タイトル:【虐】 鏡音スイとソウに胎教させてみた♪
ファイル:鏡音スイとソウに胎教させてみた♪.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:4611 レス数:5
初投稿日時:2008/08/25-00:19:10修正日時:2008/08/25-00:19:10
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『鏡音スイとソウに胎教させてみた♪』
 
 
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 俺の眼の前——風呂場の床の上に、成体実装蟲の解剖標本が転がっている。
 標本といってもまだ生きているし(偽石は摘出済)、解剖も自己流のイイカゲンなものだけど。
 
「…エ…アア…、…エ…アア…」
 
 血涙を流しながら怨めしげに俺を見上げる実装蟲は禿裸のダルマという姿。
 服を剥ぎ取ったのは標本にするのに邪魔だからだけど、髪を毟ったのはただの嫌がらせ。
 手足は抵抗を封じるために切り落とし、加熱したフライパンを押し当てて火傷を負わせて再生を防いである。
 さらに喉も炙って声を出せなくさせた。
 ライターのオイルを吸わせた脱脂綿を割り箸でつまんで火をつけ、口の奥に突っ込んだのだ。
 ところが気道まで焼き潰してしまったらしく、直後に実装蟲は顔色を緑に染めて仮死に陥った。
 仕方がないので首を切り裂いてストローを突っ込み、気管送管の真似事で生き返らせた。
 我ながら適切な措置だったと思う。実装蟲の生き地獄を長引かせる目的としては。
 そして——この実装蟲が「標本」である所以は、その胴体にあった。
 腹を大きく切り開いて「糞袋」兼「子宮」の内部を露出させてあるのだ。
 もちろん切り口は塞がらないようにライターで炙って処置しておいた。
 
「…エアァ…、…エアァ…」
 
 実装蟲が呻く。デシャァァァ! とでも威嚇しているつもりなのか。
 その形相は鬼気迫るものがあり、ふるふると身を震わせているのは怒りのためだろう。
 ちっとも怖くないけどね♪ 蟲けらなんて♪
 この実装蟲は昨日、仔連れでコンビニの前にいたところを捕獲した。
 ゴミ箱の陰に潜んでいたので託児のチャンスを狙っていたらしい。
 確かにコンビニから出て来る客には見えない位置だろうけど、店へ入ろうとしていた俺にはモロバレだった。
 しかも親蟲は店内の様子を窺うことに夢中で、俺が近づいて行くことに気づきもしない。
 仔蟲は仔蟲で、姉妹で「媚び」を売り合うのに一生懸命(託児後にニンゲンさんにご挨拶する練習か?)。
 
「「「テッチューン♪」」」「「テッチューン♪」」
 
 これまた俺に気づく気配もなかった——最初の二匹が踏み潰されるまで。
 
「…ヂッ!?」「…ヂェ…!?」
 
 俺はすぐに足を上げ、汚らしい肉片と化した姉妹の姿を残りの仔蟲どもに見せつけてやった。
 
「…テェ…?」「…テチャ…?」「…テッ…?」
 
 媚びポーズで首を傾げたまま動きを止める残り三匹の仔蟲ども。
 地面にこびりついた赤と緑の入り混じる肉片には愛する姉妹の面影は残されていない。
 むしろ、ときどきママが用意してくれる美味しいゴハンにそっくりだ。
 だが、決してそれを美味しそうと思ってはいけないのだと彼らの本能が警鐘を鳴らす。
 血と糞の強烈な匂いの中に僅かに混じるのは姉妹の嗅ぎ慣れた体臭——
 なんて、サスペンス小説の心理描写のような思考が仔蟲どもの頭をよぎったかどうかは知らない。
 恐らくそんなことなかっただろう。託児狙いのDQN親蟲に育てられたアホ仔蟲どもだ。
 せいぜい頭に浮かんだのは「ごはんテチ?」「食べていいテチ?」くらいだろうね。
 はい、ごくろーさん。
 俺は残る三匹も踏み潰し、姉妹の後を追わせてやった。
 
「…テヂャッ!?」「…ヂュピッ!?」「…ヂベッ!?」
 
 これで仲良しのオネチャや妹チャといつまでも一緒にいられるよ。地獄でね♪
 愛護だなあ、俺。
 しかし仔蟲の悲鳴で慌てて振り向いた親蟲は、
 
「…デヂャァァァァァッ!?」
 
 ぶりぶりと漏らした糞でパンツを膨らませながら仔蟲だった肉片に駆け寄り、それを掻き集めつつ、
 
「ヂャァァァッ!? ヂョァァァッ!? ヂャァァァァァッ!?」
 
 文句でも言いたげに俺を見上げて吠えかかってきた。糞生意気に。
 
「……うるせーよ!」
 
 俺は仔蟲を潰したのと同じ足を振り上げ、親蟲の脳天に踵落としを喰らわせた。
 
「…デベェェェェェッ!?」
 
 中身は空っぽであろう頭が見事に凹字型に潰れる。
 だが、こんな程度で成体蟲は死なないだろう。実際、まだ眼球も白濁していない。
 
「託児するほど仔育てに行き詰ってたんだろーが? 間引きを手伝ってやったのに感謝もねーのかコラッ?」
 
 俺は親蟲を蹴り倒し、さらに繰り返し蹴りを入れてやった。
 
「…デヂャッ!? …ヂャッ!? …デベッ!? …ヂブェッ!?」
 
 にぎやかに悲鳴を上げてくれる実装蟲。
 抵抗のつもか手足をバタつかせるものの人間様のキックの前ではムダムダムダァァァッ!!
 
「…デッ…、…デベッ…、…デビッ…、…デベェェェ…」
 
 やがて悲鳴が小さくなってきたので俺は蹴りつけるのをやめた。
 頭を抱えて身体を丸め、震えるばかりになった実装蟲に、リンガルを起動して言ってやる。
 
「オイコラ糞蟲、俺様のシマで託児狙いたぁエエ根性しとるなぁオイッ!?」
 
 シマといっても行きつけのコンビニというだけなんだけど。どこの方言かは自分でもわからん。
 すると糞生意気にも実装蟲は頭を抱えたまま言い返してきた。
 
『何の罪もない仔を殺してあんまりデズゥ、ワタシたち家族は幸せになろうと努力してたのにデズゥ……!』
 
 イラッときた俺はもう何発か蹴りつけてやった。
 
「糞仔蟲を勝手に人間に押しつけるのが努力かコラッ!? この託児厨がッ!」
「…デブォ!? …デブェ!? …デビィィィ…!」
 
 実装蟲は悲鳴を上げながら、しかし上等なことにさらに口答えしてきた。
 
『ニンゲンと実装石のどこが違うデズゥッ! 嬉しいときは笑って悲しいときは泣くデズッ、一緒デズゥッ!!』
「……はあっ? なに言ってやがんだコラッ?」
 
 だが俺は蹴りつけるのをやめて実装蟲に言いたいことを言わせてみることにした。
 このアホ蟲がアホなりに何を言い出すのか興味が引かれたのだ。
 何を言おうがその論理を受け入れてやるつもりはないけどな。
 
「…デズゥッ、デズデズゥッ、デズデズッ、デズデズデズデズゥッ…!」
 
 早くも凹んだ頭が元に戻りかけている実装蟲の言い分は、こういうことだった。
 実装石は人間と同じように喜怒哀楽の感情を備えたナマモノである。
 人間と同じように幸せになりたいと願っている。
 ワタシの仔もそうだった。幸せになることを夢見てこの世に生まれ、きょうまで生きてきた。
 それなのにオマエという人間に無造作に踏み潰されて殺された。
 人間は美味しいものを食べて快適な家に住み、実装石より遥かに幸せに生きている。
 ならば、その幸せをほんの少し実装石に分けてくれてもいいではないか。
 小さな実装石の仔を家に住まわせることに何の問題があるのか。
 人間の家は大きいから邪魔になんてならないだろう。
 いつもゴミの日にたくさんゴハンを捨てているほどだから食べ物に困るわけもない。
 しかもワタシの仔はみんな賢くて可愛らしく、人間にとっても愛すべき家族になる筈だった。
 人間の家で暮らすことで、仔どもたちはもちろん養親となる人間も、みんなが幸せになれる筈だったのだ。
 そんな幸せを体現した宝物のような仔たちを殺したことにオマエは何の痛痒も感じないのか——
 
「……黙れボケ!」
 
 俺は再び実装蟲の脳天に踵落としを喰らわせた。
 
「…デビェェェ…ッ!?」
 
 先ほど以上に頭が変形した実装蟲は、凹字型の陥没部分が鼻の上までめり込んでいる。
 これでも死なないのが実装蟲だ。まるで無価値な存在のくせして無意味にしぶとい生命力。
 俺は実装蟲を繰り返し蹴りつけながら、人間様の正当な論理を言い聞かせてやった。
 
「仔蟲が幸せを夢見て生まれて来るだぁ? 親蟲の腹からボトボトとウンコみてーに際限なく湧くくせに!」
「…デビッ!? …デブォッ!? …デピッ!? …デブェッ!?」
「臭くて不潔で見苦しい野良蟲が人間様の家に住みたいだと? この衛生害蟲がナメてんのかコラッ!」
「…デベッ!? …デヒッ!? …デヒィッ! …デヒィィィッ…」
 
 俺は実装蟲の凹字型に陥没した頭部の、鼻の上から飛び出た状態の前髪をつかんで引き起こした。
 左右色違いの眼球は焦点が定まらず、ぐるぐる落ち着きなく動き回っている。
 俺の言葉が耳に入っているかも怪しいけど、ともかく相手に宣告してやった。
 
「オマエの孕むウンコみてーな仔蟲がどれだけ無価値でチリぃ存在か思い知らせてやろーじゃねーか、おぅ?」
「…デッ…デェェェェェ…」
 
 実装蟲は弱々しく首を振る。いちおう言葉は聞こえているのか。
 だが、いまさらゴメンナサイしたところで赦すわけがない。
 託児狙いの糞蟲には制裁を。それが社会のルールってものでしょ?
 
「ちょうど実験したかったこともある。ウンコ以下の存在のオマエに協力させてやるから感謝しやがれ!」
 
 そして俺は実装蟲を家に連れ帰り、解剖標本とするための措置を施してやったのである——
 
 
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「——さて、糞蟲ちゃん」
 
 俺は標本状態の実装蟲を見下ろして言った。
 
「こいつが何だかわかるかい?」
「…エ…ア…!、…エ…ア…!」
 
 ぎょろりと標本蟲は眼を剥いて、手足のない身体をもぞもぞと揺すった。
 俺が手にしているのは一袋の金平糖だ。
 しかも和菓子屋で買って来た本物で、ピンクや黄緑などカラフルな色も全て植物性原料で染めてある。
 どばどばと合成着色料が添加されているようなペットショップの徳用品とは違うぞ。
 
「そうだ、アマアマの金平糖だ。もっともオマエがこいつを舌で味わえる機会は永久にないわけだが」
「…エア…エア…!」
 
 標本蟲の顔が憎悪に歪む。仔蟲を殺されたときでも、そこまで凄惨な顔はしなかっただろオマエ?
 食い物の怨みはおそろしいってか?
 喉を焼かれてヨダレは出ないものの、じわじわと糞袋の内側に消化液らしいものが滲み出している。
 なんとも浅ましいことだ。舌では味わえないと言ってやったのに。
 俺は袋からいくつか金平糖をつかみ出して、標本蟲の糞袋の中に投げ込んだ。
 
 ——ぢゅ。
 
 消化液に触れた金平糖が、じんわりと深い緑色——つまり実装糞の色——に変色しながら溶けていく。
 元が何色の金平糖でも、それは同じだ。
 
「…エェ…アァ…!」
 
 標本蟲は、だくだくと血涙を流した。自分の糞袋の中で何が起きているか、わかっているらしい。
 憧れの金平糖がウンチになっていく! ワタシの舌はアマアマを味わっていないのに!
 
「金平糖は砂糖の塊みたいなモノで結構、栄養価が高いんだ」
 
 俺は標本蟲に説明してやった。インフォームドコンセントという名の言葉責め。
 もちろん被験者の同意ナシでも実験はさくさく進みます♪
 
「これからオマエに元気な糞仔をいっぱい孕んでもらうからな。もっとも全部、生まれる前に潰すわけだが」
「…エアァァァ…!」
 
 標本蟲は、ふるふると首を振る。
 無理やり仔を孕まされるのがイヤなのか、孕んだ仔を潰されるのがイヤなのか。
 どっちでも関係ないけど実験は進んでいきますので♪
 今度は俺は薄緑色の粉が詰まった袋を標本蟲に見せてやった。
 
「これは青大豆の花粉だ。有機栽培の高級品でオマエに糞仔を孕ませるには贅沢すぎるだろうが」
 
 なーんて、嘘。
 ただのウグイス黄な粉です。原料の青大豆が有機栽培ということだけ本当。
 ちなみに遺伝子組換え分別済でもあります。
 できるだけ元気で、しかも賢い仔蟲を孕んでもらいたいからね。
 自分たちが産声も上げないまま無意味に殺されていくことを理解できるくらいに♪
 
「…エ…ア…エァァ…!」
 
 ふるふると首を振り続ける標本蟲。
 その糞袋の中に、俺はウグイス黄な粉を一つまみ、ぱらぱらと撒いてやった。
 すると、
 
 ——ぷくっ、ぷくっ。
 
 糞袋の内壁に、ぷくぷくと水疱のようなものが現れた。全部で二十近いだろうか。
 それぞれ直径は一センチほどで、中に緑色の米粒のようなモノが透けて見えている。
 実装蟲の胎児だ。
 すげーよ、実装蟲の想像妊娠力!
 しばらく観察していると、むくむくと胎児が大きくなってきた。
 それに伴って水疱——仔嚢(しのう)と呼ぶらしい——も膨らんでいく。
 やがて胎児蟲は人間の小指ほどのサイズになって、いったん成長が止まった。
 その姿は蛆実装の小型版というところ。
 
「…レフュレフュ…」「…レフュ…」「…レフュ…?」「…レプュゥ…」
 
 仔嚢越しに胎児蟲どもの顔も判別できた。
 おくるみの中でぴくぴくと動く獣耳、安らかで幸せそうな寝顔。
 オマエらの幸せなんて、この場限りだけど♪
 ちなみに胎児蟲の前髪には哺乳類でいう臍帯(さいたい)——ヘソの緒の役割がある。
 仔嚢の中で糞袋の内壁(この場合は胎盤と呼ぶべきか)と繋がっている。
 奴らの前髪を引き毟ったとすれば言葉通りの意味で「命取り」だ。
 
「…エッエ、オ、エェ…」
 
 自分の胎内に新しい生命が宿ったことを理解したらしい。胎教の歌のような節回しで標本蟲が呻きだした。
 母性によるのだろうが哀れな習性だ。
 無理やり孕まされた、ただ潰されるためだけに生を受けた仔蟲どもなのに。
 だが、喉を焼き潰されていてはマトモに歌える筈がない。
 
「胎教の歌を聴かせてやりたいか? オマエみたいな糞蟲の歌じゃ仔も糞にしかならねーよ」
 
 俺は用意しておいたポータブルCDプレーヤーに一枚目のCDをセットした。
 
「だから、こっちで用意した。タワレコで買うのは恥ずかしかったけど愛護派御用達の大ヒットアルバムだぜ」
 
 それは虐待派にとっての「殺したいリスト筆頭」、「公共の敵ナンバーワン」。
 アイドル実装蟲として知られるクリスチーヌが歌う『実装仔守唄名曲集』だった。
 一昔前のアイドルだった人間の歌手とのコーラスで、人間と実装蟲が一緒に楽しめるという触れ込みだ。
 そんなものを楽しめる人間は、愛護派でなければ元アイドルのファンだけだろうけど。
 一曲目のイントロが流れた。
 仔実装蟲にしては綺麗な声の(それは認めてやる)クリスチーヌと、人間の女性とのコーラスが始まった。
 
 
 テッテロチー♪ テッテロチー♪
 実装ちゃんは可愛い仔♪ 愛されるために生まれる仔♪
 優しいママも御主人様も♪ あなたに会う日を待ってます♪
 
 テッテロチー♪ テッテロチー♪
 実装ちゃんは優しい仔♪ 愛を振りまく天使の仔♪
 オネチャ、蛆ちゃん、お友達♪ みんな大好き仲良しさん♪
 
 テッテロチー♪ テッテロチー♪
 実装ちゃんは賢い仔♪ 愛される意味を知ってる仔♪
 御主人様の言いつけ聞いて♪ きょうもいい仔で頑張ります——♪
 
 
「…レフューン♪」「…レフュレフュ♪」「…レフュッ♪」「…レッフュッフュ♪」
 
 胎児蟲どもがゴキゲンな声を上げた。うわあ、眠ったまま笑ってやがるよキモ蟲のくせに生意気に。
 リンガルを向けてみると、仔嚢越しでもしっかり鳴き声を拾って翻訳してくれた。
 
『素敵なお歌レフュ♪ もっと聴きたいレフュ♪』
『お歌の通りに可愛くて賢い実装石に生まれるレフュ♪』
『良いお歌を聴いて幸せな夢が見られそうレフュ♪』
『いい夢をいっぱい見ながらいっぱい眠るレフュ♪ 寝る仔は育つレフュ……♪』
 
 そりゃよかったね。これにて「上げ」完了。
 ちなみに胎児蟲は姿こそ蛆実装のミニチュア版だが、一般的に知能は仔実装程度はあるとされている。
 確かに、ウンチとゴハンとプニプニしか頭にない蛆レベルの脳味噌しかないとすれば胎教自体が無駄だろう。
 いまの胎児蟲どもの反応を見ても、そこそこの知能を備えていることはわかる。
 では、なぜ蛆として生まれた場合は胎児の頃より頭脳が劣化するかというと、これはいろいろ説がある。
 手足を成長させ損ねたホルモンが変質して脳に悪影響を及ぼすからだとか。
 みじめに糞を漏らしながら這い回るしかない蛆に生まれたことからの現実逃避——幸せ回路の働きだとか。
 ま、ここでそんな議論は意味ないけど。
 だって、みんな胎児のままで死んじゃいますから♪
 標本蟲の様子を窺うと、俺が胎児蟲どもにマトモな胎教の歌を聴かせたことに戸惑っているようだ。
 眼を見開いたまま何も言わずにいる。
 でも、ここから先は「落とす」だけですよ?
 俺はCDを二枚目の「本命」と入れ替えた。
 打ち込みチックな——というか打ち込みそのもののイントロが流れ出す。DTMソフトによる自作曲だ。
 続いて始まるヴォーカルもパソコンソフトによる合成音声だった。
 
『ヴォーカジソイド・鏡音スイ&ソウ』——
 
 実翠石と実蒼石の声を合成で再現するソフトである。
 もともとは人間の言葉を実装シリーズの鳴き声に変換する翻訳ソフトとして開発がスタートしたという。
 だが、DTMとしても活用可能な機能を組み込んでいたことが人気を呼ぶ要因となった。
 シリーズ第一弾は実装紅の声を再現する『初音シンク』。
 これが実装紅をイラスト化したツインテールの愛らしいキャラクターともども大ブレーク。
 オリジナル曲やカバー曲を歌わせた動画がネット上に流布してアクセス件数を稼ぎまくる状況となった。
 代表的なオリジナル・イメージソング『げっぼくにしてあげる♪』は着メロやカラオケでも配信されている。
 そして『鏡音スイ&ソウ』は第二弾だが、こちらは実翠石の声を再現できることで別種の人気を生んだ。
 主に虐待派の間で。
 実翠石と実装蟲の言語には共通性がある。
 人間の耳には同じように聞こえるし(実翠石の喋り方は控えめで上品だが)、実際も方言程度の差異という。
 だから『鏡音スイ』に実装蟲を装った台詞を喋らせ、同属に聞かせることで虐待の手段として使えるわけだ。
 これから俺がやろうとしているように。
 スイのヴォーカルが始まった——
 
 
 テッテロチー♪ テッテロチー♪
 実装クソムシみじめ蟲♪ 野生暮らしの最底辺♪
 生ゴミ漁りに行ったなら♪ 野良猫カラスに出し抜かれ♪
 ゴミを荒らした罪を着て♪ 人間さんに駆除される♪
 
 テッテロチー♪ テッテロチー♪
 実装クソムシみじめ蟲♪ 日々の暮らしも最底辺♪
 どうにかありつくゴチソウは♪ 腐った生ゴミ臭いメシ♪
 それさえ見つからないときは♪ ウンチを食べてフテ寝デス♪
 
 テッテロチー♪ テッテロチー♪
 実装クソムシみじめ蟲♪ 実装社会の最底辺♪
 蒼い仔、紅の仔、ルトの仔は♪ 人間さんから愛されて♪
 みじめ実装クソムシは♪ 踏まれ潰されゴミ箱へ♪
 
 テッテロチー♪ テッテロチー♪
 実装クソムシみじめ蟲♪ 生きてるだけで最底辺♪
 やっと手にしたアマアマは♪ ドドンパ、ゲロリ、シビレにコロリ♪
 結局死ぬまで何ひとつ♪ いいことないまま地獄逝き——♪
 
 
「「「「「…レプュァァァァァ…!!」」」」」
 
 胎児蟲どもが悲痛な叫びを上げた。
 
『イヤイヤレフュ〜、こんな悲しいお歌はイヤイヤレフュ〜!』
『ママやめてレフュ〜、さっきみたいな良いお歌を聴かせてレフュ〜!』
『ワタチは愛されるために生まれる筈レフュ〜、駆除なんてイヤイヤレフュ〜!』
『生ゴミやウンチは食べたくないレフュ〜、ワタチの幸せはどこにあるんレフュ〜!』
 
 実はこの曲、しばらく前に作りかけたまま投げ出していたものだった。
 だが昨日、標本蟲を生体解剖してやったあと徹夜で完成させたのである。
 その甲斐は充分あったと、胎児蟲どもの反応を見れば言えるだろう。
 
「…エッ…エアァァァァァ…!」
 
 標本蟲が呻き、もぞもぞと抗うように身体を揺すった。
 最悪な胎教の歌を腹の仔に聞かせまいとしているのか、ママはすぐそばにいるのだと励まそうとしてるのか。
 だが、標本蟲の親蟲心は裏目に出た。
 
『いまの声は何レフュ〜!? きっと怪獣レフュ〜、怖いレフュ〜!』
『きっと怪獣が近づいてるレフュ〜、だからぐらぐら揺れてるレフュ〜、怖いレフュ〜!』
『レフュェェェン、ママ助けてレフュ〜!』
「…エアァァァ…、…ォァァァァ…!」
 
 呻き続ける標本蟲は「違うデス、ワタシがママデス」と仔蟲どもを宥めているつもりだろう。
 だがリンガルには解析不能としか表示されない。
 胎児蟲どもの耳にも怪獣の咆哮としか聞こえていないようだ。
 
『イヤイヤレフュ〜、悲しいお歌の次は怖い怪獣レフュ〜!』
『ママ早く助けてレフュ〜、それともママは我が仔を放置プレイのドキュン親だったレフュ〜!?』
『レフュェェェン、レフュェェェン、もう怖いのイヤイヤレフュ〜………………パキン!』
 
 おやおや胎児蟲ちゃんが一匹、早くも絶望死しちゃったね♪
 すると仔嚢が破れて、前髪が胎盤から離れ、胎児蟲の死体はこぼれ落ちる——
 糞袋の底に溜まった消化液の池へ。
 消化液に触れた胎児蟲の死体は、たちまち深緑色に染まって糞の塊と化した。
 知能では蛆実装を上回る胎児蟲だが、偽石の脆さは蛆や親指以上。
 一度に親蟲が産む仔蟲の数は普通は七、八匹だが、妊娠時点ではその倍以上の数の胎児蟲を胎内に宿す。
 しかし出産までの間に栄養不足や外部からの強い刺激で胎児蟲は半分以上、死滅するのだ。
 ま、この標本蟲が孕んだ胎児蟲は、一匹たりとも生まれて来させはしないんだけど♪
 
『——みんな慌てちゃダメレフュ! これは悪者ニンゲンの罠に違いないレフュ!』
 
 胎児蟲の一匹が声を上げて、ぴたりと周りの姉妹の泣き声が止んだ。
 
『……いまの声は誰レフュ……?』
『ワタチレフュ! みんなの姉妹レフュ! 姉妹の仲良しパワーで悪者ニンゲンの罠を打ち破るレフュ!』
 
 俺は驚き呆れながら、標本蟲の糞袋の中を見回して声の主を探す。
 ——いた。
 ほかの姉妹がみじめたらしく泣いている中で、怒った顔をしている胎児蟲が一匹だけ。
 外見的に姉妹と違っているところはないけど特別に賢い個体なのだろう。特別無駄にね。
 その間に二曲目が始まっていた。
 今度はスイとソウによるデュエットで、これまた作りかけで放置していたもの。
 
 
 デッスデスー♪ デッスデスー♪
 実翠石と実装石は♪ 似たように見えて天地の差♪
 みんな大好き実翠石♪ 可愛く賢い実翠石♪
 鼻つまみモノの実装石♪ アホでブサイク実装石♪
 オマエらなんて死んでしまえデス〜♪
 
 ボックボクー♪ ボックボクー♪
 スイとボクとは仲良し姉妹♪ あまり似てない双子の姉妹♪
 ボクよりスイ似の実装蟲♪ パチモンだけどね実装蟲♪
 みんなが嫌う実装蟲♪ アホ、ブス、ウンコタレ実装蟲♪
 オマエらハサミの錆にしてやるボク〜——♪
 
 
『レプュァァァ〜! アオいヤツの声レフュ〜、怖いレフュ〜!』
『レフュェェェン、実翠石がイジワル言いやがるレフュ〜、オマエらこそニセモノのくせにレフュ〜!』
 
 泣き叫ぶ姉妹を賢い胎児蟲が宥める。
 
『騙されちゃダメレフュ! 最初の良いお歌を歌ってくれたのがワタチたちの本物のママレフュ!』
『そ……そうレフュ、そうに違いないレフュ!』
 
 ほかの胎児蟲どもも同調し始めた。
 
『ワタチたちは可愛く賢い実装石に生まれるんレフュ! ママが歌ってくれた通りレフュ!』
『可愛く賢く生まれれば実翠石なんて目じゃないレフュ! ただの目クソ鼻クソレフュ!』
 
 いや、その慣用句はおかしいだろ。
 似たモノ同士って意味だから、実翠石が目クソとしたらオマエら実装蟲自身は鼻クソってことだぞ……
 ま、べつにいいけどね♪ 俺に言わせりゃ実装蟲は鼻クソどころかリアルウンチ♪
 
『そうレフュ! 可愛く賢く生まれればニンゲンさんに可愛がってもらえるレフュ!』
『駆除なんてクソムシだけの話レフュ! ワタチたちには永遠に無縁レフュ!』
『きっと悪者ニンゲンが実翠石を使ってニセモノの胎教の歌をワタチたちに聴かせているレフュ!』
『可愛く賢いワタチたちを素直に可愛がれないなんて哀れな性格破綻者レフュ!』
『きっと実翠石愛護派か実蒼石愛護派レフュ! 愛護派なんて異常者ばかりレフュ!』
『もちろん実装石の愛護派さんは除くレフュ♪ 可愛いモノを可愛がるのは常識レフュ♪』
 
 さすが上等な金平糖を栄養として与えた親蟲の腹で、有機大豆をタネにして孕ませた胎児蟲ども。
 ずいぶん舌が回ってお利口さんですねー?
 発言内容は充分に糞蟲ですけど。それこそイジメ甲斐があるってものですよ♪
 俺は賢い胎児蟲が収まっている仔嚢を、つんっと針で突っついた。
 ぱちんと水風船みたいに仔嚢は弾けた。
 
「…レッ…レプュゥゥゥゥゥッ…!?」
 
 胎児蟲が悲鳴を上げ、蛆実装と同様の短く不格好な四肢で破れた仔嚢に必死でしがみつく。
 
『ダメレフュ! まだ仔袋を破ったらダメレフュ! 未熟児で生まれたら死ぬまで蛆チャのままレフュ〜!』
「大丈夫♪ その前にママの胃液で溶かされてウンチになっちゃうから♪」
 
 俺は優しく教えてやる。
 
『ママ助けてレフュ! 仔袋に戻らせてレフュ! 一生、蛆チャのままなんてイヤイヤレフュ〜!』
 
 破れた仔嚢にぶら下がった格好でみじめに泣き叫ぶ胎児蟲。
 だが、無駄な抵抗だった。
 
「…レプィィィッ!?」
 
 仔嚢がさらに破れて糞袋の内壁から剥がれ、ひらひらと消化液の池に落ちて、溶けていく。
 しかし胎児蟲は胎盤に繋がった前髪のおかげで宙ぶらりんの状態で留まった。
 それも生き地獄を長引かせる結果でしかないのだけど。
 四肢と尻尾をピコピコと哀れっぽく蠢かせるが、そうして身体が揺れるたび、ぷちぷちと前髪が抜けていく。
 
『……レプィィィッ!? ダイジダイジな髪が抜けちゃうレフュ!? 禿げはイヤイヤレプュゥゥゥッ!?』
「禿げになっても心配ないよ♪ どうせこのまま死ぬんだからね♪」
 
 俺が諭してやると同時に、ぷちりと前髪が完全に抜けて、胎児蟲は消化液の池に落ちた。
 
『……アチュイアチュイレフュ!? イタイイタイレフュ!? オテテもお顔も溶けちゃうレフュ〜!』
 
 じたばたもがき苦しみながら、無駄に賢かった胎児蟲は消化液の中で溶けていく。
 異変に気づいた姉妹から悲痛な叫びが上がった。
 
『……いったい何が起きたレフュ!? 頼りがいのある姉妹チャはどうなったレフュ!?』
『姉妹チャーン!? 姉妹チャーン!?』
「キミたちのお利口な姉妹ちゃんは生まれる前に死んじゃったよ♪」
 
 俺は残りの胎児蟲どもに伝えてやった。
 どうやら仔嚢の中にいる胎児蟲には外の状況が見えていないようだから。
 
「すぐにキミたちも同じ末路を辿るんだけど♪ 絶望のお歌を聴きながらね♪」
 
 そして三曲目が始まった。今度もスイとソウのデュエットで、夜中に即興で作詞作曲した。
 二枚目のCDに入れた曲はこれで全部だけどリピート再生すればずっと楽しめるね♪
 
 
 デッスデスー♪ ボックボクー♪
 実装蟲には生きてる価値は♪ ボウフラほどもありませんボクゥ♪
 野良で生きればゴミあさりデスゥ♪ 飼われるときは虐待のため♪
 いっそ生まれて来なければ♪ それともさっさと死んじゃえば♪
 生きているより幸せデス〜(ボク〜)♪
 
 
「「「「「…レプィィィィィッ…!?」」」」」
 
 胎児蟲どもは泣き叫んだ。
 
『また悲しいお歌レフュ〜、もうやめてレフュ〜!』
『ママ助けてレフュ〜、悪者のお歌を止めさせてレフュ〜!』
「…エアッ! …エアァァァッ!」
 
 追い討ちをかけるように標本蟲が呻く。
 仔蟲を怖がらせるだけだと理解する余裕さえないらしい。
 
『また怪獣の声レフュッ!? ここはアオいヤツと怪獣と怖いのだらけレフュ〜!』
『もうイヤイヤレフュ〜、どうしてこんな酷い目に遭うレフュ〜!? お歌の通り実装石だからレフュ〜!?』
『みんな負けちゃダメレフュ! 悪者ニンゲンの歌から耳を塞ぐレフュ!』
 
 先ほどの賢い姉妹に感化されたのか、仲間を励まそうと無駄に努力する胎児蟲がもう一匹、現れた。
 だが、別の姉妹が言い返す。
 
『無理レフュ〜、オテテが届かないレフュ〜、レフュェェェン……!』
『だったら悪者の歌が聞こえないくらい大きな声で、みんなで幸せなお歌を歌うレフュ!』
『幸せなお歌なんて知らないレフュ〜、さっき一度聴いたきりレフュ〜、覚えてないレフュ〜!』
『それでも歌うレフュッ! 何でもいいから幸せなことを思い浮かべて歌うレフュッ!』
『わかったレフュ〜、頑張って歌うレフュ〜! ……お寿司、ステーキ、コンペイトウ……♪』
 
 ベタベタに実装蟲らしい幸せを並べたて始めたアホ胎児蟲の仔嚢を、俺は針で突き破った。
 国営放送のノド自慢でいえば鐘一つってところだ。
 
「…レプィィィィィッ…!?」
 
 アホ胎児蟲は悲鳴を上げつつ消化液の池へと落ちていく。
 あっさり抜けた前髪は賢い姉妹と比べて毛根が弱かったらしい。
 
『また姉妹チャの悲鳴レフュッ!? どうしちゃったレフュッ!?』
『姉妹チャーン!? 姉妹チャーン!?』
『きっと悪者ニンゲンにパキンさせられたレフュッ! お歌だけじゃなくて直接、手を下し始めたレフュッ!』
 
 おやおや洞察力の鋭い胎児蟲ちゃんもいるね。
 ご褒美として先に死んでいった姉妹ちゃんに早く会わせてあげよう。
 はい、ぷちっとな♪
 
『レプュィィィッ!? 仔袋が破れたレフュッ!? 落ちちゃうレフュ! 助けてレッ……レプュァァァァァッ!?』
 
 消化液へ池ポチャする胎児蟲が、また一匹。速攻でママに消化されてウンチになりましたとさ♪
 残りの胎児蟲は、すっかり恐慌状態だ。
 
『レフュェェェン! また悪者ニンゲンに姉妹チャが襲われたレフュ〜!』
『イヤイヤレフュ〜、生まれもしないまま死ぬのはイヤイヤレフュ〜!』
『どうせ生まれてもゴミ漁りの最底辺の毎日レフュ、生きているだけ無駄レフュ………………パキン!』
『せめてママのおなかの中では幸せな夢を見たかったレフュ、みんなさよならレフュ………………パキン!』
『姉妹チャーン!? 姉妹チャーン!?』
『パキンしたらダメレフュッ! 悪者ニンゲンの思う壺レフュッ!! 負けずにお歌を歌うレフュッ!!』
 
 お歌お歌って、しつこいなあ、賢い胎児蟲2号ちゃんは。
 キミは望み通りすぐにはパキンしないで、少しでも長く苦しめるようにしてあげよう♪
 針で仔嚢を突き破り、そのまま胎児蟲の腹部まで刺し貫く。
 
「レプュァァァァァッ…!?」「…エァァァ…」
 
 胎児蟲の悲鳴と標本蟲の苦鳴がハモった。針の先端が親蟲の糞袋まで達したのだ。
 血涙を流して俺を見上げる胎児蟲。まるで信じられないものを見ている表情。
 仔嚢が破けたおかげで周りが見えるようになったのだろう。
 しかし生まれて初めて眼にしたものが自分を虐待する悪者ニンゲンとは救われないね。
 
「どうしたの? お歌を歌うんじゃなかったの?」
 
 俺は微笑みながら問いかける。
 
「さあ、歌ってごらんよ? 悪者ニンゲンさんもキミのお歌を聴きたいな?」
「…レッ…レプュィィィ…!」
 
 胎児蟲はイヤイヤと首を振る。不格好にちんまい四肢と尻尾がピコピコと蠢く。
 この手も足も出ません的な無力感がたまらんのですよ。
 蛆イジメの醍醐味ですね。いまの相手は胎児蟲ちゃんですが。
 
「…レプュィィィ、レプュィィィ…、レプュァァァァァ………………パキン!」
 
 胎児蟲が、がっくりとうな垂れた。
 眼球を白濁させており、死んでしまったようだ。あっけない。
 
『……姉妹チャーン!? 姉妹チャーン!?』
『また姉妹チャの悲鳴レフュ〜、みんな悪者ニンゲンに殺されるレフュ〜!』
『殺されなくても絶望でパキンするレフュ………………パキン!』
『姉妹チャーン!? 姉妹チャーン!?』
『最初に歌ったママもきっとニセモノレフュ、ワタチたちが愛されるなんて大嘘レフュ………………パキン!』
『実装石は幸せになれないレフュ……? 誰か教えてレフュ………………パキン!』
『みじめな実装石にはもう生まれたくないレフュ、このまま永遠にさよならレフュ………………パキン!』
『姉妹チャがパキンしていくレフュ、ワタチもみんなのところへ行くレフュ………………パキン!』
 
 胎児蟲が次々と絶望死していく。
 仔嚢が破れ、死体は消化液の池へ、ぽろぽろと落ちていく。
 
『ママは最後まで助けてくれなかったレフュ、役立たずの糞蟲レフュ………………パキン!』
 
 最後の一匹は親蟲への怨みの言葉を残して死んだ。
 ナイス胎児蟲と呼んでやりたいところだ。
 
「…オォ…アァ…」
 
 標本蟲は、だくだくと血涙を流した。
 胎児蟲どもの声が聞こえなくなって、腹の中の仔が全滅したことを理解したのだろう。
 しかも最後に我が仔から聞かされた言葉は親への呪詛。
 号泣するしかないところだが、喉を焼き潰してあるせいで、ただ呻いているだけだから間抜けだ。
 
「みんな死んじまったなあ、オマエの糞仔どもは?」
 
 俺は標本蟲に言ってやった。
 ぎろりと俺を睨み上げてきた相手に、ふふんと鼻で笑って応えてやり、
 
「何匹かは俺が手を下したけど、あとは自分で死んだんだ。実装蟲がみじめで無価値な存在だと思い知って」
「…エァ…エァ…」
 
 標本蟲が首を振る。
 違う、そんなことはない。みんな幸せになることを願ってワタシのおなかに宿った。
 幸せな実装石として生まれることを望んでいた。
 それをオマエが無慈悲に無造作に殺したんだ——
 そんなところかな、アホ蟲の言いたいことを代弁してやれば。
 
「なかなか楽しませてくれたよ、オマエもオマエの糞仔どもも。だから、ご褒美だ」
 
 俺は標本蟲の糞袋の中に金平糖を撒いた。
 それからウグイス黄な粉も、ぱらぱらと——
 
「…エアァァァァァ…」
 
 標本蟲が悲壮な呻きを上げた。
 だが、その胎内では再び胎児蟲が形作られていく。
 
「…レフュレフュ…」「…レフュ…?」「…レッフューン♪」「…レプュゥレプュゥ♪」
 
 俺はCDを一枚目と入れ替えてリピート再生をかけた。
 アイドル実装のクリスチーヌと人間とのコーラスが再び聴こえてくる。
 
 
 テッテロチー♪ テッテロチー♪
 実装ちゃんは可愛い仔♪ 愛されるために生まれる仔♪
 優しいママも御主人様も♪ あなたに会う日を待ってます——♪
 
 
「今度はもう少し長く『上げ』てやるよ。そうだな、俺も新曲の制作にとりかかるから、今夜一晩」
 
 俺の言葉は耳に入ってないのだろう。
 何も理解していない胎児蟲どもが幸せそうな声を上げる。
 
「…レフュレフュ♪」「…レフュッレフュッ♪」「…レッフュフュフュ♪」「…レップューン♪」
 
 標本蟲は血涙を流して首を振った。
 しかし自分の声がおなかの仔を怖がらせることをようやく理解したか、声は上げない。
 我が仔への愛情を持った個体には結構な精神的拷問だろう。
 仔どもたちに自分の胎教の歌を聴かせてやれない。それどころか言葉をかけることさえできないなんて。
 託児を試みようとした糞親蟲さんには当然の報いですが、何か?
 
「それだけ時間があれば仔蟲どもが、実装蟲も幸せになれるものと勘違いするのに充分だろ。つまり——」
 
 胎児蟲を一匹だけ選び、針で仔嚢を突き破ってやる。
 
「…レッ…レプャァァァァァッ!?」
 
 仔嚢からこぼれて前髪だけで宙吊りになった胎児蟲は、じたばたピコピコと四肢と尻尾を蠢かせた。
 
『……誰か叫んでるレフュ?』
『知らないレフュ、いいお歌の邪魔レフュ』
『まったく迷惑レフュ、静かにしてほしいレフュ』
 
 クリスチーヌの歌声に聴き惚れている胎児蟲どもは、姉妹の危機に気づく様子はない。
 
「…レプィィィィィッ!?」
 
 ぷちっと前髪が千切れて、哀れな胎児蟲は消化液の池に落ち、たちまち糞へと変わり果てた。
 標本蟲は、ただ泣くばかりだ。
 そして全く何も気づかない、ほかの姉妹たち。
 
 
 テッテロチー♪ テッテロチー♪
 実装ちゃんは優しい仔♪ 愛を振りまく天使の仔♪
 オネチャ、蛆ちゃん、お友達♪ みんな大好き仲良しさん——♪
 
 
『本当に素敵なお歌レフュ♪』
『ワタチたちの幸せな未来を予感させてくれるレフュ♪』
『ママと一緒に歌えるようにお歌を覚えるレフュ♪』
 
 俺は標本状態の親蟲に向かって言葉を続けた。
 
「——悪者ニンゲンに絶望の歌で胎教されても、もう少し長く抵抗できるんじゃないか?」
 
 標本蟲は泣いているだけ。
 我が身の不幸を嘆いてか、仔蟲どもの救いのない未来を思いやってか。
 
「どれだけ抵抗しても無駄なんだけどな、俺を楽しませるだけで。じゃあな、糞蟲ちゃん。またあした」
 
 俺は風呂場を出て、扉を閉めた。
 さあ、仔蟲ちゃんどもに聴かせてやる新しい絶望の歌の制作にとりかからなければ。
 おっと、その前に銭湯でも行くか。
 昨日から風呂場を標本蟲に占領されてシャワーも浴びてないからな。
 
 
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【終わり】

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1 Re: Name:匿名石 2014/10/11-22:18:46 No:00001458[申告]
胸がスカッとした!サイコーにいい出来だ
2 Re: Name:匿名石 2014/10/12-00:22:46 No:00001459[申告]
人間と同等に幸せになる権利があると思うなら人間と同等以上の努力と責任も負うべきだ
実装石、殊に託児なんぞに走る屑蟲はこの原理を解さないから駄目なんだ
よって、死すべし
3 Re: Name:匿名石 2014/10/12-12:14:28 No:00001462[申告]
よくできてる
糞袋に落ちて溶けるとこがいい
4 Re: Name:匿名石 2017/03/24-20:45:37 No:00004569[申告]
※2
これを理解しないから糞蟲は糞蟲なんだなあ
5 Re: Name:匿名石 2018/08/08-20:18:32 No:00005549[申告]
禿胎児蟲の落ちていく様が目に浮かぶようだ
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