タイトル:【馬虐】 蛆専
ファイル:蛆専.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:4879 レス数:7
初投稿日時:2008/05/25-02:13:50修正日時:2008/05/25-02:13:50
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『蛆専』
 
 
※本スクはニンゲン語吹き替えでお送りしますレフ
(ニンゲンさんと蛆チャたちとの会話はリンガルを通していると思ってほしいレフ)
 
 
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「——プニプニするレフ」
 
 我が家の玄関前に転がる物体を見て、出先から戻ったオレは我が眼を疑った。
 
「蛆チャは待ちくたびれたレフ。ウンチいっぱい出たレフ。まずプニプニしてそれからウンチを舐めるレフ」
 
 全体は緑色だが顔に相当する部分だけ人間に似た肌色。
 そこに、これまたニンゲンをデフォルメしたような顔のパーツが並ぶ。
 赤と緑の左右色違いのぎょろりとした眼。
 荒く息を吹き出している、箸の先で突いたような小さな鼻の穴と、ほとんど扁平な鼻梁。
 よだれまみれの三つ口からは、小さな赤い舌が突き出ている。
 そして丸っこい胴体には小さな突起状の脚が四つ生え、短い尻尾とともにピコピコと蠢いている。
 う……蛆実装って、よく見るとこんなにビミョーな容姿だったんだ……
 その現実を改めて突きつけられるほど、そやつの姿はオレの眼にドアップで迫る。
 そう——そやつは、デカかった。
 並みの蛆実装の大きさは頭から尻尾まで含めて人間の手の指ほど。
 だが、我が家の玄関先に転がっているのは頭と胴体がそれぞれ握り拳ほどである。
 つまり手足を切り落とした仔実装のサイズと、ほとんど変わらない。
 
「何を黙って見てるレフ。遅くなって申し訳ありませんとか言ったらどうレフ。礼儀の足りないニンゲンレフ」
 
 そして、この可愛げの欠片もない糞蟲台詞である。
 こんなの——こんなの、オレの愛する蛆ちゃんぢゃないやいっ!!
 
 
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 オレはどうしようもないほど蛆専だ。
 蛆ちゃんと戯れるたびにオッキしてしまうイケナイ愛誤派だ。
 しかしジックスそのものは目的ではない。
 蛆ちゃんの愛らしいレフ声を聴きながら、柔肌にプニプニと触れるだけでオレは逝けてしまうのだ。
 我が家は建売り一戸建て。
 だがそれを手に入れた直後に転勤の辞令が下ったオヤジはオフクロとともに遠い街にいる。
 姉貴はすでに結婚していて、専門学校生のオレは図らずも一人暮らしを満喫することになった。
 さすがに一軒家は広すぎて掃除がメンドいけどな。
 そんなオレの家のリビングに置かれた水槽には常時十匹前後の蛆ちゃんがいる。
 本当はもう少し増やしたいが水槽のサイズ的にいまの数が限界だ。
 飼い主のエゴで蛆ちゃんの快適な生活環境を損なってはならないのである。
 ……水槽を買い換えたらどうかって?
 確かにそこそこ広い家だから水槽の置き場所には困らないけど予算がね……
 家賃かからないんだからって仕送りがカツカツなんだよ。
 それはともかく。
 我が愛蛆ちゃんの水槽内には化粧用コットンを敷き詰めてある。
 オフクロや姉貴が使っていたので、そういう商品があることを知っていたのはラッキーだった。
 可愛い蛆ちゃんの水槽にゴワゴワした古新聞を敷くなんて許されることではない。
 水槽の四隅には、それぞれ水皿、エサ皿、それに砂を敷いたトイレ用の皿二つを配置。
 隅にわざとおいたのは、水槽からなかなか出してあげられない蛆ちゃんたちを少しでも運動させるためだ。
 もっとも蛆ちゃんのウンチはところ構わず出るものだからトイレ皿はあまり意味がなかったりする。
 ついでにいえば水皿やエサ皿にウンチしてそれを自分で食べたりもする。
 
「このお水、ウンチの味がするレフ」
「ゴハンもウンチの味がするレフ」
「蛆チャのウンチはウンチの味がするレフ」
「どっちもウンチの味ならウンチを食べるレフ。眼の前にたくさんあるレフ」
 
 そんな剽軽(ひょうきん)さも蛆ちゃんの魅力じゃないかとオレは思っているのだけど、どうだろう?
 ……ウンコを喰うなんて莫迦なだけだって?
 何を言うか。莫迦な仔ほど可愛いと言うじゃないか。
 
 
 そんな我が家の蛆ちゃんたちだが、きのう、おとといと続けて悲しいことになってしまった。
 自然死である。念のため言っておくけど。
 もともと蛆実装というのは実装石の未熟児だ。
 仔実装以上ならば頭を潰そうが手足を引きちぎろうが偽石さえ破壊しなければ生きている。
 場合によっては偽石が自壊することもあるが、それは虐待など強烈なストレスに晒された場合である。
 だが蛆実装は脆い。儚い。
 ちょっとした痛み、精神的ショック、寂しさなどでパキンしてしまう。つまり偽石が勝手に割れて死ぬ。
 美石薄命。
 あらゆる実装石の中で最も愛らしく至高の存在である蛆ちゃんに造物主は儚い生命しか与えなかったのだ。
 先週も三匹亡くなっていたので水槽の中は随分と寂しく見えた。
 お友達を相次いで喪って蛆ちゃんたちも悲しそうだった。
 
「動かない蛆チャがいるレフ」
「パキンしちゃったレフ?」
「蛆チャは元気レフ。ゴハン食べるレフ」
「それなら蛆チャは元気にウンチするレフ。プリプリ〜♪」
 
 ……いや防衛本能が働いてお友達の死を認識しないようにしてるのかな。本当に悲しいとパキンしちゃうし。
 たとえ単にアホなだけだったとしてもオレが蛆ちゃんを見限ることはない。
 アホの仔ほど(以下略
 
 
 そんなわけでオレは新しいお友達を迎えるべく日曜日のきょう、ペットショップへ出かけていたのだった。
 そして新たに六匹の蛆ちゃんを買い求めて帰宅したところで玄関先に巨大蛆を発見したのである。
 
 
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「——早くするレフ。プニプニするレフ。待たされすぎて、またウンチ出たレフ。全部舐めてもらうレフ」
 
 巨大蛆の罵詈雑言を浴びてオレは現実に引き戻された。
 罵詈雑言といっても相手は仰向けに無防備に転がったままだ。
 そして辛うじて視界の端に映っているらしいオレに向け蛆実装らしからぬ暴言をわめき立てているのである。
 ——糞蟲さながらに。
 踏み潰すのはたやすい。そう思った。
 相手が仔実装なら、すでにそうしている。成体だったら蹴り飛ばしている。
 だが、相手はまがりなりにも蛆実装の姿をしていた。
 オレは蛆専だ。蛆を相手にナニを勃たせてしまう愛誤派だ。
 そして——間違っても愛護派ではない。
 だから、オレは蛆の姿をしたそれを手でつかみ上げた。
 プニプニとした弾力。短く不格好な脚がもぞもぞと掌をくすぐる感触。
 こんなヤツでも間違いなく蛆だ——
 
「つかめとは言ってないレフ。プニプニしろと命じたレフ。全く役立たずのニンゲンレフ……」
「きょうから蛆ちゃんは我が家の仔だよ」
 
 オレは努めて優しげな声音で言ってやった。
 すると巨大蛆は「レ?」と一瞬戸惑った様子を見せたが、すぐに胸を張るように身を反らし、
 
「当然レフ。蛆チャはニンゲンの家の前で待ってやってたレフ。ニンゲンは蛆チャを歓迎する義務があるレフ」
「もちろん歓迎するよ。さあ、キミの暮らすことになる家に入ろうじゃないか……」
 
 オレは新しい「オモチャ」を手に入れた喜びを噛み締めながらポケットを探り、玄関の鍵を出した。
 
 
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「——レピャッ!?」
 
 風呂場の冷えきったタイルの上に置かれて巨大蛆は抗議の声を上げた。
 
「何するレフ! 蛆チャはデリケートレフ! こんな冷たい場所に連れて来やがるなレフ!」
「まあ、ちょっとだけ待ってろよ。凍りつくほどの季節でもないだろ」
 
 素の口調に戻ってオレは言うと風呂場のドアを閉めた。
 換気のために高窓は開けてあるが蛆実装がそこまで這い登れる筈はない。
 つまり逃げ場は与えていない。
 オレは先に可愛い「家族」の歓迎の準備を整えることにした。「オモチャ」の始末はそれからだ。
 蛆ちゃんたちの水槽を置いてあるリビングへ行った。
 自前でペットショップへ持ち込んだキャリーケージを開け、新しい六匹の蛆ちゃんが元気なことを確認。
 
「……ここどこレフ?」
「オネチャどこレフ?」
「ママはどこレフ?」
「ここはキミたちの新しいおうちだよ。キミたちは飼い蛆実装になったんだ」
 
 オレが言ってやると、蛆ちゃんたちは、ぽかんとした様子だ。
 
「蛆チャのおうちレフ? でもママもオネチャもいないレフ」
「蛆チャのオネチャもママもいないレフ」
 
 俺は優しく微笑みかけ、
 
「ペットショップにいたときでもママやお姉ちゃんはいなかっただろう?」
「いなかったレフ……」
「蛆チャのママもいなかったレフ……」
「レェェェ……ママもオネチャもいないレフゥ……」
 
 可哀想に何匹か涙ぐんでしまった。やっぱりぽかんとしている蛆ちゃんらしい蛆ちゃんもいるんだけど。
 オレは用意しておいた金平糖を一粒ずつ、ケージの中の蛆ちゃんそれぞれの前に置いた。
 
「……レ?」
「何レフ?」
「金平糖だよ。ママの胎教の歌で聴いてるんじゃないかな? 食べてごらん」
 
 途端に蛆ちゃんたちはみんな眼を輝かせた。泣いていた仔たちも、ころっと笑顔になり、
 
「アマアマレフ! 聞いてた以上のアマアマレフ!」
「ホンモノの金平糖レフ! 夢で見たウンチ味の金平糖じゃないレフ!」
「かたちも夢で見たウンチ型の金平糖と違うレフ!」
 
 ペチャペチャペチャ…
 
 と、小さな舌の音を立てて金平糖を舐め始める。
 可愛いなあ……
 オレは心が安らぐのを感じる。
 ペットショップではセール品扱いにしかならない蛆実装に金平糖を与えることはしない。
 ブリーダーの元では言わずもがな。
 飴と鞭の飴として用いるべき金平糖を、躾けたところで意味のない蛆実装に与えるわけがない。
 蛆が生まれたら躾けなど省略して速攻でペットショップへ出荷、それが正しいブリーダー経営だ。
 だから蛆ちゃんたちにとって、これが金平糖初体験というわけだった。
 オレは片手で蛆ちゃんを一匹ずつつまむ。
 そして、もう一方の手で金平糖をつまみ、蛆ちゃんに金平糖を舐めさせながらケージから水槽へ移した。
 新しい環境への移動も、これならスムーズだ。
 そして六匹の蛆ちゃんの移動を終えると、元から水槽にいた五匹にもそれぞれ金平糖を与えた。
 
「アマアマレフ! 蛆チャはウンチより金平糖が好きレフ!」
「蛆チャも金平糖が好きレフ、でもウンチも嫌いじゃないレフ」
「ゆっくり食べるといいよ、あとで新しい『オモチャ』も持って来るけど、しばらく時間がかかるからね」
 
 
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 風呂場に戻ってみると巨大蛆は床に広がるぬかるみのような軟便に身を沈めていた。
 
「ニンゲンのせいでおなかが冷えたレフ! ウンチ止まらないレフ!」
 
 ……ギュルゴロ……プリリリ……

 わめくそばから、とめどもなく軟便がひねり出される。
 オレは「可愛いほう」の蛆ちゃんたちに向けたのとは全く質の違う笑みを巨大蛆に向け、
 
「全部出しきれば止まるだろ、ほれ」
 
 と、金平糖に似て非なる例のアレを放り投げた。
 それはうまい具合に巨大蛆の顔の前に転がったが、軟便にまみれたことがお気に召さなかったようだ。
 
「ウンチがついたレフ! 蛆チャはバッチイ金平糖は食べないレフ!」
「ほう……オマエ、金平糖がどんなものか知ってるのか?」
「当然レフ! 蛆チャは朝晩デザートに金平糖を食べるレフ!」
 
 それが実装石特有の見栄でなければ、こいつは元・飼い蛆実装かもしれないとオレは思った。
 野良の実装石でも運がよければ愛護派の与える金平糖にありつく機会はある。
 だからペットショップ直送の蛆ちゃんと違って金平糖を知っていたとしても不思議はない。
 しかし野良育ちの蛆がここまで大きく成長できるのかは疑問だ。
 身体が大きければそれだけエサの消費量も大である。
 もちろん、ここまで身体を成長させる過程でも大量のエサが必要だった筈だ。
 どれほど家族愛のある野良の一家でも、ただ這い回るだけの無駄飯喰らいにそこまでエサを分け与えるか?
 ゆえに可能性としては、人間の家庭で溺愛されて育った元・飼い蛆……
 ……で、あったとして、なんでオレの家の前に転がってやがったんだ、こやつは?
 
「——ガタガタぬかすなッ! テメェがひり出したウンコだろがッ! 喰いやがれッ、オラァッ!」
 
 オレは糞まみれの巨大蛆を右手につかみ、左手でつまみ上げた金平糖モドキを口に押しつけてやった。
 
「……ムギュゥッ!? 何するレフッ!?」
「喰えっつってんだッ、オラオラオラァッ!!」
 
 並みのサイズの蛆ちゃんには(決してするつもりはないが)このプレイは無理だ。
 お口が小さくて可愛らしいから。
 相手が巨大蛆だからこそ、その三つ口に無理やり例のアレすなわちドドンパを押し込むことができた。
 
「……アマアマレッフン!?」
「わかったなら噛み砕いてみろッ、その締まりのねえ口できるだけ閉じてなァッ!」
「レッ…………レピャァァァァァッ!?」
 
 ——ポフッ!!
 
 巨大蛆の口というか頭の中で小さな破裂音がして、頭巾越しに耳から白い煙が吹いた。
 その直後、サツマイモみたいな胴体がぶるりと震え、
 
 ——ブボバボブベボバァァァァァッ!!
 
 濁った緑色の軟便を総排泄口から湯気とともに噴き出し始めた。
 
「レピャァァァッ!? ウンチが……ウンチが止まらないレフゥゥゥッ!?」
「ドドンパの威力、思い知りやがったかッ! ……って、汚ねえッ!?」
 
 勢いよく床を叩いた軟便がオレのズボンの裾に撥ねかかっているのに気づき、思わず巨大蛆を放り出す。
 
「……レビェッ!?」
 
 重量バランスの悪い蛆は頭から床へ落下したが、大量の糞がクッションになって破裂することはなかった。
 あぶねえあぶねえ。脆い蛆は落っことしただけで身体が潰れて死ぬことがあるからな。
 糞の池の中にうつ伏せに転がり、ふるふる身を震わせながら大量の糞を漏らし続ける巨大蛆。
 やがて排泄が収まったところで、オレはそいつをつかみ上げてシャワーをぶっかけた。
 
「レェェェェェッ!?」
「静かにしろッ! シャワーの出し始めは人間様が浴びるときだって冷たいんだッ!」
 
 もっとも人間は、最初は床なり湯船なりにシャワーを向けて湯温が上がってから浴びるのだけど。
 
「レヒェッ!? レヒェッ!?」
 
 巨大蛆はオレの手の中で、びくびくと身をくねらせる。
 昔、商店街のイベントで体験したウナギのつかみ取りを思い出す。
 いや——赤と緑の本気涙を流して泣き叫んでみせる分だけ魚類よりも余程、手応えがある。
 
「イヤレフ冷たいレフ蛆チャ泣いちゃうレフもう泣いてるレフ冷たいレフやめてレフ〜!!」
「ウンコ洗い流してやってんだろがッ! 暴れてっと床にもっぺん叩き落すぞッ!!」
「イヤイヤレフひどいレフ蛆チャ何も悪いことしてないレフ助けてレフママママママァァァァァッ!!」
 
 ——ピンポ〜ン♪
 
 少しばかり間の抜けた昔ながらのチャイムを、巨大バカ蛆の悲鳴のおかけで聞き逃すところだった。
 オレは舌打ちしてシャワーを止め、せっかく綺麗になりかけた巨大蛆を糞が流れきらない床に転がす。
 
「そこで大人しくしてやがれッ!」
「……レェェェッ……レフッ、レヒェッ、ママァァァァァ……!」
 
 図体ばかり立派な糞蛆は、みじめたらしく泣いている。
 
 
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 玄関へ出て行く前にオレはリビングへ寄った。
 
「金平糖おいしいかい、蛆ちゃんたち?」
「ウマウマレフー♪」
「アマアマレフー♪」
 
 みんな半分くらいまで食べ進んでいる。きらきら眼を輝かせて無心に金平糖を舐める様子に心が洗われる。
 蛆ちゃんはオレの精神安定剤だ。
 気をとり直したところで玄関へ出て行く。だが、相手が誰か確かめてからドアを開けるべきだった。
 
「おたくの玄関のドアを実装ちゃんがずっと叩いてたザマス! 可哀想に手に血が滲んで……!」
「……グズン……めそめそデズゥ」
 
 眼の前にいたのは無差別愛護派で知られる向かいの家のババアだった。
 その横にはババアの腰辺りまでの背丈の成体実装石。
 薄汚れたピンク色の実装服を着て、同色の頭巾には破れかけた黄色いリボンなどつけている。
 明らかに捨て実装だ。野良に襲ってほしいといわんばかりの姿の。
 
「蛆ちゃんばかりエコヒイキする間違った愛護派のアナタの飼い実装でないのは承知しているザマス」
 
 ババアが眼鏡を指で押し上げながら言った。
 
「でもきっと実装ちゃんには事情があるザマス、ちゃんと聞いてあげるザマスよ!」
「……ありがどうございまずデズ……」
 
 こちらに背を向け道を横切り帰っていくババアに、ぺこぺこと成体実装は頭を下げている。
 元飼い実装だけあって、それなりの礼儀はわきまえているらしい。
 ババアが自分の家に引っ込み、ばたんとドアが閉まった。
 それを見届けてからオレは成体実装に眼を向け、口を開く。
 
「……何の用だ?」
「おたく様に先ほどワタシの娘の可愛い蛆チャを託児させて頂いたデス……」
 
 ——ズボゴォッ!!
 
 オレは反射的に成体実装の顔のど真ん中を蹴りつけていた。
 
 
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 道の真ん中に転がり出した成体実装を、オレは向かいのババアに見つかる前に家の中に引き戻した。
 しっかりと玄関の鍵をかけ、襟首をつかんで廊下を引きずっていく。
 漫画みたいに顔の真ん中を陥没させた成体実装は、手足をじたばたさせながら糞を漏らした。
 緑色の汚物のラインが板張りの床に引かれていく。
 クソッ。あとで掃除しないと。
 向かいのババアと違って裏の家のオバサンはアンチ実装石だから、裏庭なら思う存分、制裁できる。
 そう思って糞蟲を裏庭に放り出し、仰向けに転がった相手の腹を踏みつけた。
 
「……デベェッ!? 何をするデズッ!?」
 
 腹を踏まれた反動なのか、陥没していた顔が、ぽこんと元に戻る。漫画そのもののデタラメなヤツだ。
 
「オレの家にテメェの糞蛆を託児したってのァどういうわけだァッ!?」
 
 俺が怒鳴りつけると、腹を踏みつけられた成体実装は手足をじたばたさせて必死でわめいた。
 
「仕方ないデス! 御主人様の家に帰れなくなったのデス! このままでは娘もワタシも飢え死にデス!」
「帰れないっつぅのが迷子にしろ捨てられたにしろ、オレの知ったことかッ、ゴルァッ!」
「娘は蛆チャを含めて四匹いたデス! でもほかの三匹はニンゲンさんに受け入れてもらえなかったデス!」
「何匹いようが託児された糞蟲の仔を飼ってやるアホがいると思うかボケェッ!!」
「ワタシの仔は糞蟲じゃないデス! いい仔たちデス! お寿司とステーキがあれば手がかからないデス!」
「それを糞蟲っつぅんじゃゴルァァァッ!!」
「……デベッ!? ギャッ!? ヤメてヤメ……デギャァァァッ!?」
 
 糞蟲成体の腹からいったん足を離したオレは、顔面を狙って何発も踵落としを喰らわせた。
 ぶりぶりとパンツの裾から漏らした糞で庭が汚れたのが腹立たしい。
 こんな蠢く汚物のせいでオレのハッピーサンデー(with 蛆ちゃん's)が台無しだ。
 
「……ヒィィィ……やめ……もう……諦め……帰るデズから……」
 
 弱々しく泣き出したのを聞いて、オレは糞蟲成体から足を下ろした。
 
「おうッ、テメェをここで殺したんじゃ後片づけが大変だからなァッ! とっとと出て行きやがれッ!!」
「今度はお向かいのニンゲンさんに託児させてもらうデズ……ワタシの蛆チャを返してほしいデズゥ……」
「はあっ!? とぼけたこと抜かすなゴルァァァッ!!」
 
 オレは再び糞蟲成体に踵落としを繰り返しお見舞いし始める。
 
「テメェが捨てた蛆だろがッ! 死ぬまでオモチャにしてやッからありがたく思いやがれッ!」
「そんなぁ……ヒギッ!? ……ひどいデズゥ……グベッ!? ……蛆チャがいないと託児が……ギャッ!?」
「オラッ! テメェの足で出て行くか生ゴミとして放り出されるか、いますぐ選ばねえかッ!!」
「出で行ぎまずデズゥッ!! 出で行ぎまずデズがらァッ……!!」
 
 オレがもう一度、足を下ろすと、糞蟲成体はその場に転がったまま両手を顔に当てて泣きじゃくり始めた。
 ウザい。
 
「……ワタシの娘たちはお手伝いのできるいい仔デズゥ……なのに御主人様は毎日ご立腹だったデズゥ……」
 
 デッデッデッ……と嗚咽を上げ、
 
「長女チャは自分のゴハンは自分で冷蔵庫から出すデズ……ちゃんと肉だけデズ野菜は手をつけないデズ……」
「……おい?」
「次女チャは御主人様の靴を磨くデズ……クリームが切れたらウンチで代用するお利口さんデズゥ……」
「……テメェ」
「三女チャは、おあいそが得意デズゥ……御主人様も最初は笑ってくれたデズのに……」
「テメェの思い出話に興味はねェんだ糞蟲ッ! いますぐ歩かねえのかッ!? ゴミ袋に詰めて放り出すかッ!?」
「デェェェッ……待ってほしいデズゥ……涙に浸ることすら許されないなんてニンゲンは冷血デズゥ……」
 
 のそのそと糞蟲成体は立ち上がり(あれだけ顔面を攻撃したのに大したダメージにならなかったのか?)、
 
「でも向かいの家のニンゲンは優しかったデズゥ……あのヒトに言いつけて蛆チャを取り返すデズゥ……」
「ひとり言のつもりなら玄関を出てから言いやがれッ!!」
 
 オレは縁側に立てかけてあったバールをつかんで糞蟲成体の脳天に振り下ろした。
 
「……デベェッ!?」
 
 見事に頭が砕け、爆ぜ飛んだ頭巾の下から血と肉片が飛び散る。ついでに偽石も砕けたらしい。
 パキンと破滅の音が響き、糞蟲成体は倒れ伏した。もはや生ゴミ。
 ちなみにどうして我が家の裏庭にバールがあったかというと、ここで過去に何度か糞蟲を制裁したからだ。
 しかし——
 胸糞の悪さに顔をしかめ、オレは元糞蟲現生ゴミの脇にバールを放り出して室内に戻った。
 オレは蛆専だ。
 成体の糞蟲など潰したところで、いい気分になるわけがない。
 
 
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 リビングの蛆ちゃんたちは金平糖を食べ終えていた。
 
「アマアマなくなったレフ」
「そろそろゴハンにするレフ」
「……レッ!? ウンチがほんのりアマアマレフ」
「アマアマを食べるとウンチもアマアマになるレフ」
「それは大発見レフ! ゴハンをやめてウンチを食べるレフ!」
 
 食後のおしゃべりも実に天真爛漫で可愛いではないか。
 それに引きかえ仔実装サイズ(手足無しのダルマ相当。有っても大して違わないけど)まで育った巨大蛆。
 糞蟲の母親から生まれるのは、やっぱり糞蟲というべきか。
 風呂場へ戻ってみると相変わらず、みじめたらしく泣いていた。全くもって可愛さの欠片もない。
 
「……レッレッ……ママァ……早く蛆チャを迎えに来てレフゥ……ここは地獄レフゥ……」
 
 オマエを迎えに来るのは死神だけだ糞蛆。ママを連れて行ったのと一緒のな。
 絶望させるには早すぎるので教えてやらんけど。ここでパキンされたら面白くない。
 オレは巨大糞蛆をつかむと洗面所で再び水洗いした。
 
「……レピェッ!? もうイヤレフ! お鼻から水が……レフッレフッ! ぐるぢいレフゥ……!」
 
 ピコピコと出来損ないの四肢を蠢かせるのが、実にたまらん感触だ。何の抵抗にもならんのにな。
 オレはいったん水を止め、巨大蛆の頭巾を剥ぎとった。
 
「……レェェェッ!?」
 
 糞蛆は生意気にも頭巾や服が大切なのか愕然とする。
 抵抗が止まっている間にシェービングクリームの缶をつかみ、中身は空っぽであろう頭に泡を盛り上げた。
 すると何を思ったか糞ナマモノ、ぎょろりとした眼を輝かせ、
 
「アワアワレフッ!? 蛆チャお風呂に入れてもらえるレフ?」
「んなわけねーだろ糞蟲ッ!」
 
 オレはT字の剃刀をつかむと巨大蛆の前髪を剃り上げた。
 
「レピャァァァッ!? それは御主人サンが使ってたソリソリレフ! 蛆チャの頭に当てたらダメレフ!」
「もう手遅れ。ほら禿蛆ちゃんの出来上がり、テッテレー♪」
 
 頭の泡を水で軽く流し、鏡の前に巨大蛆を掲げて自分の姿を見せつけてやる。
 
「……レェッ!?」
 
 野良糞蟲の中には鏡の仕組みを理解せず、禿裸になった自分の姿を指差して嘲笑うツワモノもいると聞く。
 だが元は飼い実装で剃刀の何たるかさえ知っていた巨大蛆は、鏡の中の禿が自分だとすぐに理解した。
 
「レピャァァァッ!? 蛆チャはドレイじゃないレフゥゥゥッ! 禿はイヤイヤレフゥゥゥッ!!」
「だから、もう手遅れ。キミは一生このまま禿だ、ついでに裸にも剥いちゃおうね」
「イヤイヤレフ! イヤイヤレフ! ママママ助けてレフゥゥゥッ!」
 
 ピコピコとオレの手の中で身をよじる巨大蛆だが、サツマイモ程度のサイズで人間様相手に何ができるか。
 おくるみタイプの蛆用実装服をオレはたちまち引き毟った。
 
「レェェェェェッ! 蛆チャは高貴なママの娘レフゥゥゥッ!! 禿裸なんて間違いレフゥゥゥッ!!」
 
 こいつの母親が気品の欠片もない糞蟲らしくみじめに死んだことを、どのタイミングで教えてやろうか?
 
「ここまでは前哨戦だよ糞蛆ちゃん、キミがこれから先の運命に耐えられるように特別な処置をしてあげよう」
 
 オレは以前から洗面所にあった実装シビレのスプレーを手にとり、ぷしゅっと巨大蛆に吹きかけた。
 愛護派寄りのパンピーが野良の被害を避けるために使う眠り薬程度の効果のものだ。
 オフクロがパンピーだったので我が家に置いてあった。オヤジや姉貴は平気でコロリのスプレーを使ったが。
 
「……レェッ……」
 
 禿裸蛆はだらしなく舌を突き出し、よだれを垂らしながら悶絶した。
 
 
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 禿裸蛆は眠りながら泣いていた。
 
「……レェッ……レフッレフッ……レヒッ……ヒクゥッ……」
 
 いったい、どんな悲しい夢を見ているのだろう。
 これから味わわされる現実のほうが、もっと辛いだろうけど——
 
「ほらッ、起きやがれウンコクズッ!」
 
 オレは新しい名前をつけてやった禿裸の巨大蛆にデコピンをかました。
 
「……レピャァァァッ!?」
 
 何度も聞かされた芸のない悲鳴を上げ、急に現実に引き戻されたウンコクズは、きょときょと辺りを見回す。
 
「……ママは……ママはどこレフ……?」
「テメェのママはとっくに生ゴミだッ! それとテメェの名前はたったいまウンコクズに決定だッ!!」
「……レッ……?」
 
 巨大蛆ことウンコクズは、ぽかんとした様子で、
 
「ママは蛆チャを抱き締めてくれたレフ……蛆チャの涙を舐めてキレイキレイしてくれたレフ……」
「だから寝ぼけてるんじゃねェッつってんだッ!!」
「レビャッ!? レピィッ!? レヒッ……痛いレフヤメてレフゥッ!!」
 
 デコピンを四発連打してやると、ウンコクズは身をよじって悲鳴を上げた。
 だが、どうにもならんのだけどな。
 カマボコ板に五寸釘で胸と臍の辺りを打ちつけられていては身動きもままならない。
 オレはリビングのソファに腰かけ、ソファテーブルの上に置いたカマボコ板付き巨大蛆を嬲っているわけだ。
 
「……レェッ!? オッパイの間もおへそも痛いレフッ!?」
「テメェにオッパイなんかねェだろがッ!」
 
 ムカついたというかキモいというか、とにかく気に障ったのでもう一発デコピン。
 
「イタイイタイレフッ! こんなのイヤイヤレフッ! ママ助けてママママママァァァッ!!」
「うるせェッ!」
 
 さらにデコピン。
 
「レギャァァァッ!! レェェェェェッ!! レビャァァァッ!!」
 
 デコピン! デコピン! デコピン!
 
「……レェェェ……」
 
 ようやく叫ぶのをやめたウンコクズは、だらだら色つき涙を流しながら、
 
「……こんなに叫んじゃったのに蛆チャ、パキンしないレフ……?」
「パキンして死ぬつもりだったのかテメェはッ、上等なマネしやがってッ!」
 
 俺はもう一発デコピンをかますと、テーブルの上に置いていたリ●インの小瓶を掲げてみせた。
 
「これが何だかわかるかウンコクズ?」
「ゲンキゲンキのお薬レフ……御主人サンがよく飲んでたレフ……」
「その中にお前の身体から取り出した偽石を浸けてある」
「……レッ!?」
「チリぃ蛆が相手じゃ滅多に成功しない処置だけど、テメェのその図体のおかげでうまくいったワケだッ!」
「レェェェェェッ!?」
 
 ウンコクズはギョロ眼をさらに剥き出し、ピコピコと慌しく不格好な四肢と尻尾を蠢かせた。
 
「ダメレフッ! 偽石は蛆チャのダイジダイジなモノレフ! いますぐ戻すレフ!」
「はァッ!? 初対面から思ってたけど口の利き方がなってねェなッ、テメェッ!」
 
 オレはさらに三発、デコピンをくらわせた。そろそろ糞蛆の禿頭がいびつな形になってきた。
 
「……レビャッ!? レピャッ!? レピェッ!?」
「戻すレフって何様だァッ、テメェはッ!? 人間様に糞蟲が口を利くときは常に敬語だろうがッ!」
「レェェェンッ……! でも偽石は蛆チャのモノレフゥッ! ニンゲンが勝手に取ったレフゥッ!」
「ニンゲンじゃなくて人間様だッ! それとオレのことは御主人様って呼べッ!」
 
 デコピン! デコピン! デコピン!
 
「オマエなんかアクマニンゲンレフッ! 蛆チャの御主人サンじゃないレフッ!」
「オマエの言うその御主人サンがオマエの家族を丸ごと捨てたんだろうがッ!!」
「……レェッ……!?」
 
 ウンコクズは本気涙を、だらだらと流した。
 
「……違うレフゥ……」
「何が違うんだッ!?」
「蛆チャたちが御主人サンを捨てたのレフ……お寿司もステーキも出さない甲斐性無しだったレフから……」
「……マジメに話を聞こうと思って損したぞッ、このウンコクズッ!」
 
 またデコピン!
 
「レビェェェッ!? 蛆チャは高貴なママの娘レフゥ! ニンゲンは宝物みたいに大事に扱うべきレフゥッ!」
「どこまで糞蟲なんだテメェはッ!? おかげで罪悪感なく何でもしてやれるぞオイッ!!」
 
 そう言いつつも最初から使うつもりで用意していた油性サインペンをオレは手にとった。
 そしてウンコクズの身体にボディペインティングを施してやる。
 
「イヤイヤレフッ! それは字を書くものレフッ! 蛆チャに近づけちゃ……レェェェッ!? イヤイヤァッ!!」
「完成だッ、ほら見てみろッ!」
 
 オフクロの部屋から拝借して来た手鏡をウンコクズに向けてかざした。
 
「レェェェェェッ!? ママァァァァァッ!! マラ怖いレフ! マラ怖いレフ! イヤイヤイヤレフゥゥゥッ!!」
「ふははははッ! テメェは本邦初公開ッ、かどうかは知らねェが禿裸マラ蛆になったんだッ!」
 
 オレはウンコクズの総排泄口の上に大きくマラの絵を描いていた——蛆にふさわしい包茎バージョンで。
 ついでに左右の脇腹には『プニプニされたらイッちゃうレフ』『ウンコクズちゃんと呼んでレフ』と書いた。
 もちろん前髪の剃り跡にはお約束の『肉』の字もだ。
 
「イヤイヤレフ! マラはイヤイヤレフ! パキンするレフ! パキンする……レ……レレッ?」
 
 ウンコクズ自身は偽石が砕けるほどのショックを受けているつもりなのに何ごとも起こらない。表面上は。
 リ●イン浸けにした偽石はア●ンアルファのコーティング済で簡単に死ぬことはできないのだ。
 まあ実際は過重なストレスで少しずつ劣化していく筈だが、普通の蛆ちゃんよりは長生きできるだろう。
 いいことは何ひとつないだろうけど。
 
「……レェェェェェッ……何でニンゲンはこんなひどいことするレフ……蛆チャ何も悪くないレフゥ……」
 
 ウンコクズは、みじめたらしく泣き出した。
 
「プニプニしてほしかっただけレフ……ゴハンも少し食べたかっただけレフ……レヒッ……ヒクッ……」
 
 カマボコ板に磔(はりつけ)の身では何の役にも立たない四肢と尻尾をピコピコと哀れっぽく蠢かせ、
 
「飼い蛆チャに戻りたかっただけレフ……ニンゲンにプニプニしてもらいたかっただけレフ……」
 
 レヒッ、レクッと、しゃくり上げて、
 
「いまからでも遠慮しないで飼い蛆チャにするレフ晩ゴハンはステーキにしたら無礼は水に流すレフ……」
 
 オレは無言でデコピンをかますと、カマボコ糞蛆をつかんで立ち上がった。
「可愛いほう」の蛆ちゃんたちに新しい「オモチャ」を与えるために。
 
 
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 蛆実装——蛆ちゃんは平和を好む愛すべきナマモノである。
 客観的に見てそうである筈だとオレの主観が断言する。
 蛆ちゃんは争いを好まない。そんなことよりプニプニが好きだから。
 蛆ちゃんは禿や裸の異形を蔑まない。自分とママとオネチャ以外の他人を十把一絡げでしか認識しないから。
 蛆ちゃんは糞蟲の高慢さと無縁である。プニプニさえ味わえればそれで満足しちゃうから。
 蛆ちゃんは媚びない。媚びようにも顔におテテが届かない。
 妬みや嫉みや怨みなど蛆ちゃんの心の中には存在しない。ゴハン食べてウンチすればそんなの忘れちゃう。
 もちろんゴハンがないときはウンチを食べればいいレフそれが蛆ちゃんレフ〜♪
 それゆえに——
 オレがウンコクズと名づけた糞蟲は、蛆実装ではあってもオレの寵愛の対象とならないのだ。
 だが——
 オレは蛆専である。愛誤派にして愛護派にあらず。
 愛する以外の蛆との接し方がオレにはあるのだった。ウンコクズは、それにうってつけの相手だ。
 客観的に見てぬるいと思うヤツはいるかも知れないが、それがオレの愛誤なのだ。
 
 
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「……大きな蛆チャレフ」
「禿裸で寒そうレフ」
「ゴハンもウンチもなくなったら、あの蛆チャを食べていいレフ?」
「ハハハ、ホントに困ったときはそうしてもいいけど、なるべくゴハンは忘れないようにするよ」
 
 オレは言ってやる。
 蛆ちゃんは基本的に同属喰いはしないが、極限の飢餓状態に陥ったときは禿裸を狙って食べることがある。
 それは親指以上の実装石のような差別感情に基づくのではなく単純に食べやすそうだからという理由らしい。
 禿裸の大きな蛆チャことウンコクズは、カマボコ板に磔のまま蛆ちゃんの水槽の中に立てかけて置いてある。
 余計なことを口走って可愛い蛆ちゃんの情操に悪影響を及ぼさないように三つ口は糸で縫いつけた。
 ただし中途半端に。
 おかげでリンガルを近づければ判別できる程度の泣き言は口にすることができた。
 
「……ヒェェェン……蛆ヒャにも金平糖ほヒいヒェフ……ホうヒて蛆ヒャだけイヒメられるヒェフゥ……」
 
 大柄な同属の繰り言を、しかし可愛い蛆ちゃんたちは聞き流している。
 自分には金平糖が与えられている。だから幸せ。
 隣の蛆ちゃんにも金平糖が与えられている。だから奪い合う必要もない。つまり幸せ。
 大柄な同属には金平糖が与えられていない事実は認識していない。
 そこまで頭を回す必要はないから。蛆ちゃん自身は幸せだから。
 
「……プニフー♪」
 
 金平糖を食べ終えた蛆ちゃんが、ころりと転がっておなかを見せた。
 
「御主人サン、食後のプニプニしてほしいレフ」
「わかったわかった、そんなおねだりも可愛いな蛆ちゃんは」
 
 ——プニプニ♪ プニプニ♪
 
「プニフー♪ プニフー♪」
 
 オレのプニプニを受けて心地よさそうに鳴く蛆ちゃん。
 さらに二匹目、三匹目の蛆ちゃんが金平糖を食べ終え、次々とプニプニをせがみ始める。
 オレは一匹ずつ丁寧にプニプニした。
 
「プニフー♪ プニフー♪」
 
 待たされている間も蛆ちゃんたちは文句一つ言わない。
 金平糖はみんなもらえた。プニプニもみんなしてもらえる筈。
 現にいま隣の蛆ちゃんもプニプニしてもらっているではないか。幸せ回路が、そう告げている。
 だから待っている間も幸せ。プニプニがもう始まっているようなものだから。
 備えた回路は低スペックだけど、それで充分幸せになれるエコロジーなナマモノなのだ蛆ちゃんは。
 
「……ヒフッ……エクッ……ヒェェェン……蛆ヒャにもフニフニヒろヒェフゥ、バカニンヒェン……」
 
 幸せから恒久的に見放されたウンコクズが、だらだらと涙を垂れ流している。
 蛆ちゃんたちと比べて随分と欲深いニンゲンという生き物であるオレは。
 そんなみじめなウンコクズを嘲弄することで、自らの幸せ回路を満足させるのであった。
 
 
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 ——その夜、オレは夢の中でも蛆ちゃんたちと戯れた。
 また夢精してしまった。
 
 
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【終わり】

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1 Re: Name:匿名石 2014/09/12-23:14:56 No:00001330[申告]
自分の蛆観にかなり近いスク
アホなところが可愛くもあり憎たらしくもあり
愛でて楽しい痛めつけて楽しい
2 Re: Name:匿名石 2014/09/13-00:32:36 No:00001332[申告]
蛆っていいよね
3 Re: Name:匿名石 2014/09/13-22:16:45 No:00001333[申告]
魚釣りの時に使う蛆をみて
おもわずレフレフとかセリフを
脳内で想像してしまったのは
俺だけだろうか
4 Re: Name:匿名石 2014/10/01-21:04:48 No:00001409[申告]
蛆きもすぎ
なにがプニフーだよ すりつぶしたい
5 Re: Name:匿名石 2014/10/01-23:00:17 No:00001414[申告]
アホカワイイとこがイイね
6 Re: Name:匿名石 2020/01/30-23:34:13 No:00006183[申告]
愛虐食どう使っても愛しい蛆ちゃん
実装石に人間的な要素を投影するほど強調される異物感
蛆ちゃんの存在を知った日から実装石から離れられなくなった
7 Re: Name:匿名石 2023/07/18-12:52:46 No:00007547[申告]
ウンコクズざまあ
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