タイトル:【哀】 暗闇の中で
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作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:3321 レス数:1
初投稿日時:2008/01/02-02:24:52修正日時:2008/01/02-02:24:52
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暗闇の中で


—暗闇。
その仔実装は一切光が入らない暗闇の中にいた。
外界の景色も見えず、音すらも入ってこない。
まさに暗闇の世界だ。
そんな仔実装の唯一の救いは親だった。
時々うっすらとした光が入る中で聞こえてくる親の声。
そんな時は餌が貰える。
外界との唯一の接触が親から与えられる餌だけだった。

「ママ、ご飯美味しいテチ」

与えられた餌を口に入れ親に感謝の言葉を述べる仔実装。
そんな仔実装を見て親は嬉しさと悲しさを兼ね合わせた表情を見せる。

「よかったデス…、また持ってくるデス」

そういって頭を撫でた。
そして、また暗闇の世界になる。
仔実装は口に入っている餌を咀嚼していた。
だが、口には何の味も広がらない。
ただ、固形物を食べているという感覚だけだった。

「ご飯美味しいテチ…」

誰に言うわけでも無く仔実装は呟いた。



仔実装は生まれて光を見た事は無かった。
厳密には一瞬だけ見た気がしたが記憶には殆ど残っていない。
それからというものの、この暗闇の世界で過ごしている。
親実装からは病気だと言われ、いずれ治るとも言われてきた。
手も足も動かず、目も殆ど見えない。
ただ喋る事と食べる事、そして排便くらいだ。
糞の処理は親実装がしてくれる。
問題は餌だった。
どんな物を食べても味がわからないのだ。
一時は金平糖を口に入れてもらった事もある。
だが、甘味どころか何の味もしなかった。
仔実装は悩んだ。
親実装が持ってきてくれた金平糖をまずいとは言えない。
仔実装は嘘をつき、美味いと答えた。
親実装は微笑んだがわかっている。
この仔の味覚は無くなっていると。
仔は親に嘘をつき、親も仔の嘘に合わせる。
そんな状況が続いていた。

そんな日が続いた頃。
親実装の来る時間になっても来る事が無かった。
仔実装は不安になった。
親実装を捜しに行きたい。
だが、手足の動かぬ自分に何ができようか。
仔実装は泣きたかった。
しかし、涙も流せない。

「ママー、ママァー」

ただ暗闇の世界で母親を呼ぶ事しかできなかった。
そんな仔実装の目に光が入ってきた。
うっすらと目に入ってくる光。
仔実装は母親が帰ってきたと思った。

「ママァー」



—12月某日

この公園で大規模な一斉駆除が行われた。
目に入る実装石は駆除の対象として次々と処理されていく。

「デジャァァァァー!!」

「テェェェン!!助けてママァー!!」

「仔を返してデスー!!」

いたる所から実装石達の悲鳴が聞こえてくる。
だが、リンガルを持たない作業員達は黙々と作業を続けていく。
そんな中、あるダンボールハウスを処理している若い作業員がハウス内に小さな木箱があるのを発見した。
なんだろうと思い箱を取り出し蓋を開ける。

「うわっ!!何だこりゃ!?」

素っ頓狂な若い作業員の声に年配の作業員が来る。

「どうした?」

「これ見てくださいよ」

若い作業員が手に持った箱の中身を年配の作業員に見せる。
そこには一つの肉塊がうごめいていた。
肉塊には緑色と赤色の球体がある。

「ああ、こりゃ奇形仔実装だな」

「奇形仔実装?」

「あー、丁度いい。休憩がてらちょっと話をしよう」

そういって作業を休むように若い作業員に言った。
若い作業員が近所にあった自販機から缶コーヒーを買ってくる。
それを受け取ると年配の作業員がタバコに火をつけてぽつりぽつりと話し始めた。
若い作業員と年配の作業員の間には奇形仔実装が入った箱が置かれていた。

「どこから話すかね…」

数年前、この公園で駆除活動が行われた。
今とは違い公園は実装石達の糞に塗れて、とても人が入れる状態では無かった。
その為、公園内の実装石は麻袋等に保護せず問答無用で叩き潰される。
命乞いをする実装石も仔を盾にして助かろうとする実装石も次々と潰されていった。
公園内の実装石が全て駆除されると市は業者に公園内の消毒を依頼する。

「今思うとこれがいけなかったかもしれんな…」

「?」

疑問の顔をする若い作業員を気にもせず話を続ける。


当時、作業を依頼した業者は消毒薬をできるだけ安くして経費削減をしようとしていた。
そして、業者が買い付けたのは輸入品の安い消毒薬だった。
国内で買うよりも遥かに安い値段に業者は喜んだ。


「でもな、この薬今は違法品として廃品扱いなのさ」

「え?どうしてです?」


早速公園内で散布が開始され、公園内の匂いはほぼ沈静化した。
公園は以前の様に人間が利用できるレベルになり、誰もが安心をした頃。
綺麗な公園にダンボールハウスができ始めていた。
隣町にある公園から『渡り』をしてきた個体達だ。
実装石がいないという噂を聞いてやってきたのである。
当然、安住の地に住み始めた実装石は出産をしようと妊娠をし始めた。
夕方から夜にかけて公園内では胎教の歌が聞こえてくる。

『デッデロゲー、デッデロゲー』

近隣の住人は不安だった。
公園がまたあの姿になるのかと。
だが、住民の不安をよそに実装石達の腹は膨れていく。
しかし、数日経っても仔実装達のやかましい声は聞こえてこない。
それどころか妊娠をした実装石達の悲鳴が一度聞こえてきた。

『デギャァァァァァァー!!』

おかしい事にこの悲鳴が消えてからは実装石達の活動が大人しくなった。
住民は何があっただろうと思ったが深くは気にせずに放置していた。


「でもな、異変は確実に起きていたんだ」

「異変って?」

「ああ、俺がこの公園のトイレから異臭がするというんで清掃に来た時があった」


作業員がトイレに近づくと確かに異臭がする。
すぐに防臭マスクを装備してトイレ内に入った。
そこで作業員は恐ろしい光景を見る。


「あの時の絵は今でも覚えてるよ」


トイレの床や壁、個室のドア。
トイレ内のいたる所に緑色の染みが広がっていた。
水洗便器にも肉塊が大量に積まれ、その周囲には何体かの実装石の腐った死体が転がっていた。


「う…」

若い作業員は年配の作業員の話に思わず吐き気をもよおす。

「そう、壁や床にこいつと同じ奴がへばりついていたのさ」

そう言って箱の中の奇形仔実装を指差す。

「な、何があったんですか?」

「後々の調査でわかったんだが」


原因はすぐに確定された。
公園の消毒に使った消毒液だ。
すぐに業者に調査が入り、この消毒液が押収された。
成分に有害な物質が入ってた事がわかり、この輸入品の消毒液は輸入禁止にされ廃品扱いとされた。
つまり、消毒液のかかった花で妊娠した実装石が奇形仔実装を生んだというわけであった。
生まれてきた我が仔が肉塊となっていたのを見て、発狂した親が肉塊を壁や床に投げつけたというわけである。
また周辺にあった実装石の死体の胃袋からは奇形仔実装と同じ肉が検出され、仔の死肉を食おうとした同属食いである事が判明した。
業者は市と近隣の住民からの苦情により倒産した。


「まわりに住んでる人達はいい迷惑だったわけだ」

「それじゃ、コイツはその生まれた仔ってわけですか?」

「ああ、多分な」

肉塊は相変わらずピクピクと動き、濁った目を動かしていた。

「コイツは生まれてから殺されず、親に育てられてきたんだろう」


親実装は生まれてきた我が仔を見て気が遠くなった。
出てきたのは蛆でも親指でもない、ただの肉塊だったからだ。
うごめくソレを親実装は床に叩きつけて殺そうとした。
だが、肉塊から聞こえてきた声が耳に入る。

「ママー」

ハッとして親実装は手を止める。
この仔は生きている、ワタシの仔。
親実装は肉塊をそっと抱き寄せ頬擦りをした。
生きている鼓動を感じる、流れる血流の音が聞こえてくる。
ワタシの為に生まれてきてくれた仔。
親実装は迷わず仔を服に隠しハウスへと戻った。
ゴミ捨て場で見つけてきた木箱に仔を入れる。

「ママ、オテテトアンヨガウゴカナイテチ」

「それは病気デス。大丈夫デス。すぐ治るデス」

親実装は微笑んで仔の頭らしき部分を撫でる。

「テチューン」

喜ぶ仔を見て、親実装は涙を流す。

「テェ?ママナイテルテチ?」

「な、泣いてないデス」

涙をぬぐって、仔に微笑みかける。

「さ、今日はもう寝るデス。病気が治らなくなるデス」

「オヤスミテチ…」

この日から奇形仔実装と親実装の暮らしが始まり、今日に至る。


「まあ、コイツにとっては親に殺されないのは幸運だったかもしれんな」

「そうですかね…」

「だが、何も出来ずに生きるというのはある意味地獄だな…」

年配の作業員は立ち上がり、タバコを缶コーヒーに入れる。

「さ、作業再開だ」

「あ、コイツはどうします?」

年配の作業員は若い作業員に振り返りしばし考えた。



「処分しとけ」



—再び暗闇
仔実装の周りは再び暗闇の世界となった。
もう聞こえてきた人間の声は聞こえない。
だが、いつもと違うのは周りが揺れていた。
しばらくして揺れが止まった。

「ママ、どこにいるテチ…?」

寂しい気持ちで一杯になった。
そんな仔実装に何かが聞こえてくる。

「デー…、もう終わりデス…」

「蛆チャン、いつまで寝てるテチ…?」

「寒いテチ、何も見えないテチ…」

「デー…、デー…」

「痛いデス…、お腹から何か出てきちゃってるデス…」

「ワタチのオテテどこテチ?アンヨどこテチ?」

絶望の声。
作業員達によって虐待まがいに保護された実装石たちの声。
すでに死が近いその声はまともに聞けば気が狂ってしまいそうだった。
だが、仔実装にとっては希望の声だ。

「お友達テチ!!皆一緒テチ!!」

嬉しい、仲間がいる。
仔実装は仲間の元へ行きたかった。
だが、足が動かないので移動もできない。
それでも必死に動こうとしていた。



—実装石処理場

若い作業員が麻袋から実装石を振り落とし、焼却炉へと落としていく。
悲鳴を上げながら落ちていく実装石達を淡々と焼却炉へ入れる。
そんな作業を繰り返していると見覚えのある木箱が最後に残った。
あの奇形仔実装が入っている箱だ。
中からは何やら声が聞こえてきていたが、若い作業員は無言で箱を焼却炉へ入れた。
木が炭と化して燃え尽きていく木箱。
男は黙ってその光景を見続けていた。




—終—

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1 Re: Name:匿名石 2019/03/31-01:14:08 No:00005837[申告]
良い
仔蟲を奇形にすれば親蟲どもも大人しくなるのね
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