タイトル:【虐】 虐待分は薄め「ヒトガタさま」
ファイル:ヒトガタさま.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:3805 レス数:4
初投稿日時:2007/02/25-20:46:56修正日時:2007/02/25-20:46:56
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ヒトガタさま

此処はある地方都市、双葉市にある1級河川『逆帯(さかおび)川』の河口から、500
メートルほど上流に上がった中州。

そこには、小さな木で出来た小屋が何軒か建ち並び、小さな緑色の生き物が生活をしてい
た。


『ママァ!ニンゲンさん来たテチ!ニンゲンさんテチ!』中州に近付く小舟を見つけ、仔
実装が母親の元へ走る。

『ああ、もうそんな日デス?それじゃあみんなでニンゲンさんを出迎えるデス。』子供から
知らされた母実装は、近所の親実装達に声を掛け人間を出迎えに出かけた。


『ニンゲンさんテチ!』小舟が中州にたどり着く頃には、ここに住む実装石達大小取り混
ぜて約40匹が集まっていた。

「ヒトガタさま達、元気にされてましたか?」船を操っていた老人が実装石達に声を掛け
る。

『元気にしていたテチュ!』先頭を切って駆けつけた仔実装が元気にあいさつする。

『ニンゲンさん、新しい妹ちゃんをみて欲しいテチュ!』他の仔実装は自分より一回り小
さな仔実装を抱きかかえながら言う。

『初めましてニンゲンさん!』抱きかかえられた、生まれて間もない仔実装は姉にもまし
て元気にあいさつする。

『このようにおかげさまでみんな元気デスゥ。』リーダー格らしい親実装が人間に頭を下げ
る。

『また、何匹か子供が生まれたデス。』リーダー格は、廻りで元気にあいさつする仔実装達
を見ながら言う。

「本当に、みんな元気で何よりですなあ。いつものように食べ物、持ってきましたんで、
みんなで分けてくだせぇ。」そう言って、老人は小舟から荷物を下ろし始める。

『お手伝いするテチュ!』
『ワタチも運ぶテチュ!』
『妹ちゃんには無理テチュ!みんなで協力して持つテチュ!』
『コドモ達は、無理をしちゃダメデス。重いモノは大人達に任せて軽いモノを運ぶデス。』
『ほら、それはおばちゃんとママに任せるデス。』

『そんなことより、ニンゲン!ワタチを飼わせてやるテチュ!ありがたく思うテチュ!』
『ブサイクなお前なんかお呼びじゃないテチュ!ニンゲン!飼うなら美しく高貴なワタチ
を飼うテチュ!』皆協力し合って人間から物資を受け取る中、2匹の子実装が人間に暴言
を吐く。

大きさから言って、先ほど話に出た生まれたばかりの内の2匹なのであろう。

『デェ!お前たち!ニンゲンさんになんてことを言うデス!』
『うるさいテチュ!このクソババア!この高貴で美しいワタチが、あんなボロ小屋に住め
るわけ無いテチュ!』
『そうテチュ!こんな小汚いところは、醜いお前たちにこそお似合いテチュ!』
『お前たちやめるデスゥ!そんなことを言う悪い仔には、天罰が下って、悲しいことにな
るデスゥ!』
『天罰テチ?テチャチャチャ!そんなもの、ちゃんちゃらおかしいテチュ!』
『美しく高貴なワタチに天罰が下るというなら、醜く汚らしいお前らにこそ天罰は下るべ
きテチュ!』
『そうテチュ、ワタチに天罰が下せるものなら下してみろテチュ!』
『『テチャチャチャー!テ!…』チュベ!』声をそろえて卑しい笑いを続ける仔実装2匹の
頭が立て続けに弾け飛んだ。

一瞬場の空気が凍り付き、思い出したように仔実装達の首から血が噴き出す。

『『テチャアアアーー!!』』その光景に他の幼い仔実装達の悲鳴が上がる。
『何が起こったテチ?』
『死・死んじゃったテチ!』
『チプププ…こいつらは可愛くないから天罰が下った…テジ!』混乱する幼い仔実装の中
で2匹の頭が弾けた様を笑った個体も、同様に頭が弾け飛んだ。


『アーチャーよりフードマン、糞蟲3を処理。』
「フードマン、了解。相変わらず良い腕だぁ、吾作さん。」
『アーチャー了解。引き続き監視する。』
実装石達には聞こえない声と老人は小声で短い言葉を交わす。


『お前たち、落ち着くデス!この際だから教えておくデス!』リーダー格の親実装がパニ
ックを起こす仔実装を諭すように言う。
『テチャーー!』 
『死・死・死んじゃうテチュ!』しかし、目の前で姉妹達の頭が弾け飛ぶ様を見た仔実装
達の混乱は容易に収まらない。
『聞くデスゥウウウ!!!』
『『『テチャア!』』』リーダー格の剣幕に仔実装達はビクリと反応し、混乱は収まった。


『お前たち、良く聞くデス。この島には、さっきみたいな悪い仔、ニンゲンさんの言う糞
蟲は住むことは出来ないデス。』
『『テチュ?』』
『ニンゲンさんに暴言を吐いたり、ママの言うことを聞かなかったり、姉妹と仲良くでき
なかったりする悪い子には、天罰が降りて、さっきみたいに死んじゃうデス。』
『良い子にしていれば死なないテチュ?』
『そうデス。家族を想い、仲間を想い、ルールを守れるよい子だけがこの島に住めるデス。』
『『『テーー…?』』』
『ワタシ達親だってそうデス。意味もなく子供を殴ったり、子供を食べたり、ルールを守
らない親実装達にも天罰は下るデス。』
『ママ達も死んじゃうテチ?』
『そうデス。今此処で生きている実装石は、みんなそれをくぐり抜けてきたデス。お前た
ちも、見習って、立派な実装石になって欲しいデス。』
『わかったテチーー!』
『ワタチ、良い子になるテチュ!』
『ワタチはもっと良い子になるテチュ!』
『そうデス、そのいきデス。』
『『『ハイ、テチュ!』』』
『それじゃあ、ニンゲンさんからいただいたご飯をみんなで運ぶデス。』
『『『ハイ、テチュ!』』』


「あんれ、今回生まれた仔は3匹が悲しいことになっちまいましたか?ヒトガタさま?」
『残念デスゥ…どうしても、生まれた内の何匹かには天罰が下ってしまうデスゥ…』
「まあ、そう気を落とさずに。残った子達は元気に手伝いをしているみたいじゃねぇです
か。」
『そう言っていただけるとありがたいデスゥ。』
「それじゃあ、私はこの辺で。いつものように悲しいことになっちまった仔は私の方で手
厚く葬らせて貰いますで。」そういって老人は、頭の無くなった仔実装の遺体を、涙を浮か
べながら抱きかかえている親実装から受け取り、小舟に乗り込み中州を離れていった。



『天罰』と呼ばれる、所謂糞蟲個体に降りかかる不幸による間引きのためか、この中州に
住む実装石達には、公園でみられるような自己中心さや、意地汚さは見て取れず、皆一様
に協力しあっている。

人間に対して暴言を吐くような個体は、皆の見ている前で悲惨な死を迎えるため、頭の弱
い仔実装達でさえよい子になろうと努力をするのだった。



そんな平和な中州のある日…

『ニンゲンさん、いつも本当にありがとうデス。』実装石達はあいさつするが、いつものよ
うに小舟で近付いてきた老人の様子が少し違った。
「ありがてえ、ありがてえ…」実装石達にしきりに手を合わせているのだった。
『ニンゲンさん、どうしたんテチュ?』
「今日、ヒトガタさま達は、神様になるだよ。」
『デェ?神様デスゥ?』
「そうだぁ、神様になって、わしらのことを守ってくだせぇ。」
『よくわからないけど、頑張るデスゥ!』
『日頃ご飯を沢山貰ってるお礼デスゥ!ワタシ達みんな頑張るデスゥ!』
「そうかぁ、それじゃぁ、今日はたんと食べて下さぇ。」老人はそう言って何時にも増した
食料を下ろし始める。
『デェ!凄く良い匂いデスゥ!これは何デスゥ?』実装石達は目の前に山積みにされた見
たこともない食べ物に驚愕した。
「ああ、ヒトガタさま達の大好物だって言う、ステーキとお寿司だぁ。冷めないうちにた
ぁんと食べて下せぇ。」
『これが、ステーキに、お寿司デスゥ?』
『美味しそうテチ!』
『たくさんあるデス!みんなで分けてもお腹いっぱいになるデスゥ!』
「デザートにコンペイトウも有りますで、たんとおあがり下せぇ。」
『デェエエエ!凄いデスゥ!コンペイトウの山デスゥ!』
『凄いテチ!盆と正月が一緒に来たようテチ!』
『何でそんな言葉知ってるデスゥ?』
『みんな、今日は大宴会デスゥ!』
『『『『デスゥ!!(テチィ!!)』』』』


実装石の理性を破壊する3種の神器を前にしてさえ、中州に住む実装石達は、秩序を失わ
なかった。

ごちそうは、個体の大きさに応じ均等に分けられ、他の実装石の分け前の方が多いと文句
を言う個体もなかった。


『美味しいデスゥ…美味しいデスゥ…こんなに美味しいものが世の中にはあったデスゥ
…』サイコロ状にカットされたステーキを一切れずつ味わいながら繰り返す親実装。
『おいちいテチ…おいちいテチ…食べきれないけど…凄い…幸せテチ…』自分の頭ほどあ
る一切れに涙を流しながら、かぶりついている幼い仔実装。
『ほら、慌てて食べちゃダメテチ。こぼさずゆっくり食べるテチ。』小さな妹の面倒を見な
がらも自分も初めての味を堪能する仔実装。


『これが、大トロデス。こっちがウニで、こっちがイクラデス。』興味津々、色とりどりの
寿司を覗き込む仔実装に、ネタを教えていく親実装。
『ママ、こっちは何テチ?こりこりとした食感が堪らないテチ。』口にした初めての食感に
うっとりしながら親実装に訊ねる仔。
『お前はグルメデスゥ。それはアワビデスゥ。』
『ママは何でも知ってるテチ。』仔実装は目を輝かせ、母を尊敬の目で見る。
『ニンゲンさんがさっき教えてくれたデス。』仔実装の賞賛に頬を染め照れる親実装。


『あまあまテチーー!』口一杯に広がる甘みに仔実装が喜びの声を上げる。
『甘いデスゥ…野良実装に生まれて、こんなに沢山のコンペイトウが食べられるなんて夢
にも思わなかったデスゥ…』その母親は喜びの涙を流しながら一粒ずつ味わっている。
『ママ、嬉しいのに泣いてるテチ。変なママテチ。』
『嬉しいときにも涙は出るものデス。覚えておくデス。』母実装は涙を拭い、照れを隠すよ
うに言う。


『テェエエ…もう食べられないテチ…』身体だけ元の二倍ほどの大きさにふくれあがり、
仔実装は満足げな声を上げる。
『私もお腹いっぱいデスゥ…』その親も腹をぽっこりと膨らませながら言う。
『デェエ…みんな綺麗に食べ尽くしたデスゥ…』確かに大量にあった食料は、肉汁一滴、
米粒一粒すら残さず食べ尽くされていた。
『そりゃ、そうデス。せっかくニンゲンさんがくれた物を粗末にしちゃいけないデス。』
『お腹いっぱいになったら、眠くなってきたテチュ…』
『そうデスゥ…陽気も良いデス…今日は…みんなでお昼寝デスゥ…』自らも眠くなってき
た親実装が提案する。
『テチャ〜…テチ〜〜…テェ〜〜』
『あら、あら、もうこの子は寝てるデスゥ。』我が子の満足げな寝顔を見て、母実装は他の
仔実装達を呼び寄せ、寄り添うようにして横になる。



ぽかぽかとした陽気に、穏やかな時間が流れる。実装石達は生まれて初めて口にしたごち
そうの余韻に浸りながら夢を見る。
「テチャーー!」そんな夢を破ったのは一匹の仔実装の悲鳴。

『何事デスゥ!』子実装の悲鳴に飛び起きた何匹かの親実装達が見たのは一匹の泣き叫ぶ
仔実装だった。
『助けテチー!妹ちゃんが!妹ちゃんが!』パニックを起こす仔実装の指さす方向に川面
に彼女の妹が、僅かに顔を出して溺れていた。
『チャア!助…助けテチ…ママ…マ…助…』実装石は元々泳げるような身体ではない。
ましてや生まれたばかりの仔実装では、僅かな水深でも命取りとなる。

いい加減な作りの小さな腕では水を掻けば掻くほど、仔実装の僅かな体力を無駄に消費し
てしまう。

仔実装の小さな身体は親実装なら腰ほどの水深を急速に流されていく。

『デザァアア!あれはうちの子デスゥ!』親実装が走り寄ろうとするが、浅瀬の途中で他
の仲間に引き留められる。

仔実装は既に彼女たちの背の届かない深みにまで流されていた。

『待つデスゥ!ワタシ達は泳げないデスゥ!アナタまで溺れてしまうデスゥ!』
『コドモーー!ワタシのコドモデスゥ!!コドモがーー!!』
『マ…マ…テェ…』半狂乱になって暴れる親実装の目の前で仔実装は最後に母を呼び水面
に消えた。
『コドモが…私の…コドモが…昨日生まれたばかりの…コドモが…』
『気を落としちゃダメデスゥ…あの子の分まで他の子を…』
『テチャーー!』慰めようとした他の親実装の言葉は、再び仔実装の悲鳴に掻き消された。
『デェ?今度は何デスゥ?』慌てる2匹の親の前を他の家族の仔が流されていく。
『テチャ…助…助け…チュ…』子実装の命は先程の仔同様、水の流れに消えかけていた。
『危ないデスゥ!』先ほど自分の子供を流された親は懸命にその仔実装を引き上げる。
『しっかりするデスゥ!大丈夫デスゥ?』抱きかかえ、背中を叩いて水を吐かせる親実装。
『テボ…テバァ…』水を懸命に吐き出す仔実装の姿が、親実装には先ほど失った我が子に
重なって見えた。
『テェ…助かったテチュ…ありがとう、おばちゃん…』礼を言う仔実装を親実装は我が子
のように抱きしめる。
『デェ!水が増えてきたデスゥ!陸地に逃げるデスゥ!』慰めてくれた親実装が事態に気
がついた。

彼女たちが立っていた場所は先ほどまで膝ほどしか水がなかったはずが、今は腰まで水が
増えてきていた。

見回せば、中州のあちこちで水が増え、昼寝していた仔実装や、中には親実装さえ流され
ていた。

平和だったはずの中州に実装石達の悲鳴がこだましていた。



『こっちデスゥ!早く来るデスゥ!』仔実装を抱えた親実装は遅れだしていた。

水はみるみる水位を上げ、今や親実装の胸ほどになっていた。

仔実装を抱えた負担と、水の抵抗がただでさえ少ない親実装の体力を奪う。

『もう…ダメデスゥ…かくなる上は…』親実装は抱えた仔実装を更に持ち上げる。
『おばちゃん…何するテチュ…』
『おとなしくしてるデス…』親実装は悲痛な面持ちで腕の中の仔実装を見つめる。
『や・やめるテチ、おばちゃん…イヤテチ…チャ…テッチャー!』次の瞬間、仔実装の身
体は宙を舞っていた。
『デスゥ?』そして、彼女よりも浅瀬にいた親実装の腕の中にすっぽりと入り込む。
『ワタシは、もうダメデスゥ!その仔と、ワタシの仔を頼むデスゥ!』そう最後に言い残
し、力尽きた親実装は水に流されていった。
『おばちゃーーん!!』
『強く生きるデスゥ!ワタシの分も!死んだワタシの仔の分も!』最後の叫びを残し、親
実装は水中に没した。もう、足掻くような体力は残っていない。大きく息の泡をひとつ吐
き出し、ただ水の流れに身を任せ流されていく。
(ごめんなさい…コドモ達…ママは…お前たちを守ってやれないデスゥ…ごめんなさい
…)親実装の意識は水に引き込まれるように闇に包まれていった。



『一体、何が起こっているデス?』リーダー格の実装石は中州を襲った事態に戸惑ってい
た。

盤石であるはずの大地がどんどん水に覆われ、仲間や、その家が水に流されていく。

こんな事はここに住み始めて初めてだった。



『ママァ!助けテチーー!助けテチー!』かろうじて住処の屋根によじ登れた仔実装が親
に助けを求めるが、既に実装石達には助け出す手段がなかった。
『そこから動くんじゃないデスゥ!何とか助けに行くまで頑張るデスゥ!』
『わかったテチュ!何とか頑…チュア!』母の励ましに答えようとした仔実装の足下がぐ
らりと揺れる。
『テ・テ・倒れる、倒れるテチ!イヤアアア!!!ママァ!マ・チュボ!』流れに倒壊す
る家屋ごと、仔実装は水中に没し、それきり浮いては来なかった。



『ママァ!ママァ!』
『今助けるデスゥ!暴れちゃダメ…デベ!』溺れる仔実装の元へ身を挺してたどり着いた
親実装は、水にパニックを起こした仔実装に抱きつかれ、水中に引き倒される。
『チュボアア!チベェエエ!』パニックを起こした仔実装にとっては、空気を求め僅かで
も高いところを目指したに過ぎない。

それが踏み台となった母親を更に水中の奈落に押し込むことになるとも知らず。

母実装は薄れ行く意識の中で懸命に我が子だけでも水上に逃そうともがくが、暴れる仔実
装に顔面の中央を蹴飛ばされ、そのまま意識を失う。

意識を失った母実装が水中に没していくに連れ、仔実装は自分の足下の土台が沈んでいく
のを感じ、更にパニックを起こし、水上に逃れるため足下の土台をどんどん蹴る。

それが母の顔だとも知らず…
『ママァ!!チベェエエ!何処ぉ!ママァ!!チュアアアア!』なまじ、足下の親実装の
身体があった分、仔実装はゆっくりと水中に没していき、断末魔の悲鳴は壮絶なものとな
った…



『みんな流されてしまったデスゥ…』リーダー格を含め、親子取り混ぜた10匹程度の実
装石達が僅かに残った高台の社に肩を寄せ合って集まっていた。
『此処ならきっと大丈夫デスゥ。ニンゲンさんが此処は神様が住んでいるところだって言
っていたからデスゥ。』不安を隠せず、それでも僅かな希望を口にするリーダー格の実装石。
『ママ!ニンゲンさんテチ!ニンゲンさんが沢山あっちにいるテチ!』
『本当デスゥ!私たちを助けに来てくれたデスゥ!』
『ニンゲンさん!助けてデスゥ!』
『助けテチ!ニンゲンさ〜ん!』
『テギャアア!ワタシは良いから、子供だけでも助けるデスゥ!』実装石達が懸命に叫ぼ
うと、川辺に屯する人間達は彼女らを見守るだけだった。中には手を合わせているもの達
もいて、
「ありがてぇ、ありがてぇ…」彼らの口から繰り返される感謝の言葉は彼女たちには届か
なかった。

また、実装石達のいい加減な視力では見ることは出来なかったが、手を合わせているもの
以外は、皆口元に嘲笑を浮かべ、双眼鏡やビデオカメラを片手に、彼女たちの足掻く様を
見ていた。



『デェ?何デス?みんなあっちを見ているデス。』

熱心にこちらを見ていたニンゲン達の視線が川上に移ったことに気がついた一匹の親実装
がそちらに目を向ける。

『デェ?何デス?あれは?』
『白い…壁…デス?…あんなもの…今朝まで、無かったデス…』
『怖いテテ…』
『デデデ…デ…デスゥ?』得体の知れない恐怖に親実装の一匹は近付いてくる白い壁に向
かって『ごあいさつ』のポーズを取る。
『『『『デスゥ?(テティ?)』』』』一匹に釣られ、他の実装石達も一斉に同じポーズを取る。
得体の知れないものに対して、まずとるこのポーズは、ある種の人間には『媚び』に、あ
る種の人間には『おあいそ』と受け取られるが、無機物である相手には何の意味もなさな
かった。

『デデデ…(テテテ…)』

僅かな地響きと共に迫るその『壁』にポーズを決めていた実装石達だが、それが目前に迫
ると取り乱し始める。

『デシャア!逃げる!逃げるデスゥ!』
『逃げるって、何処へ逃げるデス?!』
『ママー!怖いテチー!』
『ママにしっかり掴まるデス!放しちゃダメデス!』
『チャー!お前なんかやっつけてやるテチーー!』迫り来る恐怖に耐えきれなかった仔実
装の一匹が、威嚇の声を上げながら、壁に向け吶喊する。
『ダメデスゥ!戻るデスゥ!』
『テッチャーー!チベ!!』親実装の叫びも空しく、勇敢(=無謀)にも壁に立ち向かっ
て行った幼い仔実装はその親より一歩先んじて壁に巻き込まれ一瞬でその姿を消した。


『デギャアア!水が、水の壁が!ゴベッ!』悲鳴を上げられたものはまだ幸いである。
大半のものは何が起きたかさえわからず、流木などを含んだ逆巻く濁流に呑み込まれ、押
し潰され、擂り潰されていった。


中には運良く濁流に呑み込まれることなく、波に乗るように流れの上に押し上げられた実
装石達も僅かながらいた。しかし彼女らもやがて仲間と同じ運命を辿る。


『この上に登るデス!』その親実装は濁流の中、流木の上に仔実装を押し上げる。
『…早く!早く、ママも登るテチ!』不安定な木の上から仔実装は母親に手を伸ばす。
『今、行くデス…デ?テギャアア!』そこへ別の流木がぶつかってきて、親実装は登ろう
と流木に掛けた腕を残し、仔実装の目の前で擂り潰され、ミンチとなる。
『ママ?ママーー!テチャ!』目の前で母親が擂り潰され、その事態を理解する前に、仔
実装は別の流木がぶつかった衝撃に、流木の海の中に放り出される。
そこは偶然にも、小さな流木のたまりになっており、仔実装は体重の軽さ故その上に乗っ
ていられた。
『…チャア…ママ…死んじゃったテチ…』大の字で投げ出された仔実装は空を見上げなが
ら、先程目の前で起きた事態を思い返していた。
『ワタチは…生きるテチュ…ママの分まで…』優しかった母のことを思い返し、仔実装は
小さな身体で決意した。しかし…
『…テ?テ・テ・テ・チュボア!』その決意も空しく、流れのうねりにより絨毯のようだ
った流木のたまりは、仔実装を飲み込む。
『チュア!ワ・ワタチの足が!ジュアアア!手が!手が!』ゆっくりとしたうねりは、仔
実装の小さな身体をゆっくりと押しつぶしていく。
『テェアア!お腹!お腹、潰れちゃうテチュ!チュボエアア!!』腹を押しつぶされ、口
から内蔵を吐き出し、尚も悲鳴を上げる仔実装。
『テェエエ!ママ!ママ!助け!助けテチュ!ママ!何処!何でワタチを…』ゆっくりと
押しつぶされていく仔実装は、その苦しみから死んだと認識していたはずの母親に助けを
求める。
『ママ…ワタチが…可愛くない…テチュ…?チュボ!』仔実装は泣けど叫べど助けに来な
い母を思いながら流木に擂り潰されていった。


押し寄せる激流が収まり、川に静寂が取り戻されたとき、そこには実装石達が住んでいた
痕跡は何も残っていなかった。

「今年も、水と実りが豊かでありますように!」川辺で実装石達の悲劇を先頭で見ていた
神主姿の男の声に合わせ、人間達が一斉に柏手を打つ。

数千人もの人数に似合わず綺麗にそろった柏手は全てが押し流された水面に響き渡った。



此処、双葉市逆帯(さかおび)川河口では、毎年田植えの時期に豊作を祈願する祭が行わ
れる。

歴史を紐解けば、治水と豊作の祈願のため、生け贄の人間を川に流した事へとさかのぼる
事が出来るが、近代になりそれらの野蛮と言われる風習は廃れ、人間の変わりに『ヒトガ
タさま』と呼ばれる実装石を川へ流す祭へと変化していった。


潮の満ち干の関係で、年2回田植えと稲刈りの時期だけに水没する中州が会場として選ば
れ、稲刈りが終わった頃捕まえられた愛情深く賢い実装石達が中州に移住させられる。

食料などの物資は小舟で搬入され、普段実装石達が接触できるのは、搬入を請け負う地元
老人会の人々だけだった。

最初に移住させられる実装石は5匹程度だが、豊富な餌と天敵の欠如により実装石達は爆
発的に増える。

しかし、継続的に続けられる観察により、所謂『糞蟲』個体は、前述した『天罰』が下り、
間引きをされる。

因みに『天罰』の正体とは、実装石達からは見えないよう隠蔽された監視所から行われる
『狙撃』である。

中州の管理を行う老人会の中には元猟友会の者もおり、それらが交代で監視しつつ、糞蟲
個体を間引きしているのである。

冒頭、食料を運んできた老人が実装石に気付かれることなく、無線で話していたのが、監
視所の狙撃手である。

実装石達も、最初こそパニックを起こすが、『天罰』がくだるのが、勝手に食べ物を食い散
らかしたり、暴力をふるったり、果ては小さな仔たちを食べてしまうような、群れのお荷
物になる所謂糞蟲ばかりだと気がつくと、『天罰』を利用して教育を行うようになる。

そうして、生まれてくる大半の糞蟲個体が除去されると、群れの個体数は4〜50前後で
安定してくる。


実装石達には、中州の管理と、僅かに高い丘の上に祀られた社を手入れすること、その2
点を守るように言われている。それさえ守られていれば食料と住処を供給すると。


それは、実装石達にとって、天国とは言えないまでも、公園などでの野良生活よりも十分
過ごしやすい環境であった。

天敵と言われる犬や猫は、川の流れが侵入を防いでくれる。空の天敵であるカラスたちも、
人間達の手による駆除により、中州には近付かなくなっていた。

与えられる食料は、形の悪い、売り物にならない屑野菜が主で、時折スーパーなどの賞味
期限切れの食品などが与えられたが実装石達にとっては十分なごちそうであった。

廃材を利用して作られた粗末な木の小屋はそれでも段ボールの家よりも頑丈で、古着を裂
いた大量の布きれは寄り添い冬の寒さをしのぐには十分だった。


田植え前日の大潮の日、群れには最後の晩餐が饗される。実装石の本能が求めるステーキ
と寿司、そしてコンペイトウである。

これらを腹一杯食べた実装石達は皆昼寝をしてしまい、川の水が増加していくことには気
がつくことはない。

後は前述の通りである。彼女たちが気付いたときには、次々と仲間達が流され、僅かに残
った高台だけに生き残りが取り残される。

その状態で一晩過ごすことができれば、水は引き、再び中州の大地が露わになり、彼女達
は生き延びることが出来る。

しかし大潮によって中州のほとんどが水没した後、とどめの一撃がなされる。

中州から200メートルほど上流にある農業用水用の稼働堰。
これが作動点検をかねて、湛えられた水を一気に解き放つのであった。

その水は、中州に達する時点で50センチほどの津波となり、川に溜まった流木等のゴミ
を押し流す。身を寄せ合い恐怖に震える実装石達ごと…

この祭に反対する実装石愛護団体も多く、一度だけ祭が中止となった年があった。

しかしその年、記録にないほどの集中豪雨がこの地方を襲い、決壊した堤防から流れ出し
た水に、農作物は大被害を受けた。

また、祭中止の中心人物となった実装石愛護団体『緑の欠片』逆帯支部の支部長宅は、洪
水の影響で家の土台が丸ごと陥没し、大被害を受けた。

とばっちりを受けた支部長宅近隣者や、農家の人間達などから、袋叩きにあい、双葉市か
ら実装石愛護派は姿を消し、以来この祭に反対する者はいなくなった。

因みに、家族思いの賢い個体を虐待するのが趣向の虐待派の人間達が中州にちょっかいを
出そうとしたこともあったが、彼らも身の回りに不幸が起き、虐待派、愛護派の両派から
この中州は正しく『アンタッチャブル・ゾーン』として知られることとなっていた。


『ヒトガタさま豊年祈願』と本来呼ばれるこの祭は、世間では『逆帯(ぎゃくたい)川実
装流し』と呼ばれ、多くの観光客を集める一大イベントと化していた。

特に、クライマックスである、『ヒトガタさま』達が、為す術無く川の流れに消えていく様
は好評で、祭の一部始終を記録したDVDは、毎年全国から申し込みが殺到し、町の観光
協会を潤していた。

彼女たちが、仲間を思い、かばい合い助け合う姿が美しいだけその年は豊作になると言わ
れており、いかに愛情深く、賢い個体を多くしていくかが、祭の実行委員会である地元の
逆帯(さかおび)神社と逆帯(さかおび)老人会の腕の見せ所であった。




「テチュ?テチ。」(ニンゲンさん?こんにちはテチュ。)
「おお、こりゃあ、可愛らしい仔実装だで…なぁ、お前さん、神様になってみる気は無い
かね?」
「テ?テチテチィ!」

そして、また一匹の仔実装が『ヒトガタさま』になるために連れてこられる。半年後に襲
ってくる悲劇も知らずに…




※川の土手をジョギングしながら思いついたネタ
 潮の満ち引きの設定とかご都合主義的部分は、ご容赦
 糞蟲個体よりも、愛情深い個体が為す術もなく死んでいく様が大好きな壊れた作者でし
た。

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1 Re: Name:匿名石 2019/03/06-00:04:01 No:00005778[申告]
愛情深い、賢いといっても実装なんだなあとほのぼのしました
ゴミが人間の役に立つ良い設定です
2 Re: Name:匿名石 2019/03/06-22:29:29 No:00005781[申告]
正しく神様だな
3 Re: Name:匿名石 2019/09/29-00:04:22 No:00006112[申告]
時間をかけた上げ落としだな

上げの期間が半年か・・・

実装に生まれたにしては比較的良い実装生なんじゃねえ?
4 Re: Name:匿名石 2019/10/01-19:56:41 No:00006113[申告]
能天気なカス蟲どもが立派なジソ身御供になれてよかったねぇ〜
DVDが欲しいぜ
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