タイトル:【観察】 1週休んでしまったデス…
ファイル:長い雨8.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:4173 レス数:2
初投稿日時:2006/11/18-01:05:32修正日時:2006/11/18-01:05:32
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長い雨  (8) 長い雨

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6月も中旬に入り、ミー達一家は、近辺の異変を感じていた。

晴れた日は暑さを増し、天候は日々不順で、雨の割合が多くなってきていた。
一度の雨で降る量も、家が壊れるのではないかと言うほど降る。

実際に、雨によって倒壊する家も多く目にするようになった。

”団地”は、彼らの基準でも賑わいではなく騒々しく…人間が見るに物騒になっていた。

少しでも晴れた日には、激しく実装石達が行きかう。
手には何処から集めてくるのかダンボールや板を抱えてせわしない。

普段は気軽に挨拶を買わせるほどの顔見知りも、挨拶もなく過ぎていく。
質問しようが答えるものは居ない。

しかし、ミーはもう1匹のミーから情報を得ていた。
季節が変わるとき…天候が不安定になるとき、とても厳しいことになると。
コミュニティーは無いが、古参の者からの話によって”団地実装達”はそれを知っていると。

その話でミーは四季の変わり目の事であるとわかった。
それは、ミーが飼われているときに部屋の中から見て覚えた自然の脅威だ。

怠惰の実装石たちがせわしなくそれに備えだすと、餌の奪い合いは熾烈を極める。
普段は事故だが、この時は競争相手を追い落とすための低層実装達の僅かな餌の奪い合いとまったく変わりが無い。
そして公園のみならず、公園の外にまで大量の実装石が”出稼ぎ”にでるのである。

普段、公園を出ないものまで町を闊歩する為、人間は警戒して、あらゆるゴミの管理がより厳しくなる。
飲食店街の朝のゴミも、普段あまり近寄らないコンビニや商店でも、
町実装に混じって押しかけ諍いを大きくするからだ。

それだけに、自然と帰って来れないものも増える。
人間の子供や虐待派に捕まるもの、事故に遭うもの、離れすぎて道に迷って街中を彷徨うものも居る。
同時に、留守宅を手に入れる者たちも居るし、他の公園で増えすぎたり、逆に街中から流れてきたりで、
結局、公園単位では数が大きく減らないし、”団地”単位で見てはむしろ季節の変わり目は家が増えていく。

そして、同時に妊娠ラッシュでもある。
種を残そうと言う本能と、共食いの本能を合わせ持つ実装石だけに、大半は保存食代わりに急増の仔を設ける。
この季節の変わり目は、多くの実装石が暇さえあれば木の枝や花を突っ込んで、盛りの付いた猫の様に醜い嬌声を響かせる。
その声は、むしろ猫の盛りのほうが風流に思えるほどである。

ただ、どんな形でアレ、この季節の変わり目にせわしなくも立派に備蓄を蓄えようと言う実装石は、
団地組みですら約5割、残り5割は情報に接しながら怠けるものか、情報を得ていないもの。
さらに、その5割の中で、それなりに計算された備蓄を行うものは6割ほどである。
家という備蓄庫を持たぬ低層野良に至っては、せいぜい多めに”食って”蓄えるぐらいである。
この数字が物語るとおり、その騒がしさと、仕事の達成率は反比例するのが野良の平均知能である。

とはいえ、中にはそれを理解しながらも、計算された量を蓄えられないものも居る。
それがミー一家である。
賢い助手ピー、ポーを得ながらも、浪費家キー、メーを抱えており、
ピー、ポーが幾ら頑張っても、増えた収穫量はキレイに2匹の腹に収まる。

まして、この騒ぎにより、とにかく量を取らないといけない焦りが出る。

その日は、仕方なく、”供物貰い”と野良達が名づけている愛護派の餌撒きをピーポーに任せ、
ミーは、既に古くなったリュックを背負ってフル装備で公園の外に行くことにした。
もはや、公園近辺では、今まで以上に生死をかけないと、僅かなゴミ餌さえ手に入らない。
ミーは、かつて使い慣れた散歩道を中心に、既に忘れかけた記憶を頼りに公園から離れてゴミ餌を探すつもりであった。

後に残されたピーとポーは、すっかり慣れた野良達の集団の中央に招かれる。
もう、外観的には、リボンや小さかった頃に買ってもらったあの前掛け以外は、食事でゴミを食わない2匹でも、
もはや、姿も臭いも、多少はマシな野良達と何の区分けも出来ない。

公園には常に新鮮(?)な元飼い実装や、堕落しきっておらず清潔な服を残すものが流れてきたりしている。
それでも、2匹が未だに野良達に中央を譲ってもらえる(何もいいことは無いのだが)のは、
2匹には、必殺の”一糸乱れぬ双子ダンス”という強い媚び技があるからだ。

もちろん、当の2匹は、媚と言うものが何であるかも未だに理解していないが、
これを見せると”ニンゲンさんも皆も喜んでくれる”というのが2匹には楽しみで仕方が無い。
最初は、だんだん2匹の人気が落ちてきたと思われたときに、
「何か芸でもしやがれデスゥ!このムダメシ喰らいがデス!」(そういうヤツほど何もしていない)
と強要されて始めた事がきっかけだった。

今や可愛い実装好きの愛護派から老人まで、くまなく虜にしていた。
この踊りをするようになってから、2匹は愛護派などから、直接、餌を手渡しで貰える事もあるため、
餌撒きのときに無理をしなくても十分な餌を与えてもらっていた。
この公園の野良は、それに嫉妬こそすれ、同時にある程度の賛美を与えて後から襲って横取りなどしない。

何故なら、この2匹の真似を誰も出来ないからである。
それほど、並の実装石には複雑怪奇な多数の振り付けをこなす。
さらに、2匹は「ニンゲンさんが飽きてしまうテチッ」と数日置きに振り付けを変えるのだ。
自分達の為よりニンゲンに奉仕する為に知能が働く本能調整の賜物である。
男はそういう事を要求しなかったが、この場では人間に奉仕する為と自発的に考えた成長である。

さらに、2匹はそれぞれ、ちゃんとあの”接待”も嫌がらずに他の野良の命令を聞いて受け入れる。
その従順さは、この集団にとって非常に都合の良い下僕として珍重されていた。

今日も、すっかり固定客となった愛護派から、撒く為のパンのみみだけではなく、
特別に金平糖を、その両手の平に山盛りに渡された。
それは、帰り道でミーから半分に分配される”おこずかい”になっても満足できる量である。

そして、人が居なくなった後、
2匹は「まったくお前達は女神様デスゥ!ニンゲンが簡単にひれ伏すデス♪」と賞賛で迎えられる。
固定客がついて、さらに1人辺りの撒く量も豪勢になり、集まる野良達も血相を変えて乱闘する割合が減ったのだ。

2匹は、素直に「「アリガトテチュ♪」」と頬を赤らめて後頭部をかいた。


「やあ!小汚いクズムシども!元気だったデス?マリア様が来てやったデス!
 その辛気臭いカオを地面に擦り付けて、ワタシを崇めるデス!」

その声で野良達の表情から笑顔が消え、ヒクヒクと目の周りが歪む。
2匹が振り返ると、巨体の実装石が豪華なドレスを身に纏って、
ドテドテとドラム缶体系の脂肪を揺らしながら歩いてきた。

彼女が迫る度に、野良達は静かに2匹を残して後ずさりする。
飼い実装マリアは、この公園の供物貰い実装達に最も恐れられていた、
”飼い主の威光を笠に”横暴を振るう忌み嫌われる飼い実装の中でも、最も陰湿な相手だった。

あのミーの反撃以来、まるっきり姿を見せていなかったが、
ミーが来る以前から…マリアが仔実装の頃から陰険さでは有名で、彼女のせいで2度も駆除が入った。
その陰湿さで未だにマリアの名は記憶されていた。

野良達は別にピーポーを生贄に差し出したのではない。
その名に怯えてしまったのだ。
現に集団でもまだ優しい者達は、マリアに見えないように気を使いながら、
2匹に「コッチに来い」と手招きのサインを送っていた。

一方の2匹は、このマリアの事を知らない…
そのサインを見ながらも、再び、マリアの方に向き直って、
「オバサン誰テチ?新入りさんテッチ?」
「新しい人テチュ?一緒に”供物貰い”するテチー?」
と、その性格の良さから挨拶を交わしてしまった。

マリアの醜い顔がピクッと震え、その口元がニヤッと緩む。
「今日の接待はオマエ達デスゥ…デプププ…ムカつくデス…
 野良の分際で、飼い実装のようなノッペリした、そのすましたカオは、このワタシをナメているデスゥ!?」

そう言って、グイッと正面からピーの前髪と頭巾を掴み目線の高さまで持ち上げる。
「テチィィィィ!痛いテチィ!なにするんテチュ!」
「テェェェェ!オバサンやめてテチィ!ピーちゃんを離してテチィ」

マリアの表情が鬼の様に厳しくなる。

実装石の感情を表す最も変化が激しい部位が、実は目である。

瞼も存在しないただの真円形の目玉が、瞼が無いのに何の為か筋肉が発達し、目の形を変える。
そして、色彩や色艶も変化が多彩で、妊娠の変化が最たる例であり、
精神的な苦痛から来る白濁化、見た例は少ないと言われるが寿命による透明化、
毒により神経を侵されると赤と緑や本来無い色彩が発したりするシグナル変化もある。
それだけでなく、透過度からくる明るさの変化も常に感情によって常に微妙に変化している。

マリアのソレは、今やツヤの無い暗い色に変化していた。
それが感情の無い鬼の表情の正体だ。

「なにするんテチュ?離してテチィ?クズのゴミのウンコのバカチンの野良が飼い実装気取りのお上品言葉デス?」

ビタン!
「テベッ!」
そのまま、振って加速を付けて地面に叩きつけられるピー。
叩きつけられた瞬間、顔面から体液が飛び散り、プパっと尻からも下着の隙間から糞が地面に花を咲かせる。

「ピーちゃん!!」

「いっちょ前にピーなんて名前を呼ぶなデス!名前は飼われている高貴なモノに相応しいデスゥ!
 オマエ達など、ウンコクズでも勿体無い名前デスゥ!ちゃん付けなどワタシを愚弄するにも程があるデス!」

うつ伏せに突っ伏すピーに駆け寄って介抱しようとするポーに、
マリアのその体格のお陰でアンバランスに短く見える足が、蝶野のケンカキックの如くに炸裂する。

「テペポァ!」
ポーは、手足の付け根が曲がるべき反対の方に曲がる形で、野良達の群れまで吹っ飛ばされた。

「クペッ…ペパッ…ピッピーちゃ…ン」

「テ…テ…ポー…ち…」

上半身を起こし、歯が折れ、目、鼻、口から体液を溢れさせ、前髪は抜け落ち、頭巾の半分脱げた、
その状態で、助けを求めていたのか、ポーを心配していたのか必死に手を伸ばしていた姿。
それが、ポーの見た、ピーの生きた最後の姿であった。

「グピャピャピャピャ♪」
マリアはそのピーに狂ったように愛用のポーチを振りかぶっては叩きつける。
ポフッポフッ…その形相や動作の割りに、まるっきり勢いの無いポーチ…中身が入っていないのは確かだ。
それでも、狂ったように叩きつけ続ける。

「やめ、やめて…やめ…テチッ…」
マリアを見上げ、必死に片手でポーチを避けようとするピー…それがさらにマリアを刺激する。

「グピァァァァァ!ナマイキ!ナマイキデス!」

ピーの体から強引にポーチを引き剥がすと、その中身を確かめる。

「金平糖デス!金平糖がこんなにデス!」
言うが早いか、マリアは、状態を後ろに反らし、口の上でポーチをひっくり返して全て放り込む。

「やめ…かえし…て…みんなのゴハ…ご主人様から貰ったポーチ返してテチィ!」

「何がご主人様デスゥー!!ゴミクズから拾ってきたこんなボロなら返してやるデスッ!!」

バチン!
ポーチを思いっきり、ピーの背中に叩き付けると、左手を取って…
ブチ!「レビェェェェェェ…」
引きちぎる。

「ご主人様!ご主人様!」
ブチッ!「ヂベェェェェェ!!」
右手が千切られる。

「オマエのご主人様なんか、ゴミのパッパラパーのキンタマ野郎デスゥ!」
ブチッ!「デチャァァァァァァ…」
左足が千切られ…

「ワタシが最良のペット、マリアデス!選ばれたデス!ご主人様は全てワタシのモノデス!ワタシのモノデス!」
ブチッ!「レチャァァァァァァァ…」
右足が千切られた。

そして、千切った手足をピーの口に押し込む。
「ワタシをバカにするなデス!ワタシを笑うなデス!ワタシを侮辱するなデス!デヒエッデヒェヒェヒェヒェ…」

「モゴッ…フヘッ…ハフッ」
ピーの顔が見る見る青ざめていく。
鼻が潰され、鼻血を垂れ流している状態では鼻から息は出来ない。
さらに口に詰め物をされ、噛み砕こうにも歯の大半が折れていてはソレも叶わない。


再び、野良の群れが一斉に引く…マリアが近づいてきたのだ。

波が引くように居なくなった後には、ヒクヒクと、何とか体の機能を再生しているポーが取り残されている。
何とか、這ってでも、その野良の群れに逃げようとするポーの前に、
ドチャ…
達磨になって、口に手足を詰められたピーのすっかり血の気の無くなった死体が投げ捨てられる。

「ピーチャァァァァン!」
ブバァァァァァァァ…盛大に噴出す血の涙…鼻水…そして水のような軟便…。
「テェェェェェェェェェンテェェェェェェェェン…ピーちゃぁぁぁぁん」

「デェェェェェッピャッピャッピャッピャー♪」
死体に手を伸ばし、必死に揺するポーを見下ろして、腹を抱えて高笑いするマリア…

「いいデス!ワタシに逆らうとこうデス!ワタシは選ばれたペット、マリア様デス!
 今後は、この小汚い公園を管理してやるデスゥ!フケツでクサイ所デスが住んでやるデス!ありがたく思うデス♪
 オマエ達は皆、奴隷としてワタシに奉仕出来るデスゥ!光栄な事デス!
 ワタシに逆らうと下僕のニンゲンが黙っていないデス!クソムシは駆除させるデス!駆除デス!
 そこのカスども、さっそくワタシに家を持ってくるデス!”前の所”と同じ物を持ってこないとダルマデス!
 そこのクズども、ハラがへったデスゥ…ステーキ取って来いデス!オウミとか言うので無いと排泄口からマタサキデス!
 そこのウンコみたいなの、”久しぶりに”金平糖食べたら盛大にウンチがでそうデス…
 ここはおトイレが無いからオマエ、口で受けるデス…」

野良達は、流石に怒り心頭ではある。
この場に飼い主が居ないとはいえ、飼い実装に手を出せば人間の報復があるのは確かな話だ。

だが、それでも野良達の怒りは爆発した!

「デシャァァァァァァ!!」

「デデェェェェッ!!なななななな何デス!さささっさっささ、逆らうデスゥ!?」

だが、それもすぐに収まる…タイミング良く人間が歩いてきた。
それも、このマリアの付属品にして餌袋の飼い主である。

「デ!デ!ママ!ママデスゥ!
 ママがやっぱり助けに来たデス!デピャピャ!オマエ達良くも高貴なワタシに歯をむいたデスゥ!?
 ママァァァァママァァァァ、やっぱりワタシの方がカワイイデスゥ?
 ワタシが忘れられないデスゥ?探しに来るのが遅いデスゥ〜ン♪でも許してやるデスゥ〜♪」

マリアが飼い主に向かって駆け出す。
しかし、飼い主は、そのマリアの姿を見ると、紐を引いて連れていた中仔実装をサッと抱え上げる。

「まぁ、このバケモノは図々しく生きていたのね!あらあら、怖かったでしょアメリアちゃん…
 怖い事思い出しちゃったの…こんなに震えて、おウンチ漏らして…
 散歩コースは今度から変えましょうね…公園はタクシーで隣町まで行く事にしましょうね」

そういうと、クルリと方向を変えて足早に走り出す。
マリアは懸命に追おうとするが、2・3歩足を出した時点でもつれて転んだ。

「デェェェェ!ママ!ママ!そんなウンコタレよりワタシの方がスバラシイデスゥゥゥゥ…」

マリアは、あれから妹を飼い与えられていたが、その度に虐待死させ、3度目にして現場を見られたのである。
そしてマリアは捨てられ、彷徨った挙句に公園に拠り所を求めたのだった。
そう、マリアは既に首輪を外されていたのだ。

「「デシャァァァァァァ…」」

経緯はわからなくても、その崩れ無様に叫ぶ姿だけで、野良達にもマリアが捨てられていたことは理解できた。
これまで受けた被害、この場で受けた恐怖、一番の稼ぎ頭を失った怒り…

それが野良達に、本来見せてはいけないと戒められている人前での公開リンチに至らしめる。
公園出口の道路で、肥え太った1匹に30匹が群がっての暴行は、実に1時間に及んだ。

そして、マリアはまさしくボロのボロ雑巾状態であった。
道路に脂肪を四散させ、服は引き摺る紐として破られ首に巻かれ、肉に食い込んでいる。
手足は千切られ、糞と共に口に詰め込まれ、自分が口にした通り、股を腹まで裂かれ胃が飛び出している。
脂肪が飛び散っていると言う事は、当然、肉体はミートハンマーで叩きすぎたようにグズグズになっている。
道路には、強制妊娠堕胎の跡か、いたるところに踏み潰された小さな蛆実装が撒かれている。

しかも、1時間の暴行の終焉は、野良達が疲れたからではなく、人間がマリアに近寄ってきたためである。
その人間も、マリアを救うために来たのではない…。

「やっと見つけたぞ糞蟲め!やっぱりあのババァの近くに現れたか…
 貴様のせいでせっかく経営した実装病院を訳も無く潰されたんだ!
 俺は、最初からオマエが贅沢病の糞蟲性格になっているのが原因だとやんわり教えてやっていたのに、
 あのクソババァは俺をヤブ医者扱いしやがって!この恨み…まずはお前から払ってもらうぞ!
 どうせ、薬品も有り余ってるんだ…全部終わるまで絶対に殺さないから覚悟しろ!」

男に活性剤を注射され、ビクビクと肉を震わせながら引き摺られていくマリア…
マリアは因果応報の結末を迎えた。

一方の2匹、ピーは達磨死体となって早くも腐食が始まっている。
その死体を、何とか間接が再生したポーが抱えて、泣きながらフラフラと歩き出していた。

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一方のキーとメーのコンビは、留守を預かる以外の仕事も無く好き勝手に過ごしていた。
メーは前髪を失って以来、外に出るのを嫌っていた。
キーも多少は面倒を見ていたが、1日を、このすっかり湿気の篭った家の中で過ごすのはつらく、
メーを放置して外に出ることもあったが、自分の威張る姿を見せ付けられる、そして、理解する相手がいないとつまらない。

その為に、キーは、無理やりに引き摺ってでも外に連れ歩くことをしたが、
前髪を失うショックですっかり内向化したメーは、怯え塞ぎこみ、ペット(奴隷)としても面白くなかった。
そのメーが唯一、キーの誘いに乗るのが、あの川への水浴びである。
塞ぎこんだとはいえ、湿気漂う部屋で、服も身体もカビてくる事には耐えられない。
何せ、気になっても、一人では全身をタオルで拭くことは出来ないし、夜まで待つ忍耐力も失っている。
やはり、水浴びがもたらす”最後の日”の思い出には変えられないのだ。
その為、キーは一人近所の散歩に飽きると、キーを川へと誘う。


勝手に川へ行く事は、あの日以来禁じられ、何日かは従ったが、
その後は何を注意されたのかすら覚えていない。

それでも、川にたどり着くと、嫌な事だけはしっかり記憶しているのか、
服を脱ぐ事無く、いつもの浅瀬に身を浸そうとする。

しかし、今日は川の様子が違っていた。
前日の雨は、早いうちに止んでいたが、それは、この地域だけの事で、
梅雨に入っているためか、川の水は茶色く濁り、くねるように流れていた僅か1m程の幅の川も、
川幅が増し、流れが僅かに直線に近くなり速い。
ミーと共にいると、川がこの様子では絶対に入らない。
しかし、キーたちだけの時には、この様子でも平気で入っていた。
いつもより、閑散としているとはいえ、何匹かが体を洗いに来ている。

そして、何匹かは濁流に流されている…。

いつもの大きく川が蛇行する場所なら、多少の増水でも流れの緩やかな”たまり”は変わらずにある。
そこに浸かり、体を洗う。
最初は流れが速いので注意していたが、自分達の居る場所は酷くないので体を洗い合ううちに忘れてはしゃぎだす。

「メーちゃん!今日はいいもの持ってきたテッスゥ〜」

キーはそういうと、メーを連れて一旦、水を上がる。
そして、草むらに隠した持って来た物を取り出す。

「テテェ〜!浮き輪テチュ〜♪」
「そうテッス!あのババァは、最近、気が効かないテスゥ…川を見てはお家に帰るだけテッス!
 浮き輪もゼンゼン持って来ないテスゥ!だけど、ワタシはやさしいお姉ちゃんテスゥ♪
 作ってやるからありがたく感謝して、ワタシの足を舐めてから使うテスゥ〜ン♪」

そう言って、ブブゥゥゥゥゥゥゥブブゥゥゥゥゥと鼻水も噴出しながら浮き輪を膨らませる。
人間なら物の一息で膨らむ程度の物でも、肺がお飾り程度の実装石にはかなりの労働となる。
賢いミーでも3分ほど顔を真っ赤にして1個膨らませられるかどうかである。
まして、キーは、体格ばかりご立派だが、工夫も無ければ、まったく持久力に関しては無いに等しい。
何度も途中で手を離して萎ませながら、ようやく30分掛けて1つの浮き輪を作った。
かろうじて形にはなっているが、シワシワでアヒルさんの首が微妙に重さで傾いている。
その頃にはバテバテで、もう1つ作る余力は無かった。

メーは疲れ果てたキーから浮き輪を受け取ると、地面に頭をこすり付け土下座をし、
投げ出された足をベロベロと舐めて「偉大なキーお姉ちゃんありがとうございますテチュン♪」といって川に駆け出した。

浮き輪をしたから胴体に通す。
実装石用浮き輪は、工夫され、固定紐の付いた蛇腹部で調整できるので使い方が判っていればサイズフリーだ。
また、伸びる素材でパンツ状になり足の出せる”底”も付いているので寸胴な実装石でも抜け落ちない工夫がある。

それだけに、メーは調子に乗り、キーが入れていた範囲まで泳ぎ回る。
そこは、ふだんならメーには胸までが水に浸かる場所だ。
「テッチュテッチュ〜♪」と足を掻いて”たまり”を泳いでいる。

やがて、疲労したキーも、タップリと脂ぎった汗をかいた事で水に入って身体を洗い出す。
そして、2匹仲良く遊んでいた。
「テッチュ〜キーお姉ちゃん、ワタシ立派に泳げるテチュ〜♪」
「さすが、ワタシの見込んだシモベテッスゥ♪」
「お姉ちゃん、押して欲しいテチュ〜♪もっと早く泳ぎたいテッチューン」

その要求に応えようとした瞬間…
「テッ!」水中の石に躓いてバランスを崩すキー…
バシャ!バシャ!慌てて暴れながらも何とか倒れずに体勢を立て直す。

ところが、この行為で、この流れの少ない場所に激しい波が起きた。
浮き輪のメーは、その波に押され、川の真ん中へとゆっくり動き出していた。
「テチャチャチャチャ!お姉ちゃん面白いテチ♪」

「笑ったテスゥ!下僕妹の分際でワタシを笑うテス!」
起こってザバザバと波を立てながら追いかける。
その波がさらに、川の真ん中へと浮き輪メーを移動させる。

「テチュー!ゴメンナサイゴメンナサイテチィ!」
「待つテッスゥ!いつの間にそんなに早く泳げるようになったテス!」

そういわれてメーが驚く…メーは自分では泳いでいないのだ。
「テェェェッ!ワタシは泳いでないテチィ!何テチィ!全然進まないテチィ!違うところに行くテチィ!!!」

少しづつ、こんどは川の真ん中ではなく横方向に流れ離れていく。
たまりでもまったく流れが無いわけではない…
それに対し手足が短い実装石は、浮き輪で浮けたとして、元々、泳力は無いに等しいのだ。

だが、そのゆったりした速度でも、まだ、キーの方が早いかと思われた。
殆ど効果は無いが、メーは懸命に足をかき、手も使って流れに逆らっているからだ。
しかし、近寄ろうとしてキーは気が付いた。
もう、水が自分の首下まで来ているのだ…ココより先に行けば、より深くなるのは確実だ。
首下まで来れば、もう、実装石の体の機能では歩けるギリギリ、水に逆らう能力が殆ど奪われるということになる。
それは泳げない実装石には恐怖だ。

仕方なく、キーは真ん中に行く事を諦めた。

「お姉ちゃん!お姉ちゃん!動いてる!動いてる!助けてテチィィィィィィィ!!」

しかし、もはや、キーにはどうする事も出来ない。
何とか岸まで戻り、陸を走って先回りするしかなかった…そして、そのほうが確かに早かった。
扱いこそ酷いが、大切な妹を助けるためにキーは兎に角考えた。
そして、長い木の棒を見つけると、ゆっくり流れているメーを追いかけた。

メーは流れに逆らって懸命に耐えている。
だが、まだ波すら立っている川の流れ本流より遥かに遅い…このまま流れれば、カーブのところで棒が届く。
そう考えたキーは、その考えた絶好の位置に付け棒を伸ばす。

「メーちゃん!!この棒をしっかり捕まえるテスゥ!」

「判ったテチィ!お姉…っ」

キーの計算はあくまで緩やかな流れの速度であった。
カーブまで来てしまえば、S字の内径側に緩やかな場所など無い。
メーは、キーが差し出した場所の手前で、流れの本流に乗って、
もみくしゃにされながら声を上げるまもなく、まさにあっと言う間に通り過ぎていった。

「テスッ!?テェェェェェェ!メーちゃぁぁぁぁぁぁぁん!!」

キーは、まさに目で追いかけられずに視界から消え去ったメーを追って全力で川原を走った。

「ビァァァァァァァ!メーちゃん!メーチャァァァァァァァン!!!」

一方のメーは、緩やかな流れから急に激流に入ったため、激しく何度も縦方向に回転されられながら、
キレイに早い本流に乗った。
「ヂベァァァァァァァァァァヂャビャァァァァァァァァ」
浮き輪が胴体に引っかかり沈む事は無く、何とかギリギリ頭が下になる事が無く浮かんでいた。
その激しい流れに圧倒され、足が流れの抵抗だけで潰され始めている。
さらに、そのまま流されるままに身体は激しくスピンし続けていた。

「メーちゃーーーーーーーん…」もう、姉の声は遥か遠くであり、第一、回り続けるメーの耳には届かない。

キーは、それでも絶叫を上げながらメーを追いかけた。


その時ミーは、収穫物をリュックいっぱいに詰め込み、両手にも生ゴミを詰めた袋を抱えて、
偶然、その川に架かる橋を渡っているところだった。

聞き慣れたキーのメーを呼ぶ絶叫と、川原を駆けている姿が見える。

その様子に、ミーは嫌な予感を覚える。
そして、茶色い川の流れの中に、一際目立つ白いアヒルの浮き輪をつけた実装石が流されていた。
「デェ!メーちゃん!?」
橋の淵から懸命に身を乗り出して叫ぶミー…
しかし、クルクル回転するメーは、すでにグッタリしている。

あっと言う間に迫り来る我が子に、ミーは慌てて橋の反対側に回る。
橋と形容したが、普段は僅か1m…川原を入れても2m程度の川に鉄板を敷くよりはましな石の道路で、
川原までは高さが50cmもない。
だが、下の川は流れも速く、水深もメーの流れる中心部は30cmはある。
僅かだが増水しているだけにもっと深く速い。

ミーにはそれを追ったからと飛び込んだり出来ないのは明白であった。

ただ、反対側から、やはり、身を乗り出して手を伸ばす。
その頃には、メーと思われる物体は、かなり下流にあり、
ミーの見ているうちに、浮き輪から空気が抜けたのか、徐々に茶色い水に飲まれて水面下に落ちた。
同様に、上流から流れてきていると思う実装石の水死体と共に、濁った川底を転がりながら視界から消えていく。
白い浮き輪だけが目印であった。

ミーは、その後、疲れ果てて川原でゼイゼイと肩で息をするキーを問いただした。

キーは、ひたすら泣き崩れるだけで何も言わなかった。
ついに怒りの限界に達したミーが、激しいビンタをぶつけても泣き続けるだけであった。
家族の中で、一番自分を慕ってくれる者が可愛いと感じ愛情を注ぐ。
当人がただ、最初に振るわれた暴力によって従順であるという事は関係ないのだ。
その愛情の形さえ歪んでいなければ、キーもまた、優れた飼い実装になれていたかもしれない。

ミーは、仕方なく泣き続け気落ちしたキーの手を引くと、公園出入り口に向かった。

しかし、そこにはいるはずのピーポーがいない。

いつもの群れに話しかけたが、興奮して話にならない。
さかんに、「あの悪鬼マリアをボコボコにした…」と口々に言っている。

そこでミーは嫌な予感を覚えた。
ミーの記憶にもある、あのマリアが来た…”接待”はワタシの娘達の役割にされる…。

慌てて家に戻ったミー達が見たのは、すでに腐乱し肉が溶け出しているピーの腐乱死体を抱いて、部屋の隅で、
「ピーちゃん…ゴハンテチュー…一緒に食べるテチュー…ご主人様のフードデヂュー」
と自分の糞を丸めて達磨の死体に食わせているポーの姿であった。

「レヒャヒャレヒャヒャ♪(グジョグジョ…)テチッ!うーんまいテッチュ〜♪ンコフード♪ンコフードおいちいレチュ…レピピピピ」

ポーはすっかり狂っていた。

「ポー…どうした…テス…お前まで…」フラフラと狂ったポーの元へ歩き出すキー…
その賢さがミーの目に留まって以来、あまり口を利かない…むしろ嫌ってさえいた妹の変わり果てた姿に、
キーは、ようやく、家族を失う苦しみに目覚めたのである。
全て無くなってからである。

「デヂィィィィィ!!マリアああああぁぁぁ!!むぅありぃぃぃぃあぁぁぁぁぁ!!!!」
近寄ったキーの姿を見て、ポーが絶叫する。

両目は見開かれ、目玉がポコンと限界まで飛び出す。
髪は跳ねるように逆立ち、根元からグングンと白くなっていく。
そして、腐ったピーの達磨死体をキーに投げつけると、信じられない速さで駆け回り、家を飛び出していった。
キーも、メーすら追いかける余裕も無いほどの速さでである。

ガサッ…パタン…
ミーは両手の袋を落として、尻餅をつく。

「こんな…こんなコトってあるデス!?かかか、神様はどうしてワタシ達に微笑んでくれないデス!
 今日はゴハンもいっぱい取れて…一生懸命頑張ったデス…たくさん歩いたデス…
 とてもイイ日だと思ったデス…なのにメーもピーもポーも大変なことになったデス…」

放心するミーを横目に、キーは、部屋の中から、隠してある実装活性剤のアンプルを取り出すと、
ひたすら死体となったピーに注射した。
性格こそ悪いが、それでも、外で生活するまではミーに一番教育を施されていたのだ。
咄嗟のときにその知識が断片的に機能して使い方を思い出す。
隠してある場所も把握済みだ。
ただ、奇跡の薬、実装活性剤も、偽石が完全に死んでいる死体には効果が無いことは判らなかった。

ボツボツ…ザザァァァァ…
曇っていた空が、再び雨を呼ぶ…
梅雨が本格化した証であった。

その夜、雨にかき消されながら、2匹はずっと泣き続けた。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

翌日からさらに強い雨が何日にも渡って振り続けた。
そして、2匹は、互いに放心したまま時間を過ごした。
互いに、特に会話もすることも無い。
ミーは何故、良い仔達がいなくなって、このキーだけが元気でいるのか…それが憎らしくも思えてきた。
キーも、何故、メーの死の責任を自分だけに負わせようとするのか…
自分に責任は無い、むしろ、自分こそ愛する妹達を失った被害者だと美化していた。

ミーが取ってきた袋3つ分のゴミクズだけが食べ物だ。
それでも、2匹に減った分、細々と食う分には何日間かはもつ。
ただ、外の雨は、雨だから外に出るのは控えようという生易しいものではなく、
外に出たくても、長時間出られないほどの雨量があった。
せいぜい、ピーの死体を家の横に埋め、おまるの便をすてる位しか出来ない。

そうしている間に、蓄えた電池が切れた。

長く続く陽の光も無い時間…家は不気味に雨音を響かせ、水が漏れ水滴が落ちている。
強度がすっかり落ちているのだ。
それだけでなく、地面からも水が染み出している。新聞紙のクッションやカーペットは役に立たない。
その下のダンボールの床でさえフニャフニャになっている。

雨音にかき消される中、定期的に大きな悲鳴が聞こえてくる。
”団地”のほかの家の本格的な倒壊が始まっているのだ。
家ごと蓄えていたものが崩れ、雨ざらしにされたものの悲鳴…
崩れた家に閉じ込められ助けを求める悲鳴…

突然、家を失ったものは、激しい雨を避けようと、健在の家に押しかけようとする。
そして、家主に蹴り出され途方に暮れるもの、しつこく追いすがってケンカに発展するもの、
ドンドンと戸を叩いた衝撃で崩れる家もある。
そうして毎日、家を失うものが増えていく。

それから見れば、ミー達の家は、まだ、構造がしっかりしているだけ幸せといえた。

そして、何日か続くと雨の無いときがある。
その時には、昼間だろうが夜中だろうが、実装石達は一斉に働きだす。
外の地面は激しく水浸しで、まるで公園全体が水溜りの様になっていた。
公園内に水深数ミリの川すら流れている。
”団地”はこの時点で外周部の大半が倒壊していた。
僅かな時間を見つけての餌の確保、失った家の再建、家の補強…
ミー達も言葉こそ交わさないが、自分が生き残るために協力し合った。

そして、再び、雨がひたすら長く続く。
短い時間では、家の補強も餌の補充も満足に出来ない。

さらに、外の様子がおかしくなっていく。
家の中まで水が入って引かないのだ。水深は僅か5mm程度もない。
それが部屋の中ですら流れている。
そして、日に日に水深が増している。

遂に倒壊していた家もひとりでに動いているかのように移動していく。

今年は、その数日で、近年稀に見る雨量を記録したのだった。
そして、その豊富な水が、ダンボールの家々や実装石達を押し流し、公園内の排水機能を失わせた。
雨が止んだあとも、公園の水はダンボールが排水溝を詰まらせ、引くことが無いどころか、
小雨になってもなお、水量を増し続けたのだ。

さらに、この公園は、小川の近くで、非常時の調整貯水と排水を念頭に作られていた。
入り口より若干のスロープ状で広場が窪地になっている。
その為に石畳の広場が広く実装石が家を置いて住みやすくなってしまっていた。

ところが、実装石が住み着くことにより、その家となるダンボールが流されると大変なことが起きる。
排水溝や側溝が、その大量のダンボールで塞がれてしまうのだ。
こうなれば、この公園はちょっとした貯水池に変貌するのだ。

それに加えて今年は豪雨…水かさはあっという間に公園を浸食し始めた。

「デギョォォォォ!?」「デビュゥ!?」
突然の浸水に、実装石達は大慌てとなる。
ただ、この公園に長く住み着いたものたちは、慣れた者で、早いうちに2階を増設したり、屋根に逃げていた。
それに、水が貯まっても、せいぜい数センチ程度で止まると思われた…過去の例から言えば…。


そこからが今年の予想外。

公園のみならず、町にも今年はペット実装ブームの熱が去りだし、
飼いから野良に捨てられる実装石が多く彷徨い、彼らが家にするために持ち出したゴミが、
各所で、この公園と同じ自体を引き起こした。

ゴミもそうだが、泳げない実装石も簡単に流され、それらの水死体も排水溝を詰まらせる原因となった。

川の増水より早く、町中が排水機能の低下で床下浸水する事態となってしまった。
人間に寄生生活することによって成り立つ実装石ならではの公害である。

過去の例から言えば、定期的な駆除で十分に防げていた事だったが、
今年は、まるっきり、駆除が追いつかなかった…愛護派団体の手前勝手な都合で駆除回数を増やせなかったのだ。
それが、予想外に町中を苦しめた。

その為に、この公園の水位は、瞬く間に40cmを超えた。
早めに逃げなかったものは大半が、雨と寒さで身動きが取れなくなり水死した。
2階や屋根に逃げたものも、これほどの水位は予想されておらず、重みと水の浸食で次々と倒壊した。
それでも、浮かぶゴミに捕まり生き延びるものも居た。

公園で無事な場所といえば、家同士がひしめく事で倒壊しにくい巨大建造物と化している団地中央部の家々の屋根と、
ミーのような丈夫な家の屋根、遊具のジャングルジム、丘になっている林のエリアの僅かな土地と木々ぐらいである。

ミー達も、家に水が入って来た段階で、屋根修理用の空箱の階段を登って屋根に逃れた。
賢いミーから知恵を貰っていたミーは、イザというときのために、
空箱に石を詰めて、簡単なことでは飛ばされたり流されないようにしたのだ。

夜の様に暗い世界で、いつ止むとも想像できない雨…
水はさらに公園を…町中を飲み込んでいった。

実装石だけでなく、人間達の怒号も響き渡る世界が発生した。

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『この部屋が3階で助かりましたね』

『助かってないよ!停電なんて…はやく発電機用意しろ!』

『長期予報では雨はまだ続きますよ…7月を前にこんな状態だなんて…
 教授!このままだと続けても発電機のガソリン代で軽く予算オーバーです』

『今はまだ、大丈夫ですが、今晩も降ると車が動きませんよ。
 コンビニも人が押しかけてますし、こっちの食料が…』

『今回は、”どちらに転んでも”前のミーより良かったんだがな…我々にツキが無かったのか…
 あのミーでも、流石にこの災害では生存は運頼みだな。
 まぁ、いい、次のためだ観察を続ける…目視でデーターを取りなさい。
 停電は長くは続かんよ。水も市が動けばすぐに引く…原因はわかっているんだ』

『教授…そろそろ、この実験の意味を教えてください』

『ああ、君か…君のミーは頑張っているね…聞かないと言うのも約束に入っていたが…
 まぁいい、聞いてから考え、どうするかは君が決めればいい。
 聞けば君も、君の大切に育てた実装石と同じ立場に立つということだ。
 我々は、2つのまったく違う研究をしている。
 1つは、君にとっても、君のミーにとっても、とても名誉な研究だ。
 既に廃れだしている第8世代ペット種…この忠誠心高き知能ペットの進化の可能性と第9世代への覚醒。
 知能の柔軟なる進化と、環境対応力を高める個体を生み出す』

『第9世代…それとこの放置観察が何故…』

『育てた君なら考えれば判るはずだよ?
 第8世代の血族は、生まれたときから高い教養と忠誠心、従順性を持っている。
 それは、簡単な教育だけで本能として機能する、手間の掛からないペットだ。
 だが、その種として身に付けた情報量は実装石にとっては膨大だ。
 それだけに、知能面では普通の飼われている環境下では殆ど拡充しない。思考が受動的の域を出ないのだよ。
 それが、第8世代がウケなかった理由の1つだよ。
 簡単に言えば、これは追い詰めることで知能の領域が増えるかの実験だ。
 そして、いずれは受動的思考から、能動的思考でも従順性を保ったペットを作るための試金石となり、
 それが一定のレベルの仔を排出できるに至ったとき、その仔が第9世代になる。
 君のミーは、第9世代直系の母か祖母になれる可能性があったのだよ。
 なにせ、ミーは先祖から薬物や催眠教育をやりつくした種だからね。
 放置か後は遺伝子改造しかないが、実装石は簡単な遺伝子改造を受け付けない。
 それに、忠誠心が異常に高いから、外での生活も6ヶ月を経ないと本当に優秀な個体かどうかは判らない。
 町で売っているペット種も忠誠心が高いとは言え、1ヶ月も外に出せば大半が飼い主の顔もわからない立派に野良になる。
 ミー達は、最低でも2・3ヶ月は放置しても飼い主と他者を明確に見分けられるし、”仕事”も思い出せてしまう。
 研究所で生まれたミーを君に何も教えずに育てさせ、準備の数日間だけ贅沢をさせた理由もそこにある』

『もう1つの実験は?』

『もう1つか…それは…』

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長い雨… つづく

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1 Re: Name:匿名石 2016/12/04-17:45:33 No:00003038[申告]
記憶では実験観察もの+実装社会モドキものだと思ってたけど家族崩壊の悲哀ものとしても恐ろしく高レベルだったんだな
2 Re: Name:匿名石 2019/02/28-20:21:51 No:00005772[申告]
>今年は、まるっきり、駆除が追いつかなかった…愛護派団体の手前勝手な都合で駆除回数を増やせなかったのだ。
雨が止んだ後には糞蟲より先に人語を話す糞蟲が駆除されそうだな
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