タイトル:【愛・俺】 異形の望むもの (スク祭便乗)
ファイル:れぎおん.txt
作者:中将 総投稿数:51 総ダウンロード数:10249 レス数:2
初投稿日時:2007/09/20-03:25:58修正日時:2023/06/28-13:43:48
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バキャーン

金属バット同士を打ちつけたような音がしてコンビニ袋が宙を舞った。
狭い路地を歩いていた俺の横を速度を落とさずに通り過ぎた車が、
俺が持っていた買い物袋を引っ掛けていったのだ。
確かに脇に寄らなかった俺も悪かろうが、これって一種の轢逃げじゃないのか?
幸い俺自身に傷はないが、買った物は駄目になっているだろう。

悪態をつきながら、離れた場所に落ちたコンビニ袋を拾い上げる。
ビールと栄養ドリンクの入っているはずの袋を覗いてみると…

「テェェェ…」

破裂した缶と割れたビンの隙間から、緑色の物体のうめき声が聞こえた。
どうやら託児されていたらしい…が…

「俺もついてないが…お前もとことんついてないなぁ」
「テヒィィィィ」

緑色のゲルが残った赤色の目から涙を流した。


*****************************


コンビニで買った物。
ロング缶のビール4本に栄養ドリンク3本。
かなりの重さだったので、投げ込まれた託児実装に気がつかなかったらしい。
缶やビンメインの買い物だったせいで託児されるという発想に至らなかったせいもある。
おまけにコンビニを出てから軽く一服したから、その隙に親実装は入れられるだけの仔を放り込んだのだろう。

家に帰って袋の中を冷静に観察すると、どうやら少なくとも3匹分の実装の死骸があるようだった。
靴に頭巾に、蛆実装のものらしき尻尾まである。なんとも悲惨な姉妹の末路であった。
緑の混沌の中から唯一無事だった一本の缶ビールを救出する。
普段の心情なら袋を開けずに廃棄、もとい、家の中まで持ち帰ることもなかっただろうが、
いかんせんガッツリ飲む気で買い物をしてたので、無事なビールまで捨てる気分にはとてもなれなかったのだ。
結果として生ゴミなのか資源ゴミなのかわからない物体を家に持ち帰ってしまったのだが…

「まあ、いつでも捨てられるやな」

コンビニ袋の口を縛ると、台所の片隅に放置した。

「チィィィィ」

なにか聞こえた気もするが、少々酒の量が寂しくなった晩酌を中断するつもりもなかった。




ドンドンドン ドンドンドン

僅かばかりのアルコールで程よくまどろんでいた意識を無理やり引き戻された。
誰かがドアをノックしている。
こんな夜中に誰だ…と思ったが、すぐに予想が付いた。
そうだった、俺は託児されたんだ。

携帯のリンガル機能を起動して玄関を開ける。
そこには全く予想通り、悲しいくらい予想通りに親実装がでんとふんぞり返っていた。

『ここに美しいワタシの賢い仔がいるはずデスゥ ワタシはその仔の親デス
 お前は仔のタメにもワタシを一緒に飼うべきデス』

のっけから飛ばしてくる親実装に、ちょうどよかったと微笑み返す。

「ああ、お前の仔ならここにいるからつれて帰ってくれ」

コンビニ袋を手渡す。

『デデ? これはなんデス? ワタシの仔はこんな硬くて重いはず無いデス』
「いや、これは間違いなくお前の仔だから持って帰ってくれ」
『デシャァァァ なに訳のわからんこと言ってるデス糞ニンゲン!』
「遠慮するなって。つうか帰れ糞蟲」

どんどん険悪になる玄関の空気。
そんな空気の中、まったく予想外の場所から

「テレーン」

と、間抜けな声がした。



親実装にとって予想外だったのは、その袋の中に誰かがいるということ。
俺にとって予想外だったのは、その袋の中の誰かが生きていたということ。

そう、おかしな鳴き声は口を閉じたビニール袋の中からしていた。
びっくりして袋から手を離した親実装。
衝撃でガラスの切れ端が袋の隅を破り、そこからどんどん裂けて行く。
袋の中から現れたのは…

『テレーン あ、マママママテレーフ』

実装、と呼ぶにはあまりにも怪奇な生き物だった。
達磨のように歪んだ頭には目玉が3つ。
4本の長い髪がめいめいの方向に飛び出している。
普段あるべき位置の他に右わき腹からも腕が一本生えていた。
足は二本あるのだが、後頭部から背中にかけて蛆実装が背中合わせに溶接されたかのように張り付いている。
そんな巨大な尻尾からさらに一組の足が飛び出していた。
顔が2つ、目が5つ、口が2つ、手が3本、足が4本、そしてしっぽ。
緑の服を着たそれは、すがるように親実装に歩いていった。

『デェェェェ お前はなんデス! 気持ち悪いデス! 寄るなデゲシャアアアア!?』
『テレ なんでそんなこと言うテレレーンマママママ-』
『化け物デス! おまえなんかワタシの仔なんかじゃないデス! デシャァァァァ!』
『テレー…』

本気で威嚇する親実装。その気配を感じて歩みを止める元仔実装。
そう、俺にはわかっていた。あれは間違いなく仔実装だったものだ。
袋の中でシェイクされた3匹分の実装の瀕死の体。
こぼれた栄養剤。そして生命の命令系統を狂わせるアルコール。
これを一緒にしていたせいで、3匹の実装は混ざって再生されてしまったのだ。
そう、まるで酔っ払いが作った粘土細工のように。
呆然とする俺の前で、親実装は一言

『お前なんか知らないデスゥ! ワタシに二度と話しかけるんじゃないデス!』

と言い捨て、テベテベテベと走り去って行った。
ぽつんと玄関に取り残された異形。

どうしたもんか、と俺が思案していると、ぽた、ぽた、と玄関に色の付いた染みが落ちた。
異形実装が泣いている。それも、喚くでなく、静かに泣いている。

『…どうしてテレン マママママはワタチを大切な仔だって言ってくれたテレン
 すぐに会いに来てくれるって言っていたテレン
 どうしてあんな酷いこと言うテレン ワタチは…要らなくなったテレン?』

切り忘れた携帯の画面に、リンガル越しの独白が連なる。
テレ…テレ…とすすり泣く声だけが、深夜の玄関に染みこんでゆく。

目の前で繰り広げられた、仔を跳ね除け見捨てる親という胸糞悪い光景。

それに嫌悪を抱ける位には歪んでない俺としては、
目の前ですすり泣く異形を放り出すことはできなかった。

泣きつかれてへたりこんだ異形実装を、俺はタオル越しに掬い上げた。
他人の体温を感じたせいで弛緩したのだろうか。
異形実装は「テレェェェェン テレェェェェン」と大泣きを始めてしまった。
近所迷惑になるな…と思いつつ、タオル越しにデコボコな異形の体を撫でてやった。


*****************************


異形実装はなるほど、親が言うとおり賢い個体だった。
どうやら置いてもらえるらしいとわかると、うなだれながらも俺の言うことを聞き始めた。


最初のレッスンは食事だった。
口が2個ある異形実装だったが、食事に使うのは正面のものらしい。
後ろの口は蛆実装のものなので、歯も舌も未発達なのだろう。
小さく千切った食パンの破片を与えると、右手でそれを拾い上げようとした。
しかし右手は二本ある。差し出した二本の手が途中でぶつかり合い、パンの破片は転がっていった。
正面にある3つの目…赤1つ緑2つ…で悲しそうに右手を見下ろす異形実装。



異形実装は自らの体の変貌に驚きはしなかった。
これからのことを考えて、あえてごまかさずに真っ先に鏡を見せたのだが、
そっと自分の体に触れながら、

『オネーチャンとイモートチャンがここにいるテレン 一緒テレン』

と、ぼんやりと呟くだけだった。



その時とおんなじ目でパンくずを見る異形実装に声をかける。

「左手で拾ったらどうだ?」

「テレン!」

はっとした異形。そっと左手を伸ばす…
今度は思い通りに体が動いたのか、しっかりとパンくずを掴み上げる。

「テレレーーン! テレレーーン!」

涙を流しながら喜ぶ異形実装。パンくずをほお張りながら何か呟いている。
なにか他愛無いことでも言ってるのだろうとリンガルの文字を読んだ。

『ゴハンが食べられるテレレーーン まだ生きていてもいいテレレーーン』

物が食べれなければ生きられない、生きられない体になったら死ぬしかない。
その思いが、文字となってそこに記されていた。
この個体は、ずっと必死だったのだろう。
親に見捨てられ、もし俺に見捨てられたら今度こそ死ぬしかない。
そのことを理解し、悩み、苦しみ、そしてパンを口にしたのだ。

そんな異形にもうひとかけら、パンを千切ってやりながら、俺はあえて声をかけなかった。
そう、こいつは生きるつもりでいる。
生きるために必要なことを身につけようとしている。

だったら、生きるために必要なことを教えてやらなくちゃいけない。
たとえ、どんなに厳しかったとしてもだ。

「むやみに散らかすんじゃないぞ」
「テレン!」

俺の言葉に、異形実装はしっかりと頷いた。


*****************************


トイレの躾、危険物のこと、触ってはいけないもの…
ひとつひとつ、確実に異形実装は覚えていった。
決して天才的な知能の持ち主ではない。
おまけに不器用な普通の実装よりもさらにバランスの悪い体。

すさまじい努力と、ただ、生きるための執念、それだけで異形は動いていた。

俺も、ただの実装石になら、そこまで思い入れはしなかったと思う。
どちらかというと観察派、必要とあれば駆除、虐待も厭わない俺なのだが
歪んだ骨格が必死になって立っているのを見ると、小突き回す気にはならなかった。
悪く言えば、嗜虐心はその姿を見るだけで満たされていたのだろう。
そして、その異形と共に暮らすことで、俺の心は奇妙な安定を保っていた。

俺が異形の命を支えていたように
異形も俺の心をどこかで支え始めていたのかもしれない。



「レギ」
「テレン?」

少し大きくなった異形実装に声をかける。

「お前の名前は今日からレギだ」

レギオン…某ゲームの多頭悪魔から名づけたその名前…

「テレーーン テレーーーーーン♪」

異形…レギはデコボコの体で踊り回った。
名前をつけてもらえた…つまり、ここにいていい証明。
レギにとっては、やっと自分を認めてもらえたと感じたのだろう。

母に拒否された。母に捨てられた。
そんなレギにとって、本当の生活が、やっと始まったのだ。
人間である俺にとってはその気持ちは想像できはしない。

おそらくレギ本人も、いつの間にか流れている涙に気づいてはいなかっただろう。


*****************************


手のかからなくなったレギには普通に留守番を任せるようになった。
それだけではない。俺では手の届かない家具の下の掃除や、
ちょっとした片づけ程度は手伝えるようになってきた。
レギの体にはおそらく3匹分の偽石が息づいている。
それゆえに、レギはサイズに比べてはるかに優れた筋力を持っていた。




その日も、俺はレギに普通に留守番を任せた。
レギも普通に出社する俺を見送った。


夕方、帰って来たら、普通がぶち壊されていた。
ドアを開けたとたんに感じる、あるはずのない風の流れ。
つんと鼻を突く、生臭い匂いと腐敗臭。
靴を脱ぐのももどかしく、居間に駆け込むと、そこは戦場跡だった。

俺は、託児に続いて、窓割りをされたのだ。


割れた窓ガラスに、倒された室内樹。
積み上げてあったCDは倒され、何枚かは踏み割られていた。
引きちぎられた仔実装。踏み潰された親指実装。

レギくらいの大きさの実装石の遺体があったが、それはごくまっとうな、
”四肢揃った”惨殺体だった。

血の跡は台所まで続いていた。
そこには2匹の成体実装の死骸と重なるようにして
小さなレギが血みどろで倒れていた。

レギは戦ったのだ。
この傍若無人な実装たちと。
自分より大きな成体実装2匹を含む実装集団と。

自分のため。
自分の居場所のため。
そして残った何割かは…俺のため。

いくら偽石のブーストがあるとはいえ、レギも無事じゃすまなかった。
所々噛みつかれ、腕や足は変な方向に曲がり、
歪んだ頭蓋はますますヘンテコな形になっていた。
糞蟲どもの死骸を片付けるのももどかしく、レギを抱き上げる。
浅いがしっかりとした呼吸があった。
内臓の傷が、とかそういうことは一切気にしないで、冷蔵庫の奥から栄養ドリンクを取り出し、
ストローでその口に入れてやる。
これだけじゃ応急措置だ。
体を拭ってやり、動物病院に…と思ったところで、手が止まった。

コイツを、病院に連れて行っていいのか?

いままで気にしなかった「異形」という生命の欠陥が急に俺にのしかかってきた。
医者にこいつが治せるのか? いや、それよりもこいつを人前に連れていっていいのか?

そうだ、俺は、こいつを連れて歩いてヤッタコトガナイ・・・

ぐるぐると思考が回転する。そしてそれは決して正しい答えに結びつかない。

「テレェェェ…」

レギの声に現実に引き戻される。
とりあえず、できる限りのことをしなくては。


*****************************


傷を洗い、軟膏を塗りたくり、湯を潜らせた針と糸で傷を縫う。
外科医どころか生物実験したことの無い俺だ。
何が正しいかなんてわからない。できることをするしかない。

とりあえず傷の処置を終え、ガラスと窓割り侵入者達の遺体を片付ける。
目を離しているうちに、今度は熱を出し始めたようだった。
おそらく血も足りてはいるまい。

解熱剤を切らしていることに気がついた俺は、薬局まで走った。
いつの間にか雨が降り始めていた。

俺ですら飲んだことの無いホロ加工パッケージの栄養剤と抗生物質。
それを与えると、レギは少しは落ち着いたようだった。
雨に濡れた髪を乾かそうとも思ったが、もはやとてもそんな気力は残っていなかった。
タオルを敷き詰めた箱にレギを移すと、そのままソファに倒れこんだ。




夜半過ぎに目が覚めた。
「テレン テレン」と声がする。
顔を上げると、箱の中から包帯まみれのレギが心配そうに顔だけこっちに向けて何か言っていた。
リンガルを起動する。

『ゴシュジンサマ、大丈夫テレ?』
「ああ、大丈夫、それよりお前こそ、体は大丈夫か?』
『ワタチは大丈夫テレ…それより、あいつらはどうなったテレ?』
「お前が全部やっつけてくれたよ。おかげで部屋は無事だった。ありがとう」

ほんの少しだけ嘘を混ぜる。だが部屋の散らかりも窓割りの被害としてはほんの微々たる物だ。

『テレン♪』

レギが弱弱しく微笑む。
そんなレギをそっと撫でてやった。
そして気がついた。小さく震えている。

『…ゴシュジンサマに言わなきゃいけないことがあるテレ』

レギはぽつんぽつんと語り始めた。

『あいつらは…あの入ってきた奴らは、マママママと大ネエチャンの家族テレ』
「え?」
『きっと、ワタチの匂いを感じてこの家を選んだテレ
 ワタチたちは、頭で忘れても、体が引きあうんテレ
 だから、この家が狙われたのは、ワタチのせいテレ…』
「そっか…」
『マママママはワタチには気づかなかったテレ…きっとマママママもワタチのことは忘れてたテレ
 でも、マママママも、大ネエチャンも、イモウトチャン達も、化け物と笑って襲い掛かってきたテレ
 悲しかったテレ…怖かったテレ…だけど』
「戦ってくれたんだな、ありがとう」
『違うテレ!』

レギの様子に俺は撫でようと伸ばした手を引っ込める。

『ワタチは…悲しくて、悔しくて、みんなを殴り返したテレ
 逃げる親指チャンも、イモウトチャンも、大ネエチャンの仔も、殺したテレ』
「・・・」
『ダイジな仔を殺されたマママママ達は、とても怒って襲い掛かってきたテレ
 それを見て、ますますワタチは…ワタチは…』
「・・・」
『なんでワタチだけあんな目で見るテレ…なんで忘れてたのにまたそんな目で見るテレ…』

大きな瞳、歪んだ3つの瞳に涙が溢れる。きっと背後にある瞳も涙を溜めているのだろう。
俺にかけれる言葉は無い。
レギの入った箱をそっと持ち上げて寝室にゆく。
今夜は、レギが眠りに付くまで、話を聞いてやるつもりだった。

家を守った英雄に、そのくらいのご褒美はあげてやってもいいだろう。


その夜、何度も『本当にワタチはここにいていいテレ?』と聞いてくるレギに
何度でも「もちろんだよ」と言ってやった。


眠気に耐え切れず、夢の中に引き込まれる寸前


「ありがとうテレ…」


聞こえるはずが無いレギの生の言葉と、薄い緑色の光が見えた気がした。


*****************************


次の朝、目が覚めるとレギの箱の中にいびつな形の繭があった。
実装石に羽化の習性があるのは知っていた。
きっと体に取り込まれた蛆実装の体が反応し、レギの全身に作用したのだろう。
蛆実装は、ある程度まで成長すると、繭を作り、自分の夢見た姿に変身する。

きっと、レギもこれで自分の望む姿になれるのだろう。

レギは、なにになりたかったのだろうか。
小さな仔実装からやり直したかったのだろうか。
それとも立派な成体実装になりたかったのだろうか。
きちんと3匹に分かれて、姉妹で仲良く暮らしたかったんだろうか。
まさか伝説の実装人になるのを望んだのだろうか。

どんな姿になっても、きちんと迎えてやるつもりだった。




半月が過ぎた。


一月が過ぎた。


二月が過ぎた。


レギの繭は孵らなかった。
つやつやとした輝きを湛えたまま、歪んだ姿でそこにある。

流石に心配になって、繭を持ち上げてみた。

軽い。

なにも入ってないほどに軽い。
軽く振ってみた。
カラカラと音がする。

我慢できなくなって、繭にハサミを入れてみた。
抵抗なく切れる糸の塊。

その中にあったのは
小さな石だった。

計ったように揃った六芒星の形をした、緑の石。

震える手で、その石を取り上げた。
かすかに暖かい、小さな小さな石。
どこまでも澄み切った、薄く緑に輝く石。
偽石とは違う…柔らかな光を放つ、石。


レギ…お前のなりたかったものは、これなのか?

そこまでして、お前は…自分を許せなかったのか?


今となっては真意はわからない。
きっと俺より悩み続けたレギの心を、俺なんかが軽く理解していいはずが無いのだ。
俺はずっと石を眺め続けていた。


そんなことをしても、あの異形は二度と戻ってはこないのに。



*****************************



あれから、2年が過ぎた。
俺は意識的に実装石を避け続けた。
普通の実装石を見るたびに、レギと過ごした最後の夜を思い出してしょうがなかった。

あいつは何を伝えたかったのだろう。

ストラップに加工したレギの石をボンヤリと眺め、たまに空想にふける。

その答えは意外な形で知ることが出来た。
携帯を機種変更しようと思い、ショップに訪れた。

「あ、メモリーカードが入っていますね」

店員の言葉に思い出す。普段使わない機能だから忘れていたのだ。
家に帰って受け取ったカードをPCで読み出す。
写真や着メロに混ざって、リンガルアプリのログが出てきた。
躊躇したが、懐かしむように開く。
そこにはレギに会ってからの、膨大なログが収められていた。

どこにでもいる実装と飼い主の、他愛無い会話が続くだけのログ。

そして、最後の夜の会話の、本当に最後、俺が眠りに落ちたその後にレギの独白があった。



	『ゴシュジンサマは、こんなワタチを飼ってくれたテレ』

	『ママすら見捨てたワタチを、拾ってくれたテレ』

	『ゴシュジンサマが、ずっとワタチを見ていてくれたら、それだけで幸せテレ
	 ワタチを見てくれる人がいてくれれば、それだけでうれしいテレ
	 そこがワタチの居場所テレ』

	『だから、ゴシュジンサマにだけは、何があっても嫌われないワタチになりたいテレ
	 迷惑をかけないワタチでいたいテレ…』

	『ずっと…ずっと…居場所が…欲しいテレ…』






「そっか」

新しい携帯に付け替えたストラップを見る。

「お前は・・・ずっと、ここにいたかったんだな」

何処までも澄み切った緑の石は、何も喋らずに、ただそこにあった。






完








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厨倫◆.YWn66GaPQ 

今回からスクに署名付けることにしました

レギが変な鳴き声なのは仔実装と蛆実装が混ざってしまったからです
読んでて癇に障った人はご容赦を

過去:中国フィーバー逆転拳火事場二面郷屋根の上

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1 Re: Name:匿名石 2019/05/05-18:38:44 No:00005948[申告]
有機物だけがなりたい何かじゃないんだな
2 Re: Name:匿名石 2019/05/11-18:38:45 No:00005961[申告]
異形描写が巧みでグロテスクな姿が絵が無いのにありありと想像でた
実装石自体の描写は毎度のお約束なのに最後は考えさせられる
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