実装石保護センター10

ミミは動かなくなった。
モモはずっと手を握ったままだった。
それしかすることができなかった。
ほんの短い期間だったがよいお友達になれそうな気がしていた。
安らかなその顔を時間が許すまで見つめていた。
ニンゲンがやってきた。ミミが動かなくなった事に驚いた様子だった。
そしてニンゲンはミミとモモを剥がし、ミミほ箱の中に詰めてもっていってしまった。
ミミちゃん・・・・・・。
それがミミとモモとの別れとなった。
モモはしばらく何もせず、ぼーっとしていた。
仲の良い同族と死に別れるということがはじめてだったのだ。
飼い仔実装として生まれ育ち、程なくして公園に。
モモにとっての家族はスカーフをつけてくれて自分を飼ってくれたニンゲン。
「ミミちゃんママをさがしてたテチュ」
ミミの最後の姿を思い出す。
「ワタチもママに会いたいテチ」
モモの目からツーっと涙が伝った。

ミミが水槽からいなくなって数時間。
寝ているばかりの仔実装はワクチンの効果がでて快調となったようで起き上がって伸びをした。
「うーん。よく寝たテチ。やっぱり、よく寝ることは大切テチ」
水槽の中にいる仔実装二人。少し重苦しい。
思えばこの水槽に集められてから、モモはこの仔実装とまともに話したことはなかった。
「あの仔はどっかいっちゃったんテチ？」
モモが気を揉んでいると向こうから話しかけてきた。
「ミミちゃん動かなくなっちゃったテチ。ニンゲンサンが連れて行っちゃったテチ」
「きっと死んじゃったテチ。ビョウキに勝てなかったんテチ」
やれやれといった感じの仔実装。モモはソワソワする。
「あ、あのワタチはモモというテチ。よろしくおねがいしますテチ」
頭を下げる。二匹だけになったこの空間。親睦を深めておいて損はないと思った。
「お名前テチ？ワタチには特にそんなものはないんテチ」
また会話が止まる。この仔はマイペースすぎた。
だがモモの言わんとしてることを理解していた。
「プリン。プリンと呼ぶテチ。ワタチはプリンが好物なんテチ」
にっこりと笑った。意外と打ち解けるのでは？とモモは思った。
なぜプリンなのか。それは飼ってくれたニンゲンが餌でよくくれたから。
そんな話をプリンはモモにはしなかった。
「プリン美味しいかったテチ。また食べたいテチ」
ニコニコ笑ってるプリン。なにかの思い出話だろうか？
モモも飼われていた時いろんな物を食べさせてもらったなとその時の情景を思い出して少しほっこりした。
しばらくしてニンゲンがやってきて餌を置いていく。
前みたいに小分けにされておらず無造作にパラパラっと実装フードが撒かれた。
プリンは警戒しながら餌を手に取り、匂いを嗅ぎ、触った手を舐めて味を確かめる。
「このゴハンは大丈夫テチ。食べてもいいテチ」
そういうとモモに実装フードを差し出した。食べろということか。
促されてモモは実装フードを口につけた。
たしかになんの変哲もない知った通りのゴハン。
大丈夫そうだ。モモはそのまま食べ進めた。
しかしプリンは実装フードに手をつけずコテンと横になり寝てしまう。
「食べないんテチ？」
モモの呼びかけも答えず寝息を立てる。
配られた実装フードはある程度残された。
モモはよくいる実装石のようにそこにある分を全て食べてしまうような個体でもなければ、全て自分のものだと独占しようとするタイプの個体でもなかった。
寝ているプリンの近くに残ったゴハンを置いてモモもプリンの近くで横になった。
その日はそのまま何事もなくすぎていった。

モモが目覚めてプリンをみるとやっぱまだ寝ていた。
なぜこんなにいつも寝てるのだろう。昨日残したゴハンは少し減っていた。
モモの知らない間に起きて食べたのだろうか。
水槽の中は水の入った器とシートタイプの簡易トイレ。
それ以外には何もない。ニンゲンもほとんど来ないので変化も乏しい。
退屈が水槽を支配していた。
「プリンちゃん。起きてるテチ？」
ムクっと寝返りを打ち、モモの方をみるプリン。
「なにテチ？」
煩わしそうに応答するプリン。
「いつもなんでそんなに寝てるんテチ？」
なんだそんなことかとプリンは煩わしさを増す。
「当たり前テチ。余計な体力使わないためテチ。いつなにがあるかわからないんテチ」
「オマエとは仲良くしないテチ。なにがあるかわからないテチ」
言い放つとプリンは再び寝た。