実装石の日常 ママを心配になって見に行く5姉妹 「ママが遅いテチ、帰って来ないテチ」 ダンボールの中で1匹の仔実装が言うと、他の姉妹もうなづく。 「そうテチ遅すぎるテチ」 「約束どおり、ママを向かえに行くテチ」 5匹の仔実装は長女を先頭にダンボールを出て、静かに公園を歩いていった。 公園はまだ仔実装をむやみに襲うほどは飢えていなかったので、何事もなく、姉妹は公園を出ることができた。 季節は秋、時は夕暮れ。 夕日を浴びながら5姉妹は言葉もかわさず、なるだけ物静かに行進している。 まるで、音を立てるとわが身に危険が及ぶと思っているかのように。 自転車に通行人、犬の遠吠え。どれにも怯え、恐怖しながらも一行は歩む。 彼女らの脳裏に親実装の言いつけがよみがえる。 「もし、もしママが帰ってこなかったら助けに来て欲しいデス。 大丈夫デス、お前たちが来ればママはそれだけで助かるデス。 ママがゴハンを取りに行く場所も教えておくデス、お前たちでも来れる場所デーーーーーーース」 新鮮な野菜をかじりながら、姉妹は幾度となく聞かされたものだ。 仔実装らの小さい頭でも覚えられる道順であったので、一行はおっかなびっくりしながら、ようやくそれらしい民家にたどり着く。 なるほど、古いがそれなりに立派な民家で庭先には家庭菜園が造られている。 なによりも軒先から伸びるロープ先には、目を閉じた親実装が静かに吊るされているではないか。 「ママテチィィ!!!!!!!!!!」 次女が叫んで飛び出すと、わっと他の姉妹が続いて走って親実装の下の地面に集まって騒ぎ立てるが、とてもではないが手が届かない。 「しっかりしてテチ、ママーーーーーーーーーーーー」 「今助けるテチィィ!!!!!」 「ママ! 今助けるテチャア!」 5姉妹が騒いでいると、親実装はゆっくりと目を開け、仔の声に気づくとわめいた。 「ニンゲンさん! ニンゲンさんーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」 これには5姉妹も驚いて、声もなく立ち止まった。 彼女らが自分をこんな目に合わせたニンゲンをわざわざ呼ぶ親に戸惑っていると、ベランダのガラス戸が開き、20代とも30代とも 分からぬ男が姿を現し、形容しがたい表情で実装一家を見た。 人間の危険性を知っている姉妹、まともに見られて震え上がった。 次女が腰を抜かし、4女が小さく悲鳴をあげる。 だが長女は震えながらも姉妹へ叫ぶ。 「みんな、一旦逃げるテチャアア!!!!!」 「ママを見捨てる気テチ?!」 「私たちがやられたら、誰がママを助けるテチ! 一度隠れて出直すテチャ!」 長女と5女が遣り合っていると、3女が男に向かって歩き出し、震えながら言う。 「お願いテチ、ママを助けてテチーーーーー」 「3女!!! お前は何をしてるテチ!」 怒鳴る長女へ3女が怯えながらも言い返す。 「ニンゲンサンに助けてもらうテチ。 私たちじゃ手が届かないテチ、無理テチィ!」 そうやって5姉妹がてんでに騒ぐ姿をよそ目に、男はサンダルを履いて軒先に近づくと、親実装を解き放って、地面に降ろしてやる。 「ママ! 心配してたテチャア!」 「ママーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」 あっさり助けられて拍子抜けしながら、姉妹は親実装にしがみつく。 「お前たち、よく来てくれたデス! よく来てくれたデス! 長女、お前ならみんな連れてこれると信じてたデス!」 次女、怖がりなのにがんばったデス! 3女、賢いお前が役立ったデス! 4女、こんな遠くまでよくがんばったデス! 5女、優しいお前がママを一番心配してたのは分かっているデス!」 そうやって褒められると、仔実装らは涙をながして、一層力強く親にしがみついた。 それから親実装は男を見上げて、はっきりと言った。 「賭けに勝ったデス、約束は守ってもらうデス」 ************************************* 少しだけ前に戻る。 「少しなら、と見逃していれば図々しくなりやがって、どんだけ盗めば気が済む。 もう許さん」 男は以前から家庭菜園の収穫を掠め取る親実装を見逃していたが、 いくらでも取るわ、未熟なさつま芋は取って捨てるわで、とうとう怒って捕まえた。 見せしめに、と軒先に吊るしてやると、惨めな声で喋りだすので、携帯電話のリンガルを立ち上げてやる。 「自分のためじゃないデス、可愛い仔を生かすためデス、本当デス」 「……………………信じられるかよ」 男のかすかな動揺を、親実装は見逃さない。 「本当デス、良い仔だから、待っていれば私を助けにくるはずデス。 もしも、助けに来たら、仔に免じて許して欲しいデス」 「だとしても無罪放免にできるか、悪質すぎるんだよお前は」 「じゃあその時は、私の一番大切なものをあげるデス。 かわりに私は許して欲しいデス」 「お前を見逃せるほどの物を持ち合わせているとは思えんが……」 「私の一番大切なものは、仔デス」 ************************************* 愕然としている5姉妹を尻目に、親実装は男を相手に言い続ける。 「と言う事で、お前らは全部ニンゲンさんにあげるデス。 ニンゲンさんはこう言ったデス」 男は舌打ちし、不快げに言い放つ。 「……仔は二度と公園に帰れなくなるが、良いのか? 本当に良いのか? 今なら取り消してやっても良いぞ」 「構わないデス、どうせ私がいなければ死ぬ連中デス。 私が助かるのならこんな奴らいくらでもあげるデス。 それよりもニンゲンさんは約束も守れないデスーーーー?」 「そうか、なら約束は約束だ。お前は帰っていいが、仔は全部もらう。 返せなんていうなよ、それと今度来たら問答無用で駆除するぞ」 「それでいいデス、じゃあお前たち、踏み潰されてヂッとか言って死ねデス」 「ママ……………………マ…………………………」 「最後くらい潔く死ねデス、どうせ私がいなければ死んで当然デス。 公園で死ぬかここで死ぬかの違いデス」 「………」 「おい仔実装ども、なにか言い残すことはないのか?」 急転直下、命がけで救いに来た親実装に捨てられた事実を突きつけられ、仔実装らは蒼白な顔になっている。 「嘘テチ、これは嘘テチ。 立派な大人になれるよう、ママは私たちを厳しく……」 「嘘じゃないデス」 座り込んだ4女へ吐き捨てる親実装であった。 「お前たちを厳しく躾けたのは、こんな時役立つようにするためデス。 思った以上にうまくいって、自分でもびっくりデス」 計画通り! といった表情の親実装を見ないように、男は他の仔実装の姿を見てみるが、どれも衝撃で固まっている。 「お前はどうなんだ?」 そう長女が問われると、震え、そして血涙を流しながらも、笑みを作った。 「ママの無事がわかっただけでも良かったテチ」 「そう、か。 よくわかった」 「デヒャヒャヒャヒャ! まったくそのとおりデス! あばよ、デス!!!」 親実装が吊るされて疲弊していたが、駆け出していったのは、男の気が変わらないうちにと言うことだろう。 背後で仔実装の無念の叫び声が響いても、なんらその足取りは重くならなかった。 ************************************* 2日後。 「ニンゲンも油断しているはずデス」 新鮮な野菜の味を覚えてしまった性懲りもない親実装、またもや同じ民家へやってきた。 庭先の茂みを通っていくと、激烈な痛みが足から発した。 「デギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」 大口を開けて、親実装はのたうち回るが、右足に噛み付いたトラバサミは取れるどころかさらに食い込む。 騒音を撒き散らしていると、どこからか男が姿を現してきた。 「やっぱりお前か、人間舐めるなよ。」 「デヒャアアアアアアアアアア!」 今度の叫びは悲鳴。 どう考えても男が手にしているバールのようなものは、良い予感がしない。 親実装は痛みを耐えつつ、地面に這いつくばって命乞いをした。 「こ、これは気、気の迷いデス! うっかりデス! 勘弁してデス! 見逃してデス!」 どうやって言い逃れようか、とろくでもない頭で必死に考えていると、閉じられたテラスのガラス戸越しに仔実装たちの姿が見える。 プラスチックのブロックや、ボールで自分の仔実装が遊んでいるではないか。 「あれはなんデスーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」 驚いてわめく親実装へ、男は親切にも教えてやった。 「公園に帰さないっていわれただけで、殺すと決めつけるお前が馬鹿なんだよ。 中々良さそうな仔らだからさ、飼うことにしたわ。 なあ、時には実装石にもこんなハッピーエンドなオチもあるんだよ。 で、お前はどうする? もう一度仔をダシにして見るか? おいおい、そんな媚をしても無駄だって。 だってお前をどれだけ苦しませて駆除しようか、たっぷり考えていたんだからな」 END
1 Re: Name:匿名石 2017/10/19-20:49:40 No:00005003[申告] |
因果応報 |
2 Re: Name:匿名石 2018/11/06-04:55:41 No:00005665[申告] |
基本的に虐待・虐殺派なんだけど
こういうシチュエーションでのハッピーエンドはアリ。 |
3 Re: Name:匿名石 2018/11/06-20:40:17 No:00005666[申告] |
名作、実装石の日常シリーズの第47話ですね。
どれも短編だけど完成度が高いんですよねえ。 自分もこんな面白いスクを書けるようになりたいものです。 |