『(仮)双葉町虐待師列伝——天災虐待師フタバトシアキの休日——』 自称美食家のトシアキが、昼食に選んだのはイタリア料理店だった。 「ゴローさんの言っていた店はここか……」 道案内させた実装に礼を言うと、トシアキはお礼のコンペイトウを手渡した。 「ニンゲンサン、ありがとうデス」 「ん、ありがとう。ここまで来れば大丈夫。案内は終わってもいいぞ」 蟲は笑った。テッチューンと汚い鳴き声を上げる。 「どうせなら店の中まで案内するデスゥ」 食事をたかろうとする魂胆に、トシアキは笑顔で返した。 「言っただろう。『終わってもいいぞ』って」 と、実装の頭に手を載せる。 トシアキ流虐待術・偽石崩壊掌! インパクトの瞬間、独自のリズムで音叉に似た衝撃を実装の体内に流し込む。 「ホジィ!」 実装の醜い顔が、おぞましく歪んだ。 目、鼻、耳、あらゆる穴から体液が噴き出る。 「デ、デア、デチュアァ」 ゾンビのように両手を突き出し、国道へと逃げる実装。 「偽石が粉砕するのが先か、車に轢かれるのが先か……。ともあれ死は免れん。これも虐待師の宿命。許せ」 片手を垂直に立てて蟲の冥福を祈るや、トシアキは周囲を見渡した。 この双葉町では、許可のない虐待や虐殺は禁止されている。目撃者がいないか、慎重に確認する。 電柱の影に、「チププププ」と啼く禿裸がいた。 周囲に人がいないことを確認すると、トシアキは指弾を放った。弾はコンペイトウ。凹凸のある表面は爪の力を溜めるのに適した形状をしている。極限までしならせた指のバネではじき出されたコンペイトウは、一直線に禿裸に向かった。 ズムッ! 禿裸の額に、第三の目ができた。 悲鳴はない。指弾の一撃で仮死させたのだ。 コロリの塗られたコンペイトウに、耳障りな断末魔は相応しくない。 沈黙のうちに禿裸を始末すると、トシアキはイタリア料理店に向かった。 「虐待というのは、人目を気にせず、ゆっくりと……」 愚痴りながら、ありふれた外装の店に入る。 頭上に架された梁材と、漆喰の壁。地中海風の建築様式というやつだろうか、実装料理を出すにしては小洒落ていた。 席につき、ランチコースを注文する。 ウェイターがワインの入ったデキャンタと、アクリル製の筒に入った親指実装を置いていく。 スプーンやフォークの類がなく、ワインオープナーが添えられているだけ。 「グラスがないとワインが飲めないじゃないか……」 トシアキが固まっていると、何事かと女性ウェイターが駆けつける。 「お客様、当店は初めてですか?」 「はい、実装料理の店は何度か行ったことはあるのですが……」 恥辱であった。 かつて、裏社会にこの人ありと謳われた天災虐待師トシアキ。意味のない虐待が法に触れる昨今、彼の居場所はない。 それもこれもジソ友学園という、愛護を掲げるイカれた学校が認可されてからだ……。 理由はともあれ、トシアキにとって耐え難い屈辱だった。 しかし、それも一瞬。 「当店は、独自のスタイルをとっていまして————」 と、女性ウェイターは慣れた調子で説明する。 この店はセルフ調理という特殊な事情を逆手に取り、虐待を合法的に行える店だった。虐待派コース、観察派コース、虐殺派コースとメニューは豊富だ。トシアキが注文したのは、虐殺派コースなのでサクッと実装を〆るらしい。 「すいません、ところでどうやって食べるんですか、コレ?」 アクリルの筒に刺さった親指を指さす。 「こうやって……」 女性ウェイターは、親指の頭にワインオープナーをあてがうと、躊躇うことなく脳天にスクリューを突き立てた。 「レジッ!」 暴れる親指。 蟲の声を無視して、女性ウェイターは手首を捻る。 「レッ、ジッ……、ジィィ!」 アクリルの筒を叩く手足が、のっぺりと広がった。もがき苦しむさまが、透明のアクリルを通してよく見える。 トシアキの口元がほころぶ。 ある程度スクリューを入れると、 「脳ミソはおつまみ《ストゥッツィキーノ》になっております。軽く岩塩をかけてお召し上がりください」 脳天にスクリューの突き立った親指をテーブルに戻す。 「パキン、しないんですか?」 「偽石は別途保管しています。次の料理をご所望のときに、そちらにあるコロリを塗った針でお刺しください。偽石が割れ次第、次の料理をお持ちします」 女性ウェイターは、にこりと微笑み、仕事にもどっていった。 「なるほど。パキンが次の料理を出す合図になるんだな」 面白いことを考えつくものだ。画期的なシステムに、トシアキは感心した。親指の頭にあるワインオープナーぐりぐり捻りながら、感慨深げにデキャンタを眺める。 「あっ、そういえばグラス!」 手近なウェイターを呼ぼうと、手を上げようとした矢先、トシアキの視界に思わぬ光景が飛び込んできた。 脳ミソを引っこ抜いた親指をグラスに見立て、客がワインを注いでいるのだ。 「なるほど。かつて信長公は浅井長政の髑髏杯で酒を飲んだというが、この店ではジソを…………」 食べ方がわかると、トシアキはさっそく実行に移した。 とはいえ彼は虐待派は、オープナーで脳ミソを持ち上げたり、下ろしたりを繰り返す。そうやって一通り親指をいじめから、オープナーを引き抜く。一気にではない、じわじわゆっくりと。 「レーッ! ジィィィィィ!」 ブリブリッ、ブリブリッ。 威嚇面でパンコンし、絶叫を打ち消す。 スプーンひとすくいもない脳ミソを抜き取る頃には、親指の目は濁っていた。 「さすがにパキンしたか……」 ミソをつまみに、ワインを飲む。 「ンマイ! いいジソを使っている」 親指の頭にワインを注ぐたびに、穴という穴から赤い液が垂れる。 風情のある趣に、トシアキは大満足だ。 テーブルに次の料理が運ばれてくる。前菜《アンティパスト》だ。 生ハムに包まれた蛆は、髪とお包みを奪われているのにニコニコしていた。温野菜を抱きまくらのようにして、レフンと鳴いている。 かなりのアゲのテクニックだ。 一瞬、トシアキのこめかみがビキビキした。 「グラスをお変えしましょうか?」 ウェイターが、虐待者特有の笑顔を浮かべる。 二人の目があった。 数拍の間を置いて、 「ワンサイズ上のグラスをお願いします」 「わかりました。仔実装グラス追加ですね。ちなみに虐待用でしょうか、それとも虐殺用でしょうか」 「一番タフなやつで」 「かしこまりました」 たったこれだけのやり取りで、二人は虐待派だと認識しあった。 トシアキは仔実装グラスのミソ抜きに、うきうきし、うっかり蛆ちゃんを平らげてしまった。 「ちくしょう! 下半身から齧る予定だったのにぃ!」 それから食事は進み、中実装の踊り焼きを平らげた。 味もさることながら、趣向を凝らした演出は客を飽きさせない。 たった一度のランチで、トシアキはこの店に魅了された。 「当店のドルチェは人気なんですよ」 またしても女性ウェイターが出てきた。 ドライアイスの板の上、フルーツを木べらで潰しながら、ミルクやはちみつを混ぜている。 なかなか美味そうだ。 トシアキは上唇を舐めた。 しかし———— 「実装石はどこで投入するんですか?」 「このメニューには実装は使ってません。その代わり」 女性ウェイターは、空になったグラス(仔実装の死体)を手に取るや、それを液体窒素の中に放り込んだ。 「こうやって使うんですよ」 カチカチ凍った仔実装の死体(の空っぽになった頭)——冷えた器に作りたてのジェラートを盛りつける。押さえつけられ行き場を失ったジェラートが目、鼻、口からもりもり漏れる。 「へー」 それなりに面白い演出だったが、トシアキの虐待心は満たされない。 釈然としない面持ちでいると、虐待派のウェイターがやってきた。 「君、こちらのお客様はね」 ウェイターの小言が続いた。 その後、ウェイターは申し訳なさそうに新たな仔実装を出した。〈おあいそ〉をする禿裸だ。 「お客様、これは私からのサービスです」 禿裸をヨーグルトに浸してから、ドライアイスの板に乗せる。 「ジィッ! クソ人間、なにするデチ!」 禿裸が醜悪に啼く。 分かっているじゃないか! トシアキは双眸を爛々と輝かせ、女性ウェイターから木べらを奪った。 「ふん!」 ドライアイスの板に禿裸を押し付けるようなことはしない。縦にした木べらで脳天をぶっ叩く。 トシアキ流虐待術、仮死の作法! 「ホジッ!」 禿裸が、噛み切った舌を飛ばす。 「お見事!」 叩き潰すでも、撲殺するでもない仮死の妙技に、男性ウェイターが拍手を送った。 「まだまだ! 仮死している暇はないぞっ!」 仰向けに寝そべる禿裸を強引に起こす。 ドライアイスに貼りついた背面が、ベリッと裂けた。 とたんに蟲は目を剥いた。 「デェ、エェェェ!」 色付き涙を流し、七転八倒する禿裸。 トシアキは恍惚の笑みを浮かべた。 責めは続く。 ヨーグルトを前面に塗りたくり、ドライアイスに押し当てる。 「テギャァァァ————————…………」 途中で悲鳴がとまった。顔の皮膚がドライアイスに貼り付いてしゃべれないのだ。 はちみつやレモン、さまざまなフレーバーに浸し、つけては剥がしを繰り返す。 「デヒッ、デヒュッ、……チプププッ!」 アマアマをつけては剥がすの連続。途切れることのない虐待に、禿裸は壊れてしまった。 「チッ、もう少し楽しめると思ってたんだがなぁ……」 体組織を剥がされ続け、やせ細った禿裸を持ち上げるや、トシアキは頭を噛み砕いた。 ペッと吐き捨て、ドライアイスに堆積した実装ジェラートを捏ねる。その際も、実装の細胞をいじめることを忘れない。 実装道とは、これ虐待なり! 細胞の最後の一片まで磨り潰すつもりで、トシアキはジェラートをこねた。 「旨味が足りないな……落とし方がまずかったか……」 反省するトシアキに、ウェイターは言った。 「よければ当店で、落とし専門の仕事をしませんか?」 「俺が……ですか?」 躊躇うトシアキに、女性ウェイターも勧誘の言葉を投げかける。 「素晴らしい虐待術の数々。さぞや名のある虐待師なんでしょうね」 「トシアキ。フタバ、トシアキ。ただの派遣社員ですよ」 「トシアキ……素敵な名前。今度、二人でボランティア(実装石の一斉駆除)に参加しない?」 女性ウェイターが、胴体をにぎったAランク仔実装を差し出す。 「冗談はよしてくれ、虐待からは足を洗った。いまは気が向いた時、ムッキーくん(トゲのついた皮むき手袋)で野良実装を愛でるくらいさ」 押しつけられる仔実装の頭に、トシアキは指突をめり込ませた。 トシアキ流虐待術、秘技・白痴返し(はくちがえし)! 「ホジッ!」 仔実装の耳からミソが迸る! それ以外の穴という穴からは色付き水が噴いた。オッドアイが盛り上がる。 指を引き抜くと、仔実装にデコピンを食らわせた。 耳から垂れているミソが飛散し、盛り上がったオッドアイが眼孔に戻る。 「テヒッ、テヒヒヒッ」 蟲が、実装らしからぬ声をあげた。 知性を奪われた蟲は立つこともままならず、だらりと舌を垂らしたまま、なにもない中空を見つめている。 ちりぃ仔実装を殺さずに巣に返す。それが白痴返し! 生かさず殺さず苦しめる、実装家族の内部崩壊を誘発させる究極の秘技に、女性ウェイターはうっとりした。 「素敵。よければこのあとどう? 一杯おごるわ」 「それは魅力的な申し出だな」 〈終劇〉
1 Re: Name:匿名石 2018/08/17-17:04:09 No:00005558[申告] |
虐食同源 |
2 Re: Name:匿名石 2018/08/20-14:37:42 No:00005574[申告] |
>女性ウェイター
それ、ウエイトレスやろが |
3 Re: Name:匿名石 2018/08/21-11:30:37 No:00005575[申告] |
調理が虐待になるのはよく見るけどこれは虐待が調理になる感じで少し珍しいか
虐待だけでなく料理の描写も有り文章も読みやすくナイスな読後感 |