タイトル:【スク祭】 道.
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作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:5355 レス数:5
初投稿日時:2007/09/01-23:05:06修正日時:2007/09/01-23:05:06
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暑い・・・

日差しを遮るものは何も無く、

アスファルトの照り返しは容赦なく靴を焼く。

ここは某県の市道。

俺は夏休みの旅行と称して、北陸まで徒歩で向かっているところだ。

荷物を背負い直し、空を仰ぐ。

雲ひとつ無い空に金色の太陽が燃える。

汗が額から滴り、地面に落ちる。

それは瞬く間に蒸発し、乾いた風が足元で舞う。

俺はミネラルウォーターを一口、含む。

生温い水が喉を潤す。

そして再び足を進める。

今日中に県境までは行きたい。

脇を走り去る車を横目で流し、黙々と歩く。

やがて日も落ち、俺は海岸で野宿をすることにした。

砂浜に腰を下ろし、タバコに火をつける。

柔らかな煙が肺に落ちていく。

漣の音は耳に心地よく響き、遠くに見える漁火は郷愁を誘う。

一息着いた俺は、途中のコンビニで買っておいた弁当を広げることにした。

「テッテレー」

!?

妙に間の抜けた声と共に一匹の仔実装が顔を出した。

どうやら託児されたらしい。

幸いというか、弁当に被害は無く、糞も洩らしてないので

俺は、黙って仔実装を砂浜に下ろすと弁当を頬張り始めた。

在り来たりの幕の内弁当だが、空腹は最良の調味料。

あっと言う間に八割方を平らげた。

ふと、俺の足を突っつく感触。

そこには期待の眼差しで弁当を見つめる仔実装。

・・・俺はタクアンを一枚摘むと、仔実装の目の前にぶら下げた。

「テチュ?」

首を傾げて俺を見る。

俺が頷くのを見て仔実装はタクアンを手にして一口齧る。

口に合ったのか、ポリポリと齧る様が可愛らしい。

塩辛いタクアンを食べたので喉が渇いたのだろう。

水音に誘われて波打ち際へ走る仔実装。

跪き、水を口に含み・・・「テチュァ!チュァ!」

案の上、大騒ぎしてる。

海を知らないのだろうか?

俺は弁当の蓋にミネラルウォーターを注ぎ仔実装に飲ませてやった。

満足したのだろう。そのままコテンと横になると寝てしまった。

俺はそれを見届けると、残りの弁当をかき込みリュックを枕に寝転んだ。

リュックからスキットルを取り出し、ウィスキーを一口飲む。

やがて心地よいまどろみに包まれ、俺は帽子を顔に掛けて眠りに付いた。

翌朝、カモメの鳴き声で目を覚ました俺は大きく延びをして辺りを見回した。

砂浜にはサーファーが色とりどりのボードを携え仲間と談笑している。

俺は立ち上がり、砂を掃うとリュックを背負い街道に戻ることにする。

今日も暑くなりそうだ。

すると後ろから「テチャァ〜!テチャァ〜!」と悲鳴を上げて追ってくる仔実装。

俺はチラッと目をやっただけで、そのまま歩き続ける。

託児されたとはいえ、飼う気は更々無い。

オマケに旅路の途中。足手纏いも良い所だ。

そして交差点。

俺が信号待ちをしてる間に仔実装は追い付いた。

しきりに「テチテチ!」と言っている。

俺は完全無視を決め込む。

信号が青に変わり車道を横切る。

俺は朝食を買うべくコンビニに立ち寄った。

仔実装も追従して入ろうとするが、閉まって来た扉に弾き飛ばされ

盛大に吹き飛んだ。

その際後頭部を強打し、「テェェェン!テェェェン!」と泣き喚く。

店員が迷惑そうな顔をしているが、俺には関係ない。

人事の様に無関心を決め込む。

買い物ついでに新聞雑誌を流し読みし、トイレを拝借。

その後、アンパンと牛乳、ミネラルウォーターをカゴに放り込み

清算を済ませると袋をぶら下げて店から出た。

仔実装はと言うと、飽きもせずに泣き喚いてる。

俺は黙って仔実装の前を過ぎ、店の前のベンチに腰を下ろすと朝食を摂る。

冷たい牛乳が美味い。

アンパンを頬張りながら車道を見ると中央部に緑の染みが見えた。

そういえば、昨夜託児されたのもこの店だったなと思いながら最後の一口を

飲み込んだ頃、仔実装はようやく泣き止み俺の方へとやって来た。

「テチュ〜ン」

両手を挙げ、まるで抱き上げろと言わんばかりの態度。

俺はベンチから立ち上がると空になった袋にゴミを詰め、ゴミ箱に放り込んだ。

そして、そのままコンビニを後にする。

「テ?テェェェェェ!?」

慌てて俺に続く仔実装。

・・・一体何時まで付いて来る気なのだろう?

俺はテッチテッチという声を聞きつつそう思った。




あれから半日が経つ。

仔実装は相変わらず、俺の後を付いて来る。

俺は自販機でコーヒーを飲みつつ、歩いてくる仔実装を見る。

かなり疲労困憊のようだ。

お?座り込んだ・・・いよいよ限界か?

テェ・・・テェ・・・と弱弱しい声が聞こえてくる。

ん?

スッと、俺の頭上を黒い影が横切った。

そう思った時には、仔実装がカラスに掴まれて空へと

攫われそうになっているところだった。

テェェェェッ!!

とっさに、俺はコーヒー缶をカラスに投げつけていた。

コーヒーの雫を散らしながら飛んだ缶は、カラスの鼻先を掠り落ちた。

掴んでいた仔実装も一緒に。

たかが数メートルの高さ。

しかし、仔実装にとっては十分致命的な高さ。

側面からアスファルトに落ちた仔実装は右側の手足を潰した。

ヂィッ!

ピクピクと痙攣しつつもまだ生きてる当たり、偽石は無事のようだ。

俺は血と糞と肉片に塗れた仔実装を摘み上げると、

俺は拾ったコンビニ袋に仔実装の頭だけが出るようにして突っ込むと、

リュックにぶら下げて歩き出した。

こんなもの放っておけば良いモノを・・・。

そうも思ったが、なぜか捨てても置けなかった。

後ろからは、テェ・・・という声が。

どうやら未だ生きてる。

俺は少し歩みを速めた。

もう暫く行けば次の街だ。

そこまで行けば、薬も買えるだろう。

俺は額の汗を拭いながら、逃げ水で歪んだ道を進んでいった。





太陽が西に傾きかけた時。

俺は山間の小さな町に着いた。

そこで小さな雑貨店に入り、消毒薬とコンペイトウ。

そして今夜の夕食を買い込んだ。

俺は川原に下り、岩に腰掛けると仔実装の処置を始めた。

袋の中の仔実装は未だ息がある。

どうやら間に合ったか?

俺は川の水で仔実装を洗い、消毒液をかけた。

滲みるのだろう。

残った手足をバタつかせ、泣き喚く。

後は栄養だな。

俺はコンペイトウを噛み砕き、カケラを仔実装に与えた、

泣き顔が見る見る恍惚としたモノへと変わる。

俺は苦笑しつつ、仔実装を岩の上に降ろすと、薪を拾い火を熾した。

何時しか、日は沈み、僅かな星の光と虫の声が世界を満たす。

俺は温くなったビールと缶詰で夕食を済ませる。

焚き火が消える頃、一匹、また一匹と蛍が川面を渡っていくのが見える。

ぼんやりと、蛍を目で追う俺。

そのゆったりとした動きは催眠術の様に俺を眠りに誘う。

この日はせせらぎの音を子守唄にして眠りに落ちた。





翌朝、俺を揺り動かすモノがいた。

ぼんやりとした視界に映る緑色の・・・。

仔実装だった。

その姿は出会った頃のもの。

すっかり完治とは・・・。流石は実装石。

俺はコンペイトウを一粒取り出すと仔実装に与えた。

テチュ〜ンと諸手を上げ嬉しそうに鳴く。

ぺチャぺチャと一心に舐める様子は見ていて微笑ましい。

俺は川の水で顔を洗うと、焚き火の後を始末した。

缶詰の空き缶で水を掛け、足で良く踏みつける。

上の通りから子供達が俺を見てる。

虫取りの帰りだろうか?

よそ者が珍しいのかチラチラと俺を見ていた。

さて、そろそろ行くか。

俺がリュックを背負おうとした時、リュックのポケットに

仔実装が入っていく姿が見えた。

・・・

テチュ〜ン♪

俺は無言で仔実装を摘み出すと、川原に置いた。

そして土手へと登り始めた。

テェ・・・?

テチャァァァァ!!

置いて行かれた仔実装は慌てて俺の後を追う。

河川敷の道路に出た俺は暫し、足を止めた。

テッチテッチとリズミカルな掛け声と共に仔実装が上がってくるのが見える。

俺は仔実装が登りきったことを見届けると再び歩き出した。

テェェェ!テェェェ!

俺に追いつこうと駆け出す仔実装。

だが、間は開くばかり。

俺は歩いては止まり、歩いては止まりと仔実装に追いつくチャンスを与えた。

一人旅の寂しさだろうか?

俺はこの奇妙な同行者を気に入り始めていた。



旅はF県を抜けM県の中ほどに達していた。

美しい海岸線を見ながらコンビニ弁当を食べる俺と、足元でキャラメルを舐める

仔実装。

心地よい潮風と、眩い光を浴びて波間に憩うウミネコ。

沖に目をやれば、遊覧船がゆったりと進むのが見える。

此処の景色が気に入った俺は日が沈むまで眺めてしまい、結局この日はこのまま

一泊することにした。

だが、その行為があのような結果を招くとは予想だにしていなかった。



その夜のことだった。

ベンチの上で眠っていた俺の顔に雨粒が落ちてきた。

風も些か強くなってきたようで、帽子が飛ばされて顔が露になっていたのだ。

俺は暫し、濡れるに任せて呆けていたが、どこか雨宿りを出来る場所を求めて

走り出した。

時間も時間で開いてる店もなく、こんな時に限ってコンビニにも出くわさない。

次第に雨足も強くなってきた。

風も強くなり、殆ど横殴りだ。

とりあえず手近な商店の軒先に避難した。

かなり古びた店で、今は使用されていないようだ。

店のシャッターは半分開きっぱなしで、中に人気はない。

かなりの年月を放置されていたようだ。

俺は、此処で雨をやり過ごそうと考えた。

土地や建物の持ち主には、無断で申し訳ないが訳を話せば判ってくれるだろう。

俺はシャッターの隙間から中に入り込んだ。

当然の事ながら中は真っ暗。

リュックからランプを取り出し照らしてみたところ、雑多な物品が所狭しと

置いてあった。

物置か倉庫として使っていたのだろうか?

木箱には厚く埃が積もり、それが長い間そこにあったことを物語る。

奥に畳が見える・・・座敷のようだ。

リュックと腰を下ろし、一息。

テチィ〜・・・

リュックからモゾモゾと仔実装が這い出してくる。

埃っぽい空気を吸い、テチュン!テチュン!とクシャミをしている。

リュックからタオルを取り出すとワシワシと頭を拭く。

雨音がヤケに大きく感じる・・・。

ポケットからタバコを取り出し火をつけようとしたが

湿ってしまい中々つかない。

タバコを諦め、ボンヤリと仔実装を見ている。

他にすることもない。

時折メキメキッと何かが折れるような音が響く。

風で枝でも折れたのだろう。

そういえば台風が近いとか言ってたな・・・。

俺は畳みの上にゴロリと寝転んだ。

次第に闇に目が慣れ天井の輪郭が見えてくる・・・。

天井の染みを数えて寝ようかという時だった。

突然、轟音と共に大量の土砂が流れ込んできた!

俺は悲鳴を上げることも逃げるヒマもなく、その流れに飲み込まれ、

そのまま気を失った・・・。



ここは・・・どこだ?


妙に白っぽい景色の中、指一本動かすことができない俺は目だけを動かし

周りを見る。

上も下もない。

何処まで続いてるのかも見当もつかない。

不安とも焦りが綯交ぜになった感情がピークに達した時、俺の前に仔実装が現れた。

さっきまで何も無かった場所に突然に。

ああ・・・良かった。お前、無事だったのか。

声は出せなかったが、気持ちが通じたのか、テチ!と元気に鳴いた。

暫く、黙って見詰め合っていた俺たち。

すると、仔実装は悲しそうな顔をして手を振った。

スゥーっと後ろに下がっていく仔実装。

おい!何処に行くんだ?

俺は懸命に呼びかけたが、徐々に離れていく仔実装。

すると、大きな影と小さな影が現れた。

あれは・・・親か。

そうか。親が迎えに着たんだな・・・。

仔実装は親と姉妹に囲まれて、とても嬉しそうだ。

親は俺に向かって、大きく頭を下げた。

仔実装の姉妹たちもそれに倣い、頭を下げる。

そして親子は手を繋いで消えていってしまった。

同時に俺の周りの光景が一変。

闇に包まれた。

そして・・・。




俺は病院のベッドの上にいた。

土砂崩れに巻き込まれた俺は、廃屋の下敷きになっていたのだそうだ。

廃屋なだけに、誰も居ないと思いそのまま放置されようとしていたのだが

仔実装が、瓦礫の隙間から俺が被っていた帽子を引っ張り出し、

通りがかりの人間を呼びとめ、発見となったそうだ。

もし、仔実装が人を呼ばなかったら俺はあのまま死んでいた。

俺は仔実装はどうなったかを聞いた。



仔実装は死んだのだそうだ。


人を呼んだ後、再び瓦礫の下に潜り込み崩れた梁の下敷きに・・・。



あいつめ・・・。

恩を返したつもりか・・・?

実装石のくせに・・・。





数日後、俺は退院した。

奇跡的に大きな怪我もなく、頭を少し切った程度で済んだ。

俺はその足で、あの場所へ向かった。

あの廃屋は既に撤去されたようだ。

あの時の面影は僅かに残った泥と木片しかなかった。

台風の余韻の強い風が過ぎ去った後、俺の足に緑の布切れが纏わり付いていた。

実装服・・・。

全く無関係な野良の服かもしれなかった。

しかし、俺にはこの切れ端があの仔実装のものと思えてならなかった。

俺は実装服の切れ端を握り締め、この地を後にした。









そして、一年後。

あの時と同じ夏の日。

あの時と同じ暑い夏。

俺は、あの時の様に旅に出た。

あの時の様にリュックを背負い、帽子を被り。

そしてリュックには、あの仔実装の服の切れ端を結びつけて。




〜終〜

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1 Re: Name:匿名石 2014/09/14-13:28:35 No:00001347[申告]
!!!デス---------------------(●△○)-------------------ン!!!!
■この画像に関連するリンク[画像掲示板 ]■
2 Re: Name:匿名石 2019/02/03-16:34:37 No:00005729[申告]
こういうのも悪くない
3 Re: Name:匿名石 2023/04/12-23:06:15 No:00007037[申告]
良かった
4 Re: Name:匿名石 2024/01/16-17:23:38 No:00008617[申告]
マジでエモい
人間と一緒で悪いヤツもいれば良いヤツもいる
5 Re: Name:匿名石 2024/01/16-20:47:31 No:00008619[申告]
余韻が気持ちいい作品ですね
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