タイトル:【虐 哀】 こなつと飛び込み営業
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初投稿日時:2011/09/30-02:09:38修正日時:2011/09/30-02:09:38
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・こなつ 「テチュ〜……。 早く、帰ってきてくだちゃいテチィ」

リビングで、おもちゃの実装カーを手慰みに転がしながら、用事で出かけて行った、
飼い主である人間の家族の帰りを待つ、飼い仔実装の『こなつ』

父、母、『としあき』、長女の四人家族で、元々『としあき』と共に家に残るはずだったのだが、

・としあき 「何が悲しくてお前と留守番なんぞ」

と、外に出て行ってしまった。 

『こなつ』としても『としあき』は、ママやパパの目が届かないところで、
自分を虐める『ヤなやつ』なので、『としあき』の外出は喜ばしいことであった。

・こなつ 「でも、一人はイヤテチィ。 ちゅまんないテチィ! さみちいテチィ!」

おもちゃの実装カーをポイと投げ、寝転がるこなつ。 『痛み』や『空腹』もさることながら、
誰にも相手にされない『孤独』も、人間に依存しきりの実装石にとっては、
人間以上に苦痛に感じる境遇である。

ピンポ〜ン!

家中に呼び鈴が響く。 『こなつ』にも分かる、誰かが家に来訪した合図。 

・こなつ 「テチャッ? 誰か来たテチッ!」

テッチテッチ——

と玄関まで走り寄ると扉越しに大声で、

・こなつ 「誰テチュッ?」

と、問う。 いきなり錠を開けてはならないことは、実装石の仔でも知っている。

・???(以降、営業員) 「いやぁ、お忙しいところすみません! ○×生命の者でございます」

男性にしては甲高い声が返ってきた。 保険会社の営業であったが、『こなつ』に分かるわけがない。

・こなつ 「……? そんなの知らないテチャッ!」

腕をブンブン振り回して声を張り上げる。 得体のしれない来訪者に『こなつ』が警戒感を抱く。

・営業員 (テチュとかテチャとか、コイツ……実装石かぁ?)

取りあえず家主か、それに準ずる人物を引きずり出さねばならない。

・営業員 「えぇっと〜。 ママは家に居るかなぁ? お嬢ちゃん、一人?」

なるたけ優しく、子供をあやすように語りかける。 その声は飛び込み営業に当たる人物なだけあって、
男性的な低く、威圧的な感じは与えず、耳に優しいとさえ思えるものだった。
この声に『こなつ』の疑心が緩む。 この人は悪い人ではなさそうだ、と。 

・こなつ 「今、アタチ一人でお留守番してるテチッ! こなつちゃん、えらいテチャッ!」

顔をしかめる営業員。 アメや、お菓子を売っているわけではない。
実装石の、しかも仔実装などが商売の相手になどなり得ない。

・営業員 「そっか〜。 じゃあ、しょうがないねぇ。 じゃあ、またおじさん来るからぁ、ママやパパによろしくねぇ!」

時間の無駄と分かり、引き返しかける営業員。 その気配に気づいた『こなつ』が慌てて声を挙げた。

・こなつ 「テェ? ちょっと待っテチィ!」

引き留められたことが意外だったので、思わず目を丸くする。

・営業員 「んんっ? だってお嬢ちゃん、ママもパパも居ないんだろぉ?」

早く次に当らねば。 焦るがここで丁寧な対応をとれば、それが飼い主に伝わり、契約に結び付く可能性も否定できない。
……かもしれない。 

『こなつ』としては、ずっと一人で留守番をしていた寂しさもあり、その最中にようやく現れた話し相手を逃すことは、
この上なく惜しいことに感じられた。

それに、男の声は角がなく丁寧で、人柄の良さを感じさせた。 これは無論、営業用の声であるが、
短時間で『こなつ』の警戒心を解くには余りある効果があった。

・こなつ 「待っテチ! 待ッテチ! 今、開けるテチャ!」

扉の内側からガチャガチャと物音が聞こえてくる。 無視するわけにもいかず、しばらく様子を見ていると、
ガチッと音が鳴り、ゆっくりとレバータイプのドアノブが回されていく。

・こなつ 「テッチュ〜ン! ようこそ、こなつちゃんのお家テチャッ!」 

元気いっぱい、靴ベラを持った手で営業員に手を振る。 靴ベラを器用に使って開錠したようだった。

・営業員 (ようこそ、って……。 だから、お前しかいないんじゃ意味が……)

・営業員 「うぅんとねぇ。 でも、ママとパパは……」

・こなつ 「いいテチ、いいテチ! 遠慮しちゃダメテチュ!」

ヨタヨタと営業員に駆け寄り、30㎝に満たない体で、全身の力を込めてズボンの裾を引っ張って家に引き込もうとする。

・こなつ 「アタチとお話ししテチィ! 遊んデチィ! ちゅまらないテチィ!」

今にも泣き出しそうな顔で駄々をこねだす。

・営業員 「ちょ、君ねぇッ!」

自分本位な振る舞いに、さすがに苛立ちを隠せない。 しかし、一応飼い実装であるため、乱暴に扱うこともできず、
『こなつ』の頭を押さえたり、掴まれた足を左右に逃がして、やり過ごすしかない。

・こなつ 「いっしょに遊ぶテチャ! ブーブーもあるテチュ! だからコッチ来るテチュ!」

必死になってせがみ、涙や鼻水がズボンの裾にまで垂れている。

・営業員 「い、いい加減にしないと……」

・としあき 「いい加減にしろよ、この糞蟲!」

突然、営業員の後ろから怒声が響く。 この家の長男である『としあき』が帰宅したのである。

・こなつ 「テッ? テジャビャッー!」

ズボンの裾を掴んでいた『こなつ』の右頬に、『としあき』の爪先が猛烈なスピードで蹴り込まれ、
歯やアゴの骨を巻き込むようにして砕きながら、吹き飛ばした。

・こなつ 「ッゴボッ! ゴベッ! ご、ごひゅじんひゃま……!」

・としあき 「すみません。 ご迷惑をおかけして……」

営業員に頭を下げて、自分のペットが犯した非礼を詫びる『としあき』

・としあき 「あとで、きつく『躾』をして教え込んでやりますので……」

・こなつ 「テェッ? テヘェッ?」

『躾』という言葉を聞いて、途端に体を強張らせて、フルフルと震えだす『こなつ』 
この後、自らの身に課されるであろう恐怖と苦痛を予見し、一気に思考を停止させたようだ。

・営業員 「……あ、いえいえ。 とんでもないです、はい」

急転直下の”救出劇”に唖然としていた営業員だったが、我に返り胸を撫で下ろす。

『としあき』が地面に座り込んだまま動けなくなっていた『こなつ』の後ろ髪をむんずと掴み、
乱暴に持ち上げる。

・こなつ 「テヒャッ! やべでぐだしゃいテビャッ! ごべんなひゃいテヒャッ!」

・としあき 「来い。 まず、なんでこうなったのか説明しろ。 『躾』はその後だ」

営業員に一礼して家に入ろうとする『としあき』を、

・営業員 「あのぅ、もしよろしければ、是非ご紹介したい商品があるのですが……」

と、呼び止めた——

9月も末頃には、すっかり残暑も過ぎ去り、リビングの窓を開けると秋風と共に、
秋の虫たちの声が届く。
家族は団らんで夕餉を囲む。

そのテーブルの下では、両目をくり抜かれ、手足をもがれた『こなつ』が、『としあき』の母に施されたグルグル巻きの包帯姿で、
チューチューとストローで流動食を飲み下していた。 アゴも砕かれているので固形食は無理であった。

・父 「おぉ、可哀想に……」

・妹 「もう、なんでお兄ちゃんはそうやって……」

愛誤派の家族の中にあって、一人だけ虐待派なのも中々大変である。

・としあき 「ところでさぁ。 今日、家に保険屋さんが来て、こういうの紹介してったんだけど……」

保険会社の営業員が置いて行ったパンフレットをテーブルの上に晒した。

・父 「保険屋ぁ? なんか変なのの勧誘か?」

訝しがる父。

・としあき 「いやまぁ、見てくれよ。 そしたら、分かるって」

内容はこうだった。

その保険は一般的な『人間』に対する保険ではなく、『飼い実装石』に適用されるものであること。

保険適用の対象は、その『飼い実装石』が、保険会社が認定している実装ショップ、又はブリーダーから購入された個体であり、
購入時に契約していなくても、その事実を証明するもの(領収書、血統書等)をそろえれば加入が可能であること。

そして、その保障の内容とは「購入した日から○○日以内に、実装石が飼い主の過失に由らず死亡した場合、
死亡した実装石と同じ相場価格の実装石を保障する」等といった詳しい項目が並べられている。

そして、最後の項目。

「購入した日から一年以内に、『飼い実装石』が飼い主の過失に由らず、いわゆる『糞蟲化』した場合、保険会社の方で処分したうえで、
その実装石と同じ相場価格の実装石を保障する」

というものだった。

営業員の説明によれば、一回目の保険適用時は簡単な書類を提出するだけで、比較的容易に保障を受けられるそうだ。

父、母、妹が、お互いを見合った後、テーブルの下で惨めな姿を晒している『こなつ』を見やる。

・こなつ 「チューチュー……。 チューチュー……」

・妹 「最近……なんだか『こなつ』、わがままになってきてたよね……」

ボソッと妹がつぶやく。

・母 「んぅ……。 悪い仔ではないんだけどねぇ……」

母が頬に手を当て、考え込む。

・としあき 「実はその保険屋さんに『こなつ』が、遊んでくれって泣きついて、ちょっとした騒ぎがあってさ」

自分が家を空けたことは棚に上げる『としあき』

・父 「それはイカンなぁ。 他人様に迷惑をかけてしまっては……」

・妹 「こういうのって、『糞蟲』って言うんじゃないかな……」

・こなつ 「チューチュー……。 チューチュー……」

『こなつ』を購入したペットショップの名前が、パンフレットに記載されていることを確認しつつ、
未だ一才に満たない『こなつ』の前途を憂いながらも、新しく加わるかもしれない、賢く可愛い家族に思いを馳せた。

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1 Re: Name:匿名石 2019/02/28-16:29:37 No:00005770[申告]
後日談こなつ視点があれば良いのに
2 Re: Name:匿名石 2019/02/28-19:42:05 No:00005771[申告]
としあきもまあよくはないけど御用がないと言ってるニンゲンさんを強引に引き留めるのは糞蟲だな…
3 Re: Name:匿名石 2022/08/04-06:19:31 No:00006521[申告]
やはり飼よ
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