タイトル:託児?⑤*とりあえず終わり*
ファイル:託児?⑤.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:5882 レス数:5
初投稿日時:2008/02/16-22:29:34修正日時:2008/02/16-22:29:34
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始めに
完結まで時間がかかってしまった事をお詫びします。
なおこのスクの中の季節は夏(稚作: 遊びの時間は終わらない から数日後)となります。
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「テェ…」
仔実装はケージの中でただ呆然と座り込んでいた。
最後の財産であった服を奪われ、リンチに遭い、最終的には左目まで失ってしまった。
左目のあったところは焦げた色の窪みとなり、未だに肉の焼ける臭いがする。
仔実装は残った右目で、自分の胸を見下ろした。
注射のみとは言え十分な栄養を与えられていたおかげで傷は消えてしまったが、
自分の体からぽっかりと何か大切な物が抜け落ちているような感触がある。
偽石は託児された最初の夜に取り出されてしまっていた。
「これは…夢テチュ…」
ただ数時間の間にあまりにも多くの物を失いすぎた仔実装は現実から目を背けようとする。
「テッテロチュー…テッテロチュー…」
——これは夢に違い無いテチュ…目が覚めたらきっと…また……目が覚めても…また…だんぼーる…なまごみ…
——どうしてみんなワタチがせれぶな暮らしをするのをジャマするテチィ…
「ママ、ウジチャン オナカ ペコペコレフ」
座り込む仔実装の周りを最後に産んだ蛆実装が這い回る。
他の蛆実装は水槽の中の3匹に貪り食われ、或いは床の汚れになって消えていった。
「サッサト、オッパイ ノマセルレフ! ソレガ オワッタラ プニプニレフ! マッタク、ママハ クソムシレフ」
やはり糞蟲の仔は糞蟲なのだろうか?
「オニクノ ニオイガスルレフン ママダケ ズルイレフ 」
だとすればこの仔実装の母はどうなのだろうかと言えば、やはり糞蟲なのであろう。
生きて行く上で必要であったはずの糞仔の間引きを自分の甘さから先送りにし、
あまつさえその処分すら人間に委ねたのだ。

「済まなかったね…」
「良いですよ。お気に入りとは言え所詮野良1匹。それに約束なんです。」
「約束?」
「この仔に地獄を見せてやってほしいって。もう報酬も頂いちゃったんで。」
「ふうん…。いや、それにしてもいいビデオになったよ。そうだ!!」
店長は仔実装が最初に手に取った実装服をケージの扉越しに仔実装に見せ付けた。
「ほぉら…お洋服だよぉ」
ケージの扉越しにヒラヒラと揺れるピンク色
「テ…」
それまで死んだ魚のようだった仔実装の右目に光が灯った。
「フク…」
のっそりと立ち上がり、そのままのろのろと服に向かって歩いて行く。
——あんな所に…ある…しあわせ…
かつて公園で見たあのピンク色の仔実装の幸せそうな顔が浮かぶ。
「オヨウ…フク…」
——あれがあれば…ワタチも…しあわせ…
残った方の目から涙を流しながら、ピンク色の実装服が放つ幸せの臭いに引き寄せられて行く。
「ありがとう、でももう必要無いんです。」
「え?」
「だってこの仔はもう公園に帰るんですから。」
「ふぅ…ん、珍しいな…君が簡単にオモチャを手放すなんて。でもまぁちょっと見といてくれよ。」

【ぱかっ】
軽い音がしてケージの蓋が開いた。
「テ…チュ…」
「ほら、オマエのバイト料だよ…」
店長は仔実装服からビニール袋を剥ぎ取ると『それだけ』を仔実装に与えた。
「テチュ…」
【パリ】
仔実装は受け取った透明な物をしげしげと見詰めた。
【パリ】
ビニール袋の硬く冷たい感触
【パリ…パリ】
「テ…テ…テ…」
仔実装は手元のビニール袋と店長の顔を交互に見た、
「フン、おまえごとき糞蟲にゃそれで十分だ」
「テェ……テェ……」
その一言で仔実装の精神の堤防は決壊した。
「テェ…テェ…テェテェテェテェテェテェテヂャアアアアアアアアアアアアアアァァァァアアアアアアアァァアァアァアァアアァァ…」
右目を大きく見開き、真っ赤な涙を流しながら大声で泣き叫ぶ仔実装。
「アアアアアアァァアアァアァァァアアアアァァァアアアァァァアアァァァアアアアアアァァァァァァ…」

「ハハハハハハ…やはり糞仔実装ってのはこうでなくちゃな。君もそう思うだろ?」
「ええ、まったく。ここで手放すのが惜しいくらいですよ。」

男は仔実装を捕まえるとケージの中に押し込んだ。
「テヂャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァアアァァアアァァァアアアァァァァアアアアア…」
仔実装はケージの扉にしがみついて叫び続ける。
【カタ・カタ・カタ・カタ・カタ・カタ・カタ・カタ・カタ・カタ・カタ・カタ・カタ・カタ】
ケージの扉をを全力で叩く、この軽い音が仔実装の全力、この軽さが仔実装の命の軽さなのだろうか。
「テヂャアッ!!テヂャアッ!!テヂャアッ!!テヂャアッ!!テヂャアッ!!テヂャアッ!!テヂャアッ!!テヂャアッ!!テヂャアッ!!」
歯を剥き出し、血涙と涎と鼻水でドロドロになった顔を扉に押し付け、地団太を踏む。
「服を返すテチャアアアアアアッ!!あの服はワタチのテチャアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!」

「じゃあ、失礼します。」
「ああ、気をつけてな。」
簡単に挨拶を交わして男は店を後にした。

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「さぁて…おちびちゃん、今日は君の記念すべき公園デビューだ。」

ペットショップからの帰り道、男は双葉児童公園に立ち寄った。
「テ…テェ…」
仔実装はケージの扉から外を見渡した。
そう、この公園はかつて母と暮らした仔実装の生まれ故郷だ。
まだ託児されてから3日しか経っていないというのに、ひどく昔のことの様な気がする。
「テェ…テェ…」

——イモウトチャン…
姉と一緒に遊んだ木陰…
「テ…テ…」

——こっちテチュ!!ハヤク隠れるテチュ!!
人間の子供に追われ、姉に連れられて逃げ込んだ茂み…
「テェ…テェ…」

「テェ…オネエチャン…」
仔実装はただただ悲しかった。
——なんでワタチがこんな目にあわねばいけないテチィ…
——なんで誰も助けてくれないテチィ…
残された右の目から自然に涙があふれてくる。

助けなど来るはずが無い。姉は自分で殺し、母はこの男に殺された。
他の実装石にしてみればこの仔実装などエサでしかない。
——クソムシババアもクソオネエチャンもヤクタタズテチ…
——オマエタチのせいでワタチのショウライはマックラテチィ…
仔実装は姉を呪い、母を呪い、そして人間を呪った。

やがて男は公園の隅の方にあるベンチに腰を下ろして、ケージの蓋を開ける。
「お散歩の時間だよお。」
そう言うと男は禿裸のままの仔実装を公園の地面に置いた。
「あんまり遠くに行っちゃダメだよ。公園は危ないからねぇ。」
その通りだ。夕暮れ時となって気温が下がり始めている。そろそろ野良実装石達が夕方の餌漁りを始める時間帯だ。
他の実装石にしてみれば、禿裸の仔実装などエサ以外の何者でもない。

その事はこの仔実装もよく分かっている。
「テ!!」
——マズイテチ…このままじゃ…!!
仔実装は男の顔を見上げた。
「うん?どうしたのかなぁ」
男はいつも通りの笑顔で仔実装に答える。
——この男はダメテチ。どうするテチィ…?
仔実装は必死に考える。
——逃げるなら今テチ…でも服が無いテチ。
——服が無かったらドレイにされるテチ…ドレイはイヤテチ…。
仔実装は辺りを見回した。
——誰か違うニンゲンはいないテチ?
——居たら今度こそワタチのミリョクでドレイにして…そうテチ!!こいつをやっつけさせるテチュ♪
一体誰が片目の潰れた傷だらけの糞蟲仔実装を拾おう等と考えるだろうか?
「チプププププププ…」
仔実装は目の前の男を見上げいやらしい笑みを浮かべた。
——ニンゲン!!ニンゲンはいないテチ?
仔実装は必死になって他の人間を探した。しかし誰も見付からない。
「ヂイイイイイイッッ。」
——ナンデ誰もいないテチャアアアッ!!だれか来るテチャアアアッッ!!ワタチのドレイにしてやるテチャアアアアアッッ!!!!
笑ったり泣いたりしながらあたりをキョロキョロと見回す内に仔実装はある事に気が付いた。
「テ!!」
——そうテチ!!服なら有るテチ!!
仔実装は男の顔を見上げた。
男は仔実装とは別の方向を見ている。
——今がチャンステチ!!
仔実装は一目散に茂みの中に姿を消した。



「やっぱりテチュ…まだココにあったテチュ。」
仔実装がたどり着いたのは母と暮らしたダンボールであった。
先程キョロキョロと公園の中を見回している内に、仔実装が置かれた場所がかつての自分の巣のすぐ近くだと言う事に気が付いたのだ。
仔実装は横倒しになったダンボールの蓋をそっと開けて中に入った。
狭いダンボールの中で仔実装は目的の物を見付けた。
「あったテチュ♪」
そこに横たわっていたのは他でもない、仔実装が殺した『姉』の死骸だった。
「チププププププ…ウンショ…ウンショ…」
仔実装は干乾びた姉の死骸から実装服を剥ぎ取ってゆく。
「チププププププ…服さえあれば大丈夫テチュ…今度こそセレブになるテチュ…」
姉の頭から頭巾を剥がし、そのまま自分の頭に被せる。
「今度こそちゃんとしたドレイを見つけるテチュ…あのクソニンゲンをやっつけさせるテチュ。」
頭に引っかかって脱げない服を力任せに引っ張る。
「チププププププ…ハゲハダカにしてやるテチュ…ウンチ食わせてやるテチュ」
【ぼとっ】
姉の首が千切れ、なんとか実装服を引き剥がす事が出来た。
「チププププププ…燃やしてやるテチュ…目玉を潰してやるテチュ…チププププププププ…」
姉の服に袖を通してその腹を見下ろすと、そこには幾つもの穴が空いていた。
仔実装が姉を殺した時についた傷だ。
「こんな穴だらけセレブなワタチにフサワシクないテチュゥ…でもガマンテチュゥ…」
そして姉の靴を履き、どうにか体裁を整えた。
「ふう…なんとかマシになったテチュ…」
仔実装は首が千切れた裸の姉の死骸を見下ろした。
「チププププ…クソムシだったけど最後の最後でワタチの役に立たせてやったテチュ♪感謝するがいいテチュ♪」
服を手に入れて一安心した仔実装は、もはや自分以外誰も使う者の無くなったダンボールの底に大の字になった。
この三日間色々な事が有り過ぎた。まずは一眠りして落ち着こう。
仔実装が寝返りをうつと目の前に、保存食の食べ残しを見付けた。仔実装一匹なら3日間は食いつなげるだろう。
そして仔実装は久しぶりの安らかな眠りに落ちて行った。



——なんだろう?頭の後ろに柔らかい感触が有る…?
異変を感じた仔実装はそっと目を開けた。
「テェ・・・・・・」
仔実装は目の前の光景に目を見張った。
「ゴメンナサイデス…起こしてしまったデス?」
そこに居たのはあの男に殺されたはずの母実装であった。
「お腹すいたデス?ならバンゴハンにするデス?」
「…マ…マ…」
「どうしたデス?」
どうしたんだろう…言いたい事は山ほど有ったはずだ…
「ママァ…」
ただ涙がこぼれてきた…
「ママッ!!ママッ!!ママッ!!ママッ!!ママッ!!ママッ!!ママッ!!ママッ!!ママッ!!ママッ!!ママッ!!ママッ!!ママッ!!ママッ!!ママッ!!」
愛情とかそんな物ではない、常に他者の保護を求める実装石の強力な依存心が、保護者を見つけた事によって満たされ、
その結果強い幸福感を感じているだけに過ぎない。
「ツラカッタデス?」
母実装は泣きじゃくる我が仔の顔を上げてその顔を撫でた。
「ママァ・・・」
そしてニッコリと微笑むと、後ろから何かを取り出した。
「これを食べるデス…」
母実装が差し出したのは一粒のコンペイトウであった。
「テェ…ママ」
母実装はにっこりと微笑んでコンペイトウを手渡した。その表情は仔実装が見たことも無いほど優しく穏やかだった。
「オマエのためにトクベツにとっておいたデス。」
「…ト!トクベツ!トクベツテチ!トクベツテチ!!」
『トクベツ』この言葉は実装石にとって文字通り特別な意味を持つ。幸福回路を甘く刺激する言葉に仔実装は歓喜した。
コンペイトウを母の手から奪い取り、まじまじとそれを見つめる。
(なんてキレイなんテチ。アタチのアマアマ…アタチの…トクベツなアマアマ…)
「サア、食べるデス。」
母に促されて仔実装は大きく口を開ける。
「ア—————ン」
仔実装はコンペイトウを口の中に入れた。
「アマァイテチュ…ウマウマテッチュン♪」
口の中に広がる甘味に仔実装は歓喜した。そして母の方に向き直ると。
「ママァ…もう一個食べたいテッチュン♪」
催促するように両手を揃えて前に差し出す仔実装。ところが…
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
母は真下を向いたまま何も答えない。
「テチュン?ママァ…どうしたテッチュン?」
さっきのコンペイトウでいい気になった仔実装が猫撫で声で母に近付いた。
「どうしたテッチュン♪サッサともう一個寄越すテッチュン♪」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
返事は無い
「ママァ?」
だんだん仔実装は自分が無視されているような気がしてきた。
「ママ…」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「何とか言うテチャアアアアアアア!!!このクソムシババアッ!!!」

【ガスッ】

「!!」
突然ダンボールに衝撃が加わった。
「どうしたテチ!!」
仔実装が大慌てで外に飛び出すとそこにはあの男が立っている。
「やぁ…さがしちゃったよ。こんな所に居たんだ。」
「ヂイイイイッッ!!」
仔実装は男を威嚇する。
「あれぇ…どうしたのかな?そんな恐い顔をして。」
「もうオマエなんかコワクナイテチ!!」
「何を言っているんだい?」
「ワタチにはママが居るテチ!!」
仔実装は後ろを振り返って母実装を呼んだ。
「ママァッ!!ママァッ!!」
「…………………」
ダンボールの中から母実装がのっそりと現れた。
「ママ!!アイツは悪い奴テチ!!ワタチをいじめて殺そうとしたテチ!!」
「悪い奴デス?殺そうとしたデス?」
「そうテチ!!あいつをやっつけるテチ!!ハゲハダカにして目玉を潰してやるテチ!!」
「オマエを殺そうとしたあのニンゲンサンが悪い奴なら…」
母実装は虚ろな目で仔実装を見詰めた。
「ワタシのムスメを殺したオマエはァ…」
母実装の顔が大きく歪んだ。
「もっと悪い奴デシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!」

「テ…テヒ…」
豹変した母実装に驚いた仔実装はその場にペタンと尻餅をついた。
「ママ…ど…どうしたテチュ…早く、アイツを…!!!!!!!!!」
言いかけて仔実装は自分の体の異変に気付いた。
「テ…テヒ…ヒギィッ…ギュベッ…オウヴェエエエエエエエエエエッッッ!!」
突然自分を襲った猛烈な吐き気に仔実装はその場に蹲った。
「オゲエッ!!ゲエエッ!!ウゲエエエエエエエエエエエエエエエエエッッッ!!」
糞袋の中身が逆流し、喉の奥から糞がせり出してくる感触に仔実装は悶絶した。
「やっと『ゲロリ』が効いてきたみたいだね。」
「デッスゥ♪」
仔実装がなんとか顔を上に向けるとそこにはあの男と母実装が満面の笑みを浮かべていた。
「エプェッ…オヴェッ…」
仔実装は信じられないような顔で母実装を見詰めた。
「オマエは最後までワタシの言う事を聞けないクソムシだったデス。」
「ゲエエエエッ…ギュエエエエエッッ!!??」
「『コンペイトウ』は食べちゃダメだと教えたはずデス。」
「テェ…ウグェッ…??」

男が口を開いた。
「よく分かってないみたいだからさ、君の口から教えてあげなよ。」
母実装が頷いた
「ワタシがこのニンゲンサンにオネガイして、オマエをイジメてもらったデス。」
「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「そう、君のママはね、僕を虐待派だと知った上で君を託児したんだ。」
「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「君が託児された次の朝ね、僕は君のママに会いに行ったんだ。その時話は聞かせてもらったよ。」
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 仔実装が託児された翌朝、男は偵察のために小型のビデオカメラだけを持って仔実装の母親の居るダンボールを訪れた。
託児された場所から、仔実装の出身地はすぐに察しが着いたし、託児できるサイズの仔を連れていたのも、
春の出産ラッシュから1ヶ月遅れで仔を産んでいたあの親しか居なかったため、仔実装の巣は直ぐに特定できた。
 そしてその巣であるダンボールを見付けた男が、その中を覗いた時…。

「!!」
「ェ………………」
そこに居たのは抜け殻のようになった1匹の母実装であった。
泣き続けていたのだろうか、両目の下にはくまができ、目蓋は腫れあがっている。
母実装は男の顔を見ると
「デェ……」
と一言鳴いてまた下を向いてしまった。
母実装の視線の先には腹に穴の空いた仔実装の死骸が有る。
男は思わずリンガルを取り出して、母実装に話しかけた。
「おい、僕の言葉が分かるか?」
「デ…デス…」
「僕が誰か分かるな?」
「ニンゲンサン…ギャクタイハ…デス…」
「そう、僕に託児をしたのは君だな。」
「タクジ…?…」
「そう、託児…」
「タクジ…して…ナイ…デス」
「託児していない?」
「あの仔…ムスメ…殺した……アイツ…」
「殺した?」
男は足元にあった仔実装の死骸を見た。
「あの仔実装がやったのか?」
母実装は小さく頷いた。
「アイツ…ニクイ…殺シタイ…殺ス…足リナイ…ダカラ…ニンゲンサン…ギャクタイ…アイツ…」
「つまり、大切な方の娘を殺した糞蟲のあいつに復讐をしたかったのか?」
「デスゥ…ゥ…ゥ…」
母実装は再び下を向くと泣き始める。

人間にとって託児の定義は、実装石がその仔を人間に押し付ける事である。
その言葉だけ取れば今回のケースも立派な託児であろう。
しかし、実装石にとっての託児とは
『仔実装の、あるいは自分のより良い未来を願って比較的賢い仔実装を選び、人間に預けて取り入らせ、自分も飼ってもらう。』
のが目的であり、預けた仔が虐待されたり、親仔共々殺されてしまっては元も子もない。
ところが今回のケースは仔実装が虐待されて成功である。
確かにこれは実装石にとって託児とは言えないかもしれない。

なんてことだ。
男は唖然とした。つまり自分はこの母実装の良い様に使われてしまった訳だ。
そう考えれば預けられた仔が糞蟲だった事も、母実装が訪ねて来なかった事も説明がつく。
では、この母実装をどうしてくれよう。男は母実装の方を向き直った。しかし…
「・・・・・・・・・・・・・・・」
我が仔の死骸を前に呆然と立ち尽くすだけの母実装、恐らくこれを虐待した所で何の反応もしないだろう。
これならまだマクラでも殴っていた方が手が汚れないだけマシだ。だとすれば…。

「なあ、あいつを痛い目に遭わせて欲しいんだな?」
「デ…デェ…」
「確かに僕はあいつを死ぬまで虐待するつもりだった。」
「………」
「でも、今のその話を聞いてその気が失せた。」
「デ…?」
「だってそうだろう?虐待派が実装石に利用されたなんて良い笑いものだ。」
「デ…デデ!!」
「あいつはこれから普通に飼い実装にする。」
「デデ…飼い…実装…アイツが…!!」
「ちゃんと美味しいものを食べさせて、温かいお風呂に入れてやろう。」
「ゴ…ハン?…オフロ?…アイツが?!!」
だんだんと母実装の目に光が戻ってきた。
両手で頭を抱え、イヤイヤと首を小さく左右に振る
「そうだ忘れてた、綺麗なお洋服も買ってあげなきゃな。あと楽しいオモチャと、それから…」
「デシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァッッ!!!!!!!!!!」
母実装が叫びを上げる。その目には完全に光が戻っていた。
「おいおいどうした?」
「ニンゲンサン!!ヤメルデスゥ!!オネガイデスゥ!!」
母実装はその場に土下座をした。
「そんな事をされたらアノ仔が…アノ仔がァ…」
「どうした?殺された仔がそんなに大事だったのか?」
「…デ…デスゥッ!!」
「ではどうする?僕がお前の頼みを聞いたとして、お前は僕に何をしてくれるんだ?」
「デデッ!!」
咄嗟に頭を上げて母実装はダンボールの中を見回した。
何か無かっただろうか?この人間の興味を引くような物は。
「分かってると思うが人間はナマゴミじゃ動かないぞ。」
「デ??デデ??」
母実装は完全に男のペースに乗せられている。

もしかしたらこの時点で初めてこの『託児?』の主導権が男に移ったのかも知れない。

「仕方ない、ではこうしよう。まずお前の服を寄越せ。」
「デ!!デエエエエエエッッ!!」
母実装は青ざめた。服を渡してしまっては公園ではとても生きて行けない。
同属にリンチされて殺されてしまう
「嫌なら仕方ないな、アイツは飼い実装にしてお前は禿裸だ。両足をへし折って野良供の前に放り出してやる。」
「デデェ!!デエェッ!!デエェッ!!」
母実装は壁際まで後ずさりした。ダンボールの入り口は男に押さえられて逃げ場は無い。
「デ…」
どうせ最悪の事態になるのなら…。母実装は意を決した。
「……」
服を脱いだ母実装は震える手でそれを男に手渡す。
「良い覚悟だ。」
男はそれを受け取ると両手に持ち替えて。
【ビリイイイイイイッ!!】
「デヒッ」
母実装は目を覆った。
「ほら、返すぞ。」
恐る恐る目を開ける母実装の目に飛び込んで来たのは、後ろの裾が多少破り取られただけの実装服であった。
「デ…ニンゲンサン…」
これくらいだったら他の野良にリンチされる事も無い。キョトンとした顔の母実装に男は告げた。
「お前にも一働きしてもらう。」

そうだ、虐待して面白くないならコイツは道具だと考えれば良い。あの糞仔実装に地獄を見せるために使ってやろう。
男は母実装に2つの指示を出した。

1つは姉仔実装の死骸をそのままにしておく事。
もう1つは数日の内に仔実装を連れて来るので、その時になるべく優しく接し、与えておいた『ゲロリ』を飲ませる事。

その2つを達成したら、あの仔実装に死ぬまで地獄を見せて欲しいと言う母実装の願いを聞き届けてやろう

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「いやぁ、『ママが死んだぁっ』て大騒ぎするのは中々に見物だったよ。」
あの時仔実装が見たビデオはかつて殺した他の実装石の物だ。
母の実装服と組み合わせる事によって母の死を演出するには十分な物だったようだ。
「オギュエエエエ…グベェ…ガブゥアッ…テブフォアッ!!」

そう、この母実装との再会も男が仕組んだ罠…。
実装石が自分にとって都合の良い情報に固執する性格を利用した物だ。
まず、虐待の過程で仔実装を禿裸にして、公園に放す。
この時に注意するのは2点、『場所』と『時間』である。
仔実装を放す場所が仔実装の巣から遠すぎれば、途中で事故にあったり、同属に喰われる可能性があり。
逆に近過ぎれば仔実装が男の予想以上に賢かった場合に警戒される危険がある。
また、時間帯が日中であれば巣へ戻る途中で、熱射病で死んでしまうし、
夕暮れ時であれば他の野良実装が活動を始めてしまい、前述の喰われる可能性が上がってしまう。
リリースされた仔実装はそれが余程の馬鹿でなければ、姉の服を求めて自分の巣へ向かう。
巣には仔実装の『都合の良い記憶』通りに『服を着たままの姉の死骸』が有る。
姉の実装服を剥ぎ取って身に付け、安心した所に現れる母実装。
この再会をより感動的な物にするために最初の『母の死』を演出する必要が有った。

そして服を手に入れ、母を取り戻し、十分に仔実装が増長したところに待っていたのが。

一瞬で自分の周り総てが敵に変わってしまったこの『現実』である。

「ゲプォオッ!!グェエエボオオォッッ!!」
仔実装は口から糞を撒き散らしながら母親の顔を見上げた
「オグゥエエエエエエェェェェッッ…マ!!!ウッウエエエエエエエエッッ!!マ…マァ」
——ママ!タスケテ!
「…………」
母実装は無言で仔実装を見下ろしている。
仔実装はさらに母実装の側へ行こうと手足を動かした。
「テェ…!!!ウウゥッ…ゲエエエエエエエエエエエォェエエエエエエエエエッッ!!!!!…ママァ」
——クルシイテチ!オナカがイタイテチ。
「・・・・・・・・」
「マァ…ォウウウェエエエエエエエエエエエエエエエエェェェェェェッッ!!ママァ」
——アタマがグルグルするテチ。オメメがグルグルするテチ。息がデキナイテチ。
食道を次々とこみ上げて来る糞塊のせいで息をする事も侭ならない。
息をしようとすれば気道に糞が侵入し、仔実装は鼻からも糞を垂れ流す。

『実装ゲロリ』:実装石を食用とするために作られた催吐型の糞抜き剤、
総排泄口を強力に緊張させ、糞袋の蠕動運動を亢進することにより糞袋の中身を下からではなく口から吐き出させる、
この点から食糞を嫌う自称高貴な実装石に大きな精神的ダメージを与え、
またその過程で当然阻害されるはずの呼吸に関しては一切の配慮が為されていないため
投与された実装石は糞袋が空になるまで肉体と精神の両面から地獄の苦しみを味わう事になる。
さらにそれだけの苦痛を与えておきながら決して糞袋が空になるまで死なない様、高度に調整されている。
これは糞を吐き切る前に死んでしまったら糞が体内に残ってしまい、その結果、
肉質の低下(臭み)や厨房の汚染を引き起こしてしまうためで、決して実装石への配慮からではない。
清潔であるべき厨房を糞で汚染せぬために作られたその薬の効能には動物愛護精神の欠片も存在しないのである。

「ウゥプッ!!…マ…!!!!!オゲエエエエエエエエエエエエエエェェェェェェェ…ェェェ…ママァ…」
——ママ!タスケテ!ママ!
仔実装はなんとか母の足元までたどり着きその顔を見上げた。
残った右目から真っ赤に濁った涙を流し、鼻と口からは断続的に糞塊と水様便が噴出してくる。
「オウエエエエエエッ……ママ…」
「・・・・・・・・・・・・」
母実装は仔実装を無言で見詰めている。
母の服に掴まり、それを糞で汚しながら何とか立ち上がろうとする仔実装。
「ォグゥエエエエエエエエエエ…ママァ…」
「・・・・・・・・・・・・」
——息ができないテチ!!お腹が痛いテチ!!口の中がウンチだらけテチ!!タスケテ!!オネガイ!!タスケテ!!
「ゲアァ…ウエエエエェェ…ゲッ!!ゲエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ…」
——もうワタチにはママしかいないテチ!!これからまたいっしょに暮らすテチ!!
「グェップゥ!!…オエ…ゲェッ!!ゲェッ!!ゲェッ!!ゲェッ!!ゲェッ!!ゲェッ!!ゲェッ!!ゲェッ!!ゲェッ!!ゲェッ!!ゲェッ!!」
糞袋の中身が終わりに近付き、『ゲロリ』の効果も最終段階に到達した。
「ギイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ」
【ギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュル】
激痛を伴った糞袋の急激な収縮が仔実装に襲い掛かる。
——イタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイ!!!!!!!!!!!!
——タスケテ!!!タスケテ!!!!ママ!!ママ!!ママ!!ママ!!ママ!!ママ!!ママ!!ママ!!ママ!!ママ!!
仔実装は肺の中に残った最後の空気を振り絞って叫ぶ。

「!!!…ママァ…!!!!」
「!!!!!!!!!!!!!!」
その瞬間、母実装の目つきが変わった。
「ママと呼ぶなデシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!」
母実装は自分の足に縋り付いていた仔実装を蹴転がすと、その足で思い切り踏みつけた。
【グシャアアアアッッ】
「ジュペェッ…」
ペットショップの仔実装達とは比べ物にならないその一撃に仔実装の下半身は粉砕された。
「マ…マ…?」
信じられない様な顔で母の顔を見詰める仔実装に、母実装は追い討ちをかける。
「ママと…呼ぶなデッシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!」
【グシャアアアアッッ】
「ギュベェェッ…」
仔実装の腹が母実装の足の形に丸く凹んだ。
仔実装は既に虫の息だ、偽石を摘出してなければ終わっていただろう。しかし母実装はその攻撃の手を緩めない。
「オマエはァッ!!」【グシャアッ】「ワタシのォッ!!」【グシャアッ】「ムスメをォッ!!」【グシャアッ】
「クソムシのくせにィッ!!」【グシャアッ】「クソムシのくせにィィッ!!」【グシャアアアアッッ】

踏みつけられる度に仔実装は形が変わってゆく。流石にこのままではまずいだろう。
「オイ、何時までやってるつもりだ?いい加減にしろ。」
「デヒッ!!」
男の怒声に母実装は我に返った。
「それは僕のオモチャだよ。あまり調子に乗っていると…」
「デ…デ…ス…スミマセンデスゥ…」
母実装はその両手で仔実装の両脇を抱き上げると、その顔を男の方に向けた。
「…ェ…ゲオエェェッ」
抱き上げられた仔実装は、その口と鼻から血と糞の混じったものを垂れ流している。
仔実装の両手両足は踏み砕かれ、上半身は踏み潰されたままの形に凹んでいる、恐らく肺もズタズタだろう。
一方腹は丸く膨らみ、紫色に変色している。胸・腹腔内で出血が起こり、抱き上げられた事でその血が腹の中に流れ込んだのだろう。
総排泄口からドス黒い血が溢れ出し、両足を伝って地面に血溜まりを作っている。
頭もおかしな形につぶれ、残った右眼も眼窩から脱落している。

母実装は両手で抱えた仔実装を男に向けて差し出した。
「ニンゲンサン…この仔をよろしくオネガイするデス」
男は母実装から両手でそれを受け取るとにっこりと微笑んだ。
「分かった。大切に『可愛がる』よ」
男は仔実装を優しくケージの中に入れた。
「ェ…」
仔実装は何の反応も示さない。適切な処置を取らなければ直に死んでしまうだろう。
「クソムシママ!! ナニヤッテルレフ!! ウジチャン オナカペコペコレフ!!」
蛆実装が仔実装に向かって這い寄って来た。
「レフ!? ママノウンチデガマンシテヤルレフ・・・ 」
仔実装の総排泄口に口をつけ、血と混じった糞を啜る蛆実装。
「レフーン!! ウマウマレフン!! ウマウマレフン!!」

「じゃあ、僕はもう行くから。」
「デッスゥ♪」
男は振り返ると公園の外に向かって歩き始めた。
母実装も自分の巣へと向かおうとする。
「あ、そうだ!!ねえ…」
「デスゥ!?」
男の呼びかけに母実装は振り返った。
「…いや、ごめん、何でも無いよ…」
「デスゥ…」
母実装は訝しげに男の顔を見ると再び巣へと向かって歩き始めた。

「……やれやれ、僕もまだ甘い…」
男はその手に握っていた赤スプレーを再びポケットの中にしまった。
これが終われば母実装も始末するつもりだった。
だってそうだろう、このままでは実装石に利用されっぱなし、これは虐待派としてあってはならない事だ。
「………」
男は無言で歩き始めた。
「さてと、オマエにはまだ付き合って貰うからな。ママの分まで・・・」

託児?⑤完
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毎度駄文にお付き合い頂き有難う御座います。

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過去スク
託児?①②③番外編
早朝
夏の蛆実装
遊びの時間は終わらない 前,中,後編
飼育用親指実装石 
死神絵師
破滅の足音
あんしんママ
命拾い
実装石のクリスマスイブ(執筆中)
糞除け
教育


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1 Re: Name:匿名石 2016/11/05-23:11:39 No:00002698[申告]
母蟲との取引を知りたかったような知りたくなかったような

本人は自分の甘さを独りごちているけど、その甘さが遊びとしては大事なんだろうな
2 Re: Name:匿名石 2018/02/10-15:32:56 No:00005158[申告]
面白かった。最初に糞蟲だって事が明記してあると、同情心が湧かなくて安心して読める。
3 Re: Name:匿名石 2020/10/08-21:01:27 No:00006285[申告]
何度読み返しても良い
4 Re: Name:匿名石 2023/03/25-22:44:52 No:00006977[申告]
母親が殺されなかったのは糞虫妹を虐待した仲として矜持を示したからだったら面白い
5 Re: Name:匿名石 2023/07/22-12:53:06 No:00007603[申告]
母生きとったんかワレ!
番外編2はパラレルかと思ったけど生存したからこの後の話か
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