タイトル:【虐】 山実装の過ごす冬
ファイル:山実装の過ごす冬.txt
作者:ストロー 総投稿数:3 総ダウンロード数:6271 レス数:17
初投稿日時:2015/02/17-23:21:29修正日時:2015/02/17-23:25:36
←戻る↓レスへ飛ぶ

春が過ぎ、夏を越え、秋を生きる。
これは某県境に住まう山実装たちの物語である。


           「山実装の過ごす冬」


春に産んだ子供を育てる。
夏に狩りを教え、食べられる実などの情報を仔実装に伝える。
秋に産んだ子供……秋仔は山の神の使いなので滝に流す。
そして冬。

ここの山実装たちにとって本当に楽しい時間は、実りもなく外出の機会も減るはずの冬なのである。

そもそもこの山は非常に実りが多く、山菜や果実、虫や木の実など食べられるものがたくさんある。
それだけでなく、危険な動物や天敵といったものがほとんど存在しない。
山実装たちはこの好条件にあって、大抵が越冬に困らないだけの食料を短期間に集めきる。

そして山実装たちはある趣味に残された時間を全て費やすのだ。


「そちらの家のアレはどうデス?」
「良い出来デスゥ」
「それじゃ味比べをするデス」

クルミの殻を手に二匹の実装石が冬篭り中の巣穴の中で向かい合う。
殻の中には何やら液体がたっぷりと入っている。

そして山実装たちはそれを一気に飲み干した。

「デッスーン! 今年の酒も最高の味デスゥ」
「デデ……山葡萄の味が効いてるデス、なかなかやるデスー」
「そちらの酒はどうデス?」
「一緒に試してみるデス」

山実装たちは別の切り株に空いた穴にたっぷりと溜め込まれた液体をクルミの殻で掬い取る。

「うまいデスゥ! 野生の味デスゥ!」
「うちの酒は隠し味が良いデスー」

そう、実装石たちが飲んでいるのは果実などを切り株の穴に入れて発酵させた酒。
通称『実装酒』と呼ばれるものである。
猿酒の一種であり、山実装たちは各家庭で1、2種類程度の酒を作り出す。

それは退屈な越冬のストレスを紛らわす最高の贅沢なのである。


「テチュ? ママたち何を飲んでるテチ?」
「お前も飲んでみるデス」
「テチ……」

仔実装がおずおずと濁った実装酒を口にする。
ミツクチを大きく開いて仰け反った。

「テヘッ、テヘッ……苦いテチィ」
「まだ早かったデスゥ? でも慣れればきっと美味しいデス」
「春になればお前も成体実装デス、酒の味も慣れておくと良いデスゥ」

そう言いながら成体実装たちは酒を飲む。
仔実装も子供扱いされたことにムッとする年頃なのか、無理をして実装酒を口にした。

「なんかフラフラしてきたテチ……気持ちいいテッチュン」
「それが酔っ払うってことデス」
「飲みすぎると吐いちゃうデス、程ほどにするデスゥ」

ほろ酔い気分の仔実装の頭を撫でる母親。
外敵があまり存在しないこの山では仔実装でいる期間が一年ほどと長い。
この子も来年の春には一人立ち。少し、寂しい。
親実装は酒を口にしながらそんなことをぼんやり考えた。

この山に住む山実装たちは成体実装から仔実装に至るまで実装酒を嗜む。
アルコールが偽石の強度を上げ、
さらに実装石同士の衝突などを回避するコミュニケーション手段としても機能する。

この地方の山実装たちにとって実装酒はなくてはならないものなのである。




ある月夜の晩に二匹の成体実装石が岩の上に座った。
まんまる岩と山実装に呼ばれるその岩は、最高の景色から宴会の際にも使用される。

一匹は両目が緑。お腹も大きく、妊娠していることは明白であった。
一匹は頭巾の右耳部分が欠けている。勇敢な山実装でありその右耳も仲間を守った名誉の負傷だった。
右耳はばい菌が入ったのか再生せず欠けたままだった。
だがその山実装はそれを誇りにすらしていた。

二匹は一杯の酒を大事に口にしていた。

「オ姉チャン、あんまり飲むとお腹の中の子供が酔っ払うデスゥ」
「この山の実装石なら生まれた頃から酒を飲む元気な子供であって欲しいデス」

二匹は姉妹であった。
そして姉は繁殖期が春と秋に分かれる山実装にあって珍しい、冬の妊娠をした。
大ババ様が『神に選ばれた子供』と太鼓判を押した、山実装たちの幸せの象徴。

勇敢な妹はそんな姉を守り、優しい姉は妹を大事にしてきた。
今宵は月が眩しい。

「オ姉チャンはもうすぐ出産デスゥ、どんな可愛い子供が生まれてくるか楽しみデス」
「そうデス……ママにも見せてあげたかったデスー」
「デスゥ……」

二匹の母親は二匹が小さい頃にいなくなった。
二匹はコロニーに育てられた、母を知らない子供達であった。

「ママはどうしてワタシと妹チャンを置いて行ってしまったデスゥ……」
「オ姉チャン、そのことは忘れるっていう約束デス」
「デェ……」
「大ババ様が話してくれないのなら、それは誰に聞いても同じデス」

姉実装は自分の腹を撫でた。
命の鼓動。確かに感じる、新しい芽吹き。

「……あんまり体を冷やすと体に毒デス」
「デスゥ………」

妹は姉の体を気遣う。
少し寂しげに、二匹は残った杯の酒精を飲み干した。
幸せの味を噛み締め、二匹は心の中で誓う。

家族を守り続けて生きていこう、と。
柔らかな月の光が巣穴に戻る二匹を照らし続けていた。




冬篭りが始まって半月ほど。
異変は唐突に起きた。
山実装コロニーの巣穴に煙が充満し始めたのだ。

「な、なんデスゥ!?」
「デベッデベッ、煙たいデスゥ!」
「眼が痛いテチー!」

混乱に陥る山実装たち。
不安げに腹の中の我が子を摩る妊娠実装石。
それをそっと抱きしめる妹実装。

その時、コロニーの中に一際大きな声が響いた。

「山火事デスー! 早く外に逃げるデスゥー!!」

山火事。火傷という根源的恐怖に怯える山実装たち。
恐怖はあっという間に伝播し、山実装の半数が巣穴から飛び出していった。

妹実装はミツクチを手で塞いだまま訝しがった。
何かがおかしい。
山火事を経験したことこそないものの、本能が違和感を覚えていた。

妊娠実装は皆に遅れて走り出す。
お腹の仔を想えばこそ、早く安全な場所に避難しなければならない。

「オ姉チャン、待つデスゥ!!」

妹実装はそれを止めようと、追いかけて外に飛び出した。


次の瞬間、柔らかい袋のようなものに山実装たちは捕らわれていた。

「デギャアー!?」
「何テチー! どうなってるテチャー!!」

農協の米袋で作った罠に簡単にかかる山実装たちに、狩人は満足げに笑う。
巣穴の緊急用脱出路(燻り出すために使った煙が出てくるので簡単に場所はわかる)にも罠がある。
逃げ出そうとした山実装たちは一網打尽にされていた。

「おお、この成体山実装見てみろよ! 妊娠してるぞ!」
「すごいな……冬場に妊娠した山実装を見れるなんて三年に一度あるかないかだぞ」

狩りに従事していた男たちは一まとめにした米袋を担ぐ。

「そういやまだ巣の中に山実装がいるけど、こいつらは捕まえないのか?」
「半数でいいんだよ。こいつら、実装酒を造る文化を持った山実装を絶やさないためにな」
「なるほど……」
「お前は山実装狩りは初めてだから言っておくけど、巣を壊さないのも同じ理由だ」

山菜を取り尽したら来年、手に入らなくなる。
そんな理由で山実装の半数は生き永らえたのだった。

「…なんか本当に酒みたいな匂いがするなこいつら」
「冬の間中、仔実装も成体実装も酒を飲んで過ごすらしいからな。身肉が芳醇で美味いんだぜ」
「へえ」

実装酒は山実装たちの最大の楽しみだ。
だが、人間たちに狙われる理由にもなる最大の不幸でもあった。

「巣穴から逃げるように叫んだ囮実装石はどうするんだ?」
「そいつも一応連れて帰るか。来年まで生き残ったら同じ仕事してもらわないと」
「裏切り者は辛いねぇ」

囮実装石と呼ばれた禿裸の成体実装は、罪の意識と冬山の寒気に震えることしかできなかった。




それから妊娠実装は袋に入れて運ばれた時のショックで産気づいた。
その時に人間がすごく残念そうな顔をしていたことは忘れられない。

『あちゃ、こいつ両目が赤くなってるよ。久しぶりに客に妊娠実装の巣篭もり焼きを振舞えると思ったのに』
『でも酒を飲んで過ごした冬の山実装が産んだばっかりの仔実装だぞ?』
『ああ。生のソフトシェルクラブよりレアだぜ』

人間たちが何を言っているのか理解はできなかった。
だが、親実装は産まれた子供が全員連れ去られていった時。
人間が自分にお礼を言ったことだけはなんとなくわかった。

「デェェェン……子供を返してくださいデスゥ………デェェェェェン」
「オ姉チャン…………」

姉妹の山実装は一緒に抱き合って泣いた。
人間が自分達を捕らえてどうするのかはわからない。
ただ、産まれてきた子供たちに罪はないのだから。
せめて………せめてひどいことはしないでもらいたかった。




漫然と時間を過ごす日々。
ある日、姉妹実装たちを含む四匹ほどの山実装たちの水槽に人間が近寄った。
山実装狩りをした————山実装たちを連れ去った人間だ。

山実装たちは激しく威嚇をした。

「デッシャアアアアアアアアアァァァァァァァァァ!!!」
「おお、活きが良いなお前ら。それじゃ一匹連れていくぞー」

姉実装を捕らえようとした手。
それに横っ飛びに妹実装が噛み付いた。

「イ、妹チャンやめるデス!」
「オ姉チャンは連れていかせないデスゥー!!」

厚手のゴム手袋を食い破る勢いで噛み付く勇敢な妹実装。

「こいつが元気で良さそうだな…頭巾が破れてる変テコな山実装だけど」

そのまま左手で妹実装を掴むと、人間は隣の部屋へと入って行った。

「妹チャァァァァァァァァァァァァン!!!」
「オ姉チャンの子供を取り返してやるデスー!!」

そう威勢よく叫ぶ妹実装。
しかし人間の手から逃れることはできなかった。

「デ…………」
「よーしよし、大人しくしようなー」

隣の部屋に入ると、人間が三人。
それと同族の匂いがした。

……正確に言えば。同族の血の匂いがした。

そして並ぶ良い匂いの容器。
それを見た瞬間、妹実装は叫んだ。
怒りと絶望を込めて、声の限り叫んだ。

「デェェェェェェ!!! ニンゲンたちはワタシたちを食べてるデスゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!」
「あ、こいつうるさいな!?」
「たまにいるんだよ、こういう反骨精神のある山実装が」

人間たちが怯んだ隙に妹実装は叫び続ける。

「みんな逃げるデスゥー!!! オ姉チャンの子供もみんな食べられたデスゥゥゥゥゥゥゥ!!!」

その声は確かに隣の部屋まで響く。
姉実装の悲鳴が大きくなった。

「こいつ!」
「デギャア!!」

叫び続ける妹実装の頭部を包丁の柄で殴りつける人間……いや、料理人。
赤緑の血が流れ、意識が朦朧とする妹実装の服を切り裂いた。

「デ、デェ……お前たちなんかに、負けないデスゥ…」

反抗し続けようとする妹実装だが、足に力が入らない。
すぐに髪の毛も皮膚ごと切り取られてしまった。

「はーい歯医者さんだよー」
「デ………」

ペンチを取り出した料理人に妹実装が声を詰まらせる。
アレが何かはわからない。だがきっとカタいものだ。きっとイタいものだ。
その想像が足を竦ませた。

「いいか、山実装は歯を抜いておくと顔ごと食べられるようになる。よーいしょっと」
「デギィ!!」

料理人が他の二人(見習いたち)に料理手順を教えながら妹実装の歯をペンチで引き抜き始めた。
悲鳴。抵抗。隣室からの姉実装の呼び声は遠い。

「これで歯は全部かな……」
「デフェ、デフェフェ」
「…勉強になります」

痛みと喪失感に情けなく鳴くことしかできない。
文字通り歯抜けの自分の言葉を聞いた時、妹実装は耳を疑ったほどだった。

「それじゃ次は身を柔らかくしてっと」
「デフェー………フェー! デフェ、デフュフェー!!」

次に料理人は包丁の背で妹実装を殴り始めた。
青黒く腫れていく体、砕けていく骨。

実装石はストレスを与えたり、殴ったりすればその体に旨味成分を蓄える。
それは山実装も例外ではない。
身肉も柔らかくなるし、抵抗も弱くなるので料理しやすくなる。

殴打の嵐を前に陸に上がったタコみたいに踊ることしかできない妹実装。
そこに山実装たちから尊敬の念を集めた勇敢さは見て取ることはできない。

「こいつは耳が欠けているな……本当なら売り物にならないんだけど、こいつは成体で食いでがあるから耳だけ切る」
「デフェエエ!!」
「貴重な酒飲み山実装ですしね。食用実装石に酒を飲ませて育てた『へべれけ実装』とは食材のランクが違います」
「そうだ」

妹実装の誇りである右耳が、そして続けて左耳が切り取られる。
この耳は後に実装ミミガーにされる。
コリコリとした食感とコラーゲンが嬉しい高級食材だ。

「よーしよし、痛かったな? それじゃ消毒だ」
「デフェ………」

スプーン一杯の液体を口に含まされる妹実装。
それは赤ワインだった。
山実装にとって、妹実装にとっての幸せの味。
酒の味だ。

「美味いか?」

料理人は笑うと、ミツクチの中にジョウゴを突きたてた。
痛みと苦しみに悶える妹実装。

そこに料理人は赤ワインをボトルから注ぎ込む。
酒に溺れないように必死に飲む妹実装。

『もう嫌デスゥ!! 酒はもう飲めないデス!! やめてデスゥ、幸せの味はもういらないデスゥゥゥゥ!!!』

妹実装の瞳から涙が流れた。
自分ではどうしようもない暴力に、姉と一緒に酒を飲んだ幸せの記憶が薄れていった。

ミツクチからワインが溢れた。

「んー、これくらいか」
「デベッ デベェェェェ!!!」

勢いよく酒を吐き出す妹実装。
急激な酒精の摂取により意識が飛びかける。

「こうして酒を飲ませてから一分数えて」

次に包丁で手早く手足の末端と首、そして妹実装の腹を切り裂いた。
血が流れていく。薄皮一枚残して、内臓が全て外に出る。

「……糞袋を破らずに内臓をあっという間に取り除くなんて、さすがです」
「いやまぁ、慣れだよ慣れ。魚のサヨリと一緒で内臓を傷つけたら身肉が臭くなって台無しだからな」

料理人は見習いたちにコツを教えながら内臓をゴミに捨てる。
実装は、自分の内臓が処理されていく姿を酩酊が深い意識の中で絶望に浸りながら見ていた。
痛みがないのがなお、恐ろしい。

「次に血抜きと内臓の処理が済んだら全身に酒を馴染ませて……」

料理人が説明しながら傷口に赤ワインを擦り込まれる妹実装。
意識を失ってはダメだ、意識を失ってはダメだ。
そんなことを繰り返し考えながら、妹実装が見ている世界は闇に落ちていった。


山実装のほろ酔い風ソテー、オレンジソースを添えて。
この時期にしかメニューに並ばない山近くのホテルの人気メニュー。
酒を飲んで育った山実装の芳醇な味わいとプリプリの肉。
馥郁たる柑橘の香りとオリーブオイルの妙。

それは食べたものにしかわからない、冬の美味であった。




残された姉実装は泣き続けていた。
妹実装が人間に料理されてからというもの、次々と仲間が連れ去られ、帰らなかった。

それでも日頃実装酒を飲み続けて強化された偽石は自壊という安易な死を齎してはくれない。

そして。

「おう、隣の水槽使わせてもらうぞー」
「デ………」
「デェェェェェ……」

隣に置かれた水槽には、禿裸のみっともない姿の実装石があった。
たった今、人間の手で運ばれてきたのだ。
そしてその声は、確かに。

「お前はワタシたちの巣穴から逃げろと言ったニンゲンの手先デスゥー!!」
「デヒィ………! ごめんなさいデスゥ、ごめんなさいデスゥ」

水槽の壁をバンバン叩いて姉実装は怒りをぶちまける。
妹と我が子が死んだ原因だ。
恨まずにはいられない。

「絶対に許さないデスゥー!! 地獄に落ちろデス!! 苦しんで死ねデスァ!!!」

震える禿裸の実装石。
姉実装のほうを向いて土下座をした。

「ごめんなさいデスゥ……こ、子供が連れ去られたんデスゥ………」
「……デス?」
「ここに連れてこられた時に花粉団子を無理矢理食べさせられたデスゥ……」

泣いて土下座しながら禿裸の実装石は事情を話した。

「そうやって妊娠した子供でも、ワタシには可愛かったデス………何回も繰り返し産んで、その度に連れ去られたデス」
「デ………」
「ニンゲンに脅されたデスゥ! 子供を無事に帰して欲しかったら、狩りを手伝えってヘンな機械を通して言われたデスー!!」

自分も子供の可愛さはわかる。
でも。それでも。

「それでワタシたちを騙したデス……?」
「許してくださいデスゥゥゥゥ!! 躾と言われて殴られたデス、言うこと聞かなかったらゴハンをもらえなかったデスゥ」

窓から入り込む冬の空気よりも冷たい視線を向ける姉実装。
この骨の浮いた惨めな禿裸は、自分の子供可愛さに山実装たちをたくさん死なせた。
許せるはずもなかった。

「おーい、飯だぞ」

そこに割って入った狩人……料理人………いや、なんでもいい。とにかく人間の声。
その手に持っていたのは、薄い髪色の仔実装だった。
頭巾の右耳の部分が欠けているし、耳そのものも再生する様子がない。

姉実装にとっては見覚えのある姿だった。

「六女ォォォォォォォォォ!!!」

死んだと思っていた我が子。
最後に取り上げた末っ子。

それを見た瞬間、涙が止まらなかった。

「こっちに来るデス! 六女、六女ー!!」
「そうかそうか、お前もこの仔実装が食いたいのか」

暴れる姉実装。
料理人は実装リンガルを携帯していないため、この仔の親が目の前の成体実装だと気付いてはいない。

「だけど同族食いさせた山実装は肉が臭くなって食えなくなるんだよな、ごめんな」
「デ……………」
「だからこっちにやるよ」
「デェェ!?」

仔実装は禿裸の実装石の手の中に放り込まれた。
禿裸の実装石は同族食いをしたことがないのか、躊躇っている。
だが、腹の音が鳴った。
空腹は素直だった。

「そいつ、生まれつき耳が欠けてるし発育も悪いし売り物にならないんだ。飯代わりに食え食え、腹減ってるんだろ」
「やめろデスゥー!! 食うなデス!! それはワタシの六女デスゥー!!!」
「デェェェ………」
「その子はワタシの天使なのデスゥ!! 耳が欠けた、妹チャンと同じ体で生まれた……ワタシの宝物なのデスー!!」

人間の視線。姉実装の怒号。そして目を瞑ったまま周囲の喧騒を理解できる知能もないのか、むずがる六女と呼ばれた仔実装。

「ママァ………」

仔実装は自分を持つ禿裸の実装石の手をちゅぱちゅぱとしゃぶり始めた。
温もりを求めているのだ。

「ご……ごめんなさいデスゥ!!」

謝りながら、禿裸の実装石は仔の頭を一息に食いちぎった。
色素の薄い、美しい髪が口の端からはみ出ていた。

「デッギャアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァ!!! お前は山の神に裁かれろデス!!」

それを見ていた人間がたじろぐくらい、姉実装は怒声を張り上げた。

「死ね、クソ実装デスゥ!! お前が地獄に行くまでワタシはお前を呪い続けてやるデスー!!!」
「ごめんなさいデス、ごめんなさいデス……お、お腹が空いてどうしようもなかったデスゥ………」

謝りながら残った体を食べる禿裸の実装石。
それを見て、自分も餌をよこせと姉実装が喚いているのだと思った人間は、

「ほら、これでも食ってろ。意地汚いな」

と姉実装の水槽に蜂蜜とハーブと赤ワインが別々に入ったトレーを入れた。

「仲良くしろよお前ら、裏切り者でも仲間なんだからな」

そう言い残して人間は去っていった。
後に残されたのは、泣きながら仔実装を食べる禿裸と。
我が子を食われる姿を見ていることしかできない姉実装。




姉実装はどれくらい目の前の禿裸を罵っていただろうか。
声が枯れても止む事のない呪詛に、震えながら謝り続ける禿裸。

その時、窓の外から風が吹き込んできた。
夜気は周りの匂いを掻き混ぜ、二匹の実装石の間を吹き抜ける。

その匂いに、姉実装は不思議と懐かしさを覚えた。

「デ………この匂い…」
「デデ?」

顔を上げる禿裸も気付いた。
水槽の壁に隔てられてわかりにくかったが、目の前の成体実装石の匂いは。

「ママ………デスゥ…?」
「デ……ワ、ワタシが山から連れ去られた時にまだ子供だった、長女デスゥ?」

呪い続けていた裏切り者は、母親だった。

そして禿裸の目の前の山実装は長女で、つまり禿裸がさっき食べた仔実装は。

「ワ、ワタシは……孫を食べ………デベェェェェェェ」

あまりのショックに吐き出す禿裸。
その吐瀉物の中に、赤と緑に光る両目が見えた。

「デェェェェェェェン!! デェェェェェェェェェェェェェン!!」

泣くことしかできない姉実装。

「ごめんなさいデスゥ!! ママを許してデスゥ!! ごめんなさいデスゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!」

謝ることしかできない禿裸。

二匹の間をまた山から吹き降ろす冷たい風が通り抜ける。
それをどこまでも冷たい輝きを放つ月が見下ろしていた。






----------------------------------------------------------

前作への感想、ありがとうございました。

■感想(またはスクの続き)を投稿する
名前:
コメント:
画像ファイル:
削除キー:スクの続きを追加
スパムチェック:スパム防止のため5558を入力してください
1 Re: Name:匿名石 2015/02/18-12:28:39 No:00001638[申告]
実装クォリティに最後まで安心して読めました。
安寧も平常も何もない、ただただゴミのような扱い

最高です。次回作も期待しています!
2 Re: Name:匿名石 2015/02/18-17:09:49 No:00001640[申告]
群れを半分残すって事はその人間の狩り方をしってる山実装が
半分はいるって事だよね
当然警戒もするわけで、こんな簡単に捕まらないと思うのだが
また囮の実装石にリンガル設定が有るにもかかわらずそれを使ってないのは
おかしくないか?
囮が何を叫んでいるのか知る必要があると思うんだけどね
3 Re: Name:匿名石 2015/02/18-23:21:21 No:00001641[申告]
昔なつかしいネタが各所にちりばめられた楽しいスクでした
なまじ賢く愛情深く生命力が強いが故により一層苦しまねばならない山実装の悲哀がよく描けていたと思います
素晴らしい作品をありがとう
GJ!!
4 Re: Name:匿名石 2015/02/19-13:36:32 No:00001642[申告]
実装料理食いたくなったぜw
5 Re: Name:匿名石 2015/02/19-18:45:59 No:00001643[申告]
おお・・・ラストで更に素晴らしい展開に。
大変結構なお手前でした。
6 Re: Name:匿名石 2015/02/20-00:07:52 No:00001644[申告]
いやー、なかなか良い仕上がりでした!山実装つながりで次回は食メインのをみてみたいです
7 Re: Name:匿名石 2015/02/20-01:21:40 No:00001645[申告]
美味しそうでワクワクしますね!また実装食モノ読みたいです。
8 Re: Name:匿名石 2015/02/25-00:20:31 No:00001648[申告]
久しぶりに良スクを見たよ
ありがとう
次は増長しきった飼い実装の上げ落とし、もしくは飼い実装専門の虐待派などが見たいかなぁw
9 Re: Name:匿名石 2015/02/25-18:32:20 No:00001651[申告]
次回作期待してます☆
10 Re: Name:匿名石 2015/02/26-10:33:54 No:00001653[申告]
1年以上ぶりに来てみたらこんな良スクに巡り合えるとは・・・
次回作期待してます!
11 Re: Name:匿名石 2019/03/07-23:27:15 No:00005787[申告]
生意気にも酒なんか嗜みやがって
もっと酷い目ににあえ
12 Re: Name:匿名石 2019/03/26-22:47:04 No:00005821[申告]
ゲス人間どもが!
地獄に落ちろ!
13 Re: Name:匿名石 2020/03/19-22:58:35 No:00006233[申告]
確かに人間が嫌いになりそうなくらい山実装の悲哀がよく表現されている。
14 Re: Name:匿名石 2020/03/23-03:43:40 No:00006236[申告]
でも、野生動物の狩りなんてそんなもんだな
実装石だけかわいそうなんてことはないんだ
15 Re: Name:匿名石 2020/03/29-21:06:02 No:00006240[申告]
犬や猫なら、胸糞悪い人間だな!
とか思うけど、実装なら山実装であれ何故かスカッとする爽快感w
16 Re: Name:匿名石 2023/08/07-16:57:14 No:00007735[申告]
人間の欲望は実装石以下の醜さだな
17 Re: Name:匿名石 2023/10/21-22:25:33 No:00008141[申告]
人間的には優しくしてやってるつもりなのが身勝手やなあって
戻る