タイトル:【観察】 実装石の日常 事後
ファイル:実装石の日常 24.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:23966 レス数:5
初投稿日時:2008/01/08-22:45:54修正日時:2008/01/08-22:45:54
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「デジャッ!」

悲鳴をあげて、満身創痍の成体の野良実装が公園の芝生に転がる。

服は裂け、切り傷や打撲傷から血が出ていた。

カラン、と赤と緑の血肉まみれの棒切れが捨てられる。

捨てた当人は鼻歌交じりでどこかに歩いて行く。

野良実装は痛みも忘れて、加害者が去っていくのを涙まみれの両目で見た。

その周囲には棒切れで叩き潰された仔実装の死骸があちらこちらに飛び散っている。

呆然と親実装は殺された我が仔たちを見つめた。





 実装石の日常 事後





この小さな公園は数家族の野良実装が暮らしてきた。

餌場は近くのゴミ捨て場。

緑が乏しいこの公園では、空き地へ出かけ採取した少しの草花もあまりに頼りない。

おかげでどの家族も食うや食わず。

それでも凶暴な個体がいないおかげで、貧しくともそれなりに平和だった。

その平和はすでに過去形だ、棒切れ片手に男が1人やって来てこの一家を弄るだけ弄っていったのだから。

男の襲撃は惨たらしいやり口だった。

親実装を軽く一撃して動けなくすると、右往左往する仔実装を棒切れで叩き潰し、叩き飛ばす。

横から殴られた3女はくの字に体を変形させ、その上踏み潰された。

「チュバッ!」

・・・・・・仔実装の命はあっけないものである。

男が駆除ではなく、虐殺そのものが目的だったのは間違いないだろう。

棒切れなら一撃で仔実装を即死させられるのに、足元を逃げ回る彼女らを数回にわたって叩いて、あるいは踏んで殺した。

我が仔の命をおもちゃ代わりにする男に、親実装は絶叫した。

威嚇し、立ち向かった。

そして叩かれ骨を折られ、動けなくなった。

そうなれば我が仔が殺しつくされるのを地面で倒れたまま、ただ見ているしかない。

見ているしかなかった。





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満足したのか、男が去っていく。

親実装のほほを血涙が流れて行き、雫が地面に落ちた。

そして夥しい血も。

しかし親実装はかまわない、仔実装たちの様子を見ようと骨折した足を酷使して、1匹づつ見て行く。


長女。頭部が饅頭のようにつぶれ、中身が飛び散っていた。両足と左手は千切れている。

次女。上半身が棒切れの直撃で吹き飛んでいる。まだ両足はわずかに痙攣していた。

3女と4女。棒切れで叩かれて追い回された挙句、一つの肉塊にされていた。どの手がどちらのものか分からないほどに。

6女。ダンボールに叩きつけられて頭部の一部が飛び散っていた。内臓もそれ以前の暴力で破裂して飛び出ている。

5女。姿が見えない。しかし、助かったとは思えない。


我が仔が殺戮されたのを確認すると、ダンボールの中をのぞく。

「あああ・・・・・・」

何もかもめちゃくちゃだ。

男は最初にダンボールへ持参したバケツの水をたたきつけた。

おかげでダンボールの中はぐしょぬれだ。

保温のための十分乾いた枯葉は台無しだ。
貴重な干物の保存食も全滅。
大事に使ってきたタオルもぐしょ濡れ。

ダンボール自体痛んでしまい、もう使えないだろう。




この惨状を他の実装家族は息を潜めて時分のダンボールから見ていた。

漏れるのは安堵のため息。

自分たちでなくて良かった、と。

人間に攻撃されれば、成体であってもひとたまりも無い。

かといって団結して立ち向かう勇気や知恵もない。

だから息を潜めているしかないのだ。





襲われた親実装は濡れた枯葉を持ち上げ、ああああ、と嗚咽する。

冬の到来に備えてどれだけの努力を注ぎ込んだのだろうか。

この一家は総出で必要な物を集め、消費するのを我慢し、そして気紛れな男がやってきて全てを失った。




親実装も生きてはいるものの、冬場に全てを失って生きていくのは困難だろう。

「・・・・・・・・・・・・テ」

聞き逃しそうなかすかな声。

だが間違いなく5女の声だ。親実装は少し離れた芝生の上で半死半生の我が仔の姿を見つけた。

「5女!」

骨折の痛みを忘れ、親実装は走る。

叩かれて歪んだ両手で、そっと5女を抱きかかえる。

酷いの一言に尽きた。

右目はつぶれ、右腕はミンチのようにぼろぼろで骨が露出しているし左腕はなくなっていた。
両足は捻じ曲げられ、両膝は正常とは間逆の方へ向けられている。
服は半分ほどしか残っていない。

「・・・・・・・・・ママ」

「ママはここデス」

声をかけてやるが、それ以上は何も出来ない。

どう考えても助かる傷ではない上に、最初にかけられた水でずぶ濡れだ。

小さな仔実装の体はすでに氷のように冷えきっている。

だが乾かす道具はもう失われた。

一瞬、親実装は他の家族から借りようかとも考えたが、愚の骨頂である。

自分の分さえ怪しいのに、他の家族に貸すわけが無い。

ましてや、死に逝く者に。

「・・・・・・テ」

真っ白い顔で何か5女が言うが、もう意味は無いだろう。

その顔を見ながら、親実装は決意した。

「5女・・・・・・。お前はもう助からないデス」

「・・・・・・・・・・・・」

「だから、ママがお前を食べるデス」

はっきりと断言する。

「助からないお前を食べて、ママが生き延びるデス」

「・・・・・・ママ」

「なんデス」

「泣かなくていいテチィ」

親実装の大粒の涙が、5女の体に落ちてしみこんでいく。

「ママの涙、暖かいテチ。すごく暖かいテチ」

「・・・・・・5女」

少し血色の良くなった5女の顔は笑っている。

「ママ、私を食べてテチ。ママには生きて欲しいテチ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「私を食べてテチ」

親実装が生き残るのは絶望的である、巣も蓄えも失い深い傷を負っている。

それでも、なんとしても生き延びようと改めて決意を深めた。






*************************************





「うわ、なんだありゃ」

傘を差して通りすがるサラリーマンが2人、公園の中で仔実装をぐちゃぐちゃと食らう親実装の姿を見た。

「人のなりをしてるから、きもいなあ。共食いかよ。本当にきもいなぁ」

「共食いどころか、自分の仔を食うらしいぜ。特に冬になってエサが足りなくなると。あいつも準備してなかったんじゃないの」

「最悪だなあいつら」

「市役所もさっさと駆除してくれって感じだよ」

「さっきの裸で何か言ってた奴もうるさかったな」

「デスデスうるさかったな、どうせエサ寄越せとか、飼えとか言ってたんだろう」

「代わりに蹴りを食わせてやったけどな」

「頭が飛んでってきもかったぞ」






END

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1 Re: Name:匿名石 2018/04/11-23:17:45 No:00005174[申告]
肉食獣や猛禽類でも、生きていけないような虚弱児や
環境の悪化で育てられないと判断したときは子供を食べてしまうんだよね
自然の摂理をわきまえたこの親は生き延びて欲しいかな
2 Re: Name:匿名石 2020/05/26-23:29:15 No:00006249[申告]
実装石がいる世界の人間は気持ち良いくらい糞蟲だな。
3 Re: Name:匿名石 2020/05/28-01:41:11 No:00006250[申告]
心折れて賢かったと思うよ
また産んでもろくな事にゃならん
こっちは遊び道具増えて嬉しいけど
4 Re: Name:匿名石 2020/06/25-23:35:34 No:00006253[申告]
人間という潜在的な脅威があるところに
生活のために住まなくてはならない野良実装の悲しさと愚かさよ
食料や住居を人間の生産物から得ようとする限り
この物語は続いていく
5 Re: Name:匿名石 2023/04/21-22:23:51 No:00007072[申告]
人間が糞蟲極まってるからそれを模倣して実装石も糞蟲になってる説
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