タイトル:【虐】 指先ひとつでパキンデスゥ
ファイル:【虐】指先ひとつでパキンデスゥ.txt
作者:ジグソウ石 総投稿数:41 総ダウンロード数:2149 レス数:6
初投稿日時:2016/05/03-22:51:54修正日時:2016/05/04-01:34:41
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 ※実装石の台詞は全てリンガルを通して翻訳済みとしてお読みください。

俺は実装石専門の闇医者である。
“闇”といっても別に非合法な治療行為をしているわけではなく、ましてや中二病的な意味でもない。
(そもそも虐待行為が法に触れない実装石への非合法な行為など存在しないのだが)
事故などで潰された飼い実装の偽石と脳だけを抜き取り、公園の元気な野良実装の体と入れ替えて復活させたり
虐待派の依頼でムカデ人間ならぬムカデ実装を作ってみたり、表立って経営している病院のような一般的な治療行為は行わず
実装石への非実道的な医療行為というか、多少背徳的な医療行為を行っているのだ。

そして医者とはいえ、非実道的な行為を行っているあたり、愛護派では決してない。
むしろ虐待派であり、実装石の肉体を切り刻んだり縫い合わせたりするのが大好きで、その趣味が高じて闇医者じみたこともするようになっただけだ。

今回は新たな研究に着手してみようと思う。
完全に俺の趣味だが、いつかは完成させてみたいと思っていた研究だ。
それにもしこの研究が完成すれば、実装石虐待の世界が大きく変わるだろう。
特許を取るなり発明に生かすなりすれば、もしかするとかなりの大金を生むかもしれない。


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今回の研究テーマは『経絡秘孔』である。
といっても、指で突いたら肉体が膨れ上がって内部から爆散するようなオカルティックなものではない。
あくまでも、人間にも行なわれる鍼灸治療などの延長線上にあるものだ。

『実装石に“ツボ”と呼ばれるものは存在するのか?』というのが最大の疑問であるが、俺はこれを肯定する。
『経絡』とは、縦の線である『経脈』(呼吸を司る)と、横の線である『絡脈』(血流を司る)の交わる点のことである。
実装石にも神経や血管、そして肺がある以上、必ず経絡も存在するはずなのだ。

実際に超一流の虐待師ともなれば、たった一本の針を手先や足先に突き刺して神経を巧妙に刺激することで、体全体をローラーでミジミジと潰したりするよりもはるかに強烈な痛みを与えることも
偽石が仔実装などよりかなり頑丈なはずの成体実装を、まるで蛆実装のように簡単にパキン死させることもできるという。

だが、今回の研究によって俺が目指すのはより強力な痛みを与えることではない。
むしろその逆、いかに痛覚を遮断できるかだ。

いや、痛覚を遮断するというのは少し語弊があるな。
最大の目的は、脳や神経と偽石との繋がりを遮断することで、実装石をどんなに痛めつけてもそのダメージが偽石まで達しないようにすることなのだ。
もしもこれが上手くいけば、すぐにパキン死してしまうせいであまり虐待を楽しめない蛆実装などでも、延々と傷めつけ続けることができる。



これを思いついてから、俺は数え切れないほどの実装石を解剖し続けた。

最初のうちは肉体が一切傷ついていない、溺死させた実装石の死体を解剖した。
全身の皮を剥ぎ、肉を削ぎ、神経の位置を探るのが目的なので、暴れられると困るからだ。
他にもコブラの毒を注射して、血液をムース状に凝固させてから肉を剥いで血管の位置を探ったり、一時のあいだ俺のラボはちょっとした『人体の不思議展』ならぬ『実装石の不思議展』だった。

人間もそうだが、血管や神経一本一本の位置は個体ごとに全て違う。
だが、同じ働きを持つ主要な血管などは大体同じ位置にあるものだし、神経も細かい部分を統括する中継点となる神経束の位置は大体決まっている。
何百体という実装石の死体を解剖し、それらの主要な部分の位置を特定して、俺の『実装石にも経絡はある』という仮説は確信に変わった。

次の研究段階では生きた実装石を使う。
ある箇所に鍼を刺したときに痛がるかどうかという反応も大事だが、対象が何か体に異常を感じないかどうかも重要だからだ。

まずは数日間ずっと重いものを背負わせた状態で生活させ、かなり疲れた様子の成体実装をまな板の上にうつ伏せにして寝かせた。
いつもなら動けなくするために手足を釘で打ち付けたりするが、今回はまな板のほうに穴を開け、そこから柔らかいタオルを裂いたものを通して手足と胴体を縛り付けているだけだ。

「さて……」

最初は鍼を使って“肩こり”を治療してやろう。
俺はこの数週間読み漁っていた鍼灸治療入門の本を片手に、治療用の鍼が数本刺さったスポンジ製の針山から一本を抜き出した。

「デヒィィー!」

鍼を見た成体実装が、これから虐待をされるのだと勘違いして悲鳴を上げる。
まあ最終的にそうするつもりではあるのだが……

「勘違いするな。“まだ”お前を痛めつけるつもりはない。お前、肩がこっているだろう? それを治してやる」

「デェッ?」

入門書を開いてツボの位置を確認しつつ、人体におけるその箇所を実装石の体に対比させた場合どこにあたるのか、大体のあたりをつけたうえで、おそらく対応するであろう箇所に鍼を刺す。
“ぷつり”という感触とともに肌に鍼が突き刺さるが、刺された成体実装は何の反応も示さない。

「痛くはないのか?」

「デェ? 何も感じないデスゥ」

それでいい、それで成功だ。
本当に肩がこっている人間の、ちゃんと効果がある箇所に鍼を刺した場合、刺された人間はそもそも鍼を刺されたこと自体に気づかない。
治療用の鍼は髪の毛と同じかそれよりも細いからというのもあるが、それでも健康な箇所に刺したりツボを外したりすれば当然のように痛いので、痛くないということ自体が
ツボ、そして患部を正確に射抜けた証といってもいい。

実装石の体はウレタンボディと表現されるが、それを構成している少し厚めの皮膚を剥いでみれば、中にはちゃんと筋繊維の束があることが分かる。
本物の鍼灸師のように目を閉じ、感覚を研ぎ澄ませてさらに鍼を深く刺していくと、筋肉や神経がわずかに反応したのを感じ取ることができた。
そこが鍼治療が“効く”ようになるポイントであり、逆に『これ以上深く刺したらただの拷問』というボーダーラインでもある。

鍼を刺し、キリキリと捻りながらポイントまで刺し込む。
それを数箇所にわたって繰り返すと、疲れがすっかり取れたのか、成体実装はいつの間にやら「デスー……デスー……」と寝息を立てて眠っていた。

俺は思わずニヤリと口角を吊り上げた。
これで実装石にも『経絡』、そして『ツボ』というものが存在することが証明されたのだ。
しかし、実験のためとはいえ実装石を気持ち良くしてやるなど虫唾が走る。
次は痛いツボを突いてやろう。

肩に刺さった鍼を全て抜き、先端が丸いボールペンのキャップを用意して、それを成体実装のくるぶしの内側あたり、人間でいう『三陰交』と呼ばれるツボに押し当てる。
ここは鍼で刺せば治療に用いられるツボだが、武術においては指で突けば激痛を与えるツボでもあるのだ。
実装石には手のひらや人間のように広い足の裏がないため、足ツボマッサージのような拷問は不可能なので、ここを人間の指とほぼ同じ比率の太さにあたるボールペンのキャップで突いてやる。

「ふん」

人間相手の指圧よりは軽く、だが実装石の脆い足にとっては骨が軋みそうなぐらいの強さで、ボールペンのキャップを“みしり”とめり込ませる。

「デェアギャァァァーーーー!!!!!?」

気持ちよく眠っていた成体実装が痛みで飛び起きる。

「デェェッ!? デアァッ! デァァァーーーーーッ!!!」

頭をぶんぶんと振り、縛られた手足を精一杯動かして悶える成体実装。
そうだ、それでこそ実装石だ。

「気分よく寝てんじゃねえよ糞蟲」

俺はそう言いつつ、入門書をゴミ箱へ投げ捨てた。
ここからは人間、そして治療用のツボの知識など必要ない。
すでに『ツボというものがどういう場所に存在するのか』という基本は身につけた。
あとは実験を繰り返すだけだ。



数時間後———

「デギェ……ァ……!」(パキン!)

成体実装が偽石を崩壊させて絶命した。
髪の毛より細い鍼とはいえ、ツボを外した部分も含めて全身あちこち刺されれば当然といえば当然か。

しかし、俺はこの数時間で一つ、とても有用なツボを発見した。

それは実装石の耳からさらに下、人間であればアゴを上下に動かすとくぼみが出来るあたりに存在する。
そこを顔の左右両側から、鍼が頭蓋骨の縫合の隙間を通して脳まで達するほど深く突けば、痛覚を完全に遮断し、腕を潰そうが足を潰そうが何も感じないようにすることができるのだ。
この秘孔は『北○の拳』から字面だけ頂いて『停覚』(ていかく)と名づけた。

だが、これは俺が探し当てたかった秘孔ではない。
確かに痛みを感じさせなければ偽石が崩壊することもなく、いくらでも体を痛めつけることができる。
しかし、それは痛みによるストレスで死にやすい仔実装や蛆実装の偽石を摘出するときなど、麻酔が必要な処置をするときにその代わりになるというだけのものである。
虐待というものは実装石自身に痛みを感じさせ、悲鳴を上げさせなければ何の意味もないのだ。

俺が探し当てたいのは実装石に虐待の痛みを感じさせつつ、そのストレスを偽石に伝えないようにできる、脳と偽石のリンクを切るための秘孔である。
『停覚』はこれからの実験には役立つし、虐待の幅を広げてくれるものではあるが、本来の目的のためにはまだまだ研究が必要である。

俺はまた別の個体をまな板の上に固定し、次の実験に移ることにした。



さて、脳と偽石のリンクを切る効果を持つ秘孔を探すわけだが、そもそも偽石というものが謎に包まれすぎていて、どこから手をつけていいかも分からない。
個体によって存在する箇所がてんでバラバラというのもあるが、だいたい偽石自体が他のどの臓器とも繋がっていないにもかかわらず、体内から摘出した偽石を砕くだけで
本体のほうがまるでラジコン操作されたかのように破裂するなど、生物としての常識を超越しすぎている。

かなり昔の話だが、偽石の正体を知りたくなった俺は野良実装を捕まえてきて偽石を摘出し、ヤスリで粉末状になるまですり潰したことがあるが、端っこから中心部にいたるまで全て同じ質感であり
断面なども特に層があるわけでもなく、ただの石ころと何ら変わりないものにしか見えなかったあたり、臓器かどうかすら怪しいほどだ。

とりあえずは偽石を摘出し、体内の組織を鍼であちこち突いて色々と探ってやろう。
人間に対してはエグすぎて、そしてわざわざ体を切り開き、内部から鍼を刺さなければならないような治療も存在しないから誰もやらないだけで、体内から突けるツボもあるはずだ。

寝かせた成体実装の体をサーチャーでスキャンし、偽石の位置を特定する。
この個体はちょうど胸のほぼ真ん中、心臓と糞袋の間に偽石があるようだ。
『停覚』を突き、痛覚を遮断したうえで胸を切開した。

「デ、デデェ!? どうしておムネが切られてるのに痛くないデスゥ? 」

二匹目の成体実装は驚いてジタバタと暴れるが、痛みはないはずなので気にせず内部を探る。

偽石があった部分の周辺には、やはりすでに学者が実装石を解剖して研究された以上の、変わった臓器の類は発見できなかった。
個体ごとに偽石の位置が違ううえ、偽石のほうにも肉体と繋がっていた形跡がどこにもない以上、ある程度予想はしていたが……

仕方がないので『停覚』に刺した鍼を抜き、適当に内臓の隙間を突いてやるか。
そんな風に考えていたとき、ふと
『実装石のデタラメな回復力は偽石の力が送り込まれて発揮されるものだけど、その受信機となる臓器、回復の起点となる部分はどこなんだろう?』
という疑問が頭をよぎった。

人間であれば、傷口に再生しろという信号を送るのはホルモンの働きを司る脳下垂体、もしくはそれを全身に行き渡らせている血管やリンパ節などだろうが……
そこまで考えて、閃いた———
そうだ! 脳下垂体、そこに何かのヒントがあるかもしれない!



二匹目の偽石を活性剤の入ったタッパーに放り込んで胸の傷を塞いでやると、俺はその成体実装をケージ内に戻し、別のケージから全長三十センチほどの大きな蛆実装を取り出した。

「レフ? ニンゲンさん、ウジチャンにナニかゴヨウレフ? ウジチャンオナカすいたレフー」

この大蛆は、生まれたときに親実装から母乳を与えられなかったために、仔実装に変態するために必要な“栄養嚢”が形成されず、そのまま成長してこんなサイズになってしまった個体だ。
いずれにせよ、そのような蛆は長くて二〜三ヶ月ほどしか生きられないと言われているので、この大蛆も数日中には死ぬはずだが、最後に俺の役に立ってもらおう。

蛆実装の『停覚』を鍼で突いて痛覚を遮断してから、後頭部を糸ノコギリで水平に切開する。
自分の体や姿がどうなっているか分からない蛆実装はべつに騒ぎ立てないが、万一のことを考えてコンペイトウを与え、意識を反らしておく。

「レフ〜ン♪ アマアマのコンペイトウレフ♪ オイシイレフ〜ン♪♪♪」

喜ぶ蛆を無視し、頭部の中を覗いてみた。

そもそも仔実装に変態可能な蛆実装には、本来脳があるべき部分に栄養嚢があり、仔実装に成長するまでは偽石が未熟な脳の機能を一部代行しているという。
(これが蛆実装の知能が低く、躾などもほとんど意味をなさないとされる所以である)
そしてその栄養嚢を持たないこの大蛆は、当然のごとく頭部が空っぽである。
それゆえに内部の構造を見やすいと思い、わざわざこいつを引っ張り出して頭を割ってみたのだが……
視神経と繋がった目玉がギョロギョロと動いたり、適度に溶けたコンペイトウが袋に包まれたような口腔内を通って嚥下されていくのが裏側から見えるのが少々気持ち悪い。

それに脳がないにもかかわらず、『停覚』が効くのも疑問だ。
実際に頭蓋骨を貫通した鍼の先は、実装石にはほぼ存在しない首にあたる部分、すなわち頭部の中心から少し盛り上がった肉の丘のような部分に刺さっている。
そこは人間でいう海馬や延髄のある場所だ。
なるほど、『停覚』というツボは脳そのものではなく、神経を統括する部分にあるのか。

さらにそのあたりを注意深く探ってみると、『停覚』に鍼が刺さっている部分の少し後ろに、コブのように膨らんでいる部分が二箇所存在しているのに気づいた。
もしも頭が切開されておらず、親指実装以上の個体であれば、ちょうど後頭部の髪が生えている部分から鍼を刺せるあたりだ。

「………? なんだこの肉の突起は?」

片方は周囲の肉よりもうっすらと赤色に、そしてもう片方はうっすらと緑色に染まっており、ちょうど実装石のオッドアイと対応している。
俺はその二つのコブのうち、緑色をしているほうに鍼をちくりと刺してみた。

「レ?」

鍼を刺された蛆が体をびくりと仰け反らせる。
もしや危険なツボを突いてしまったか?
そう思った次の瞬間、驚くべきことが起こった。

「レフャァァァァァ!」

「!?」

切り開かれているはずの蛆の頭部がみるみるうちに再生し、頭蓋骨が新たに形成され、傷が塞がっていく。

おかしい、そもそも蛆実装にここまでの再生能力はないはずだ。
親指や仔実装まで成長した個体であれば、偽石を活性剤に浸せばこれぐらいの傷もすぐに治癒するが、それにしたってこの再生速度は異常すぎる。

鍼の刺さった部分だけを残して、完全に蛆の傷口が塞がる。
一体何だったんだ? 
いったん落ち着こうと思い、後頭部に刺さった鍼を抜こうとしたそのとき———さらに驚くべきことが起こった。

「レッ……? レヒャ? レビュォェァアアアァアァァアア?????」

「うおぉっ!?」

大蛆の全身がいきなり膨張をはじめたのだ。
体を包んでいる“おくるみ”と呼ばれる服が破れ、あっという間にスイカのようなサイズにまで膨れ上がる。
いや、ただ風船のように膨らんでいるんじゃない。
手足といい本体といい、まるでブドウの房のようにあちこちがボコボコに膨れ上がり、体内が沸騰しているかのようだ。

「レビェェェ………た、たすけてレフィィ……………」

いやいやおかしいだろ。
確かに経絡秘孔を探る実験ではあったが、これではまさに『北○の拳』ではないか。
いや、この気持ち悪い膨れ上がり方は、どちらかというと『AK○RA』の○雄に近い。

そんなことを考えている間に、大蛆はもう昔の14型ブラウン管テレビぐらいの大きさまで膨張していた。
まずい、このままではどこまで膨張するか分からない。
鍼を抜かなければ……と思ったが、鍼の刺さった部分は膨張した肉に包まれて、もはや鍼がどこにあるのかすら分からない。

これは本格的にヤバい!
俺は慌てて部屋の外に出て鍵をかける。
そして数秒後———

「レブェアアアアアァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

凄まじい大蛆の悲鳴の後、部屋の中から

 ——— ばちゅん!!! ———

という破裂音が響いた。



部屋の中が静かになったのを確認してから数十秒後、恐る恐る扉を開く。
すると、そこには色々な意味で無惨としか言いようのない光景が広がっていた。

「……………うわぁ……………うわぁぁ……………」

床はもちろん壁や天井にいたるまで、部屋中が飛び散った赤と緑の血液、大蛆の肉片、そして糞で塗りつぶされていた。

部屋の壁一面に並べていたケージの中にいた実装石たちは、皆が等しく腰を抜かしてパンコンし、歯の根の合わない口をガチガチと鳴らしながら震えている。
仔実装以下の個体などはほとんどが恐怖のあまりパキン死し、成体実装も飛び散った骨や肉片が直撃して死亡、もしくは大怪我を負った者が相当数いた。



それから丸一日かけて、俺は地獄と化した部屋を掃除する羽目になった。
生き残った実装石どもに手伝わせてもよかったのだが、今回の実験結果には分からないこと、検証しなければならないことが多すぎる。
この惨状を無駄にしないためにも、自分だけで後片付けをすることにした。

まずは飛び散った血や肉、そして糞を拭き取るのだが、モップをかけながら大きな肉片や臓器をバケツに集める。
数時間かけて部屋の汚れを落としたが、アルコールとエタノールを併用しながら隅々まで磨き上げたにもかかわらず、臭いはなかなか取れなかった。

その後、手袋をつけて集めた肉や臓器の山をかき回し、偽石の破片がないかを探す。

「……あった!」

肉片、そして千切れた臓器の山から、いくつかの偽石の欠片が見つかった。
見てみるとほぼ真っ黒で、まるで石炭のようになっている。
これは強いストレスに晒されたことで偽石が崩壊して死んだ場合、もしくは偽石を実装活性剤に浸したうえで、無茶な虐待をしすぎた場合などに回復力を引き出しすぎて
偽石に負荷がかかって死んだときの状態だ。

前者と後者、いずれの理由によってこうなったのか。
俺が考えたのは後者のほうである。

前者、つまり自分の肉体が醜く膨れ上がったことによる強いストレスで偽石が崩壊したと考えられなくもないが、それにしては偽石の黒ずみ方が異常である。
それこそ少しの間無視してやった程度のストレスでも死んでしまう蛆実装なら、偽石がそれほど黒ずむ前にパキン死するはずだ。
しかも死ぬ直前まで『停覚』が効いていたはずだから、痛みによるストレスでそうなったとも考えにくい。
それに体が膨れ上がる直前、蛆実装にしては異常な回復力を見せたことから考えても、俺が突いたツボは『偽石の回復力を極限まで引き出す』ツボだったのではなかろうか。
それを踏まえたうえで、俺はあのツボをもう一度、今度は成体実装で試してやることにした。



次の日———
まな板の上に、一昨日偽石を取り出した後にケージに戻してやった成体実装がうつ伏せに縛り付けれられていた。
こいつは昨日の惨劇のときも、たまたま位置がよかったために無傷のまま助かったのだ。

「デェェェ……何をする気デスゥ。もうコワイのは嫌デスゥゥ………」

ヤバくなった場合に直接砕いて膨張を止めるため、一昨日取り出したこいつの偽石はテーブルの上の、俺のすぐ目の前に置いてある。

まずは頭巾を脱がせ、一昨日蛆の頭を切開したときに見つけた緑のコブがあったほう、すなわち後頭部に生えているツインテールの髪のうち、左のほうだけをぶちりと毟り取った。

「デェェー!? ワ、ワタシの髪がぁぁっ!!!」

ここを目印にすることで、わざわざ頭を切開しなくても内部のツボを突くことができる。
もしかして実装石の後頭部の髪がこの位置から生えているのは、下手に刺激されたり機能が狂ってしまったらとんでもないことになるこのツボを守るためなのかもしれない。

鍼を用意し、とりあえず『停覚』に刺して痛覚を遮断する。
これからすることや、肉体が膨張するときの痛みで偽石が崩壊しないようにするためだ。

そしていよいよ、一昨日蛆に刺したツボに鍼を刺す。
ゆっくりと鍼を刺し込んでいき、ツボに達するのを感じたと同時に、俺は包丁で成体実装の両足を切り落とした。

「デェ?」

痛みは感じていないはずだが、膝から下の感覚が急に消失したことで成体実装が素っ頓狂な声を出す。

次の瞬間、切断面からあっという間に新たな足が生えてくる。
それを再び包丁で切り落とす。
再び新たな足が生えてくる。
それを切り落とす。

 ——— ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ…………………………! ———

まるでキャベツを千切りにするように、俺は成体実装の足を切り落とし続ける。
包丁を握っている手の右側には、すでに切り落とされた足の小山が出来上がっていた。

「デェェー!? な、何をしているデスゥゥ?」

うつ伏せにされている成体実装には何が起こっているのか見えていないが、包丁がまな板に叩きつけられるダンダンという音と、膝から下の感覚が消失しては復活するという
奇妙な感覚が伝わり続けているのだろうか、動かせない体や両手をイゴイゴとよじって足掻いている。

手を動かしつつ目の前に置かれた偽石を見てみると、すでにかなり黒ずんでいた。
もう少し経てば、大蛆のときと同じように偽石が限界を迎えて崩壊するに違いない。
今こそ時機到来と見た俺は、成体実装の足を切り落とすのを止め、その体をまな板ごと、前もって用意しておいた分厚いアクリル製の水槽に放り込んだ。

「デァァッ!?」

両足が再生し、健康体となった成体実装の服がすぐにビリビリと破れ、体が膨張しはじめた。

「デェェーーーーーーーー!?!?!?!?!?」

俺はすぐに、厚さがたっぷり五センチはあろうかという木の板を取り出して水槽に蓋をし、その上に自ら座って重石代わりになった。

「デェァ………デォエァァァァ……………」

両足の間から下を覗き込んでみると、水槽の中で成体実装が「か、金○ぁ……助けてくれぇぇ……」とでも言いたげな、もの凄く気持ち悪くなった顔でこちらを見ていた。
だが、まだ水槽がいっぱいになるほどには膨張していない。

偽石を見てみると、すでにほぼ真っ黒になり、中心からピキピキとヒビが入りはじめている。
そして次の瞬間———

 ——— パキン! ———

と偽石が崩壊するのと同時に、尻の下にある水槽から

 ——— ぼびゅん! ———

という破裂音が聞こえた。



水槽の中を覗き込み、まだ膨張が続いていないのを確認してから腰を上げる。
そして蓋を開けてみると、水槽の中は先日俺の部屋で起こった惨劇と同じ状態になっていた。
だが、その膨張や破裂の規模は先日のものよりもかなり小さい。

やはりそうだ。
俺が予想したとおり、あの緑色のコブは偽石を実装活性剤に浸したときのように、回復力を無理やり引き出すことのできるツボらしい。
だから偽石に異常な負荷がかかり、一気に黒ずんでいったのだ。

しかし、この器官は元々どういう機能を持っているのだろう?
もしかすると、肉体から偽石へと『回復するための力をくれ』という信号を発信するための神経が通っているのかもしれない。
もしくは偽石から注ぎ込まれる力をちょうどいい量まで制御する、いわば水道の蛇口のような機能を持っているのではないだろうか。
それゆえ鍼で刺激を与えられたことでそのコントロールが狂い、水道を全開にして出しっぱなしにしているような状態になってしまったと考えられる。

そして偽石から注ぎ込まれる回復力が暴走した結果、怪我を負っている場合にはその部分があっという間に回復するが、欠損部分のない健康な状態になった段階で鍼を抜かなかった場合
一昨日の大蛆や今回の成体実装のように過剰回復を起こして肉体が膨張し、力が底を尽いた時点で偽石が崩壊すると同時に、肉体のほうも破裂してしまうのだろう。

とりあえずこの秘孔は、本来なら体を健康に保つための機能を暴走させ、肉体を内部から爆散させるという特性から、『北○の拳』にちなんで『激振孔』(げきしんこう)と名づけよう。



緑のコブがある場所が偽石の力を引き出すための送信機、そしてその量を制御するための器官であるということが判明したところで、今度は赤いコブのほうに鍼を刺してみようと思う。

壁際から一つのケージを持ってきて、中から大きめの蛆実装を引っ張り出す。
一昨日実験に使った大蛆よりも二回りほど小さいが、栄養嚢を持たないがために仔実装に変態できす、大きく育ちすぎたという点では同じような個体だ。

あえて蛆実装を使うのは、今回試してみるツボが俺の想像どおりの効果を持つものであれば、些細なことでも偽石を崩壊させて死にやすい蛆実装のほうが効果を確かめやすいからである。
そしてもう一つ、この蛆を使うのには個人的な理由があった。

「レ? ウジチャンになんの用レフドレイニンゲン。コウキなウジチャンにさっさとアマアマのコンペイトウとステーキをケンジョウするレフ」

そう、この蛆は糞蟲なのである。

一般的に、蛆実装というものは全て純粋で無垢なものだと考えられているが、実際にはそうではない。
このような糞蛆蟲は野生においては親実装によって、そしてショップ用の実装石を生産する工場においては選別によって、ほぼ全ての個体が生まれてすぐに間引かれてしまうため
人の目に触れることがほとんどないというだけなのだ。

食用のジソエビなどは糞抜きさえしてあれば知能や性格は問われないため、料理人はごく稀にそのような糞蛆蟲を見かけることがあるらしいが、この糞蛆蟲はまさにそのごく一部である。
公園のトイレで生まれてすぐに親実装が虐待派の襲撃によって死んだため(まあ俺の仕業なのだが)、粘膜を舐め取られることも母乳を与えられることもなく、蛆実装のまま固定されてしまったのだが
逆にそのおかげで糞蟲だったにもかかわらず、ここまで成長できたのだ。

俺がこの糞蛆蟲を拾って育てたのは完全なる気まぐれというか、このような個体をいつか死んだほうがマシだと思えるような生き地獄へ叩き落してやりたいと思っていたので
あくまでそのための珍しい素材としてストックしておいただけだ。

そしてこの糞蛆蟲には、この大きさまで育てる間にたっぷりと“上げ”を味わわせてある。
今回の実験が成功すれば、最高に楽しい虐待ができるはずだ。

「承りました蛆様。ですがその前に、気持ちよくなるマッサージをさせていただきます」

「プニプニレフ? ならばドレイニンゲンにウジチャンをプニるえいよをあたえてやるレフ。さっさとしろレフ」

顔面に半田ごてを押し付けてやりたい衝動を抑え、とりあえず糞蛆蟲をまな板の上に寝かせ、顔にタオルをかけて何をされているか分からないようにする。
そうしておいて、サーチャーで偽石の位置を特定し、『停覚』を突いて痛覚を遮断した後、摘出する。
さらに、さっそく先ほど効果を確かめた『激振孔』を突き、偽石を摘出した傷を回復させる。
傷が塞がると同時に鍼を抜くと、一昨日の大蛆や先ほど死んだ個体のように体が膨張することもなく、それ以上の効果は何も現れない。
やはりこの『激振孔』は、上手く使えば栄養ドリンクや活性剤を使うよりも手軽に実装石の傷を回復させることができる、素晴らしい秘孔だ。

「レッ? な、なんレフ? なんだかさむいレフ。おいドレイニンゲン! いますぐあたたかいオフロをわかすレフ!」

偽石が脳の機能を一部代行している蛆実装であるためか、糞蛆蟲は偽石が体内から持ち去られ、外気に晒されることで奇妙な感覚に襲われているらしい。
知ったことか。
すぐにそのリンクを切って、俺に対する数々の暴言を死ぬほど———いや、死ぬこともできない恐怖の坩堝で後悔させてやる。



さて、いよいよ赤いコブがあるほうのツボを突いてみようか。

糞蛆蟲をうつ伏せにして、鍼をその後頭部、親指実装以上に成長した個体であれば右側の髪が生えているであろう部分から刺し込んでいく。
鍼がツボに達した感触があったが、その段階ではまだ何の効果も見られない。
だが、ここが俺の想像通りの効果を持つツボであればそれも当然だ。

鍼が刺さったままの状態で糞蛆蟲を仰向けにして、『停覚』に刺さっている鍼だけを抜く。
そして糞蛆蟲の右胸のあたりを、初日に使ったのと同じボールペンのキャップでゆっくりと、だが力強く圧迫した。

「レピャァァ!!! な、ナニをするレフクソニンゲン! プニプニならもっとやさしくしろレフ! イ、イタイレフ! イタイレフゥゥゥッ!!!」

ボールペンのキャップが徐々に糞蛆蟲の胸にめり込んでゆき、ついには柔らかい皮膚を破って、肉に“ずぶり”と突き刺さった。

「レピィィィーーーーーーーッ!!!!!」

さらにキャップをもう一本用意し、今度は左胸のあたりに突き刺す。

 ——— じゅぶり ———

「レッピャァァァーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!」

さっき摘出した偽石を見てみるが、黒ずんでもいなければヒビも入っていない。
通常であれば、これだけじわじわと痛みを与えればすでにパキン死していてもおかしくはないはずだ。
なのに偽石には何のダメージも伝わっていない。

さらに、偽石と肉体とのリンクが断たれているにもかかわらず、俺に対する悪態はちゃんとついていた。
つまり偽石から頭部にあるごく小さな脳へと、知能のほうはちゃんと肉体へと届いているが、逆に肉体や脳のほうが感じているであろう原始的な苦痛やストレスによる精神的ダメージ
そして何より『偽石を自壊させてこの苦しみから救ってくれ』というアラートが偽石のほうへと届いていないのだ。

よし、大成功だ!
やはりあの赤い部分の神経は、蛆実装の知能を補完する偽石の力を脳へ受信したり、実装石が感じるストレスや苦痛を偽石へと送信するための制御器官だったのだ。
その制御を鍼で狂わせたことで、偽石から脳への受信リンクは繋げたまま、脳から偽石へダメージや危険信号を送る送信リンクのみを遮断するという、俺が目指していたとおりの状態になっている

やった!
ついにやったぞ!
俺は天才だ!

……いや、あまりはしゃぎすぎるのはよくないな。
このままでは何だか、ビルの屋上から落ちて「うわらば!」とか言いながら死ぬ最期が待っているような気がする。
自重自重。

とりあえず、この秘孔は偽石と経絡との繋がりを断つことから『断脈』と名づけることにして、糞蛆蟲への虐待を再開することにする。
さらに何本かのボールペンのキャップを用意し、今度は左胸の少し下あたりに突き刺してやった。

 ——— めりぃっ! ———

「レビャァァァァーーーー!!!!!」

「さあ……何本目に死ぬかな?」

続いて一気に三本のキャップを、横っ腹、総排泄孔、そして尻尾の付け根にめりめりと押し込んでいく。

「や、やめろレフゥゥーーーーー!!!!! ウジチャンにこんなことをしてタダですむとおもってるレフゥ!!!?」

「あ? まだ自分の立場が理解できてねえのかこの糞蛆蟲は」

今度はボールペンのキャップではなく、裁縫用のマチ針を首から下のあちこちに突き刺し、さらに針の頭についている突起を
ゲーセンにあるレバータイプのコントローラーみたいにグリグリと動かして、体の中をグチャグチャにかき回してやる。

「レフィィィィィ!!!!! や、やめてレフ!!! ウジチャンいいコにするレフ!!! だからコロさないでレフゥゥゥ!!!!!」

糞蛆蟲が両目から滝のように血涙を流して命乞いをする。
ようやく自分の立場と身の程を思い知ったらしい。
だが、まだまだこんなもので済ませる気はない。

「嫌。絶対に嫌。断固として断る。どうしても止めて欲しかったら、俺を愛していると言ってみろwww」

「あ、アイしますレフ!!! イッショウどこへでもついていきますレフゥゥ!!!!!」

「気持ち悪いんじゃボケェ!!!」

 ——— ブチャッ! ———

「レビュァ!」

自分で言わせておいてなんだが、あまりの気持ち悪さに思わず頭を拳骨で砕いてしまった。
だが、砕いたのは頭部の上半分だけなので何の問題もない。
後頭部から首にかけての部分さえ残っていれば、偽石が回復力を使い果たして崩壊するまで『激振孔』でいくらでも再生可能なのだ。
しかし……もしかすると、実装石に首というものがほぼ存在しないのも、髪の生えている位置と同じく、肉厚な頭部でこれらの器官を守るためなのかもしれないな。

トラックに轢かれた芋虫のようになった糞蛆蟲の残骸に唯一残された後頭部に、もはや慣れた手つきで鍼を刺して『激振孔』を突く。
すると見る見るうちに全身の傷が再生し、潰れた頭までが綺麗に元通りになった。

「レッ? レェェ!? 」

「やあ、おはよう糞蛆蟲」

「レッヒャァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

俺の姿を見た糞蛆蟲がこの世の終わりのような悲鳴を上げる。

そりゃそうだ。
脳から偽石へと精神的ダメージを伝えるリンクは切れているが、周囲の状況や自分の現状を把握するために必要な、偽石から脳への知能リンクは繋がったままなのだから
糞蛆蟲は十数秒前に俺に頭を砕かれる直前までのことをしっかりと覚えているのだ。
そして、やっと死んで地獄の苦しみから解放されたと思ったら、まるでそれがただの悪夢でしかなかったかのように自分の時間が巻き戻っていたどころか、自分にその苦しみを与えた張本人は
まだしっかりと目の前にいるとくれば、発狂してもおかしくないだろう。
にもかかわらず、普通であればとっくにしているはずの“パキン死”もなぜかすることができない。

「少しは状況が理解できてきたか? お前はもう、(偽石が限界を迎えるまで)死ぬことすらできない。俺が飽きるまで、ずうっとさっきのような目に遭わせられ続けるんだ。覚悟しろ」

「レ………レェェ……………」

「せいぜい頑張って生きて……そして俺が飽きたら死のうねぇwww」

「レッピィィャァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」



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それから数年後———

「………とまあ、こんな感じですかね。私の編み出した秘孔術の開発エピソードは」

「いやあ……驚きました。愛護用実装石やそのための用品も扱っている企業のCEOが、まさか元虐待派だったとは」

「何を言ってるんですか? 私は“元”虐待派ではなく、今でもれっきとした現役の虐待派ですよ」 

その言葉に、インタビュアーの笑顔が引きつるのが見て取れる。



ここはペット用実装石から、その他愛護用も虐待用も含め、あらゆる実装用品を扱う巨大企業『アイデスオーヤマ』の最上階オフィスである。

数年前、俺は今まで行なってきた実装石を使ったベンチャービジネスの数々で稼いだ資金を元にこの会社を立ち上げたのだが、俺が虐待の中で発見した画期的な手法の数々を
新商品の開発やコストカットに用いることにより、この会社はそれまで実装産業で一強を誇っていた走っていたローゼン社をあっという間に抜き去り、業界トップに躍り出ることになった。

そして今、俺はその社長室でDHK(デスエイチケー)の番組———
一代で巨大企業を立ち上げた成功者を紹介する『プロジェクトデックス〜挑戦者たち〜』のインタビューを受けている。

「実際ね、愛護と虐待というのは紙一重というか、表裏一体のようなものなんですよ。実装石という生物が大好きなことも、実装石を自分の好きなようにしたいというエゴイスティックさもね
 ただ、そのベクトルが少し違っているというだけに過ぎないんです」

「は、はあ……」

「ちなみに、さっき話した実験にはもう一つ続きがありましてね。私が発見した二つの秘孔ですが、そこの肉の色が両目の色と対応しているのがどうにも気になってしまって
 後日、もう一度別の実験を行なってみたんですよ」

「それは……一体どんな?」

「まずね、実装石は妊娠すると両目が緑色になるでしょ。そして出産時には両目が赤くなる。もしかすると、これがあのツボの肉の色と何か関係があるんじゃないかと思ったんです
 そして、もしもあの部分の肉の色が目の色と対応しているのなら、妊娠時や出産時に両目の色が揃っているとき、もしかするとツボの部分の色も変化しているのではないかと考えて………」

「それで、検証してみたんですか?」

「もちろん。そして結果は……これまた予想通りのものでしたよ。頭を切開した実装石を強制妊娠、及び強制出産モードにしてみたんですが。案の定、肉の色も両目に合わせて変化しました
 おそらくですが、妊娠時に実装石の両目が緑、つまり偽石から送られてきた力を受信・制御するための状態になるのは、自分の肉体を維持するための力を制御するのとは別に
 仔の肉体を形成する力を偽石から引き出すために、もう一つ制御器官を必要とするためじゃないかな。だからいきなり両目を赤くして強制出産モードにすると、そのための力が足りなくて
 蛆実装しか生まれなくなるんです。そして自然な出産時において両目が赤くなるのは、普段の生活で味わう苦痛の倍以上にも及ぶであろう出産時の痛みや苦しみを偽石に伝えないようにして
 出産時に自分がパキン死しないよう制御しているんじゃないかと考えられます」

「な、なるほど」

「これは私の持論なんですがね、『実装石を知る』ということにおいては、愛護派は決して虐待派には勝てないと思うんですよ。今までの話を聞いても分かると思いますがね」

「い、いやぁ……でも、本当に愛情込めて育てられた飼い実装と飼い主なんかを取材していると、本当にお互いを理解し合っているんだなと感じる、心温まるエピソードもたくさんありますよ?」

「そんなのは糞の役にも立たない“理解”だと思いますがね。ウチみたいな新参の会社が、それもこんな短期間に、老舗の同業者他社を抑えて業界トップに立つことができた理由は何だと思います?
 理由の一つは徹底したコストカットにありますが、その秘密はまさに先ほどお話した秘孔『断脈』によって出産石の寿命を飛躍的に伸ばしたり、わざわざ熟練の虐待師を雇わなくても
 『停覚』と『断脈』を組み合わせて使うことで、派遣社員やバイトさんでも仔実装に、そして蛆実装にさえ苛烈な躾を行えるようになり、今までであれば廃棄処分されていたような個体でも
 売り物にできる技術を確立することができたからです」

「……………」

「他にも『停覚』や『激振孔』、さらには『断脈』を素人でも安全・確実に、そして同時に突けるようになる、ダイヤルを回すと鍼が飛び出す虐待用ヘッドギア『ケンシ○ウくん』とか
 装着するだけで鍼が顎の下にある秘孔『解唖門天聴』(かいあもんてんちょう)を突き、本音しか喋れなくすることで、表面的に従っているだけの隠れ糞蟲を炙り出せる実装リンガル
 『ラ○ウくん』などの新商品のアイデアなんか、まさに虐待からしか生まれない発想ですよ。まあ『停覚』を麻酔代わりに使うだけじゃなく、実装石が寝ている間に髪を数本ずつ抜いて
 枕に散らしておくことで、毎朝じわじわとハゲていくストレスを味わわせてパキン死させる……という虐待方法なんかは、商売じゃなく完全に趣味の産物ですけどね」

インタビュアーの顔は感心と呆れが入り混じって、もはや笑っているのやらドン引きしているのやら分からない。

「そ、そういえば今回はえらく立ち入ったお話といいますか、御社の企業秘密ともいえることまで話していただいたように思えるんですが……これってそのまま放送して大丈夫なんですかね?」

「構いませんよ。そもそもこの会社は自分の金儲けのためというより、誰かが私の開発した技術を私よりも上手く使いこなし、私ですら思いつかないような利用法を編み出してくれるようにと
 立ち上げたものですから、各種技術にはほとんど特許を申請していませんし、前述の『ケンシ○ウくん』なんて、一般ユーザー向けというよりは企業に使って欲しくて開発したようなものです
 ですから今回の話が放送されて、万一愛護派から不買運動などが起きて会社が潰れたとしても、別に痛くも痒くもないんです。自分一人が暮らしていくだけなら、もう十分な儲けも出ましたしね」

「……………い、いやあ……凄い自身と実装石への情熱ですね。それでは最後に何か一言、若者たちに対してメッセージなどはありますか?」

「『Fu○k you……金は命より重い……!』と言いたいところですが、それはまあ冗談として……『実装石ともっと関われ』ってことですかね」

「『実装石と関われ』……ですか?」

「愛護にせよ虐待にせよ、パートナーシップというものは常に新しい刺激を得る方法を模索していかないと、飽きるんですよ。それこそSEXと同じようにね。そして実装石という生物の生態が
 ほぼ明らかになったと思われている最近では、虐待派ですら実装石に飽きはじめている人が多数いる。でもね、私が発見した新秘孔一つとっても分かるとおり、実装石という鉱脈は
 まだまだ掘り尽くされていない、発展途上なんです」

「はあ……」

「それに『実装石と関わる者は皆不幸になる』なんて定説がありますがね、あれも私からすればナンセンスですよ。もしもそんなジンクスが本当なら、ウチに限らず実装石を扱う商売なんてものが
 成り立つはずがないんです。私一人を例にとっても、そんなものはただの迷信であることが分かるでしょう。ですから私は若者たちに『もっと実装石と関われ』『そして新たな地平を切り開け』と
 呼びかけたいんですよ。まだまだ実装石には楽しむ余地が残されているぞ、ってね」

「な、なるほど。本日はお忙しい中、取材にご協力いただいて本当にありがとうございました」

インタビュアーはぺこりと頭を下げると、後ろに控えているカメラマンに収録を切り上げる合図をし、席から立ち上がろうとする。
どうやら話を早く切り上げたがっているらしいのが動きから見て取れる。
こんなイカれたマッドサイエンティストもどきの社長とは、あまり長く同席していたくはないのだろう。
気持ちは分からなくもないので、握手だけをして笑顔で社長室から送り出してやった。
というか、あんな内容で本当に放送できるのだろうかと逆に心配になるが。



社長室のブラインドを全て閉め、外から部屋の中が見えないようにする。

「さあ、今日も実験を始めるか」

堅苦しいネクタイを緩め、スーツの上着を脱ぎ捨てる。
そして社長室のさらに奥にある部屋への扉を開くと、ケージに入れられた無数の実装石たちが一斉に悲鳴を上げた。

「「「「「デッギャァァァァァァァス!!!!!!!!!!!!!!!」」」」」

うん、今日もいい悲鳴だ。
俺はこの悲鳴を聞き続けるため、そして実装石の新たな可能性を切り開くため。
今日も実装石を“切り開き”続ける。



-END-



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あとがき

なんかタイトル詐欺みたいな内容になってしまいましたが……今回は実装石、特に死にやすい蛆実装を殺さずにいつまでも痛めつけられる方法があったらなあ……という願望から生まれたお話です。

作中の糞蛆蟲は保管庫の大物ロダにある蛆料理のFLASHゲームで、実際にごく稀に見ることができる糞蟲個体がモデルで、こいつを何とかギッタギタに痛めつけてやれたら……と思ったのが
今回のお話を考えたきっかけだったりします。

今回は設定に苦労しました。
秘孔の名前は実際に『北○の拳』に登場する秘孔から、効果と名前の字面がピッタリ当てはまりそうなのを選んだだけで済んだのですが……

鍼というものは元来『神経を遮断するもの』なので、『激振孔』が肉体から偽石へと「回復するための力をくれ」という信号を“発信”するための器官だとすれば
鍼でその神経を遮断したのに偽石から回復力が引き出されるはずがなく、逆にただ偽石から送り込まれた回復力を“受信”するだけの器官なのだとすれば、鍼を刺して神経を遮断したにもかかわらず
偽石から引き出された回復力が肉体に注ぎ込まれて暴走するのもおかしなことになってしまうし、『断脈』が発信側の器官だったと仮定した場合でも、『激振孔』を突いたことがトリガーになって
回復力が暴走するのもおかしなことになってしまうのです。

それらの矛盾を何とか解消するために色々設定を練ったのですが、結局のところ鍼というもの自体が『神経を遮断するもの』という設定そのものを改変し、鍼を刺したことによって
その器官の『機能が狂った』ということにして、都合のいい作用が起こってくれたという展開に逃げてしまいました。

今回でとりあえず“実装専門の闇医者”シリーズは最終回ということにしようと思ったのですが(ラストで成功者にしちゃいましたので)、また何か面白い実験ネタを考え付いたら
『会社は倒産したけど私は元気です』とばかりにサラっと再登場させるかもしれません。

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1 Re: Name:匿名石 2016/05/04-15:12:46 No:00002365[申告]
GJ!!
実装ちゃんの解剖描写とか、憎ったらしい糞蛆ちゃんとか今回見所多くて嬉しい悲鳴
蛆の糞蟲いいなあ
あの肉がボテボテついた丸顔でこのセリフ言ってるのかと思うとムッッズムズする
ああああああああ!!潰したーい!!

そして、とうとう成功しちゃったよ、この人ww

> また何か面白い実験ネタを考え付いたら 『会社は倒産したけど私は元気です』とばかりにサラっと再登場させるかもしれません。

是非あって頂きたいが、会社倒産しても元気なのか
もう無敵やんwww
2 Re: Name:匿名医師 2016/05/04-18:53:52 No:00002366[申告]
実におもしろかった。
3 Re: Name:匿名石 2016/05/04-22:29:37 No:00002370[申告]
作者氏、元から設定に凝る人だったけど
ここ最近はますます上手くなってるね

そしてさりげなく作中で啓蒙してるよう
もっと実装スク師・絵師さんが増えて欲しいと切に思います
4 Re: Name:ジグソウ石 2016/05/05-03:01:51 No:00002371[申告]
皆様、ご感想及びお褒めの言葉ありがとうございます

>ああああああああ!!潰したーい!!
作中でも書きましが、大物ロダにあるbin0038.swfのゲームでごく稀に糞蛆が出ます(私も最近気づいたんですが)
差し出されたトレイからつまんだとき、普通ならレフレフ鳴くか「イイコにするレフ」とか
「ニンゲンさんのおてつだいしたいレフ」とか、無邪気もしくは礼儀正しい反応をするんですが
本当にごく稀に、「クソニンゲンあいさつしろレフ」とか「えっけんのえいよをあたえるレフ」と言う、非常にムカつく糞蛆蟲が出ます

本当に確率が低いので、狙って出すのは難しいですが…
プレイ開始後、蛆を受け取るときに三匹まとめてトレイに移すか、一気にミジミジマシーン送りにして
とりあえずトレイ五皿~十皿分ぐらい試してみて、出なかったら左下のギブアップボタンをクリックして
「別のランダムシードでリプレイ」を選んでやり直せばそのうち出ます

そして一度発見したら、潰すたびに「同じランダムシードでリプレイ」を選べば
例えば一度目はトレイ二皿目の右のやつで出たなら、二度目も同じ皿の同じ位置に出るので、何度でも虐待可能です

一度出たなら、そのランダムシードの数値をメモしておいて、プレイ開始と同時にギブアップしてランダムシードを確認
違っていたら「別のランダムシード」、同じだったら「同じランダムシード」でリプレイすればいいんですが
あのゲーム、メニュー画面から「指定シードで始める」を選ぶときに
指定シード値を直接入力して書き換えても、始めるとシード値が「NaN」になって反映されないんですよね…
シード値を直接入力できれば手間がかからないんですが

髪を引き抜く、服を奪うなどの行為ですぐ弱り、油で揚げるとすぐ死んでしまう蛆ですが、お湯で茹でるなら少し長めに持ちますし、プニプニしてやると回復します(涙が治まります)
プニプニするなんて不愉快なら、他の蛆から出た糞を食わせても回復します(同時に屈辱を味わわせることも可能です)
さらに糞食いで自分も糞持ちになるのですが、その状態で衣をつけると糞が出せなくなるので、そこからプニプニすると逆に苦しめることができます
それで死ぬ寸前まで追い込んでからミジミジマシーンでトドメを刺すんですが
頭が潰れるまでにパキンしないようギリギリを見極めるのが腕の見せ所です

長文になってしまいましたが、本当にスッキリするので是非お試しください
5 Re: Name:匿名石 2016/05/05-12:13:36 No:00002376[申告]
細部の作り込みがナイス、つい読みたくなる吸引力
6 Re: Name:匿名石 2019/08/23-20:59:33 No:00006088[申告]
スルスルとテンポ良く読めて、面白かった
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