タイトル:【観察】 実装石の日常 待合室 後編
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作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:21597 レス数:3
初投稿日時:2008/01/08-22:48:31修正日時:2008/01/08-22:48:31
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 実装石の日常 待合室 後編



それは異様な風景だった。


親指が何匹か四つんばいとなり、その上に肩車した親指が何匹も続く。
なんとか水槽の壁を乗り越えようと、口論するうちにこうした形となったのだ。

だがいくら体重が軽いといっても、体力も乏しい親指のつくったはしごだ、あちこちでがくがく震えている。

この期に及んで参加していなかった連中が目の色を変える。
しかも、この行為を笑っていた連中なのであるが、成功しかけているとなると話は違う。

自分の言動を忘れて、恥ずかしげもなく親指はしごにしがみ付く。
いや、その根元で押しのけあいが始まる。
他者への配慮など微塵も残っていないのだ。

土台になっている親指たちに、不可抗力ながら足や腕が当たる。

「痛いレチ! やめろレチ!」

わめくが動けないので効果がない、そもそも脱出を図る今では文字通り踏み台に過ぎない。

混乱から幾匹か抜けだす。
揺れる仲間の作ったはしごをよじ登り、とうとう、壁の縁に手をかけた。

「やったレチ!」

むりやり縁に身を乗り出す。が、予想とは違う光景であった。
この水槽自体が高い机の上に置かれており、縁から床まで1mは優に有る。
そして1mの高さから墜落すれば親指など粉々だ。

「早くしろレチ、早く!!」

二番手が先頭を急かす。先頭親指はあせった。
せまい縁にようやくまたがったのに、自分にしがみ付いてくる二番手のせいでバランスが危うい。

「お前は来るなレチ!」

「お前だけ助かる気かレチ!」

疑心暗鬼になっているのは仕方ない。二番手は狭い縁に無理やりまたがろうとし、一番手にしがみつく。

「私に捕まるなレチ!」

「うるさい、うるさいレチ!」

レチレチ騒ぐ2匹だが、頭が大きい分安定性に欠く親指だ。

「ア、ア、ア、ア、レチャア———!」

ア———————————————!と1番手が長い悲鳴を残して、床に転落しシミとなった。

2番手は少しマシだ、水槽の中に落ちた。もっとも、同じくシミとなったのであるが。

しかもこの騒動で、親指はしご自体大きく揺れ始めた。

「早く、降りろレチ!」

「無理レチ————!!」

「揺らすなお前らぁ!」

「お前が揺らしてるレチャア!」

大きく傾き・・・・・・。

「「「「「レチャアアアアアアアア!!!!」」」」」

投げ出された親指たち、空中でわずかにじたばたと抵抗した後、床に落ちた。
幾匹かがシミとなり、残りも手足を失うなど大怪我だ。
また、落ちてきた仲間とぶつかり、大きなシミになったものもいる。

しかも一番手があげた悲鳴から察して、水槽の向こう側そのものへ降りる手立てがないことに気づいた。

二度と壁を越えよとする試みはなくなった。




*************************************




逃げても無駄。
抵抗しても無駄。
交渉しようとしても無駄。
脱出しようとしても無駄。
ただエサになる日をじっと待つほか無い親指たち。

「レヒャアア————————————アアアアア」

水槽では狂う者も出始めて来た。
突然喚きだし走り出す。

しかしもう慣れたので、誰もなにも言わない。

狂った親指のそばを片耳が歩いていき、片目に語りかける。

「この間のお話レチ、私があなたを救うというお話レチ」

「そのとおりになるレチ、そしてお前も食べられないレチ」

無言で片耳は姉のほうをみる。姉親指は頭を抱えて床に転がったまま身動き一つしない。


・・・・・・お姉ちゃんだけでも助けたいレチ


片耳は十数匹にまで減った仲間を見ながら決意した。
彼女は片目親指が言うことに乗ることにしたのだ。
この地獄から救われる、脱出できる方法があるなら、自分を犠牲にしてでも姉を救おう、と。

「・・・・・・あなたを救うのはかまわないレチ、でもどうすればいいかわからないレチ」

とりあえず姉のことは言わない。言えば拒絶されそうだから。

「お前はとくに何もしなくていいレチ。それが大切レチ」

片目親指の言うことは要領を得ない、が追求すれば用心されそうなので片耳はそれ以上聞かなかった。

その日もまた3匹ばかりが生餌にされた。
命乞いし泣き叫び、それでも全く何も変わらなかった。


幾日か過ぎるといよいよ数は少なくなっていた。

妹の蛆をあやす姉親指。
片耳と姉親指。
片目。
走り回ってきた者1匹。
他に気がふれかかった者1匹。

親指6匹と蛆1匹。水槽はずいぶん広くなった。
その広さを感じるたびに彼女らは自分たちの運命を思い知る。

「今日はどいつにするかなー」

のんきな声とともに人の手が水槽に伸びてくる。

片目を除くすべての親指実装が悲鳴を上げ、逃げ惑う。
気がふれかかった者がまず捕まり、持ち上げられる。

「レビヒャアアアアアァァ!!!!」

奇声とも悲鳴ともわからない声をあげ、ペットのケージに入れられた。

「レ、レヒャア!」

「お姉ちゃん、こっちレチ!」

片耳は姉を片目のそばへと手を引く、少しでも安全を図れるように。
次に手が伸びたのは、親指と蛆の姉妹。

手が伸びると、姉の親指が抱きかかえていた妹の蛆を持ち上げ見せつける。

「ニンゲンさん、蛆ちゃんだけでも助けてほしいレチャア!
蛆ちゃんは何もわからないレチ! 何も知らないレチ—————!」

「レフ———————?」

いつもと変わらず、あっさりと姉妹も捕まり、狐のケージに入れられた。

「レヒャア!!!」

「レフー!」

圧倒的なサイズの違いにパンコンする姉。
鼻を鳴らしながら狐が近づいてくると、そっと蛆を床に置き、離れる。
狐は何も知らない蛆へ関心があるのか近づいていく。

「お姉ちゃん、どこいくレフ。私も連れて行ってほしいレフ」

「・・・・・・蛆ちゃんはそこにいればいいレチ」

「でも1匹だと寂しいレフ」
姉を慕って追いかけようとすると、姉が血相を変えた。

「いいから動くなレチ!」

「はいレフ」

蛆の背後には狐が迫っていた。前足を伸ばしてくる。

「レフ——————————! 痛いレフ! おねえちゃああああああん!!」

蛆がおもちゃ代わりに解体される隙に、姉は走った。
狐とケージの間を走りその後ろに回りこんでタオルの下に隠れる。
姉親指はわが身のために蛆を捨てたのだ。

「レファアアアア———・・・!」

蛆の悲鳴はすぐ終わった。まだうごめく体を狐が興味本位で壊すと、くるりとまわって自分のタオルを見る。

・・・・・・くるな、くるな、くるな

タオルの下でカタカタ震える。
頭を抱えて少しでも体を小さくさせようと努力しているが、異臭と震えるタオルが狐の興味を引く。

忍び寄る足音が床を伝い親指にも聞こえてくる。

・・・・・・助けて、だれか助けて! ママ! 神様!

タオルがどけられ、無情にも親指は見つかった。

「レヒャアアアアアアアアアア——————————————!!」


今日はこれだけなのか、人間はどこかへいってしまう。
その光景を水槽の親指全てがフィルムの隙間より眺めていた。

片目が呟いた

「ここは地獄の底レチ」

「レヒィ———————!」

片耳の姉が悲鳴をあげて走り出す。
慌てて追いかける片耳。

「あわれな奴レチ」

見下す声で今まで走り回ってきた個体が言う。
片目に手を向けて言い放つ。

「あいつらは死ぬレチ、お前も死ぬレチ」

「お前も食われるレチ」

「レヒャヒャヒャ! 私は足が速いレチ! 逃げ回れるレチ!
今までそうだったレチ、足の遅いバカが食われるレチ。
1匹になっても逃げまくって生きてやるレチ!!」

片目は何も言い返さなかったが代わりに気の毒な顔をした。

「大丈夫レチ? お姉ちゃん」

「もう嫌レチ!」

走りつかれた姉は追いついた妹に向き直る。

「怖いレチ、食べられたくないレチ! なんで食べられないといけないレチ!
あんなに一杯居た仲間がもう居ないレチャア—————!
エサになるのはいやレチャ———————————!
死ぬのはいやレチャ———————————!
怖いレチャア————————!」

取り乱す姉を抱きしめる片耳。
少し姉が落ち着くと、小声で言い出した。

「お姉ちゃん、内緒のお話レチ・・・・・・」

そしてすっかり片目に聞かされたことを全て打ち明けたのだ。

「じゃあ、助かる方法があるレチ!」

「シッ!でもそのとおりレチ。あの親指は自分と私が助かると言ってるレチ。
でも私はお姉ちゃんも助けるつもりレチ」

「妹ちゃん・・・・・・」

「でも今知られるとまずいかも知れないレチ」

ちらり、と片目の姿を確認して続ける片耳。

「だからぎりぎりまで黙ってたレチ、今もおねえちゃんは黙っていて欲しいレチ」

こくこくうなずく姉である、妹の賢さを知っているのだろう。

「その時まで姉妹で頑張るレチ〜」

笑顔の姉妹を遠めで眺める片目であった。



翌日、またしても人間の手が伸びる。

今日も張り切って走り出す韋駄天親指・・・・・・があっさりと捕まった。

「レチャアアアア! 私が捕まるはずないレチ!」

言うまでもないがいくら速いとは言え親指実装である、人間にしてみれば止まっているのとあまりかわらない。
いや、速い遅いの差さえ分からないだろう。

「レヒャア—————————————!」

断末魔を気にも留めず、店員が水槽に戻ってくる足音がする。
つまりまだエサを選ぶ、ということだ!

「お願いレチ、お姉ちゃんも一緒に助けて欲しいレチ!」

片目は片耳の訴えに動じない。

「やっぱりその話かレチ。率直に言えば無理レチ。お前に助けてもらえるのは私だけレチ、
その後食べられないのはお前だけレチ、そもそもお前は勘違いしてるレチ」

「お姉ちゃん1匹くらい多くても逃げられるはずレチ————!」

「お願いレチ!私も助けてレチ、死にたくないレチィ!」

姉親指が片目の足にすがりつく。

「無理は無理レチ。それに繰り返すとおり勘違いしてるレチ、救われる助かるというのは・・・・・・」

言い合っている間にも、店員が水槽にやってきて手を入れる。

「「レヒャア!」」

姉妹が抱き合って悲鳴をあげるが、店員は片耳だけ捕まえて持ち上げる。
安堵の息を漏らす姉親指であった。

だが店員が片耳をじっと見ながら言った。

「お前じゃないんだよな」

そして、なんと水槽に返してやるではないか。
驚く姉妹に構わず、次いで片目に手を伸ばそうとするが、それもやめて片耳の姉へ向きを変えた。

「レヒャア!」

目前に迫る手を前に、片耳の姉は自分の妹を羽交い絞めにすると大口を開けて怒鳴る。

「ニンゲンさん! こいつをエサにすればいいレチ! だから私をエサにしちゃだめレチ!」

「お姉ち」

「こいつレチ! こいつをエサにすればいいレチャアアア!」

「お姉」

「こいつのほうがいいエサになるレチャアア!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

騒ぎ立てる姉の手を、店員が外すと持ち上げる。
でたらめに手足を動かし、暴れる姉であったが、そのままピラニアの水槽に投げ込まれた。

長い悲鳴と水音がしたが、しばらくするとそれも終わった。

片耳は肉親との離別を最悪の形で経験した。



*************************************



わずかな明かりを残して照明が落ちる。

夜だ。

だが片耳は水槽の中をあてもなくうろつく。

よく姉が座っていた場所。
みなと遊んだ場所。
水場。
おしゃべりしたところ・・・・・・には転落しした仲間のシミがある。
最初によろこんで「楽園行き」が出た場所。

そして片目とは反対側に座り、広々とした水槽の中を見渡した。
騒々しかった最初の頃とはあまりに違う光景だ。
自分と向こう側に1匹いるだけだとは。

生気を失ったままあちこちうろつき、やがて片目の元についた。

「お前が悪いわけじゃないレチ、これはしょうがないことレチ、諦めるレチ」

「もう生きていたくないレチ、あなたを救うのも無理レチ」

「まだ何もかも終わったわけじゃないレチ・・・・・・」



翌朝、いつのまにか寝入った片耳も目を覚ます。
片目は水で体を清めると、起きた片耳のもとに来る。

「お前のお陰で私は、たぶん今日救われるレチ。とにかくお礼を言わせて欲しいレチ」

「だからもう無理レチ、私は死にたいレチ」

「死にたいならいつでも出来るレチ。でも気は変わると思うレチ。それも、お前がここにいるということが私をすでに救っているレチ」

少し間をおいて片目。

「私も同じ順番で交代したレチ。これからはお前が同じ事をして、少しでも仲間を苦しめないようにすることレチ。
わたしはもう疲れたレチ、冷たい水槽で殺されていく仲間を騙し、見続けることに・・・」

「何のことレチィ?」

「こうやって代々賢い者が順番に継承して仲間に嘘をつき、死ぬまでの間幸せな時間にするこれが役目レチ。
私もやっと終わったレチ。お前にも疲れ果てたとき、やがて賢い仲間がやって来るレチ。
私と同じようにして継承すればいいレチ、私の労苦はやっと終わったレチ、

楽になれるレチ」


そう言って、初めて片目は笑顔を見せた。


「何を言ってるレチ!」

片耳は話の流れについていけず立ち上がる。

「救いってここから逃げ出せるんじゃなかったレチ!?」

冗談でも聞いたように笑う片目。

「ここから逃げ出せるわけないレチ。役目を勤め上げられるのが救いレチ。
役目を伝えられる仲間がいないと、ここでは自殺も出来ないレチ
楽園行きがある時、お前をそばに居させたのは万一間違って選ばれないようにするためレチ
お前もこのことを忘れないようにしないといけないレチ」

片目は本当にレチレチ嬉しげに笑う。

「自分の最後は見てほしくないレチ、やはり見苦しいかも知れないからレチ。

と片目は言う、どこか照れくさそうに。
2匹の会話を見計らったように店員の足音が近づいてきた。
今度は躊躇無く片目へ手を差し出す。

長い間待ち望んだ解放なのだろう。
片目は騒ぎ立てず、自分から店員の手のひらの上へ行くと正座した。

悟りを開いた聖者のようだ、静かに運命を受け入れている。

さすがに片耳が驚いて追いかけようとするが、片目は落ち着き払い、何も言わず持っていかれる。

こうして片目は死に怯え、死を見続け死に憧れる生を終えようとしている。

だが、片耳は急いで隙間に行き、とにかく最後を見届けようとした。

まだ手のひらの上で目を閉じ静かにしているのが見える。

長い間の辛い生涯を終えられることに感謝しているようで・・・・・・。

「・・・・・・嫌レチ」

片目は残された目を開くと、静かに店員のほうを向く。

「・・・・・・嫌レチ、やっぱり嫌レチ」

声を張り上げる。

「・・・・・・嫌レチ死にたくないレチ! 生きていたいレチ!!!」

最初こそ悟りを開いたかのように大人しげであったが、信じられないほど汗をかき始め、血涙を流す。

「狭い水槽で座っているだけでもいいレチ! 硬いゴハンと冷たい水だけでもいいレチ!」

目を剥いて立ち上がって叫ぶ。

「水槽に戻してぇぇぇぇぇぇ———————! これまでどおり仲間を騙すから助けてぇレチ! なんでもするレチィィ!
あいつと入れ替えてぇぇぇ!! 私のほうがうまく仲間を騙すレチャ!!!!!
レチャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!! レチャアアアアアアアアアアアアア————! レジャアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!」

しかし店員はなにも見ていないように反応しない。片目をそのままトカゲのいる水槽に入れてやる。

「イヤァァ餌になるのはいやレチイ!!!!!!!!」

恥も外聞もなく喚きたてる。

「お手手! お手手食べないでぇレチャアアァァァァッァァ!!!」

「ママァ! 助けてママァ、ママ、ママッ」	

「あんよ!! あんよが無いレチャアアアアアアアアア!」

「レ゛ジャアアアアアアアアアアアア! 痛いっ痛いレチャウアウアウアウア!!!!!!!!」

「食べないで! 食べたら駄目って言ってるレチャアアアア!」

「レチィイイィイ!! レチイイイィィイイイィィィィイイイ!」

「痛っ! レチィ! レチャーーーアアアーー!」

「レジャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!」

「私が死んじゃう! 死んじゃうレチィ!!!!!!!!!!!!」

「レチャッ、レジャアアアアアアアアアアアアアアアア!」

「レジャアアィアィイイアアア!!!!!!!」

「レチャ—————————!!!!!!!!!!!!!」

「レチッ!?レチャア————————! 死ぬのは嫌って言ってるレチャア!!!!」

「レチィイイイイイイイイイイイイイイイイイイ! レジャアアア——————————————アアアアア——————————————

アアアアアア———————————————————————アアアアアアアアアアアア——————————————アアアアアアアアアアア—————

——————アアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

レアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア—————————アアアアア——————————————アアアアアアアアアアアア!・・・・・・」



結局片目は10分以上痛みと恐怖と命乞いを訴えて果てる。

固まったまま片耳は全てを見届けた。
少し前まであった「死にたい」気持ちなど跡形も無く吹き飛んでいる。
あるのは圧倒的なまでの死への恐怖。
当然だろう。
あれだけ死を望んでいた片目でさえ、いざとなれば死にたくないという姿を見たのだから。

しばらくそのままの姿勢で、片耳は血涙を流し恐怖に震えパンコンした。

・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・



翌日。

水槽にはまた新たな親指たちが入ってきた。
レチレチ騒ぐ姿に鼓動が激しくなるのを感じながら、片耳は歩き出す。

「ここに来られたみんなはすっごい幸運レチ、ここでいい仔にしていると、ニンゲンさんが楽園に連れて行ってくれるレチ—」

「ここは、楽園への待合室レチ。いい仔にしていると順番に楽園に行けるレチ」

「美味しいゴハンやお菓子が食べ放題。面白いおもちゃが山になってるレチ。
でも一度に行けないから、ここで順番を待つレチ。みんな、いい仔だからここに連れてこられたレチ」

覚えているセリフを頭の中で繰り返す。
感情を支配するのは「私はあんな死にかただけは嫌レチ」という凄まじいまでの生への願望だった・・・・・・。



店長は片耳がレチレチ新参たちに語りだすのを確認すると水槽を離れた。

「まったく便利な方法だよな。賢いのを入れておくだけであいつら元気よく清潔に生きてくれるんだから」

時々賢いのを入れ替えるのは面倒で金がかかるが、とつぶやく店長。

目や耳が欠損しているのは、賢い親指を間違って生餌にしない工夫で、全国のペットショップに普及している方法である。






END

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1 Re: Name:匿名石 2016/11/19-02:41:52 No:00002888[申告]
片耳は片目と同じ末路を迎えるのか
それとも違う最期があるのか
どこまでもえぐい世界だ
2 Re: Name:匿名石 2017/06/15-17:43:48 No:00004746[申告]
良質のホラー映画を見ているようだ。
3 Re: Name:匿名石 2019/02/10-17:31:08 No:00005736[申告]
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