男は、仔実装と共に暮らしていた。 「さ、ご飯にしようか」 「テッチ! テッチュゥ〜ン♪(わ〜い! ご飯テチ〜♪)」 「どうかな。今日のコロッケ」 「テッチュチュ〜♪(とってもおいしいテチュ〜♪)」 「お風呂に入るとするか。お前も一緒に入るかい?」 「テチュ〜(入るテチュ〜)」 「はい、後ろを向いて。髪を洗ってあげる」 「テッテレ〜ン♪(アワアワ気持ちいいテチュ)」 「じゃあ、明日も早いから、寝るかな。さ、こっちおいで」 「テチュ、テッチュ〜♪(ママのおフトン、あったかいテチュ〜)」 ご飯も、お風呂も、寝る時も。 男が家に居るときは、二人はいつも一緒にいた。 とても賢く躾の出来た仔実装は、優しい男のことをまるでママのように思っていたし、 男も、心から自分を慕ってくれる仔実装を、まるで妹か娘のように可愛がった。 そんなある日。 この日も、実の親子のような、ほほえましい「じゃれあい」をしている二人の姿があった。 「こらっ、そんなこと言うやつはおしおきだぞっ」 「テッチュ、テチュ〜♪(ごめんなさいテチ、もう言わないから許してテチ〜♪)」 「ははは、そんなこと言うのはこの口か、ん?」 「テッチュ♪ テプププ(わぁ、許してくださいテチ〜)」 男が仔実装をつまみ上げ、仔実装の口もとを指で、優しくふにふにとつつく。 仔実装はくすぐったそうに、小さな手でイヤイヤとジェスチャーをしながら、コロコロと笑っている。 二人とも、とても幸せそうな笑顔……男も、仔実装も、心の底からの「本当」の笑顔をしている。 「言うこと聞かない悪い子は、食べちゃうぞ、がおーっ」 「テプ〜ッ♪ (食べられちゃうテチ〜♪)」 戯れに、男が仔実装を口の前まで運び、噛んでやる、というような仕草をする。 仔実装は手をぱたぱたと振っているが、当然嫌がっているわけではない。 「テェチー♪(反撃テチュ〜♪)」 「やったな、がおー」 ぱたぱたと手を振っていた仔実装の腕が、男の鼻に当たったのだ。 とは言っても、痛くも痒くもない。むしろこそばゆいくらいだった。 男はおかえしだと言わんばかりに、軽く仔実装の胴体に歯を当てる。 「テチュ〜♪(こそばゆいテチュ〜♪)」 男は、思った。 仔実装は、僕のことを本当に、本当に心の底から信頼している。 大袈裟なことを言うようだが、彼女にとって僕はすべてだろう。 僕だってそうだ。彼女の存在は、言葉では言い表せないくらい大きい。 彼女は、まるで美しい華だ。何物にも変えがたい宝だ。宝石だ。宝石でできた華だ。 こんな綺麗な華。綺麗な宝石でできた華。 落としたら壊れてしまいそうな。 落としたら壊れてしまいそうな。 ……壊れてしまいそうな。 ……………………………………。 「テチ?」 ふと、仔実装は頭に疑問符を浮かべた。 「テ、テチ、テチューン♪(ママ、ちょっと痛いテチ、手加減してくださいテチ♪)」 ママの口が、少しずつ閉じてゆくのだ。少し、痛かった。 「ママ?」 男は答えない。 今は、仔実装の左半身をすっぽり男の口が覆い、歯と仔実装の体の間に隙間は無い。 男が仔実装を支えている手を離したとしても、咥えられたような形なので、仔実装は 床に落ちることはないだろう。 「テッチ、テッチュン(ママ、少し、痛いテチ)」 「テッチュ? テッチュッチュ…(ど、どうかしたんテチ? ママ。マ…)」 その刹那。 ぞ ぶ り …という嫌な感触と音が、男の歯を伝い、骨を伝い、男の脳に到達した。 「テェェェェェェェェギャァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアア-ァ!!!!!!!」 男の目の前に、どろりとした、赤と緑のもやがかかる。 男の耳に、今まで聴いたことの無い、仔実装の絶叫が叩きつけられる。 (テェギャアァァ…ッ!!! ア!!! アッ…アアアァァ!!!) (痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い熱い熱い痛い熱い熱い!!!!) (痛いテチ)(熱くて痛いテチ)(怪我)(いったい何故)(熱い)(痛い) (息が苦しい)(ママ助けて)(痛い)(ママ痛い)(ママ助けてママ)(ママ) 仔実装はパニックになった。 巨大な焼けた鉄塊がいきなり体内に出現し、内から焦がしていくような、そんな激痛。 何が起きたのか理解できず、とてつもない恐怖にパンコンした。 プビ、ブビビと糞が漏れ、床を汚してゆく。 「テァァアア!! テギャァァァァァァ!!」 男が、歯を仔実装の体に突き立てたのだ。 男の歯はほぼすべて仔の体に埋まりきり、あとほんの数センチ歯が食い込めば、 上の歯と下の歯があたる…という状況だった。 (ママ)(ママ)(痛い)(熱いテチ)(なにかが体の中にあるテチ) (熱い)(何があるテチ)(助けてテチ)(痛い)(何がおきたテチ) (ママが噛んだテチ)(ママが?)(なんでテチ)(嘘テチ)(ママはそんなことしないテチ) (誰が)(何が)(誰が)(何が)(誰が)(誰が)(何が) 仔は賢い頭で必死に状況を把握しようとするが、激痛で頭が回らない。 ただひたすらに絶叫し、右手は虚しく空をかく。 口からは涎、泡、体液が混ざったものが。両眼からは、血涙がとめどなくあふれ出ていく。 「テァッ……テッッ!! ゥグプ」 男の歯により容赦なく傷つけられた内臓。そこから流れ出る体液は、仔の体内を駆け巡る。 そして収まりきらなくなった内出血は、仔の口から吐き出された。 「テェッ、テブォグ! エベェァァァ!!」 ごぼ、と仔の口から体液が噴出する。それは男の横顔にべったりと塗りたくられた。 その直後。 「エァッ! テェイィィィィィイィィィ!?!?」 男が、仔実装を持っていた手を、ゆっくりと自分の口から放しだす。 形としては、まるで漫画肉にかぶりついた人間が、それを引きちぎろうとしているような感じだ。 「ッ!? アッ アッ! ティッィィィィ!!」 (ママ)(ワタチを食べているのテチ?)(なんでテチ)(何かしたテチ)(教えてテチ) (教えてテチ)(直すテチ)(何を)(教えて)(教えて)(助けて) み り み り み り …と嫌な音がたつ。 仔実装の体半分は男に噛り付かれ、少しの筋肉と皮一枚で繋がっているような状態だった。 それを男が引きちぎっている。プチプチと筋肉の、神経の繊維が切断…いや、無理やり引きちぎられてゆく。 仔実装はもはや大きな声を上げることはできなくなっており、腹の底から唸るような音をならす。 「〜ッ!! …-!!! …!!!!」 (ママ)(大好きなママ)(助けて)(ママ)(マ)(…マ)(……………………………………) …ブツッ 「テ」 完全に、仔の体がふたつになった瞬間、仔は短く声を上げ…絶命した。 時間にして、ほんの20秒ほどの出来事。 男は、仔実装の半身がぼとりと落ちた音を聞いた。 「…………………………」 「……………………あ」 「ああ、………………ああっ」 「ああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」 「僕はっ……な…な何をして…何を……してししししし」 「じっ、実っ……じっそ……あああああっ、あっ、ああっ!!!!」 男は絶叫した。狂ったように泣いた。 自分は何をした? 大切な仔に何をした? 「あああぁぁあああ!!!!」 男の絶叫、嗚咽、後悔は止むことなく続いた。 ……男は仔を大切に思っていた。虐待しようなどとは思ったことはなかった。 ただ、幼い頃から、この男はこうだった。 美しい新雪を踏み荒らすように。 苦心して立てたドミノを蹴倒すように。 宝石でできた華を粉々にしてみたくなるように。 本当に。 本当に、ふと。 ………………………ふと、魔がさしただけだったのだ。
1 Re: Name:匿名石 2021/07/13-02:43:28 No:00006384[申告] |
これほんとすき |
2 Re: Name:匿名石 2021/07/14-00:57:55 No:00006385[申告] |
キチガイスイッチ♪君のはどこにあるんだろ~♪ |
3 Re: Name:匿名石 2021/07/14-13:25:05 No:00006386[申告] |
こういう病気実際にあるらしいから怖いわ |