『【観察】愚か』 ---------------------------------------------------------------------------- その野良一家は植え込みの陰で息を潜めていた。 親実装と、仔実装が三匹、それに長女の仔が抱える親指実装が一匹。 早朝の公園。 一家は噴水池に水浴びと実装服の洗濯に出かけた帰りだった。 そこで、普段この時間には見かけることのないニンゲンがベンチに座っていることに気づいたのだ。 「……オマエたち、じっとしているデス。おしゃべりもダメデス」 親実装は小声で仔どもたちに言い聞かせた。 「ニンゲンがこちらを見るかもしれないデス。でも大人しくしているデス。動いたら、かえってニンゲンを刺激するデス。 ほとんどのニンゲンは実装石には何もしないデス」 可愛がることも、ギャクタイもしない。偽石の記憶に刻まれたアイゴ派やギャクタイ派の存在は遠い過去のこと。 いまどきのニンゲンのほとんどは実装石に無関心だ。 親実装は、成体に育って仔を産むまで一年ちょっと生きてきた中で、そのことを悟っていた。 「ニンゲンがこちらに向かって来たときだけ全力で逃げるデス、そのときは自分のことだけ考えるデス。 ……ママも、オマエたちを助けないデス。転んだら置いて行くデス。捕まったら見捨てるデス。覚悟しておくデス」 「「……テェェェ……」」「……レェェェ……」 仔実装のうちの二匹と親指実装は怯えた声を上げる。 いつも優しいけど、怒るときは厳しいママだった。ママがそう言ったときは本気でそうするはずだった。 「……でもテチ」 三女の仔実装が、言った。 「飼ってもらえるかもしれないテチ」 「オマエ、何を言い出すデスゥ?」 親実装は心底から呆れた。 三女の愚かさには気づいていた。妹の親指実装や、いまはおウチで留守番させている末の妹の蛆実装をイジメることはない。 むしろ妹蛆とは仲が良く、いつもプニプニしてやったり、ウンチのときはトイレに運ぶなど世話を焼いている。 だから糞蟲ではない。そう思って、これまで愚かな三女を「大目に見て」来た。 糞蟲ならとっくに間引いている。 親指を抱いている長女の仔実装が、三女にたずねた。 「イモウトチャ、どうチテあのニンゲンさんがワタチたちを飼ってくれると思うテチ?」 「いつも見かけないニンゲンさんテチ、だからきっとワタチたちを迎えに来テチ」 三女が答えると、次女が首をかしげ、 「その理屈はおかしいテチ、確かに初めて見るニンゲンテチ、でもそれがワタチたちを飼ってくれることには結びつかないテチ」 「ならどうチテあのニンゲンさんは朝早くに公園に来てるテチ?」 三女は姉妹の顔を見回した。 「昼間に来るニンゲンさんはママの言う通りワタチたちに無関心テチ、踏まれて悲しいことになったオトモダチを何度も見テチ」 でも……と、三女は言葉を続ける。 「朝はニンゲンさんが来ないはずの時間テチ、だからワタチたちもヨソのおウチの実装石もみんなお洗濯や水汲みに出かけるテチ。 そこにやって来たニンゲンさんテチ、きっと実装石に会いに来テチ、一番可愛くてお利口な仔を選んで飼ってくれるテチ」 「それだとオネチャは選ばれないレチ」 四女の親指実装が言った。 「オネチャはイモウト蛆チャとドッコイドッコイのアホの仔レチ」 「ママ、ワタチはニンゲンさんと話してくるテチ、飼い実装にするならワタチたち家族がオススメだと伝えて来るテチ」 三女は親実装の顔を見上げて言う。 親実装は首を振り、「デスゥ……」と、ため息をついた。 「だったら一度、おウチに帰るデス。託児をするときは一匹ずつと昔から決まってるデス、偽石の記憶に刻まれてるデス」 「ママまで何を言ってるテチ」 呆れ顔をする長女の頭を、親実装は撫でてやり、 「安心するデス、オマエたちはお留守番デス、みんなで一度帰って、それから三女だけを連れて行くデス」 「安心しテチ、ワタチが飼い実装になったらすぐニンゲンさんに頼んでママもオネチャたちも迎えに来てもらうテチ」 三女は自信たっぷりに胸を張った。 ---------------------------------------------------------------------------- 一家は慎重にニンゲンの視界を避けて植え込みの後ろを通り、遠回りして棲み家のダンボールハウスに帰った。 途中で三女が、 「急がないとニンゲンさんが帰っちゃうかもしれないテチ」 と皆を急かしたけど、 「ワタシたちを迎えに来たと言うなら、もうしばらく待っていてくれるはずデス」 親実装に言われて納得した。 留守番をしていた蛆実装は帰って来た三女を見て、ピコピコと尻尾を振って歓んだ。 「三女オネチャ、ウンチ出るレフー♪ おトイレ連れてってレフー♪」 「イモウト蛆チャ、いまからワタチはニンゲンさんに飼ってもらえるようお願いに行くテチ、しばらくお別れテチ」 「レフー? オネチャは飼いオネチャになるレフー?」 「そうテチ、でもすぐニンゲンさんにお願いして家族みんなも飼ってもらうテチ、蛆チャも飼い蛆チャになるテチ」 「レフー♪ そしたらママは飼いママレフー♪」 ピコピコピコと無邪気に尻尾を振る末娘の蛆の姿に、親実装は、ため息をつく。 蛆実装が脳天気であるのは仕方がない。蛆とはそういうモノだからである。 しかし、それと同レベルにお花畑な幸せ回路を備えた三女は救いようがない。 三女は長女と次女に言った。 「蛆チャのお世話は上のオネチャたちに任せるテチ。ワタチがニンゲンさんと一緒にみんなを迎えに来るまでのことテチ」 「アテにしないで待ってるテチ」 長女が答えて言い、次女が、 「ニンゲンを怒らせてワタチたちを巻き込むのは勘弁しテチ」 「ダイジョウブレチ、きっと瞬殺されるだけレチ、ニンゲンも三女オネチャに構うほどヒマじゃないレチ」 親指の四女が言う。 親実装が三女を抱き上げた。 「さあ行くデスゥ」 「テ? ママ、抱っこして連れてってくれるテチ?」 「託児はそういうモノデス、行って来るデスゥ……」 不安げな様子な長女、次女、四女を残し、親実装は三女を抱いてダンボールハウスを出た。 蛆の五女だけは脳天気にピコピコピコと尻尾を振って三女を見送った。 「飼いオネチャ、いってらっしゃいレフー♪」 ---------------------------------------------------------------------------- 「……テッ? ママ、こっちは公園の出口テチ、ニンゲンさんがいたのとは反対テチ」 親実装の腕の中で三女は首をかしげる。 「いいんデス、ニンゲンさんが帰るときはこっちを通るはずデス、そうしたらおウチに連れて帰ってもらいやすいデス」 親実装の答えに、三女は目を輝かせた。 「スゴいテチ♪ さすがママテチ♪ 賢いママはきっとニンゲンさんにも気に入ってもらえるテチ♪ 一緒に飼い実装テチ♪」 「デスゥ……」 親実装は、ため息をつく。 公園の出口の手前にゴミ箱があった。金属製で四角い箱型をして、上部の全体に口が開いた古いタイプだった。 もっと新しいタイプはゴミの投入口が側面に設けられて、カラスや野良猫に荒らされるのを防ぐようになっている。 実装石はどちらのタイプでも中のゴミに手が届かないのだけど。 しかし、古いタイプのゴミ箱であれば「モノを投げ込む」ことはできた。 新しいタイプでは小さな投入口を狙うことは難しかったろう。 「……怨むなら自分の愚かさを怨むデスゥ」 「テッ……!?」 ぽいっと、親実装は三女の仔実装をゴミ箱に向けて放り投げた。 「……テヂャァァァッ!?」 悲鳴を残して三女は親実装の視界から消えた。 ゴミ箱の外には落ちなかった。「無事」にゴミ箱に収まったようだった。 「テヂャァァァッ!? ママァァァッ!? なんでワタチをポイするテヂィィィッ……!?」 三女の叫ぶ声が聞こえたが親実装は答えず、そそくさとダンボールハウスへと引き返した。 「ひと思いにトドメを刺してやるべきだったかも知れないデスゥ、でもそれができれば苦労しなかったデスゥ。 オロカモノは家族の足を引っぱるだけデスゥ、もっと早く間引いておくべきだったデスゥ……」 自分に言い聞かせるように、つぶやきながら。 ---------------------------------------------------------------------------- だが三女の仔実装は「ゴミ箱の中」に収まったのではなかった。 親実装の視線からは見えていなかったけど、ゴミ箱は古新聞やファーストフードの空き容器など大量のゴミで溢れていた。 三女は、その上に載っかったのだった。 しかし自力で地面まで降りるすべはない。 恐る恐る、ゴミの山の端まで行って下を覗けば、仔実装には目もくらむような高さである。 落ちれば赤と緑の肉片を汚らしく撒き散らすだけだろう。 遠ざかる親実装の後ろ姿がまだ見えていたので、三女は救いを求めて泣き喚いた。 「……テヂャァァァッ!! テヂャァァァッ!! ママ助けテヂィィィッ!! 戻って来テヂィィィッ……!!」 その声は親実装にも聞こえたはずだけど、三女はゴミ箱に収まったものと思い込んでいたから振り返らない。 「ゴミ箱の中」から聞こえる声と、「ゴミの山の上」で叫ぶ声は違ったはずだけど、そこまでは気が回らない。 「……テェェェン!! テェェェン……!!」 やがて親実装の姿は見えなくなり、三女は血涙を流して泣きじゃくった。 全く理解できなかった。 飼い実装になるはずの自分が、どうして「ゴミバコ」に捨てられるのか。しかも愛するママの手で。 ここはニンゲンが「イラナイモノ」を捨てる場所なのだ。 ときどきゼイタクなニンゲンが「ゴチソウ」も捨てることがあって、いまも「イイニオイ」がしているけど。 でも食欲よりも母親に捨てられたこと、そして飼い実装になり損ねるであろうことへの絶望が大きかった。 ワタチは家族みんなのために飼い実装になろうとしテチ…… ワタチがニンゲンさんに気に入ってもらえればママもオネチャもイモウトチャたちも飼い実装になれテチ…… それなのにどうチテなんテチ? なんでママはワタチを「イラナイモノ」のトコロにポイしテチ? ママは野良の暮らしが気に入っテチ? だったらそう言ってくれればよかっテチ…… ニンゲンさんにお願いしてママだけは野良のままにしてもらっテチ…… それとも……ワタチが先に飼い実装になることに嫉妬しテチ? ああ、そうだったのかと三女の仔実装は理解した。 家族の中での自分の立場を悟ったのだ。 もちろんそれは「愚か」な三女ゆえの誤解でしかなかったのだけど。 次女オネチャも親指のイモウトチャもワタチをアホの仔呼ばわりするテチ…… ママはそれを叱るテチ、でもワタチがイケナイコトをしたときみたいにイタイイタイコトまではしないテチ…… さっきもお洗濯の途中でチョウチョを見つけて追いかけたらお尻ペンペンされテチ…… お服から目を離すとハゲハダカのドレイ石に盗まれて自分がハダカドレイになると怒られテチ…… 次女オネチャと親指イモウトチャには笑われテチ…… それは仕方ないテチ…… でも三女チャはハダカドレイが似合うとまで言われたのはヒドすぎるテチ…… なのにママは次女オネチャと親指イモウトチャをちょっぴり叱っただけテチ…… そもそもワタチは可愛いチョウチョを捕まえておウチで飼いたかっただけテチ…… いつもお留守番のイモウト蛆チャも歓んでくれたはずテチ…… そう言ってもママはわかってくれなかっテチ…… ママもオネチャたちもワタチや蛆チャへの愛情に欠けるテチ…… そうテチ…… きっとそうなんテチ…… 三女の仔実装は確信した。 ……ワタチや蛆チャが可愛いから妬んでるのテチ! ---------------------------------------------------------------------------- だからといって「ゴミバコ」から逃れる方法があるわけではなかった。 仔実装は再び泣き喚いた。 「……テヂャァァァッ!! テヂャァァァッ……!!」 それに疲れると、また哀れっぽく泣きじゃくった。 「……テェェェン!! テェェェン……!!」 こんなに可愛いワタチがヒドい目に遭ってるテチ! クソムシママにポイされテチ! 可愛いワタチが可哀想テチ! 誰か助けるテチ! ニンゲン早く助けに来いテチ! そうしたら飼い実装として飼われてやるテチ! 可愛い蛆チャも紹介してやるテチ! クソムシママとクソムシオネチャたちはゴミバコにポイするテチ! 早く助けテチ! ここはタカイタカイでコワイコワイテチ! ゴミバコには黒くてバサバサのカーカーも来るテチ! コワイコワイテチ! イヤイヤテチィィィ……!! 「……テヂャァァァッ!! テェェェン!! テェェェン!! テヂャァァァッ……!!」 「……何こいつ? 誰かイタズラしたのかよ?」 ニンゲンの声に、ぎくっと仔実装は振り向いた。 さっきまでベンチにいたニンゲンだった。一度見かけただけだったけど、ドレイ石みたいにハゲていたので、すぐにわかった。 「……テッ!?」 硬直したのは一瞬だけ。お花畑的な幸せ回路が、すぐに最適な行動を仔実装にとらせた。 「……テッチュゥゥゥン♪」 小首をかしげ、右手を口元に当てた渾身の「おあいそ」だ。 ニンゲンさん待ってましテチ♪ きょうからお世話になる飼い実装チャテチ♪ 必ず迎えに来てくれると信じてましテチ♪ でもちょっと遅かっテチ♪ ここはタカイタカイでコワイコワイだっテチ♪ だけどもうダイジョウブテチ♪ これでニンゲンさんのおウチに帰れるテチ♪ 「すげー、ここまでドヤ顔で媚びる野良仔蟲なんて久しぶりに見た!」 ニンゲンはゲラゲラ笑った。酒臭かった。 実際、このニンゲンは友人たちと夜通し酒を飲み、始発電車で地元に戻ったところだった。 しかし自宅に帰る途中で目まいを感じて、公園のベンチで休んでいたのである。 「というか野良蟲はいつも媚びて来るけど、マトモに相手するコトもなかったもんな、もう結構長いこと」 ニンゲンは手を打ち、背を丸めて大笑いする。 「……テ? テ?」 仔実装は少しばかり困惑したけど、ニンゲンが笑ってくれているのは自分との出会いを歓んでくれているのだと理解した。 幸せ回路がそう告げていた。 だから繰り返し「おあいそ」してみせた。 「……テッチュゥゥゥン♪ テッチュゥゥゥン♪」 「おんもしれー、やっぱ実装蟲はおもしれーわ、令和になってもラブテッチュン♪」 ニンゲンは自分の胸の前で両手を組み合わせてハートマークを象った。 仔実装も両手を上げて、ぴょんぴょこ飛び跳ね、はしゃいでみせた。 高くて怖いゴミの山の上であることは幸せ回路が忘却させていた。 「……テチュワワワ♪ テチュワワワ♪ テチュワチュテテテテヂュワァァァッ……♪」 「……っつーか、調子乗んな糞蟲!」 ニンゲンが仔実装の額を指で弾いた。デコピンだった。 「……ヂュワァァァァァッ……!?」 弾き飛ばされた仔実装は、ゴミの山から転げ落ちかけた。 コンビニ弁当の空き容器に背中が当たって辛うじて止まったけど、容器は地面に落下した。 するとちょうど載っかっていた小さく畳まれたスポーツ新聞が傾き、仔実装は今度は滑り落ちそうになった。 「……テヂュワッ!? ヂュワッ!? ヂュワッ!?」 イヤイヤテチ! ゴシュジンサマ助けテチ! コワイコワイコワイコワイテチッ!! チにたくないテチィィィッ……!! ポフポフと新聞紙の表面を叩きながら、仔実装はずるずると滑って行く。 するとニンゲンが新聞紙をつかみ、仔実装ごと持ち上げた。 「……テ? テ?」 仔実装とニンゲンの目線の高さが合った。 にんまりと笑っているニンゲンに、仔実装も満面の笑みで応じた。 「……テッチュゥゥゥン♪」 「キモすぎ! ダメだこいつらアップに耐えねえ、だからペット実装石ブームなんて速攻終わってんだ!」 ニンゲンはゲラゲラと笑って新聞紙をひっくり返し、仔実装を再びゴミの山へと落とした。 「……ヂュワァァァァァッ!?」 紙ゴミが中心のゴミの山は落下の衝撃を和らげてくれたけど、仔実装にはニンゲンに弄ばれる精神的なショックが大きかった。 どうチテチ? なんでテチ? ワタチは可愛い飼い実装テチ! こんなコワイコワイ遊びはイヤイヤテチ! ぷりぷりと漏らした糞で膨らんだパンツが実装服の裾から覗いた。 洗濯下手の仔実装のパンツは黄ばんでいたけど、そこに緑の染みが見る間に広がった。 ニンゲンは大笑いして、また手を打った。 「パンコン! パンコンです! 生パンコンの瞬間も久しぶり! いや見たくなかったけどキメェしクセェし!」 「……テヂャァァァッ!! テヂャァァァッ!! テェェェンッ!! テェェェェェンッ……!!」 仔実装はイヤイヤと激しく首を振って泣き喚いた。 こんな扱いはあり得なかった。可愛い自分は可愛い飼い実装として可愛がられるはずだった。 なのにどうしてこんなヒドい目に遭うのか理解できない。 痛いことをされて怖いこともされて生命の危険まで味わわされている。 このニンゲンはきっとゴシュジンサマではなくハゲドレイニンゲンだろうと思った。ハダカではないけどハゲのドレイだった。 だから可愛い実装石にヒドいことができるのだ。 ハゲハダカのドレイ石は、公園で暮らす野良たちのオモチャだった。 石ころを投げつけたり蹴り飛ばしたり、ウンチをしたところに投げ転がして、みんなでイジメて愉しんでいた。 でも、この仔実装の親はドレイ石と関わろうとしなかった。 「ドレイにスキを見せればハンコウされるデス、自分も髪や服を毟られてハゲハダカにされるデス、珍しくもない話デス」 親実装は仔どもたちにも、そう言い聞かせていた。 だから、このハゲドレイニンゲンも実装石に反抗しているのだ。 そうであったとしても、どうすればいい? 成体のドレイ石よりも遥かに大きいニンゲンのドレイに仔実装が一匹で太刀打ちできるわけもない。 「……テェェェンッ!! テェェェンッ……!!」 仔実装には声を限りに泣き叫ぶことしかできなかった。 誰か助けテチッ! ママ助けテチッ! ドレイのハンコウテチッ! みんなでやっつけテチッ! イヤイヤテチ! こんなのゼッタイオカシイテチ! ワタチは可愛い飼い実装テチ! 飼い実装として可愛がられるんテチ! 「いやあ久しぶりにイイモン見せてもらいましたわあ! オレの中の実装石ブーム再燃? 主にギャクタイ方面だけど!」 転げんばかりに大笑いしていたニンゲンが、突然咳き込んだ。 ゲホッ、ゲホッと身を折り曲げて、激しく咳をした。 「……うぇー、キモチワリィ……」 ニンゲンがゴミ箱に手をついた。 そしてゴミの山の上の仔実装に覆いかぶさるような格好で、 「……ぉぇぇぇぇぇ……!」 吐いた。 どばどばと酒臭い粘液が、仔実装に頭から降りかかった。 「……テヂャッ!? ヂョァッ!? デヂョォォォ……!?」 仔実装は両手で頭をかばおうとしたけど、バランスの悪い頭でっかちゆえに頭頂まで手は届かない。 いや、頭に手をやったところで臭くて汚いドロドロは避けられない。 それでもヨチヨチテチテチと、ゴミの山の上をあっちへこっちへ右往左往した。 イヤイヤテチ! クサイクサイはイヤイヤテチ! せっかく水浴びもお洗濯もしたのにバッチィバッチィテチ! 可愛い飼い実装チャとしてゴシュジンサマに迎えに来てもらうはずがダイナシテチィ……! ずるりと、仔実装が足を滑らせた。ゴミの山をほとんど覆った反吐のせいだった。 「……テヂャァァァァァッ……!!」 身を引き裂かれたかのような悲鳴を上げて、反吐まみれの仔実装はゴミの山から転落した。 「……ヂュベッ……!!」 そして地面に叩きつけられ、反吐と変わらぬ汚らしい肉片と化した。 「……ヂィィィ……」 いや、生きていた。 頭部を除いた左半身は手足を含めて爆ぜ飛んだけど、原型を留めている右手を震わせ、ニンゲンに差し伸ばす。 幸せ回路が、目の前にいるニンゲンがゴシュジンサマなのだと告げている。 生命の危機に瀕した現実から目を背けることしか、仔実装への救いは残されていなかった。 「……テ……テ……♪」 ゴシュジンサマずっと待ってテチ……♪ やっとおウチに帰れるテチ……♪ もうコワイコワイもイタイイタイもナシにしテチ……♪ ワタチはカワイイカワイイ飼い実装テチ……♪ ダイジダイジに可愛がっテチ……♪ 「……テッチュー……ン……♪」 右手を口元に当て、得意満面の笑みを見せる。 その笑顔を凍りつかせて、仔実装は動かなくなった。パキンと何かが壊れる小さな音がした。 「……うーっ、もう朝まで飲んで始発で帰るなんて、二度としねーぞ……」 ニンゲンは足元をふらつかせながらゴミ箱から離れた。 「……野良蟲にデコピンしちまった、汚え汚え、どこかで手を洗わなきゃ、口もゆすぎてーし最悪だ……」 自らの愚かさを呪いながらニンゲンは公園を出て行った。 実装石をギャクタイした過去は若気の至りであり、いまの野良仔実装との接触は酔いに任せた過ちだった。 反吐をして、いくらか頭がすっきりすると、いまさら再び実装石をイジろうとは思えなかった。 公園に静けさが戻った。 ---------------------------------------------------------------------------- 【終わり】
1 Re: Name:匿名石 2019/09/17-00:37:46 No:00006098[申告] |
>……ワタチや蛆チャが可愛いから妬んでるのテチ!
これ、最近のガキやDQNにも共通の思考だよなあ 自分が他人から迷惑がられて文句言われてるのに それを都合よく脳内で捻じ曲げて解釈する そういう愚か者の末路は実装石でも人間でも同じやで |
2 Re: Name:匿名石 2019/09/17-08:09:28 No:00006100[申告] |
愚か者の末路
実装石→南半島人 |
3 Re: Name:匿名石 2019/09/17-12:40:05 No:00006101[申告] |
ここまでされてもまだ飼いになれると思うなんてポジティブにも程があるだろ
俺だったら頭の一部を弾き飛ばすの前提なデコピン食らわすわ すぐ死なせたくねえし 面白かったけど三女の最期が妄想とはいえ幸せそうな死に様なのがムカつく |
4 Re: Name:匿名石 2019/09/17-19:57:00 No:00006102[申告] |
基本的に不干渉?互いに避けてる感のある実装と人間
一方で死ぬまで愚かに干渉を求め続けた三女 温度差が何か悲しかった このジャンルが消えてしまうのではという謎の不安を抱いた |
5 Re: Name:匿名石 2019/09/17-20:39:42 No:00006104[申告] |
クラシックな糞野良蟲ですね
因果応報としか言いようのないラストが良いです 人間が実装にほぼ無関心なのも印象的です |
6 Re: Name:匿名石 2019/09/22-22:34:01 No:00006107[申告] |
>>4
そもそも15年前の作品、実装された運用が出てさらに糞蟲設定ができてからでも14年 それなのにまだ消えてないんだから 何だかんだでもう5年くらいは続いてくれますよ |
7 Re: Name:匿名石 2019/09/22-23:12:03 No:00006108[申告] |
ヤダヤダ、拙者が死んでも続いて欲しいでござる! |
8 Re: Name:匿名石 2021/03/03-23:50:01 No:00006317[申告] |
>いまさら再び実装石をイジろうとは思えなかった。
え? 虐待魂が再燃して一暴れする展開じゃないんですか? |