タイトル:【虐食】 家族の温もり
ファイル:家族の温もり.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:9714 レス数:7
初投稿日時:2008/01/20-20:05:14修正日時:2008/01/20-20:05:14
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 家族の温もり


−− 1 −−

    レプーッ ウジちゃんおナカすいたレフーッ ウジちゃんゴハンぜんぜん足りないレフゥゥゥン 

 アタチたちのカゾクはタケの木のハヤシで暮らしてきたテチ
 うすグラくてヒッソリしたココにはコワイニンゲンもゼンゼンやってこないテチ
 だけどゴハン探しにいったママがもうずっと帰ってこないテチ
 ママとセッセと貯めてきたドングリもだんだん少なくなってきたテチ
 ききわけの無いウジちゃんがレフレフ文句たらしだしたテチ
 ついでにウンチまでプリプリたらしてくれたテチ

    これじゃウジちゃん大っきくなれないレフェェェンレフェェェン

    うるさいテチッ このウンチタレのゴクツブシ! バンゴハンはそれだけテチ さっさとオネムしろテチ
    オマエもさっさとサナギちゃんになればいいテチ そしたら食いブチもウルサイのも減るテチ
    ウマレカワらないなら… ソロソロ・・・・ 「ウ マ レ ナ オ シ」 する テチね・・ 
   

 ゴハンをガマンしてるおネエちゃんたちもカリカリしてるテチ
 もう一石いたウジちゃんはちょっと前にサナギちゃんになってオウチの隅に張りついてるテチ
 サナギちゃんはフカフカのマユにくるまってとってもヌクヌクそうテチ
 夜はなるべくマユにくっついてオネムしてるテチ
 でもいつまでたってもマユにならないウジちゃんははっきり言ってホントのゴクツブシでしかないテチ
 ママからは「いざとなったらウジちゃんを食べるデス」って教わったテチ
 だから下のおネエちゃんたちの声にホン気がこもってたテチ
 すさんだクーキにオヤユビちゃんが泣きそうな声でつぶやいたテチ


    オネチャ アタチもひもじいレチィ…

 いつもおとなしいオヤユビちゃんの嘆きにはおネエちゃんも怒鳴りかえさなかったテチ
 ママがいたころはオナカがすいてもこんな悲しいケンカはしなかったテチ
 帰ってきてママァ… オミヤゲなんてなくたっていいテチ


       ケンカしちゃダメデス 姉妹で仲よくするデス 

 ママがいつも言ってたテチ

       カゾクがいたらポカポカデス
       ココロもカラダもポカポカなんデス
       カゾクでガンバったら一石じゃできないこともできるデス
       カゾクをしんじるデス
      “でも ウジちゃんは別デス いざとなったらウジちゃんを食べるデス”


 だけどアタチはウジちゃんをゴハンにするなんてゼッタイしたくないテチ
 ゴクツブシでもウジちゃんだってカゾクテチ
 アタチはカゾクみんなでずっとイッショならチアワセテチ
 これからもカゾクみんなでイッショにいたいテチ
 カゾクがいたらポカポカテチ
 ココロもカラダもポカポカなんテチ・・・… ・・ ・



 へっていくドングリと悪くなっていくクーキにおネエちゃんたちがとうとうケッシンしたテチ

    ドングリがだんだん少なくなってきたテチ しかたないテチ アチタはゴハン探しにいくテチ   
    ママを待ってるのもゲンカイテチ アブないけどワタチ達だけでゴハン探しするテチ
    タベモノがなにも見つからなかったら… かわいチョーだけど・・ ウジちゃんの「ウマレナオシ」…するテチ  


 ……おソトはアブないテチ コワイコワイがいっぱいテチ でも行かなきゃウジちゃんがゴハンになっちゃうテチ



−− 2 −−

 『郷実装』:公園の蠢く汚物として嫌悪される野良実装と山実装のような野生実装石の中間に位置する半野生の実装石を指す。
 郊外の河川敷や田園地帯といった人間社会に近いところで暮らすものの、人間とはやや距離を保って暮らす。
 人間社会の廃棄物に依存しきった野良実装ではないが、かといって自然の産物だけで暮らしている野生実装でもない。
 ただし郷実装と呼ばれる実装石に明確な分類定義はない。
 単に田舎でみかける実装石を実装石を便宜上そう呼んでいるだけにすぎない。



−− 3 −−

 オルスバンのオヤユビちゃんにオネーチャンたちがいろいろと言いつけしてったテチ


    オヤユビちゃん オネーチャン達はおソトにゴハン探しにいってくるテチ ちゃんとオルスバンしててテチ
    ドングリ割っておいたから いざとなったら食べるテチ でもギリギリまでガマンするテチ
    もし… ママが戻ってきたら オカエリナサイって言ってあげるテチ すぐ帰ってくるからチンパイしないでって教えてあげテチ


 アタチも「ぜったいゴハン見つけてくるからウジちゃんのメンドーちゃんとみてテチ」ってオヤユビちゃんに言って出かけたテチ
 
 ママにつれられて何度も歩いた道をオネーちゃんたちの後ろにくっついて 遅れないようテッチテッチとガンバって歩いたテチ

 オウチのまわりにはミドリのタケの木がいっぱい生えてるテチ
 アタチたちのオウチもカタくてよくしなるタケの木の枝でできてるテチ
 地面はタケの木のオチバでいっぱいテチ
 昼でもうすグラくてあんまりクサも生えてないテチ
 だからオウチのまわりにはゴハンがないテチ
 でもママが言ってたテチ あったかくなったら地面からタケの木の仔がいっぱい生えてくるテチ
 タケの木の仔を禿裸にして食べたらオイチイって教えてくれたテチ
 ママはすっごくものしりテチ
 ママはとおいオヤマからココにおひっこししてきたって言ってたテチ


 とちゅうでクロバサが上でガーガー鳴いてたからアワてて隠れたテチ
 クロバサはとってもコワイコワイテチ
 でもタケの木の下の方にはなかなかおりてこないテチ
 ミドリのタケの木の幹にくっついてジッとしてたら見つからないテチ
 みんなでジッとしてたらどっかいっちゃったテチ
 コワイコワイけどイイコトもあるテチ
 ときどき食べかけのアマアマの実とか落っことしてくこともあるテチ
 オウチのそばにキラキラ玉が落ちてたこともあったテチ 


 ミドリのタケの木のハヤシを出たらドングリの木があるチャ色いハヤシテチ
 ママとイッショにいっぱいドングリひろったトコロテチ
 でも今はドングリなかったテチ
 実生ケンメイさがしたのにゼンゼン見つからなかったテチ
 オチバの下までさがしたけどドングリなかったテチ

 かわりにコゲチャ色した虫さんのサナギちゃんを見つけたから割ってミンナで食べたテチ
 けっこうオイチかったテチ・・・ オイチかったテチ… ・・・ オウチにも サナギちゃん い る テ チ……



−− 4 −−

 野良実装は自然に食料が豊富な時期、春から秋にかけて新天地を求めて都市から辺地へ渡ってくることが多い。
 地方都市の郊外で暮らす郷実装はほとんどが公園から渡ってきた元野良で、そのライフスタイルも公園の野良と大差ない。
 棲み家の作り方も人工物に依存することが多く、へしゃげたダンボールにいつまでもしがみついている創意工夫のない個体も多い。
 野良同様にその節操の無い繁殖力が大迷惑で、人間に依存したがる実装石の本能はほとんど野良と変わりが無い。
 ただし元野良の郷実装集団はしょせん個体の資質が野良と同レベルだから対策もたてやすく容易に排除できる。


 これとは逆に、野生の実装石が餌や棲み家を求めて人里近くに下りてくることがある。
 これは自然の食料が少なくなる晩秋から冬にかけて山里などで多く見られる。
 山から下りてきた元山実装は野良実装に比べて肉体能力、知能、生存スキルが高い(ついでに言うなら食味も)。
 人間に媚びて依存したがる性質が少なく、外敵を恐れ極めて用心深く行動する。
 元山実装は人間や世界に対する態度が根本的に野良と違うことが多い。
 なにより実装石に強く見られるシアワセ回路がかなり抑制され、自身の力量というか分際を比較的正しく認識している。
 そして野生の実装石の繁殖力は常識の範疇で収まってくれている。
 このため田畑への被害もシカ、イノシシ、クマなどといった大型有害鳥獣と比較して小さく限定されることが多い。



−− 5 −−

 ドングリの木のむこうにはニンゲンのオウチがあるテチ
 こっからオウチの裏が見えてるテチ
 あんまりニンゲンのいないオウチテチ
 ママとドングリ探ししてたときもあんまりニンゲンいなかったテチ
 ときどきパンパンとかジャラジャラとかチャリンとか音がしたけどニンゲンすぐにいなくなっちゃったテチ
 オウチにしても変なオウチテチ

 だけどアブないからゼッタイ表の方に出てっちゃダメテチ
 いつもママがそう言ってたテチ
 ニンゲンはアクマテチ いちばんコワイコワイテチ
 ニンゲンにつかまったらイタイイタイされてパックンされちゃうテチ

 あそこにはに大っきなお池があるテチ
 キレイなおサカナさんが泳いでるテチ
 あれもコワイコワイテチ
 だけどお池から追っかけてこないからクロバサよりぜんぜんダイジョウブテチ

 ドングリの木のそばにおミズがチョロチョロお池に入ってくミゾがあるテチ
 アタチたちそこで生まれたテチ
 あったかくなったら水浴びしてみたいテチ
 でも今はとってもチュめたいからムリテチ

 こっから先にはママに連れてってもらったコトなかったテチ 

 ゴハンなかったテチ… 

 どうしようテチ ・・・このままオナカペコペコでオウチに帰ったら… …

 ウジちゃん が 『 ウ マ レ ナ オ シ 』 されちゃう テ チ

 それにせっかくサナギちゃんにウマレカワったウジちゃんも今はゴハン候補になっちゃってるテチ



−− 6 −−

 このように由来が異なる郷実装達が別れて暮らしているぶんには人間社会への悪影響も想定以上のことにはならない。
 しかしこれが交流を結んで交じり合ったコミュニティを作った場合には少々困ったことになる
 野良のシアワセ回路全開でおよそ最悪の斜め上をいく行動原理、これに元山実装の能力が合成された最悪の実装集団が生まれることがある。
 コレが持ち前の繁殖力でイナゴのように大量発生した場合、地域の青年団、消防団、駐在さんまで総動員した殲滅駆除に駆り出されるハメになる。

 故に俺の住んでるこのド田舎では……
 春から秋の喰えない石は見かけしだい撲殺。
 晩秋から冬の美味しい石は見つけた者が捕って食う。
 これが農家の不文律になっている。



−− 7 −−

 オナカペコペコだけど しかたないからおミズでオナカをタポタポにしたテチ

 オネーチャン達の後をトボトボとついてオウチの方に戻ったテチ

  テ? オウチに入らないテチ?

 オネーチャン達はこのままタケの木のハヤシを抜けて向こうに行くって言ってるテチ
 ダイジョウブテチ?
 あっちにはぜんぜん行ったことないテチ



−− 8 −−

 初雪からしばらくたった頃、畑に行くと畝の端っこにうわっている大根が何本か上の方だけ齧られていた。
 畝の向こうには栗の木や果樹を植えてある雑地があり、その向こうに家の竹林がある。
 家の竹林の先には他所の家の竹薮、神社の雑木林が続いている。
 こういう土地柄だからタヌキやイタチが潜んでいたり、春には雉が雛を連れて歩いてたりする。

 しかし犯人というか処刑確定ナマモノは一目瞭然。
 近くに実装石の糞があちこち落ちていた。
 糞ったれ・・・野良糞蟲だな、ぶっ殺してやる。


 畑荒らしをする野良の行動パターンとして、全部自分のものだとばかりに野菜に歯形をつけて、マーキングに糞を撒き散らしていくことが多い。
 隠蔽工作のつもりで下だけ喰って上を残して行くような小細工をする小賢しい野良もいるが、なお性質が悪い。
 おまけに肉が食えない。

 秋に山を抜け出した山実装崩れの郷実装(お山崩れと呼ばれる)も冬になると往々にして畑を荒らすことがある。
 ただしその場合野菜の目立たない部分を綺麗に齧りとるなどして、人間に露見しないよう用心深く行動する。
 かえって間引きになっていて美味しい小松菜ができたという話まで聞いたことがある。
 ついでにいうなら対価を己が肉でお支払いいただけて一石二鳥だったそうだ。


 まだ積雪がないとはいえ、この寒い時期に野良が渡ってくるとは珍しい。
 だけど糞蟲ちゃんに冬は越させないよ。
 さっそく罠を仕掛けることにした。



−− 9 −−

 オナカがペコペコだったけど タケの木のハヤシをオネーチャン達とテハテハとおり抜けたテチ

 クタクタにだったテチ だけどガンバッたテチ
 そしたらスゴイものをみつけたテチ

 タケの木のハヤシの向こうにはフシギなものがあったテチ
 白くて大きな根っコが地面に並んで生えていたテチ

 おそるおそるカジってみたテチ

 !・・・ オイチイテチ 食べられるテチィー!
 
 皮はカタいけどナカはシャリシャリでちょっとアマかったテチ


 みんなで根っコをカジったテチ
 オナカポンポンになるまでむちゅうで食べたテチ
 オネーチャンたちもオナカポンポンになったテチ

 おミズでオナカがタポタポだったからウンチしたくなったテチ
 近くでウンチしてくテチ
 オネーちゃんたちもウンチしたテチ
 ミンナいっぱいウンチ出たテチ

 ゴハンいっぱい食べたテチ それでも一石一本食べきれなかったテチ
 まだ下に太い根っコが残ってるテチ
 でもコレでいいんテチ
 ママが言ってたテチ
 ゼンブ食べないで根っコを残しておいたらまた生えてくるテチ
 根コソギ食べるのはクソムシテチ


    この葉っパも食べられそうテチ これはオミヤゲに持ってかえるテチ
    他にもいろんなクサが生えてるテチ あれも食べられそうテチ
    でも今日はオウチに帰るテチ またアチタ来るテチ


 タベモノが見つかってよかったテチ
 これでウジちゃんたちゴハンにならずにすむテチ
 オネーチャン達とオミヤゲの葉っパをもってオウチに帰ったテチ

 帰るオウチがあるってチアワセテチ
 カゾクがいるからポカポカになれるんテチ
 やっぱりウジちゃんゴハンにしちゃダメなんテチ


 
−− 10 −−

 野良実装用の一般的な罠を物置から出してくる。
 これの見た目はゴミ用バケツそのものだ。
 生ゴミあさりを生活の糧にしている野良実装相手に一番効果的な形状をしている。
 奥にコンペイトウの形をしたダミーの掛け金がある。
 中に入った実装石がダミーのコンペイトウを取ろうと引っ張ったら仕掛けが作動してネットが口を塞いでしまう。
 誘引餌に長いこと仏壇にお供えしてスカスカになったリンゴを切って中に入れておく。
 立てても使える(蓋もちゃんと付いてる)が横にして中のリンゴが目立つように畑に置いておく。
 うまくひっかかってくれるかな、糞蟲ちゃん。



−− 11 −−

    オネチャ 気をつけていってらっちゃいレチ 
    オミヤゲにアマアマの実ほしいレフー でないとウジちゃんまたプリプリしちゃうレフーン


 オヤユビちゃんとウジちゃんがオミオクリしてくれたテチ
 オヤユビちゃん しっかりオルスバンおねがいテチ
 ウジちゃん ワガママいってもないモノはないテチ
 いってきますテチー


 あそこには他にもいっぱい食べられそうなクサがあったテチ
 今日はいろいろ調べてみるテチ 楽しみテチ


 アンヨも軽くテッチラテテッチラと白くて大っきな根っコのそばに着いたテチ
 そしたら近くからオイチそうなアマアマなニオイがしたテチ

 みんなであたりを探したテチ
 すぐ見つかったテチ
 中がカラッポのタケの木を太くしたようなアオいツツがころがってたテチ
 ツツの中にいいニオイがするオイチそうな木の実が入ってたテチ


    今日もイイモノみつけたテチ! アマアマの木の実テチッ! ゴチソウテチー
    でもアカいの皮だけテチ クロバサがよく落としてくのとはちがうテチ
    スゴクおいしそうテチ きっとトクベツなアマアマの木の実テチ

 ・・・昨日はあんなものなかったテチ あったらすぐわかったテチ

  オネーちゃん おかしいテチ さわらないほうがイイテチ 
 
    
    イモウトちゃん もっとユーキを出すテチ
    ウンメーはきりひらくものテチ
    止めてもワタチはワガみちを行くテチュゥゥゥゥ


 アタチは止めたテチ
 でもオネーちゃんたちはさっさとツツの中に入ってっちゃったテチ

 ダイジョブテチ?・・・

 オネーちゃんが木の実をシャクシャク食べだしたテチ


    オイチ〜いテチッ すっごくデーりしゃすテチュゥ♪
    やっぱりア ッ マァ ァ 〜〜イ木の実だったテチィ♪
    わんだふるテチ ごうじゃすなゴチソウテチュ〜ン♪


 う わ ぁ  とってもオイチそうテ チ

 ものほしそうに見ていたら上のオネーちゃんが一切れコッチに投げてくれたテチ

 ☆!!!! ・・ほんとテチ! オ イ チ イテ チ ッ!!
 しまったテチィィィ アタチも行けばよかったテチィ

 オネーちゃんたち もうゼンブ食べちゃったテチ
 アタチももっと食べたかったテチィ
 シッパイしたテチ もっとユーキをもってたらよかったテチッ

    オイチかったテチィ
    アレ? これなんテチか?
    コレもオイチそうテチ とってみるテチ

 あっ オネーちゃんがまた何か見つけたみたいテ



                    ” ビ ッ ”


                       チ?… …? …… なにがおこったテチ? 

 
 

−− 12 −−

 翌日の夕方、畑に仕掛けた罠を見にいった。
 テェェェンテェェェンと鳴き声が聞える。
 おや? かかったのは成体ではないようだ。



−− 13 −−

 ?・・・ 目の前になにかあるテチ 通れないテチ?

 どうちテチ…?

 オネーちゃんたちが入ったままテチ どうちようテチ

 オネーちゃんたち出てこれないテチ

 どうちようテチ どうちようテチ



−− 14 −−

 罠の中には大きめの仔実装が3匹いた。
 チューチュー泣きじゃくりながら網にしがみついたり、壁をポフポフ叩いている。
 どいつもこいつも貧相に痩せていた。

 ん?・・・それにしてもコイツら全く媚びてこない。
 腹を空かせた野良仔蟲なら人間を見たら間違いなく媚びてくる。
 何かおかしい。
 もう一度畑に残った大根の歯形を見る。


 ・・・どうも勘違いしていたようだ。

 ただ単に仔実装の力では大根を引っこ抜けないので地面から出ている上だけ齧っていただけだった。
 糞は水気が多い冷たいものを食べたから急にもよおしただけだったのだろう。
 それを成体が餌場にマーキングしたのと見間違えていた。

 どうやらコイツらは野良の仔蟲じゃなくお山崩れの仔だ。
 それも親を失くした仔実装だけの生き残りグループだったようだ。
 人間の危険を知り尽くしたお山崩れの親実装が仔実装だけで勝手に動き回ることを許すはずがない。
 そういえば近所の道で轢き殺された緑の染みを先週見かけた覚えがある。
 あれがコイツらの親だったのかもしれない。

 
 予想は外れたが獲物は当たりだった。
 痩せていて食いでがないのが残念だ。
 とりあえず罠ごと家に持って帰る。



−− 15 −−

 オネーちゃんたちがツツのナカから叩いたり蹴ったり押したり引いたりカジったりしたテチ
 アタチもソトから叩いたり蹴ったり押したり引いたりカジったりしたテチ
 ひろってきた石コロをガンガンぶつけてみたテチ なのにビクともしなかったテチ

 ヘトヘトになるまでガンバったテチ

 でも でも  あんなにガンバったのに どうしようもなかったテチュ
 

 息が切れてテハーテハーぐったりしてたら大っきなニンゲンがやってきたテチ

 あわてて白くて大きな根っコのアタマにはえた葉っパの陰に隠れたテチ



    ニ・ン・ゲ・ン テ チ ャァァァァッ!! ワナだったテチィィィーーー
    捕まっちゃったテチィィィィーー たちゅけテェーだれかテチュけテェェェーーー
    たべられちゃうテチュゥゥゥーー 出チテ出チテこっから出 チ テェ ェ ェ ン … ・・ ・ 




  ・・・・・・ オネチャ ・ ・ ・ 

  ・・・・・・・・・・・・・・・・ つれてか れ ちゃった テチ  …

  オネーちゃんた ち  が… ニ ン ゲ ン に  ・・さらわれちゃったテチャ… ア ・・ァ・・・ア



−− 16 −−

 痩せっぽっちのコイツらを持って帰ってはきたものの…
 服を剥いだら思ってたよりもっと痩せていた。
 どうしたものやら。
 不本意だが太らせて食うか。



−− 17 −−

  テェェェンテェェェン 

 ニンゲンがいっちゃってから むがむちゅうでオウチに帰ったテチ

 ママがいないテチ
 オネーちゃんもいなくなっちゃったテチ

 ひどいテチ  あんまりテチ … … … ・・ ・



−− 18 −−

 糞食いなどされたら肉が台無しになる。
 大根が気に入っていたようなので喰われかけの残りを抜いてきてやることにした。

 適当に切った大根の輪切りをやる。
 最初は警戒していたがどうせ腹が減ってるヤツらだからすぐテチテチ齧りだした。

 ふーん、腹が減っていても当たり前のようにちゃんと三石で仲良く分けて食べている。

 ずいぶん協調性の高い姉妹のようだな。
 これなら古新聞1枚あれば適当にくるまって寝るだろう。


−− 19 −−

 泣きつかれていつのまにやらオネムしてたテチ


 目を覚ましたら … ウジちゃんがいなかったテチ  ・・・マユが増えてたテチ


 オヤユビちゃんに聞いてみたテチ


 昨日ウジちゃんオミヤゲなくてレプレプ怒ってたそうテチ
 キラキラ玉で遊ぼうとしてもレプーンレプーンってふてくされてオネムしちゃったそうテチ
 オネムの前にプリプリブリブリいっぱいウンチしたからおそうじがたいへんだったそうテチ
 おそうじたいへんでオヤユビちゃんつかれてオネムしちゃったそうテチ

 それで朝になったらもうサナギちゃんになってたらしいテチ


 ・・・・・・あんなににぎやかだったオウチがオヤユビちゃんと二石っきりになっちゃたテチ



−− 20 −−

 数日後、仔実装を捕まえたらよくやることだがコイツらの巣を突き止めることにする。
 三匹を防鳥テープで一列に結んでお猿の電車のようにして放す。

 3匹セットはせっかく放してやったのにチラチラしばらくこっちを見ていた。
 餌付けしたから懐きやがったかな。
 これは親を亡くした仔実装に見られる新たな保護者を求める本能だ。
 野良の仔蟲だと人間相手にもっとあからさまに媚びてくる(もちろん潰す)。
 山実装のコロニーなら(食料事情が良好なら)同族がみなし仔を養育することが多い。
 野良と違って同族意識の強い山実装は預かった仔を非常食にしたり奴隷として冷遇することはまずない。
 もちろん間引きは我が仔であってすら全く容赦がない。
 野良実装の迷惑行動の一つである託児は、死にかけた山実装の親が同族に仔を託す習性が変質して実装されたものという説もある。

 それでもお山崩れの仔らしくトテトテと家の竹林、というかあんまり手入れしていない竹薮の中に逃げて行った。
 こんな藪だが竹の枝はキュウリやエンドウの手に使えるし、他にもいろいろと道具になるので重宝している。
 キラキラした防鳥テープのが竹薮を進んで行く。その煌めきを目印に後を追いかける。

 竹薮の中に菓子袋、マヨネーズの蓋、造花といったモノが落ちている。
 カラスどもがゴミ捨て場や墓場からくわえてきて落としていくゴミだ。
 実が少しくっついた柿の蔕(ヘタ)も見かける。
 竹薮に色合いが不自然だからよく目立つ。

 仔実装は家の土地を抜けて、家と地続きの他所の家の竹林に入っていった。
 あっちはまったく手入れされていない本当の竹薮だ。
 そこを通り抜けると隣村の神社の林がある。


 仔実装達は竹薮の中にある昔の鶏舎の跡地に入っていった。
 昔々、鶏肉の景気がよかったころ近所の老夫婦が経営していたものだ。
 俺が小学生のころには既に廃屋だった。
 今は鶏舎の基部がごく一部だけ残っている。
 四隅にあったコンクリートブロックを壁にしてこんもりしたものがくっついている。
 竹の枝を組んでビニールの肥料袋を屋根にしたドーム状のものがある。
 あれが仔実装達の棲み家のようだ。

 人の土地だが勝手に入る。
 しょせん今は誰も管理していない荒れた竹薮の廃墟(それも土台のみ)。
 それにコイツらが増えて近所迷惑になったところで相手がボケ老人では文句もつけられない。
 グダグダ考えるよりさっさと捕って食うに限る。



−− 21 −−

 オネムのとき サナギちゃんのオフトンをヒトリジメできるようになったテチ

 でも… ・・・サムサムテチ

 オヤユビちゃんと2石きりだからドングリもしばらくダイジョウブテチ

 でもどうちテチ? いつもと同じドングリテチ なのにオイチクない テ チィ

 ママがいつも言ってたテチ
 カゾクがいたらポカポカテチ
 ココロもカラダもポカポカなんテチ
 ママもいないテチ オネーちゃんもいないテチ
 さむいテチさむいテチ…

 アタチ… オネーちゃんたちを見チュてて逃げちゃったテチ
 ゴメンナサイテチ  カミさま ゴメンナサイテチィィィ 
 カミさま カミさまぁ ポカポカのオウチをかえちテ…? …



        ・ ・ ・ ・・・ ・・・ ・・・テッチテッチテッチテッチ


    オ… オネチャ… 大っきいオネーちゃんたちレチ! オカエリレチィーッ!!!


    テッチテッチテッチテッチテッチテッチテッチテッチ やったテチーーー!!!ゴーーールインテチャァァァーーー
     

 テェッ!? ニンゲンから逃げてきたテチ!
 オネチャ すごいテチ
 オカエリナサイ テチーー!


 これでまたオウチポカポカテチ  カミサマありが・・・



−− 22 −−

 棲み家の屋根を引っぺがすと3匹セットの他に仔実装と親指が一匹ずついた。
 テチュレチュ隠れようとする仔実装と親指を捕まえ、3匹セットも回収する。
 3匹セットの妹らしい仔実装と親指だが、やっぱりソイツらも痩せていた。
 まあ当然だな。
 しかし思わぬ収穫物があった。
 コンクリートブロックの壁面に白い糸の塊が見える。
 越冬蛹だ。
 それが二つもある。
 これは大当たりー♪



−− 23 −−

    ンテチャァァァーーー
  テチャー
    レチャー

 雨がふっても風がふいてもへっちゃらだったオウチがバリバリこわされちゃったテチ
 ミンナでイッショにくらしたオウチがこわされちゃったテチ

 ニンゲンが大っきなオテテをのばしてきたテチ
 アタチもオヤユビちゃんもつかまっちゃったテチ
 オネーちゃんたちもつかまっちゃったテチ

 ニンゲンにつまみあげられたとき キラキラ玉のキラキラが最後に見えたテチ



−− 24 −−

 一般的な野良実装の生態では、蛆実装の蛹化は誕生時に粘膜をとってもらえなかった奇形型蛆実装が仔実装へ変態する場合にのみ見られる。
 未熟仔として生まれた蛆実装は成長に伴いそのまま手足が伸長して仔実装になることが知られている。
 (もっとも実装石は生態バリエーションが嫌になるほど出鱈目なのでナニが一般的なのかというのは大幅に異論がある…)

 それが野生に適応した山実装の蛆の場合、気温低下にともなう居住環境の変化、食糧不足など生存ストレスが引き金になって越冬蛹へ蛹化することが多い。
 越冬蛹の生存率は高く、北海道のような極寒地域の冬においてすら余裕で乗り切れる。
 春、気温が十分温かくなり食料事情が好転する時期に仔実装に変態することで自身の生存率を大幅に高めている。
 ただし山実装はコロニーの生存率向上のためならとことん非情(合理的)になれる。
 山実装のコロニーには晩秋になると蛆実装を一匹ずつ穴に閉じ込めて孤独と生存ストレスを与え蛹化を促す習性がある。
 もちろん保温性の優れた繭糸は実装服の中綿に防寒具として使われ、越冬蛹は栄養価の高い越冬保存食として大切に貯蔵される。
 山実装の生態だと越冬蛹は蛆実装自身よりコロニーの生存率向上のために大きく貢献している。


 コンクリートブロックから越冬蛹の繭を引っぺがす。
 一つは殻が堅く蛹化してからしばらく経つようだった。
 しかしもう一つはまだブヨブヨしていて日が浅いようだった。
 繭越しにピクピク蠢いているような手触りがする。
 だから注意してソロソロと繭糸をはがしていった。
 バケツに入れるとき新しく捕まえた親指実装が心配そうにレチュレチュ手を出してきたのでソイツに渡してやる。

 実装石が越冬用に貯め込んだ保存食(お宝と呼ばれる)を一応あさってみたが割れたドングリが少しばかりあるだけだった。
 どこから拾ってきたのかしらないがビー玉があった。
 どうせこれもカラスの落とし物だろう。



−− 25 −−

 ポカポカの思い出いっぱいのオウチがなくなっちゃったテチ
 ニンゲンにつかまっちゃったテチ
 もうおしまいテチ たべられちゃうテチ テェェェンテェェェンテェェェン


 泣いていたらニンゲンがはじめのサナギちゃんのマユを壁から引っぺがしてつれてきたテチ
 ニンゲンはサナギちゃんまでさらっちゃうテチ
 根コソギテチ クソムシテチー

 オヤユビちゃんが後のサナギちゃんがシンパイでニンゲンにさけんだテチ

    サナギちゃんになったばかりのサナギちゃんレチー
    ランボーしちゃダメレチュー

 ニンゲンはあんなに大っきいオテテなのに器用に柔らかいサナギちゃんを引っぺがしてつれてきたテチ
 柔らかいサナギちゃんがつぶれないよう やさちくやさちくつれてきたテチ
 そしてオヤユビちゃんのオテテにマユをそっとそっとわたちてくれたテチ


    サナギちゃんケガしてないレチ よかったレチよかったレチィ


 ?・・・・・・
 ニンゲンはアクマテチ
 つかまったらイタイイタイされてパックンテチ
 ママがいつも言ってたテチ

 なのに思ってたよりニンゲンってやさちいテチ
 ニンゲンにさらわれたオネーちゃんたちはちゃんと3食ゴハンもらってたって言ってるテチ
 オネムのときも大きなオフトンもらえたからヌクヌクだったって言ってるテチ
 パックンどころかイタイイタイもゼンゼンされてないって言ってるテチ
 どういうことテチ?


 上のオネーちゃんが信じられないことを言ったテチ


    もちかチテ… このニンゲン “ ア イ コ ゛ ハ  ” なのかもテチ

 
 “ ア イ コ ゛ ハ  ”・・・ それってアクマじゃなくてテンシなニンゲンのことテチ…
 実装石の願いをかなえてくれるカミサマのケライテチ
 まちゃかテチィ  そ… そんなのオトギバナシテチ
 みなち仔のアタチたちのママママになってくれるかもしれないなんて… ちんじられないテチ
 デンセツのコンペートーがオソラから降ってくるみたいなものテチ
 でも  それがホントだったら……


 そしたら中と下のオネーちゃんがアタチのかんがえてたことを口にしたテチ


    これからはニンゲンのオウチでみんなヌクヌク暮らせるかもしれないテチ
    いい仔にしてたらデンセツのコンペートーだってもらえるかもしれないテチ


 オヤユビちゃんの顔が“ コンペートー ”と聞いて ぱあっ と明るくなったテチ
 クロバサがオウチの近くに落としていったギンギラ袋にすごいアマアマ粒がちょっぴり入ってたことがあったテチ
 コワイコワイのクロバサがすごくうれちいモノを落っことしてくことがあるテチ
 オソラからいいものが降ってくることもあるテチ

 だったらカミサマがホントにお願いをかなえてくれることだってあるかもしれないテチ


 アタチはカゾクみんなでずっとイッショならチアワセテチ
 これからもカゾクみんなでイッショにいたいテチ
 カゾクがいたらポカポカテチ
 ココロもカラダもポカポカなんテチ・・・… ・・ ・



−− 26 −−

 2つも越冬蛹があったことだし、痩せ石にいちいち餌をやって太らせるよりさっさとジソ汁にしよう。
 身の痩せた郷仔実装をまとめ食いするならこれが一番だ。
 ジソ汁なら肉に多少癖があっても気にならない。
 それに普通の鍋にしたら足らない分量もジソ汁なら一家の晩飯になる。

 秋にガン汁(川ガニ汁)を作るのに使っている石の臼を物置から出してくる。
 杵は100円ショップで買った麺棒で代用している。

 ジソ汁の作り方は川ガニ(モクズガニ)のガン汁と大差ない。
 臼で全身を潰した仔実装の身を水で1:1に薄める。
 そして金ザルで濾してザルに残った固形の滓は捨てる。
 間違っても汁のほうを捨ててはいけない。

 次に越冬蛹を割り、クリームペースト状の中身を肉汁に溶かし込む。
 越冬蛹に含まれる実装組織溶解成分(実装トロリの主成分)が実装蛋白を変質させ独特のまろやかな舌触りにしたててくれる。
 肉汁全体がトロリと変質したら醤油で味付けして火にかける。
 最初に塩分を入れないとうまく蛋白質が固まってくれないからだ。
 火にかけているとだんだん豆腐のように固まってくる。

 火を止めたらポカポカのジソ汁の出来上がり。
 ちゃんと越冬蛹を入れたジソ汁はカニミソやエビミソに貝類のエキスを足したような濃厚な風味になる。 
 小さくても越冬蛹がジソ汁のキモだ、これを入れないとモロモロした醤油味実装肉汁にしかならない。
 ちなみに越冬蛹は蛹化する直前に体内の老廃物を完全に排泄するので糞抜きの手間がいらない。
 これは仔実装に変態するまでの長い期間を老廃物の悪影響から守る生理代謝だ。

 さらにこだわるなら仔実装を水でなく親の血に浸して再生力を上げてじわじわ潰していけば最高のダシが出る。
 だが家庭料理でそこまで贅沢は言うまい。
 血縁の姉妹でまとめて潰せば同じような効果がある。
 なお越冬蛹も血縁の蛆実装の蛹を使った方がよい味になると言われている。


 石臼の中を綺麗に拭いたら糞抜き用低圧ドドンパを用意する。
 さ、はじめるとするか。




−− 終わり −−

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1 Re: Name:匿名石 2014/10/03-01:52:56 No:00001425[申告]
これは本当に面白い。出来れば最後に料理されていく仔実装たちの苦痛と絶望パートが欲しかった。ここまで書いておきながら…もったいなし
2 Re: Name:匿名石 2014/10/03-23:01:25 No:00001426[申告]
面白かった!ハッピーエンドっぽく見えて
綺麗にまとまって、しかも美味そう
3 Re: Name:匿名石 2014/10/03-23:18:56 No:00001427[申告]
ラストで腹減る
4 Re: Name:匿名石 2014/10/05-15:22:41 No:00001431[申告]
家族で一緒にポカポカ…麺棒でポカポカ叩かれて
潰されるという伏線か。うまい引っかけだなぁ
5 Re: Name:匿名石 2018/09/15-23:08:57 No:00005591[申告]
もしジソ汁を作るとしたらどこから潰してやるのが一番美味しくなるのかな?
手か、足か、それとも耳か?
いやいやわき腹あたりを軽く削ってやるのが良いのかもしれない
名作だなあ
6 Re: Name:匿名石 2019/08/11-19:44:57 No:00006079[申告]
生きたまま石臼ですり潰されることを願うw
7 Re: Name:匿名石 2022/10/25-13:02:50 No:00006567[申告]
ホントに名作だった...
最後の最期まで家族一緒でポカポカ(物理)でポカポカ(鍋)なのが本当に見事
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