夜石

タッチの差で逃した終電が走り去るのを見送った後、2km程の距離にあるネカフェ目指して川沿いの歩道をブラブラ歩く。
途中、植え込みからガサガサと音がし、頭巾の上からほっかむりを被りゴザを両手に抱えた実装石が這い出てきた。

何だこの恰好？と思い見下ろすうちに、行く手を塞ぐように立ったそいつが何やらデスデスと喚きだしたのでスマホに入れた
リンガルアプリで翻訳してみる。

「ワタシヲカウデス」「キレイナタオルカハンカチデイイデス」
適当に入れた無料アプリなのでカタカナオンリーだ。

随分直球で飼い希望を表明するもんだな。でも後半のタオルとかハンカチはどういう意味だ？話の繋がりが分からんぞ？
と少し思案するうちに続けざまに喚く実装石。

「モシカシテハジメテデスゥ？」「ワタシニミトレテルデスカ…ショウガナイニンゲンサンデス」「キンチョウシナクテモイイデス」
「リラックスシテワタシニマカセルデス」「ゴクジョウノテクデテンゴクイキデス」

…なんとなく分かってきたぞ。"飼う"ではなく"買う"、つまりこいつは俺に買春を持ち掛けてるんだな。
立ちんぼ、いや恰好から言うと夜鷹…夜石と呼ぶべきか。

理解した俺は夜石が次の妄言を吐く前に無言でゴザを奪い取り、手早く簀巻きにして川へ蹴りこんだ。
ありえんだろうが馬鹿か死ねよ。死んだ。

後で聞いた話だが、あの近辺には同じように春を売って餌や生活資材を要求する夜石が多いらしい。
しかもそれを買う奴がそれなりにいて、テリトリー内の何%かは人間とのハーフの可能性があるが、実装石は何と交配しても
実装石しか生まないから分からないとか。

もうこの街は駄目なんじゃないだろうか。