タイトル:【観察】 実装石の日常 バールのような物
ファイル:実装石の日常 36.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:21933 レス数:3
初投稿日時:2009/02/13-17:55:57修正日時:2009/02/13-17:55:57
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男は右手の上に得意満面の仔実装を乗せ、左手にはバールのようなものをぶら下げて公園の中を歩いていた。

「グズグズするなテチィ、奴隷ニンゲン!」

「はいはい、ご主人様」



 実装石の日常 バールのような物




少し前、この野良の仔実装はひどく親実装に叱られてダンボールを飛び出した。

「勝手にお外へ出たら駄目デス!」

「テチャアアアッ」

泣きながら7女が飛び出す。

「7女ちゃん!」

「放っておけデス! 少し頭を冷やさせるデス—!!」

親実装は呼び止める姉たちを怒鳴る。

彼女は本気で怒っていたのは理由があった。

彼女が留守をしている間に勝手にダンボールから抜け出し、こともあろうに虐待派へ声をかけようとしていたのだ。

寸でのところで親実装が茂みに引っ張りこまなければ、殺されていた。

「あの馬鹿がどうすれば治るか、見当もつかないデス」

「ママ、でもまた虐待派を見つけたら」

「……この公園にはめったに虐待派は来ないから、安心するデス—」

と優しい表情で優しい次女の頭を撫でてやる。





「ママは頭が悪いテチ—!」

飛び出した7女、不満が収まらない。

……どうして、ダンボールの中でじっとしていなければいけないのか。

……どうして、ニンゲンを恐れないといけないのか。

「私たちは賢くて美しくて強いテチ—! なんでニンゲンなんかを怖がるテチィィィ!」

地面を蹴飛ばしている7女を大きな影が覆った。

「テチ?」

と、顔を上げると見下ろす一人の男性と目が合う。

突然の急接近に7女は驚いて声も出ない。

だが気を取り直すと、やおら突進し

「テチテチ!」

と男性の靴先を懸命に蹴飛ばす。

「……………」

男性は沈黙していたがいきなり声を上げる。

「うわあ、やられたぁあああ」

全然痛くなさそうな悲鳴を上げながらひざまづく。

「強い! あなたは強すぎるぅ!」

ゴールデンラズベリー賞の最低主演男優賞間違いなしの思い切り棒読みのセリフを言う男。

あまりに思うとおり進むので、少し戸惑っていた7女は、慌てながら断言した。

「そうテチ! 私は強いテチ! お前は宇宙で一番強い私の奴隷ニンゲンになったテチ—!」




*************************************




仔実装姉妹6匹がダンボールを隠す茂みの周囲で遊んでいた。

親実装はそれを見ながらダンボールのほこりを出し、貴重なタオルを組み合わせた小枝の上に乗せ干している。

飛び出した7女の事が気がかりだが、実際はこの公園へ虐待派はあまりやって来ないのでそれほど心配でもない。

さて、次はダンボールの上に張ったビニールを交換しようかとダンボールの中へ予備を取りに行く。

ところが外がテチテチ騒がしい、親実装は注意しようと外へ出ると、7女を手に乗せた男の人影があった。

「すごい! ニンゲンテチ—!」

「ママ! ママァ! 7女ちゃんが帰ってきたテチ!」

「怖いテチ! ママ—! ママ!」

口々に騒ぐ仔実装だが、親実装は人間の姿を見上げて確認すると、ぽとりとビニールを手から落とす。





               それから深い深い、これ以上ないほど、とても深いため息をつく。





「終わったデス」

と言う声はあまりに他人事であった。



いつもと違う親の様子に、仔実装は7女を含めて静まり返る。

7女はテチテチ騒いで地上へ降ろさせ、賢い3女は親の元に駆け寄る。

「何が終わったテチ?」

「今から私たち一家はあのニンゲンさんに悲しいことをされるデス。

あの手に持ってる物、バールのような物を持ってるニンゲンさんは大抵私たちを襲うデス」

「……でもそんな様子はないテチ、7女ちゃんの言う事を聞くテチ、大丈夫テ」

「それはこの場所を知るための演技デス、その気になれば一瞬でみんな悲しいことをされるデス」

いつのまにかリンガルを片手にもつ男を見上げる親実装。

「ああ、俺はお前たちを殺す。 しかしお前は賢いな」

「我が仔もろくに躾けられなかった愚か者デス—」

「何を、ごちゃごちゃ言ってるテチィ!!!!」

話についていけない7女が喚く。

「こいつは私の奴隷テチ—————。 さっき私が降参させたテチ! 弱いテチ!」

調子づいたのか7女の口は止まることを知らない。

「ニンゲンなんて弱いテチ、簡単にやっつけられたテチ!」

「それはニンゲンの嘘デス」

「そんなの嘘テチ」

「7女、よく考えるデス。 私たちが強ければ、公園から出てもっと広い世界で暮らしているデス。 ニンゲンの住むところにいるデス」

「………………嘘、テチィ」

「公園中の仲間が集まっても、ニンゲン1人にも勝てないデス。 それどころか、ニンゲンがその気になれば、

この公園の仲間は半日もかからずにみんな殺されちゃうデス」

「………………そんなの今までなかったテチ」

「その必要が無いくらい、ニンゲンにとって私たちはどうでもいい存在デス」

「………………」

「そのニンゲンに目を付けられたデス、もう私たちは終わったデス」

ムキになって7女が言う。

「でもさっき私がこのニンゲンをやっつけたテチ! 奴隷にしたテ———チ!」

「そうテチ!」

乱暴者の5女が追従する。

「心配なら私がこいつを折檻してやるテチ!!!!」

そう言いながら、テチャ——————————と気合を入れて5女がぺちぺち男の靴先に殴りかかる。

20ほども殴ると5女の息が上がってしまう。

どういうわけか自信満々の笑顔で家族一同のほうを振り返る。

「ね、こいつは弱テベジャアッ!」

哀れな5女は真上から靴で踏み潰され、眼球が破裂し、耳からピピッと脳漿を噴き出させ、口から血反吐を悲鳴と一緒に吐き出しながら
靴底の下に消え去った。

姉妹たちは凍り付いてその惨事を眺めていた。 いや、抜け目ない6女がそっと家族から離れてダンボールへ走っていく。

男はその姿を全て見ながら何もしない。

「だから、ママが言ったデス。 このバールのような物を持っているニンゲンさんに近づいてはいけない、と」

冷静すぎる親の声が終わるや否や姉妹たちの悲鳴が起こる。

「テチャ——————————!!!! 5女ちゃんが潰れちゃったテチ! 5女ちゃんがああああああああああああ!」

「殺されちゃうテチ! 殺されちゃうテチィィィィ——————————イイイイイイイイ!!」

「逃げるテチ、みんな逃げるテチィ!」

「こんな、おかしいテチ! さっき私がやっつけたテチ! やっつけたばかりテチィ!」

「だめテチ、お家を捨てるわけにはいかないテチ! みんなでお愛想して助けてもらうテチ! テチュ〜〜〜〜〜〜ン」

「テヒャアアアアアアアアアアア! 怖いテチ! 怖いテチィ!!!!」

じわりと男の靴の下から赤と緑の体液が広がる。

「みんないい仔だから騒がないで、デス。 騒いでも見苦しいだけデス—」

「みんなぁ!」

ダンボールのほうから6女の声が響く。

「お家の中なら安心テチ! みんな、ここまで逃げてくればいいテチ!!」

「お家に隠れても無駄デス、いい加減…」

親の声も聞こえぬのか、次女が家族から離れてテッチテッチと声をあげながら走り出す。

全力疾走だ、凄まじいまでの恐怖感から滝のような汗を流しながら、ひたすら走る。

テッチ! テッチ!

生まれてこの方、初めての走り。

その先のダンボールの入り口には6女が手を振っていて……だが急に奥へ引っ込む。

「よっと」

「テベェ!」

男が数歩歩いて、やおら走っている次女を踏み潰した。

足を動かすと地面には無残な染みとなった次女の姿があった。

口々に悲鳴をあげて親実装にしがみ付く仔実装姉妹。

男はそれを監視しつつ、バールのような物を右手で掲げてみせる。

「ほうら、はやく出て来ないと危ないぞ—。 今からダンボールぶっ潰すから」

「嘘テチィィィィィィ! お家は壊れないテチィィィィィィィィ———————————!!!!!!!」

あ、そ、と男はバールのような物を振り下ろす。

容赦なく振り下ろす。

徹底的に振り下ろすからダンボールは瞬く間に、潰れ、破れ、姿を変えていく。

呆然と仔実装たちは外から親にしがみ付きながら、生まれ育った我が家が破壊しつくされるのを為す術もなく見ていた。

男がひしゃげたダンボールからバールのような物を引っこ抜く。

しばらくすると、ダンボールだったものの隙間から、よろよろと1匹の仔実装が歩き出す。

頭からは血が流れ、腹部からも血がたれ流れている。

右腕は引きちぎれて皮一枚でぶら下がっているし、左足はへし折れていた。

「テチャ……。テチャ……ア」

か弱い声を上げながら、ひたすら親元を目指してのろのろ歩いている。

いや、歩行さえできずに地面へ転がった。 不自由な手足を動かして、

「ママ、ママ……」

と這う。

じ、と家族は6女を見ていたが、親実装だけは違う。

男のほうを見ると、

「もう気は済んだと思うデス、この仔を楽にしてやって欲しいデス」

「そうだな」

男がバールのような物をゴルフドライバーのように一振りすると、6女が砕け散って家族に降りかかる。

仔実装の姉妹からはまた悲鳴が起こるが、もう力が残っていないのかそれもか細く、すぐに止む。

「さて今日はもう少し楽しんでから殺すつもりだったんだが、せっかく賢い奴に当たったんだ。 

なにか珍しいことでも見せてくれれば楽に殺すぜ?」

「じゃあ、少しお話をしたいデス」

「………………」

「命乞いなんかじゃないデス、この仔たちにお話したいデス」

「まあいいさ」

「お前たち、もう見たとおりデス。次女・5女・6女は悲しいことをされたデス」

テチャ—と泣く仔もいるが頭を撫でてやるだけで、親実装は話し続けた。

「大丈夫デス、怖いことはなにもないデス。 ママがずっと一緒デス。

本当はママだってお前たちを大きく育てて、巣立ちさせたかったデス。

でもしょうがないデス、もうどうしようもないデス」

「死にたくないテチ! ママ! 私は死にたくないテチィィィ!」

瞳から涙をこぼしながら取り乱す長女を、親実装は抱きしめてやる。

「大丈夫デス、ママがいるデ——ス」

「知らなかったテチ!」

7女も涙を浮かべながらわめいた。

「こんなことになるなんて、知らなかったテチ! 知らなかったテチ!」

知らなかったと叫び続ける7女を抱き寄せもせず、親実装ははっきりと言う。

「ママは何度も叱ったはずデス、バールのような物を持ち歩くニンゲンさんに近寄ってはいけない、と。

知らなくても、こうなったのはお前のせいデ———ス。

恨む気にさえならないデス、お前を早く間引きすれば……。

躾けも間引きも出来ない私が一番愚かだったデス。 お前たち、馬鹿なママを許して欲しいデス」

初めて涙を見せながら、親実装は長女、3女、4女の頭を撫でてやった。

もう7女の顔も見ないのは故意だろう。

「さてさて、中々面白かったが終わりにしようか?」

「お願いがあるデス、私が先だと仔が不安がるから、最後にして欲しいデス、できれば苦痛が少ないように。それと」

と指のない手で7女をさす。



「あの仔は私を殺してから殺して欲しいデス」



「テ………………」

「あの仔には姉たちを死に追いやった責任を取らせたいデス」

「了解した」

言うが早いか一瞬の早業だ。

「テベ!」

「テェ!」

「テジィ!」

3匹の仔実装は死を感じる前に踏み潰されて、地面にこびり付く染みと化す。

「じゃあ次はお前ね」

バールのような物を構える男の前で、どこまでも親実装は静かだった。

まるで切腹する武士のように静かに自分の死を認めていた。

「ママァ!」

7女が叫ぶが返事はなく、振り向きもしない。

素早くバールのような物が頭上から振り下ろされた。




*************************************




「さて」

男の声で7女は我に帰る。

惨殺された家族の死骸を前に呆然としていたようだ。

男はバールのような物で親の死骸を器用に手繰ってビニール袋の中に回収している。

「お前の事なんだが」

いまさらながら、7女は震え上がる。

踏み潰された姉たち、バールのようなもので砕かれた親の最後を思えば当然だろう。

「いや、お前は殺さないよ」 

意外な言葉に7女は耳を疑った。


「お前は殺さないよ、お前の親はお前を最後に殺すことで罪滅ぼしさせるつもりだったようだが、俺は違う。

家族はお前のせいでみんな死んだ。 お前のせいでみんな死んでまったいらになった。 

だがそんなお前だけ生き残って罪に苛まれながら生きると言うのも一興だ、仔実装1匹、どうせ長く持たないだろうが。

ろくでもない末路が今から楽しみだぜ」

男は形容しがたい笑い声をあげると、7女だけを残して去っていく。



たった1匹残された7女は親の血痕が染み込んだ地面の上までやってきて、崩れ落ちた。

「テ——————チャ———————!」

姉たちの血痕が染み付いている地面を見る。

「テチャアアアアアアアアアアアアアアアアア! アアアアアアアアアアアアアア!! アアアアア———————! アアアアア!!!!」

頭を抱きかかえ地面に打ち付ける。

「テチャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア! テ———————チ———————ャ———————!」

大量の涙を流しながら、頭を地面に叩きつける。

「テヒャア——————————————————————————————————————————アアアアア!!!!!」





*************************************





そして、月日は流れた。


仔実装が成体となって仔をなすには十分なほど。




「これがママのお話デス」

成長し成体となった元7女の前で、彼女の7匹の仔実装が涙を流しながら聞き入っていた。


「ママが愚かなせいで、ママのママと姉妹を死なせてしまったデス。

悔やまない日はなかったデス。

でも、ママのママたちの代わりに仔を産んで幸せにしよう、そう思うようになったデス。

それからも辛かったデス、親なしが生きるのは公園では簡単ではないデス。

お前たちを産んでから厳しかったのは、もうああ言う事を繰り返さないためだったデス。

大事なことだから、死ぬ前にどうしても話しておきたかったデス」

少しだけ親実装は仔のうちでも7女に視線を注いだが、涙を流す仔は気づかなかったようだ。


深いため息をついてから親実装はバールのような物を持つ男を見上げて言う。

「ニンゲンさんお待たせしたデス、お話は終わったデス」



END

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1 Re: Name:匿名石 2016/11/17-02:36:41 No:00002827[申告]
オチの構成とそうなるまでの展開が奇跡的だな
語るとネタバレになるがこれは味のある展開だ
2 Re: Name:匿名石 2017/01/10-20:45:35 No:00003661[申告]
これはオチに至るまでの様子も見たい良作
3 Re: Name:匿名石 2020/03/29-09:53:40 No:00006239[申告]
このシリーズで一番好きなスクです。
時々読み返したくなります。
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