タイトル:【?】 実装物語8 「しわだらけの手」
ファイル:実装物物語8.1.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:1308 レス数:1
初投稿日時:2010/01/02-15:25:24修正日時:2010/01/02-15:25:24
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     「しわだらけの手」


『お前はほんに良い子じゃミミ』
ミミのご主人である老婆はそう言うと、しわだらけの手でミミの頭を撫でた。

「デスー」

少しあごを引いて、嬉しそうに老婆に撫でられる。
もう何回頭を撫でられたろうか、この老婆は事あるごとにミミの頭を撫でて褒めてあげた。
ミミも頭を撫でられると嬉しくて仕方なかった、そしてしわだらけの手が大好きだった。

ミミがこの家に来たのは、偶然老婆が買い物帰りに出合った事からだ。
電柱の脇で泣いている仔実装がミミだった、
一人暮らしで寂しかった事もあり拾ってあげたのだが、その時の事をミミは憶えていない。
ただ差し伸べるしわだらけの手だけは、暖かい色でぼんやりと憶えていた。

家に連れらた頃は老婆もミミに手を焼いた。
元々野良実装だったミミは自分の欲望に忠実だった。
食べる物が不味いと皿をひっくり返したり、勝手に冷蔵庫を開けては中を漁った。

極め付けはトイレの躾が全く出来ていなかった事だ。
そこら中に糞をしては、まるで縄張りを示すように壁や柱に擦り付けた。
叱り付けると主人である老婆にさえ糞を投げつけた。

それでも老婆は根気強くミミに良い事悪い事を教えた。
その甲斐もあって次第にミミは老婆の言う事を聞くようになって行った。
何よりミミは言う事を守ると、褒めてくれるし頭を撫でてくれる事が嬉しかった。

今ではトイレも人間用の便器でする事も憶えた。
もう冷蔵庫を開けたり縄張りを主張するような事は無かった。

老婆が喜んでくれる、ミミにとってそれが何より優先する事だった。


今日も老婆は夫の仏壇の前で、線香をあげ手を合わせてお祈りをした。
ミミはなぜこんな事をするのか分からなかったが、老婆の真似をして手を合わせる。
これをすると老婆が褒めてくれて頭を撫でてくれるのだ。
夫が死んで以来、子もいない老婆に尋ねてくる人もいなかった、話し相手はミミだけだった。
終わるといつもの様に『良い子じゃ』と言って頭を撫でてくれた。

ミミは嬉しくて老婆の後を追って足にじゃれ付いた。
食事の用意をする老婆は、オカズの一つを手に取ると
『今日のオカズはミミの好きな玉子焼きじゃよ』そういって一切れミミの口に放り込んだ。


「デッスゥゥゥゥン」

クチャクチャと音を立てて玉子焼きを味わう、そしてまた老婆の足にしがみついた。

『ふふふ・・味見はもうええよ』

卵焼きが欲しいのもあるが、ミミは老婆の足を抱いていたかった。
甘えたら相手をしてくれるから嬉しかった。



そんな事が続いた日々にもやがて陰りが見えてくる。
寄る年波か老婆の体調が段々と悪くなっていったのだ。
布団に入っている事が多くなり、寝込みがちな日が多くなった。

ミミも何となく老婆が日に日に弱っていく事が分かった。
老婆の役に立ちたいと思ったが、実装石では出来る事に限界もあった。
水を持ってきたり、背中をさすったり、言われた事は何でもやった。
夜は老婆の布団に入り老婆の体を温めた。

ある寒い朝ミミは目が覚めると老婆が冷たい事が分かった。
ぽふぽふと体を叩いたがなんの反応もない。

水入れの口を老婆の口に入れたが、水はそのまま老婆の頬を流れるだけだ。
きっと寒いから起きないんだと、体に抱きつき老婆の体を擦ってみた。

お昼頃になってミミにも老婆がどうなったのか理解できて来た。

━━━ 大好きなご主人様が死んだ

ミミは老婆の前で大声を上げて泣いた、涙が拭いても拭いても溢れてきた。
暫くして落ち着いてきたので「えぐ!えぐ!」とえずきながら老婆の言った事を思い出した。

老婆は仏壇の前で『好きな人が線香をあげるとその時帰ってくるんじゃよ』とミミに言っていた。

ミミは線香を老婆の前に持ってくると、電子ライターで何度も付けようと頑張った。
老婆が電子ライターを使って火を点けていた事は知っていた。
ただ実装石の指では電子ライターをカチカチする事が難しかった。

それでも何度も試している内に偶然に火が点いた
一本の線香に火を点けると、老婆がやっていたようにナムナムと手を合わせて拝んでみる。
老婆を見たが全く動きがない・・・

今度は線香の束ごと火を点けて拝んでみた。

一生懸命拝んでいるミミには気が付かなかった。
束ごと燃やした線香が畳に燃え移り、その火がカーテンにまで達しようとしていた事を。

気が付くと家中に火が回り、取り返しのつかない事になっていた。

「デェェェェ!!!」

ミミは驚くと玄関の方へ走っていく、そこには老婆がミミの為に開けてくれた小さな散歩用の扉がある。
その扉に手をかけた時、ミミは後ろを振り返った。

ごうごうと燃え盛る老婆の寝室、ミミは何かを決意すると老婆の部屋へ戻って行った。







翌日完全に全焼して鎮火した老婆の家を消防隊員が調査をしていた。

『おい死体があったぞ』

同僚の声に数人が集まると、そこには焦げた布団が盛り上がり中に死体が入っている事を伺わせる。
布団を剥がすとやはり老婆の黒焦げ死体があった。

若い隊員が老婆の腕にしがみついてる物体を見て言った
『その小さいの、子供じゃないんですか』


隊長が言った
『いや、この家には老人が一人で住んでいたから子供はいないはずだぞ』
『良く見ろよ、こいつは実装石だ』


『でもなんで実装石が・・』

若い隊員の問いに不思議に思った隊長が実装石の黒焦げた死体をはがす。
背中の方は完全に煤の様になっていてボロボロと崩れた。

剥がして見ると、しわだらけの手がミミのしがみついた所だけ燃えずに残っていた。


終わり

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1 Re: Name:匿名石 2019/02/26-22:50:32 No:00005769[申告]
悲しいなあ
実装石はバカなうえに不器用だから悲しいなあ
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