1 最初は子供たちの些細な悪戯だった。 「テチャ! テチャ!」 「大人しくしてろよ」 身体をしっかり片手で押さえられ、背中に実装ペタリを塗りたくられる仔実装。 少年は十分に塗ったと思ったところで実装ペタリをもう一人の少年に渡した。 「いくぞ……よっと!」 しゃがんで勢いをつけ、ジャンプする。 少年の横にあるのは電柱。その最高地点に置いてくるように仔実装を貼り付けた。 「しゃあ!」 「テチャーッ! テッチャーッ!」 三メートル近い高さにくっつけられた仔実装は恐怖に身もだえ泣き叫ぶ。 しかし当然ながら少年は感心を払わない。 「ほら、どうよ?」 「いや、俺の方がスゲーし。見てろよ」 もう一人の少年も同じように別の仔実装を掴み、実装ペタリを塗る。 そしてジャンプし、やはり電柱に貼り付ける。 頭ひとつ分ほど後者の少年の貼り付けた仔実装の方が高かった。 「オレのかちー」 「ふざけんな。もう一回だ、もう一回」 少年たちは次の『弾』を探しに公園に向かう。 「テッチャーッ! テチャーッ!」 「テチャテチャーッ!?」 手を伸ばしてもギリギリ触れあえない位置に放置された仔実装二匹。 姉妹なのだろうか、必死にお互いの方を向きながら叫びあっていた。 しかし、彼女たちを助けに少年たちが戻ってくることは二度となかった。 近所の実装ショップでバイトが発注をしくじった。 誤って1000個も実装ペタリは店頭で捨て値で販売され、それに近所の小学生のガキ大将が目をつけた。 面白そうな事があれば何でも遊びにしてしまう小学生たち。 彼らの中で、「実装石高所貼り付け遊び」はちょっとしたブームとなった。 「へい、オレ新記録ーっ」 「おまえズッケーぞ。いま投げただろ」 「投げちゃダメってルールはねーし」 「じゃオレも! ……あ、やべはずれた」 「ヂベッ」 小学校の近くの電柱には何匹もの仔実装が磔刑に処された。 だがブームはわずか三日で終息することになる。 「お前らいい加減にしろっ!」 ご近所からのクレームを受け、熱血教師がガキ大将を見せしめに投げ飛ばしたことでこの遊びは強制的に終了させられた。 子どもたちにとっても所詮は一過性のブーム。 怖い先生に逆らってまで続けようと思う者は誰もいなかった。 しかし。 「キヘヘヘヘェ……ウリャッハァ!」 「テッチャァァァァッ!?」 一人のモヒカンがベタベタに実装ペタリを塗りたくった仔実装を投げる。 それは見事に三階建てビルの看板に張り付いた。 「テチャーッ! テチャーッ!」 「ウエヘヘ。良い眺めだぁな、ざまあねえぜ糞蟲が!」 「おーい、向こうで誰が最初に街灯にくっつけられるかやるってよー」 「けっ、いつもうちの前に路駐してるムカつくベ○ツのホイールにくっつけてやったぜ!」 悪い子どもたちの悪ふざけ、ダメな大人がマネをした。 単なる虐待に飽きた虐待派たち。 彼らは子どもたちと違ってちゃんと『その後』まで想像している。 実装石が本能的に恐怖を感じる高さで放置され、身動きもとれないまま飢えて死んでいく。 その様をせせら笑いながら観察して楽しむのだ。 もとい、まともに観察されることはほとんどない。 「ほらほら、避けねえと死ぬぜー! って固定されてるから避けれねーかアハハハハ!」 「テチャー! テッチャーッ!」 高所に固定された仔実装に向けて石を投げる。 動けない仔実装は迫る恐怖に脱糞しながら必死の懇願をするだけだ。 男の持っているリンガルには悲痛な命乞いの文字が刻まれていく。 無論、男にとっては快感を増すだけの影響しか与えない。 「よぁっと!」 「テッチャアァァァーッ!」 「惜しい! もう少し右! ……オラァっ!」 「テチャーァッ! テチャ、テェ——ヂベッ」 「ストライィィィィィクッ! ヒャァッハーッ!」 街中の至る所に無残な姿になった仔実装の残骸が放置された。 あるいは生きたまま糞を垂れ流し悪臭をまき散らすものもいる。 虐待派にとっては楽しみの跡。 実装石にとっては恐怖の印。 そして大多数の無関心派にとっては、様々な意味で害悪でしかなかった。 「ちょっと。あの実装石の死骸、どうにかならないのかしら……」 「言っても無駄よ。頭のおかしい人たちがやってるんだから、下手に文句を言ったら何されるか……」 「はあ、また朝からグロ死体処理か……」 「おっきょーっ! むっきょーっ!」 実装石を害虫くらいにしか思ってない一般の人たちは強制的にグロ死体を見せられることに辟易している。 保健所職員は朝から晩までやりたくもない仕事でフル稼働。 実装石をペットとして飼っている愛護派の中には発狂寸前になる者もいた。 「ヒャッハー! もっと糞蟲共を貼り付けるぜーっ!」 ペタリを使った磔刑からの虐待は突発的だが、普通の虐待に飽いていた虐待派たちにとって強烈なブームになった。 すでに引退していた虐待派たちも多く復帰し集団心理もあって街は実装石たちの凄惨な処刑場と化した。 だが、そんな虐待派たちを裁く法律は存在しない。 いくら迷惑をかけようとも、彼らを掣肘するような者は誰もいないのだ。 いや、いなかった。 あの日が来るまでは。 2 実装石虐待ブームが再燃し、双葉市内では何人もの虐待派が我が物顔で街を練り歩いた。 先日の『実翔石事件』の影響もあり、進んで同種の害虫を駆除してくれる彼らを掣肘できない雰囲気が醸成されていたのも要因のひとつである。 同事件の時に結成された『虐待連合』は、実に100人を越える大規模な虐待グループとなって街中の実装石を駆逐すべく日々活動を繰り広げていた。 彼らの活動は苛烈を極め、道端に実装石の死体が転がるのを見ない日はないという有様であった。 この日の夜もまた、10人ほどの連合メンバーたちが双葉市郊外のイ○ンの駐車場に集まっていた。 「オラァ! テメェら気合い入れて行けよォ!」 『ウィーッス!』 「今日は第四公園から山狩りに向かうからなァ! 途中で関係ない傷害事件起こしてマッポに掴まるんじゃねえぞォ!」 『ウィーッス!』 改造された厳ついバイクに跨がった、棘付き肩パットにモヒカンヘアの集団。 ともすれば凶器準備集合罪や集団危険行為と取られかねない装いであるが、ことが実装石虐待であるだけに警察も目こぼしをせざるを得なかった。 しばしの談笑の後、いよいよ出ッ発の時間になった時。 「夜中にいつまでも騒いでるんじゃないザマス」 1人の闖入者が颯爽と現れた。 その者は紫色の衣を身に纏い、丸くまとめた髪を頭の後ろで団子状に結び、三角定規のようなメガネをかけていた。 「アァ!? なんでテメェはァ!?」 「おい、知ってるぜコイツ! 有名な実装石愛護派の市議会議員だぜ!」 「はっはぁ! 愛護派が虐待連合南支部の集会に何の用だァ!?」 「俺らぁいま殺気立ってるからよぉ! もしつまらねえ説教するってんならテメエからやっちまうぜヒャッハー!」 虐待派おきまりの掛け声を叫んだ一人のモヒカン。 紫色の闖入者は彼に鋭い視線を向けた。 「そのセリフ」 「あ?」 「私が若い頃に流行ったテレビマンガの雑魚キャラのセリフザマスね」 「あぁ!?」 「つまりうぬは、私に屠殺される役ザマス」 「テメェ、ケンカ売って——ぼぐっ!?」 直後、男の巨体が音を立ててバイク事倒された。 「ひっ……!?」 倒れた男の姿を見て隣のモヒカンが短い悲鳴を上げた。 彼の顔は小さな拳の形にへこんでいた。 「てっ、テメ……がぁっ!?」 紫色が、動いた。 支部のリーダーの男の首を掴み、その身体を持ち上げる。 「が……や、やめ……」 ボキリ。 鈍い音がして、支部リーダーの腕がだらりと垂れ下がる。 「次は……誰ザマス?」 「こ、こいつっ!」 「糞ババア、マジでやる気かァ!」 「上等だ! ボコボコにしてやんぜェ!」 男たちが一斉に紫色へと襲いかかった。 一〇分後。 イ○ンの駐車場には男たちの死骸が折り重なっていた。 そのほとんどが元の顔がわからないほど徹底的にボコボコにされている。 「秘書」 「は、村咲様」 紫色の殺戮者は、影のように現れた忍に命令を下す。 「警察への手回しと明日のワイドショーの準備は整っているザマスね?」 「はっ。もちろんです」 「結構ザマス」 紫色……村咲議員は満足そうに頷いた。 「虐待派の腐れ外道共……うぬめらはやり過ぎたザマス。この私がいい加減に目を覚まさせてやるザマス……!」 瞳に炎を燃やし、月夜を睨み付ける村咲議員。 この日、怒りに燃える復讐者がついに立ち上がったのだ。 3 『だからですね、いくら罪に触れないと言っても動物虐待なんて見過ごしちゃいけないわけですよ 子供がアリやカエルを踏みつぶすのとは訳が違うんです。いい歳した大人がいたずらに命を奪うのを肯定していいのかって話ですよ』 『しかし、このような事件は極めて稀なことで、実装石虐待が即座に残虐性の発露に繋がるかと言えば……』 『あなたね! 何言ってるんですか! 実際にこうして殺し合いにまで発展してるんですよ! これが人間の子供に向いてからじゃ遅いんです! あれはもうまともな人間の精神を保ってないんですよ! 実装石虐待をしてるやつらは!』 ワイドショーで一方的にまくし立てる『自称・犯罪研究心理学者』の話を、村咲議員は満足げに頷いきながら聞いていた。 「彼は上手くやってくれているザマスね」 「コメンテーターで食ってるやつなんて金さえ握らせればこんなものですよ」 「これで間違いなく世論は虐待派の否定に繋がるザマス」 テレビのテロップには『実装石虐待派による殺人事件! 動物虐待が育てた心の闇!』とおどろおどろしい字体で書かれている。 昨日の駐車場での一見、表向きは虐待連合が仲間割れをし内輪で殺し合ったということになった。 大企業のCEOにして一流の科学者である愛人を持ち、自身も市議会議員という権力と財力を持った村咲議員がそうなるように仕向けたのである。 実際のところ、警察にとっても白昼堂々と暴力行為に及ぶ虐待連合は犯罪者予備軍として見なされていた。 互いの利益が一致した結果、手を組んで事実を覆い隠すことになったのだ。 「今後の予定はどうなってるザマス?」 「某局にスポンサーを通じて特番で『実録・虐待派の残虐さのすべて』を放送させるよう命じました。一度虐待派を叩く流れができれば他局も追従するかと」 あの局の大手スポンサーは村咲の愛人が筆頭株主を務める企業だ。 世論など金の力があれば簡単に形成できる。 「良いザマス。うぬは引き続き諜報活動に励むザマス。ネット対策も万全にしておくザマス」 「はっ」 秘書は一礼すると煙のように姿を消し、後にはブランデーを傾けながらほくそ笑む村咲の姿が残った。 4 【ギャクカスをこの世から消す方法について語り合うスレ】 1 ななしあき ▼ New! 2016/11/28(月) あいつらマジで有害だから駆逐しようぜ 2 ななしあき ▼ New! 2016/11/28(月) つーか昨今の虐待派叩きの風潮って異常じゃね? 3 ななしあき ▼ New! 2016/11/28(月) >>2 ギャクカス乙 4 ななしあき ▼ New! 2016/11/28(月) >>2 犯罪者予備軍キター! 5 ななしあき ▼ New! 2016/11/28(月) >>2 ギャクカスがまた…… 6 ななしあき ▼ New! 2016/11/28(月) >>2 ▲ ▲ (○ △ ●)<ギャクカスは死ねデスゥ 7 ななしあき ▼ New! 2016/11/28(月) ギャクカスがいい歳して友だちもいない寂しい中年童貞ってマジ? 8 ななしあき ▼ New! 2016/11/28(月) >>7 マジらしいぞ。統計でそうなってるってデータがある 「……くそっ、工作員共が!」 モヒカンが怒り任せにキーボードを叩きつける。 某掲示板では完全に虐待派を嫌う風潮が出来上がっていた。 彼女が雇ったネット工作員たちはその仕事を十全に発揮している。 ネット上ではいつの間にか虐待派の蔑称として『ギャクカス』という単語が定着し、自演ではあるがマスコミや言論人も追従するようになった。 たとえ虐待派に肯定的な意見をかき込んでも即座に数にモノを言わせて叩き潰されれる。 煽り合いになればこれまた息のかかった管理人によって一方的にアクセス規制されてしまう。 いつしか流れは大きくなり、気付けば工作員以外の「流されやすい匿名者」たちも積極的に虐待派を叩くようになっていた。 5 「いまこそ『実装ちゃん愛護法案』を成立させるザマス!」 久しぶりに市議会に参加した村咲は、壇上で声高に宣言した。 議員たちの中には呆れたような空気と「またか……」と明らかに面倒くさがる雰囲気が流れた。 彼女が実装石愛護派であることは誰もが承知している。 ことある事に同法案を成立させようとしているのだ。 確かに昨今では虐待派と呼ばれる人たちを嫌う風潮ができたが、別に実装石を愛護すべきという空気になったわけでもない。 「村咲議員。その話は先日も申し上げたとおり……」 「シチョウ! シチョウ! シチョウ! そもそもアナタはなぜまだそこにいるザマス! 市民強制退去の責任はいつになったら取るつもりザマス!?」 「ぐっ……」 先日の実翔石駆除のために一時的に双葉市民たちが市外に移動させられた件のことである。 ひとつの街から人間がいなくなるという大災害規模の避難であった。 あの一件で双葉市内の産業は大幅に停滞し、中にはそのまま市外に流出する市民もいた。 ちなみに元を正せば実翔石の大量発生の原因は村咲議員なのだが、それを知る者はほとんどいない。 実際のところ、市長は責任を取って辞任すると申し出たのだが、代わりをやりたがる人間がいないということでそのまま慰留された。 体のいい押しつけとも言う。村咲議員の暴力的なヤジに心折れずにいられるのは彼くらいしかいない。 「……わかりました。来月、決議を取ります」 「それでいいザマス」 どうせ今回も否決されるさ。 何度も繰り返されるがそのたびにひねり潰せばいい。 この時、市長はそんな風に楽観的に考えていたが、すぐにその判断を公開することになる。 6 「青き清浄なる双葉市のために、この世から虐待派を駆逐するザマス!」 『おーっ!』 村咲が掛け声をかけると、駅前広場に集まった15万人(警察発表・500人)の集会参加者たちは歓声を上げた。 「我らは正義と愛のために断固として闘うザマス! 実装ちゃん愛護団体『プルー・イット・愛護ー(PIA)』の結成をここに宣言するザマス!」 『わーっ!』 熱狂は村咲を中心に伝播し、音の暴力となって町中に響き渡る。 「一緒にご唱和願うザマス。 一緒に双葉市を作りましょうザマス。 いいザマスか? 一緒に新しい双葉市を作りましょうザマス。 それでは行くザマス。 いいザマスか? 双葉市を 新しい、 双葉市に、 愛護ー! 『愛護ーっ!』 『愛護ーっ!』 『愛護ーっ!!』 愛護! 愛護! 愛護! 響き渡る愛護の声! 声! 声! この日、以前から存在していた『虐待派を駆逐し隊』を引き継ぐ形で武闘派愛護団体が設立された。 後に誰もがその名を知り、『緑色の特殊警察』と深く恐れることになる悪魔の集団を。 「さあ、手始めに虐待連合のヤサにカチコミをかけるザマス!」 7 虐待連合とPIAが抗争状態に入って二週間が経った。 市内のあらゆる場所で『虐待派狩り』と言うなの暴行が行われ、死傷者の数も毎日のように増えていった。 「街の惨状は目を覆わんばかりザマス! いったい市長はどう責任を取るつもりザマス!」 議会で居丈高に市長を糾弾する村咲議員。 ほとんどの議員たちはPIAのバックに彼女がいることを知っていたが、それをこの場で糾弾することはできない。 したら最期、彼女のバックに潰されるだけだ。 「わ、わかりました。非常戒厳令を発令。至急、事態の収束に向かわせます」 自分が市長として二度目となる非常事態の宣告。 しかし現状を放っておく訳にはいかない。これが終わったら辞任しようと覚悟を決めての宣誓だった。 そしてそれは市長にとって最大の失敗だった。 すでに警察権は村咲議員によって完全に掌握されていたのだ。 「テロリストが乗っている可能性があります。直ちに危険因子を排除します」 「やめろ、やめろォ! ここにはテロリストなんかいない!」 「くそおッ、どうなってやがるんだ! 警察はなにやってる!」 「いま我々を攻撃しているのがその警察なのだ!」 「ちくしょう、村咲めェ!」 市営のバスがブルドーザーによって強制的に運ばれていく。 乗っているのは無辜の市民を人質に取ったテロリスト……ではなく、集団で移動中の市議会議員たち。 支援者連合による小さなパーティに向かう途中のことだった。 「彼らは国際虐待派ネットワークの秘密工作費を用いて『双葉市転覆委員会』の設立を謀議した疑いがある。直ちに身柄を拘束して拷問にかけろ!」 議員たちは不当に拘束され、いわれのない嫌疑をかけられて数々の暴行を受けた。 憔悴しきった彼らが解放されたのは実装ちゃん愛護法案の決議が取られる日の早朝のことだった。 「では、謎の投身自殺を遂げた前市長に代わって私が決議を取るザマス! 議事堂の外ではデモ中の市民の方々が正当な権利を行使しているザマスが、気にせず始めるザマス」 こいつの思い通りにさせてはならない。 憔悴しきった議員たちであったが、その思いだけを強く持って採決に挑んだ。 直後。 「ハッハッハー! 市民様のお通りだあーっ!」 「ぼぐわぁっ!?」 外で反虐待のデモ活動を行っていた自称・市民団体が議事堂内に乱入した。 彼らは反対派と見られる議員たちを暴力で押さえつけ、採決の時は無理やりその手を上げさせた。 結果。 反対票ゼロで実装ちゃん愛護法案は可決される。 「ホホホーツ! 民主主義バンザイ、ザーマス!」 8 とある施設の地下格納庫。 そこでは何匹もの『生きた兵器』が量産されていた。 象のような巨体を持ち鈍重だが機関銃の乱射にも耐えうる『実象石』 豹のような爪と牙を持ちよく訓練された軍用犬のように敵を屠る『実豹石』 戦車並みの砲塔と同族に対してテレパシーによる通信機能を備えた『実砲石』 そしてかつては一度駆逐されたはずの、空飛ぶ汚染生物にして高度な偵察諜報能力を持つ『実翔石』 それらがラインから流れて来ては次々とコンテナに詰め込まれていく。 その様子を初老の男性が満足げに眺めていた。 「量産は完全に軌道に乗ったようだな」 「はい。この流れなら二倍のペースでの発注に応えることも可能ですよ」 「頼むぞ。資金が潤えばそれだけ彼女も喜んでくれるからな」 「研究資金も上乗せしてくれるなら喜んで」 研究以外にはまったく興味のない若い研究員が嬉しそうに応える。 これら生きた兵器は、秘密裏に船で海外に流される。 独裁国家やテロリストに売ることで彼らは莫大な資金を得ているのだ。 そしてその資金は社長の愛人である村咲の野望に使われる。 9 とある虐待派の家に警察の特殊部隊が押し寄せる。 警告もなく窓を破って中に侵入し、容疑者を強引に確保する。 「な、なにするんだよォ!」 「アフルレッド=葉亜都。貴様には実装石虐待の容疑で逮捕状が出ている」 「虐待なんてもうしてねえよお! 法律ができてから怖くてそんなことできねえよお!」 「嘘をつくな。先日、公園で野良仔実装の前を横切っただろう。あと一歩ズレていたら踏みつぶしていたと報告にあった」 「……そ、それだけ……で?」 「初犯ならともかく、貴様には過去に虐待していた経歴がある。逮捕するには十分な案件だ!」 「待ってくれよォ! そりゃねえだろォ!」 警察は横暴の限りを尽くした。 特に虐待派……元を含めて……には、一切の慈悲を与えない。 適当な理由をでっち上げて過去の虐待行為を断罪する。 実装ちゃん愛護法案というのはそういう性質のものであった。 もちろん、問題はそれだけではない。 「うぇえ……もうこの公園、臭くて近づけねえよ……」 実装石に対する虐待、間引き、間接的な暴力行為もすべて封じられ、さらに専門の愛護機関による援助を義務づけた結果。 野良実装は際限なく増えて公園や近所の森林、さらには生活道路にまで溢れかえった。 「デププププ! ジッソー様のお通りデス! 下等なニンゲンは道を空けるデス!」 首から提げた音声式リンガルからわざとやっているのかと思うほど不愉快な声を上げ、実装石の集団が国道を練り歩く。 中には戯れに近くの車に投糞する者もいたが、それを咎める権利は誰にもない。 街は、双葉市は……お墨付きを与えられた緑色の悪魔によって支配された。 そしてその頂点に君臨する、紫色の魔王。 「ホホホ……! 民衆共よ、実装ちゃんを愛するザマス! 崇めるザマス! 奉るザマス!」 地上30階建ての市長公邸で玉座に腰掛けながら、ブランデーを片手に街を睥睨する。 ついに彼女は願いを叶えた。誰もが実装石を愛し、命を大切にする優しい世界を実現するという夢を。 だがこれで終わりではない。 私はこの理想郷を護っていかなくてはならないのだ。 十年、二十年……いや、永遠にこの理想郷(ユートピア)を維持しなくては。 そのためには街を支える市民が流出してはどうしようもない。 次は住居移動に制限をかけるための移動制限と、かつて双葉市に住んでいたことのある人間を強制的に呼び戻すための法案作りだ。 基本的人権? 住居選択の権利? そんなものは糞食らえザマス。 かわいい実装ちゃんの命以上に大切なものなんて存在しないんザマス! 「ホホホ……フホホホ……ホーッホッホッホッ!」 10 『……というわけで、双葉市はもうメチャクチャなんです』 「そうか……ニュースで言われている以上の惨状らしいな」 『村咲のババアはマスコミにも強い影響力を持ってますからね。もう、まっとうなやり方じゃどうにもならないんです』 「それで、俺に依頼してきたという訳か」 暗い部屋の中で愛銃の手入れを行いながら、『彼』は電話先の相手に応える。 『ええ。悪法とは言えもう村咲一人をどうにかして済む問題じゃないんです』 「解決策はひとつ。双葉市から実装石すべてを『絶滅』させることだけ、か」 『はい』 「ククク……いいだろう。その以来、引き受けた」 相手の喜ぶ声を聞き終わる前に、『彼』は通話を終えた。 そして口元の黒いネックウォーマーを鼻先まで引き上げ、仲間たちへ一斉にメールで呼びかけを行う。 「久しぶりの活動だ……せっかく頼りにしてもらえてるんだ。楽しもうぜ、なあ」 そとで雷が鳴り、室内を一瞬明るく照らす。 黒い長髪に凍えるような冷たい目の青年は、誰にともなく呟いた。 「○×大学虐待サークル、冬期合宿の始まりだ」 つづく 【作者代理・マイちゃんの言い訳コーナー】 こんにちは、桐野マイです! キャラが使いづらいってことでシリーズ絶賛停止中の元主人公です! ええと、作者は自分の作品解説とかあまり好きじゃないんですが、 今回はさすがに思いきり読者様にケンカを売るような内容なのでいちおう追記の解説を任されました! まず、この作品は《二部作の前半》であり、長いプロローグです。 実装ちゃんもほとんど出てきませんし、裏テーマが《後半に向けた溜め》です。 ですから読者様にイライラしていただければむしろ成功です。その分、後半へのハードルが上がっちゃいますが! 後半というか実質的な本編でやりたかったのは以下の二点で、 《DEXT7話や13話とは違った虐殺モノ》。それといろんな作者様が描かれてる《過剰愛護によるディストピアモノ》です。 本当は説明文だけでさらっと流すつもりで独立させるつもりはなかったんですが、書いてるうちにノって来ちゃった結果がこれだそうです! あと、一番大事なことを伝えておきます。 この作品に関わらず作者はいろんなところからネタを持ってきますが、《特定の主義、思想、人種や派閥を否定するつもりは一切ありません》! 作中のキャラの行動や言動で不快になる方も多いと思いますが、それが作者個人の主張を言わせているわけではないことを明記しておきます! と、言うわけで。読者様を苛立たせたままにしないためにも早めに後半を仕上げてお送りしたいと思います。 もし発表前にFF15の発売日が来ちゃったら残念ですが少し遅くなるかも知れません。 後半は私も登場予定ですが、期待せずに適当にお待ちください! それではみなさん、『いんぷれめんてっど☆でぃすとぴあ・後編 〜愛護日誌外伝・木下さんのジェノサイドレポート〜』でお会いしましょう! お楽しみに!
1 Re: Name:匿名石 2016/11/29-00:08:16 No:00002983[申告] |
後始末までが虐待だからペタリ投げっぱなしにした虐待連合は反省しる
現実のなんとか連合って半グレは出自的に紫の組織と仲いいはずだけどね だってどっちもちょ |
2 Re: Name:匿名石 2016/11/29-01:02:01 No:00002985[申告] |
虐待連合の集会にマイちゃんの妹分さんが参加してなくて本当に良かった
村咲のババアが出てきたときは別作者さんのジョルノ13呼ばなきゃと使命感に駆られたが この作者さんのシリーズで一番頼りになる人キター! 村咲のババアにどんな制裁が下されるのか本当に楽しみ |
3 Re: Name:匿名石 2016/11/29-01:02:01 No:00002986[申告] |
特定の団体を揶揄する意図がなくても同質のものを描けば似るのはしょうがないですよね
愛誤派ディストピアを描いた作品というと名前忘れたけど実装MODでGTAのスクショあげてたサイトの大長編を思い出します 元ネタのGTALAがロス事件モデルだからだと思うけどあの都市の愛誤派&実装石も特定民族養護団体とその特定民族を彷彿とさせるやつらだったなあ |
4 Re: Name:匿名石 2016/11/29-01:10:23 No:00002987[申告] |
虐待連合まではペタリ投げ捨てが普通の人の迷惑になってたからまあ…と思ったけど
仔実装踏みかけとかで捕まるのは無茶すぎる 村咲婆は死んだ方がマシな思いをしてから苦と悲と惨をからめて死ね |
5 Re: Name:匿名石 2016/11/29-01:18:44 No:00002988[申告] |
ザマス婆
この婆が山の野良の話で好き勝手やってた愛誤派糞婆だな 後半で悲惨な末路を迎えますように |
6 Re: Name:匿名石 2016/11/29-01:28:36 No:00002989[申告] |
DEXT世界だと不運で酷いことになってたけど
こっちの木下さんは最強っぽいな 愛誤派終わった… |
7 Re: Name:匿名石 2016/11/29-01:39:05 No:00002990[申告] |
※3
あの話は実装の虐殺はオーソドックスそこそこだったが 愛誤派、特に市長の家族の末路が陰惨の極みだった覚えがある 村咲も愛誤派嫌いでも引くような最期を迎えてくれ |
8 Re: Name:匿名石 2016/11/29-01:58:41 No:00002991[申告] |
実装石よりも愛誤派に末路らせたがるやつ多すぎ
俺もそういうの大好きだ だが、思う 愛誤派を死なせてやるのはむしろ救いなのではなかろうか 愛する糞蟲の待つ地獄へ送ってやるのは慈悲ではないかと 実装と愛護が許されなくなった世界で生き続ける方が制裁だ |
9 Re: Name:匿名石 2016/11/29-02:03:47 No:00002992[申告] |
元主人公ってそもそもマイマイが兄から主人公の座を奪ったんじゃねえか!
そんな天からアカギに主役変わってさらにワシズ様スピンオフが始まるみたいなこと… |
10 Re: Name:匿名石 2016/11/29-07:12:26 No:00002994[申告] |
うおおおお!気付いたら3作品もアップされていた!
DEXTからのファンです! 新作が読めて嬉しいです! ブラック飼い主は、ちょっと作者様が辛い思いをされているのではないかと心配になりました。 愛しているけどは、流れも秀逸ですが、34056個に吹きましたw1日1匹だと93年wwwもしかして主人公、日本に有給休暇取りに来てる神仏2人と知り合いの方ですか?w 後編も、楽しみに待ってますが、FF15優クリア後でどうぞw首を長くして待っておりますゆえ! |
11 Re: Name:匿名石 2016/11/29-20:23:36 No:00003002[申告] |
※8
中には真性のキチもいるだろうけど 実装石の愛誤派って特殊なものをかわいがる自分が好き、(そいつらの言動が悪いから)世間から嫌がられるようなものを擁護、保護、プッシュするような自分の姿勢に酔ってるってやつが多そう そんで対象のもんが悪さしてるのが悪いのに批判してくる人たちに対して悪く言うな!ってキレつつ、自家中毒でそれを悪く言うようなやつらを批判して対象を守護する俺正義!ってなっちゃうようなタイプのやつらが それか出自や利害がそいつらと深く繋がってるもんでナチュラルにその派閥になってるやつら ただ、実装石はあくまで生物で血筋や出身地関係ないから後者はほぼいなくて前者かな だからそんな殺されるけどまたあの子のところへ行けるなら…ってやつはいないだろうな |
12 Re: Name:匿名石 2016/11/29-20:59:57 No:00003004[申告] |
本当の愛護派にならいるだろうと思うけど愛誤派にはね |
13 Re: Name:匿名石 2016/11/29-21:41:58 No:00003005[申告] |
村裂やPIAのモデル?は軽んじるか不用意な発言で炎上するか工作失敗をネットでの常としているのに工作成功するってレベル高いな
この作者さんの力量なら愛誤派と虐待含む反対派のモデルを逆にしてもいいもの書けるんだろうけど モデルと愛誤派、糞蟲のよく馴染むことよ |
14 Re: Name:匿名石 2016/11/30-00:05:47 No:00003009[申告] |
相変わらずハインライン張りに構えの大きなポリティカルSF、お美事です。
転がしづらいキャラとのことですが、やはりマイちゃん再登場楽しみです。 那磨さんB子ちゃんの3人娘で暴れて欲しい 時に、作者様は、ちりばめられたネタ元から同世代かとお見受けしますが……さて |
15 Re: Name:匿名石 2016/12/17-15:47:01 No:00003183[申告] |
まだまだメガフレア様を追っかけたり追っかけられたりしてらっしゃるだろうか
後編待ってます |
16 Re: Name:匿名石 2016/12/17-16:36:01 No:00003186[申告] |
オイイイイイイ!続き楽しみだぞオイイイイイイ! |
17 Re: Name:匿名石 2016/12/17-16:50:53 No:00003189[申告] |
※16きっとFF15を楽しんでらっしゃるのでしょう
我らはただじっと待つだけだ! |
18 Re: Name:匿名石 2016/12/19-12:38:08 No:00003217[申告] |
芝生やしながら読者虐待と嘲笑ったり、何より律儀に遅延理由を伝えてから休載してる作者さんにエタったらなんて仮定したり
No:00003211の性格の悪さにドン引き そんなことしたって実装石や愛誤派が酷い目にあう作品やその作者さんはいなくならないぞ、村裂野郎 |
19 Re: Name:匿名石 2016/12/19-17:09:42 No:00003224[申告] |
冨樫でも事前に伝えてくれてる人を捕まえてエタるのどうの言い出すのは失礼だと思わないのかね
商業でもないのに次回まで長そうなのを言っておいてくれるだけ誠実だと思うけどな |
20 Re: Name:匿名石 2016/12/19-19:01:18 No:00003228[申告] |
主語が大きいバカチョンには困るね
俺は別に不快になってないし ゲームにしても1週間でクリアって暇で親からの制限もない学生か無職の基準だろ やり込まなくても勤め人なら1ヶ月くらい軽くかかる |
21 Re: Name:匿名石 2016/12/19-19:07:27 No:00003229[申告] |
穴ありまくりの暴論を振りかざすが次々埋められて読者=俺ちゃまが不快!に至ったアホ煽りの図
最近、実装石(&愛誤派)虐待を逆恨みした挙げ句、暴れてる虐待アンチがいるみたいだし、それだろうな 作者さんはが向いたときに投稿してくれればそれでいいと思う |
22 Re: Name:匿名石 2016/12/20-08:19:50 No:00003244[申告] |
ハンターハンター連載開始からずっと追っかけてるからすっかり待てにも慣れたわ
富樫先生より全然スピード速いし連載放っておいてコミケやってるわけでもないし一読者として新作あがるの気長に待ってるよ ※23 同意だわ先月でたポケモンすらまだクリアできてないのにどんどん積みゲー増えて困る まとまった休みないとFFとかテイルズとかは腰すえてゆっくりやる時間ないとクリアできん |
23 Re: Name:匿名石 2017/01/17-00:03:29 No:00003868[申告] |
そろそろ続きが読みたい |
24 Re: Name:匿名石 2017/01/17-00:18:06 No:00003869[申告] |
来月はスパロボ
再来月はモンハンxx さてこの話の続編とどちらが早いかな? 全裸待機中 |
25 Re: Name:匿名石 2017/01/17-08:43:01 No:00003881[申告] |
ゲームやるからって有名作品、話題作全部やるとも限らんからなあ
逆にDLsiteあたりで半分同人なエロゲ買って時間を失う可能性もあるが |
26 Re: Name:匿名石 2017/01/30-21:49:44 No:00004066[申告] |
早く木下さんの手際が見たい |
27 Re: Name:匿名石 2018/06/03-19:45:04 No:00005303[申告] |
そろそろ後編くれ |
28 Re: Name:戒厳令の男 2018/12/19-23:18:03 No:00005697[申告] |
GOOD |