タイトル:【観察】 新・実装小噺Ⅲ     山実装の災難
ファイル:小噺......3.txt
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初投稿日時:2019/06/14-17:13:57修正日時:2019/06/14-23:33:08
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     新・実装小噺Ⅲ         山実装の災難

 双葉市の南西に聳える「弐場ヶ岳」この山には沢山の山実装が住んで居る。
 双葉市は、この山に住む山実装の捕獲出来る期間を定めており、冬籠りが終わって秋仔が始末される時期と春仔が産まれて実装コロニーが、一時的に飽和状態になった時の2回だけだ。
 それ以外の時期に山実装狩りを行えば、罰金刑と禁固刑が科せられる。
 つまり、前科が付くのだ。皆、前科が付いて迄、山に登ろうとはしない。
 だから、この山は、毎年、一定の実装の生息数を保有している。

 季節は、春。
 春になれば、実装の出産の時期で、沢山の仔実装がこのコロニーにも産まれた。
1匹の成体実装から10匹〜20匹の仔実装が産まれて来るが、偶に蛆や親指も産まれる。
 殆どの猟師は、仔実装の肉を求めるが、通になると親指と出産直後の成体実装の肉は格別に美味いと言う者もいる。
 つまり親指も出産後の成体実装も栄養が足りない状態であるが、それ故生きる為に栄養を偽石に集めようとするので、その周辺の肉は、とても美味しい。
 更に量が少ないから希少価値が上がる。
 現に東京の料亭等は、そんな個体の肉は、普通の山仔の10倍から20倍の値段で買い取ってくれるのだ。

 ある山実装が、10匹の春仔(仔実装5匹、親指5匹)を産んだ。
 山から湧き出した綺麗な清流に囲いを作って、其処に産み落とす。
 親実装は、冷たい上に綺麗な水で1匹、1匹綺麗に体に付いている羊水を洗い流した。
 大体、春仔の産まれる時期は、同じなので清流のあちこちで「テチ!テチ!」「レチ!レチ!」と同族の仔実装、親指(=以降合わせて春仔)の賑やかな声が聞こえて来る。

「さあ!子供達おうちへ帰るデス!」
10匹の春仔を連れて親実装がおうちの方へ向かった。
 山実装達の出産する場所は、コロニー内だからと言って安心出来ない。町の野良実装同様に、第三者から襲われる事も多々あるからだ。

 しかしこの実装に限らず、初めて子供を産んだ者や注意力が、散漫な親の元に産まれた子供は可哀想なものである。
 例えば、木の上からハヤブサや鷲が、子供を狙っている。
 当然、狙うのは親指から、狙いを定めたハヤブサは、木の上から急降下、周囲の事に気を着けずにぼんやりと歩いている親指を「レ......レッチャァァァァ〜!」その強力な爪で掴んで空高く舞い上がってしまう。
「ワ......ワタシの子供......ワタシの子供を返すデスゥ〜!」そう言って一つの事だけに集中してしまう。
 それに気を取られて自分の事まで疎かになると、今度は、自分自身が宙に浮いている。
「デ、デスゥ〜!ワタシは、空を飛べるデス!凄いデス!」と言っていたら、何の事はない、今度は自分が鷲に掴まれて空高く連れ去られていたのだ。
 当然背中を鋭い爪で掴まれたら大怪我をしているのだが、連れ去られた子供の事と、自分か空を飛べる様になったという喜びと不安がごっちゃになり、更に興奮している事もあって痛い事すら解らない。
 気が付けば、目の前に鋭い木の枝が近づいて来て......。「デボッ!」突き刺されて、時間を掛けて体は解体されて鷲やハヤブサの雛の食糧になるのだ。
 実装の特性を本能で感じ取っている鳥達は、甘い樹液の出る様な所に突き刺す為、実装達は、偽石が割れるまで枝に突き刺さった痛みと体を引き裂かれる痛み、何時下に落下するかも知れない恐怖心で苦しみ続けるのだ。

 親をハヤブサに連れて行かれた産まれたばかりの春仔は、何をどうしたら良いか解らず当然混乱してしまう。
「テッチャーママァ〜!何処へ行ったテチィ〜!」
「レッチャ〜!ママが......ママが急に消えたテチ!」と大騒ぎをする。
 それは、今、自分達を保護している者が居ないと言う事を、周囲に教えているのと同じである。
 キツネ、猪、熊、等の天敵が、春仔達の周辺を取り囲む。
 キツネに噛みつかれる者、猪に押し潰される者、熊の鋭い爪で切り裂かれる者、そうやって次々に喰われてしまう。
 それ以外にも蛇、蜥蜴、蛙等の捕食動物の恰好の餌食になる者もいる。

 更に動物に襲われなくても、春仔達は、コロニーが一体どの方角か解らない。
 腹が減っても誰も餌を持って来てくれない。
「お腹空いたテチ!」
「食べる物無いテチィ〜!」と騒いでいたら......。
「何かいい匂いがするテチ!」
「本当、美味しそうなニオイテチ!」
「行くレチ!美味しい匂いの所に行くレチ!」
 春仔達は、良い匂いのする植物の所に来た。
「此処から良い匂いがするテチ!」
「いただきまぁ〜すテチ!」
 春仔達は、美味しそうな匂いのする植物の汁を吸いだした。
「甘いテチ!美味しいテチ!」
 そんな事を言っていると上から、棘の着いた蓋の様な物が覆い被さった。
「と......閉じ込められたテチ!助けてぇ〜!」
 食虫植物のジッソウカズラに捕まってしまったのだ。
 ジッソウカズラは、消化液を出して春仔達を溶かし始めた。
「痛い!あんよが、オテテが、焼ける様に痛いテチィ〜!」
 ジッソウカズラの中で春仔達がもがき苦しむが、自分達の上に覆い被さる蓋はびくともしない。
 その内、上の蓋からも消化液を出して上下から攻撃して来る。
「た......助け......」
 捕まえられた春仔達の悲鳴が、段々小さくなってその内聞こえなくなってしまった。
 歩くのが遅い親指等は、難を免れたが、自分達の目の前で姉達が殺されて行く。
「お......お姉チャ!」
 自分の目の前で、姉が食い殺されたのを見た親指達は≪パキン!≫X3、ショックで偽石を割ってしまいその場に倒れて死んでしまった。

 幸いにして、先述のこの一家は無事に巣に辿り着く事が出来た。
 親は、コロニーの長老達の所に産まれた子供を連れて行って紹介する。
「長老!今日ワタシは、こうやって10匹の子供を授かりましたデス!」
「うん、うん良い仔達デス、元気にすくすく育ってこの将来コロニーを盛り立てて行ってくれデス」
「テチャ!(解ったテチ!)」
「レチ!(一生懸命頑張るレチ!)」
 そう言って元気な挨拶をして巣に戻っていった。

 何日か経って、山実装の生態にとても詳しい3人の猟師が、実装達のコロニーに入ってきた。
 この道何十年のベテランだから、野生動物達の様に実装達に気付かれない様にこっそり入る事など簡単な事だ。
 3人の内の一人がコロニーを見渡して、「此処には大体300匹位いるな、早速罠を仕掛けよう」
「今日の目標捕獲数は、大体80だな、それじゃぁ〜やるかぁ」

 猟師達は、実装達の逃げ道になりそうな場所に網罠、実装用のトラばさみを設置した。
 猟師達は自分には無害な、水を使って煙を出す発煙筒の様な物をコロニーの周辺にばら撒いた。
 ≪シュー≫発煙筒から勢いよく煙が出て周囲は煙が、充満した。
「さあ!やるぞ」そう言って、煙の中でも良く見える特殊なゴーグルを装着した。
 実装達は「ケホ!ケホ!」「苦しい!苦しい!」「何も見えないデス!」と大混乱。
 猟師達は、逃げ惑う実装達を、次々に罠に追い込んで行った。
 当然、親指や産まれたばかりの春仔を連れている実装を中心に罠に追い込んでいった。
 ある者は、トラばさみに足を切られ、ある者は網に捕まって見動きが取れなくなる。
 僅、30分で予定数量の80匹を確保した。
 余り多く捕獲しても種の絶滅になるので、絶対数以上は生かして置くのだ。

 煙を吸って気を失っている実装を清流に連れて行き、水に浸けて偽石を取り、腹を切り裂き内臓を捨てる。
 基本偽石が割れなければ、内臓を失っても実装は生きている。
 取った偽石はユンケル皇帝液に漬けて置けば、割れる事はない。

 約1時間かけて、実装達の内臓を綺麗に取った猟師はクーラーボックスに、春仔や出産直後の成体を入れて「今日は大漁にとれたなぁ〜!」3人は笑顔で下山した。

 其れとは、対照的に今朝、子供を産んだばかりの実装も例外ではない。折角産んだ春仔を根こそぎ持って行かれたのだ。
「 どうして......どうしてデス!こんな酷い目にあうデス!納得がいかないデス!ワタシがニンゲンにどんな迷惑を掛けたデス!」
 と泣いたが、連れ去られた仔はもう帰って来ない。

「ママァ〜!何処に......何処に行ったテチ!」自分は難を逃れても親を連れ去れた春仔や生活能力の無い仔実装達は、どうやって生きるのだろう。

 その日の夕方、神楽坂の料亭に【生きが良い山実装と春仔大漁入荷しました】の張り紙が貼られた。
「社長今日は、この料亭を押えました。美味しい山実装を御馳走しますよ」
「おおっ!いいねぇ〜!」

「大臣今日は、新鮮な春仔が入荷したと、連絡がありました。久しぶりに春仔の刺身でも如何ですか!」
「有難う、それじゃぁ〜!私の派閥の役員達にも連絡をして置いてくれ!」

「亜季子、今日は俺達の結婚10周年記念日だ!山実装と春仔を御馳走するよ」
「あきとし、有難う高価な物食べられるのね。子供達も行く準備をさせるわ!楽しみね!」

 FIN





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1 Re: Name:匿名石 2019/06/14-21:13:13 No:00006019[申告]
生きたまま内臓を抜かれる山実装の様子を想像するのが楽しい。
というかそういう描写も書いてほしいです。
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