タイトル:【筋肉】 マッソー石 【馬鹿】
ファイル:マッソー石.txt
作者:中将 総投稿数:51 総ダウンロード数:2132 レス数:1
初投稿日時:2009/11/25-05:02:35修正日時:2023/06/28-13:29:15
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寒空の中家に帰る。
ドアを開けるとむわっと吹き付ける熱風。

「…ただいま」
「フゥゥ…おかえり…なさい…テチィ」

シュバッ シュバッとキレのある動きで廊下の奥から現れる俺の飼い実装。
とうの昔にサイズが合わなくなった実装服は脱ぎ捨て、
今はパンツをレオタードのように肩から着ているこいつの名は「ハナコ」

上気した顔は耳までみっちりと筋肉が付き、赤く火照った全身がピクッピクッと脈動している。

「…ハナコ」
「なん…テチィ?(ムキッ)」
「朝より筋密度が上がってる気がするんだが気のせいか?」
「フゥゥ…(ムキッ) 流石ゴシュジンはお目が高い…テチィ(ムキッ)
 既にワタチのBODYは…12石力を超えたテチィ(ムキッ)」

基準がよくわからない。
しかし、たしかに実装石の1ダース位簡単に蹴散らせそうな力強さをハナコからは感じる。
なんかもっと洒落にならないパワーを秘めていそうだったが、恐いのでそれ以上突っ込まない。

「出かけている間、ちゃんと飯食ったか?」
「フゥゥ…トレーニングに夢中で忘れていたテチィ…(ムキッ)」

確かに部屋の隅に盛られた実装フードには手が付けられていない。
嘆息する。こいつは本当は飯を忘れていたわけではない。

「今プロテインを用意するから待っていなさい」
「かたじけない・・・テチィ(ムキムキッ)」

背筋が最も美しく見えるポージングでハナコは礼を言った。


         *         *         *


もともとハナコはこんな異常な実装石ではなかった。
そもそも自分は実装石の飼育に関してはそこそこ経験がある。
当初の予定ではごく真っ当にハナコを育て上げるつもりだったのだ。

何が悪いといえば某洋画劇場が良くない。
俺自身はぼんやりと画面をみていたのだが、こっそりケージの隙間から見ていたハナコは
画面の中で暴れまわる某州知事に釘付けになっていたらしい。

強いは正義。
筋肉こそが至上。

わかりやすいパワーの演出は小さな実装脳に革命をもたらし、
その日のうちからハナコは執拗に体いじめを始めた。

どこで方法を仕入れたのかといえば、やはり自分が付けっぱなしにしていたテレビの深夜通販で、
ニコついた外人が笑顔でトレーニングしているものを見て工夫したようだ。

遊び用のボールに体重を預けてバランスを取る。
スポンジブロックに拳を叩き込み脇を締める。
狭い水槽の中でダッシュとジョグを繰り返し肺活量を上げる。
動かない水槽の壁面を押し続けて筋肉に負荷をかける。

瞬発用、持久用、重量用、ダイエット用、ビルド用、あらゆるトレーニングをデタラメにこなし続け、
とうとう腹筋に筋が入り始めたころに慌てて自分はハナコを医者に連れて行った。



レントゲンを数枚撮り、医者は診断を下した。

「組成が実装石と変わってきていますね」
「まじでか」

いわく、実装石の肉体は本来筋肉と呼ばれるものがついていない。
血液と体液がポンプのように送り出され、スポンジ状の身体が収縮し動きを織り成すらしい。

しかし、画面の中で暴れる筋肉を凝視し続けたハナコは違う。

(ここを鍛えればこれだけの動きが出来るテチ…)
(ここにオニクがあればもっとダイナミックに動けるテチィ…)

思い込みは偽石に指令を出す。
スポンジだった肉体にアシスト用の腱が生まれ、わずかな紐であった筋肉はどんどん膨らみ、
やがて肥大した肉紐…筋肉に圧縮されたスポンジは硬度を持つ骨格となった。
カラを持たぬ無脊椎動物が、外側から無理やり脊椎動物に作りかえられていったに近い。
つまり、要約すると、

「マラ実装のマラをほぐして貼り付けていった感じでしょうか」
「勘弁していただきたい」

俺は医者の解説に思わず顔を覆った。


         *         *         *


ただまあ、飼うとなれば案外悪いことでもない。
なにより粗相をしない。
括約筋が活躍しているのである。

ためしにホラー映画を付けてみる。
序盤の盛り上がり、いけ好かないケバ女が無残にもエロく殺されるシーンでも…

「ハンッ…テチィ(ムキリ)」

体に合わせて心までマッチョに成り下…成り上がったハナコは鼻息ひとつ、
えくぼの浮き出たケツで画面の前に仁王立ち、一歩も引かない姿勢で2時間凌ぎきったのである。

代わりにひりだす時は本気糞を出す。
もはや人のそれといっても色以外大差ないブツをひり出すようになったハナコには
自分でトイレの処理をするように躾をしなおす必要があった。


         *         *         *


公園の散歩も一味違う。
外出用にはフードのついたパーカーを着せるのだが、野良たちの反応がまた違う。
普通飼い実装には敵意と押し殺した憧憬の視線が向けられるのだが、
ハナコにはなにやら

「…そそるデス…」
「めちゃくちゃにされてしまいたいテチ…」

ピンクというか、とろけた赤緑の視線が向けられるのである。

考えれば無理もない。実装石の中で好色を代表するのはマラ実装だが、こいつらは自分の衝動も抑えずに
周囲に暴行を振るい散らすしか能がないことがほとんどだ。
それが、全身にマラの持つフェロモンを湛えながらも自信に満ち溢れた風に力強く闊歩しているのだ。



一回リアルにマラの集団に襲われた時がある。
しかしハナコは

「フン(ムキムキリ)」
「デデェ!? ワタシのマラが弾かれたデスゥ!?」
「締りが…足らんテチィ…(ムキリ)…隙あり、テチ(ドムズ)」
「デゲオッ!?」
「ホレホレ…テチィ(ムキ ビクン ゴリュン)」
「ボアーーーーーーーッ!?」

孔筋のみでマラの侵入を拒んだばかりか、鍛え上げられた片手をマラの総排泄孔に突きかえし、
筋肉の脈動だけでそこにいたマラ付きを全て撃退してしまった。

両手をマラの糞汁で濡らしながら勝利にニヒルに笑うハナコを見た俺は

(あ、今放置して帰るのがこいつと手を切る分水嶺かなー)

と一瞬思ったくらいである。


         *         *         *


やがて月日は流れ、ハナコの肉体はケージに収まらなくなってきた。
粗相もしないので部屋飼いを許可し、水ペットボトルや雑誌束などのトレーニンググッズを調達し、
部屋のものを壊さないことを前提に比較的自由にやらせているのである。
一度窓割を仕掛けようと庭に入り込んだ親子がいたが、窓越しにハナコの姿を見ると
生物としての優劣を見せ付けられたようにすごすごと退散していった。

そして今、
ハナコの筋肉は初冬の寒気にも負けずに育ち続けているのである。


         *         *         *


「ゴシュジン…」
「なんだハナコ」
「ご覧なさい…テチ(ムキッ ムキムキッ)」
「うん、ごめんなさいな、謝るときは」
「フゥゥ…テチ」

結局一緒に晩飯を取ることになった俺とハナコ。
プロテインを1咀嚼するとともにポージングをとるハナコが、なぜかポツリと謝ってきた。
餌を残したことに対する謝罪だろうか…確かに普通は許せないが、
こちらの目的としてはプロテインを摂ってくれれば別にそれでも構わないわけで・・・

「ゴシュジンは…ワタチが気持ち悪くない・・・テチ(ムキッ)?」
「うん、キモイ」
「テジィ」

そこははっきりさせたかったので即答。
へこむハナコ。
でもまあ、へこませたくて言ったわけでもないので続ける。

「まあ、別にキモイからどうってこともない」
「テェェ…フゥゥ・・・」
「面白いからやらせているだけだ。多少キモくても謝るようなことじゃない」
「テェ」

久しぶりに普通の仔実装のような気の抜けた声を上げるハナコ。
なんだか微妙な空気になってしまったが、俺が促すとハナコも食事に戻った。

別に嘘を言ったつもりもない。


これが俺の本心である。



ハナコが理想的な肉になってくれるなら、生きている時の外見なぞどうでもいいのだ。





俺は愛護派ではない。
しかし、虐待派でもない。
もちろん観察派じゃない。
鍋派が一番近いかもしれない。

俺は畜産派。
実装石を立派な生体に育て上げ、最高級の食肉とし、実装肉屋に卸すのが命題なのだ。
かつて自分が送り出した実装石たちは、高い評価と共に副業としては結構な稼ぎになってくれた。

そんな俺にとってもここまで肉質の違う実装石は初めてである。

目の前で筋肉質に二コリと(キモイ)笑うこいつは、いくらで引き取ってもらえるのだろう。
抑えたよう小さく笑う俺には、目の前の極上肉は気が付いていないようだった。





完
















【後日談】

「なんで引き取ってもらえねえんだよ!」
「だってこいつの組成人肉とほとんど同じなんだろ?誰も食いたくねえんだよ!」
「いや、普通人肉の味とか知らないだろ?」
「お前鍋の中でゆだってるプチ人間の背筋食いたい?」
「無理」
「諦めろ」
「うう…」

「ゴシュジンどうした…テチ? フゥゥ」
「なんでもねえッ!…いっそその道の世界の頂点でも目指すかチクショウ」
「不足は…(ムキッ)…ないテチィ…フゥゥ」


ハナコが世界大会でどんな活躍を見せたかはまた別の話。






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中将◆.YWn66GaPQ

IDでがしさんの「看るもの」を読んで着想しました。
しかしリスペクトなはずが、なんでこんなことになったんだろう?

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1 Re: Name:匿名石 2019/03/30-14:47:05 No:00005835[申告]
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