彼はどこにでもいる虐待派だった。 ここは昼なお鬱蒼とした竹林に囲まれた公園。 しかし公園とは名ばかりでそれらしい遊具といえば塗装の剥れた動物を模した一本足のスプリング遊具が二体あるだけ。 敷地も狭く、ただ中途半端に余った空き地をとりあえず活用しただけといった風情である。 開発から見放された場所ではあるが、その公園を横目にした暗い道には人通りは決して皆無ではない。 この未開発の一角を通り抜ければその向こうには比較的大きなベッドタウンがある、 従って最寄り駅まで徒歩で通勤通学する人たちにとっては案外馴染みのある場所ではある、 だがそれは単なる通り道としてであってこの公園で子供たちが遊んでいるのを見かけたものはいない、 その上近在に民家も少なく、ゴミ捨て場も無いことから公園を根城にすることの多い実装石達にさえ見放されている。 夜ともなればポツリポツリと点在する街頭の明かりだけが光源となってしまい、一人歩きはさすがに少々怖いものがある。 だが駅からバスを使うよりはよほど多少の我慢をしてここを通り抜けるほうが早い人たちも多いというのが現状だ。 何故この一角だけ開発の手が入らないのかといえば不思議ではあった。 ここの地主が手放さないだとか、 県境なので行政が二の足を踏んでいるだとか、 公園の横にひっそりと立っている変わった形の道祖神を退かすと祟りがあるだとか…、 ありがちな噂もいくつかあったがどれも信憑性に欠けるものばかりだ。 ただここの道祖神のようなものは確かにちょっと変わっている。 二つ並べたひょうたん型の石の上にさらにひし形の石が乗っている。 ここの地主がやっているのかは知らないがこの道祖神にはご丁寧に茅葺の屋根が被されている。 それも古くなってくるといつの間にか新しいものと代えられてるのだ、 確かに珍しいものらしく以前盗難に合ったことがあるとかないとか…。 さておき。 最近、あの公園に実装石が何家族か住み着いたらしい。 現在無職の虐待師の男は目利きだった。 ありがちな人間関係の問題で会社を辞めて以来定職に着くことなく、 アルバイトなどで細々と食いつないでいるこの男の唯一のうさばらしといえばもっぱら実装石の虐待であった。 何せほとんど金はかからないし野良実装など害獣以外の何物でもないのだから殺したところで誰に非難を受けるわけではない。 男は実家暮らしだが両親共に健在で二人ともまだ働いている為、息子が定職に付かないことをそれほどうるさくは言わなかった。 前の会社で嫌な思いをしたのだから今は仕方が無いがいずれは元に戻るだろうと楽観していたのかもしれない。 男は学生時代暇を持て余しては実装石を虐待していた、 社会人になってからは自由な時間が少ないこともありめっきり遠のいていたのだったが事情が変わった。 暇な時間が多くなったのに呼応するようにして再び虐待派としての血が騒ぎ出したといったところだろう。 それはともかく、こんな山実装と変わらぬようなホームグランドで暮らす実装石達だ、 大方野良であってもクソムシが台頭する大きな街中の公園では暮らせない弱者か賢い部類の者達であろう。 男はどちらかといえば糞蟲個体を虐待する方が好きであった。 相手が糞蟲であればあるだけもともと申し訳程度ではあっても殺生に対する罪悪感がより少ないからである。 とはいうものの、男の暮らす実家周辺にはそうした糞蟲個体が多く住む公園は無く、 そういう類を求めるのだとしたら多少の遠出が必要となる。 糞蟲ごときに労力を使うのが嫌だったから、ここの実装石をターゲットにした理由はその程度だ。 「デギャッ!」 半地下になっている自宅のガレージの床についさっき捕まえてきた少々肥えた成体実装を無造作に投げ出す。 「…さて、こんなもんか…」 捕まえてきた実装石は成体4匹、仔1匹。 成体はともかく仔実装はもう少し多いかと思っていたのだが結局捕まえられたのはたった一匹の仔実装を連れた親子のみだった。 やはりあんな場所に住み着く個体は大きなコロニーから追い出されたか或いは自らの意思で出てきた慎重な者達なのだろう。 この唯一の親子も他に子供はいないらしい、よほど厳選してたった一匹を残して間引いたのか。 まあいい。 車庫はあっても車を持っていないため、ただの物置になっていたこの場所は虐待には最適の場所だ。 ある程度広さもあれば半地下のためシャッターを閉じてしまえば声も漏れにくい。 既に日も落ちた時間だが男の両親はまだ帰らない。 やはり相手が実装石とは言え「虐待派」に反感を覚える一般人も少なくない、 恐らく男の両親もそうした「一般人」に入る人種なのだろう、だからこそ彼らがいない時間を選ぶのだ。 男はカメラをセットする。 これで虐待の様子を録画してネット配信するのだ。 カメラのマイクに向かって男は意気揚々と喋り始める。 「えー、本日3月26日、午後6時45分、これから糞蟲どもの処刑を始めまーす」 同好の士は結構多く、そうした虐待映像を配信し合ってはやれあの虐待師のやり口はマンネリだの、 これは新しくて面白い、自分も挑戦してみたい、こういうのはどうだろう?などと掲示板で意見を交し合ったりする。 よくある虐待師のネットコミュニティーだ。 男は今、これにハマっているのだ。 「さて、糞蟲諸君、これからお前たちを虐待しようと思うのだけれど言い残すことがあれば一応聞いてやろう」 怯えて一箇所に固まっている実装石たちに向かって男はリンガルを通して至極楽しそうに話しかけた。 するとうち一匹の成体実装が突然身を乗り出して吠え立てた。 「デ…!ふざけるなデス!ワタシ達はクソムシじゃないデス!ニンゲンに迷惑をかけることなく静かに暮らしていただけデス! それをなんのケンリがあって…」 この成体実装の言葉を遮るようにヒュッ…と風を切る音が聞こえ、次の瞬間、主張していた成体実装が横なぎに吹っ飛ぶ。 男のバールの一撃だ。 「…うっせーよ、糞蟲、これだから口の達者な賢いやつは嫌いなんだよなあ」 それを見たほかの実装たちからも口々にデギャー!テチー!などの耳障りな悲鳴が上がる。 「いいか?糞蟲ども、お前らは生きているだけで迷惑なんだよ、生きる権利云々を語れる資格なんて初めからないんだよ、分る?」 さっき吹っ飛ばした成体実装が額から血を流しながらヨロヨロと起き上がって勇敢にも赤緑の目で男を睨み付けた。 「お?なんだ?その目は?人間様に意見しようってのか?」 「お…お前はキ○ガイデス!!ワタシ達は○※◆△デス!?ドコに×○□※×▼△…」 —あれ?リンガルの調子が悪いな…やっぱ安物は駄目か? 男はリンガルを軽く叩いてみた、一部翻訳が出来なくなっている、確かに安物の部類のリンガルではあるが、 元々リンガルは故意に壊しやすいので安物でもかなり丈夫に出来ているというのが通説だ。 まあ要するに糞蟲発言に「つい、カッとなって」投げつけてしまったりなどが多いので安いものであっても割合頑丈なはずだった。 とはいえ機械は機械、衝撃や水没などの原因なくしても何らかの拍子に壊れることは間々あるだろう。 —まあいいか 男は思いなおした。 例えリンガルが正常に機能しなくても賢いやつらの言い分は苦手だ、 「お前の方こそクソムシデス!」なんて生意気なことを言う様なヤツの言葉など最初から聞かないほうがマシだ。 こちらがリンガルの不具合に気をとられしばし黙っていると言い分が通ったとでも思ったのか途端に他の連中も騒ぎ出した。 「お願いデス!助けてデスゥ!なにも悪いことはしてませんデスゥ!!」 「このワタシをどうする気デス!クソニンゲン!!こんなことをしてだたで済むと思っているデズァ!さっさとワタシを解放するデス!!」 「お願いデス…ワタシはどうなってもかまわないデスゥ!でもこの仔だけは…この仔だけは…」 「テェェェェエェェン!!テェェェェエェェン!!ママーこわいテチー!!」 おや?珍しい、今回はどいつも「詫びろ」「飼え」「寿司・ステーキ・コンペイトウ」のお定まりの台詞を言わない。 やはり比較的賢い部類の連中だったらしい。 おまけにこの親子はよほど愛情ある個体と見える。 内一匹、最後に捕まえてきたでっぷりとした奴に限っては糞蟲というほどではないにせよ口が悪いようだが、 それに一番生意気なのが最初にバールで吹っ飛ばしてやったにもかかわらずまだ人間様に意見しようとしている成体実装だ。 まずはこいつから潰すか…? それはともかく他の連中の声が煩い。 「うっせーぞ糞蟲ども、3秒以内に黙らないと今すぐに全員潰すぞ」 ドスの利いた男の声にすくみ上がったように全員見事に黙る、気分がいい。 と思ったら例の成体実装が再び声をあげた。 「そ…っ、そんなに実装を殺したいならワタシだけを殺せばいいデスゥ!!その代わり他の仲間は無傷で解放しろデスゥ!!」 男はえらく感心した。 これはなんと気高く立派な実装石だ、他の無駄に増殖した糞蟲達にコイツのクソを煎じて飲ませたいようだ。 賢い個体は苦手だと思っていたが、コイツは案外面白いかもしれない。 これまで子供の為に「変わりに自分を」と言う親実装は見たことがあるが、 単に同じ公園に住んでいたというだけで他者の生命までをも思い遣る実装石は初めて見た。 「お前、なかなか勇気があるじゃないか、なにか?お前はコイツらのリーダーかなんかなのか?」 「リーダー…?どういう意味デス?このひとたちとは今日ここで初めて合ったデス…」 その答えは愈々もって意外だった。 というよりあんな狭い公園内で顔を合わせた事さえなかったのか?それも不思議に思うがよほど警戒心の強い連中なのかもしれないし、 それ以上に興味を引かれたのはコイツはまったく見も知らぬ同属を自分の命をかけて救おうとしているのだ。 これほど珍しいヤツは滅多にいないだろう。 「お前気に入ったよ、実装石のくせにいい根性してるじゃないか、どうだ?何なら俺がお前を特別に飼ってやってもいいぞ」 「デ…?デスゥ?」 「もちろん毎日とは行かないけど寿司もステーキもコンペイトウも食わせてやるよ、その代わり他の連中は皆殺しにするけどね」 「デデッ!?」 「さてどうする?それでもまだ自分を殺してもらって仲間を助けたいか?」 「ふ…ふざけるなデジャァ!からかうのも大概にしろデズァ!ワタシ達はみんな○×□△◇※○×…」 —くそ、またか 肝心なところでリンガルの調子が悪い。 この珍しい実装石のご高説を聞き逃してしまったじゃないか。 まあ録画してあるんだ…あとで新しいリンガルを買ってきてもう一度見返して見ればいい、 そもそもいくら立派な実装とはいえ所詮は実装石以上でも以下でもない、大体言いたいことなど予想がつく。 だがコイツはやはりかなり見所のあるヤツのようだ。 飼い実装や優遇をちらつかせても意志は変わらないと来た。 よもや飼い実装やコンペイトウなどといったものを知らないと言うわけはあるまい。 どういうわけなのか、実装石は総じて産まれた時からそうしたものに対する知識を持ち合わせている、 親の胎教の歌で教え込まれているのか、それとも遺伝子レベルで知っているのかまでは分らないが…。 「じゃあ交渉決裂だな、まずはお前から殺してやるよ」 「デッ…!す、好きにすればいいデスゥ!…だけどその代わり他の仲間たちは…」 「それは無ー理ー♪」 ふざけた調子で男は言うと、バールを振り上げてこの珍しい実装石の頭にその湾曲した角を叩き付けた。 「デブォッ!」 珍しい実装石が無様に顔から地面に叩き付けられる。 またもや他の実装どもからデギャァァァアー!という悲鳴がいっせいに上がった。 「はいはい、うるさいし、このくらいでお前ら死にゃーしねえだろ?」 男はこの珍しい実装石をそう簡単に殺すつもりは無かった。 床に倒れてピクピクしている珍しい実装石を見やると、懐から御自慢のサバイバルナイフを取り出した。 「さ、て、偽石はどこかな…」 うつ伏せに倒れている珍しい実装石をつま先で転がして仰向けにするとその腹を服の上から慎重にまさぐった。 腹の中腹に僅かに固い感触、ここだ。 男は実装服を捲り上げるとそのウレタンボディの腹に突きたてた。 「デギッ…」 珍しい実装石がビクンと身体を震わせる。 そのまま一気にナイフを引き下ろして手が入る位の大きさまで傷口を切裂く。 「デギャッ…デデッ…」 珍しい実装石の呻き声が響くがそんなものはどうでもいい、開いた傷口に遠慮なく手をズボッと差し込んだ。 「デギィィイィィイイー!!!」 一際大きな悲鳴が上がる。 「偽石はどこかなー?」 先ほど偽石のありかを確認したというのにあえてグチャグチャと腹の中をかき回す。 珍しい実装石はしばらく声にならない悲鳴を上げてビクビクと身体をのたうたせていたがやがて大きく痙攣すると動かなくなった、 どうやら気を失ったらしい。 他の実装石たちはその様子を見て引き攣った呻き声を漏らしながらガクガクと滑稽なほど震えていた。 一匹は見事にパンコンしている。 仔実装は震えながら親に抱きしめられてこっちを見てもいない。 しかし中には寝ている間に偽石を取り出しても気が付かない鈍感な輩もいるというのに、 こいつは根性があるんだか無いんだか分からないなと男は思った。 指先に硬いものが触れる。 「よし、発見」 男は偽石をしっかりつかんでその手を勢い良く珍しい実装石の中から引き抜いた。 「デフッ…」 その痛みに再び意識を取り戻したらしい珍しい実装石が目を剥いて再び大きく痙攣する。 男の指先には緑の石がしっかりと掴まれていた。 それをユ○ケルで満たしたビンの中に入れる、これで当面は死ぬ心配は無い。 男は思った。 コイツは実に珍しい実装石だ、簡単に殺すより仲間を惨殺するところを見せ付けて、ジワジワ気力を削いでやろうと。 いくら良い根性をしていても所詮実装石だ、仲間の悲惨な末路を目にしてもまだ我を通す度胸などありはしないだろう、 最終的にコイツに惨めに命乞いをさせてやろう、きっと面白い映像になるはずだ。 いまだ傷口の痛みに朦朧としているこの珍しい実装石を壁際に運んで壁を背凭れにするようにして座らせる。 「やっぱりお前はまだ殺さないよ、お前はそこで仲間の殺される様子をしっかり見てな」 男が言い放つと珍しい実装石は「…デェ…デェ…ヤ…メル、デス…」と荒い呼吸を繰り返しながらそれでもまだ仲間を気にかけていた。 たいしたものである。 さて、まずはどいつから行こうか? 男がじっくりと品定めをするように残りの連中を見回すと、その視線から逃れるように皆目線を床に落としている。 男の目がパンコンしている成体実装に止まった。 それに気がついたパンコンは「デヒッ!」と短い悲鳴を上げて飛び上がった。 「デ…デ…デヒィ…お、お願いデス、殺さないでデスゥ〜…ワ、ワタシのこの美しいからだを好きにしても良いデス〜ン、だから…」 —おお、なんだ、賢い連中ばかりかとおもっていたがこのパンコンはどちらかといえば糞蟲寄りだったらしい。 というか人間相手に色仕掛けが通用すると思ってる馬鹿がまだいたとは呆れて笑うしかない。 甘ったるい声を出しても気持ち悪いだけだっての。 まあ、所詮パンコンするようなヤツだしな…。 「ウリャ!」 男は短い掛け声と共にだらしなく開かれたパンコン実装の総排泄口目掛けてつま先を突き入れた。 何故かゴキッという鈍い音がした。 「デギャヒィィィィ!!」 パンコン実装が悲鳴を上げて転がりまわる。 「誰がお前のきったねえクソ穴&醜い弛んだ身体になんか興味示すかよバカ」 総排泄口を抑えてのた打ち回っていたパンコン実装の腹を足で思いっきり踏みつけて止めた。 「俺様の靴がテメエの汚ぇクソで汚れちまったじゃねえかよ」 男はパンコン実装の汚れた下着をバールの先で器用に剥ぎ取る。 そしてバールの真っ直ぐな方をパンコンの総排泄口にあてがって思い切りよくブッ刺した。 「デギョオオオオオオ!!」 パンコンの悲鳴が上がる。 バールは2/3がパンコンの中に埋没している、 さすがに効いたらしくパンコンは口をパクパクと開け閉めして声にならない苦痛を訴えた。 上手くすれば偽石に当たるかと思ったが、残念、外したようだ、頭に偽石のある個体なのかもしれない。 コイツの望み通り硬くて長いモンをぶち込まれて昇天したならせめてもの功徳になったというのに。 「そのバールはお前にやるよ、後生大事に咥え込んだまま死にな」 男はパンコンに向かってナイフを振り上げ、額目掛けて突き刺した。 「デ…ガ…」 最後に短く呻くと、パンコンは動かなくなった、やはり頭に偽石がある個体だったようだ。 さてお次は…。 そうだな、最後に捕まえてきた太り気味のヤツにするか。 通称メタボ実装とでもしよう。 男はメタボ実装の胸倉を掴んで同じ高さの目線まで持ち上げた。 「お前、重いなあ、もう少しスマートになった方が健康にいいんじゃないか?」 「デデデデデヒィ…」 —ヤバイな、コイツも今にもパンコンしそうだ 滑稽なくらいブルブル震えるメタボ実装の服を素早くナイフで切裂いて裸にする、見事に弛んだ腹が姿を現した。 「よーし、おれが特別にお前を世にも美しい体型にしてやろう、なに礼は要らんよサービスだ」 男はそういうと髪を掴んで見事なまでのナイフ捌きでメタボ実装の腹の肉を削ぎ落とし始めた。 「ヤ、ヤメテ…デギョ!デギャア!!デヒッ!!イダ…イダイデズゥ!!ヤメ、デギャギャ!!イダイィィイイ!!」 こいつは見た目以上に肉厚だったらしい、いくら脂肪層を削いでも削いでもなかなか内蔵に到達しない。 腹といわず、分厚い背中や尻、豚足のような手足、ふくよかな頬肉をもテンポよく削ぎ落としていく。 ベチャリベチャリと湿った音を立てて実装肉が床に落ちる。 「うん、だんだんスマートになってきたじゃないか、メタボ返上だな」 やがて腹の方から有って無いような内臓がドロリとあふれ出した。 「デギィィ…」 それを見た元メタボ実装は一声上げると、パキン、という音と共にだらしなく舌を突き出したまま動かなくなった。 —ショックで偽石崩壊を起こしたか、根性の無いやつめ 男はズタボロで所々骨が露出している元メタボ実装を床に放り投げると軽く舌打ちをした。 「デゲロオオォォォオオ」 突然気持ちの悪い声が聞こえた、見れば例の親子実装の親の方が床に吐き戻していた。 こいつらでも気持ち悪くなることがあるのか。 それにしてもやっぱりコイツらはちょっと変わった実装石達だ、 糞蟲個体なら吐き戻すどころか「デププ」と仲間の死を嘲笑うことさえあるというのに。 それも「あいつはブサイクだからこうなった、カワイイワタシは大丈夫」という何の根拠もない自信を持って。 ついでに壁際でこの光景を見せ付けている珍しい実装石はといえば。 まだ傷のダメージから立ち直っていないらしく「…デェ…デェ…デェ…」と苦しげに呻いている。 栄養剤に偽石を漬けてやったのに回復の遅いヤツだ。 さて、残るはこの親子。 愛情ある個体だからまずは仔を甚振ってやろうじゃないか。 仔実装を取り上げようとしたら親が「デシャアアァァァァァアア!!」と威嚇してきた、 生意気なので顔面が凹むほどのストレートパンチをお見舞いする。 「デボッ!!」 「マ、ママァーー!!」 仔実装の悲鳴が響くが男は無視して鼻血を吹いてひっくり返った親実装の短く不恰好な腕を縛り上げ、 ガレージのシャッターの開閉機構にロープの端を括りつけた。 「イヤテチー!!放しテチー!!ママー!ママァー!!」 暴れる仔実装に軽くデコピンをかます。 「テチャッ!」 おとなしくなった隙に全身に虐待用にこの車庫においてあったジッポオイルを取ってきて仔実装の身体にまんべんなく振り掛ける。 「ヤメルデスー!!」と突然声が上がった。 親実装ではなくさっきの珍しい実装石の方からだった。 「コ、コドモに何の罪があるデスゥ!!お前もヒトノココロがあるなら…ゲフォッ…その、親子だけは、逃、がしてやれデスゥ…」 どうもまだ完全には回復しきっていないらしい珍しい実装石が血泡を飛ばしながら訴える。 —ほほう…「ヒトノココロ」ときたか、実装石のくせに難しい言葉知ってやがんな 「そうかい、逃がして欲しいか、ならお前が代わりに火達磨になるか?」 「だ…から、さっき、から、そうしろと、言ってる、デスゥ…お願いだからこれ以上…仲間を、傷つけないで、欲しいデスゥ…」 苦しげな息の下でまたもや男を驚かせるような言葉を吐く。 こいつ本当に実装石か? そう疑いたくなるほどの自己犠牲精神。 —マジ、気に入った、コイツ 「うん、偉いねえ、ほんとお前偉いよ、そんな台詞人間様でさえ滅多に言えないよ、そんなお前に免じてこの親子は許してやろうか…」 男が考え込んだ様を見て珍しい実装石と親実装の目が期待に見開かれる。 「と、思ったけど気が変わったのでぇーっ!そりゃ点火ッ!」 男が愛用のジッポで火をつけるとたちまち仔実装は勢い良く燃え上がった。 「熱いテチィィィイイィィィーーー!」と甲高い悲鳴を上げて鼠花火の如く狭い車庫内を駆け回る。 「デギャアァァァアーーー!!ワタシのムスメェエェェエーーーーー!!!」 仔の悲鳴に親の悲痛な叫びが混じる。 男は駆け回る火達磨仔実装がこっちに来るたび足で軽く蹴飛ばした。 「ヒャハハハ、あぶねえあぶねえ」 しかしそれもほんの数分に満たなかった、やがて全身を黒コゲにした仔実装はパタリと倒れ、ピクピクと痙攣するだけになった。 「いやあお母さん、実に元気なお子さんですねえ、力一杯駆け回ってたと思ったらもう寝ちゃいましたよ」 男が愉快そうに血涙を流して動かなくなった仔を凝視する母実装に語りかける。 親実装はしばらく瘧にかかったようにガタガタと身体を震わせていたが突然、 「デジャアアアア!!デギャアアアアア!!」 と狂ったような叫びを上げた。 「オマエは鬼デス、アクマデス!!何で…なんで、何の罪もないワタシのムスメヲオオオォォオ!!」 その顔は怒りと悲しみで皺だらけになり、まるで悪鬼さながらであった。 その態度が気に触った男は仔実装の焼死体を親の足元まで転がしてきてそれに親の頭掴んで突っ込ませた。 ロープに引っ張られ短く無様な腕が抜けそうなほどピンと張られている。 「焼き加減はどうだ?遠慮せずに食えよ、ホラホラ、死んじまえばただの肉だろ?」 親実装は血涙をとめどなく流しながら仔の死体の煤で顔を真っ黒にしてムゴムゴと不自由な身体を捩っている。 「…酷すぎるデスゥ…」 という珍しい実装石の嘆く声が聞こえたが男は無視した。 男がその頭から手を離すと丸焼け仔実装から滲んだ体液や血液、煤で顔をグチャグチャにした親実装が怨嗟の こもった視線も凄まじく男を睨みつけた。 「…ワタシは…許さない…デスゥ…必ずオマエを殺してや、デッ…!!」 その恨み言をサラッと受け流した男の蹴りが親実装の顎にクリーンヒットする。 親実装の首がありえない角度に曲がったかと思うと、パキン、と小さな音が聞こえ親の目が白濁した。 どうやら仔を殺されたショックと男の強烈なキックで偽石が割れたようだ。 「俺を殺すだって?バーカ、先に死んだのはお前のほうだ」 —さて、これであの珍しい実装石を除いて全て死んだ訳だ。 親子の死体を見下ろしながら男は考えていた。 あの珍しい実装石は面白い、愛護の趣味は無いが飼ってやってもいい。 だがそれこそ毎日あらゆる方法で虐待してやろう。 そしていずれはあのいささか鼻につくほどの高潔な精神をボロボロにしてやって…、 今回は上手く行かなかったが必ず無様に命乞いをさせてやる、実装石に相応しい本来の姿に戻してやろう。 「おい、お前…」 男が振り返って珍しい実装石を見た。 するとあの珍しい実装石はがっくりと首をうな垂れ、ピクリとも動かなくなっていた。 まさか、と思って先ほど漬けた偽石を見るとユン○ルの液もどす黒く澱み偽石は見事に割れていた。 「チッ…なんだよ…」 男は少々落胆した、どうやら己の命をかけても救いたかった仲間の惨殺を目の前で見せ付けられたショックで割れたらしい。 せっかく世にも珍しい自己犠牲精神を持った野良実装を拾ったというのに…。 「しょうがないか…」 男はため息を付いて肩を落とした。 あんな実装石にはもうお目にかかることは無いかもしれないが死んでしまったものはしょうがない。 とにかくこの生ゴミとなった実装石達の死骸を片付けてしまおう。 いつものようにゴミ袋に放り込んで裏のゴミ捨て場に捨てに行く。 だが何故だかは知らないが、今日は妙に疲れたような気がする。 それほど重労働をしたわけでもないのに…。 身体が重く、眠気が酷い。 —仕方が無い、今日は画像の編集もアップロードも諦めてさっさと風呂に入って寝るとしよう… 男は夕食も取らずにやけに疲労した身体を自室のベッドに横たえるとすぐに深い眠りに入った。 翌朝。 珍しく早い時間に男は男の母親に揺り起こされた。 「なんだよ…」とぶつくさいいながら昨日の疲れがまだ残った半身をベッドからしぶしぶ起こす。 「あ、あのね、今…その、警察の方がお見えになって…あなたに話があるって…」 母親はまるで何かを恐れているかのような歯切れの悪い口調で男に告げた。 —警察?なんだ? 一体なんだというのだろう? 男は訳が分らないまま寝癖の付いた頭で玄関に出た。 「ああ、貴方が息子さんですか?昨日この辺でちょっと事件がありましてね…少し、署の方でお話をうかがえませんかね?」 警察手帳をかざして見せた中年の私服刑事の後ろに3人の警官がいた。 ずいぶんと物々しい雰囲気だ。 そのとき男が思ったのはまさか昨日殺した実装石の中に飼い実装がいたのではないかと言う事だった。 野良のつもりで攫ってきたのだったが、まずいことになった…。 男は刑事達の無言の圧力に押されパジャマ代わりのトレーナー姿のままパトカーに押し込まれた。 —ひょっとしたらあの珍しい実装石か? —あんな野良がやっぱりいるわけが無いか…躾済みの高級飼い実装だったんだろうか? —畜生、マズったな… だとしたら器物破損罪か刑法第44条に問われ、多額の罰金を支払わされることになるだろう。 だが飼い主も飼い主だ、あんな寂れた公園に一匹で遊ばせておくなど無責任もいいところだ、 そう、あいつをさらって来た時には確かに周囲に人影は無かったはずだ。 ましてや首輪さえ付いていなかったじゃないか…それで野良と間違われて虐待されたとて悪いのはこっちじゃないだろうに。 警察署の取調室に連れて来られた男は不機嫌だった。 「…昨夜夜7時ごろ、君の家のガレージでのことを聞かせてもらえるかね?」 年季の入った中年刑事が重い口調で男に尋ねる。 取調室には若い刑事が一人と警官が二人付いていた、この厳重さは何だというのだろう? 誰も彼も押し黙って男を睨むような視線で見ている。 —たかが飼い実装を殺したくらいで大げさなんだよ… 男は心の中で舌打ちした。 動物愛護精神だかなんだか知らないがこいつらは実装石の性根の悪さを知らないんだろう。 知れば飼い実装だろうがなんだろうがこんな仰々しいまでの重苦しい顔などするはずが無い。 男はからかい半分のつもりで口を開いた。 「ええ、いいですよ、詳しく教えて差し上げますよ」 軽々しく答えた男は調子付いて話し始めた。 「…で、まあ仔蟲含む4匹の糞蟲ドモを始末した時にはヤツはもう死んでたんですよ、全く根性がないですよねえ」 男は昨夜の虐待について易々と全てを話した。 話し終えた時には若い刑事は口元を押さえていた、こいつも根性が無いなと思った。 年季の入った中年刑事は強面の顔を更にしかめて男を見つめた。 「…罪の意識は無いのかね?」 先ほどよりもっと低い声で男に問う。 「ありませんね、あったらあんなことはしませんや、刑事さんたちもいっぺんやって見たら?案外スカッとしますよ」 男はニヤニヤして刑事達の顔を挑発的に見渡した。 「ふざけるな!!」 先ほどまで黙っていた若い刑事が突然怒鳴り声を上げた。 その剣幕に男は少々驚いた。 「お前は…お前は自分が何をしたのか分かっているのか!?小さな子供を含む5人もの人間を殺しておいて! 罪の意識もないだと?スカッとするだと!?糞蟲だと!?お前のほうこそ糞蟲じゃないか!」 激高した若い刑事が男の胸倉を掴んで喚きたてた。 —え?こいつ今何て言った?『5人もの人間』って… —何を言っているんだ?俺が殺ったのは実装石で… 中年刑事が至極冷静に「やめろ」と割って入って若い刑事を宥めた。 男の胸倉から手を離した若い刑事は泣いていた。 「…とにかく、5人の殺害を認めるのだね、よし、今から正式な逮捕状を申請しよう」 中年刑事が疲れたようなため息を付いて男に言った。 —逮捕状!? —5人の殺害って…おい、待てよ、コイツらなんか勘違いしてるぞ!? —まさか家の近くで本物の殺人事件があったのか!?それで俺が疑われてるってのか!?冗談じゃない!! 「け…刑事さんちょっと待ってくださいよ!誤解ですよ!だから俺が殺したのは実装石で人間じゃないですよ! どこの殺人事件と間違えているんだか…や、やだなあ、ハハ…ち…ちゃんと調べてくれれば分りますよ、 そ、そう、ビデオがあるんですよ!その時間、実装石を虐待してた…」 男はようやく自分の置かれている危機的状況に気が付いて今までの余裕はどこへやらで必死に弁明を始めた。 中年刑事は男をジロリと一睨みすると後ろに控えていた警官になにやら持ってくるようにと指示を出した。 少しして戻ってきた警官が持ってきたのはビニール袋に入れられた昨夜男が実装石の虐待記録に使ったビデオのメモリーカードだった。 ついでに数種類のメモリー媒体を直再生できるリーダライタ付きのモニターも運ばれてくる。 「家宅捜索礼状は既に取ってある、これはつい先ほど君の家から押収されたものだ、正式な証拠として扱われる」 そう中年刑事が言うとメモリーカードをスロットに差し込んで再生させた。 男は安心した、これさえ見てもらえば馬鹿な疑いははれるはずだと。 録画された映像が画面に映し出される、しかしその映像を見た男の目が驚きに見開かれた。 場所は確かに見慣れた自宅のガレージ。 だがそこにいたのは仔実装含む5匹の実装石ではなく、 その腕を後ろ手にそして足をも厳重に縛られて座り込む人間の男女の姿だった。 若い私服の男と、会社帰りのOLのような若い女、それから6、7歳くらいの女の子に寄り添うやや年嵩の女…。 うち一人の太り気味で背広を着た中年男は床に無造作に転がされたままだ。 そして男自身がカメラの前に立って意気揚々と喋り始めた。 『えー、本日3月26日、午後6時45分、これから糞蟲どもの処刑を始めまーす』 —…まさか…そんなはず… 男の腋の下を冷たい汗が流れた。 こんなはずは無い、これはどう言う事なんだ? 『さて、糞蟲諸君、これからお前たちを虐待しようと思うのだけれど言い残すことがあれば一応聞いてやろう』 映像の中の自分が彼らに向かって言う。 若い男が声を上げる。 『ふ…!ふざけるな!俺達は糞蟲じゃない!誰に迷惑をかけることなく静かに暮らしていただけだぞ!それを何の権利があって…』 その青年に向かって画面の自分がバールを振りかざす。 青年が横なぎに倒され、他の4人から悲鳴が上がる、もちろん人間の悲鳴だ。 『…うっせーよ、糞蟲、これだから口の達者な賢いやつは嫌いなんだよなあ いいか?糞蟲ども、お前らは生きているだけで迷惑なんだよ、生きる権利云々を語れる資格なんて初めからないんだよ、分る? お?なんだ?その目は?人間様に意見しようってのか?』 『お…お前はキ○ガイだ!!俺達は人間だぞ!?どこに糞蟲がいると言うんだ!!』 あのリンガルが不具合を起こした箇所だ。 男の冷や汗は量を増した、なんだこれは?なんなんだ? そして他の者達が口々に騒ぎ出す。 『お願い!助けて!なにも悪いことはしてません!!』 『この俺をどうする気だ!下衆野郎!!こんなことをしてだたで済むと思っているのか!さっさと全員を解放しろ!!』 『お願い…私はどうなってもかまいません!でもこの子だけは…この子だけは…』 『うぇぇぇぇえぇぇん!!うぇぇぇぇえぇぇん!!ママーこわいよー!!』 そしてまた画面の中の自身が言う。 『うっせーぞ糞蟲ども、3秒以内に黙らないと今すぐに全員潰すぞ』 それに対して青年が叫ぶ。 『そ…っ、そんなに人を殺したいなら俺だけを殺せばいい!!その代わり他の人達は無傷で解放しろ!!』 『お前、なかなか勇気があるじゃないか、なにか?お前はコイツらのリーダーかなんかなのか?』 『リーダー…?どういう意味だ?この人達とは今日ここで初めて合ったんだぞ…』 そして男とこの青年の会話が続く。 『お前気に入ったよ、実装石のくせにいい根性してるじゃないか、どうだ?何なら俺がお前を特別に飼ってやってもいいぞ』 『飼…?何を言ってるんだ?』 『もちろん毎日とは行かないけど寿司もステーキもコンペイトウも食わせてやるよ、その代わり他の連中は皆殺しにするけどね』 『な…!?』 『さてどうする?それでもまだ自分を殺してもらって仲間を助けたいか?』 『ふ…ふざけるな!からかうのも大概にしろ!俺達はみんな人間だぞ!実装石扱いするなんてお前は本当にどうかしてる!』 ここもリンガルが不具合を起こした場所だった。 どうしてこんな重要な台詞に限ってリンガルが故障したのか…? そのあと続く映像は、画面の中の自分がやってることにしても男に怖気をもよおさせる内容だった。 青年の頭にバールを叩きつけて昏倒させ、シャツを捲り上げて腹にナイフを突き刺す。 そして開けた穴に手を突っ込んで内臓をかき回す、人間の内臓を。 それから取り出したのは偽石でもなんでもない、橙色っぽい小さな臓器だった。 それに繋がった血管やらをご丁寧にナイフで切り離している。 —知らない、俺はこんなことはしてない…あれは偽石だったはずだ…固い偽石、あんな柔らかい臓器なんかじゃない 「このとき…彼から取り出したのは副腎の片方だな…」 画面に釘付けになっている男に向かって中年刑事が語りかける。 男の頭の中は混乱と恐怖で埋め尽くされていた。 こんなことはありえない。 だが画面の中で起きていることと昨日自分がしたはずのことは人間と実装石の違いだけで全く記憶の通りだ。 しかし相手が人間だとこんなにもおぞましいものなのか、男は目を逸らしたかったがどうしても出来なかった。 画面の自分は栄養剤の満たされたビンの中に青年から取り出した小さな臓器を入れた、たちまち血で栄養剤が濁る。 そして次に画面の中の男は綺麗な顔立ちの若いOLに目をつけた、彼女は「ヒッ」と短い悲鳴を上げて身を竦ませる。 —これから起こる事は分かってる…いやだ、もう見たくない…吐き気がする…違う、俺はやってない… 『い…い…いやぁ…お、お願い、殺さないで…わ、私の身体を好きにしても良いから、だから…』 膝立ちになって必死に画面の中の男に懇願する彼女のスカートがよく見れば濡れている、恐怖のあまり漏らしていたようだ。 画面の中の男が彼女の股間を蹴り上げる、恥骨でも折れたのか彼女が派手にのた打ち回る。 彼女の下着を引き下ろしバールを女性器にあてがって一気に突き入れる、女性の鋭い悲鳴が上がった。 よく見れば股間からおびただしい血が流れている、子宮すらも突き破って長いバールが彼女の中に刺さっているようだ。 そしてとどめに画面の男が彼女の片目にナイフを突き刺す、恐らくそれは眼窩底をも貫いて脳にまで達したのだろう、女性の動きが止まる。 記憶では確か、パンコン実装の額に刺したはずだったのだが…。 次は太り気味の中年男の番だった。 『お前、重いなあ、もう少しスマートになった方が健康にいいんじゃないか?』 画面の中の自分が中年男の胸倉を掴み上げて言う。 そこからはこれまで以上に残虐な事が行われた。 そう、この中年男を緊縛したままナイフで服を裂いて裸にすると全身の肉を削ぎ落とし始めたのだ。 画面からどうしても目が離せない男の後ろで警官の一人が「うえっ」という呻き声を上げて口を押さえ慌てて取調室を出て行った。 だが吐き戻しそうなのは男も同じだった。 やがて中年男がボロ布のような姿になって事切れると次は幼い女の子の番だ。 縛られて不自由な身体で必死に娘を庇う母親の顔面に拳を入れて黙らせるとジッポオイル…ではなく、 ガレージにあったポリタンクの中のガソリンを女の子にかけた。 そのとき壁際でぐったりしていた青年が再び声を上げた。 『こ、子供に何の罪がある!!お前も人の心があるなら…ゲホッ…その、親子だけは、逃、がしてやれ…』 血泡を飛ばしながら血の気の失せた青い顔で必死に叫ぶ。 青年の苦痛に歪んだ顔を見ればそんな言葉を出すのでさえどれほどの苦痛を伴ったか、どれほどの気力を必要としたかがよく分る。 しかし結末は分っている、男は青年と母親の願いを無視し、女の子に火を放った。 女の子は『あづいィィィイイィィィーーー!』と幼い子供とは思えないほどの大きな悲鳴を上げて暴れ回る。 『イヤアアアーーー!!由香ちゃあああーーーーーん!!!』 母親が娘の名を叫びながら拘束された不自由な身体を限界までのたうたせる。 やがて全身が黒コゲになった女の子は地面に倒れピクピクと痙攣するだけになった。 それを見ていた母親が狂ったような声で喚く。 『うわあぁぁぁあああ!!あああぁぁぁぁああ!!お前は鬼だ悪魔だあぁぁ!!何で…なんで、何の罪もない私の娘をおおおお!!』 そんな罵倒をものともせず、画面の中の男は子供の死体を足で転がして母親の顔をまだ燻っている遺体に押し付け食べるように命じる。 『…酷すぎる…』 「…酷すぎる…」 画面の中の青年の言葉と現実の若い刑事の声が重なる。 画面の男が母親の頭から手を離すと血や煤や涙で顔をグチャグチャにした彼女が怨みに歪んだ表情と低い声で呻くように言った。 『…私は…許さない…必ずお前を殺してや、ガッ…!!』 母親の恨み言は男の蹴りで中断されその首がありえない方向に曲がると糸の切れたマリオネットのようにその身体がクタリと崩れ落ちた。 そして青年が既に死んでいるのを確認した画面の中の男が舌打ちしたところでカメラに近付き画像は終わっている。 「…ほぼ証言どおりだな…」 中年刑事が眉間の皺を深くしながら低く呟いた。 今や男は既に真っ暗になった画面を見つめながら瘧にかかったかのように全身を震わせていた。 —こんな…こんな馬鹿な…こんな… 「被害者…男性・佐々木幸太 46歳会社員、及び、佐藤洋介 21歳大学生…、 女性・木内京子 23歳OL…そして吉崎美保子 36歳主婦、娘、由香ちゃん7歳…計5名、間違いないな」 読み上げた中年刑事の声に男がガクガクと震えながらゆっくり振り返る。 「…違う…、俺は、おれはやってない…」 その声も震えて情けない掠れた声だった。 「ち、違う!人なんて殺してない!!殺したのは実装石だ!!実装石だったんだ!!」 突然暴れだした男を慌てて若い刑事と警官が押さえつける。 「これは何かの間違いだ!!確かに実装石だったんだよぉ!!刑事さん信じてくれよぉ!!頼むから…」 顔を涙と鼻水でグチャグチャにしながら机に上半身を押し付けられた男が半狂乱で叫ぶ。 「実装石、ねぇ…お前さんの家から押収されたノート…これだが」 そういうと中年刑事は一冊のノートを男にかざした。 それは男が実装石虐待プランを練るのに使っていた大学ノートだった、中年刑事がそれをめくる。 「…この中には『実装石』の文字は一つもないがね…、最後のページ付近にあるのは… 『生意気そうな若いOL、なかなかいい女だ、決めた、あいつにしよう、毎日大体夜6時過ぎにここを通る』 …それから、ああ、これもそうだな、 『いかにも女にモテそうな男を見かけた、大学生くらいだろうか?ムカつく野郎だ、あいつもターゲットに…』 こう書かれているが?それからずいぶん事細かな誘拐計画と…ふむ、ターゲットは他にもう数人いたのか…。 しかし結局それぞれの帰宅時間を調べて上手く合いそうな人たちを選んだってわけか、完全に計画的犯行だったんだな?」 男の混乱は絶頂に達していた、もう何がなんだか分らない。 「違う…違う…知らない…本当に…何がなんだか…」 「公園で狙った者を一人ずつ待ち伏せして襲ったようだな、その後厳重に縛り上げてはわざわざ車で自宅と往復したと、 実装石に対して行う誘拐にしてはずいぶんと念の入り様じゃないか?」 —車?うちに車なんて… 男は混乱の中で思い出した。 …あった、車はあった、そうだ、黒のミニバン、父親が前の車を買い換えるときにこれが良いと提言したのは自分だった。 しかし…しかし…。 「その上遺体をそれぞれゴミ袋に入れられるほどに細かく切断して家の裏のゴミ捨てに捨てるなんて大胆不敵だな、 すぐに近所の方が見つけて通報したんだ、それから隣近所の人がその時間人の叫び声を聞いている、 これほど誘拐には綿密なプランを練っておいて、計画性があるのか無いのか全く分らんな…」 中年刑事のため息には悲嘆めいたものが混じっていた。 男は思い出していた、あの夜の異常なまでの疲労感を。 たかが実装石をバラして捨てたにしてはおかしいほどに疲れ切っていた体、 …しかし…しかし…。 「う、うわああぁぁぁああっ!!違う違う違う!俺は殺してない!殺したのは実装石なんだ!実装石だったんだー!!」 今度こそ力の限りに男は叫んだ。 その後、正式に逮捕された男は裁判が始まってもずっと「殺したのは実装石だった」を繰り返した。 精神鑑定も行われた、裁判では責任能力の有無が争点になった。 しかしノートに書かれた綿密な誘拐プランが間違いなく初めから人間をターゲットにしてたことが決定的に男を不利に追い込んだ。 ついでにリンガルに記録された「人間同士」の会話も証拠として提出された、 ちなみに男の主張するリンガルの不具合などどこにも見付からなかった。 弁護側は人間同士の会話にリンガルを使用したことが犯行当時男が精神こう弱状態にあったとして無罪を主張する唯一の頼りとした。 だが数々の物的証拠の中でもノートの内容と最初の取調べでの詳細な「自白」が最も有力な証拠としてとり上げられ、 結局「責任能力有り」とみなされ求刑通り死刑が言い渡された。 そして数年後、男の死刑が執行された。 かの誘拐の現場になった公園と道祖神は事件後すぐ撤去され、今は見通しの良い明るく広い道になっている。 終 ———————————————————————————————————— 注:別に虐待に対するアンチテーゼとかそういう重いテーマは全然考えてません、書きたいものを書きました。 ちなみにこの変な道祖神(なのかしら?)は我が家の近所にあります、確かに珍しいものらしく一度盗難にあったのも本当です。 男が何かに騙されたのか、それともただ狂っていたのか、それは皆様のご判断にお任せします。 どちらにしても「実装石に関わったものは皆不幸になる」ということで…。 あれ?リンガルって人間側のログも残りましたっけ? 「デスとデス」&「託児における自分なりの考察」&「彼氏と彼女の事情」の作者でした。
1 Re: Name:匿名石 2019/02/13-03:21:29 No:00005742[申告] |
今までにない切り口のスクだ |
2 Re: Name:戒厳令の男 2019/02/13-10:02:01 No:00005743[申告] |
私は日本語が下手で理解が少し難しいです。 |
3 Re: Name:匿名石 2019/02/14-19:57:38 No:00005746[申告] |
まあ要するにアンチ虐待というか何というかだと思うわ
後書きでそんなこと考えてないデスゥと言ったところで虐待をいくら糞蟲でもやりすぎじゃね?という程度を超えて悪辣に描いたり、挙げ句実装石以外に犠牲者出して… 虐待派が実超や実装さんにやられるようなやつならともかく普通の人に犠牲者が出るとかただの胸糞だし 意識してアンチ虐待でわざと書いたならまだわからなくもないけどナチュラルにそういうの書きたくて書くってやっぱやべえわ |
4 Re: Name:匿名石 2019/02/15-01:55:15 No:00005749[申告] |
昔はたまにこういうの書く作者がいたな
変に社会派とか人間の闇とかぶち込んでて全然面白くも何ともなかった こんなジャンルにすら逆張りやブンガクぶったやつって涌いて出るんだなと思ったもんだった |