夕方頃、珍しく誰もお客がいないので、レジの前であくびをしていると、一匹の飼い実装が店に来た。 やや薄汚れた格好だが、近くの愛護公園で遊んで、汚れたのだろう。 それに、どうやらまだ仔実装のようだった。 「いらっしゃいませー。」 リンガルを通して(*1)、その仔実装に声をかけた。 その仔実装は、まっすぐこちらに来た。 「店員さん。 絶品セレブ金平糖(*2)はありますテチ?」 「絶品セレブ金平糖ですね、少々お待ちください。」 私は、実装用金平糖の棚から商品を探した。 在庫がないようなので、戻ってそのことを仔実装に伝えた。 「テ!それは困るテチ! それがないと、妹ちゃんも蛆ちゃんも・・・ テェェェェェン、テェェェェェン!!!」 仔実装が急に泣き出したので、すぐに試供品の金平糖を食べさせた。 金平糖を食べると、泣きやんだようなので、話を聞くことにした。 「いったいどうしたんだい、仔実装ちゃん? なんで、泣いていたのか、おじさんに話してごらん」 「テ、テヒック、じ、実はテチ・・・」 話を聞くと、この仔実装は最近こちらに引っ越してきた一家の飼い実装で、新しいお友達と遊ぼうと、愛護公園にいった。 だが、基本的に普通の野良のいる公園とかわりなく、愛護公園もまた、新参者には、厳しい公園であった。 それでなくとも、飼い実装も自分たちの中に、格差をつけているんだから、愛護公園さまさまである。 そして、仔実装の一家は、先住者たる他の飼い実装達の手厚い歓迎(*3)を受け、一応その公園の実装達の仲間となった。 といっても、立場的には、最下層に位置していて、遊び道具をとられたり、いじめられたり、パシリにされたりとさんざんな毎日だったらしい。 仔実装の親は、それに恐れをなしてか、早々に公園に行かなくなった。 仔実装は、それでもめげずに、公園に行っていたのだが、今日、とうとう我慢できなくなり、逃げだそうとした。 だが、タイミング悪く、妹の親指実装と蛆実装が捕まり、 「助けたいなら、絶品セレブ金平糖を買ってこいテチ!」 と言われ、この店に来た。 「ふーむ、そういうことか。 まあ、あの金平糖はかなりの人気商品だからな。 しかし、飼い実装同士のいじめも陰湿だな。」 「店員さん、どうにかならないテチ? このままじゃ、妹ちゃんも蛆ちゃんも・・・ テェェェェェン、テェェェェェン!!!」 また、仔実装が泣き出したので、すぐに試供品の金平糖を食べさせた。 金平糖を食べさせている間、考えていて、あることをひらめいた。 「ちょっと、待っていてください。」 私は、奥の倉庫のさらに奥にある扉の鍵を開け、その先にある部屋からある商品を持ち出し、レジの前に戻った。 「仔実装ちゃん、絶品セレブ金平糖は無いが、同じぐらい美味しい金平糖があるから、これを持って行くといいですよ。」 「テチ、ありがとうございますテチ。 じゃあ、お金を払う(*4)テチ。」 「いえいえ、お代は結構です。 その代わり、私と約束をしてください。」 「約束テチ?」 「そうです、そうしたら、この金平糖は差し上げます。」 仔実装は、あまり考えずに答えた。 「テチ、約束するテチ!」 「よかった。 では、まずこの金平糖は、あなた達の家族は決して食べないでください。」 「はいテチ。」 「次に、このことを誰にも喋らないでください。」 「はいテチ。」 「最後に、こっちの金平糖を仔実装ちゃんに差し上げます。 公園に入る前に、これを食べておいてください。」 「わかりましたテチ、約束は守るテチ。」 「ありがとうございます。 それでは、この金平糖は仔実装ちゃんに差し上げます。」 仔実装は金平糖の袋を受け取ると、こちらに向かって、何回かお辞儀をして、コンビニをあとにした。 あれから。数日後 例の愛護公園の近くを通りがかり、なんとなく見てみると、そこで遊ぶ実装石の家族の数は数組程度だった。 「かなり、効果があったみたいだな。」 そうつぶやいていると、一匹の仔実装と目があった。 あのときの仔実装だった。 仔実装は、こちらに向かって、笑顔で手を振っていた。 私も軽く手を振ると、その場をあとにした。 「どうしたんデス?」 仔実装の母親は、手を振っている仔実装に声をかけた。 「知らないおじさんが、こっちを見てたから、挨拶したんテチ〜♪」 「デー、知らない人の中には危ない人もいるデス。 うかつに、そういうことをしては駄目デス。 わかったデス?」 「わかりましたテチー。」 「お前がいい子でよかったデス。 ほら、妹ちゃんと蛆ちゃんが呼んでるデス。 早く、戻るデス。」 「はいテチー。」 おわり(*5) *1:実装石がお客でくることもあるので、店員と店長もリンガル着用は必須。 *2:実装石用の金平糖の一種で、かなり高額であるにもかかわらず、一度食べたら、やみつきになる美味しさのため、大抵売り切れ状態である。 *3:禿裸にすると、いじめをした飼い実装自体に重い罰が下るので、大抵の飼い実装は、相手の物を奪い、汚し、孤立させたりする。 *4:飼い実装に財布を持ち歩かせるには、重量があるとのことで、大抵の飼い実装は首輪に付いているタグに飼い主のクレジットカードの情報を連動させている。 現在、これを利用した犯罪も発生しているため、新しい防犯対策を模索中。 *5:実は、店長がいじめ実装石用にあげた金平糖は、超遅効性コロリ。 仔実装にあとで食べるようにいった金平糖は、遅効性の記憶除去の効果のある金平糖<実装ポカン>。 いじめ実装石達は、次の日の朝には、全員死亡。 仔実装は家に着く頃には、今日あった出来事の大半を忘れている状態となった。 ちなみに、これらの商品は<ジッソーマート>の裏商品であり、ある特定の人にしか売らない商品である。 店長は、実装石の住みよい町作りのため、これらを使ったのであって、決して虐待派ではない。
1 Re: Name:匿名石 2019/01/28-23:48:24 No:00005727[申告] |
このシリーズ好き |
2 Re: Name:匿名石 2019/02/01-23:33:15 No:00005728[申告] |
悪蟲は駆除され多少はマシな蟲は救われた
同じような存在になり果てない限りは平穏に生きるのだろう |