タイトル:託児?番外編②そして仔実装はセレブになった。
ファイル:託児?番外編②.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:4725 レス数:3
初投稿日時:2008/02/17-14:15:44修正日時:2008/02/17-14:15:44
←戻る↓レスへ飛ぶ

「ウ……ン」
仔実装は暖かな寝床に蹲って猫の様に伸びをした。
「フゥ…ヌクヌクテチィ…♪」
蹲った寝床に顔を押し付けスリスリと頬擦りをしてみると、柔らかな感触が伝わってくる。
「ヤワヤワテチィ…♪」
仔実装は全身に包帯を巻かれている。

——目が覚めたらマックラだったテチ…
——ワタチは恐くて叫んだテチ…大きな声で叫んだテチ…
——叫んでいたらニンゲンがワタチを捕まえたテチ…
——ワタチはあのニンゲンが来たと思って暴れてやったテチ…
「待ってね、包帯を外してあげるから。」
——ニンゲンが何か言ったテチ、すると目の前が明るくなったテチ…
——その時ワタチをだっこしてたのが…
「目が覚めたのね。もう少ししたらゴハンにしましょうね。」
——ワタチの新しいドレイだったテチ…

夕方になり午後の食事の時間となった。
仔実装の前には清潔な水と高栄養仔実装フードが運ばれて来た。
仔実装は皿に盛り付けられたフードの山を一瞥した。
——あんなの高貴なワタチの食べる物じゃないテチ…
断っておくが、このフードは病中,病後の実装石に栄養を付けるために開発されたもの。
食欲の低下した実装石でも食べやすい様に嗜好性もかなり高く作られている。
——でも大丈夫テチ。今度のドレイはちゃんとわきまえてるテチュ…
「あら、また食べないの?」
そう言うと人間は皿に盛り付けたプリンを持ってきて仔実装の前に置いた。
——これテチュ、分かってるんなら最初から持って来るテチュ…
仔実装はプリンの周りを一周するとその場に腰を下ろした。
——さっそく食べてやるテチュ…
仔実装はプリンに飛びつくのとおもいきや…
「ア……ン」
人間に向かって口を開けた。食べさせろと言うのだ。
「はい、あーん」
スプーンから仔実装の口にツルンとプリンが流れ込んで行く。
「テチュン♪テチュテチュン♪」
——美味しいテチュ♪美味しいテチュ♪
両手を上げて喜ぶ仔実装。
「ア……ン」
----------------------------------------------------------------------------------------------
煮え湯を飲ませろと仰る方、叩き潰せと仰る方、まだ『頃合』では有りませんのでもう少しお待ち下さい
----------------------------------------------------------------------------------------------
こんな調子で食事には20分程度の時間を要した。
「じゃあね。フードは置いとくから気が向いたら食べてね」
人間は皿を片付けると仔実装に背を向けた。
「テチャアッ」【ころん】【ころん】
——こんなのイラナイテチャ、明日はステーキが良いテチャァ!!
立ち去る人間の背中に仔実装はフードを投げ付けた。

翌朝

「うーん、どうしたのかなあ」
仔実装はプリンを食べなかった。
スプーンに乗せて口元まで運んでも『ぷい』と顔を横に向けてしまう。
——マッタク、使えないドレイテチ…。あれほど今日はステーキと言っておいたテチ。
——ステーキ持って来るまで食べてやらないテチ。
「困ったなあ」

「どうしました?」
別の人間が入ってきた
「先生、この仔が今朝から食べてくれないんです。」
『先生』と呼ばれたその人間は仔実装を見て看護師に告げた。
「もう食べさせなくても良いですよ。」
「そうなんですか?」
「ええ、お迎えが来ましたから。」

——またニンゲンが来たテチ…ちゃんとステーキ持って来たテチィ?
看護師は仔実装を優しく持ち上げた。
——ナ?ナニするテチ!!放すテチィ!!
「良かったねぇ、お迎えが来てくれたよ」
——ナニ言ってるテチャァ!!
看護師は仔実装を処置台の上に置くと全身の包帯を解いてゆく。
焼き潰された左目こそそのままだが、適切な治療の甲斐有ってか包帯の下からは傷のすっかり癒えた仔実装が現れた。
——服をカエセェ!!カエステチャア!!
仔実装は包帯を取り返そうと必死にジャンプする。
「?…ああ、服が欲しいのね?大丈夫だよ。」

「ご主人様が持って来てくれるから」

【ガチャリ】
ドアの開く音がして室内に外界の光が入り込んで来る。そしてそこには…
「…テェ??」
「先生、入っても良いですか?」
「…テッ!!」
「どうぞ、丁度包帯を外したところですよ」
「テチャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」
あの男が立っていた。

----------------------------------------------------------------------------------------------------
三日前の事だ。
瀕死の仔実装を連れた男は、双葉中央緑地公園近くの動物病院を訪れた。
「………………」
診察台の上に転がる死体同然の仔実装を挟んで2人の男が対峙する。
「先生、ワクチン射って下さい♪(喜)」
「その前に3日ほど入院させましょうか♪(怒)」
「…ェ…ェ…(哀)」
「レフーン・・・プニプニスルレフーン♪(楽)」

「で、あまり素性が良くない様ですけど、この仔実装はどこから?」
「公園で親実装に虐待されている所を保護しました。」
胸を張って答える男に先生は呆れ顔で告げる。
「二酸化炭素と同じレベルで嘘が出て来る様になったら人間オシマイですよ…」
「本当ですって。」
「とにかく、ワクチンの接種は健康な時にしか出来ません。長く飼うつもりなら今日の所は入院させた方が良いと思います。」
----------------------------------------------------------------------------------------------------

——ナンデアイツがいるテチャア!!
仔実装は看護師に向かって叫んだ。
——アイツはワルイヤツテチャアアアアア!!さっさとアイツを殺すテチャアッッ!!

男は仔実装を一瞥して…
「先生、ワクチンをお願いします。」
「分かりました。」
「先生、どうぞ。」
『先生』が隣を見ると既に看護師が注射器を用意していた。
「ヂイイイイッッ!!『イタイイタイ』テチャアアアアアッッ!!」
注射器を見た仔実装は診察台の上を逃げようとしたが、直に看護師に取り押さえられた。
「ダメじゃない。落ちたら死んじゃうよ。」
看護師は仔実装を『先生』に渡した。『先生』は仔実装を受け取ると仔実装の腹と自分の手の平が接するように左手に置いた。
そして親指と人差し指で仔実装の首を押さえ、中指と薬指で左手を挟み込めば仔実装の力で抜け出す事は不可能だ。
「放せエェッッ!!放すテチャアアアッッ!!」
仔実装は『先生』の手の平で大暴れするが、決して保定が緩む事は無い。
「ヂイイイィィッッ!!!!」
——コ!コイツラみんな虐待派テチィ!!
仔実装が顔を上げるとそこには看護師が笑顔を浮かべていた。
——そ!そうテチ!!
仔実装は看護師の方に顔を向けると、首を『左に』傾げた。
そして『左手』で自分の顎を持って。
「テッチューン」
…媚びた…
最高に可愛い(と自分で思っている)笑顔を看護師に向け、
最高に可愛い(と自分で思っている)声を出した。
——どう?ワタチはこんなにカワイイのテチュ?
ただその目の焦点は合わず、口は引きつっている。
——このカワイイワタチにヒドイコトをするわけないテチュ?
額には脂汗が浮かぶ。
——だからオネガイ
しかし相手にしてみればこれは悪意の所業ではない『仕事』なのだ。
『糞蟲1匹媚びた程度で躊躇していたら獣医業は勤まらない』
「大丈夫だよ、痛くないからねぇ」
そして仔実装の背中に注射器が突きたてられた。
「テヂャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ」

「では先生、有難うございました。」
「おだいじに」
男は仔実装をケージに入れると料金を払って病院を出た。


後には看護師と『先生』だけが残された。
「先生、あれで良かったんですか?」
「何がですか?」
「あの仔実装です。あの人確か…」
先生は看護師の方を向き直った。
「ええ、正真正銘彼は虐待派です。」
「じゃ、じゃぁ何で!!」
「愛護派の実装石だろうと、虐待派の実装石だろうと患者は患者です。それに…」
「それに…何です?」
「何で実装石が公園の様な目立つ場所に住んでいるか分かりますか?身を隠すには路地裏の方が楽でしょうに…」
「……群れを作れるだけの空間が必要だからです。」
「その通り。ではどうして群れを作るんですか?」
「それは……!!!それでですか。」
「その通り。群れを作るのは敵に遭遇した際に『他の誰か』を身代わりにするためです。
 一匹で敵に遭ったら実装石の能力では逃げ切る事は不可能でしょう。」
先生は続けた
「どう言う偶然か、あの仔実装は双葉児童公園におけるその『誰か』の役割を負わされてしまったんです。
 あの仔実装が生きている期間が長ければ長いほど他の実装石に危険が及ぶ確率が低下します。
 …まぁ微々たる物でしょうが。」
「じゃあ先生、あの左目を治さなかったのは。」
「相手が傷を負っている事で『あの彼』の嗜虐心を少し満たしてやるための配慮です。これで少しでも虐待が和らげば…」
『先生』が守りたかったのはあの仔実装ではなく、その背後に居る児童公園の実装石だ。
そのためには少しでもあの仔実装を長持ちさせる必要が有った。
少なくともあの仔実装が生きている間は虐待派一人が減る計算になる。

「それにしても…どうにか成らなかったんですかね、この『名前』。」
先生は呆れた顔でそのカルテを机に置いた。

そのカルテの『ペットの名前』の欄には『セレブちゃん』と書かれていた。

—完—
--------------------------------------------------------------------------------------------------------------
毎度駄文にお付き合い頂き有難う御座います。

感想を下さる皆様、有難う御座います。

過去スク
託児?①②③番外編
早朝
夏の蛆実装
遊びの時間は終わらない 前,中,後編
飼育用親指実装石 
死神絵師
破滅の足音
あんしんママ
命拾い
実装石のクリスマスイブ(執筆中)
糞除け
教育

■感想(またはスクの続き)を投稿する
名前:
コメント:
画像ファイル:
削除キー:スクの続きを追加
スパムチェック:スパム防止のため202を入力してください
1 Re: Name:匿名石 2016/11/05-22:53:38 No:00002697[申告]
いくら何でもセレブちゃんは酷い
笑える
2 Re: Name:匿名石 2023/03/26-04:01:17 No:00006979[申告]
まさか素行の悪い仔実装の正体が公園の母実装から直々に託された糞蟲と知ったら獣医も苦笑いだろうな
にしても名前よ
3 Re: Name:匿名石 2023/07/22-11:24:27 No:00007601[申告]
糞蟲の割にはいい暮らしができてて母実装も苦笑いだろうな
戻る