『 流行り廃りのその跡に、改めて実装石を飼ってみよう⑥ 〜誰にも頼れない〜 』 仔を寝かしつけた男は、近場のペットショップのホームページを閲覧する。 「なになに、取り扱っている動物の種類は… 犬、猫、ハムスター、デグー、小鳥、爬虫類、熱帯魚… え、デグーてなんだ?なになに…おお、やばい超可愛いな! …って脱線してる、いかんいかん。」 男はホームページの隅々まで閲覧したが、やはり実装石についての情報はどこにも見当たらなかった。 だが、ホームページの隅に相談窓口という欄があるのに気づいた。 「んー。なになに、そのほか、相談窓口では各種ペットの躾のご相談にも乗らせて頂きます…? おお!これだ!取り扱ってなくても、飼い方を知ってるかもしれん! どうせ飼育用に色々買おうと思ってたし、ここに行ってみるか!」 男は、仔が眠っている間にと、試しに作った段ボール製の蓋をティッシュ箱にぴったりと固定してから 近場のペットショップに出かけてみる事にした。 男の家から歩いて20分程度の距離に、そのペットショップはあった。 大手ペットショップのチェーン店のようで、品揃えも豊富なようだ。 ただ相談に乗ってもらうだけというのも悪い気がしたのか、男は犬猫用の尿取りシートや躾用のクリッカーを次々と買い物カゴに入れていく。 犬の無駄吠え防止用にICレコーダーのような物も売られていた。ボタンを押せば高音域の音が出たり録音した音が再生する仕組みになっている。 毎度パーカッションで破裂音を出すのもキツイので、これは仔用に十分使えるツールになりそうだ。迷わずカゴに突っ込む。 デグー用なのか砂浴び用品も売っていたので、仔と砂遊びするのも楽しいかも…と、ついついカゴに入れてしまった。 ハムスター用のケージや小屋も、なかなか可愛らしくて気になったが、 ポチに与えるには、まだまだ環境に慣れていない感が否めないので、インテリアに凝るのは先の楽しみに取っておく事とした。 一通りの買い物と会計を済ませた後、男はペット相談の窓口を訪ねてみる事にした。 受付には、やや陰りのある女性店員が椅子に座りながら帳簿を付けている。 「あのー、すみません。ホームページで相談窓口が利用できるって見たんですが、 ここで買ったペット以外でも相談に乗ってくれますか?」 男は申し訳なさそうに苦笑いしながら、女性店員に話しかけた。 「あ、はいはい。当店に足を運ばれたお客様でしたら、誰でもなんでも全然オッケーですよー。 まあ、もちろん、次にペットを購入される際は、ぜひ当店をご利用頂ければ幸いなのですが♪ あ、どうぞどうぞ気軽にお座りください♪」 受付の女性店員は、にこやかに営業スマイルを男に向け、椅子に腰かけるよう促しながら答えてくれる。 「そうですか!すみません助かりますっ! その、実はですね、公園で飢え死にしそうになっていた野良の実装石の仔を拾いまして…。 躾をしようと思っているところなのですが、どうにもネットにも情報が載っていなくて困ってるんですよ。」 男は女性店員の笑顔につられて、照れ笑いを浮かべながら椅子に座り、実装石を飼うに至った事情を説明した。 「……え?」 男が実装石という単語を発した瞬間、女性店員の営業スマイルが引きつる。 明らかに目が泳いでいた。 「あのー…、すみません、どうやら私、すごい聞き間違いをしたようで…。 もう一度聴きますが…。今、なんて仰いました?」 女性店員が冷や汗を垂らしながら、男に聞き返す。 「あ、ですから実装石の仔を拾いまして。 躾のコツをご存じないかと相談させてもらいたいんです。」 男は不穏な空気を感じながらも、再度事情を説明する。 「お客さん!! あんな生もの飼う必要なんてないですよ!!すぐにゴミ箱に捨てて、ぜひうちの小鳥たちを買ってってください!インコカナリア文鳥といった有名どころからフクロウハヤブサの猛禽類まで取り揃えていますよ!みんな超可愛いし超カッコいいですよー!なんなら哺乳類より可愛いですむしろ哺乳類なんて糞です体臭きついし糞は臭いし共食いするし耳障りに鳴くし反応うざいし餌は食い散らかすしすぐにマーキングするし唾液臭いし不潔だしとにかく胎生の生き物は全部だめですあの生ものと一緒でだめです卵生サイコーですああ爬虫類もいいですねしっとりひんやり触ってたのしいカッコいい子ばかりですああ爬虫類コーナーも是非見ていってください男性ならスキンクとかバシリスクとかどうです中二心をくすぐるデザインですよもう飼っちゃいましょ!」 女性店員は猛烈な勢いで実装石どころか哺乳類全体をディスり始めた。 なんだろう、実装石に何か恨みでもあって、それをこじらせてしまったのだろうか? 「あ、あのー…、と、取り敢えず落ち着いてください、ほら、深呼吸して、ね?」 男は、女性店員の変わりようにビクつきながらも、どうにか落ち着けようと優しく声をかける。 男の対応に気を取り戻したのか、女性店員はまた陰りのある笑顔に戻って帳簿に目を落としながら語り出した。 「すう…はぁ…あー…ごめんなさい。アレを思い出すと、つい発作が起きちゃって…。 10年ほど前、ブームの影響で、うちの店舗でもアレを取り扱っていた事があったんです。 私が新人の頃、初めて飼育担当をしたんですが…、胎生生物の嫌な所が全て詰め込まれているかのようなアレのせいで、哺乳類全体が苦手になってしまいまして…。 ああ、おかげで卵生生物の素晴らしさに気付けたのでプラマイゼロですが!」 女性店員の目は完全にあちらの世界へトリップしていた。 ニーチェの善悪の彼岸だったか、 深淵を覗く時、深淵もまたお前を覗くだろう なんて一説が脳裏に浮かぶような、深い闇に包まれた瞳だった。 「な…なるほど…、すみません、どうやら嫌な事を思い出させてしまったようで…申し訳ない。」 男は女性店員の変貌ぶりに慄くが、図らずも不快な思いをさせてしまった事を申し訳なさそうに謝罪した。 「あ、いえいえ、いいんですよ、すみません、私が飼育係としてちゃんと躾られなかったのが悪いんです。 んー、私が言えた義理ではないのですが、アレは本当に飼いづらい生き物なんです。 哺乳類の嫌なところを煮詰めて固めたような習性を持ってますからねー。 流行当時から飼育が難しいと有名でしたので、ブームが下火になってきた時点で、どこのペットショップも取り扱わなくなりました。 専門の飼育業者やペット用品店も一昔前は繁盛してたんですが、ブームが去った後は次々に閉店していきましたもの。 なんでしたっけ、当時は専門の調教師?みたいな方にブリーダーとして何度か卸してもらったんですが、結局、その人の言う事しか聞かないんですよ。 それだって刃物で切り付けたり毛を引っこ抜いたり火傷させたりなんて虐待まがいの事をしないと躾られない仔ばかりのようで…、こっちの気が変になりそうでしたね。 まあ、おかげさまで今では素手でマウスを絞め殺して、かぁんわいいーフクロウや蛇たちに餌としてあげれるようになりましたけどねっ★」 女性店員はウインクして朗らかな笑顔を作るが、右手をニギニギと握り締める把握運動を繰り返していた。 口は笑っているが、目が笑っていない。 何この人、ほんと怖い。 「…は、ははは。そ、そうですか。 いや、ほんと…、すみません。」 男は震えながら頭を机に擦りつけるように謝罪した。 そうでもしなければ、女性店員に本気で握りつぶされそうな威圧感を感じたからだ。 「うふふ、大丈夫ですよ。…さすがに成人男性は握り潰せませんし、大きすぎて消化不良起こしちゃうので餌にもできません。 ごめんなさい、私がアレの躾で相談に乗れる事は、本当に何もないんです。すみません、アドバイザーとして無能ですよね、てへっ♪ 役に立たない相談員なんて…、ああそういえば鳥葬なんていうのもありましたっけ。素敵な最後ですよねー。私も最後は鳥葬がいいなぁ、うふふふ…。」 女性店員が微笑めば微笑むほど、辺りの空気が凍り付く感覚に囚われる。 男は何度も頭を下げて相談に乗ってくれた事に礼を述べると足早に窓口を立ち去ろうとした。 「ええっと!本当にありがとうございます!実際に飼育していた人の意見は凄く貴重ですよ!ありがとうございました! すごく役に立ちましたよ!哺乳類の嫌な所を煮詰めて固めた習性を持ってるんですね!すごい重要な情報です!躾の時には気を付けます! また別のペットを飼いたくなったら、ここで買いますね!で、ではお忙しいところお邪魔しました!」 「いえいえ、私なんかのつまらないお話を聞いてくれた上に、お役に立てたなら何よりですよ。 あ、卵生生物を飼いたくなったら、何時でも親身になって相談に乗りますね♪ ついでにアレの躾がどうしようもなくなったらまた来てください、絞め方でしたら手取り足取り指導してあげます、うふふふ。 是非、またのご来店お待ちしております♪」 女性店員の深淵の微笑みに見送られながら、男は足早に店を出た。 「…ふう。生きた心地がしなかった。 実装石って、もしかしなくても、かなり業が深い生き物なんだろうか…? ペットショップの店員でも、うまく躾られないなんて…。 俺、ちゃんと躾けられるかなぁ…。不安になってきたわ。 だけど、まあ、頼れる相手がいないからって、途中で投げ出す訳にもいかんよな。 プロが挫けるくらいの曲者なんだ、気を緩めないように、慎重に躾けていこう。」 男は重い買い物袋を持ち直し、ため息をついた後、 気を引き締めるように握りこぶしを作って家路を急いだ。 間幕 男は自宅に着くと、買い込んだ荷物を玄関横の棚に並べ置いた。 日常的に使いそうなクリッカーとレコーダーは早速開封して左右のポケットに入れておく。 自宅を出てから、もう1時間近く過ぎただろうか。 男は、そろそろ仔が起き出して、箱から出れない不安や、一人の寂しさから泣き始めているのではなかろうかと思ったが、 どうやら、その予想は外れている様だ。自宅は、生き物を飼っているとは思えないほど静まり返っている。 荷物整理が終わった男は、仔に悟られないよう忍び歩きで居間へ入った。 仔実装を寝かしつけたティッシュ箱は、段ボール製の蓋がしっかりと固定されたまま、 出かける前の状態で、静かに鎮座していた。 仔が動き回っている気配もない。 「静か過ぎる…、おいおい、まさか病気で倒れたりとかしてないよな!?」 男は不安に駆られると、足早に箱に近づいて、震える手を抑えつつ急いで段ボールの蓋を外した。 テチぃー… テー…チー… 箱の中では、仔がボロ切れを胸元に手繰り寄せて丸くなり、小さな寝息を立てて寝ていた。 ついでに言うと、涎を垂らしながら漫画のような鼻提灯を膨らませている。 目元に薄っすらと涙の後も見えるが、特に箱の中で暴れまわった様子はないようだ。 「ほっ…よかった…、熟睡してるだけか。 てか、どんだけ寝るんだ実装石って…。ネコも寝てる事が多いけど…、そういう習性あるのかな。」 テー…テチぃー… …テェ、テッテー! 男が箱の中で眠りこける仔を見下ろしながら安堵のため息を漏らした時、 仔は丁度眠りから覚めたらしく、鼻提灯を割り、口から垂れている涎を前脚で拭いつつ、大きく伸びをした。 「おはよう、ポチ」 テチ!テチャーっ♪ 覗き込んでいた男がポチの名を呼ぶと 仔は笑顔で万歳をしながら男に鳴いて答える。 「しかし、ポチ。お前、よく寝るなー。 明日は仕事だから夜騒がれても困るし、後でぐっすり寝るためにも、今のうちに体力使っておくか?」 男は仔の目の前で、段ボール製の輪っかを自分の指に引っ掛けてクルクルと回して見せる。 テチぃー! テッチゅ〜ん♪ 仔は男の遊びの誘いに、目をキラキラと輝かせて鳴き声をあげて答えると、 よじよじと箱から飛び出してきた。 ガッ! こてんっ… テチャっ!? テェーンテェーン! 慌てていたせいか、仔はティッシュ箱から這い出た瞬間に盛大に転倒する。 仔は自力で起きる事もせず、その場で手足をばたつかせて泣き出した。 (あ、これ、子どものアレだな。転んだ時に自分で立てるのに、大人に起こしてくれ甘えさせてくれって駄々こねるやつだ。 んー…あんまり良い甘え方じゃないかなぁ…。行動切り替えさせるか。) 男は倒れた姿勢のまま泣いている仔の視界に映るように、 わざとらしく輪っかを回し始めて小芝居する。 「あははは!楽しそうな輪っかが回ってるぞー! うわーすげぇ!ちょー楽しい! ポチは横になってたいみたいだし、仕方ない、残念だけど俺一人で遊ぼうっと!」 テッ!? テチャァ! テチテチっ! 仔は先ほどまで転んで泣いていたのがウソのように、スクッと飛び起きて男が指で回している輪っかに飛びつき、 男を見上げながら、私も遊ぶとでもいうように鳴き声をあげている。 「よしよし、んじゃポチ!取ってこーい!」 コロコローッ チャァ! テッチ〜〜♪ 仔は、男が投げ放った輪をポテポテと楽しそうに追いかける。 転がっていく輪っかに器用にスライディングで追いつくと、輪っかをズリズリ引き摺りながら男の所に持ち運ぶ。 テチュっ! チュアっ!チュアっ! 仔は、男の前に輪を置くと、ピスピスと鼻息を荒げながら、男に向かって前脚を突き出しイゴイゴと動かしている。 輪を持っていけば褒められると完全に理解している様子だ。 「よぉぉしよし!」 テッチゅ〜〜ん♪ テッチー!テッチー! 男が褒めながら仔の頭を撫でる。 仔は甘く嬌声をあげた後、輪っかをズイっと男に押し付けて、次の催促をするように鳴き始めた。 (ふむ、褒めてもらえると理解したら、きちんと行動覚えるのかな? んー、断定は危険か。あ、そうだ、夜になる前に、ハウスをちゃんと覚えてるかチェックしておこう。 さてさて、遊びの途中でも、ハウスの行動切り替えできるかな?) 男は左ポケットに忍ばせているレコーダーのスイッチを何時でも押せるように左手を添えつつ、 右手の人差し指をポチの目線に合わせた後、ティッシュ箱に人差し指を向けて視線誘導する。 「 ハ ウ ス 」 男が能面のように表情を固めて、淡々と言葉を発する。 テェ!? テェー…??? 困ったように仔は鳴き声を上げるが、男は無反応を貫いてティッシュ箱の方角を指差して向き続けた。 仔は諦めきれず、男に輪っかを押し付けて自身に振り向かせようとアピールする。 男は仔と視線が合わないよう注意しながら、そんな仔の行動を視界に収めつつ、しかし表情を一切変えずに徹底的な無視を続けた。 テちぃ…? テッ!! テッチュン!!! しばらく膠着状態が続き、悩みこんでいた仔が、突然鋭い鳴き声を一つ上げる。 男は仔が攻撃してくるのではないかと思い、タイミングを逸しないよう、レコーダーのボタンに宛がった指に力を入れつつ、仔の次の行動を身構えながら観察した。 だが、男の予想に反して、仔は男からスッと離れると、ぽてぽてと自らティッシュ箱に戻り始めたではないか。 ぽてぽて ガサゴソ ころんっ テッチュンテッチュン♪ テッチュンテッチュン♪ よじよじとティッシュ箱の中に戻った仔は、 箱から身を乗り出しながら体を左右に揺らして囀っている。 男が褒めてくれるのを待っているのだろう。 不覚にも、男は目が潤んだ。 「よぉぉしよし!ポチ!!!ちゃんと覚えてたなぁぁ!!!!!」 テッチゅ〜〜〜んっ♪ 男は、仔の頭を撫でながら、掛け値なし手放しで褒める。 男の本気の褒めが通じているのか、仔も満面の笑みで涎を垂らしながら嬌声をあげていた。 「よぉし、ポチ! そんじゃ今日はヘトヘトになるまで遊ぶぞー!」 テッチー♪ その後、日が暮れるまで、男と仔は他愛のない輪投げで遊び続けた。 間幕 「……おかしい」 男は項垂れながら呟く。 時計の針は早くも23時を指し示してた。 テッチュンテッチュン! テッチュンテッチュン! 項垂れている男を後目に、 仔は、ティッシュ箱の中で、前脚を上下に腰を左右に振り続けている。 感情が昂っている時に披露する例のダンスだ。 「夕方くらいには、あくびして眠たげにしてたはずなんだが…。 なんで寝る段階になって、そんな元気溌剌なんだよ…。」 男は昼から夜までの仔とのやり取りを振り返ってみた。 夕方近くになり、部屋が薄暗くなってきた頃、仔は確かにあくびをして目を前脚でこすっていた。 電気つけて、ダメ押しに更に遊ばせて体力使わせておこうと軽く輪投げをしたら、 テチテチいいながら元気よく輪っかを追いかけまわしてたっけ。 それから夕飯を用意して、仔を足で固定しながら食事をした。 相変わらず俺が食事をしている間もずっとイゴイゴと動いていたが、今回は噛みつき自体はなかった。 30分くらいして電池が切れたようにガックリと項垂れ始めたところで食事を与えた。 …うん、この時も元気だったな。 その後、風呂に入れた。 ああ、この時は確か更にテンションあがって例の踊りを始めていたか。 …ん、むっちゃ元気溌剌だな。 で、風呂が終わった後、ハウスの指示を1発でクリアして箱に戻ったので褒めまくった後、 排泄を促して、それもスムーズにトイレ内に収めたから褒めた。 就寝準備完了と判断して、電気を消して俺は床につこうとしたのだが。 ……ずっと踊り続けている。 …あれ?夕方以降、ずっと調子高いままじゃないか。 なんで? 「うーむ…」 テッチュンテッチュン! テッチュンテッチュン♪ 仕方なく男は消灯した電気を点け直し、ベッドの上で胡坐を組んで状況を整理してみる事にした。 男の苦悩など露知らず、仔は楽し気にダンスを続けている。 「あくびをした切っ掛けはなんだったか。 運動…は、夕方以降もしたよな。だがアクビはない。 疲労…、こんだけ動き回って風呂入ってもあくび一つないな、そういや。 ……ん、夕方?薄暗い……? あああ、そうか。そりゃそうだわ!」 パンっ! テッ!? テちっ!? 男が一人合点がいったとばかりに膝を打つ。 その音に驚いたのか、仔はダンスを止めて辺りをキョロキョロと見渡し始めた。 「あ、丁度良かった。 ポチ、寝る前にもうひと遊びだ。ほれっ!取ってこーい!」 男は、ベッドの上から輪っかを指でクルクルと回しつつ反対側の壁に向かって放り投げた。 テェ! テッチ〜♪ 仔は放り投げられた輪を追いかけてティッシュ箱から勢いよく飛び出した。 輪っかを拾ってきては男が胡坐をかくベッドの下まで引き摺って持って帰ってくる。 男も仔が輪を持ち帰る度に、壁に向かって輪を投げ続ける。 …それに合わせて、全灯していた部屋の照明を少しずつ少しずつ暗くしていった。 最後はダメ押しにと常夜灯に切り替える。 テちぃ…… テー…チュワー… テチュテちゅ… するとどうだろう、常夜灯に切り替えた後、輪投げの2往復目くらいから仔があくびをしながら目をこすり始めたのだ。 「 ハ ウ ス 」 テちゅ〜… 男は、そのタイミングでハウスの指示を出してみた。 すると仔は素直にポテポテとティッシュ箱に移動をはじめた。 テッチュン…テッチュ… テッチュ…テ… 仔はティッシュ箱に入ると、褒めてもらうのを待ちわびるように鳴きながら、うつらうつらと櫂を漕いでいる。 「よーしよし、えらいぞ、ポチ、おやすみ。」 テッちゅ〜……ん……♪ テー……チー…… 男が仔を褒めながら頭を撫でると、仔は満足したのか丸くなって寝息を立て始めた。 「そりゃそうだよな、急に明るくなったり暗くなったりするなんて 自然なリズムじゃあないんだし、普通に寝れるわけないわな。 …うん、だけど、これは寝かせる時に使えそうな技だわ。明日は仕事帰りに遮光カーテン買って来よう…。ふわ…。おやすみ…。」 男は初めての躾の確かな手ごたえと確信を感じつつ、 満足気な顔で夜の微睡に身を任せた…。 つづく {後書き} 私の愚作に、いつもたくさんのコメントを頂けて本当に感謝の極みにございますm(__)m いやはや拙い表現にもかかわらず、私の意図を皆様に汲み取って頂けているようで作者冥利に尽きます。 テーマの方向性が違うので、女性店員さんの話は本シリーズの中では書くつもりはないのですが、 いずれ女性店員さんの過去話も外伝として書いてみたいです(笑) あ、話がどう進もうとも、男と女性店員のラブロマンスは絶対にないです、ご安心ください。 というかラブロマンスを書ける技量がありません(;´・ω・) 個人的には、もうちょっと男とポチのどう転ぶか分からない綱渡り気味な躾譚を書き綴っていくことで、 皆様に、ちょっぴりでもハラハラドキドキ、ワクワクぽかぽかをお届けできたら幸いだなぁと思っています。 今後も皆様が少しでもお楽しみ頂けるような作品を提供できるよう精進して参ります。 それでは、また次回!
1 Re: Name:匿名石 2016/11/11-07:33:53 No:00002784[申告] |
相変わらずこの主人公は独自工夫で上手くやっていくね
世間も実装石を忘れてるならもう何か大失敗が起こる様が想像できない そしてショップ店員wwww 躾が不可能な動物なんて他にも腐るほどいるだろうに、 人の心をここまで壊すのはリンガルによって人間言語に翻訳されるが故か…… |
2 Re: Name:匿名石 2016/11/11-12:34:59 No:00002787[申告] |
ハズレのショップだったのかな
世界観にもよるけど傷なんて残さないように教育できるブリーダーもいただろうし 最初に当たったのがハズレだったからって他人をあてにしなくなるとしたらまずいかもなあ ポチが成体になってきたらまた違う問題もあるだろうし 探せば愛誤じゃない愛護派の先達とか探した方がいい気がするなあ |
3 Re: Name:匿名石 2016/11/11-13:05:02 No:00002788[申告] |
この女性店員、わずか一行で濃密なキャラクターが伝わってくるなw
ん?わずか一行?w 長い一行だったが一気読みしたwうむw |
4 Re: Name:匿名石 2016/11/11-18:25:52 No:00002789[申告] |
失敗は外からもたらされるものではない
外に愛誤派がいようがいまいが虐待派がいようがいまいが実装石という言葉だけでPTSDなペットショップ店員がいようがいまいが 結局は実装と飼い主のいるところ認識のズレや片方または双方の負の感情が生じ得るし落とし穴になり得る 外部環境がある程度見えてきたこのタイミングこそ次の何かの発生日なのだ 主人公にはぜひ次の何かも乗りきってほしいと |
5 Re: Name:匿名石 2016/11/11-19:03:35 No:00002790[申告] |
噛みつかなくなったのは成長だけど疲れるまで暴れるのはやめないのな
男はポチの諦め、一時的服従ととらえてそうだけど ポチもポチでこっちが疲れるまで暴れてりゃ人間も根負けすると誤学習してるかも リンガルやポチ視点でもあればわかるんだが、それは野暮か… |
6 Re: Name:匿名石 2016/11/11-21:57:53 No:00002791[申告] |
>フクロウハヤブサの猛禽類まで取り揃えていますよ!
いいのかそれw ※4 ほんとそれな 実装石は実装石というだけで不幸フラグが立ってるようなナマモノだから 虐待派がいなかろうが作者が愛護スク宣言してようが全く安心できない 実際のところ、昔の大作愛護スクなんかは自然な成り行きによる不幸展開もしょっちゅうあったし |
7 Re: Name:匿名石 2016/11/11-23:30:01 No:00002792[申告] |
今気づいたんだが、もしかしてこの作品世界にはリンガルないんじゃないか?
実装業界が廃れて絶滅寸前だからでも男がまだ実装に勢いがあった時期に興味がなかったビギナーだからでも犬代わり扱いで翻訳の発想がないからでもなく 世界そのものにリンガルなんてあったことがないんじゃないか? 初回で本文中や後書きでも全盛時の便利な道具はないみたいには言ってるけどリンガルが存在するかは明白ではない 今回の女性店員にしてもリンガルがある世界のペット店員なら店長がコダワリ派か店員のメンタルに気を回せる人で使用禁止でもなければ使ってるだろうが 仕入れてたブリーダーの描写からすると実装絡みについてはすごく雑な店だったように見受けられるのでまず使ってただろう そうだとすると実装への憎しみも胎生憎しじゃなくてお決まりの傲慢発言、ドレイニンゲンだのクソ下僕だのの高慢ぶりに向けられてよさそうなもんだが びっくりするぐらいそういう人間的、っていうと虐待派が怒るなら人と呼ぶに値しない生ゴミ的な要素への言及がない 言うのは糞食いだの同族食いだのばかりなり まあ、糞食い同族食いだけでも最初から心が虐殺方向にふれてるかぶち切れてやっていけるようになる人じゃなきゃペット屋勤めはつらいだろう リンガルがなくても実装は十分アレな商品です、と 書かれてないからっていうだけの想像だけどね |
8 Re: Name:匿名石 2016/11/12-08:44:10 No:00002794[申告] |
読み返してみたら確かに飼い主の男は意識してリンガル使わないでいるわけじゃないな
リンガル「使わない」展開をGJしたり、リンガルがあるせいで人間が荒むと嘲笑ったりする書き込みが多く リンガルあるもんだと思ってだけど、そもそも「ない」可能性もあるよな |
9 Re: Name:匿名石 2016/11/12-13:44:15 No:00002795[申告] |
言葉責め、騙し系虐待のためといったらそれまでだけど
こちらの世界でもリンガルあり作品の方が圧倒的に多かったし あちらの世界ではリンガルがないことで虐待派はその手の虐待や断末魔を楽しめず 愛誤や愛護派でそれに近い層も人語でコミュニケーションできない愛護モードリンガルなし実装には 擬似 家族、擬似幼児的に可愛がれずで需要途絶したのかも |
10 Re: Name:匿名石 2016/11/12-21:15:58 No:00002796[申告] |
永遠に知能体力が幼児レベルで止まったままで人に近そうな反応を返す存在を極度に愛玩するか
性格面の糞さが嫌な人間と被るうえに人間じゃないから何してもいい(他人の飼いが器物破損になるのと愛誤系の法律条例がある世界以外は)存在を虐殺するか 極端な話、実装の需要ってその両極ともににんげんの人間の代用だから(愛誤用)リンガルがないとしたらこっちの世界含めた実装が存在または想像される他の世界と比べて実装需要は減るな 愛誤虐待は双方極端なやつだけで無関心派や鍋派でもない普通のペットとして飼う健全愛護が最多だって説もあるけど 女性店員が発狂するような習性がデフォなうえにあの不細工さじゃ犬猫はもちろんハムや小鳥と比べても売れないだろうし |
11 Re: Name:匿名石 2016/11/12-22:50:59 No:00002797[申告] |
リンガルは存在しない説が出てきたけど
個人的にはこの作品の世界にもリンガルは存在してていいと思う その方が最終的にポチが天寿を全うできなかった場合にリンガルがあれば違ったんだろうか…って妄想できるじゃないか |
12 Re: Name:匿名石 2016/11/13-16:47:53 No:00002798[申告] |
リンガル使ってたら噛み付き、投糞あたりの糞蟲反応か
名前貰ったときのおそらく飼い実装絡みの調子乗りで コレは犬と全然違う、専門家が無感情に処すべき生物だって殺すか保健所送りだったと思うよ この飼い主は穏和で機転も利いて忍耐強いけど 無理を無理と見切って線引きする冷静さもあるからな 下手に感情的な虐待派や愛誤崩れより真っ当なただペットを飼ってる人の方が動きが早いからなあ |
13 Re: Name:匿名石 2016/11/13-18:07:57 No:00002799[申告] |
飼い主の男ならリンガルも有功活用して上手くしつけそうな気もするがな
ただ、ポチも仔実装だから仕方ないのをさっ引いてもかなりのバカ糞蟲臭いからなあ 飼いというよりブリーダーの調教さながらになりそうではある フルメタ見るつもりが元ネタの方のフルメタルジャケットになってたみたいな |
14 Re: Name:匿名石 2016/11/13-18:26:57 No:00002800[申告] |
四話の後書にリンガルが現存してないって書いてた、そもそも存在してないのか商品として残ってないか。残ってたらヤフオクで高額転売されたり? |
15 Re: Name:匿名石 2020/01/11-16:40:03 No:00006166[申告] |
某爬虫類漫画思い出した
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