タイトル:【観察】 実装石の日常 渡り
ファイル:実装石の日常 渡り 7.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:6315 レス数:1
初投稿日時:2007/09/15-17:21:17修正日時:2007/09/15-17:21:17
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 実装石の日常 渡り

ここまでのお話
双葉児童公園は愛護派の餌付けと放置で野良実装の増加と飢餓が起こる。
親実装は生き延びるため今の公園を捨て、家族を引き連れ新天地となる公園を目指す 「 渡 り 」 を決行。
だが公園はあまりに遠く旅路は危険が多い。

渡りの一家
親実装:仔実装を生き残らせるため非情に徹する…?
長 女:生存
次 女:3女を救うため轢死
3 女:生存
4 女:生存 親実装への反抗を扇動
5 女:渡りに参加できない蛆ちゃんとダンボールに残って生き延びようとするが、わずか数分で食い殺される
6 女:猫に襲われた傷が元で死亡
7 女:生存
8 女:はしゃぎすぎて体力を浪費、渡りから脱落
9 女:生存 親実装への反抗を扇動
番 外:蛆ちゃん 5女と共に家族から見捨てられたがそれも理解できず食い殺される



親実装は6女の死骸を抱きかかえたままぼんやりとしていた。
バス停にいた大勢の人間を見かけて、一か八かの冒険に出たもののまったくの徒労で終わった。
精も根も尽き果てたのか、長女・3女・7女は親の周りで座り込んでいる。

とうとう生き残ったのは5匹、しかもうち2匹は反抗心を誤魔化そうともしなくなっている。

自分の努力はなんだったのか、ろくに旅程を消化していないがもう家族は壊滅寸前だ。

バスがやって来て出て行き、またバスがやって来て走っていくが、人は誰も実装石の一家を気にも留めない。

「ママ、もう行かないとダメテチ」

気が進まないだろうが長女が言う。

親実装は黙ってうなづくと死骸を地面に下ろし、何も言わず歩き出す。

5匹の仔もぞろぞろと続いていくが、4女は歩き出そうとして立ち止まると、

「お前のせいで時間を潰したテチ!」

6女の死骸に蹴りをいれ、列に加わった。前方で親実装がそれを見かけたが、何も言わずに足を動かし続けた。




渡りを始めて3日目の昼過ぎ、実装にとって坂道は厳しいものであった。

疲弊しているし食事はフードのカスを朝食で口にしただけ。姉妹はどんどん死んでいく。

叱咤激励するはずの親実装もあまりの困難に自信を失いつつある。

黙々と自分の足を動かさねば死ぬ、という思いだけが彼女らを前に前にと進ませていた。

彼女らにとっては最速であったのだが、そのサイズではおのずと限界がある。

休もうにも人家や店舗もなくなっており、日陰もなく車道と歩道が山へ続くだけ。
残飯や水の補給はまず不可能だ。

山の木々があり、木の実もありそうだが、コンクリの壁やフェンスが間にあり
彼女らでは到底手が届かない。

地べたに座り込んで休憩をすると、もう立ち上がるのもやっとだ。

……死ぬかもしれない

親実装は最悪の事態を考えた。

カラスに全滅させられた一家。

坂道の入り口付近で見かけた、無数のシミ。

死にたくない、死にたくない、死にたくない……。

死から逃れるように歩き続ける。

昼の休息では食事もなかったが、仔も不平を言う力もないのか黙っていた。

沈黙したまま歩き出すが、1時間で50mしか進んでいない。

そこでまた一時間近い休息をとったが、疲れは癒えずかえって空腹と乾きに苦しめられる。

秋とは言え正午の日差しは厳しく、渡りの一家は干上がって行った。

手足を伸ばしてひっくり返っている仔たちからも荒い息が聞こえるだけであった。

「ママ、ママ……」

3女が親実装を弱弱しく揺さぶった。

「ニンゲンさんのおうちがあるテチ」

幻覚か、と親実装は思うが、目を凝らすと道路から少しそれた場所にロッジ風の建物があった。
レストランなのだが外見が目立たず、それを見知らぬ実装は気づきにくかったのだ。

「ニンゲンさんのおうちがあれば、ゴハンがあるテチ?」

「そうデス!!!3女、よくやったデス!」

乾いた手で3女の頭を撫でてやり、他の伸びている仔に声をかける。

「ニンゲンさんのおうちがあるデスー!あそこでゴハンを手に入れるデスー!!」

「ゴハン!?」

「ゴハンテチィ!」

瀕死にも思えた仔たちの目の色が変わる。

一家は坂道を一気に上るとレストランの駐車場を横断し、店の裏手に回りこむ。

「ゴハン!ゴハン!」

「落ち着くデス、騒ぐとニンゲンさんに見つかるデース」

騒ぐ仔を静かにすると、親実装は青い巨大なポリバケツを見つけた。
そこからは食べ物の匂いが漂ってきている。

いつもなら店の人間が厳重に蓋をするのだが、この日に限ってたまたま閉め忘れていたのだ。

渡りの一家にしてみれば、思いがけない僥倖としかいいようがない。

ポリバケツは円筒型で高さが60センチ、直径が50センチもある70リットルタイプのものが3つ。
右端が蓋もなく実装を迎えた。

「ママァ、お腹減ったテチィ」

「早く食べたいテチャア!」

「少し待ってるデース!」

親実装はポリバケツを抱きかかえ、ひっくり返そうとするが1cmも動かなかった。
8割まで中身が入っているので重量が30kgを超えているのだ、大量のエサがそれの入手を困難にしているとは皮肉である。

「テチャアア!何やってるテチィ!」

食料を目前にお預けを食らった4女、ポリバケツを蹴飛ばすがやはりびくともしない。

「ゴハン!私のゴハンテチャア!!!!!!!!!!!!」

9女が泣きながらペチペチバケツを叩く。

「ゴハン……なんで食べられないテチャア?」

7女は泣き崩れていた。

「私たちも手伝うテチャー」

長女が姉妹に呼びかけて一斉にバケツへしがみ付く。額に血管を浮かび上がらせて渾身の力を込める。

所詮、仔実装の力である何も変わらない。

奮闘していた親実装もなけなしの体力を使いきり、しゃがみ込んだ。騒いでいた仔も期待が失望に変わり、静まり返っている。

「……ママは役に立たないテチャ」

「4女ちゃん!ダメテチ、そんなことを言ったら」

「長女姉ちゃんは黙ってろテチ!!げんにゴハンが食べられないテチ、姉妹はバタバタくたばって行くテチ、全部ママのせいテチャーー!!」

独り言などのレベルではない、しゃがみ込んでいる親に向かって言う4女。

にやつく9女。

黙っている7女。

もう、家族の仲は崩壊していた。

「ママ!ママ!いいものがあったテチャ!」

店の裏手の廃材置き場をうろついて来た3女が大声を出しながら、板切れを指す。

「あの板で上に登ればいいテチャー」

「…………!」

親実装は薄っぺらな板切れを抱えてポリバケツに立てかけると、下の部分を押さえた。

「3女ーーーー!今のうちに登るデスー!」

3女は親の体を這い上がり、急勾配の板切れの坂道をよじ登っていく。

「私も行くテチャ!」

呼ばれてもいないが、9女も続く。

板切れはぎりぎりでポリバケツの縁に届いていた、ようやく登りきった3女と9女はそれをまたぐとぼたっと
生ゴミの上に落ちた。同時に力尽きた親実装が板切れを放す。

3女
「………………………………すごい、テチャ」

9女
「………………………………おとぎ話みたいテチャ」

生ゴミがたっぷりと入っている光景に、仔実装2匹は震えている。

それはそうであろう、2匹が生まれ育ったのは食料が慢性的に欠乏している公園である。

自分たちの体積の数十倍かそれ以上の食料を想像するなど、不可能だ。

「早くゴハンを投げるデスー!!!」

下界から親実装の声が響き、2匹は我に戻る。

天の気まぐれか、生ゴミはビニール袋に密封されて次々とバケツに放り込まれたのだがカラスが食いちぎっていた。

おかげで非力な2匹でも中身にありつけるのだ。

3女は生ゴミの塊を次々と地上の家族の下に投げるがそれは、生ゴミとは言え普段野良実装の口には入らないようなものばかり。

様々な魚料理・肉料理にパイナップル・メロン・キウイ……。

渡りの家族は狂喜しながら降って来る食べ物にありついた。

せっせせっせと3女が家族のために働くのを横目に、9女は

「旨いテチャ!おいしいテチャアアアア!」

……自分だけで思う存分むさぼっている。




*************************************




こうして一家は十分すぎるほど食事ができ、仔は満足げに転がり、親実装はビニール袋に食べきれない分を入れるだけ入れた。

ついでに猫避けに置いてあるペットボトルを失敬して開けてみると、中の水はまだ新しい。

さっそく、自分の小さなペットボトルに移し替え、運びきれない分は仔に飲ませ、洗顔させてやる。

さらにはなぜかコンペイトウが3粒落ちていたのでありがたく頂戴する。



……さて、潮時を悟るも野良実装の心得である。



何時までも人間の近くにいるのは危険だ、さすがに生ゴミを散乱させた惨状である、
親実装はこれを見られた場合どうなるか想像がつく。

「もう出発するデスー」

4女がぐずぐず言うが無視である。それよりも3女9女のため、短い腕を伸ばして板をポリバケツの縁に届ける。

「早く降りてくるデーーース」

ハイテチャ、と3女、今度は慣れたもので素早く地上に戻る。が、9女が戻ってこない。

「何してるデスー。ママも疲れたデス、早」

「私はここに残るテチ」

デ?板を持ち上げた親実装、間抜けな声を上げてしまう。

「ここはゴハンがいっぱいいっぱいテチ、死ぬまで食べていけるテチ。ここにいればニンゲンがゴハンを運んでくるテチ?
なんでわざわざ歩く必要があるテチ、私は残るテチ」

「バカを言わないでデスー!すぐ人間に見つかるデス!すぐ殺されるデー−ス!」

「テチャチャチャチャ!そんなことないテチャ」

「殺されるテチ」

と3女。

「6女ちゃんを思い出して欲しいテチ、
ニンゲンさんは私たちのことなんてどうとも思ってないテチ。
それどころかこんなに汚したから、すっごく怒るテチ」

「たかがこれくらい」

「9女ちゃんはダンボールをこんなに散らかしたらどう思うテチ?」

「…………」

「はやく降りてくるテチ」

「……でも歩くの嫌テチ」

「ここまでがんばったテチ」

「テチャアアアアアアアアア!歩かないテチャ、歩かないテチャア!歩くのはもう嫌テチャア!黒いのに襲われるのは嫌テチャア!」

姉妹もやり取りを固唾を呑んでみている。

「……でも9女ちゃん」

3女が言いかけたとき、建物の内部から人の声と足音が近づいてくる。

最高レベルの緊張が一家の中を走る。

「付いて来るデス!」

親実装、全速力で走る。3女も、その話を聞いた姉妹も、必死に走る。

「テチャア!お前ら逃げるなテチ!私を置いていくなテチ!」

いい気なもので今更不安に駆られた9女が叫ぶが、なおさら家族は逃げていく。

回りを見渡すがバケツの上では逃げようもない。縁にしがみ付き、地上を見るが目もくらむ高さ。

飛び降りればシミになるだけだろう。

ガチャリ、とドアが開き店の人間が出てきた。

「テヒャアアアア…」

9女は生ゴミの上で丸くなって震え上がっていた。


「うっわ、何これ」

生ゴミの散乱した光景に男性は呟く。

「あーまたカラスかよ。蓋し忘れたかな。この間は野良実装だったし、今度はカラスか」

諦めのため息をつきながら男性は散らばった生ゴミをバケツに放り込む。

カタカタと9女は縮こまって震えるだけ。

上から降って来る生ゴミが急にやむと、パタンと蓋が閉められた。

9女にとって幸運だったが、男性はバケツを見ずゴミを拾い投げ込んだのだ。まさか仔実装が中にいるとも思わず。





*************************************




駐車場にとめられた自動車の下から、一家は9女がポリバケツの中に閉じ込められるのを見ていた。

どうするか、親実装は悩んだ。救いに行きたいが9女は反抗して大騒ぎするだろう。

いや、すぐいまた人間が出てくれば今度こそ間違いなく全滅だ。

そもそも、閉じられた蓋をかけられるか……否。開けようにも自分の手が届かないではないか。

「……出発するデス」

食べ物とペットボトルの入ったビニール袋を背負うと、親実装は人目を警戒しつつ歩き出す。

ぐずぐずしていては見つかってしまい、皆殺しにされてしまう。

親実装は過ちを繰り返さないよう判断した。


とどのつまり、


                              9女を見捨てた。






実装石の「 渡り 」の成功率はおおよそ5%とされている。

END







「みんな私を置いていったテチ、薄情者テチー!」

逆恨みといいようがない怒りで9女はポリバケツの壁を叩くがびくともしない。

蓋を閉められ真っ暗闇のなか、いくら待てども親も姉妹もやって来ないではないか。

不安を怒りに変えていたが、ふと9女は食べ物に気をとられた。

「でももういいテチ、ここにいればずっとずっと食べきれないゴハンがあるテチ」

しかもそれは望みようがないほど種類が多く質が高い。

家族のことなどどうでもよくなっていった。危険な旅でいっそ死ねばいい、自分はここで食べ放題の一生を送ろう。

そう楽観視すると疲れもあってか仔実装は眠りに落ちた。


目が覚めたのは深夜、レストランが閉店し店員が蓋を開けた物音であった。

薄暗い場所なのでまたしても仔実装は見つからなかった。

だがそれは幸運ではない、店員は生ゴミを詰め込んだビニール袋を投げ込んでいく。

硬さがないとは言え、9女の真上に落ちたので彼女は身動きが取れなくなった。

……テチャアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!!

いや、それどころか右足と左腕が砕け血がる。

その上にドサドサと積み重ねられていく生ゴミを詰めたビニール袋。

「……もう十分テチ!これ以上いらないテチャア!」

しかし仔実装の小さな声では届かない。無情に積み上げられる生ゴミに9女は圧迫され、声が出なくなった。

全身が押さえつけられ顔は真っ赤、加重で手足もまったく動かない。上下の生ゴミが多少歪んで完全に潰れないだけだ。

……痛い!痛いテチャアア!!!!!!!!!!!!!

間近のトマトが圧力でつぶれ、果汁が狭い空間に広がっていく。

9女は自分がまさにそうやって潰されようとしていることを理解した。だらだら流れる汗と血涙にトマトの果汁が混じる。

……テヒャアアアアアアア

のしかかるビニール袋を押すが絶望的なまでに動かない。

……もうゴハンはいらないテチ、もういらないって言ってるテチーーーーーーーーーーーーー!

口から内臓が飛び出している。

……痛いっ、死んじゃう!?私が死んじゃうテチ!?

……ママ……マ

押し込むだけ押し込むと上から蓋を押さえつけ無理やり閉める店員。

バケツ内部の圧力が高まり、


  
                     

                      プチ





と9女は生ゴミの中で完全につぶれ左右に広がった。店員はそれにも気づかずさっさと店内に戻っていく。

彼女は希望通りゴハンに不自由せずその生涯を閉じた。














あとがき
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1 Re: Name:匿名石 2019/12/17-05:25:38 No:00006147[申告]
ざまあクソ9女!
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