山を下りた仔実装 (山実装を飼う改訂) 俺の名前はあきとし、虐待派だ! だが、子供の頃は、中立派!いやどちらかと言えば無関心派に近かった様な気もする。 今からする話は、今から遡る事15年前、俺が未だ小学生の頃に起こった事だ。 話の内容は憶測もあるがそこは目を瞑って欲しい 季節は秋、俺は爺の畑仕事を手伝いに駆り出された。 内心『ちぇ!今日はよしあきと遊ぶ約束していたのによ!』 そんな事を思いながらキョロキョロしていると、畑の端で何かがもそもそ動いていた。 見に行くと山仔実装(=以降:山仔)が、鹿避けの罠に引っ掛かってもがいていた。 「爺ちゃん!実装が捕まっているぜ!」 「おお!これは山仔じゃないか!それに秋子だ!太っているから脂もしっかり付いているぞ!こりゃ美味そうだ!」 爺は、器用に山仔の手足を縛り、乗って来た軽トラのフックに逆さ吊にした。 山仔は「テチィ〜!テッチャァ〜!」と情けない鳴き声を上げていた。 俺達は、無視して畑仕事を終わらせ、山仔を吊るしたまま軽トラに乗ってそのまま自宅に帰った。 自宅に着くと、山仔は、口から泡を吹いて気を失っていた。 バケツに冷たい水を一杯入れてぶっかけてやると……。「テッチャァァ〜!」と叫び声を挙げて目を覚ました。 ................................................................................................................................................................................ 爺が、奥の部屋から当時開発されたばかりの携帯リンガルを持って来た。 当時のリンガルは、結構高価で、どこの家庭にでもあるという物では無かった。 リンガルの無い家は、ある家にわざわざ借りに行くしかなかった。 殆どの家が、何万円もするリンガルを買ったり、他人に気を使って借りに行く位なら、実装と話などする必要も無いと言って、必要に急かされた場合以外は、問答無用で始末していた。 俺の家はどうかと言うと、爺の畑で収穫した野菜や果物は、農協(JA)が全て買い取ってくれていたし、親父は市役所の水道局の局長をしていた。 母親は、市内の私立高校の音楽教師だったし、婆は、琴の先生で生徒も沢山いる。 近所でも数少ない裕福な家庭だった。 その為、最新型のリンガルも容易く買う事が出来たのだ。 .................................................................................................................................................................................... 「これは、リンガルと言って実装石と話が出来る機械だ!」と電源を入れると……。 「二…….ニンゲン助けてテチ!死にたくないテチ!」 「馬鹿か!お前は!殺されて今晩の俺達の飯になるんだ!実装汁にでもしてやる!」 「そ……そんなぁ〜!ニンゲンの街を観たくて、山の掟も破り命がけで下りて来たのにぃ〜!」 『掟を破って命を懸けてまで観る程の価値があるのかぁ〜!人間の街ってよ!しかし、街を観た後どうするつもりだったのだろう? 後先の事を考え無いというか、何も考えていないという所が、糞蟲と呼ばれる所以だろうな!』 俺は、そう思ったが、しかし子供ながらに自分を、山仔に置き換えて考えてみた。 『何にでも興味を持つ事は、良い事だし、逆に俺がこの山仔の立場でも同じ様な事をするかもな!』 そう思ったので……。 「爺ちゃん!此奴を生かしておいて山実装がどんな生活をしているか聞けば、情報収集にもなるぜ!」 「う〜ん!此処は我慢のしどころか!じゃあ〜!生かして置いてやる!世話はあきとし、お前がしろ!」 「うぇっ!面戸臭せぇ〜!」 次の日から、俺は山仔の世話を始めた。 「お前は、今日から俺をゴシュジンサマと呼べ!」 「お前を飼うからには名前をつけないとなぁ〜!ええ〜っと!糞蟲が呼びやすいから糞蟲と呼ぼう!」 「糞蟲は、嫌テチ!もっと普通の名前を付けて欲しいテチ!」 「名前なんか何でも良いじゃねぇ〜かぁ〜!じゃあ!ありきたりだが、ミドリかぁ〜!」 「ありきたりの名前テチが、まあ!それで我慢するテチ!」 「やかましい!」 ................................................................................................................................................................................ ミドリのリクエストに答えてニンゲンの街も見せたし、山実装専用の餌も買ったし……。 「じゃあ!お前が山でどんな生活をしていたか、聞かせて貰おうじゃねぇ〜か!」 ミドリの話では、山実装はコロニーと言う居住区域があり、各コロニー毎に長が存在していると言う。 ミドリの住んでいたエリアのコロニーは、4つに分かれていて、自分は、その中で一番小さいコロニーだったという。 家族は、親、自分は長女で妹が3匹いると家族構成と言う事だった。 更にどのコロニーにも独自の掟があり、それを破れば、死刑、追放、監禁、断食等の懲罰があると言うのだ。 特に、山下りは、場合によっては、追放以上の刑は覚悟しないといけないらしい。 「お前、そんな厳しい掟破ってよく平気でいられるなぁ〜!」 「もう掟を破った限りは、コロニーに戻れないテチ!仲間もわざわざ危険を犯して迄、山を下って来ないテチ!ワタチは、暫定追放処分になった身と言う事テチ!」 「お前は本当に呑気だな!世の中それ程、甘くは無いと思うぜ!」 そんな事を言いながらも1ヶ月が経った。 ミドリも此処を追い出されたら生きる事が、出来無い事位解っている様だ。 自分に見合う仕事を見つけて一生懸命家の手伝いも始めた。 此奴を喰うと言っていた爺も婆ちゃんも、何だかんだ言いながらも可愛がっている。 俺もいつの間にかミドリを家族の様に思って来た、そんな矢先の事だった。 学校から帰ったら何時も出迎えてくれるミドリが出て来ない。 『何かあったか!』 家に入ると俺の机の下に潜り込んでガタガタ震えていた。 「どうしたんだ!寒いのか?実装でも風邪をひくのか?」そう問いかけると……。 「ち……。違うテチ!仲間が…….仲間が、山から下りて来たテチ!ワタチを連れ戻しに来たテチ! わざわざ来たと言うのは、コロニーの仲間への見せしめの為に殺されるテチィ〜!」と言って泣き出した。 [そういや、帰り道で数匹の山実装を見たなあ〜!ちょっと待っていろ!」 そう言って俺は、偶々家に居た爺に相談した。 「それは、ミドリを連れ戻しに来たんだ!」 その日の夕方、5匹の成体山実装が、俺の家の庭の前で屯していた。 怯えたミドリの態度を見れば、それが仲間であると直ぐにわかった。 俺はリンガルを持って庭に居る実装に話かけた。 「おい!てめえら!何、人様の庭に勝手に入り込んで屯してやがるんだ!とっとと出て行きやがれ!それとも、喰われたいのか?」 するとリーダーらしき実装が前に出て来て……。 「ニンゲンさん、そんなにエキサイトしなくていいデス!ワタシ達が此処に来ている理由は、既にお解りと思うデスが!」 「ミドリの事か!」 「此処では、あの仔は、ミドリと呼ばれているデスか!それなら話が早い、あの仔を返して下さいデス!」 「彼奴の話では、山下りは、追放以上の懲罰になると聞いている。本人も追放された様なもんだと思って此処にいる。わざわざ連れ戻さなくてもいいんじゃねぇ〜のか? それとも追放以上の罰を与えて殺さなければならない理由でもあるのか?」 「そんな事は、無いデスが……。今日の所は、一旦引き揚げるデス!明日の今頃、長老を連れて来るので、改めてそこで話し合いをさせて欲しいデス!」そう言って実装は、帰って行った。 爺が俺の肩を≪ポン!≫と叩いて、「明日は、向こうの長老が話し合いに来る、此処からは大人の話合いになる。わしが、話をする!」 .................................................................................................................................................................................. 次の日の夕方、長老を連れた数匹の実装が家にやって来た。 「来たか!わしが話を付けて来る。お前は、窓際で話の一部始終を聞いていろ!」 怯えるミドリに爺は優しい顔でそう言って表に出て行った。 俺も窓の傍で様子を見ていた。 長老は、爺の前に立って一礼をした。 「ニンゲンさん、遅くに押しかけて来て申し訳ありませんデス!この度は、私どもの仔が大変お世話になりまして、有難うございますデス!」 「礼を言われる様な事は何もしていない!」 「そうデスか!それでは早速本題に入らせていただくデス!あの仔を返して下さいデス!」 「返す、返さないは、俺達の意志ではない、此方で預かっている仔実装の考え方一つだ!仔実装は、帰らないと言っている。それでもう話は付いていると思うがな!」 「デスが!本来あの仔の住む場所は、此処では無いデス!更に親、姉妹も居るデス!小さな仔は、親元で生活するのが一番デス!ニンゲンさんにもその事は、お分かりと思うデスが!」 「それは、理解している。だが、しかし山を下りれば、追放以上の罪に問われると仔実装は言って怯えている。 つまり、此処へお前達が来たと言う事は、仔実装を殺す為に来たとしか考えられん!お前達が黙ってこのまま帰るのが、一番と思うが!」 「あの仔は、山の掟と言うものの捉え方が間違っているデス!」 「どういう風に間違っているというのか!」 「誰でも間違いはあるデス!間違いを犯しても掟だからと直ちに殺す事は、無いデス!ワタシ達の言う掟破りとは、同じ過ちを何度繰り返し行い他石に迷惑を掛ける者や 仲間を平気で裏切る者、そして一番大事な事は、コロニーの内情をコロニー外で喋る事、コロニーの外の方が楽しいと吹聴する事、これらが、断罪に値するデス! 仮にあの仔が、コロニーの内情をニンゲンさん、貴方達に喋ったとしても、それは、此方には解らない事デス!デスからそれには、あえて触れないデス!これは約束するデス! 先程、言った通り自分の行動を反省して、悔い改めると言う者にあえて罰を与える事は、絶対ありえないデス!それは、神に誓って守るデス!」 そして長老が、後ろを見て1匹の成体実装を呼んだ。 「これは、あの仔の母親デス!1度親子の話の機会を与えて下さいデス!こうやって山を下ると言うのは、我々にとっても命懸けの行為デス!此処へ来るのもこれが最後デス! 親子で話し合いをした上であの仔が残ると言うならその時は、黙って帰るデス!」そう言って深々とお辞儀をした。 「そうか!ならミドリに聞いてみる!だが行かないと言えば、それは彼奴の意志だ!黙って帰れよ!」 「解ったデス!」 「おい!ミドリ見ての通りだ!母親と話をしてみるか!嫌なら俺が断って来てやってもいいぞ!」 「一度ママと話をしてみるテチ!」 ミドリは、母親の前に出て行った。 「長女!突然いなくなったから心配したデス!」母親が心配そうに話しかけた。 「ニンゲンの街が見たくなっていても経っても居られなくなったテチ!」 「大丈夫デス!皆は怒っているのでは無いデス!心配しているだけデス!一緒にお山に帰るデス! 妹も貴女の帰りを首を長くして待って居るデス!」 「テッ!妹ちゃん達がテチ!」 「ママと一緒に帰るデス!」 「わ……。解ったテチ!」 ミドリは、俺と爺の前に来て、「ニンゲンさん!やっぱりお山に帰るテチ!ワタチの妹ちゃんが待っているテチ!」 「そうか!お前が決めた事だ!思う様にしたら良い!ただ2度と同じ間違いは犯すなよ!」 「ミドリ元気でな!」 「解ったテチ!今まで有難うテチ!」 ミドリは、そう言って仲間や親と一緒に山に帰って行った。 ................................................................................................................................................................................... 以降、話は長老目線へと切り替わる。 ニンゲンから仔実装を取り返したワタシ達は、帰路を急いだ。 「妹に会える!」と、この仔は、足取りも軽やかだ。 『今回の事を教訓にしてこの仔には、立派な山実装になって欲しいデス!』ワタシはそう期待した。 しかし、その期待は、数10秒後に裏切られた。 「あと少しでおうちテチ!ママ!妹ちゃんにニンゲンさんの所であった楽しいお話聞かせてあげるテチ!」 『ワタシは、愕然とした。この仔は、少しも懲りていない!と言うか、自分の起こした事の重大さを全く認識していないデス!今度は、もっと大きな間違いを犯すデス!』 ワタシは、左手を上に上げて母親を含む周囲の護衛の実装に合図を送った。 母親は、下を向いて急に立ち止まった。 「ママ……。どうして止まるテチ!早く妹ちゃんに楽しいお話……。ママ……。どうして黙っているテチ」 母親は、怒りに打ちひしがれて震えている。 最後通告は、長老であるワタシの仕事だ。 「オイ!お前は、今回の騒動を一体どの様に考えているデス!皆に散々迷惑を掛けて未だ解っていない様デスネ!」 「テッ!ちょ……。長老!」 「コロニーの外が楽しいなどと吹聴したら、お前と同じ様に山を下りる輩が出てくるデス!」 「ご…..ゴメンなさいテチ!」 「もう謝って済む問題では無いデス!」 「ママァ〜!助けてぇ〜!」 「お前の母親もワタシと同じ考えデス!矯正が出来ないバカを生かして置くとコロニーの崩壊に繋がるデス!お前に与えられた選択肢は、もう無いデス!死ね!」 ワタシがそう言うと護衛の実装が、一斉に仔実装に襲い掛かった。 「テッチャァァァァァ〜!」 ........................................................................................................................ 次の日の朝、コロニーの中央の広場に全身を殴られて、惨たらしい殺され方をした掟破りの仔実装の死体がコロニーの住人の見せしめの為に置かれた。 身内が掟を破ったりすると、普通の神経では、気がおかしくなってしまうので、その家族の殆どが自発的にコロニーを出て行く事になる。 程なくしてこの家族も、長老の許可を取ってコロニーを出て行った。 それは、生きていく事が難しい死への旅立ちでもある。 FIN
1 Re: Name:匿名石 2018/02/15-20:27:31 No:00005162[申告] |
反省したら即言動に反映すべし
遅れる者に慈悲はない どこが変わったかわからなかったのは秘密だ |