タイトル:【虐・馬】 ルリ
ファイル:ルリ.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:4956 レス数:2
初投稿日時:2006/09/25-20:52:09修正日時:2006/09/25-20:52:09
←戻る↓レスへ飛ぶ

ある日の夕方、とある実装石が一匹で歩いていた。
大通りからはずれているとはいえ、人のよく歩く道である。
特にスクールゾーンになっているその道は、この時間帯は下校途中の子供達に
面白半分に禿げ裸にされるかもしれないという危険もはらんでいる。
少し賢い野良実装なら、そんな危険な時間帯にふらふらと外を出歩いたりはしない。

ではこの実装石が馬鹿なのかというとそうではなく、人の言葉をリンガル無しでも
理解できるほど賢く、また分別のある実装石だった。

では、なぜそんな彼女が一匹でふらふらと歩いているのかというと——

「デェエエン…デェエエエン…ご主人様どこデスゥ…ご主人様どこデスゥ…」

彼女は泣きながら自分の主人を探し歩いていた。

彼女は飼い実装なのである。
名前はルリといい、お気に入りはご主人様からもらった瑠璃色のリボンと実装リンガルつきの首輪。
とあるペットショップでご主人様に見初められて、これまで平穏な生活を送ってきた。
彼女は先述のとおり賢く分別もある実装石であったので、ご主人様に迷惑をかけることもなく、
大変愛されて幸せに暮らしていた。

なので、今日のこの事態は、別段彼女に落ち度があったために捨てられたというものではない。
彼女はご主人様といつものように散歩に出かけていたのだが、はぐれてしまったのだ。
散歩の途中、草むらで鳴く虫に気を取られている間に、ご主人様の姿は見えなくなっていた。

「デェエエン…デェエエエン…怖いデスゥ…寂しいデスゥ…」

最初の頃は大きな声で鳴きながらあちこち探し歩いていたルリだったが、
しばらくするとその元気もなくなり、今ではトボトボと歩きながらさめざめと泣くだけになっていた。


ルリはご主人様に飼われるまでは、躾の厳しいブリーダーの許で
飼い実装のイロハを叩き込まれた高級なペット実装石だった。
また、ご主人様に飼われるようになっても、自分だけで外に出ることはなく、
外出は常にご主人様と一緒で、いわば箱入り娘のような状態だった。

そんなルリがブリーダーやご主人様から常々教えられていたことは、
『外には危険が一杯だから、絶対に一人で出歩いちゃいけない』という事。

その知識と薄暮という時間帯が、一層ルリを心細くさせていた。


「デェエエン……デ?」

歩きながら泣き声を上げていたルリは、目の前に公園があるのを見てふと立ち止まった。
公園の中には、ぽつりぽつりと野良実装の姿が見られた。

「お友達デスゥ!」

それまで一人ぼっちで寂しかったルリは、目にした同属の姿に思わずその傍に駆け寄ろうとした。
だが、そのときご主人様の声が脳裡によみがえってくる。

『野良実装石は飼い実装石を目の敵にしているから、決して近づいちゃいけないよ。
近づくと、服も髪の毛も毟られて、ボロボロになるまで殴られた挙句、食べられちゃうからね』

「デェ!?そ、そうだったデスゥ……野良実装石は怖いから近づいちゃ駄目だったデスゥ……」

思い直し、公園を後にしようとしたルリ。

「お前誰デスゥ?」

だが、その姿を見咎めた野良実装が一匹、公園の入り口でちょろちょろしているルリに近づきながらいう。

「見ない顔デスゥ。新入りデスゥ?」
「デ…デデェ……」

野良実装は好奇心からルリに近づいてきているだけだったが、ルリのほうは全身から嫌な汗を
噴き出させ、近づく野良実装の歩調に合わせて後ずさりする。

「変な奴デスゥ?」

そういって小首を傾げる野良実装。
その隙にそそくさと立ち去るルリ。
挙動不審な同属の後姿をぼうっと見送っていた野良実装だったが、
ルリが立ち去り際に何かを落としたのに気がついた。

「なんデスゥ?」

傍まで近寄ってみると、それは瑠璃色のリボンだった。
装飾物に興味の無かった野良実装は、それを片手にルリのことを追いかけ始める。

「待つデスゥ〜!落し物デスゥ〜!」
「デ!?デェエエエエ!?」

一方のルリはというと、背後から追いかけてくる野良実装に驚き全速力で駆ける。

「ワ、ワタシなんか美味しくないデスゥ〜!助けてデスゥ〜!」
「ちょっと待つデスゥ!何で逃げるデスゥ!」
「ご主人様ァ〜!ご主人様ァ〜!タスケデでズァアアア!!」

錯乱状態で逃げるルリ。
顔は涙と涎でぐちゃぐちゃになっており、もはや野良実装の呼ぶ声など聞こえてはいない。
何せこのままつかまればリンチの挙句に食われるんだと思っているのだから、
恐慌状態に陥るのも無理の無い話である。

しばらく追いかけっこを続けていた二匹だったが、さすがに野良の方が足が速いのか
スタミナがあったのか、徐々にその差が縮まってくる。
そしてあと少しで野良がルリに追いつくといったところで、

「デギャアアアアア!!」

と凄絶な悲鳴があたりにこだました。

その悲鳴にルリは腰を抜かしてその場にへたり込むと、恐る恐る後ろを振り返った。
みると背後の地面には緑色の染みが出来ており、野良実装の姿はなくなっていた。

「な、なんだか分からないけど助かったデスゥ……」

ほっと一息ついたルリ。
だが、野良実装の姿がない代わりに、黒い影が目の前にあった。

「デェ?」

顔を上げたルリの目の前には、逆光のためシルエットになっている人間の姿があった。
手には先ほどまでルリを追いかけていた野良実装が、下半身を潰された瀕死の状態で吊り下げられていた。

その姿は、ルリにブリーダーから教わったある教えを思い出させた。

『人間には虐待派というものがいて、実装石を虐め殺すことを目的に近づいてくるから
知らない人間には決して近づいちゃいけないよ』

一気に血の気の引くルリ。

虐待派に関しては、ご主人様からも何度も聞かされていた。

髪を毟ったり服を剥いだり、糞を食べさせられたり、ミキサーやシュレッダーという機械を使って
じわじわとなぶり殺しにされたり、子供を強制的に産まされたり、その子供を目の前で殺されたり……。

とにかく思い出しただけでも身の毛のよだつような怖いことをする人間。

「デギャアアアアアア!!デズアアアアア!!!」

大声で悲鳴を上げてまたまた駆け出したルリ。

今度は先ほどの比ではないほど取り乱して顔はぐしゃぐしゃ、躾られてからは漏らしたことのない
糞をブリブリと漏らしながら必死になって逃げ出すルリ。

「ご主人ザマァアア!ダスゲデズウウゥウウ!!タズケデデズアアアア!!」

気持ちばかり急いて、脚がもつれ何度もよろけながらも必死になって逃げる。
——捕まれば、死よりも恐ろしい地獄が待っている。
そんな思いが先行して、もはや前に進んでいるのかどうかさえルリには分からなくなっている。

そんなルリの脳裡には、激しい虐待を受ける自分の姿が浮かんでは消える。
腕をもがれ、足を折られ、髪を毟られ、目を潰され、蛆実装のような姿にされ、糞を食わされ、
仔実装を産まされ、子供達をミキサーで磨り潰され、それを食わされ、また、生まされ……。

「イヤデズウウ!!何でワダヂガこんな目に遭うんでズウウゥゥゥ!!」

それと同時にご主人様との幸せな日々が走馬灯のようにルリの脳裡によみがえる。

ペットショップで初めて頭を撫でてくれたときのこと。
初めて一緒にご飯を食べたときのこと。
おもちゃで一緒に遊んでくれたときのこと。
夜が怖くて泣いている自分が眠るまで添い寝してくれたときのこと。
誕生日に名前とお揃いの瑠璃色のリボンをプレゼントしてくれたときのこと。

「ご主人様ァアア!ご主人様ァアアア!助けデェエ!タスゲデデズウアアア!!」

妄想と思い出がごっちゃになり、何がなにやらわからない。

そんなルリの足元から地面の感覚が消えた。
滅茶苦茶に走っていたルリは、下り坂に気がつかないまま進入してしまっていたのだ。

「デエエエエエエッッッギャアアアアアァァァ!!」

絶叫とともに派手に坂道を転げ落ちるルリ。
なだらかで緩い坂道だが、ルリのような実装石にはまさに黄泉路への入り口。
打ち所が悪ければそのまま死にかねない程のローリングを体験した後、
ルリは時間を守らず捨てられたゴミ袋の山に突っ込んで何とか止まった。


「デ……デェェ……」

クッションとなったゴミ山のおかげで一命は取り留めたものの、その姿は悲惨なものだった。
全身を地面で擦り、右手と右足は転がり落ちる最中に骨折しており、頭巾は破れて耳が露出している。
パンパンに膨らんでいたパンツから溢れた汚物が全身に降りかかり、涙と涎で醜く歪んだ顔を更に汚した。

一見すると糞蟲と呼ばれても仕方がないような姿にルリはなっていた。

ほうほうの体でゴミ山から抜け出たルリは、全身を襲う痛みに必死に耐えながら、
転げ落ちてきた坂道を見遣る。

「い、いないデスゥ……虐待派は……いないデスゥ……?」

そして後ろから虐待派の人間が追いかけてこないことを確認するとようやくホッとする。

「た、助かったデ——」

そう呟きかけたルリの体が宙に浮いた。
両脇から抱えられ、宙吊りになったルリは恐る恐る振り返る。


「デェエエエエエエエエエェェェェェェェェ!!!」

そこには、逆光に染まる先ほどの人間の姿があった。
実装石にとっては必死の逃亡でも、人間にしてみれば一足飛びで追いつく距離。
いつのまにやらルリは追い越されていたのだった。



凄絶な悲鳴を上げたあと、ルリの体内からパキンという乾いた音が黄昏刻の路地に響いた。












「ルリ!ルリ!しっかりするんだ!ルリ!」

男は手の中でうな垂れる、糞にまみれボロボロになっている実装石に必死に呼びかけていた。
だが、その声に実装石ことルリが答えることは無かった。
恐怖のあまり偽石の自壊したルリは、既に事切れていた。






男はルリの飼い主だった。
いつものように後ろをピョコピョコついてきているものだとばかり思っていたルリの姿が
いつの間にか無いことに気がついた男は、必死になってルリを探した。
そしてようやく見つけたルリが野良実装に追いかけられているのを見て、
野良実装を退治したまではよかったのだが、
なぜかルリはそんな男の姿を見て悲鳴を上げて逃げ出してしまったのだった。

「なぜなんだ……ルリ……」

ルリの遺骸を抱きしめる男。



賢いがゆえに様々な状況を想像することの出来たルリ。
実装石は少しくらい馬鹿なほうが幸せになれるのかもしれない。



——おはり




--------------------------------------------------------------------------------------------
森のクマさんの歌を聴いていて、実装石ならこんな感じかな、と思って書き上げました。
楽しんでいただければ幸いです。
前作の老人と親子実装石に感想を下さった方、ありがとうございました。











■感想(またはスクの続き)を投稿する
名前:
コメント:
画像ファイル:
削除キー:スクの続きを追加
スパムチェック:スパム防止のため1379を入力してください
1 Re: Name:匿名石 2018/11/19-02:57:09 No:00005672[申告]
幸せな飼い実装の末路が糞まみれのパキン

実装石は野良も飼いも等しくこうでなきゃ
2 Re: Name:匿名石 2018/11/22-22:25:40 No:00005674[申告]
好奇心旺盛で注意力散漫な実装には引き綱やハーネスは必須
飼い主は手を放してはなりませんぞ

このたくましい想像力を散歩前に発揮して
はぐれないようにと気をつけることができないのが
実装石クオリティ

しかし、はぐれた挙句に野良化して、周辺地域および飼い主や販売元に
迷惑をかけずに死んだことは「よくやった」と褒めてあげたい
戻る