台湾に行ってきました。 俺と利明とアイディで、卒業旅行に台湾に行こうぜ! って話になった。 なぜ台湾かというと、アイディ(本名:會梯(アイ・デイ))が台湾人だから。 「帰省するけど、いっしょにくるか?」 と誘われた。 飛行機で約2時間で台湾に着いた。 「うわあ、海外だ! 台湾っぽい!」 「すげー! 文字が日本語じゃない!」 俺と利明は海外旅行なんて初めてだったから、ちょっと騒いだ。 「台湾っぽいってなんだよ(笑) まだ空港だぞ」 笑いながら、アイディが言う。 アイディの日本語は、イントネーションも言い回しも日本語のそれだ。 顔も日本人と変わらないから、普通に日本人のように思える。 「預けた荷物、とりに行こうぜ」 荷物受け取り所で、預けたキャリーバッグが流れているのを待っていると、 「なあ、悪いけど、俺の荷物、とってきてくんない?」 と、利明が言ってきた。 「自分で行けよ」 「頼むよ」 「なんかあった?」 「あれ、見ろよ、あれ」 指さす方を見ると、普通の荷物受取所だ。 ここと同じように荷物が流れている。 「あれがどうかした?」 「荷物の中を見てみろよ」 荷物はバッグとかではなくて、プラスチックケースだった。 そのケースに、窓がついている。 目を凝らしてみると、そこには蠢くものがいた。 「あ、実装石」 緑と赤の目がギラギラしていて、耳を凝らすと、デスーデスーと声が聞こえる。 暴れているらしくて、ケースが揺れている。 普通の荷物受け取り所ではなくて、ペット受取所らしい。 実装石以外にも、犬や猫がいる。 だが、実装石が多くて、赤と緑が不気味に光っているケースがやたら流れている様はシュールだ。 「俺、実装石ダメなんだよ。だから、ケースから出てくる前にここから逃げたい。今すぐ逃げたい」 実装石が汚くて苦手だという人がいるが、恐怖しているやつは初めて見た。 「なんで、そんなに怖がるんだよ。犬とかなら分かるけどさ」 「あの顔がダメ。目が合ったら呪われそう。夢に出てきそう」 世の中にはいろんな人がいたもんだ。 ともあれ、利明の意外な一面を見た後、台北行きのバスに乗った。 いろいろな国籍の人がいたが、やたら日本人が多かった。 利明の希望で一番後ろの席に座った。 実装石を抱えたマダムが多かったせいだろう。 デスデス、デッスーンとうるさい車内で、利明は耳をふさいでいた。 「ここらへんで昼飯でも食べようぜ。何食べたい?」 バスから降りて、アイディが言った。 「アイディのお勧めでいいよ」 「OK! じゃあ、あそこにしようかな。ちょっと歩くけど」 アイディの後ろを歩く。 すれ違う人は、顔も服装も髪型も日本人みたいだけど、話す言葉がまったく違う。 改めて、異国に来たんだなぁって感じがする。 歩道が広いし、道路が片道4車線もある。 ビルも建ってるし、以外と栄えているんだなぁ。 しかも、歩道がきれい。 さっきからゴミが一つも見当たらない。 だけど、道路が汚い気がする。 緑色のシミがやたら目に付く。 って、よく見たら、実装石じゃないか。 乾燥してカピカピになったペチャンコの実装石や、 轢かれたてホヤホヤの、陥没して尻から糞を盛大に撒き散らしている実装石もいた。 台湾でも、相変わらず死んでるんだな。 利明は気づいてないっぽいから黙っていよう。 「うわっ! うわっ!」 利明がいきなり騒ぐ。 そして、俺の後ろに隠れる。 見ると、実装石がこちらに向かって歩いてくる。 「実装石が歩いているなんて、珍しいね。渡りかな?」 と言うと、 「ああ、あれは飼い実装だろ。散歩中かな」 と、アイディがそう答える。 「首輪してないぜ」 「首輪なんかしないよ。日本じゃ、首輪ないと保健所行きになったり、 虐待派にやられたりするけど、台湾じゃそういうことないね」 「へえ」 よく見ると、歩道を歩いている実装石がちらほらいた。 他にも、屋台で餌をもらっている実装石や、迷惑なことに歩道で大の字で寝ているやつもいた。 日本じゃ蹴飛ばすところだが、台湾の人たちは、わざわざ避けて通っている。 中には飴玉を投げてあげる人もいる。 親切な国民性だな。 「日本に帰りたい」 利明はうめいた。 「この店の餃子がうまいんだ。日本人にも口に合うと思うよ」 結構立派な店だった。 「高そうだから、外の屋台でもいいよ」 「高い店だけど、日本円だと1000円くらいで結構食えるよ。日本と比べて、物価安いからね」 と言うので、そこにした。 餃子はうまかった。 醤油がなぜか甘かった…。 仕方ないので、ラー油だけかけて食べた。 「うわっ!」 またか。利明が騒ぐ。 視線の先には、例によって、実装石。 のそのそデスデスと闊歩している。 「飲食店にも実装石がいるんだ」 「ああ、日本じゃありえない光景だね」 「今、特に衛生面がうるさいからな」 日本なら、飲食店に実装石がいた、なんて話になったら、それだけで店はつぶれるだろう。 「台湾の実装石は、なんかおとなしいな。あんまり鳴かないし」 「まあ、日本のはうるさいよな」 「日本の実装石は、人に媚びるし、つきまとってくるからなぁ」 この前は、寄ってくる実装石を無視していたら、糞を投げられそうになった。 あの時は、虐待派の気持ちが分かったような気がした。 アイディと俺でそんな暢気なことを言っていると、 テーブルの下にもぐりこんできた。 利明は逃げた。 テーブルの下の実装石はしばらく居座ったあと、テーブルから離れていった。 面倒だけど、利明を呼びに行くか。 立ち上がり、なんとなく実装石が行く方向を見ると店員がいた。 実装石が客のところに行ったことで、店員がそいつを外に追っ払ってくれるのかと思いきや、皿を下に置く。 そこには残飯が。 実装石はムシャムシャクチャクチャ食べ始めた。 「飼ってるんかい!」 思わずつっこんだ。 せめて、店の裏で飼って欲しい。 せっかくなので、他にもいろいろ注文することにした。 メニュー表をみる。 漢字なので、なんとなくニュアンスが分かるが、見たことない漢字や、料理名もいっぱいある。 「これって何?」 臭豆腐石 「ああ、これね。うまいよ。でも、クセがあるよ。日本人の味覚にはあわないかも」 「せっかくだし、食べてみるよ。記念記念」 餃子はうまかったが、日本向けの味のような気がした。 せっかくだから、本当の台湾料理を食べてみよう。 運ばれてきた料理は、麻婆豆腐と豚汁を足して2で割ったようなな料理だった。 何が運ばれてくるんだろうと思ったが、なかなか普通にうまそうじゃないか。 「いただきます!」 口に運ぶ。 「ぐっ(@д@) ぐあああああああああああ!」 叫んだ。 いや、呻いたというべきか。 あまりの臭さに、声が出ない。 いまだかつて、こんなにくさいニオイをかいだことがあっただろうか。 そう、例えるなら、公衆便所。 公衆便所のニオイを100倍濃くしたらこんな感じの臭いになる 脳天に突き抜けるニオイ。 異空間への扉と繋がった気がした。 アイディが曰く、 臭豆腐石 豆腐で作られる加工食品。中国、台湾、香港などで食べられている。 主に軽食として屋台で売られるが、レストランで提供される場合もある。 植物の汁と石灰等を混合し、納豆菌と酪酸菌によって発酵させた 漬け汁に豆腐と輪切りにした実装石を一晩程度つけ込む。 豆腐や実装石自体の発酵はほとんどしていないが、 豆腐表面の植物性タンパク質が、漬け汁の作用で一部アミノ酸に変化し、 独特の風味と強烈な臭気を発するようになる。 中国、台湾、香港などの地域では広く食べられているが、 人によって好みが分かれ地元民であっても食べられない者もいる。 (Jispediaより抜粋) 「ちょ…、おま…、それ、早く言えよ…」 利明を見ると、気絶していた。 味がどうこうというより、実装石というワードがダメだったんだろう。 かわいそうに、気絶しながらも目に涙をためていた。 (了) _______________________ 過去スク 実装石のお食事シリーズ 実装石を殺そう 山月実装せ記 実装石のお食事では、たくさんの感想ありがとうございました! アドバイスともても嬉しいです! 実装石に出会えて、皆さんと出会えて本当に良かったと思います! 無視されたらどうしようとか、けなされたらどうしようとか、 すごい不安になりながら書いてましたが、皆さんの感想のおかげで 楽しい実装ライフを送っています。 皆さんが読んでよかったと思える作品が書けるようにこれからも頑張ります! 最近、IDスレの存在を知って、あちらの書き込みを見ています。 あっちが本家なんですね。かなり活発に書き込みがあってビックリ。 中将さん、相変わらず素敵な作品を書いていてよかったです。 空襲さんやクエストさん、うじやまさんの絵が見られて幸せ。 でも怖いので書き込む勇気が…。 白保で感想くれる方が、いかに優しくて、真摯な意見をくれるのか、思い知らされました。 ありがたや(—人—)