タイトル:【愛虐】 超高級飼い実装
ファイル:超高級飼い実装.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:21280 レス数:4
初投稿日時:2008/06/01-12:44:57修正日時:2008/06/01-12:44:57
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実装石達は飼い実装に憧れる。
しかもただ飼われるのではなく、高級な食事、可愛い服、豪華な寝床ととてつもなく高待遇な暮らしに。
憧れるのは勝手だが、実際にそんな暮らしが出来ている実装石はまずいない。
では、そんな暮らしが出来ている実装石達の生活というのはどのようなものだろう。



ここは都内の一等地に立つ高級マンション。
実装石OKという珍しい条件を持つこのマンションでは住民のほとんどが実装石を飼っている。
飼い主は大企業の社長夫人や年収十億を超えるような実業家の妻といった金持ちマダムたちであり、
飼い実装達は野良が夢見るようなままの豪華な暮らしをしている。

そんなマンションの一室。広い部屋の中には大きな天蓋つきのベッドがある。
ふかふかの羽毛の海のような高級布団に包まれて寝ていた実装石は
薄絹のカーテン越しから差し込む朝日に目を覚ました。
彼女の名前はマリアンヌ。このマンションの住人、某企業で海外の支社長を務める虹浦氏の
奥様が飼う超高級実装石である。
虹浦氏は海外支社に赴任しているため、この部屋に住んでいるのは虹浦夫人とこのマリアンヌ、
そして何人かのお手伝いさんのみである。

寝間着に着ているのはナイトキャップにシルクのネグリジェ。
起きたマリアンヌをお手伝いさんが抱きかかえ、暖かいお湯に濡らしたタオルで優しく顔を洗い
専用歯ブラシで歯も磨いてくれる。

洗顔が終わると寝間着を脱いで部屋着に着替える。
今日の服はピンクのワンピース。あらかじめ用意されていたそれをお手伝いさんが着替えさせてくれる。
袖口やスカート、そしてお揃いの頭巾の耳の部分にもフリルがあしらわれている。
有名な実装服のブランド品で生地もいいものが使われており、
これ一着でバーゲン品を必死に奪い合う世の女性が聞いたら憤死するような値段がする。

寝室を出て、主人に挨拶。
「おはようございますデス、ご主人様。」
実装石らしからぬ、鈴の音のような可憐な声。首にかけてある音声変換型の最新式リンガル。
文字表示タイプよりも遥かに高価なこのリンガルが、実装石の声を集音マイクで拾い
翻訳と同時に可愛らしい声に変換してくれる。
もちろん文字表示も可能。コンパクトながら数十時間のログを保存することが出来る。
これ一つでちょっとしたノートパソコン一台分はするだろう。
「おはようマリアンヌちゃん。今日も可愛いわね。」
にっこりと微笑む虹浦夫人。いつもの朝のやり取りである。

朝食として食べるのは専用に作られた料理。
市販の実装フードなど、最高級品であってもここの実装石にはおやつのスナック菓子程度にしかならない。
料理はお手伝いさんの手作り、もしくは専用の料理人が作っているものをデリバリーしている。
実装石好みの甘みや肉の旨みを強調した味付けである。

食事が終わって一息ついたら外出の準備。
大きな鏡の前で飼い主があれでもないこれでもないとお出かけ用の服を着せ替える。
1時間近く迷って決めたのは暖かい季節に合った淡い水色のドレス。
先ほど着ていた部屋着のさらに数倍の値段がするものだ。
選ばれなかった他の服も似たようなものである。

庶民が使う市販のものの10倍近くする専用シャンプーで洗ったサラサラの髪は
飼い主が毎日櫛で丁寧に梳いてくれる。大事なスキンシップを兼ねた日課だ。
さらに週に一度は実装トリマーが手入れもしてくれる。
今日はお出かけの目的地に行く前に美容院に寄る予定だ。



美容院でトリートメント、自慢の巻き毛をフワフワに整えてやって来たのはこのマンションを始めとした
実装石を飼っているセレブの集い。
貸し切った高級ホテルの一室に皆飼い実装を同伴して集まり、実装を愛で、実装談義に花を咲かす。
実装石達も、飼い主達に挨拶をして覚えた歌や踊りを披露したり、
セレブ実装仲間と遊んで楽しいひと時を過ごす。

「今度うちの子になったジョセフィーヌちゃんですの。よろしくね。」
「うちのポリアンナちゃんが手伝ってくれたスコーンですけどおひとついかが?」
楽しそうに談笑が交わされる中、デェェンという泣き声が響き渡った。
一匹の実装石が泣いている。その横では、得意気に頭にリボンを着けようとするマリアンヌ。
両方の飼い主が二匹のもとへ行く。

虹浦夫人ともう一人は某有名デザイナー、俊野氏の奥様である。
「あらあら、どうしたのカトリーヌちゃん」
カトリーヌと呼ばれた俊野夫人の飼い実装は、泣きながら主人に訴える。
「マリアンヌちゃんにリボンを取られたデスー」
それを聞いて虹浦夫人が当人に訊ねる。
「そうなの?マリアンヌちゃん?」
「取ったんじゃないデス。ワタシの方が似合うから貰ってあげたんデス。」
胸を張るマリアンヌの首にかけてあるリンガルを取り、ログを見る。

『返してデスー、ご主人様に貰った大事なリボンデスー』
『可愛い私にこそふさわしいデスゥ。カトリーヌちゃんなんかには勿体無いから
 私が貰ってあげるデスゥ。デププ』

「………」
ログを見て無言になる虹浦夫人。その表情は、買った絵画が贋作だったような、
お気に入りの服に落ちない汚れがついてしまったようながっかりした顔だった。
飼い主の微妙な変化を感じ、デス?と首を傾げるマリアンヌ。
そのマリアンヌに夫人の手が伸び、着ていた豪勢な実装服はスルスルと脱がされていく。
「デデッ?!」

脱がされた服はバッグにしまわれてしまい、入れ替わりで実装叩きが取り出される。
「ご主人様、何を」バシッィーン!
言葉を言い終わる暇もなく、マリアンヌの頬に実装叩きが炸裂する。
メーカーの職人が握り型まで取ってくれた特注品だ。
滅多に使うものではないが、長年使っているかのように手になじむ。
第一打で突っ伏したマリアンヌの頭を、尻を、手の延長のように巧みにしならせビシバシと叩いていく。

ぼろぼろになったマリアンヌに、溜息をついた夫人が言葉をかける。
「マリアンヌちゃん、うちの子はね、お行儀の良いいい子じゃないと駄目なの。」
実装叩きでぺんぺんと頭を叩く。
「あなたはそういう実装ちゃんとしてうちに来たのよ。人様の物を盗ってしかも卑しく笑うなんて…
 公園にいるような蟲と同じじゃない。そんな子はうちの子じゃないわ。」
飼われてから初めての暴力。心身ともにダメージを受け茫然自失のマリアンヌを、
夫人は移動用のバスケット型ケージに放り込んだ。

「本当に御免なさいね、俊野の奥様、うちのマリアンヌ、
 いえ蟲がとんだ御迷惑をおかけしまして…カトリーヌちゃんも、許してね。お怪我はないかしら?」
「いえいえ、いいのよそんな、ねえカトリーヌちゃん?」
「ワタシは大丈夫デス。それよりマリアンヌちゃんを許してあげて欲しいデス。」
大らかに笑って許す飼い主の俊野夫人とマリアンヌを気遣うカトリーヌ。
そんなカトリーヌを見てにっこりと笑う虹浦夫人。

「カトリーヌちゃんは本当にいい子ねえ、俊野の奥様が羨ましいわあ。」
マリアンヌを折檻したときとは大違いの満面の笑顔だ。だが、その笑顔は「いい子」を褒める顔ではない。
質のいい調度品を見て羨ましがるような、趣味のいい花瓶を見て羨ましがるような、モノを見る目だ。
その笑顔にカトリーヌは背筋を凍らせた。

「本当に困ったものだわ、この子も蟲だったなんて。」
虹浦夫人が溜息をつく。
「同じブリーダーだけどこれで3匹目よ。明日にでも返しに行くわ。
 もうあのブリーダーからは買わないから。」
「災難ねえ奥様。何でしたらうちの懇意にしているブリーダー、ご紹介しましょうか?
 丁度育てたばかりの子がいるって言ってたから。」
「あら、いいんですの?」
「ええ、うちにはもうカトリーヌちゃんがいますから。ぜひお訪ねしてみてくださいな。」
「有難うございます。俊野の奥様の紹介なら安心だわ。カトリーヌちゃんを育てたブリーダーですものね。」
ほほほ、と笑いあう二人。

俊野夫人はさりげなくリボンを拾うと、傍にいたボーイに手渡した。
ボーイはリボンを預かると、ゴミ箱へ捨てに行く。
レース編みのリボン。安いものではないが、この飼い主たちにとっては惜しむようなものでもない。
一度ケチのついたものなど、ゴミでしかないのだ。
それは、ケージに放り込まれて呻くマリアンヌも同じである。



数時間後。
「ええ、俊野の奥様のご紹介で…生後1ヶ月の…いいですわね、じゃあその子にしようかしら。
 明日迎えにお伺いしますわ。」
帰宅してから早速件のブリーダーに電話をかける虹浦夫人。
話は順調に決まり、明日新たな実装石を購入する手筈となった。
一方マリアンヌは未だ狭いケージに閉じ込められたままである。

「ご主人様ぁ!許してくださいデスゥ!もう二度としないデスゥ!いい子になるデスゥ!」
折檻のショックから立ち直ったマリアンヌは、自分がしてはならない失敗を犯してしまったことに気がつき、
必死に許しを請うていた。
が、それも無駄な事である。リンガルは既に取り上げられ、まさに聞く耳を持たない状態。
たとえリンガルがあったとしても同じ事だろう。

二度としないという事は、一度やらかしてしまったという事。
いい子になるという事は、現状はいい子になれてないという事。
糞蟲に堕ちてしまったマリアンヌは、必死に叫ぶ懇願の言葉それ自体が
高級実装石である自らの価値を否定している事に気付かない。
言えば言うほど自分は既に高級品ではなく、傷物、汚れ物だと宣伝しているようなものだ。

「お黙りなさい!」
虹浦夫人が一喝と共に実装叩きでケージをぴしゃりと叩く。
先程の折檻を思い出したマリアンヌは、ケージの奥に引っ込み震え上がった。
ふん、と鼻を鳴らす虹浦夫人。
「まったく、本性を現した途端にうるさく喚いて…奥様方の前で恥をかかせただけじゃまだ足りないの?
 この糞蟲ったら!」

既にマリアンヌを名前で呼んでいない。
夫人にとってマリアンヌは我が家で飼っていた高級実装石に与えた名前なのだ。
目の前にいるのはもはやただの糞蟲である。
(そんな…ご主人様…ワタシはマリアンヌデスゥ…名前で呼んでくださいデスゥ…)
背を向ける婦人を目で追いながら嘆くマリアンヌ。だが声には出せない。
これ以上騒いでもますます婦人を怒らせるだけだ。

しばらくすると、虹浦夫人が戻って来てケージを開けた。
一瞬希望に目を輝かせるマリアンヌ、しかしその顔に叩きつけられたのは緑の布。
そしてまた閉められるケージ。
それはマリアンヌ自身の実装服だった。
この家に来てしばらくは成長に合わせるため寝る時だけ着ていた生まれつきのノーマル服。
成体になってからはいつも高級実装服に身を包み、久しく袖を通していない。
もう一生着る事さえないかと思われていたノーマル服。もう、これしか着ることを許されないのだ。
懐かしさと、悲しさと、絶望がごちゃ混ぜになり、マリアンヌの頬を滝のような涙が流れた。

「泣いてるんじゃないわよ気持ち悪い。明日ブリーダーの所に帰るんだから、
 最後の時くらいちゃんと服を着ておくのよ。」
そう言って、マリアンヌの衣装ダンスから実装服を取り出すと、次々とお手伝いさんに渡していく。
「新しい子は生後一ヶ月だそうだから…このあたりのサイズは全部要らないわね。
 これと、これも処分してちょうだい。」
狭いケージの中で苦労してノーマル服を着るマリアンヌ。
その目に映るのは、捨てられていく自分のものだった高級服。
叫びたかった。やめてと泣き喚きたかった。だがこれ以上失態を演じるわけにはいかない。
自分自身を抱きしめるように縮こまり、歯を食いしばって震える。
溢れ出る涙だけが止められず、ケージの床を濡らしていた。

夫人は別に虐待派ではない。目の前にいる糞蟲は忌々しいが、殺したり痛めつけるつもりはない。
糞蟲の血で手を汚すのは駆除業者の役目だし、好き好んで糞蟲を弄る気もない。
捨てたりもしない。糞蟲を考えなしにその辺に放つようなマナーを守らない下衆とは違う。
ただブリーダーへ突っ返す。返金も求めない。そんなせこい事は貧乏人のやることだ。

この子が駄目ならまた新しい子を飼うだけ。
新車並みの値段がする超高級実装石も、このマンションに住む住民レベルにとっては
幾らでも買い替えのきく程度のものでしかない。

躾けも特に行わない。躾けをしなければならない程度のものを買ったつもりはない。
贅沢な暮らしで糞蟲化してしまう程度のものに大金を払ったつもりはないのだ。

それ一つだけではただの金属片に過ぎない歯車や発条を洗練された技術で組み立て
芸術品と呼べるほどの精巧な時計に仕立て上げているからこそ、高級時計には宝石並みの値段がつく。
それ単体では糞垂れ、貪欲、傲慢、我侭、差別意識、嫉妬心など悪徳の塊でしかない糞蟲を
さながら天使か妖精のごとき存在にまで矯正できてこその超高級実装石なのである。

夫達も特に何も言わない。金の掛かる趣味ではあるが、素人投資に手を出して多額の借金をこさえたり
ホストにでも入れ込んで浮気と散財を同時にやられたりするよりは
家の中で危険もない脆弱なナマモノと戯れてもらっていた方がいいからだ。

今日もマダムたちは愛でる。金をかけ、手間をかけ、超高級実装石というブランド品を。



一方堕ちてしまったマリアンヌの地獄はまだ始まったばかりである。
マリアンヌを返されたブリーダーに、夫人はもうここで育てられた実装石は買わない事を告げる。
ここから出た糞蟲は3匹目。仏の顔も、の言葉どおり、夫人が実装石を買ってくれる事は今後一切無い。
そして主婦の噂話が風より早く、海より広く伝わるのはセレブ層でも同じ事。
あのマンションの住民たちがこのブリーダーの顧客になる事はもう無いだろう。

ペットショップに卸すには、数を揃えてもそれだけで食っていくのは難しい。
金回りのいい連中のコネを得て、個人取引するのとは遥かに実入りが違う。
そのコネを潰したマリアンヌがただで済むはずも無く
偽石を摘出、コーティング処理され死んだ方がマシと言えるほどの苛烈な仕置きを
ブリーダーの気が済むまで受けることになる。

「デヒィ…デヒ…」
糞と血反吐にまみれ床に転がるズタボロのマリアンヌ。
実装石の扱いに長けたブリーダーである。
丸一日ほどの間、精神崩壊もさせず、仮死もさせない絶妙の腕前で地獄を味あわせ続けた。
まだ完全に気が済んだわけではないが、これ以上糞蟲にかまけている場合ではない。
明日からの身の振りを考えなければならない。この糞蟲にも、最後にいくらかは稼いでもらおう。
「お前に最後のチャンスをやろう…」



数日後。
ある実装ショップのケージの中で、必死にアピールするマリアンヌの姿があった。
媚びたり、喚きたてたりする行儀の悪い真似はせず、あくまでも上品な仕草で
実装石にしては綺麗な歌声や優雅なダンスを披露しながら。
一度は失った自身の価値を、まさに命懸けでかき集めて。

ブリーダーは言った。金持ち相手ではなく、普通の客用に実装ショップへ売り飛ばす。
もうあんな暮らしをさせてくれる客はつかない。が、買ってもらう事が出来れば飼い実装には戻れる。
超高級実装石に原則として禁じている出産も、普通の客なら許してくれるかもしれないと。
既に成体。ペット用としては厳しくあまりにも細い希望ではあるが
絶望の中に与えられた一筋の光にマリアンヌは必死でしがみついた。

実は元・超高級実装石として虐待用に売られている事も知らずに。
虐待用としてはレアだけあって、そこそこの値段がついていることはせめてもの救いにはなるだろうか。
マリアンヌから見えない位置にはこんな張り紙が貼られていた。



        店長オススメ!

  【元・超高級実装石!】マリアンヌちゃん

 ☆セレブの奥様に新車並のお値段で買われてから
  毎日私たちでも出来ないような超ゼータク!
  な暮らしを半年間も味わった実装ちゃんです!

 ☆たった一回のヘマでここまで落ちぶれちゃいました♪
  本人はまだ幸せになるチャンスがあると思ってます(笑)

 ☆こんな上げを味わった実装ちゃんはそうはいません!
  フツーの上げ落としに飽きた方は是非どうぞ!

 ☆ご覧の通り歌と踊りがご自慢のようです(笑)

 ☆超高級実装石は出産を禁じられているので
  仔を持つことに憧れがあるようです
  仔を生ませてその後…遊び方色々!

  成体・生後約8ヶ月
  偽石:摘出・コーティング処置済み(推定耐仮死数7〜8回)
  躾け:トイレから食事マナーまで完璧です!
  


マリアンヌの地獄はまだ始まったばかりである。



同じ頃、マンションの一室。
広い部屋の中にぽつんと一匹だけでいるのは、俊野夫人の飼い実装カトリーヌ。
山のようにある玩具にも、おやつに置いてある有名店のチョコレート菓子にも手をつけず、
ただ窓の外に広がる青空を見上げていた。

思い出すのは、あの時のマリアンヌの姿。そして、先日散歩に行ったときに遭った野良実装。
飼い実装の中でもひときわ豪華な服を着たカトリーヌに嫉妬したその野良実装は、カトリーヌに
糞を投げようとしたところを俊野夫人の日傘の一撃で撃退された。
「これだから野良は嫌だわ、大丈夫カトリーヌちゃん?お怪我でもしたら大変だものね。」
笑いかける俊野夫人。あの時の虹浦夫人の笑顔と同じだとカトリーヌは思った。
家族の無事を喜ぶ顔ではない。大事なコレクションを汚されなくてよかったと言う顔。
モノを見る目。

ご主人様のあの目。あの飼い主さんのあの目。ほんの一瞬でゴミ扱いに堕ちたマリアンヌ。
そしてあの時。
夫人の一撃を受け、ほうほうの体で手の届かないところまで逃げおおせた野良が叫んだ、あの言葉。
「不公平デスー!ワタシたちが毎日死にそうな目に遭って生きてるのに何でお前らだけ
 のうのうといい暮らししてやがるデスー!」

(…ここだって同じデス。)
壁に飾られた数々の写真。さまざまな場所で、記念日で撮影された豪華な服を着たカトリーヌと
一緒に写る俊野夫人の幸せそうな顔。あの笑顔。自分の宝物を、自慢する顔。
(ここのニンゲンさん達は、みんな私たちをイキモノ扱いしてないデス。)
部屋の中に並ぶ、高価な家具、高価な置物、高価な壷。
(…ワタシ達は、あれと同じデス。)

そう、ここでは実装石は一つの高級品なのだ。

美味しい豪華な食事。望めば幾らでも与えられる。が、際限なく食べてはいけない。
醜く太りでもすれば価値を失う。
食べるときも専用の食器を使い、静かに行儀よく、こぼしたりしてはいけない。
がっついた汚い食べ方では糞蟲と同じだ。

可愛く、肌触りのいい豪華な服。
しかし、何を着るかは自分で選べない。選ぶのは飼い主の権利。
飼い主の気分で選んだ服が、自分の着る服なのだ。自分達は生きた着せ替え人形なのだから。

怠惰は許されない。いつでも、飼い主が望む時に、望むままの明るく可愛く美しい姿を
見せなければいけない。そうでなければ価値を失う。

仔を産む事は許されない。自身が超高級実装石でも、産まれてくる仔は何の躾けも施していない
ただの仔実装だからだ。糞蟲が便所でひり出す、仔や蛆の形をした糞と同じものだからだ。
そんなモノを産めば価値を失う。

自身に落ち度が無くても、何かのアクシデントで価値を失うかもしれない。
リボンを盗られた一件、あの時堕ちたのはマリアンヌ一匹だけだったが、事態の転びようによっては
被害者であるカトリーヌまで巻き添えでケチがついたと見なされる可能性もあった。
そうなれば自分はマリアンヌと運命を共にしていただろう。
どちらが悪いかなんてのは、飼い主が決めることだ。

その飼い主が心変わりを起こしたら。
自分に飽き、新しい実装石を欲しがったら。
実装石に対する興味自体を失ったら。
不安は尽きない。自分の命綱を握っているのは、いつだって気まぐれな飼い主なのだ。

このマンションで飼われてる実装石達は、皆野良が羨んでやまないような暮らしをしている。
しかし、その暮らしは闇の中で綱渡りをするようなもの。
一歩でも足を踏み外せば奈落に落ちる。
マリアンヌのようにそれに気付かない間抜けはそれこそ真っ先に。
気は抜けない。独り言すら。リンガルにはログが残る。
そうしていてもいつか突然強風が吹くかもしれない。綱自体が切れるかも知れない。



野良実装石。
超高級飼い実装。
格差社会の底辺でも、頂点でも、実装石の扱いは変わらない。
どこまで行っても、実装石は人間の都合に翻弄されるモノでしかないのだ。





 【完】

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1 Re: Name:匿名石 2016/09/10-07:43:56 No:00002522[申告]
物扱いされる話好きです
2 Re: Name:匿名石 2019/11/30-13:07:32 No:00006140[申告]
飼い主も糞蟲並ってことだね。
3 Re: Name:匿名石 2019/11/30-13:07:32 No:00006141[申告]
飼い主も糞蟲並ってことだね。
4 Re: Name:匿名石 2019/11/30-13:07:53 No:00006142[申告]
飼い主も糞蟲並ってことだね。
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