タイトル:【観察】 蛆チャンカワイイ
ファイル:蛆雪崩.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:1990 レス数:3
初投稿日時:2019/07/06-01:35:34修正日時:2019/07/06-01:36:10
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蛆雪崩


 レッフレッフ

 蛆実装が道路を這っていた。
 赤と緑のまだらの軌跡を描いて這う。
 身体をアスファルトで削りながら這っているのだ。

 レビュ

 そのうちに生きているのに最低限必要な臓器さえすり潰して死んだ。
 
「悲しいことデス、蛆ちゃんはひとりでは進むことすらできないデス」

 実装石はそれを眺めてつぶやいた。

「ウジチャンはすぐに悲しいことになるテチ」

 肩を落とす仔実装。

「そうデス、蛆ちゃんはとっても脆いデス
 だから、宝ものみたいに大事に扱うのデス」

 親実装は愛娘の頭をなでながら、やさしく教える。
 仔実装は母をみあげて、コクコクと頷く。

「よくわかったテチ、次のウジチャンはだいじにするテチ」

 そうして親子は蛆実装の残骸を抱えてダンボールハウスへの帰路についた。
 今夜は久しぶりのお肉だ。

 クルルと思わずお腹の虫を鳴かせた仔実装は、恥ずかしそうにうつむいた。
 親実装はそんな仔をみて、しようがない仔デス、とやさしく微笑む。



 その夜、仔実装は夢をみた。
 死んだ蛆実装の夢だった。

『オネチャ、オネチャ』

 蛆ちゃんは夢の中で呼び掛ける。

『ウジチャン、おそいテチ、おいてっちゃうテチ』

 仔実装は夢の中で蛆実装と追いかけっこをしている。

『オネチャ、おいてっちゃイヤレフ』

 蛆実装は懸命に這う、だけども仔実装との距離は縮まることはない。

 仔実装は不思議に思う。
 夢の中の蛆実装はいくら這っても身体が削れることもなく、どこまでも仔実装を追いかけてくるのだ。
 駆けてみても、立ち止まってみても、歩いてみても、蛆実装は近づくことも遠ざかることもない。

 仔実装は口に手をあて、頭をかしげる。
 そしていっそ、自分から蛆実装に近づこうと一歩を踏み出そうとした。

『ダメデス』

 仔実装は頭巾を掴まれ、立ち止まる。
 振り返り、見上げると、親実装の姿があった。

『よく見るデス』

 親実装は指のない手で、蛆実装を指さす。
 仔実装は親の指し示す方へ目をこらす。

『レフレフ、まってほしいレフ、ママ、オネチャ、ウジチャをおいてかないでほしいレフ』

 それはどう見ても、蛆実装以外の何者でもなかった。

『ウジチャンテチ、ママ、あれはウジチャンテチ』

 親実装はうなづく。

『そうデス、蛆ちゃんデス
 でも、蛆ちゃんは悲しいことになったデス
 オマエも知っているはずデス、もうどこにもいないのデス』

『でも、ウジチャンテチ』

『あれは呼んでいるのデス
 ワタシたちを蛆ちゃんがいる場所へ呼んでいるのデス
 そうしたら、もう戻れないのデス』

『テェ? それはどこテチ?』

 親実装はそんな仔実装の言葉には答えず、ただ黙ってその頭を撫でる。
 テチュン、と思わず仔実装は声をあげる。
 やさしくて温かな親実装の手のひらの感触の余韻にひたりながら、ふと目をひらく。
 そこにはただ生ぬるい闇がひろがっていた。
 そんな闇の奥から声が響いた。

『おいついたレフ』




 パチリと目を覚ます。
 チチチ、と鳥の声が聞こえる。
 ダンボールハウスの隙間から朝日が射している。

「おねぼうさんデス」

 親実装はダンボールハウスから顔を出した仔実装を見て、そう言った。
 タタタと仔実装は母に走り寄って、ぽふりとそのやわらかなお腹に顔を埋める。

「どうしたのデス?
 いつまでもあまえんぼさんでは立派なお姉ちゃんにはなれないデスよ?」

「もうおねえちゃんじゃないテチ
 ウジチャンはいないテチ」

 仔実装は親実装にだきついたまま、イヤイヤと首をふる。

「そんなことはないデス、ほら、よく聞くデス」

 親実装は仔実装の頭を抱え、その耳を自らの腹に押し当てる。

 ———レピュレピュ

 親実装の胎内から、かすかな鳴き声が聞こえる。
 驚きに目をまんまるに見ひらく仔実装。

「蛆ちゃんはとってももろいデス
 でも、またすぐに産まれるてくるのデス
 オマエはまた、お姉ちゃんになれるのデス」

 慈しむように自らのお腹を撫でる親実装。

「はやく産まれてくるのデス
 ワタシの大事な大事な、この仔のために
 この仔が寂しくないように
 この仔が飢えることがないように
 この仔が立派に大人になるように」

 デッデロゲー、デッデロゲー

 親実装の歌声が、公園の片隅で響いた。




 レッレフー♪

 この世に産まれ落ちた喜びに、蛆実装は鳴く。

 仰向けの親実装の股の間で、蛆実装を受け止めたのは仔実装だった。
 緑がかった羊水を滴らせる蛆実装を、ペロペロと舐めて拭ってやる。
 蛆実装はくすぐったそうにレフレフーと鳴き声をあげて身をくねらせる。

「ウジチャン、またあえたテチ」

 キュっと蛆実装を抱きしめる仔実装。

「レフ?」

 蛆実装は腕の中で不思議そうな顔をしている。
 
「ワタシがウジチャンのオネエチャンテチ」

「レフレフ、オネチャレフ」

「そこにいるのがママテチ」

「レフレフ、ママレフ」

 仔実装がやさしく蛆実装を床に降ろすと、ダンボールハウスの床をレフレフと這いまわる。
 親実装は立ちあがってパンツを引き上げ、仔実装と並んで産まれたばかりの蛆実装を眺める。

 蛆実装は不意に這うのをやめて、親と仔へ向けて顔をあげる。

「ママ、オネチャ、やっとおいついたレフ」

 ダンボールハウスの隅には緑色の山があった。
 それは蛆実装のおくるみが積み重なった山だった。
 山が蠢き、なだれがおきる。
 なだれは親子をのみこみ、蛆実装は緑色の波に乗ってレフフンとごきげん。

 公園の茂みの奥にある薄汚れたダンボールがはじけて、無数の蛆実装があふれだした
 それは津波のように公園をさらい、実装石をのみこんでいく。
 その後に残ったのはひしゃげた蛆実装の死骸ばかりだった。
 小さな突起を生やした中身のないおくるみが赤緑のまだらの体液の上に無数に漂う。
 そこには四肢をそろえた実装石の姿は、ただの一匹もいなかった。









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1 Re: Name:匿名石 2019/07/06-02:40:15 No:00006051[申告]
静かな恐怖
何か背中に感じるものがあった
2 Re: Name:匿名石 2019/07/06-17:04:34 No:00006057[申告]
とりわけ一番死に近い蛆だからこその恐怖だな
3 Re: Name:匿名石 2020/02/25-01:35:51 No:00006217[申告]
まさか蛆実装に恐怖する日が来ようとは
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