タイトル:【哀?】 良い日旅立ち
ファイル:良い日旅立ち.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:11794 レス数:1
初投稿日時:2007/04/28-00:59:51修正日時:2007/04/28-00:59:51
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「デー。明日にするデスか」

 拾ったダンボールを利用して作った巣の中。親実装石は、スヤスヤと眠る我が仔を見て
そう呟いた。時刻は深夜。季節は春。

「でも・・・・・・心配デスゥ」



■良い日旅立ち■



 親実装石、彼女の名は『ミドリ』
この素敵な名前は、彼女のご主人様からもらったモノ。しかし、その優しく大好きだった
ご主人様はもういない。捨てられたのだ。公園に。保健所では無かったのは、最後の優しさ
だったのだろうか?

「ママ? どうしたんデス??」
「デ?なんでも無いデス」

 そんな悲しい出来事も、すでに2年前の事。このミドリは、幸いな事に賢かった。
目を覚ませばダンボールの中。外をのぞけば知らない世界。
・・・・・・捨てられたと、すぐに理解したのだ。飼いへの未練は命取りになる。
自分の立場を理解する事が、長生きにつながる。その事を悟れる程、優秀な個体だった。

「・・・・・・遅いデス。ミー、ドーを呼んでくるデス」
「わかったデスー」

 2年の間に3度妊娠し、出産をした。1度目は、捨てられた公園で一人の寂しさから逃れ
る為。その時の仔達は、2日持たなかった。産後間も無い仔を狙う同族に喰われた。
 2度目の出産をするまで、様々な場所を渡り歩いた。一箇所に留まる事が、とても
危険だと分ったからだ。安全を求める旅に、仔は足手まといだ。故に、妊娠はしなかった。

「ママ、ごめんデス〜」
「ドー。何してたデス?」
「うんちイッパイしてたデス!」

 奇跡的に見つけた安全な場所。。ミドリは、昔テレビで見た神社と言う建物に
似ていると思った。しかし、ボロボロの建物・・・・・・辺りに人影は無い。手入れされていない
様で、壁や戸には穴が開いている。何とかあの穴から入れそうだ・・・・・・。
階段を上るのは苦労するが、ミドリは中へ入り込んだ。

「デェ・・・・・・こんな大事な日にオマエ。ママは心配デス」

 そして、定住するに値すると判断し、ココに暮らし始めてから2度目の出産を行った。
栄養状態がよくなかったのか? 仔は2匹しか生まれなかった。
建物の近くにある小さな浅い池で、生まれた仔は2匹とも未熟児。
結局、この仔達は冬を越せなかった。蓄えも無く、雨風そして雪を防げるとはいえ・・・・・・
開いた穴から内部の熱は抜け、弱い仔達の体温を一気に奪った。栄養失調と凍死だ。

 この経験を踏まえ、親実装は努力をした。まず穴を塞いだ。
最初は、木の葉を使ってみた。しかし、すぐに風で吹き飛ばされた。
今度は、頑張って適度な大きさの石を積み上げた。これは大成功。入り口以外の
数十箇所の穴は何とか塞ぐ事ができた。寝床に、木の葉を沢山敷き詰めてもみた。

 次に、食料の確保。野良になって初めての春に、秋に木の実を沢山集めた。お腹が減って
も、この保存食には決して手を付けない。その日、喰うものはその日に見つける。
見つかったとしても、保存食になる物は食べない、食事抜きになってもだ。
そうした意志の強さと、仔を生み育てたい執念で彼女はこの日を迎える事ができた。

「さぁミー、ドー、リー。今日で、お別れデス。もう、忘れ物は無いデスか?」

 その後、準備が整ったミドリは保存食の一部を切り崩し、自らの体調を出産に適した
状態にする作業を行い、花を使って受精した。今度の仔は6匹生まれた。
どの仔も元気だ、五体満足で生まれてくれた。

 しかし、喜んだのもつかの間。彼女の仔達は、おおよそバカだった。本当に自分の仔かと
疑った個体すらいる。そういう仔は、当然 間引く。過去の経験から仔に滅ぼされた親子を
幾度と見た。故に、その作業は迅速に、かつ隠密に。

 出産から1ヵ月後には、半数の3匹になっていた・・・・・・。
ミドリほどではないが、知的で慈悲深い長女。バカだが元気で明るい四女。大人しく、
自閉気味の五女。生き残った仔に、ミドリは自分の名前をそれぞれの仔に分け与えた。
すなわち・・・・・・長女、ミー。四女、ドー。五女、リー。

 ミドリは親として、この3匹を大事に扱いつつも厳しく育てた。
そして、色々な知識と生き抜く為の方法を教えた。幸いバカだが、教えると覚える事は
できたので、スクスクと無事に成長した。
そして、鳴き声が「テチ」から「テス」になった時、この仔達を連れて旅に出た。
食料が不足したのだ。・・・・・・1箇所に留まりすぎて、辺りから食料が調達できなくなった
のである。

「ミー。これをお前に渡すデス」
「デェ?何デスか?」

 旅は長きに亘ったが、それでも仔は親の言う事を聞き1匹も欠ける事は無かった。
そして、幾許かの月日が流れ鳴き声も「テス」から「デス」に変った。

「ドー。お前にはこれデス」
「ママ、ありがとうデス!」

 体格も自分より少し小さいぐらい。もう立派な成体だ。流れ着いた公園の外れにある
林の中に、ダンボールと木の枝・葉を使った巣の中で、ミドリは決断を迫られていた。
・・・・・・仔の巣立ちである。

「リー。お前にはこれデス」
「・・・・・・ママ、ダメデス?一緒にいちゃダメデス?」
「我侭言うんじゃ無いデス。お前達はもう立派な大人デス」
「デェ・・・・・・。でも、嫌デスゥ」

 寒く、食料が不足する冬を越せた。もう時期暖かい春になる。春になれば・・・・・・。
ミドリはスヤスヤと眠る我が仔を見て、巣立ちにふさわしい日が来るのを待った。

「リー。ママを困らせてはダメデス」
「オネチャ。・・・・・・分ったデス! ワタシ頑張るデス!」
「ミー、良い仔です。さぁミー、ドー、リーそろそろ行くデス。すぐに暗くなるデス」


 そして、今日。巣立ちの日。時刻は夕方。人の往来が激しく、怖いニンゲンが現れず
同族も、夕食探しで忙しい時間。その時間であれば、大丈夫だろう。
ミドリは、細心の注意を払って3匹の巣立ちを成功させるつもりだ。

「バイバイ、デス!」
「3匹共、元気でやるデスよ〜」
「分ってるデス!」
「デェ・・・・・・」

 3匹は、三様の挨拶を親と交わし仲良く手を繋いで旅立っていった。
ミドリは、3匹が見えなくなると深いため息をついて、巣の中へ戻った。

「デェ、こんなに広かったデス?」

 今、思えば最初はすでに4匹だった。しばらく1人暮らしに慣れないかも知れない。
寂しく無いと言えば、嘘になるがそれでも達成感と充実感で嬉しさが勝っていた。

「あの仔達が、幸せになれますように・・・・・・」

 ミドリは、ドーの残していった糞を入れ物ごと外へ運び出しながら切に願うのだった。

●

「・・・・・・リー。チョッとお前のを見せるデス」
「デ? ドーオネチャ、どうしたデス?」

 3匹の仔に配られたものは、餞別だった。それぞれ、親が必死で集めた木の実や日持ち
する食料が入った背負える大きさのビニール袋だった。その中には滅多に手に入れられない
金平糖まで入っていた。金平糖はニンゲンからもうらしか方法は無い。
危険を伴うそれを行ってまで親は手に入れたのだろう。仔の事をこれほど愛していたのだ。

「やっぱりデス! お前の方が、ワタシより多く入ってるデスゥ!」
「デ、デェ〜」
「ドー、やめるデス、リーはワタシ達より小さいですし、仕方が無いデス」

 実際、リーは姉達に比べて発育が遅かった。鳴き声は「デス」でも体は中実装程度。
親も、いざ巣立ちさせると決めた後でも、しきりに心配していたものだ。
長女のミーは、ミドリからリーを宜しくと頼まれていた。

「デェ! またデス! また、リーばかりデス!!」

 次女は、納得いかなかった。母の愛が自分達よりリーに多く注がれるのが。それでも
親の手前、我侭は言うべきではないと我慢ができた。親と一緒にいる時までは。

「もう我慢できないデス! 妹の癖に、妹の癖にぃぃぃ!」

 日ごろの不満が、溜まりに溜まっていた。そして、最後のコレだ。どうして自分が一番
可愛がってもらえないのか? 怒りは頂点に達し、溢れる悔しさは暴力によって発現した。

「デヒャァ! い、痛いデス!」
「ドー! やめるデス、リーの体は弱いデス!」
「テ、テッチャァァァァ!!!! ミーネェはどっちの味方デス! 返事次第で!」

 薄暗くなった周りに不安を覚えたミーは、広い木のウロを見つけそこに3匹一緒に
同族から隠れる様に入った。成体3匹が入るとかなりキツイが、それでも無いよりましだ。
そんな時に起こった騒動である。リーは殴られ吹っ飛んだ。そして、ウロの外へ。

「味方も何も、ワタシ達は姉妹デス!仲良くするデス!」
「デッ! 姉妹、姉妹って! いっつもそれデス! 便利な言葉デス姉妹って!!」
「そ、そんな言い方はダメデス! 助け合って、これからデュベ!」

 ドーは、リーを追いかけて行こうとしたが、ミーに前を塞がれたのだ。それに怒ったドー
は、姉の右頬にストレートパンチをお見舞いした。

「デ、デ、デ、デ、デギャァ!殴ったデス?殴ったデス!!!!!」
「ネェが悪いデス! さっさとどギュベェ」

 温厚な姉は、妹に殴られて切れた。親にも殴られた事無いのに!それを、こいつは!!
プライドを傷つけられ、姉は切れた。妹のドーへ襲い掛かったのだ。
衝撃で倒れたドーへ馬乗りになり、顔面を殴った。

「お前、いつもいつもいつも我侭言ってたデス! ワタシやママがどんなに苦労したと、
おもってるデェェェスかぁぁぁぁ!!!!!」

 その容赦の無い顔面破壊は、今までの鬱憤が爆発したのだろう。このミーもミーで、
姉としての、不満はあったのだろう。だが、一番上の姉としての責任から抑えていたのだ。

「デヒィ! デギャ! チュベェ! ご、ごめ、んな、さいデスゥ!」
「ウ・ル・サ・イ・デス!」
「マ、マ、ママ! 助けてデスゥ!!」

 飛び散る血。漏れる糞。流れる血涙。空間が割けんばかりの悲鳴。
この制裁は、ドーが動かなくなるまで攻守を逆転しながら続いた。

「デェェェェンデェェェェン、オネチャ達、喧嘩は止めてデスゥ〜」

外から戻ったリーは、ただひたすら泣いていた。力づくで止めるには
自分の力では不可能だ。だから、泣いて懇願するしかなかった。

「デププププッ、ウマそうなヤツラデス」
「デェェェンデェ・・・・・デデェ? だ、誰デス!」

 ご存知だろうか。冬を乗り切った実装石達の7割が同族食いになるのを。
親が、食料の変わりに仔喰いを行う。仔すらいない者は、弱った個体を襲って喰らう。
そんな事をひたすら繰り返し、同族の肉のウマさを知った者は食料が確保できる春に
なっても、同族を襲い続けるのだ。

 血の匂いと、鳴き声に引き寄せられた同族喰い達が、今まさにこの姉妹へと牙を
むいたのである。

「デェ、デェェェェェェ!」

●

 ミドリは外に出たついでに、花を摘んできた。少し早いかと迷ったが・・・・・・。
今は春。食料も集められる自信がある。あの、木の建物よりは幾分心配だが・・・・・・今の
巣でも安全だろう。もう、ほんの数時間だが寂しさに押しつぶされそうだ。

 今頃、仔はどうしているだろうか・・・・・・・。

 ミドリは知らない。仔の巣立ちがわずか数時間で失敗したのを。
 ミドリは知らない。仔が同族に喰われてしまったのを。
 ミドリは知らない。原因が自分の贈り物だった事を。

 ミドリは、確かに優秀な仔を育てた。みな大切に育てたのだ。
長女に長女、四女には四女、五女には五女として、それぞれにそれぞれの立場に合った
育て方をしてしまった。故に、平等ではなかった。それが悪い事だとは言わないが、
結果は・・・・・・。

 摘んできた花を部屋の片隅に置き、ミドリは生まれてくる次の命に向けて
優しく優しく歌を歌った。

「デッデロデェ〜デッデロデェ〜」

 巣の外には、口元に血をつけた実装石が集まりつつあった。その内の一匹に腕を持たれ
引きずられている物が有る。体が半分になっても死ななかった、不幸な実装石。
リーの成れの果てだった。

「ママ、痛いデス・・・・・・助けてデス・・・・・・」

だが、ミドリは知らない。仔を送り出した事で、油断していた。

・・・・・・知らない方が幸せだという事も、世の中には有るのだ。


−続−



 今回は些細な事が、全てをぶち壊すのが書きたかったんです。


 逢魔時に、感想ありがとうございました。
あの文章は意図的に、ああいう書き方にして見ました。

初スク ある市の復興記
2作目  二度と行きたくない
3作目  もう一度、行きたい
4作目  走るワタシ
5作目  逢魔時
6作目  良い日旅立ち

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1 Re: Name:匿名石 2019/04/01-08:03:02 No:00005842[申告]
さっさと死ねて良かったねぇ
親蟲も死ねばもっと良かったねぇ
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