、親実装が気付いたときにはもう遅かった
箱の上で遊んでいた1匹が指で弾き飛ばされる

「チュペッ!?」
「オネェチャン!?」

ブリュッ
糞を撒き散らしながら床を転がる仔実装

「テェェン!!オネェチャン!!」

ぐったりと力なく横たわる仔実装にもう1匹が駆け寄る

「なんだなんだ?」
「うわ!クソしてやがる!汚ねぇっ!」

その騒ぎに周りの人間も集まり始めた
危険だ、この状況はとても危険だ
周りの空気が変化を察知した親実装は、2匹を助けようとするが人間が邪魔でなかなか我が仔に近づけない

「おい店員!!実装石がうろついてるなんてどういう店だっ!!」

仔実装を弾き飛ばした人間が、別の人間に向って怒鳴り散らす

「す、すいません!すぐに追い出しますんで!!」

怒鳴られた方は周りにいた人間達にも、何度も頭を下げて謝る
そして2匹を急いで摘まみ上げると、親実装がいることに気付かず外に向って歩き出した

「テ…テェ…ェ…。」
「テェェェーン!テェェーン!ママー!!」
「デデェッ!?」

仔が!ワタシの仔達がニンゲンに連れて行かれる!
必死であとを追う親実装
仔を返してくれ、と大声で鳴いてみるが周りの音に掻き消され、人間には届かない
そして人間が自動ドアの前で立ち止まったときに、ようやくその足にしがみついた

「おあ!?なんだ親もいたのか?」
「デェェデズゥ〜ッ。」

親実装は涙と鼻水を垂らし、仔を降ろすよう懇願する
その所為で人間のズボンがジワリと湿気を帯びてきた

「こらやめろよ!子供は返してやるから!」

そう言って人間は手に持っていた仔実装達を親実装に返してやった
戻ってきた仔達を両手で抱き締め、今度は嬉し涙を流す親実装
妹の方はどこにも怪我は無いようだが、姉は弾き飛ばされた所為で少しぐったりしている
だが、外傷も無く骨も折れてはいないようなので、親実装はほっと胸をなでおろした

「ママーッ!怖かったテチューっ!」
「デェェ、もう大丈夫デスゥ…。よかったデスゥ、よかったデスゥ…。」
「ああもぉ、きったねぇな…。ほらドア開けてやるから、とっとと出て行ってくれよ。」

リンガルが無いので指で外を指し示し、親実装に出るよう促す人間
親実装は我が仔を大事に抱えながら、何度も人間に向かって頭を下げ外へと出た

「デェェェ…。」

外へ出ると再び茹だる様な暑さが親仔を包み込む
意識のはっきりとしない姉を休ませるため、日陰を探す親実装に妹が腕の中から申し訳なさそうに話しかけてきた

「ママァ…。」
「なんデス?」
「ワタチのせいで追い出されたテチュ…。ごめんなさいテチ…。」
「もういいデス。お前達が無事で何よりでスゥ。でも今度はママから勝手に離れちゃダメデスゥ。」
「わかったテチ。もうしないテチ。」

そう約束する仔実装に、親実装はにこりと微笑みかける

「イイ仔デスゥ。さ、日陰でお姉ちゃんを休ませてやるデス。」

親実装は近くの路地裏に入ると、仔実装達を腕から降ろし姉を横に寝かせた
そして自分の前掛けをはずし、それをパタパタと扇いで横たわる姉を涼ませてやった

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

その後、目を覚ました姉に異常が無いのを確認し、親仔は再び街の中を進んでいった
色々な建物に侵入を試みたもののどれも上手くいかず
叩き出され、蹴り出され、箒でゴミを掃くように追い出されもした
幸いにしてまだ命に関わる怪我は無かったが、猛暑の中で歩き回っているので体力が持ちそうもない
特にか弱い仔実装達は限界が近付きつつあった

「テェェ、もう歩くのイヤテチュゥ…。」

ヒィヒィと息をしながら、姉の方が不満を漏らす

「我慢するデス。…今度はこのお店に入ってちゃんとお願いしてみるデス。」

額から流れる汗を拭い、親実装は目の前にあるコンビニを指の無い手で指し示した

「お願いしたら入れてもらえるテチ?」
「わからないデス。でも、勝手に入るよりはいいかもしれないデス。」
「…ニンゲンサンは怖いテチュゥ…。」
「わかってるデス。だから危なくなったらすぐに逃げるデスよ?」
「テェェェ…。」
「大丈夫デス。ママがついてるデス。」

怖がる仔達にそう言い聞かせる親実装だが、自身にも不安な気持ちはあった
このコンビニには以前からゴミを漁りに何度か来たことはある
しかしその都度、エプロンを着けた人間に乱暴に追い払われた
きっとあの人間は実装石に対していい感情を持っていないのだろう
しかし我が仔のためにも臆するわけには行かない
店の隅でおとなしくすることを約束すればもしかしたら…
そんな僅かな希望を胸に、親実装は仔実装達を連れて自動ドアが開いた隙にコンビニの中へと入った

「いらっしゃいませー。」

エプロンを着けた人間は棚にある商品の整理をしているのか背を向けており、入ってきたのが実装石だと気付いていない
親仔は周りにちらほらと居る人間達に注意しながら、エプロンを着けた人間の後ろに近付き話しかけた

「ニ、ニンゲンサン!お、お願いがあるデス!」
「え!?」

親実装は緊張していたためか、つい大きな声を出してしまった

「あ、っと、お、大きな声出してごめんなさいデスッ。ワタシたちは——。」
「何しに入ってきた!お客様に迷惑だっ!ほら、出てけ!」

食品も扱うコンビニに野良実装が入るなどもってのほかである
しかもリンガルも持っていない相手に話が通じるわけも無く、人間はドアの方へと親仔を追い立てる

「は、話を聞いて欲しいデス!」
「あーもう、ぎゃあぎゃあうるさい!」

親仔は人間の怒気に押され自動ドアの前まで、じりじりと後退する

「マ、ママ逃げた方がいいテチュ…。」
「テ、テェェェ…。」

親実装の足にしがみつき震える仔実装達
すぐ後ろで自動ドアが開くのを親実装は感じた
もう後が無い
言葉で無理なら態度で表すしかない

「デ、デ、…デッスゥ〜ン♪」

焦った親実装が取った手段は『媚び』
この状況でのその行動が相手に怒りに火を注いだ

「さっさと出ろォッ!!!」

怒りが頂点に達した人間の強烈な蹴りが親実装の顔面を捉える

「デピッ!?」

鼻血を吹き出しながら、店の外へ吹き飛ぶ親実装
何事かと通行人が驚く中、グチャリと頭から地面に激突した

「マ、ママーッ!!」

蹴られた顔を抑え蹲る親実装に、仔実装が泣きながら駆け寄る

「まったく…。店が汚れるだろうが。」

エプロンを着けた人間は親仔に吐き捨てるように言うと、店の客に頭を下げながら中へと戻っていった

「ママ!ママ!ダイジョウブテチ!?」
「デ、デェェ…。マ、ママは平気デスゥ…。お前達は怪我は無いデスゥ…?」
「ヮ、ワタチはダイジョウブテチュ!」

妹がしゃくり上げながらも、親の問いに答える

「デェ…?お姉ちゃんはどこデス…!?」
「テエ?」

親実装は流れ出る鼻血を拭いながら周りを見渡してみるが、姉の姿は見当たらない

「デデ!?まさかまだ中に…!?」
「そんなはず無いテチ!オネェチャンも一緒に外に出たテチ!」

仔実装も一緒になって周りを見てみるが、やはり姉はどこにも見当たらなかった

「お姉ちゃんー!どこデス!どこに居るデスーッ!!」
「テェェェーン!!オネェチャーン!!」

大声で呼びかけてみるが、返事は無かった
それでも親仔は必死で呼びかけを続ける
気が付くと歩道で鳴き続ける親仔の周りに通行人達が集まり始めてきた
人間の多い場所でこれ以上騒ぐのはまずいと考えた親実装は呼びかけるのを止め、とにかく近辺を探してみることにした

「デェ…。無事で居て欲しいデスゥ…。」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「テプ…チプププ……。」

姉はコンビニの自動ドアの真横に設置されたゴミ箱の後ろから、母と妹が遠ざかっていくのを見ていた

「もう限界テチ。こんな暑い中を歩けないテチュ。」

姉は心底うんざりしていた
人間にすぐ見つかるのは、体の大きな母親が目立つ所為だ
小さな自分ひとりなら絶対にばれたりしない
それにあの怖いニンゲンに頼み込むなんて馬鹿げてる
大体言葉も通じないのに
人間に飼われようなどと言った自分を棚に挙げ、姉は母を嘲笑った

「ママなんて居ない方が上手くいくテチ。すぐに泣くイモウトも邪魔テチ。」

母と妹の姿が見えなくなると、姉は店の中をガラス越しに観察し始めた
一番気を付けないといけないのは、あのエプロンを着けた人間だ
他の人間は自分達を見ても何もしてはこなかったから無視してもいいだろう
とにかくあのエプロンを着けた人間に見つからなければどうにでもなる
エプロンを着けた人間はさっきと同じようにこちらに背を向け、棚の整理をしていた
警戒しているのか、しばらくの間は客が出入りする度にドアの方を見やるので、姉はその都度、身を隠した
そのうち安心したのかドアの方を見ることも無くなったので、姉はドアの横にピタリと体を張り付かせる
侵入のチャンスはすぐに訪れた
あの人間がドアからの死角に入ったとき、タイミング良く客が来てドアの前に立った

(今テチ!)

ドアが開くと同時にするりと中へ入り込み、ドアの横の雑誌類が収められた棚の下に潜り込む
息を止め周りの様子を棚の下から窺う姉
誰も騒いでいない
誰もこちらを見ていない
成功だ
そう確信し、小さく息を吐いて安堵する姉
やっぱり自分の考えは正しかった
あのバカな母親と妹と離れて良かった

「チプププ…。」

思わず笑いがこみ上げる
それにしてもここはなんて涼しいんだろう
外に比べればまさに天国だ
ぺたりと腰を下ろす姉
床のひんやりとした感触が下着越しに尻に伝わってくる
コレは気持ちがいい
姉は服を脱ぎ去り下着一枚になると、ごろごろと転がって床の冷たさを堪能した
やがてそうしている内に今まで歩き詰めだった疲れが出たのか、静かに寝息を立て始めた

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

どれくらい眠ったのだろうか
肌寒さを感じた姉は欠伸をしながら身を起こした

(テェ…。そろそろ服を着るテチュ…。)

まだ靄のかかった意識で、傍らに脱いだままにしてあった服を掴んだその時だった

(テ…ェェ…?お、お腹が…イタいテチ?)

ぎゅるるるる
不快な空気音と共に内臓を捻じ切るような痛みが姉を襲う
冷房の効いた中で、大量に掻いた汗も拭かずに裸同然で眠ったためにすっかり腹が冷えてしまっていた

「テェ…エエェ、チュアアァァ…。」

腹を抱えて転がりまわる姉
さらに便意が追い討ちの如く湧き上がってくる

(が、我慢するテチ!ウンチなんてしたらすぐバレてしまうテチュ!)

全身から油汗を噴き出しながら、漏らすまいと必死で尻に力を入れる
だが哀しいかな実装石が排泄を堪えるための筋肉を持ち合わせているはずが無く、力めば力むほど大量の糞で下着が膨らんでいく
ブッブリュッブリュリュリュリュッ!

「テ、テヒィィィーッ。」
「んん?何この音?」
「うあ。なんか匂うぞここら辺。」

水っぽい排泄音と強烈な悪臭に、店に中にいた人間達が騒ぎ始める
止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ
ブピッブチュチュチュチュブプ
止まって止まって止まって止まってェェェーーー!!!

「店長さん、こっち。ここら辺、スゴイ匂う。」
「ホントですね。なんだ、この音?」

棚の下から人間が二人、近付いてくるのが見える
来ないで来ないで来ないで
大きな足がすぐ目の前で立ち止まった
だらだらと汗が流れ出る

「この下から?なんの音だ?」

片方の人間が床に手を着いた
排泄は止まらず、既に下着からぼたぼたと糞が溢れ落ちている

「あれ、何か下に…。」

人間が棚の下を覗こうとしゃがみ込むのが、姉にはやけにゆっくりと見えた
しかし体は恐怖で固まったまま動かない
そして

「あ。」
「テ。」

目が合った

「ナニやってんだコイツ!!!!!」
「チュゥアアアアアアアアァァァァァアアアアーーーーーーーーッッ!!!!」

人間の怒号を聞いた途端、飛び跳ねるように逃げ出す姉

「コイツ!よくも店ん中で!!」

棚を倒さんばかりの勢いで伸ばされる手から、必死で逃げ回る姉
出なければ
ここから出なければ!
そのとき運良く客の一人が外に出ようとしていたのが見えた

「テヒイイィィィーーーッッ!!」

全力で自動ドアに向かう姉

「待てコラァッッ!!!」

店長も急いで立ち上がり、姉を追って走る

「テヒィッ!テヒィィッ!」

姉の脳裏に母親の言葉が浮かび上がる

『捕まったらたくさん痛いことされて殺されてしまうデス!』

「ヒッ!テヒィィッッ!!」

『こ ろ さ れ て し ま う デ ス !』

助けて!助けて!ママ助けて!

「テチェェェェーン!!ママー助けてテチューッッ!!」

姉はひたすら走った
仔実装にあるまじき速さでドアを走りぬけた
店長は姉が店の外に出た時点で追うのを諦めていたが、それすら気付かないほどの全力疾走だった
いきなりコンビニから出て来た仔実装に通行人も驚くが、今の姉は周りの状況など目に入らない

「テッ!!」

糞の重みでずり下がった下着が足に絡まり盛大にすっ転ぶ姉
服を着ていないために焼けたアスファルトが柔らかい仔実装の皮膚に直接触れる

「熱ッチュアアアッッ!!」

姉は慌てて立ち上がり、周りを見渡した
自分の近くに人間はいない
追ってきていたあの怖い人間は、コンビニのドアの前から姉を忌々しそうに睨みつけている
逃げ切れた…
安心した途端、卑しい笑いがこみ上げてくる
なんだニンゲンもたいしたことないじゃないか
これならいつだってあの店に入って——
そうだ今からでも服を取り返しに行こう
姉は先程までの狂乱振りを既に忘れ、コンビニへと一歩踏み出す

ヴォォォォオオオオ

「テェ?」

低く大きな音を響かせ何かが横から近付いてくる
姉が音のする方を向くと目の前に巨大なタイヤが迫ってきた

パチュッ

姉の居た場所には確かに人間は居なかった
そこは自動車道
必死で逃げる姉は歩道を走りぬけ、車の行き交うその道路上に入り込んでしまったのだった
姉は気付かぬうちに自ら地獄へ落ちることになった

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

親実装と妹の仔実装は夕暮れの下、我が家に戻りくつろいでいた
姉を見失った後、暫くの間あの辺りを探しまわっていたのだが
その途中、とうとう妹が暑さにやられ気を失ってしまった
親実装は妹を抱きかかえ、慌てて近くにあった大型の家電量販店へと駆け込んだ
一か八かの行動であったが、そこに居た人間はとても親切であった
電気製品を扱うだけあって、サンプル品のリンガルが店内に置いてあり
中に入れてくれるよう泣きながら懇願する親実装の話を、それを使って聞いてくれたのだ
訳を知った店員は、店内に入れることは出来ないがその代わりに、といろんな物をくれた
夏の期間限定で客にプレゼントしていた小さな電池式の扇風機
その交換用に備品で置いてあった電池
そして店員達がお茶の時間に食べたお菓子の余り物
さらにわざわざ自販機で買ってきた500mlペットボトルのミネラルウォーター
それらを袋に詰め持たせてくれた
親仔は店員達の優しさに感謝し、何度も礼を言いながら店を後にした
そして今は貰った扇風機の風に当たりながら、これまた貰った飴を頬張り疲れを癒していた

「ママ…。」
「なんデス?」
「オネェチャン、どこに行ってしまったテチ…?」
「……。」
「ママ…?」
「…きっとあのお店にいたような優しいニンゲンサンに拾われたデス。」
「テェ…。」

仔実装にはそう言ったものの、もう親実装には諦めが尽いていた
もし本当に人間に拾われたにしろ、最悪の事態が起こっていたにしろ自分にはどうすることも出来ない
それよりも今は残ったこの仔を、守ってやらねば
今日、貰った食料もニ、三日もすれば尽きるだろう
扇風機の電池だって夏を越せるほど持ちはしない
どうしようもなくなった時
その時は自分の体を分け与えてでも———

「…テフー…、テフー…。」

小さな寝息が隣から漏れる

「…疲れてたデスね…。おやすみなさいデス、ワタシのカワイイ仔…。」

穏やかな顔で眠る仔実装に微笑みかけ、扇風機のスイッチをオフにする
ダンボールの隙間から見える空は、昼間に見たよりも幾分か雲が多いように思えた

(明日は…雨が降ってくれるといいデス……。)

そして静かに体を横たえ、目を閉じる
やがて猛暑の中を歩き回った疲れと、我が仔を失った痛みは
睡魔へと変わり、親実装の意識を夢の世界へと誘っていった


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描人


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1 Re: Name:匿名石 2018/05/09-23:16:51 No:00005209[申告]
大きな不幸とささやかな幸福
しかし、自力では幸福を維持できず破綻の恐怖からは逃れられない
だが、今は疲れと悲しいことを抱えて眠り込む
親実装の夏の日だなあ
2 Re: Name:匿名石 2019/04/01-07:59:49 No:00005841[申告]
馬鹿蟲全滅すればよかったのに
3 Re: Name:匿名石 2023/10/02-15:41:58 No:00008072[申告]
なに生き残ってんだよ
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