タイトル:【観】 冬篭りと春
ファイル:冬篭りと春.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:5293 レス数:3
初投稿日時:2009/04/09-22:57:57修正日時:2009/04/09-22:57:57
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冬篭りと春



 秋も終わり日に日に寒さが増す中、山間にある二次町では実装石が冬篭りの為に、各々手に持つビニール袋にドン
グリや乾燥した落ち葉を詰められるだけ詰めては、巣に持ち込んで再び拾いに戻る姿をあちこちで見かける。
 二次町の冬はとても寒くまた、雪で覆われるのでここに住む野良実装石達は他の地域の実装石とは違い、冬の間は
巣に閉じこもって春がおとづれるまで眠りにつくという習性がある。
 なので夏の終わり頃からあちこちで今ある巣を改良して冬に備える石、今の巣とは別に冬篭り用の巣を作って冬に
備える石など、各々自分の親から受け継いだ方法で冬篭りの準備をしている。通常の巣では冬を乗り越えられないか
らだ。ただ冬篭りの準備を全くしない実装石も存在するが、こういった実装石は冬の到来と共に早々とあの世に召さ
れていく。そんな実装石をよそに、他の実装石達は冬篭りの為にラストスパートをかけていた。

 公園の隅で人も実装石も滅多に立ち入らない場所で、一匹の成体実装が今まで使用していたのだろうダンボールハ
ウスを畳んで、生垣の中に押し込んでいた。この実装石は冬篭り用に別の巣を作ったので今まで使っていたダンボー
ルハウスは春になるまで他の実装石に取られないよう隠していたのだ。

「ママー。冬のお家の近くで食べられる物を一杯拾ってきたテチー」
「ワタチも一杯拾ったテチュー」

 親実装がダンボールを生垣の中に隠し終わった時、この親実装の仔であろう二匹の仔実装が食べ物が詰まった小さ
なビニール袋を二匹で持ちながら親実装の元まで駆け寄ってくる。

「お前達ママが戻るまで冬のお家の中で大人しく待ってるよう言ったはずデスー。もし同属やニンゲンに見つかった
ら大変な事になるデス」
「ママごめんなさいテチ。周りにニンゲンも他の実装石もいなかったから大丈夫と思ったテチ」
「ママ、オネチャを怒らないでテチュ。ワタチがママの居ない間に食べ物を探してママの手伝いをしようとオネチャを誘ったんテチュ。だか
らオネチャを怒らないでテチュ」
「お前達が少しでもママの手伝いをしたいと思ったのは嬉しいデス。でも次からはママがいない時はお家で大人しく
してるんデス。お前達に何かあったらママはとても悲しいデス」

 親実装に怒られ肩を落としてしゅんとしている二匹の仔実装を親実装はぎゅっと抱きしめてやり、餌探しで汚れた
のだろう二匹の顔を服の袖で拭ってやると、二匹の手を取り冬篭り用の巣へと歩いていく。

「それにしても、これだけのキノコ一体どこにあったデス?」

 公園の奥深く。小高い丘の斜面に同属や人間に見つからないよう夏の終わりから苦労して掘った冬篭り用横穴式洞
窟の巣の前で親実装は仔実装達の袋の中から一杯のキノコを取り出して、どこに生えていたのか聞き出す。

「冬のお家に近い森の中に一杯生えていたテチ」
「まだまだ一杯あったテチュ。でも袋にそれ以上入らなかったテチュ」
「デデッ!それは凄いデス!このキノコと朝拾ってきたご飯を食べたら早速キノコを取りに行くデス!」

 親実装家族は仔実装達が拾ってきたキノコと親実装が朝取ってきた生ゴミを早々に食べ初め、食後に仔実装達がキ
ノコを見つけたと言う森まで足を運ぶ事にした。
 餌を食べ終わった親実装家族は仔実装が言うキノコが生えていた森へ入っていくと、森の一箇所に数多くのキノコ
が生えていた。

「凄いデス!キノコが一杯あるデス!それに同属もここまで来てないようだから、ワタシ達で食い放題デス!こんな
素敵な場所を見つけるなんてさすがワタシの仔達デス。ママは嬉しいデス」
「ママに褒められて嬉しいテチュー♪」
「ママ早く一緒にキノコを食べようテチ。ワタチもう我慢できないテチ」
「そうするデス。でも一応同属やニンゲンが来るかもしれないから、あんまりママから離れてはダメデス。それじゃ
あ冬に備えてお腹がはちきれるまで食べるデスー」

 一応自分からあまり離れるなと念を押した後に親実装家族は目に付くキノコを食べ始める。これから冬篭りをする
からお腹一杯食べて脂肪と栄養を蓄えねばならないのだ。親実装家族はキノコを抜いては食べ抜いては食べと次々に
胃に収めていく。
 親実装は久しぶりに一杯食べるキノコに満足しながらも仔実装達に目を向けると仔実装達はキノコを食べながら、
キノコの感触が楽しいのだろう別のキノコに飛び込んでは弾き飛ばされるという遊びをしていた。親実装はそんな事
で体力を使うなと仔実装達を叱る。だがその表情は笑顔だった。これまでこんなにも騒いで遊ばせてやる事が出来な
かったからだ。騒げば同属や人間に見つかるかもしれない。しかしここなら少しぐらい大丈夫だろうと思った。それ
にもしかしたら冬篭りに失敗して家族そろって死ぬかもしれない。だから命一杯遊ばせてやりたかった。
 キノコを食べ続けていた親実装家族は日が傾き夕方になると、冬篭り用の巣に戻っていった。

「ふぅ…。後は出入り口のドアを塞げば冬篭りの準備は完了デス」

 横穴式洞窟の巣の中で親実装は大きくため息をつきながら巣の中を見回して冬篭りの準備が万端なのを確認する。
 冬篭り用の洞窟内は成体実装が立てる程の高さは無いが、そこそこの奥行きと幅があり成体実装一匹に仔実装二匹
が寝て冬を越すには十分な環境だった。洞窟内には乾燥した落ち葉が敷き詰められているから保温も完璧だし、ドン
グリの備蓄も十分にあるから、もし冬篭りの途中に目が覚めても大丈夫だし、春になった時に最初に食べる分も別に
ちゃんと確保してある。春になった時最初に食べる分を確保していないで外に餌取りに行くと、冬篭りで体力が失わ
れた状態なので同属に襲われたら太刀打ちできず、せっかく冬を越せたのに同属の胃袋に収まってしまう事になる。
 もう一度最後の確認をして大丈夫と判断した親実装は巣穴の出入り口に枯れ枝で偽装を施し、洞窟内から半分程出
入り口を土で埋める。作業が終わった辺りで睡魔が襲ってきたのか親実装はゆっくりとした動作で手についた土を払
い落とすと枯葉の上で寝転がっている仔実装達の下まで戻り横になる。

「テチー……テチー……」
「お腹一杯テチュー……」
「お前達おやすみデス。次に目が覚めた時は、暖かい春デス………」

 寝息や寝言を言っている仔実装達を撫で終わると親実装も眠りについた。長い長い冬を寝て過ごすのだ。目が覚め
た時は春だと、ちゃんと冬篭りが成功するようにと祈りながら。
 その日の夜、二次町に雪が降り本格的に冬が訪れた。


 降り積もった雪も解け、ほとんど見られなくなった二次町。地面には若葉が多い春の訪れを告げる。人も動物も待
ちに待った春がきたのだ。
 冬篭りしていて冬の間見られなかった実装石達の姿も春の訪れと共に目を覚ましたようで、公園や町の片隅でぽつ
りぽつり見かけるようになった。その姿は痩せ衰えており、冬篭りの過酷さを物語っていた。


「ふわぁぁぁ……。目が覚めたデス……。春がきたデス?」

 横穴式洞窟で冬篭りをしていた親実装は暖かな陽気で目が覚め、冬の間ずっと寝ていたので鈍った体を伸びをして
ほぐすと、目を擦りながら出入り口まで這って行き隙間から外の様子を伺う。隙間から見た景色は辺りが新緑に覆わ
れ春が来たことを物語っていた。

「春デスッ!ワタシ達家族は無事に冬を乗り越えたデスッ!!!」

 無事冬篭りを成功させた事に気分が高揚したのか、親実装はじめじめした洞窟内の空気を入れ替える為に出入り口
を半分程埋めていた土と枯れ枝を取り払うと洞窟内に新鮮な空気と太陽の光がわずかながら差し込む。

「さぁ、お前達起きるデス。暖かな春デスー」

 春の訪れが嬉しい親実装はまだ寝ている仔実装達を起こしに近寄り、声をかけながら仔実装達の体を揺するとそこ
には姿を変えた仔実装達の死体が横たわっていた。

「デッデギャアァァァァァッ!!な、なんなんデスッ!?何でワタシの仔達にキノコが生えてるデスッ!?」

 親実装が目にしたのは目や鼻、口に耳、総排泄口と穴という穴や体中から細長いキノコをぎっちり生えていて仔実
装本体はキノコに養分を吸われたのか干からびた姿であった。
 冬篭りをする前にキノコが一杯あるからと仔実装達はほとんど噛まずに食べ、ダイブして、糞をする事無くそのま
ま冬篭りに入ったので体内や服に残った菌が、このジメジメとした洞窟内で仔実装を媒体に成長したのだろう。親実
装にキノコが生えなかったのは、ダイブしなかった事もあるが成体の方が消化力も強かったので菌が消化されたのだ
ろう。だがそんな事を知る由もない親実装は仔実装達を抱き起こすと必死に声をかけ、体から生えたキノコを抜きに
かかる。

「お前達何でキノコが生えてるデス?春が来たんデス。ワタシ達は冬を乗り越えたんデス!キノコなんかに負けちゃ
ダメデス!ママがお前達を助けてやるデス!」
「テッ…テッ…」
「…………」

 親実装は大きな声を上げながらも仔実装達から生えているキノコを一本一本丁寧に抜いていく。仔実装の体から生
えているのだから、一気に抜くと仔実装に被害を与えると思ったのだろう。
 親実装が一本一本キノコを抜くたびに一匹の仔実装はまだ生きているのかキノコが抜かれるたびに小さい声をあげ
ながら体をぴくんぴくんと振るわせる。だがもう一匹の仔実装は全く反応を見せず、力なく体を横たえていた。

「デジャァァァァァァァッ!頑張るデス!せっかく冬を乗り越えたんデス!春はアマアマも一杯食べられるんデス!
ママと一緒にお腹一杯幸せ生活を送るんデ、デギャァァァァァァ!」

 まだ生きていると思われる仔実装に必死に声をかけながらキノコを抜いていた親実装は、突然後頭部にすさまじい
激痛を感じて、悲鳴を上げながら後ろを振り返ると、洞窟の出入り口に先端が血に濡れた割り箸で武装し血走った眼
差しをした成体実装石が立ちふさがっていた。
 冬篭りから目覚め、餌探しの為に公園内を歩いている時に偶然にも親実装の大きな声を聞いて現れたようだ。

「デジャァァァァ!お前何をするデス!ここはワタシの家デス!殺されたくなかったら、さっさと何処かに消えうせ
ろデ、デギャァァァァ!目が…目が痛いデズゥーーー!」

 痛む後頭部を押さえながらも精一杯怒声をあげる親実装であったが、片方の目に割り箸を突き刺され痛みの余り目
を押さえながら洞窟内をのた打ち回った。

「黙るデスッ!殺されたくなかったら、そこのキノコや食べ物をワタシに差し出すデスッ!そうしたら命だけは助け
てやるデスッ!」
「デデェッ!?食べ物はいいけどキノコは勘弁してくれデス。これはキノコに見えてもワタシの仔デギャァァァァッ!」

 目を刺された事で弱気になった親実装だったが、何とか仔だけは勘弁してくれと言うも次は足を刺された。

「何言ってるデスッ!キノコを生やした仔なんて居る訳無いデス!いいからさっさとよこすデス!」
「本当なんデス。ワタシも何で仔からキノコが生えているか解らないんデスが、これは本当にワタシの仔なんデス」
「うるさいデジャァァァァッ!早く食べ物を持って帰らないと巣で待ってる仔達が死んでしまうデス!だから早くよ
こすデズゥーーーーー!」

 キノコ仔実装を差し出すのに躊躇する親実装に割り箸実装はキレて執拗に割り箸で親実装を突き刺していく。

「やめてデスッ!痛いデスッ!本当にこれはワタシの仔なんデスッ!お前も仔を持つ親なら仔の大切さは解るはずデ
ギャァァァァ!」

 親実装が必死に説得しようとも割り箸実装は聞く耳を持たず、それから数分間親実装を割り箸で突き刺したり叩い
たりし、弱らせると髪を引きずって洞窟の外に連れ出すと髪の毛や服を毟り取った。

「ハァハァハァ……全く手間をかけさせやがってデス。ワタシは同属食いなんて野蛮な事はしない高貴な実装石だか
ら、お前の命だけは助けてやるデス。感謝するデス」

 そう言い残し割り箸実装はキノコ仔実装達と親実装が秋に貯めたドングリを持ち去って行った。後に残されたのは
禿裸にされたガリガリにやせ細った傷だらけの親実装だけだった。

「オロローンオロローン。何で解ってくれなかったデスゥ……。あれはワタシの仔なんデス……。せっかく春を迎え
られたのに、なんで仔からキノコが生えていたデス……。ワタシ達はなんにも悪い事はしてないデス。ただ幸せに暮
らしていただけデス」

 親実装は刺され動かぬ体に鞭打って何とか洞窟内にたどり着くと、数本残された仔実装から抜き取ったキノコを抱
きかかえ泣き続けた。せっかく冬を乗り越えたのに、一気にどん底に叩き落された不幸を呪いながら。


 二次町に春は訪れたが大半の実装石は雪で巣を押しつぶされたり、防寒対策が十分ではなく凍死したりと冬篭りに
失敗し、秋に比べてその数を大きく減らしていた。



END

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第十段スクです。
かなり間が空きましたが前作、定期健診に感想を下された方に、この場を通してお礼申し上げます。

少しでも楽しんでいただければ幸いです。今後ももっと良い文が書けるよう精進いたします。

では、最後まで読んで下さった方、ありがとうございました。

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1 Re: Name:匿名石 2019/02/21-21:24:15 No:00005760[申告]
生意気にも冬籠りなんかしやがって
準備もしくは冬籠り中に強襲したいぜ
2 Re: Name:匿名石 2019/02/23-00:08:16 No:00005762[申告]
悲劇だ
愚かな仔は間引くべし
仔は春に生んで秋までには独立させるべし
愚かなり親蟲
3 Re: Name:匿名石 2019/02/25-22:54:14 No:00005765[申告]
春に出てきた他の実装石の存在が蛇足に思えた。
春になって仔実装が茸の苗床になったってネタだけで十分では?
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