ほとんどの実装種に何がしか不思議な力があるのは周知の事実である
新種の実装種である実泡石にもそういった不思議な力は備わっている
それは周りの生き物の感情をぼんやりと感じるといったものらしい
その能力そのものはほとんどなんら役に立たない能力だが
その能力は実泡石の習性と重なると時々面白いものが見れるそうだ



にぎやかな声がする、その多くは子供の声だ
散歩がてらふらりと立ち寄った神社では縁日の祭りが行われていた

きゃはは、まってー

おっと…足元を子供が走り抜けた、はしゃぎすぎて転ぶなよー
ふわり、パチン
視界の端をシャボン玉が掠めたと思ったらはじけた
なぜか甘い匂いがほんのりと漂う

一体どこから飛んできたんだ？
どこかで子供が縁日の品物で遊んでいるのだろうか



ふわり、パチン
今度は果物のような匂いがした、シャボン玉は上から降ってきた
頭上を見上げる

ふわり、パチン
鼻先でシャボン玉がはじける、今度は花のような匂いがした
頭上ではシャボン玉が雪のように舞っていた

よく見るとシャボン玉は空に浮かんでいくものと、落ちてくるものとの二種類があるようだ
シャボン玉の出所はすぐにわかった、シャボン玉の中にちらほらと薄い緑色、実泡石…だな
結構な数の実泡石が空に居る、視界に入るだけで４０は居るか？



プップクー♪プップクー♪
器用なものだ、中に浮かびながら次々とシャボン玉を吐き出している
よくよく観察していると実泡石自身にも相応の浮力があるようだ

プップクー、プー♪
えらく鳴き声が近いと思ったら、綿菓子屋の屋台の屋根の上に一匹乗って居た

プップクー、プー♪
そいつはそのまま屋根からぴょんと飛び降りて
すーっと、ゆっくり地面に降り立った

プーっ、プクー？
どうやら休憩がてら降りてきたようだった、辺りを良く見回すと何匹かちらほら地面に居る
子供からお菓子の類をもらっているやつもいた



しばらく眺めていると、そのお菓子もらっていた実泡石が子供におじぎをした後、頭のシャボンをふくらましてふわりと浮かんだ
ふわふわとそのまま空へと浮かんで、頭上の泡の舞の中へと帰っていった
どうやら代わる代わる交代で空のシャボンの舞を作っているらしい
御代は縁日のおこぼれってところか？
にしても、空間一杯のシャボン玉というのは結構見物だ

さてと、とりあえず帰りますかね？
珍しいものも見れたし、今日は良い日か？
家に帰ろうと神社から出た、神社から出で何メートルかしたところで視界の端を薄い緑色が掠めた

…一匹付いて来ちゃってました？
「…付いて来てもなにもやれんぞ？」
プクー？
…首を傾げられても困る



プクー、プクッ
突いて来ていた実泡石が神社の方に振り返る
プップクー♪プップクー♪
ふわりふわりと空へ浮かんで行きながら神社の方へ帰って行った

一体なんだったんだ？

家に帰り付き、なんとなくテレビを付けた
ニュースが放送されていた

テレビを付けたまま大学に提出するレポートを書いていると実泡石という言葉が耳に入った
見てみると見出しは「シャボン玉の雨」と出ていた




移っている映像はどこかの遊園地だった、なぜかシャボン玉が空から大量に降っている
カメラがそのまま遊園地の上空を写した後、何かをズームアップした
映し出されたのは無数に浮かぶ、実泡石だった

ニュースの内容は「なぜか子供の多い祭りや遊覧施設の上にあつまる実泡石」という内容だった
この現象の発生要因はまだ詳しく解明されておらず
風の少ない日に起こり易いというくらいしかまだはっきりとわかっていないらしい
その後ニュースは実装類研究家にコメントを求めグダグダとしたコメントの後、番組は次の記事の紹介に移った
そのニュースに出てきた研究家いわく、実泡石に何か特殊な器官があり
その器官が何かを感じ取り、実泡石が集まってくるのでは？といったあいまいなものだった

…何かを感じ取るねぇ？菓子の匂いにでも釣られてるんじゃねーのか？あれ
そんな事を思いながらレポートの続きを書き、その日は終わった



実泡石にもいくつか少しだけ不思議な力がある、それは周りの感情を感じると言ったような普段はあまり役に立たない力である

実泡石の習性は、至極単純だが楽しいと思うほどに泡を吐き出す量が増える
そしてまだあまり知られていないが、実泡石は「他者の楽しいと感じる感情」に引き寄せられるという習性がある
そして無風という条件が重なった時にあのシャボン玉の雨が発生する

そして、実泡石のシャボン玉の雨には「楽しい」という感情を少しだけ強くするような力があった
そんなシャボン玉の効果のせいか、実泡石は祭りの賑やかしとしての役割を得て行ったそうな

そして今日も実泡石達は楽しそうな場所を探して空をふらふらさまよっている
プップクー♪プップクー♪プップークプー♪