タイトル:【愛】 テチ
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作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:4867 レス数:2
初投稿日時:2006/11/07-00:02:46修正日時:2006/11/07-00:02:46
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『テチ』8

■登場人物
 男    :テチの飼い主。
 テチ   :母実装を交通事故で失った仔実装。旧名カトリーヌ。
 エリサベス:ピンクの実装服を着たテチの母親。車に轢かれて死亡。
 人形   :テチの母実装の形見であるピンク実装服を着込んだ人形。
 中年女  :姓は綾小路。テチの元飼い主。
 ポリアンナ:テチの継母。流産で仔を失った飼い実装。

■前回までのあらすじ
 街中に響いたブレーキ音。1匹の飼い実装石が交通事故で命を失う。
その飼い実装は、ピンクの実装服の1匹の仔を残した。その名は『テチ』。
天涯孤独のテチは、男に拾われ、新しい飼い実装の生活を始める。
母実装の形見の服を着込んだ人形を与えられたテチは、男の元で飼い実装
としての道を歩み始めたが、元飼い主に引き取られ、ポリアンナという
成体実装石と、新たな飼い実装として幸せ一杯の暮らしを始める。
夜、仕事からの帰宅途中に、男はピンク色の実装服を着た親子を目撃する。
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仕事から帰宅途中、ピンクの実装服を着込んだ親子を見た気がした男は、
気がかりながらも、自宅に車をつけた。

車を降りた男を迎えたのは、泣きはらした中年女だった。
その中年女の顔を見るにつれて、先程の懸念は、男の中で確認に変わった。

中年女は叫んでいた。

「ポリアンナちゃんが!カトリーヌちゃんが!迷子になったざますっ!!」


その夜、車は先程の郊外に戻ったのは言うまでもない。
空が白くなるまで、男と中年女はその近辺、また範囲を広げて捜索を行ったが、
ピンクの実装服を着た親子連れは見つけることができなかった。

中年女の話では、その日、ポリアンナ親子と共に公園で散歩をしていたという。
リードを外し、彼女たちの自由にさせる。

野良実装がいないこの公園では、愛護派の飼い主は、皆そうする。
その間、愛護派の飼い主同士で、井戸端会議のような会話に花を咲かせる。
その日も、飼い実装自慢や大丸のバーゲンの話などに花を咲かせていた。

夕方近くになると、夕餉の支度のために、三々五々、飼い主たちは公園を後にする。

「チッチョリーナちゃん。帰るわよ」
「デズゥ〜」

胸元が大きく開いた実装服から、緑赤の乳首をチラチラ見せながら、飼い主の下へ戻る実装石。

そんな中、中年女がポリアンナとテチの名を呼んでいる。
しかし、芝生で戯れる愛くるしい飼い実装たちの群れの中に、彼女らの姿が居ない。

「ポリアンナちゃんなら、蝶々を追いかけて、公園のお外に出たデスゥ」

1匹の成体飼い実装がそう言った。
中年女や愛護派の飼い主たちは、ポリアンナたちを探した。
しかし、公園の回りには彼女たちの姿はない。

探すにつれ、中年女は錯乱し始める。
つい1ヶ月前の悲劇を思い出したのだ。
1ヶ月前、同じようにエメラルドを迷子にさせた挙句、ついには、交通事故に合わせてしまった。

「ポ、ポリアンナちゃん!! カトリーヌちゃん!!」

何時間も何時間も中年女は、住宅街や繁華街を探し回った。
他の愛護派の飼い主たちも、事情を口にして、一人欠け、また二人欠け、
最後には、ぽつねん一人で、暗闇の住宅街を彷徨い続けた。

そして、知らぬ間に、縋るように男の家の前で崩れ落ちて居たのだ。


◇

その日は、夜が完全に明けても、男と中年女は交互に車中で睡眠を取りながら、街中を探索し続けた。

この町の野良実装石の数は少ない。
ましてや、ピンク色の実装服である。
目立ちやすい彼女らの情報は、少なからず手に入るはずである。

しかし、手掛かりがない。
余程、人目を避けながら移動したのか。

男の翌日の代休は、完全にこれで潰れてしまった。
その日も、既に日は落ち始めている。
仮眠を取ったとはいえ、男も中年女の顔にも激しい憔悴の色が見える。

これだけ探しても、目撃情報もないのであれば、もしかしたらどこかの家で保護されている可能性もある。
そうなれば闇雲に探すより、計画的に探すべきだ。

中年女も、以前エリサベスを迷子にさせた時も、繁華街へビラを撒いたり、
実装病院の待合室に、ビラを貼らせて貰ったりした。
そういうことになり、その日は、一旦家に戻ることになった。

「気を落とさないで下さい。俺も、気にかけて探してみますから」

「本当に申し訳ないざます…」

その日から、男は仕事を出来るだけ早く切り上げて、テチを探す日々が始まった。

1日、また1日。まったく情報のない日々が過ぎていく。

最悪の事を想定して、保健所にも行った。
保護された実装石の中にはテチの姿はなく、また交通事故にあった実装石の死体の回収もないという。

安堵と共に再び焦燥感に駆られる男。
その時、男の脳裏にある場面がフラッシュバックされた。

 テェェェ!! テェェェ!!
 テチャァ!! テチャァ!!
 テェェェン!! テェェェェーーーン!!

まだ小さな頃のテチ。
見知らぬ街の冷たいアスファルトの上で、涙するテチ。
手に血が滲むほど、両手をそのアスファルトに叩き付け、行き交う通行人に向かって泣き叫ぶ。

 テチャァァァァーーー!!! テヂヂーーッ!!!

通行人の足に縋り、その足に蹴られ、また通行人に向かって、泣き叫ぶ。

そして、動かぬ母の死体の元に駆け寄り、必死にその綻びたピンクの実装服を引張る。

 テチィィィィィィィィッッ!!!! テチィィィィィィィィッッ!!!!

知らぬ間に男は、ある場所に向っていた。

繁華街。テチを拾ったあの場所だ。
握るハンドルにも力が入る。

脳裏にはテチの必死の叫び声が響いていた。

死んだ母の遺体の上に、パンコンした緑の下着で座り、喉を垂直に上げて泣くテチ。

 テチィィィィィィィィッッーーーーーー!!!! テチィィィィィィィィッッーーーーーー!!!!

その脳裏の中のテチは、必死に助けを求めていた。
男に向かって助けを求めていた。

「(テチッ!! テチッ!!)」

知らず知らずの内に、男の口からもテチの名が零れる。

繁華街の近くに車を止め、車から降りる男。
涙ぐんだ目で、一縷の望みを託して、その現場に男は訪れた。

人だかりの多い繁華街のその一角は、平常を保っていた。
無論、倒れたピンク色の実装服の親子の姿はなく、その場に佇む男の姿があっただけであった。

 テェェェェェン!!! テェェェェェン!!! テチャァァァ!! テチャァァァァ!!!

脳裏にはテチの叫び声が、未だに響いていた。

 テチィィィィィィィィッッーーーーーー!!!! 

かき消そうともかき消そうととも、その悲壮な悲鳴は消えることなく、男を苛み続けた。


◇

この街の小学校は、3つある。
男があの夜、ピンクの実装服の親子づれを目撃した地点から、一番近い校区の小学校。

『帰宅は寄り道をしない』

帰りのHRでそう徹底されたその日、河川敷に集まる小学生の集団があった。

「おい。ピンクまだ生きてるか?」
「逃げられないように、首に紐つけていたからな」
「今日はどうする?」
「花火の残りがあったから、家から持ってきた」
「俺、バット」
「おお、やるじゃん」

小学生の高学年らしき少年が6人。場所は、河川敷の橋の下。
丁度、通行人から死角になる場所に近づくと、大絶叫とも言える甲高い声が高架下に響いた。

その小学生達の姿を目視した「何か」が、恐怖の余り叫んでいたのだ。
首には、しっかりと結われた紐。

小学生達が来る反対方向へ、それは必死に逃れんとしている。
しかし、その紐が、首を締め切れんばかりに、首を圧迫している。

「お。居た居た」
「元気じゃねーか、ピンク」

 テチャァァァァァァ!!! テチャァァァァァーーー!!!

テチであった。
透き通るようなピンクのカシミヤ製の実装服は、泥に汚れ、緑に染まり、
ピンクとは形容できない色になっていた。

 テチャァァァ!!! デヂヂヂーー!!!

両目から涙を流して、必死に威嚇の声をあげて、恐怖に震えている。

テチは、首の痛みに耐え、必死に手を伸ばし、声を上げて助けを求めていた。
その手の先には、ピンクの実装服を着た大きな肉の塊があった。

口からデロンと舌を出したそれは、ポリアンナであった。

顔と体が、3倍ほどの大きさに腫れ上がっていた。
体にガスが溜まっているのか、実装服が張ち切れんばかりに膨れている。
目は魚に啄ばまれたのか、黒い眼窩が覗くだけだ。

溺死。
見る人が見ればそう判断できるだろう。

水際から引き上げられたのか、ポリアンナは河川敷の防波ブロックに凭れるようにして、
両足を蟹股に広げ、自らの頭部の大きさ程にパンコンさせた緑の下着を露にしていた。

 テチュゥゥゥゥ〜〜〜!! テチュゥゥゥゥゥ〜〜〜!!!

甘い声を出して、ポリアンナに、必死に助けを求めるテチ。
しかし、非常にも愛する義母の返答はなかった。

「よぉ。ピンク!」

影がテチの後ろに差す。
両目から血涙を流して、ガチガチと歯茎を鳴らしながら、ゆっくりと声の主に向けて振り返る。

 テェ…!! テェェェッ!!(ガチガチガチガチ…)

昨日の事。一昨日の事。もう何日前からかも忘れた。

このニンゲンにされた痛い事。痛い事。痛い事。
テチの小さな脳には、その痛い記憶しか残っていない。

「泣いてるな」
「うん。泣いてる」

一人が、テチのすぐ傍の地面に向けて、バットを叩き付ける。

(ドガッ!!)

 テピャァ!!! テェェェェ!! テェェェェッ!!!

「あはははは。おもしれー」
「ほぉら。逃げてぇ〜 逃げてぇ〜」

何人かが、その場で、足で地面の砂を蹴りあげる。
無数の砂の礫が、逃げ惑うテチに向かって襲う。

 テァ!! テチァァァァァ!!

「ははは。向こう行ったぞ」

ガクガクと震える足で、闇雲に駆け回る。
首紐が結ばれた木の杭を中心に、テチはぐるぐると悲鳴をあげて回る。

 テェェェェェン!! テェェェェェン!!

ぐるぐると同じ場所を回り、首紐がどんどん首に絡まっていく。

 テェェッ!! テェェェッ…!!

にやつく無垢な笑みが、テチの周りから無数に注がれていた。

 ェェ…!! ……ッ!!

紐が何重にも首に絡まり、テチは白目を向いて、口から泡を吐いている。

「馬鹿じゃねーの、こいつ」
「おい。誰か解けよ」
「嫌だよ。汚いし」
「じゃんけんだ。じゃんけん」

じゃんけんに負けた少年が、紐をしぶしぶと解く。

「塾まで、まだ時間あるよな」
「じゃぁ、今日もやるか」
「何から行く?」
「よし。花火から行くか」

そう言って、リーダーらしき少年が、鞄の中から湿気た花火を取り出した。


◇

少年たちは、決して虐待派でも何でもない。ただ、実装石が珍しいだけだった。

川原で遊んでいた時に、水際で必死に叫ぶ声に気がついたのが3日前だ。
その泣き叫ぶ生物が実装石と知ったのは、仲間のうちに生物に詳しい少年が居たからだ。

川上から流されてきたのか、成体実装石の方は既に川辺に引っかかり、溺死していた。
グループの中で、勇気あるメンバが成体実装石を引き上げる。
その周りを必死についてまわる仔実装の姿。

 テェェェェェ!!! テェェェェェ!!!!

その仔実装は、泣きながら、ぺしんぺしんと、成体実装石の体を叩いている。
その都度、成体実装石の体に溜まったガスが漏れ、異臭を放つ。

 チュワッ!! チュワッ!!

そして、ドロドロの手で、少年たちのズボンを掴んで、引張り、助けを請う仔実装。

 テェェェェェンッ!!! テェェェェェェンッ!!!!

その泣き叫ぶ仔実装を、誰かが軽く蹴る。

 テェェェ!? テチャァァァァ!!!! チュワワーーッ!!! デヂヂーッ!!!

「こいつ、怒ってるぞ」
「おもしれーな」

実装石という種が、その筋の嗜好派の犠牲にされている知識などは、少年たちにはない。
だが、仔実装の鳴声や振舞が、彼らの無邪気な嗜虐心を煽るは確かだった。
またそれ以上に、少年たちの行為による仔実装の反応を見たいという好奇心から、それは始まった。

デコピンをする。叩いてみる。蹴ってみる。犬の糞を食わせてみる。

だが、それが2日、3日経って行くと、その行為に抑制が効かなくなっているのは確かだった。
誰も彼もが、テチの泣き叫ぶ様に、背筋を痺れさせ、生唾を飲み込んでいた。

 チャァァァァァァァァァーーーーーー!!!!

花火の火花が、テチを執拗に襲う。

下着の中を糞満載にして、広い川原を逃げまとう。
頭巾の上から無数の火花がテチを襲った。

 チュワァァァ!!! チュワァァァ!!!

焼けた髪の匂い。焼けた服の匂い。火薬の匂い。糞の匂い。
それらが交わった絶望の匂いの中、テチは恐怖に震えて逃げ惑う。

「そっち行ったぞ」
「ほらほら。逃がさないぞ」

逃げるテチの先に待ちかねた少年が、手に取った花火に火をつける。

 デヂュアアアアアア!!!!

顔に直接火花を喰らい、両手で顔を押えて、川原の上をもんどり打つ。

「ほら逃げないと、燃えちゃうぞ」

地面を転げるテチに向けて、四方から花火の火が襲いかかる。

 ヂュアア! デチチー!! デチチー!!

「あはは。おもしれー」
「おい。服燃えてるぞ、ピンク」

 チュァッ!? デチャアアア!!!

服についた火は燃え上がり、テチの肌を焼き、髪を焼き始める。

 デビベデチベピァァァァッッッ!!!!

大絶叫を上げて、のた打ち回るテチ。

「おい、消せ。消せ」
「小便だ。小便!」

 じょぉぉぉぉぉぉぉ……

少年達の小便が放物線を描き、テチの服を焼いた火を消し止めた。
小便は、テチの目鼻や口をも襲った。

 テパッ!! ゥパッ!! ピャッ!!

「おもしれ。俺も小便」
「俺も」

 じょぉぉぉぉぉぉぉ……

3人分の少年の小便をたっぷりと吸った実装服と頭巾からは、黄色い雫が地面に垂れている。

 テェ… ェェ…

「おーい。死んだか?」

少年の一人が、再び花火を手に取り、至近距離から花火に火をつける。

 テェ!? テチァァァァァ!!

「あははは。生きてる。生きてる」

 テチ!テチテチテチテチテチテチテチテチテチ…

テチはその場で頭に手をやり、蹲り丸くなり、ひたすら震え続ける。

(ブリッ… ブリリリッ…)

背中に花火の火が爆ぜる度に、テチは悲鳴と共に、糞を漏らし続ける。

 テェェ!!! テェェェェ!! テェェェン!! テェェェン!! 

「逃げねーと面白くないな」
「ねずみ花火とかあるぜ」
「お。いいな、それ」

少年の一人が、テチの後ろに回り、棒で器用にスカートを捲り、テチの下着の中に
ねずみ花火を入れて、火をつけた。

暫くして、火が、ねずみ花火の火薬部分に引火する。

 テチァ!? デチャアアアァァ!? (シュゥゥゥゥゥゥゥッッ!!!)

下着の中の臀部の部分で、クルクルと回転し始めるねずみ花火。

蹲っていたテチは、臀部を押さえつけながら、その場に転げ回り、川原を駆け巡り始める。

 チュアアアアアアアアアッ!! チュアアアアアアアアアッ!!

「あははは。おもしれー」
「ねずみ花火、投下します。ちゅどーん。ちゅどーん」
「ミサイル発射!ミサイル発射!北の脅威です!北の脅威です!」

色々な花火がテチを襲う。
花火の火花は、テチの肌を焼き、服を焼き、髪を焼き、裸眼を焼き、焼き続ける。

 ピャ!! ピャァァ〜〜ッ!!

テチは、肌を焼く痛みに涙し、理不尽な痛みに恐怖する。
そして、必死に助けを求めて逃げ惑った。

 テェェェン!! テェェェーーン!!

テチは、痛い体を我慢し、ポリアンナの元に全力で駆けた。
花火も限りがあり、全てを使い尽くしたのか、少年たちは、残念そうな声をあげる。

その隙に、テチは繁みの中を掻き分け、ポリアンナが佇む防波堤の近くまで駆けた。

 テチィ!! テチィィーーー!!

そして、ポリアンナのスカートの中に頭を突っ込んだかと思うと、ポリアンナの下着の
ゴム紐に固定されていたある物を手にして、テチは満面の笑みを浮かべる。

 テピャ…テピャピャピャッッ!!!

悲哀に暮れていたテチの頬が吊り上げる。
テチが手にしたは、ポリアンナに預けていた、テチテチ☆魔法スティックだ。

「お。何だ、そりゃ?」

 チプッ…! チププッッ!!!

少年たちが、ぞろぞろと集まってくる。
しかし、テチは身じろき一つしない。

そして、徐にスティックを一人の少年に向かって振る。

 プギャッ! プギャッ! プギャーーーーーーーッッ!!!

テチの頭の中では、その少年は、既に地獄の業火に焼かれて、塵と化していた。

 テプププーーーッ!!! テプププーーーッ!!!

続いて、他の少年に向けて、スティックを振る。
この少年は、先程ねずみ花火に火をつけた奴だ。
覚えてる。覚えてるぞ。

 …テプッ! テプププッ!!

「おい。何やってんだ。こいつ」

テチは、火傷の痛みも忘れて、満面の笑みでスティックを振り続ける。

 テキャァァ!! テププーーー!!!

テチの脳裏では、少年の首があさっての方向に折れている。

「おい」

 テェ!?

地獄の業火で消炭となったはずの少年が、テチの魔法スティックを奪う。

「よくできるな、これ。なんだっけ?」
「テチコちゃんだっけ?」

首が折れているはずの少年が相槌を打つ。

 テェェェェ!? テェェェェェッッ!!!

テチは、その生き返った少年を交互に見やり、驚愕の声を出して、叫んでいる。
そして、スティックを奪われた事に気付くや、途端に威嚇の声を上げる。

 デチチー!! デチチー!!

「うるさいんだよ」

少年が、威嚇を続けるテチの頭を、スティックで軽く殴る。

 テェ? テェェーー!? テェエエエエエン!

大声で再び泣き始めるテチ。ブリブリと排便も忙しない。

「可哀相だろ。返してやれよ」
「そうだな。ほらよ(ボキッ)」

少年は、スティックを真っ二つに折って、泣き喚くテチの前に放り投げる。

 チュワアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!!

テチは震える手で、スティックを掴んで、チュワッ!!! チュワッ!!!と叫びながら、
折れた部分を必死に合わせようと必死だった。

震える手で、手を離す。

くっついた!

 テチュ〜ン♪

落ちる。

 チュアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!

少年たちは、大爆笑。

何度も何度も修復を試みるテチ。

 テッスン…テッスン… チュア!?

見かねた少年の一人が、折れた先を手に取り、思いっきり対岸に向かって投げた。

 テェェーー!? テェエエエエエン!

飛んだ対岸に向かって、真直ぐ駆けるテチ。
勿論、河にはまり、ゲホッ!! ホゲッ!!と、這々の体で岸に戻る。

 ケホッ… ケホッ… チャ? チュワァァァァァ!!!?

どうやら、テチテチ☆魔法スティックの柄の部分も、川に流してしまったらしい。

 チュワアアアア!!! チュワアアアア!!!!

岸辺でぺしんぺしんと、両手を地面に叩きつけ、悔しがるテチ。

 テチィィィィィィィ!!!!!  テチィィィィィィィ!!!!!

どうにもならぬこの状況下、テチは、庇護の対象であるポリアンナに頼るしかない。
少年たちのにやつく視線の中、ポリアンナに向かって、駆けるテチ。

しかし、既に動かないポリアンナ。
テチは、ガスで2倍に膨れたポリアンナの体躯に縋り、有らん限りの声で泣いた。

 テチィィィィィィィ!!! テチィィィィィィィィ!!!!

テチがポリアンナの上に乗ると、テチの重みで、胃の中に充満していたガスが、
デズゥゥゥ〜と小さな音と共に、口から漏れる。

 チュワッ!! テチュゥ〜♪ テチュゥ〜♪

ポリアンナが優しく語りかけてくれた事に、テチは喜び勇み、ポリアンナの胸元に
顔を埋めて、嬉しそうに鳴いている。

「うわ。気持ち悪りぃぃ」
「石持って来い。石」
「よし。ここからな。15mから行くぞ」

少年たちは、あらゆる場面で遊びを思いつく。
足で川原に線を引き、そこに並んで手ごろな石を掴んだ。

「ピッチャー井川。振りかぶって…」
「投げました!」

テチの顔の僅か5cm横の空間を、石の礫が通り過ぎた。

 ピャ?

と、同時に防波堤のコンクリートのブロックに石が当たり、その音に驚き、テチは声をあげる。

 ピャァ!? ピャァァァァ!!!

「ボール!! 外角に少し外れました!」
「カウント0−1。井川続いて、第2球…」

 テチァァァァァ!! テチァァァァァ!!

ポリアンナの胴体の上で、振りかぶる少年に向かい、威嚇か懇願か、わからぬ悲鳴をあげるテチ。

「投げました」

 デチチー!! デチチー!!

石は手前で大きく跳ね、その跳ねた石がテチの頭上のわずか数センチを通り過ぎる。

 デチャアアア!!! ヂッヂィー!!

テチは下着の中の自らの糞を手に取り、負けじとそれを少年に向かって投げ始める。

 デチチー!! デチチー!!

糞は、もちろんよく飛んで1m。少年たちに届くはずもない。

「あははは。おもすれー」
「反撃してんの、あいつ?ムカつくー」
「井川。振りかぶって、第3球、投げました!」

第3球目は、テチの右手に命中し、投げようとした糞毎、右手が爆ぜる。

 テチュァ!?? チベピァァァァーーーーッッ!?

「おお!! ナイピッチング!!」

テチは、爆ぜた右手をチュワッ!!チュワッ!!と叫んで見やり、ポリアンナの腹の上で暴れ始める。
そして、バランスを崩し、腹の上から転げ落ちたテチは、ガクガクと震える手足で
必死にポリアンナのスカートに向かって這い始めた。

 テピィィィ… テピィィィィ…

「隠れるぞ。急げ!」

ポリアンナの足元に辿り着いたテチは、残った左手で必死にポリアンナのピンクのスカートを捲り、
ポリアンナの下着の足の付け根に頭を捻じ込み込むように突っ込み、頭を左右に捻る。

 テチュ〜ン♪ テチュテチュ〜ン♪

ポリアンナの下着に、頭が半分入ったところで、テチの視界は暗闇に閉ざされる。
そして、テチは目を閉じ、全てを忘れ、眠りに入る。

 テスー… テスー…

少年たちに、ねずみ花火で焦げた下着を大きく露にし、眠りに入ったテチ。
その下着に刺繍された仔実装のデフォルメされた顔は、少年たちの琴線に触れるには十分だった。

「何かムカつくぞ」
「おい。ピンク! 隠れるな!」

少年の一人が、ポリアンナの下着に隠れるテチに向かって近づく。

「出ろ!」

 テスー… テスー…

「出ろ!ピンク!」

 テスー… テスー… テピャッ!! テピャピャッッ!!

パンコンした下着を、フリフリ振り続けるテチ。
夢の中では、母親と緑の川原を駆けているのだろう。

少年が、パンコンで大きく膨れた下着を、足で蹴り上げる。

 デチュァ!? チュワチュワァ!?!?

蹴り上げられたテチは、宙に舞い、縦に回転する。
パンコンした下着の質量が大きいため、歪曲な楕円を描くように、宙を舞うテチ。

 チュワァァァァァァァァァーーー!!?? (ペチンッ!!)

遠心力のついたテチの体は、勢いをつけて背中から防波堤のコンクリートにぶつかった。

 ケッ… ケホッ… ェ…!!!

叩き付けられたショックで、息ができないのか、テチは四肢をバタつかせて苦しみ続ける。
その姿を上から覗き込み、笑みを浮かべる少年。

「よし。次、俺な!」

少年の一人が、石を持って低位置に立つ。

「15mだぞ!」
「わかってるって!」
「虎のサブマリン。村山振りかぶって…」

 ィィィ〜!! ィィィィ〜!!

何とか呼吸を取り戻したテチだが、少年に向かって、無い右手を突き出し、首を左右に振り、
嫌々と懇願する。

「投げました!」

石は鋭い軌道を描くが、手前で大きく軌道を違え、目の前のポリアンナの頭に命中する。
ポリアンアの右即頭部が爆ぜると共に、ポリアンナの脳漿がテチに向かって振り注いだ。

 ピャ…? 

自らの頭巾や顔に降り注いだ脳漿を手に取り、テチは呆然とそれを見つめ、
そして落ち着いたばかりの呼吸で、叫んだ。

 ピャアアアアアーーーー!!!!!

脳漿を掴み、大絶叫するテチ。

 ピャァ!? ピャァ!?

半狂乱で、急ぎ、飛び散る脳漿をかき集める。

笑い転げる少年たち。

手に取った脳漿を爆ぜた頭の穴に詰め込み、その穴を押えながら、
ピャァ!? ピャァ!?と少年たちと、脳漿がどろりと零れる穴を、交互に見やり叫び続ける。

少年たちの嬌声と投石は続く。

 チュアァァ!!! チュアァァァ!!!

テチは、頼りない足取りで、必死に投石をかわそうとする。
最後には、必死に零れまいと押えていたポリアンナの頭の穴に自らの顔を突っ込み、
脳髄を掘るような仕草で、必死に隠れようとしていた。

「あはははは!! アホだ、アイツ!!」
「おい。そろそろ、塾の時間だぞ」
「そうだな。また明日にするか」

 テェェェェェーーーッ!!! テェェェェェーーーッ!!!

テチは、ポリアンナの穿たれた穴に顔を埋めて、ブリブリと糞を漏らし、震え続けていた。

「ごめんな。ピンク。そろそろ行かなきゃならないんだ」
「また、明日遊んでやるかな」
「おーい。紐どこだぁ」
「おまえ、つなげよ」
「やだよ。小便だらけじゃねーか」
「じゃんけんだよ、じゃんけん」

テチは、再び首に紐を結われ、高架下の繁みに打たれた杭の近くに固定される。

 テェエ……テェェ……(ガタガタ… ブルブル…)

その間、テチの瞳孔は真ん丸に開き、歯は血が滲まん程に喰いしばり、
次に与えられるであろう痛みと恐怖に対して、必死に身構えている。

「じゃーな。ピンク」
「また明日なぁ」

少年たちが川原に置いてあったランドセルを銘々手に取り、土手の上に駆け上がった。

 テェ… ェ…

テチは、遠く去った少年たちの姿を歯を喰いしばり、今だ開いた瞳孔で見続けた。

 テェエ……テェェ…

テチが、そこから視線を逸らしたのは、少年たちが去って、祐に1時間が断った後であった。

 テェ… テェェ… 

 テッスン… テッスン… 

そして、我に戻ったように、テチの目から自然に涙が零れる。

 テェェェェ!!! テェェェェェン!!!!

そして、大声で泣き始める。

 テェェェェェェェンッッ!!!!

テチの目からは、ボロボロと大粒の涙が溢れて、零れていく。

 チュワ〜ン!! チュワ〜ン!!

トテトテと、直近くに横たわるピンク色の実装服を着込んだポリアンナの元へ駆ける。
しかし、テチの首に結われた首が、テチの首を圧迫する。

 (グキッ!!) ケバッ!! ケホンッ!! ケホンッ!!

結われた紐の長さが足りないのだ。
パンコンした尻から、地面に尻餅をついて、咳き込むテチ。

 チュワ〜〜ッ!! チュワ〜〜ッ!!

両手をポリアンナに向けて、掻くような仕草を何度もさせ、テチは泣いた。

 テチィィィ!! テチィィィィィィィィィーーーーッ!!!

テチは、何度も何度も、泣き続けた。
その悲痛な叫び声は、秋の夕焼けが滲む河川敷の高架下に響いていた。



◇

男と中年女は、あれから必死にテチの行方を捜し続けていた。

昼は中年女、夕方から男。交代交代での捜索だった。
しかし、無理が祟ったのか。中年女は体調を崩してしまいは家で臥せってしまった。

男はこの日、溜まっていた年休を消化し、朝からテチを探している。

車で移動し、目に付いた草むらに入って、テチの名を呼ぶ。
近くに民家があれば、その家主にテチの写真を見せて、情報を集める。
しかし、この日も、一向に進展はない。

テチが居なくなり、既に5日が経過している。
今日も何も情報のないまま、日が暮れてしまった。
男は正直、焦り始めてきている。

車に備え付けられている煙草入れも、吸い殻で満載だ。
車は近くの流れる川の橋に差し掛かった。

(ブロロロロロロ……)

車がエンジン音を響かせながら、橋の上を渡っていく。

「川か…」

男は橋を渡りながら、川辺の河川敷を見つめている。
河川敷には、所々緑が多い茂っており、野生の生物なら身を隠すには
もってこいの場所も多数存在していた。

(ブロロロロロロ……)

秋の月明かり。
その河川敷で、少し肌寒い秋の風に、山茶花が揺れている。

テチは、その河川敷の近く、高架下から差し込む月の光りに照らされ、天に向かって鳴いている。

 テチィィィィィィィィィィーーーーー!!!! テチィィィィィィィィィィィーーーーー!!!!

首に結われた紐を恨めしそうに見ては、テスンテスンと涙を拭う。

そして、喉を垂直に立て、口を窄め、涙を頭巾に湿らせてながら泣くのだ。

 テチィィィィィィィィィィーーーーーー!!!!

体中が火傷で痛い。右手が痛い。首がギュッとして、ケホンケホンする。
テチは溢れる涙をそのままに、天に向かって泣き続けた。

 テェ…!?

遠くから音がする。
嫌いな音。嫌な感じのする音。車だ!

 テェェェ…!!!

テチは、先程まで高架下に木霊していた鳴声を、ピタリと止めた。

(ブロロロロロロ……)


「ん?気のせいか?」

橋を渡る途中、テチの鳴声が聞こえたような気がした。
男は、橋の上で、車をゆっくりと徐行させて、窓を開けて、耳を澄ませた。

しかし、秋の川のせせらぎの音が、凛と静まった夜に響くだけだった。
男は、冷たい川の空気が入り込む窓を閉め、アクセルを吹かす。

「河川敷か… 明日から足を延ばして見るか」

そう呟き、車はその場所を去っていく。

(ブロロロロロ……)

車のエンジン音が、遠く去った事を確認すると、
高架の下で身を縮めていたテチは、緊張を解き、再び泣き始める。

秋の夜長は、まだ始まったばかりであった。


◇

何日かが過ぎた。
その日は、少年たちは、川原でサッカーに興じていた。

「行くぞ、岬くん」
「OK!翼くん」

 テェェェェン!!! テェェェェン!!!

テチも必死にそれに参加している。

端から見れば、少年たちと遊ぶ実装石。心温まる風景に映るかもしれない。

少年たちがボールを奪い合い、右に走れば、テチも涙を拭いながら右へ走る。
ボールが左に転がれば、テチは唇を噛み締めながら、左に走る。

 テッスン… テッスン…

涙は枯れてくれない。
テチは、必死にボールに縋るため、両手を振って必死に走る。

「お。ピンク。必死だな」
「パス!パス!」
「残念だったな。ピンク。ボールはあっちだ」

 テェェ…!? テェェェン!! テェェェェェン!!

テチは首を振り、ボールを見つけると、そちらに向かって走り出す。

ボールは、ポリアンナの生首だった。

少年たちの無垢な際限ない嗜虐心は、次々とエスカレートしている。

「ほら。ピンク。パスだ!」

ポリアンナの生首を蹴り上げる少年。
それが、全力で走るテチの顔に、思いっきりぶつかる。

 デヂュァッ!!!

「あははー。ナイス・顔面ブロック!!」

 ピャ… ピャ…

少年の一人が、顔が平面に潰されたテチを掴んで、ダンボールの中に入れる。
少年たちも、この仔実装の扱いにも慣れてきていた。

実装石の回復力には、最初は驚かされる物ばかりであった。
爆ぜた右手も、翌日には生え変わり、驚異的な回復力を見せている。
しかるべき栄養を与え続ければ、翌日には少年たちのために、元気で鳴いてくれるのだ。

ダンボールの中では、誰かが見つけた冬眠間近の青大将が、テチを飲み込もうとしている。
目覚めたテチは、舌を突き出し、ベベベベベッ!!!と糞をひって、逃げまとう。

少年たちの行動は、明らかにエスカレートしていた。
青大将に呑込まれたテチは、その30分後には、空中で大絶叫を繰り返している。

 テアアアアアアアアアアアアァァァァァァ…………

 …………ァァァァァアアアアアアアッッッ!!! (バシャンッ!!!)

釣竿を担いだ少年がリールを撒くと、藻に塗れたぐったりとしたテチが、水辺から引き上げられる。

テチの口吻からは、返しのついた釣り針が、痛々しく突き出ていた。
体中には、服の上からボンレスハムのように、何重にも細い釣り糸が巻かれ、
内出血した肌が緑色に変色している。

この釣りで一度、河に住む亀がテチの足に喰いつき、釣り上がった事もあり、
少年たちは、1日に1時間は、こうやって釣りを楽しんでいる。

 〜〜〜ッッ!!(ガチガチガチガチ…)

秋の水の冷たさに、唇まで真紫にして、凍えるテチ。
しかし、悲鳴が止まることはない。

少年が、練り餌をパンコンした下着に突っ込み、再びテチは宙を舞う。

 テアアアアアアアアアアアアァァァァァァ…………

 …………ァァァァァアアアアアアアッッッ!!! (バシャンッ!!!)

そして、体を乾かすと称して、花火で身を焼かれ、食事と称して、ポリアンナの腐肉を
喰わされたりもした。

夕方、少年たちが、飽きて家路につく前には、もう紐で首を結うのではなく、
錆びた針金で、体を何重にもぐるぐる巻きにされ、テチは高架下に放置される。

「じゃぁな!ピンク」
「また、明日な!」

 テェ…

鳴く声も、既に弱々しい。
不死身性を誇る実装石とは言え、それは栄養が十分に整った条件下での肉体の話であり、
精神的な部分は、また別の話である。

何日も何日も、肉体的にも、精神的にも加えられる虐待に、テチは既にギリギリの所まで
達していたのだ。



(パチン)

 テェ…

(パチン)

 ……ェ

テチは、虚ろな視線で目の前の風に漂う花を見ている。

(パチン)

 ェ…

(パチン)

 テェ…

揺れる花を見ながらテチは、チププ…という笑みを零して笑い続ける。

(パチン)

 ……

「おーい。ホッチキスの芯が切れたぞー」

テチのピンクの頭巾は、ぐっしょりと耳からの出血で湿っている。
テチの両耳には、ピンクの頭巾毎、ホッチキスの芯が20個以上は止められているだろうか。
両耳からは、緑と赤の血が滴り落ち、芯の重みで、でろりとおじぎをしている。

 テチュー!! テチュー!!

揺れる花を指差し、ホッチキスを持つ少年に向かって、三日月の目で笑みを浮かべるテチ。

この反応には、流石の少年たちも、いささか気味悪く感じ始めている。

最近は、色々な嗜好を凝らしてみるが、テチの反応も鈍くなってきており、
少年たちも、この遊びに対して、少し食傷気味な感が否めなくなって来ている。

 テチュー♪ テチュー♪

テチがすくと立ち上がり、横たわるポリアンナの方へと走る。

「うへー。また行ったぜ、あいつ」
「そろそろ、限界だなー」

テチが向う先のポリアンナは、黒い服を着ている。
いや、正確にはピンクの実装服だが、黒いのだ。

そして、その黒は小さな羽音と共に、蠢いていた。

蝿だ。
溺死体のポリアンナの体は、秋とは言え、無数の蝿が集るまでに、腐敗が進行しているのだった。

テチは、その黒い実装服を来たポリアンナに向かって駆ける。

 テチュ〜ン♪

ぶわっ!と、くろだかりが宙に舞う。

テチは、ポリアンナのスカートを捲り、自らの憩いの場へと向った。
腐乱臭と蛆が蠢く暗闇の中、テチは屹立する乳房を捜し続ける。

ここに居る間は、不思議とニンゲンが痛い事をしない。
ここは安全だ。やはりママは偉大だ。ママの傍がいい。ずっとママの傍がいい。

 チュパッ… チュパッ…

「俺。もうイチ抜けたー」

少年の一人が言う。

「あ。ずりー。俺もー」
「待てよー」

少年たちが一人欠け、二人欠け、最後には無人の河川敷が、川のせせらぎの音を運んでいた。
皮肉にも、テチを最後に守ったのは、死した冷たくなったポリアンナ自身であった。
テチは冷たいながらも、母の愛に擁かれ、夢を見る。

 テスー… テスー…

そんなテチを男が見つけ出したのは、テチが迷子になってから、1週間目が経過した日であった。


◇

男は、河川敷を中心に、捜索を開始している。
あの目撃地点を中心とした民家や繁みは、大方捜索し尽くしていた。
しかし、河川敷はそこから少し離れているが、まだ手付かずの場所だ。

正直、残っている場所はここしかない。

緑と土色の河川敷の景色。
ピンクの実装服は目立つはずだ。

僅かな希望を託し、男は手頃な棒切れを掴んで、藪を突付き、草を分けてテチの名を呼び続ける。

その日も、既に日は落ちかけている。
今日は諦めるか。そう思った矢先、男は何かを足で踏みつける。

始めは流木か何かと見まがえたが、顔を近づけてみると、それは見覚えのある物。
テチテチ☆魔法スティックだった。

「!」

男は、半分に無残に折れたスティックの先を手に取り、周囲を見やる。

川上。川下。
川上の方角。一つの橋が目に入った。

昨日、確か夜に通った橋。
あの時、微かにテチの声を聞いたような気がした場所だ。

その時、男は見た。
もう既に薄暗い橋の高架下。その緑と土色の土手に、ピンク色の動く何かの姿を。

「!」

男は走った。
土手を這い上がり、橋を走り、再び河川敷に降りる。
息を切らし、高架下に辿り着いた男は、そのピンク色の正体を見た。

それは、仔実装だった。

「テチ… テチなのか?」

その仔実装が着込む服は、既にピンクとは形容し難い色。
黒に近いピンク色に、さらに無数の黒い点が蠢いている。
その無数の黒い点の正体は、羽音でそれが蝿だとわかる。

「ポリアンナ…か?」

その仔実装が跨るピンク色の布を着込んだ肉のような塊。
辛うじて実装服とわかる塊にパンコンした下着が見える。
しかし、その実装石には、あるべきはずの首が存在しなかった。

その仔実装は、その塊の上に跨り、しきりに何かを咀嚼し、嚥下している。

空腹のためなのか、集る蝿を必死に手で捕まえ、口の中に入れて咀嚼している。
跨る塊の中から、にゅぅと這い出る蝿蛆に口を当てて、それを啜り嚥下している。

男は眩暈を感じながらも、高架下へ降りて、その仔実装を見やった。

テチだ。
テチであった。
間違いなくテチであった。

髪は焼き縮れ、顔や手足からは、無数の爛れた水膨れが膿んでいる。
実装服も頭巾も、所々焼け焦げ、耳も手足も所々欠けていた。
耳には大量の金属片が刺さっており、見るからに痛々しいその様は、男の肺腑を抉る
ような様であった。

男は目頭を熱くして、変わり果てた姿のテチに近づく。
男とテチの目が合う。

男は泣きそうな顔で、必死に笑顔を作ろうとするが、
テチは男を見るなり、口から蛆の破片を飛ばしながら、威嚇を始める。

 シャァァァァァッッ!!! シャァァァァァッッ!!!

「テチ… 俺だ。俺だよ」

男がゆっくり近づくが、威嚇が一層、強くなる。

 プシャァァァァッッ!!! プルッシャァァァァァッッ!!!

「テチ… いいんだ。もう、いいんだ」

男がテチに手をかけようとする。

 テェェェェッッ!!! テェェェェェッッ!!!

その手を見るなり、テチは目をひん剥き、悲鳴を上げる。
そして、ポリアンナの胴から転げ落ち、腰を抜かしたように河川敷の上を逃げ惑う。

 チュアアアアアッッ!!! チュアアアアアアッッ!!!

手を宙で掻き、必死に男の接近を拒もうとするテチ。

「テチ…」

テチは目から血涙を流し、糞をブリブリと漏らしながら、必死に逃げ惑った。
この小さな頭の中は、この河川敷でニンゲンにされた痛い痛い記憶しかなかったのだ。

 テェェェェェェン!!! テェェェェェェン!!!

逃げ惑い、必死に辿り着いた先に転がっていたのは、変わり果てたポリアンナの頭部であった。

 テチュ!? テチュ〜ン♪ テチュテチュ〜ン♪

男の接近も忘れてか、テチはポリアンナの首にしがみ付く。
そして、ポリアンナの生首を抱きながら目を瞑り、ゆっくりとそれを撫でながら、テチは唄い出す。

 テッテロケ〜 テッテロケ〜

「……テチ」

 テッテロケ〜 テッテロケ〜

「(ぐずっ…) もういいんだ… テチ、一緒に帰ろう」

 テッテロケェ〜 テェーーピャピャピャッ!!!

寒い寒い河川敷の川の秋風が、凪いでいる。

己の非力さを痛感し、佇む男。
狂気に淀んだ目で唄い続ける仔実装。
それは、男とテチの長い長い試練の幕開けであった。

テチ、生後1ヶ月目の秋の夜であった。

(続く)


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1 Re: Name:匿名石 2021/09/12-06:58:10 No:00006418[申告]
この子供達が見せたのは無垢な嗜虐性なんてもんじゃないな。
成長しても変わらない持って生まれた残虐性暴力性の現れ。
将来は糞蟲以下の堀の中の住人になるタイプ。
2 Re: Name:匿名石 2022/05/02-17:53:40 No:00006497[申告]
何度読んでも良い…
それにしても愛護派ババアの頭の残念さ・迂闊さときたらもう…ね
自分の飼い実装に何回逃げられてもまた同じことを繰り返す。その度にテチはより惨めになり、主人公の男に迷惑をかける。それでもなお愛護を気取る面の厚さよ!
ところでテチ&ポリアンナが脱走してから、追い詰められて川に嵌まるまでの過程が読みたい…と未だに思う
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