～仔実装姉妹の夜～


その日仕事を終えた俺は駅から自宅アパートまで自転車を走らせる
残業で遅くなりこの時間ではスーパーマーケットも開いてないので
仕方なく公園近くのコンビニに立ち寄った

自転車を止めて店内へと一歩を踏み出す

「チベッ」

何やら変な声と共に靴の裏に違和感を覚えた

あーあやっちまった
地面と靴底にべったりこびりつく緑と赤のシミ
そう実装石だ
住宅街の一角にある小さな公園の向かい側にあるこのコンビニはたびたび実装石の被害に遭う
今の俺もそうだな

路面に靴底を擦りつけて店内に入り晩飯を買った

「蛆チャーン！イモウトチャーッ！」
「あのニンゲンがやったテチ許せないテチ」
2匹の仔実装がシミの周りで騒いでいる
コンビニを出て自転車に向かう俺を見つけて2匹が駆け寄った
どうやら仔実装だけのようだ。周りに親実装は見当たらない

仔実装2匹とさっき俺が踏みつぶした親指と蛆の姉妹だったらしい
姉らしき仔実装は頭がいいのか踏みつぶされないよう俺の靴の上に登ってなにやらテチテチ言ってる
妹実装は俺の足元で歯を剥きだしてわめいていた
面倒くさいがスマホのリンガルアプリを立ち上げる

「どうして蛆チャン達を殺したテチ？何にも悪い事してないテチーッ！」
足元で叫ぶ妹実装
一方、つま先に上った姉実装は落ち着いた声で
「ニンゲンさんお願いテチ。ワタチたち姉妹を飼ってほしいテチ」

「おいおい、なんでいきなり飼えって失礼じゃないか」

妹「そうテチ、こんなクソニンゲンに飼われたくないテチ」
叫ぶ妹実装に姉が一喝
姉「黙るテチィ！静かにできないなら1人で公園に帰れテチ」
ほほう。この姉実装なかなかの逸材のようだな

「で、なんで俺が飼わないといけない訳？」

姉「ニンゲンさんは蛆チャンたちを殺したテチ。その責任をとる必要があるテチ」

事故とはいえ確かに俺が踏みつぶした。しかしそれだけで飼えとはあまりにも無理がある
俺が実装石に無関心な人間か虐待派ならもう踏みつぶしていただろう
今まで実装石は飼った事ないが最近テレビなどでよく話題になるので気になっていた
いわばミーハーみたいなもんだ
一応今は別のペットと住んでてきちんと世話も躾もできている
この際この面白そうな個体を引き取ってやろう

「よし、じゃあお前は飼ってやる。そこの暴れてたのは公園行きだな」
姉「テ？本当テチ？飼ってくれるテチ？」
妹「テチャァァー！ワタチも飼ってほしいテチ！ニンゲンさん今までごめんなさいテチィ」
姉「ニンゲンさん妹ちゃも一緒に飼ってほしいテチ。ゴハンは私と半分こするテチ」
もうエサをきっちりと貰えるという考えになっている辺り賢いとはいえ実装石だな

「わかった。2匹とも連れて帰ってやる。ただし、うちには先住のペットがいる
　その子と仲良くしてほしい。お前たちがおとなしくしていたら手を出すことも襲うこともないだろう
　もう一つ、エサはペットと共用する、わかったな」

「はいテチ！」

コンビニからアパートまでは徒歩で2分程なので自転車の前かごに仔実装を入れ押して歩いて帰宅した
帰宅後、シャワーを浴びるついでに仔実装も洗う事にした
洗面器にお湯を貼りペット用シャンプーで体と髪の毛を洗ってやる

「お前たち、服と下着は自分で洗えよ」
そう言うと妹実装が
「オマエが洗え、このクソニンゲンが！」

ほほう。どうやら利口な姉に反して妹はかなりの糞蟲のようだ
これはうちでも長生きできそうにないな

デベシッ
デコピンを喰らわす
「服は自分で洗え」
「何を言うこのクソ」
デベシッ
このやり取りを10回ほど繰り返してようやく妹実装は自分で服を洗った
姉実装は何の文句もなくすぐに従った

さて、連れて帰ったはいいが実装石を飼うための道具がないな
とりあえずエサと水だな
プラスチック製の小皿2つに水とキャットフードをそれぞれ入れて2匹の前に差し出した
よほど空腹だったのか妹実装ががっつく
それに続いて姉実装も食べ始めた

素直に食ってくれてほっとしたが今まで草や木の皮や生ごみや虫を食っていた仔実装にとっては
キャットフードでもご馳走だろうしましてや食うや食わずで空腹だろうから素直に食って当然か。

食事が終わると次は寝床だが…
そんなものも当然無い
仕方ない、今夜はアイツのケージで一緒に寝てもらうか

俺は2匹の仔実装をペットのケージに入れた

変わった模様の茶色い毛皮にもたれかかった仔実装たち
妹「あったかいテチ」
姉「…これは何テチ？どこかで見たことあるような気がするテチ」

「じゃあタマ、今夜はそいつらと仲良く寝てくれよ」

糞蟲の妹はタマという単語に反応した
妹「タマ？それワタチの名前テチか？ゴシュジンサマありがとうテチぃ」
勘違いして喜びケージを走り回る妹。刹那、姉が叫ぶ！

姉「危ないテチっ!」

ニャー！バシンッ！

瞬間、猫パンチが走り回る妹実装の後頭部にヒットした
狭いケージの壁で跳ね返りタマの元に落ちる
パンコンしながらもぞもぞ動く妹実装。タマは興味を持ったのか左右の前脚で突っつきまくる
何とか立ち上がって走ろうとする妹、しかし走り出すと猫パンチが飛んでくる

アレはネコとかいうバケモノテチ。妹助けたいテチ。でも動くとワタチもやられるテチ

姉「妹ちゃ、じっとしてるテチ。動いたら余計におもちゃにされるテチー」

まだこの姉妹が公園の段ボールで暮らしていた時、親実装の留守中に野良猫に襲撃された事があり
妹実装は最初に猫パンチで段ボールの外に投げ出されて植え込みの上に落ち、蛆と親指は寝てて、そして姉は腰を抜かして
動けなくなりガタガタ震えていた。他の姉妹はそれぞれパンコンしながら走り回り順番に野良猫におもちゃにされて
殺されていった。姉はこの時にじっとしていれば大丈夫と学習したようだ

妹「無理テチー。怖いテチー」

デボッ！
バシンッ
デチャ

何度も何度も宙を舞いケージの壁や天井や屋根に打ち付けられる妹実装
髪の毛がちぎれ、服が破け糞が飛び散る
一瞬の惨状にあっけにとられていいた俺だが無意識に叫んだ

「タマやめろっ」

妹実装を咥えたままタマがこちらを見る
落ち着きを取り戻したタマが妹実装を咥えたままケージの2段目3段目へとジャンプして行った

ここでおとなしくしていれば助かるのにそれができないのが糞蟲の性なのか大きく勘違いした妹実装が叫ぶ

妹「やめろも何もワタチは何もしてないテチ。このバケモノが悪いテチぃ」

こいつまだ自分がタマと名付けられたと思ってやがる
救いようのない馬鹿だなと思った瞬間、タマが口を開けた
ケージの3段目の高さから落下する妹実装、高さにして約80cm小さな仔実装にとっては十分すぎる高さだ
ケージの床に叩きつけられてバウンドする妹
シミとなって消える事はなかったが幾度となく喰らった猫パンチで髪の毛と両腕が引きちぎられ右眼は爪で引っかかれてつぶれ
落下の衝撃で首があらぬ方向へ曲がっていた

それをよそ目にタマは3段目で前脚を舐め毛づくろいしていた
タマの姿が見えないのを確認した姉実装は瀕死の妹実装に駆け寄る

姉「大丈夫テチャ。まだ助かるテチ。ニンゲンさんに手当てしてもらうテチ。だから頑張るテチよ」

妹を気遣い寄り添う姉、いきなり大きな影が覆いかぶさった
利口な姉は所詮実装石レベルの賢さだ自分のアイレベルにタマが居ないのを確認して妹に駆け寄った
それを上からタマが見ていた
ちょこちょこと走る姉実装にタマは興味を抱きケージの3段目から飛び降りたのだった

でべぼっ

2匹の仔実装はケージの床にシミの花を咲かせた
猫とはいえ4kgほどの物体が高い所から仔実装めがけて飛んできたのである
仔実装にはひとたまりもない一撃だった

あーあ、やっぱり猫と実装石を同居させたのはまずかったか
とは言えタマにはいい遊び道具になるようだし明日また公園で仔実装拾ってこよう
ケージと部屋が汚れるのが難点だけど

了