新・実装小噺Ⅱ その2 実装処分場の日常 実装を購入する人もあれば、それを捨てる人もある。 俺は、この処分場に勤める職員だ。 此処、二羽町実装処分センターは、実装の受け入れと処分費用を飼い主から徴収している。 1回の受け入れに付5匹以下は、5千円、5匹以上10匹未満は1万円、10匹以上は、1匹に付千円を支払えば、受け入れする。 この有料システムは、日本にある全ての施設で導入されている。 市民の血税を全て使って実装を処分するなんてとんでもない。 勝手な時に購入して、自分の思い通りにならないと他人の金を宛にして捨てに来る。 実装を飼わない家からは、我々の税金をそんな事に使うなとクレームが入った。 当然、愛護派ではない市議会議員からも問責決議案が出さる。一方愛護派市長は、のらりくらりと曖昧な態度を繰り返していた。 業を煮やした市議会議員から不信任案を出され、賛成多数で可決され市長は、更迭されてしまった。 新しい市長は、処分する費用を飼い主にも負担して貰うと言う事で落ち着いた。 「それでは、黙って捨てる奴が出て来る」と言う意見もあったが......。 ショップから買った実装は、全てDNA登録がされ、産まれた子実装を捨ててもDNA鑑定をすれば誰が買ったのか直ぐに解るという。 捨て実装は、公害を齎すと言う事で投棄した飼い主には、罰金刑が科せられる事になっている。 捨てて、前科が付く位なら、金を払ってでも処分所へ持って行こうとなる。 仔実装を引き取るには、一応理由も聞いて置くようにとの決まりがある。 『面倒くせぇ〜!』 ある男が、15匹もの実装の一家を持ち込んで来た。 何でも、昨年躾済の仔実装を購入したが「実装は絶対に作ってはいけない!」と言う約束を破り15匹も出産したと言う訳だ。 「テッチャー!どうしてテチ!ワタチ達お利口にしていたテチ!捨てられる意味が解らないテチィ〜!」 「喧しい!誰も頼んでいねぇのに、勝手に産まれて来やがってぇ〜!この糞共めぇ〜!てめえらは、捨てる為に此処に連れてきたんじゃねぇ〜! 此処で殺して貰う為に連れて来たんだ!1万5千円も出させやがってぇ〜!きっちり焼き殺されたら良いんだぁ〜!」 「ママに、ママに会いたいテチィ〜!」 「死ぬのは、死ぬのは嫌テチ〜!助けてぇ〜!ゴシュジンサマァ〜!」 「俺はてめえらの御主人になった覚えはない!それから約束を破ったてめえらの親には、反省と子供を殺された悲しみ、寂しさ、苦しみをじっくり味あわせてから、此処に連れて来てやるよ!」そう言って帰って行った。 「ニ......ニンゲンさん!ワタチ達これからどうなるテッチ!」 「まさか!こんな可愛いワタチを殺したりしないテチよねぇ〜!」 不安そうな目をして俺の顔を見つめる15匹の仔実装達。 「心配するな!大丈夫だよ!」 俺は、にっこりして仔実装達に微笑みかけた。 「良かったテチ!殺されないテチ!」 「と言う事は、里親を探してくれるテチね!」 仔実装達に≪パアッ≫と笑顔が戻った。 「でも、ワタチ達15匹一緒でないと駄目テチね!」 「そうテチ!1匹でも欠けたら、寂しいテッチ!」 「ニンゲンさん、ワタチ達全員引き取ってくれる様な、里親を探してくれるテチね!」 俺は、此奴等のおめでたい考えが可笑しくてつい笑顔になってしまった。 此奴等は、俺が可笑しくて笑っているのに、「安心しろ、殺さないぞ、皆一緒でも良いと言う里親を探してやる」とそう言う意味の笑顔と勝手に解釈したのだろう。 「良かったテチ!良いニンゲンさんで、誰も欠ける事無く又、全員で暮らせるテッチ」 仔実装達は、安堵の顔をして15匹が手を繋いでジャンプして喜んだ。 「此奴等本当のバカだ!いい加減にしろよ。まあいい今は黙っていよう。2〜3日したら本当の事が解るし、お前らを失意のどん底に叩き落としてやるからよ」そう呟いた。 書類を整理して事務局に戻ると、上司から「さっき持って来られた15匹の仔実装なぁ〜!ドリームボックスに余裕があるから14匹だけ始末しよう。 「15匹全員一緒に受け入れてくれる里親を探して」と寝言を言って居た奴以外全て殺してよ。面白いだろ、残された1匹がどんな反応を示すのか、見たいし」そう言われた。 「じゃあ〜!早速取り掛かります。そいつは、体が一番小さい奴です。奴だけ残して他を始末します」 『少し大人気ないなぁ〜』と思いながらも、ゲージの中で≪ニコニコ≫している奴等を見たら......。 やっぱり『此奴等始末したい!』と急に思った。 「おい!お前ら早速里親が見つかったぞ、良かったなぁ〜」とそう嘘をつくと......。 「テッチャーァ!早速飼い主が見つかったテチィ〜!これからもみんな一緒に生活出来るテチィ〜!」やっぱり一番小さい奴が、最初に声を挙げて喜んでいる。 「ちょっと待て。今回の飼い主だがなぁ〜、14匹なら引き取ると言っているんだ。だから1匹だけ此処に残らないといけなくなるんだ」 「テチャ!やっぱり全員一緒で無いと寂しいテチ!」と又、一番小さい奴がそう言った。 「だが、里親は、14匹なら引き取ると言っている。なら全員引き取ると言う奴が出て来る迄待つのか?でも、何時までも此処に置いて置く訳には、行かないぞ。 お前達の餌代は、市民の税金で賄われている。その内上司から殺処分する様に命令が出る。そうしたら全員処分されるぞ。これだけ多くの仔実装を受け入れてくれる里親なんて初めてだ。このチャンスが最後だと思うぞ」 「で......でも」 「ワタチは、14匹でも引き取ってくれるのなら、それでも構わないテチ!」一番体が大きい奴が手を挙げてそう言った。 更に続けて「オイ!15女!ワタチは、生きたいテチ、家族離れ離れになっても、死にたくないテチ!15匹全員で出たくないのなら、お前1匹が此処に残るテチ! お前の勝手でワタチ達14匹が危険に曝されるテチ!」そう捲くし立てた。 「わ......解ったテチ、じゃあ〜14匹で出るテチ、一体誰が残るテチ」 「何を言っているテチ!残るのはお前テチ!家族を危険に曝す様な妹は要らないテチ!」 「そうテチ!お前が残るテチ!」 「残れ!」 「残ればいいテチ!」 「ね......姉チャ......何て事言うテチ!ワタチも生きたいテチ!死にたくないテチ!」 「五月蠅いテチ!お前が残れ!」 14匹の姉妹からそう言って一斉攻撃を受けてしまった。 「ニ......ニンゲンさん早くワタチ達を出してテチ!」 「お姉チャ!酷いテチ!酷いテチ!ワタチは、お姉チャと一緒に居たかっただけだったのに!」 「じゃあ、里親候補は決まったな!」 俺は、そう言って一番小さい仔実装を取り出して別のゲージに移した。 「テチャ!どうしてワタチを出すテチ!ワタチを助けてくれるテチ!」と一番小さい仔実装が、一瞬喜んだ。 ゲージの中から、「どうしてそいつを助けるテチ!」と罵声が飛んだ。 「家族思いのワタチだから助かったテチ!死ぬのは、自分だけ助かれば良いと言ったお前達テチ!」 『やっぱり糞蟲は、糞蟲だなぁ〜、此奴も家族全員で出たいと、言いながら結局自分が可愛いじゃねぇ〜か』 俺は、ゲージに移した1匹をその場に置いて14匹の仔実装の入ったゲージを持ち上げた。 「テッチ!どうして.....どうしてワタチだけを置いて行くテチ?ワタチの心を弄んだテッチ!喜んで損したテチ!」そう言って涙を流して泣き出した。 「お前だけ殺されたら良いテチ!この偽善石!」と姉達から集中砲火を浴びた。 『所詮仔実装なんてこんな物だな。どいつもこいつも結局自分の事が一番大事って訳か。実に下らん』 ゲージ毎持ち出された14匹の仔実装達は、早く新しい里親になる人に会いたくてそわそわ落ち着きがない。 俺は、ドリームボックスのあるエリアに入って来た。目の前の搬入口にある台車に14匹の入っているゲージを置いた。 「テチ!ニンゲンさん!此処は、此処は何処テチ!里親さんは何処テチ!此処は、何をする所テチ!ま......まさか!」 「そう、そのまさかだ。自分が助かりたいばっかりに姉の癖に一番下の妹に罵声を浴びせるとは......。お前ら粕だな。死ね!」 そう言って、台車のスイッチを押すとゆっくりと、ドリームボックスの中に向かって、台車が動き出した。 ドリームボックスの中からは「死にたくないデスゥ〜!」「助けてテチィ〜!」と叫び声が聞こえて来る。 14匹は、一斉に俺の方を向いてゲージの檻の隙間から手を出して「死にたくないテチィ〜!」と大声を挙げて助けを求めた。 『早く死にやがれ、害虫共』そう思っていると、ゲージがボックスの中に入って上からドアーが下りて来て実装共を閉じ込めた。 モニターで見てみるとゲージの中の14匹は押し合いへし合いで大騒ぎになっていた。 『そりゃ殺されるもんなぁ〜!恐ろしいだろう、怖いだろう、ほんの5分前までは、里親に出されると喜んでいたからなぁ〜!』 そんな事を思っていたら、ガス注入のスイッチが押された。ボックスの中は阿鼻叫喚状態だ。 暫くして静かになった。換気のスイッチを押して、次に点火のスイッチを押すと、ボックスの中は炎に包まれた。 中にはガスでは死にきれず、仮死状態になった奴はもがき苦しんでいる。 10分ほど、高温の炎で燃やせば、実装の骨も燃えて跡形も無くなってしまった。 ............................................................................................................................................................................. 姉共に見捨てられた、末っ子の仔実装は、いずれは殺されるとゲージの隅で≪ブルブル≫震えていた。 「ど......どうして、どうしてワタチがこんな目に遭うテチ!死ぬのは嫌テチ!死にたくないテチ!誰か助けてテチ!」 そう言いながら壁側の方に蹲って≪ブツブツ≫言っていた。 俺は、奴のゲージの前に立った。 「おい!仔実装、お前の姉は全員逝ったぞ!」 「さ......里親に貰われたテチね!ワタチもあんな罵声を浴びる位なら、姉妹全員で出たいなんか言わずに黙って居たら良かったテチ!」 「里親なんかに貰われる訳がねぇ〜だろう!躾もろくに出来ていねぇ〜仔実装なんか誰が貰いに来る。お前もそうだ、自分が助かったと思った途端、本性がでやがった」 「お姉チャ達は、全員殺されたテチね!」 「そう言う事だ、お前の処分は、明日に決まっている。明日の朝一にボックスで死ぬ。それまで産まれて来た事を後悔して、約束を破ってお前達を産んだ母親を恨むと良い」 そう言うと、仔実装は涙を≪ポロポロ≫流して泣き出した。 「とうとう生きているのは、ワタチだけになってしまったテチ!でも死にたくないテチ!お願いテチ、殺さないテチ!」 仔実装は、手を合わして地べたにへたり込んで、祈る様に俺に助命を頼んで来た。 『此処は、市が管理する施設だぜ、個人経営のシェルターでは無い。無理な相談だ』そう思いながらその場を離れた。 「ニンゲンさ~ん!見捨てないテチ!ワタチを見捨てないテチィ~!死ぬのは嫌テチィ~!」 「何回頼まれても決まった事は、推敲される。見苦しいぞ!」そう言って部屋から出ようと扉を開けたら......。 「ニンゲンさ~ん!ワタチだけにしないでテチ!寂しいテチ!辛いテチ!」 そう言って俺を呼び止めようとしたが、無視して部屋を出た。 その日の夕方になり、閉館30分前に15匹の仔実装を捨てた男が、ボコボコに殴られ、ボロボロになった成体実装を連れて来た。 「気がすむ迄殴ったから、せいせいしたぜ!此処に捨てる理由は、ガキ共を持って来た時に話だよな。じゃあ頼むよ」 そう言って5千円と成体実装を置いていった。 ぐったりした実装は、全く動く気配が無い。俺は、此奴のガキが居る檻に持って行った。 泣き疲れたのか、仔実装は、目の前に親が置かれた事すら解らないのか、寝息を立てている。 「まあ、これはこれでいいや、所詮糞虫だ。無理やり起こして涙の対面をさせる必要もねえしなぁ」 次の日の朝、仔実装のいるゲージの方から「テッチャ〜!ママッ!ママッ!」と叫び声が聞こえてきた。 急いで仔実装の居る部屋に向かうと......。 仔実装の大声が届いたのか≪ブルブル≫体を震わせて、上体だけ起こしていた。 親は、声を絞り出す様に「おチビちゃん......ゴメンデス......折角産まれて来たのに美味しい物も食べさせてやれ無かったデス。 何も楽しい事を教えてやれなかったデス。こんな悲しい気持ちにさせて.....ゴメンデス、許してデス」 と涙を流しながら一言一言噛みしめる様に言うと≪パキン!≫「デ......」儀石を割って生き絶えた。 「ママッ!ママッ!死なないでテチ!ママが死んだら、ワタチは、ワタチは誰を頼れば良いテチ!」必死になって呼びかけたが.....。 死んだ者が、返事をする訳が無い。 「おい、仔実装!後1時間もしたら、殺処分の時間だ。お前の親と一緒に燃やしてやるよ」 そう言うと、「ワタチはやっぱり死にたく無いテチ!ママの分まで生きるテチ!いや生きないといけないテチ!ママの為にも!」 この後に及んで未だ助けて貰えると思っていやがるのか、親を出しにしてまで助かろうとしてしていやがる。 何だかんだ言い訳して、結局死ぬのが嫌なだけじゃねぇ〜か。 こんなふざけた仔実装に感傷的になった俺がバカだったぜ。 処分の時間が来たら、「死ぬのは嫌テチ!助けてテチ」と大声を上げて走りまわる仔実装のゲージを持って、ドリームボックスに向かった。 FIN
1 Re: Name:匿名石 2019/06/12-19:52:58 No:00006011[申告] |
糞蟲全滅ENDはやはり気分がいい |
2 Re: Name:匿名石 2019/06/13-07:39:11 No:00006013[申告] |
糞蟲に相応しい死に方ですね。
次作も、期待してます! |
3 Re: Name:匿名石 2019/06/13-08:12:38 No:00006014[申告] |
糞虫処分に2万円・・・
俺だったら全蟲半殺しにしてから捨てに行くわ この飼い主さん優しいな |
4 Re: Name:匿名石 2019/06/14-14:36:14 No:00006017[申告] |
2万円は高いわw |
5 Re: Name:匿名石 2019/06/20-23:09:31 No:00006034[申告] |
大分県の水をかければ分子結合が破壊され
光の粒子となって消える |
6 Re: Name:匿名石 2020/03/01-02:43:56 No:00006225[申告] |
糞蟲らしさがとても良い! |