タイトル:【哀鍋】 夢にまで見た異世界転生なのに実装石とかマジですか!?第二話
ファイル:夢見た異世界転生なのに実装石とかマジですか?2.txt
作者:謎の覆面の男 総投稿数:4 総ダウンロード数:971 レス数:11
初投稿日時:2017/10/12-06:56:30修正日時:2017/10/12-07:07:59
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『 夢にまで見た異世界転生なのに実装石とかマジですか!? 』


前回までのあらすじぃ〜


実装石のいる世界に異世界転生させられた主人公。
初回は高高度からの墜落死で、あっけなく終わってしまう。

心機一転、二度目の実生に挑んだ主人公だが、なんとテッテレーしたのは虐待派の家だった!!
なのに、虐待されるどころか自分の姉妹もろとも虐待派男を実験と称して虐殺してしまう主人公!!
これじゃあ、どっちがヴィランか分からないぞ、主人公!!!

そんなこんなで順風満帆だと思っていた2度目の実生は、経緯すら省略されるほど突然の交通事故によって幕引きとなった!
主人公の存在は世界に何の影響も与えていないと知ら占めるために巻き込まれてしまったドライバーの皆さんが哀れすぎる!
はっきり言って、前回の一番の被害者は巻き込まれたドライバーの皆さんだぞッ!!


というわけで主人公に与えられた能力は2つ!

“ 生まれる度に偽石が偶然どこかに紛失してしまう ”という不運なのか幸運なのか分からない運命力と、
“ 体内エネルギーを消費して任意の部位を瞬間再生&生体パーツ取り込みが可能なほど極限まで高められた再生能力 ”だ!


この物語は、

実装石のいる世界の醜悪なノーパン女神テラと
糞蟲に転生させられた割とえげつない主人公の

100年に渡って互いの心を折り合うハートフルボッコストーリーだッ!!
はてさて、これから先、果たして100年分のネタは持つのだろうかッ!?


…


そして素敵なダブル女神様と落下中の主人公の扉絵を描いてもらって
感涙しながら有頂天になっている作者が変に調子に乗らないか心配だ!








〜 第二話: 鍋と共に去りぬ 〜




ふと気づくと、俺は狭く暗い肉壁の中で揺蕩っていた。
肉壁の外から、実装石の胎教の歌がかすかに聞こえる。


「デッデロゲー♪(かわいい娘たち、お腹はもちもちプルプル、おててとあんよはプリップリッがキュートデスー♪)
 デッデッボェー♪(ニンゲンサンにおいしくかわいがってもらうために、おっきくまるまると育つデスゥー♪)」


毎度おなじみ親実装の胎内で意識を取り戻した俺は、
今後の身の振り方をどうしたものか思案をしていた。






マジか…
いや…ホントにマジかぁ…





周囲を見渡すが、俺と同じ違和感を覚えている姉妹はいない。
満面の笑みを浮かべ、幸せな生後を思い描いているのだろう。


未だに胎教の歌は途切れる事なく流れ続ける。
ワンフレーズ歌い終わると、リピートされる。


…そう、これは親の胎教の声じゃない、録音された歌を垂れ流しているだけだ。
この胎教の歌の意味を考えると、おそらく食用実装の加工所か何かなのだろう。


転落からの虐待派ときて、次は食用か。手加減ねぇな。
初っ端から飛ばしすぎじゃないの、あのノーパン女神。


まあ、だからといって、嘆いたところで事態は何も変わらない。
このまま誕生しても、生産ラインに乗せられて加工品となる運命か…。

自死した所で、あの女神の事だ。ここに何度でも転生させるだろうし。
…なら自分から定石を崩しに行くのが筋ってもんでしょう。



「テッテレー!(成長する前に生まれてやるぜ、この野郎!)」



俺は、胎内で誕生の産声を上げて、口腔内の粘膜を吐き出す。
ここからはスピード勝負だ、急がないと親の胃液で吸収されちまう。


まずは、目の前にいる姉妹達の喉元に順番に噛みついて喉笛を食い破った。



「レヒョッ!?(うぐっ!?)」
「レヒ…(イタイイタイいやレチ…もう耐えられないレチ…)」
「レチチチチッ(ママ、ドレイニンゲンがワタチにイタイイタイしたレチ、そんなクズは殺しちゃえレチ!)」

パキンッ!パキンッ!パキンッ!



俺も姉妹も、まだ未熟な親指実装の体格だ。衝撃に脆く、ストレスに弱い。
小さな悲鳴をあげて、あっさりパキンした同胞達を顎周辺だけ残して平らげる。

よしよし、これで1.5回分、全身瞬間再生のエネルギーを確保できたな。


体内に栄養が行き渡ったのを感じると、
俺は近場にある肉壁から滲み出ていた消化液に、自分の体を押し付けた。


ジュゥゥゥゥッ!


皮膚の溶ける嫌な感触と共に、俺の全身を覆っていた粘膜が、
実装服から露出していた顔面や手足の皮膚、そして後ろ髪ごと消化された。
前回の発見の一つなのだが、実装石の消化酵素では、実装服を溶かすことができない。



そりゃそうだ。消化器官と子宮が同じなんだから、
粘膜だけじゃ保護しきれんだろうし、生まれた時から服を着てるってのも当然だな。

まあ、服というか、脱着可能な体毛なんだけどね、コレ。



粘膜を除去した俺は、さっそく体内のエネルギーを消費して溶けた皮膚を再生した。
後ろ髪は…、別に邪魔だから、このままでいいか。



「レッチュー…(イテテテ…、さて、さっそく顎の増設といきますか。)」



俺は、両手の先端を食い破ると、食い残していた2個の顎を移植する。
顎は特に抵抗なく、すんなりと両手の先端に移植された。



…待てよ、前回がはっちゃけ過ぎたからな。
もしかしたら、糞女神が何か妨害工作してきているかもしれない。



俺は万一を考えて、両手の把握運動のように増設した顎の咀嚼運動を確認するが、
増設した顎は、滑らかに開閉できており、特に動作上の問題は見られない。



よしよし、さすがに糞蟲な女神様でも、
うちの女神さまが調整した能力には介入できないようだ。



俺は安全確認を終えると、取っておいた残りの顎を腹部へ増設する。
腹部に増設した顎は、腹筋の要領で筋肉を伸縮させると開閉できるのだ。

前回の実験で色々と生体パーツを各部に取り込んで考察したからな。
…まあ、せっかくの実験結果を全部お披露目する前に交通事故に巻き込まれて磨り潰されてしまったが。



「レチー…(よぉーし、稼働確認、問題なーし、さあ、次は腹からの脱出か、どうするかなー…)」



俺は、消化液をよけながら、腹の中で脱出経路を一考する。

総排泄口からの脱出はまずい。
食用実装だとすれば、恐らく排泄口から出た途端、塩素水で満たされたバケツとかに落下するはずだ。

粘膜処理する前に消毒したいだろうし、そもそも食品衛生上の問題を考えたら当然そうする。

じゃあ、エイリアンみたいに腹を食い破って…ってのも考えたが、
それじゃ、すぐ誰かに見つかって奇形として処理されるだろうな。

ベストなのは、加工作業員に見つからず、出来る限りの自分の痕跡を残さずに、この場から逃走すること。
それを達成するには、この出産石の周辺状況を観測しないことには始まらん。


…というわけで、俺は口腔内を目指す。

実装石の口は基本開きっぱなしだから、
喉頭蓋付近で、自分の身を隠しながら周囲の様子を窺うには丁度良い。
そこで、まずは情報収集と脱出の機会を探る事にしよう。



俺は、靴を脱ぐと両手に手袋のように嵌め、襟元にある前掛けを咥えて顔を保護し、
ロッククライミングのように、両手と腹の顎を使って胃壁の頂上を目指して登り始めた。




ガブッ!
ズリズリズリッ!

ガブッ!ズリズリッ!




手袋と前掛けのおかげで胃壁と皮膚の接地面を防御できるのは助かるね。
腹の顎を使って服越しに胃壁に噛みつけば、体を固定して休憩もできるし。

つくづく再生能力極振りを希望して良かったわ。
まったく、うちの女神さま(笑)には感謝するぜ。



なんて事を考えていたら、あっという間に親の喉頭蓋に登り詰めていた。



俺は喉奥の影に身を隠しつつ、開きっぱなしの口の内側から外の様子を覗いた。
どうやら時刻はまだ夕方のようで、加工作業員が複数名ベルトコンベアの横を右往左往している。

流れとしては、予想通り出産石から生れ落ちて塩素水バケツに浸かっている仔実装を拾い上げて、
スポンジで粘膜を削ぎ落し、腹を捌いて偽石を取り出すと、霧吹きで本体と偽石を塩素水で消毒。
流水洗浄後、焼き鏝を糞袋に突き刺して念入りに焼却滅菌してから口の中にタレを注入している。
後は、ベルトコンベアに瀕死の本体と偽石を並べ置くと、奥に運ばれて真空パックされるようだ。



…。
これさー…。
いや、別に実装石だからいいんだけどさー…。
同族視点で見るとさ、ソイレントシステムだよなー…。




「ほーたーるのーひーかーりー♪」



なんて事を考えながら、作業員たちの流れ作業をぼーっと見ていると、
延々とスピーカーから流れていた胎教の歌が止み、終業の合図らしき音楽が鳴り響いた。


「うへー疲れたー…。
 やっと仕事終わりったー…。あ、工場長、お疲れ様です!
 工場長、あの胎教の歌ってやつ、どうにかならないんすか?
 いい加減、耳に張り付いて気分悪くなってくるっす…。」

「ん? 新人のバイト君か、お疲れ様。
 あー、そういやバイト君には、まだ教えてなかったか。あれがうちの実装石のうまさの秘密なんだぞ?
 あの胎教があるから、うちの実装石は自然に歯ざわりの良い、旨味を閉じ込めた肉質に育ってくれるんだ。
 開業前の出産石の下準備の段階になぁー、そりゃー何度も何度も価値観の刷り込みを繰り返して、
 あの胎教を出産石が自発的に唄ってくれるように仕込んだよ。
 今となっちゃ効率重視で出産石の意識をカットして録音テープを流しているだけだが、
 最初は試行錯誤の連続だったんだよなぁ、あれを出産石全員が唄い出した時には、
 俺ぁーもう年甲斐もなく泣いちまったもんだよ。
 ま、ここのバイトを続けてたら慣れてくるさ、どうしてもキツイなら耳栓やipodを使ってもいいぞ。
 従業員の中には、そういう奴も何人かいるしな。
 ただ、事故だけは起こさないように気をつけてな。どんな事でも、命あっての物種だからな。」


工場長と呼ばれた壮年の男が、疲労困憊といった表情の若者の肩を叩きながら、昔を懐かしむように語る。



「うっす、ありがとうございます!
 でも自分、金ないんで、慣れるまで我慢するっす!」


若者は、工場長に頭を下げながら返事をする。
そんな若者の仕草を関心した表情を浮かべて工場長は微笑んだ。


「若いのに君は行儀がいいねぇ。まだ学生さんだったっけ?
 もし就職に困ったら、うちにおいでよ、優遇するよー。」


「嬉しいっす!ありがとうございますっ!
 でも、自分、夢があるっす! それに向かって頑張りたいっす!」



若者は希望に燃える眼差しで、握りこぶしを作りながら空を見上げる。
くさい、非常に青臭いくさいぞ! 青春の匂いがするぞ!バイト君!



そんなやり取りを遠目に見ながら、俺は工場内の電気が消されるのを息をひそめて待っていた。

ふふふ、まるでメタ〇ギア〇リッドだぜ。残念ながらダンディさの欠片もない実装石じゃ画面映えはしないけどな。
それにリアル従業員の皆様に、ゲノム兵ばりのマヌケ行動は期待できないだろうから慎重に行動しなきゃならんが。




パチン…




そうこうしているうちに、工場長が最後の点検を終えると照明の灯りを落とした。
スピーカーから流れる蛍の光は鳴り終わり、また、あの胎教の歌が流れ始める…。

俺は、喉頭から這い出すと、親の舌を命綱代わりに外の様子を見渡した。

どうやら出産石は壁際にずらりと並んで吊るされており、
その下は手洗い場くらいの幅の塩素プールが設置されている構造のようだ。

終業後に出産石から産み落とされたらしい仔らが数石、塩素プールに浮かんでいた。
どうも粘膜に包まれた仔には浮力が働くようで、浮輪代わりとなり溺死を回避しているようだ。

だが、粘膜もそのままに放置されている事がストレスになのか血涙を流して仮死状態となっている。
故意か事故か、俺のように粘膜が剥がれて生まれた仔も何石かいるようだが、そいつらはプールの底に沈んでいた…。



うーん、どうやってここから脱出しようか。 粘膜は取っちゃったからなぁ…。
塩素プールの幅は、そんなにないし、助走つけてジャンプすれば、なんとか地面に届くか?
いや、仔実装ならまだしも、親指の脚力じゃ無理か。

親の舌をロープ代わりに振り子の要領で遠心力つけるか?


…悩んでても仕方ない、どうせやる事は変わらんか。
さっそく今回のトライ&エラー開始としますかねっ。


俺は親の舌の先端に、両手の顎でしっかりと噛みついて一気に口腔外へ飛び出した。


グェッ!
ビロ〜ンッ!


親の舌は、股下くらいまで伸びきった処で止まる。イイ感じに伸びてくれたな。
後は体を揺すって振り子のように反動をつけて前に飛び出せば、なんとかなるかもしれん。




ブラーンブラーン…

ヒュッ!

ベチャッ!



「レビョッ!!(げふっ!!)」



舌を揺らして何とか反動をつけてフライアウェイした俺は、何とか塩素プールを飛び越え溺死を回避できた。
だが勢いがつきすぎて、着地態勢を取る事もままならず、地面との熱いベーゼを交わす事となってしまった。

幸い主要器官の損傷は無いようだが、四肢と前胸部の損壊が著しい。
全身を瞬間再生させれば一番手っ取り早いのだが、栄養の確保が難しい現状では、なるべく節約したい所だ。

俺はまず、四肢の損傷を再生させると、仰向けに寝転がり、優先的に修復の必要な個所がどこか触診で調べる。
その瞬間…。




パチッ

チカッチカッ




突然、照明が灯り、若者と工場長が工場内に入ってきた。



「バイト君、すまないなぁ。残っているのが君しかいなかったから…。
 ちゃんと残業代出すからな。」


「ありがとうございます!
 けど、なんでしたっけ離床センサーって奴が反応したって言ってましたっけ?
 こういう事、よくあるんすか?」


「あー、たまにな。勘の鋭い奴が極稀に生まれるんだ。
 そういう奴は、だいたいプールを飛び越えて逃げ出そうとする。
 逃げ出して死ぬだけなら別にいいんだけど、外から変な物を工場内に持ち帰ってくる可能性もあるんだわ。
 この業界は、割とそういう個体の管理を怠ったせいで廃業になっちまった…なんて話がいくらでもあるんだ。」



離床センサー!?

俺は恐る恐ると、自分が横たわる地面を見渡す。
そこには、動体反応を感知するタイル状のセンサー器具が塩素プールの周辺一面に取り付けられていた…。



うわぁ…。

マジかよ…。
マジかよぉ…。

これが実装石の不運の真骨頂ってか…。



俺は己の不運に軽い眩暈を起こしつつ、前胸部の損傷を修復せず、まずは成り行きに身を任せる事とした。



「工場長ー! ここに、なんか小さいのが落ちてるっす。
 未熟児っすかね?」


若者が、床に横たわる俺をいち早く見つけて拾い上げる。


「ん、見つけたか、ありがとう。
 ああ、それは親指実装っていってな、仔実装の前段階みたいなもんさ。
 落下の衝撃で胸が破損してるな、丁度いい、バイト君、それ貸して。」


工場長は、若者から俺を手渡されると、俺の実装服を毟り取り、
徐に近場の流し台に移動して、俺の流水洗浄を始めた。


ジョババババッ!
グリュッ!ブヂッ!


工場長は、俺の前胸部の損傷個所に気付くと、丁寧に洗浄する。
慣れた手つきで、胸の奥に埋まっていた偽石を爪先で器用に抉り取り、
水切りしてから、俺と偽石をビニール袋に詰め込んで若者に手渡した。


「ほれ、試食だ。親指だから食いではないだろうけど、味は仔とそう変わらん。
 残業代とは別だから、ちょっと食べてみな。あ、糞袋は焼き潰してないから
 食べ物を喰わせると、傷も回復するわ大量の糞もひり出すわで大変だから気をつけてな。
 あ、これがうちのもう一つの自慢の秘伝のタレな。ほれ。」


「え、いいんすか?ありがとうございます!
 頂きます!自炊してるんで助かりますッ!
 どうやって食べるのがうまいすか?」


「調理方法かー、やっぱり照り焼きが一番うまいぞー。
 一緒に入れた偽石は、包丁の背で強く叩いたら砕けるから、
 オーブンで焼く直前に砕いて本体に振りかけると良い。
 偽石は、加熱すると飴みたいに溶けるから食感の良いアクセントになるし、照りつけも綺麗になる。」



そんな会話をビニール袋越しに聞きながら、
俺は頭を抱えて、今後についてを思案していた。

今回、女神様は、どうやら鍋スクをお望みのようだ。
その予想の裏をかくならば、どういう立ち回りをするべきか…。



……



結局、具体的な案を出せないまま、
若者の自宅に到着してしまった。

袋から取り出された俺は、まな板の上に置かれる。

…まあ、良い。
たぶん女神様の予想の範囲内になるだろうが、
喰われるくらいなら、喰ってやろう。



俺を見つめて何やら思案している若者を、
俺も直立不動で見つめ返してやった。

照り焼きと言っていたか。

調理中、死ぬ寸前に脳と心臓だけ再生を繰り返せば生き延びれるか?
後は、喰われた瞬間に歯と咬筋を再生して中から食い尽くしてやる。

若者を見つめながら、そんな事を思っていたのだが、
何故か、若者は溜息をつくと、俺をまな板から降ろして居間に運び出す。

居間の真ん中にポツンと寂しく置かれているちゃぶ台に俺を置くと、
若者はポケットから飴玉を取り出して包装を破り、俺に手渡してきた。



「レ?(へ?)」



俺は、つい声をあげてしまう。
これも女神様のシナリオか?それとも偶然なのか?



「それ食べていいっすよ、食べたら傷が治るんすよね?
 あー…食べないすよ、いや、だって俺、実は肉が嫌いなんすよ。
 お前が魚だったらなぁ…。ていうか、お前どうしようっすかね?
 捨てると工場に戻りそうで怖いしなぁ…。仕方ない飼うしかないっすか…。
 あ、でも俺は貧乏学生だから、残飯しか餌はないっすよ?」


なんて事を言い出す。
あ、これ違うわ。女神様もびっくりのただの偏食野郎に当たっただけだわ。


「お、このタレ、ホントにうまいっす、さすが工場長の自慢ってだけあるっす。
 ブリの照り焼きに使うっす〜♪」


若者はタレだけ使って、旨そうな夕食を作り始める。
俺は、若者が戻ってくるまで、飴を抱えたまま机の上に待機していた。

しばらくすると、若者が旨そうなブリの照り焼きと共にちゃぶ台へ戻ってきた。



「ん?飴食べないんすか?ブリはやらないすよ?」



若者は、飴を抱えて待機している俺を見ながら、
ブリの照り焼きを守るように皿を抱え込んだ。


「レチ(いや、そうじゃない、食事を提供してくれたんだ、家主を待つのは当然だろう。ありがとう。)」


俺は首を振り、飴を床において、土下座をする。
そんな俺の仕草を見て、若者は、感心したように頷くと、自分の食事を開始した。


…こいつ、喰い方汚いなぁ。食事の挨拶もしないし。
あ、そういや俺も、姉妹を頂く時に挨拶してなかったな。
いかんいかん、実装石になったからって命への感謝を忘れちゃダメだな。

仕方ない、自分への戒めも兼ねて、今回は徹底的に行儀良く過ごしてみるか。

俺は、若者の食事が終わるのを待つ。
若者が食事を終えたタイミングで、俺は「レチ(命を頂きます)」と手を合わせて黙祷してから飴を摂取した。
飴を食べ終えた後も、もちろん手を合わせて「レチ(命をごちそうさまでした)」と食材と若者への感謝を述べる。

そんな俺に若者は関心の目を向けた。


「お前、行儀いいっすねー。俺もマネした方がいいっすかね?」


といった感じに、俺と若者の奇妙な同居生活が始まった。

…あ、ちなみに偽石は燃えないゴミに出されたようで行方不明になった。




……





若者は、良くも悪くも単純で素直な奴だった。
俺が食事の挨拶を繰り返していると、つられてマネするようになるし、
俺の傷が一瞬で治るところを目撃しても、「実装石って、すげー」で済ませる。

苦学生のようで、給料日前には、もやしばかりで生活をしている姿をみると侘しさが込み上げてきた。
流石に一週間もやし料理ばかりに付き合わされると俺も辛い。

仕方ないので、俺が貧乏時代に培った節約料理を伝授する事にした。

アパートの裏山から、ヨモギやオオバコといった野草を採ってきて、
天ぷらの調理方法を身振り手振りで教えるが、若者には上手く伝わらない。

そこでスマホアプリのリンガルを起動するようにジェスチャーすると、
それには合点がいったのか、若者は素直にリンガルを起動してくれる。

食べられる野草の知識を伝授しつつ、取り敢えず天ぷらにしておけば割と食える事を伝えると、
若者は本当に良い笑顔で頷きながら、実装石の言う事なんかを素直に聞き入れてくれたんだ。

そうこうしているうちに、俺もだいぶ毒気を抜かれてしまったのかもしれない。
気付けば、俺と若者は互いにちゃぶ台を囲み、パートナーと呼んでも差支えのない関係となっていた。

そして、あっという間に月日は流れ、
俺の声は、レチがテチとなり、テスからデスへと声変わりした頃…。





……





…運命の日、季節外れの台風が若者の住む地域を直撃した。

激しい風と雨は、裏山の土砂崩れを引き起こし、激しい土石流となって若者のアパートを襲う。
建物自体は、なんとか倒壊を免れたが、何分、古い木造建築のアパートだ。

土石流の衝撃に耐えられるはずもなく、裏山に面する一部が倒壊し、屋根柱や壁の破片、鉄くずが室内に舞い散った。

俺も若者も、ちゃぶ台の下に隠れたことで、落下物の直撃は回避できたが、
不運な事に、若者の足が倒壊した家具の破片に挟まれてしまった。
不幸中の幸いか、下半身が家具に挟まれているだけで、命に関わる大きな怪我はなかった。

だが、身動きは取れず、助けを呼ぼうにも、そもそもアパートの入居者は若者だけだ。隣人の助けは期待できない。
レスキューを呼ぼうにも、スマホは混線と不通の状態が続き、繰り返すうちについにバッテリー切れとなった。
停電のせいで充電もできない。
最初は救助を期待した。だが救助は1日待っても2日待っても来なかった。古い家屋が壊れた、くらいに思われているのかもしれない。


そんな状態でも腹は減る。
喰わなければ飢えて死ぬ。


しかし、若者の一人暮らしでは、自宅の中に災害備蓄などあろうはずもなく、
自宅の中に生き埋めとなった若者は、もはや緩やかな死を覚悟しなければならなかった。


倒壊した家屋には、隙間ができている。
俺一人ならば、再生能力を生かせば、何とか脱出できるかもしれない。


だが…。
今の俺には、それができなかった。


糞蟲女神の介入を考えると、救援なんて期待はできなかったが、
それでも俺は割れて歪んだ窓にSOSの血文字を書き、千切れた布切れにヘルプと書いて、
割れた壁の隙間から外に向かって何枚も投げ捨てる。

そして、若者の体力を少しでも温存させるため、瓦礫の中から布団を引き摺りだし、若者にかけて体温保持を図る。
何とか無事だった カセットコンロや鍋を引っ張り出して、散らばった食材をかき集めて煮込んでは若者に喰わせる。

若者は、俺にも飯を喰うように促したが、俺は頑としてそれを受け付けず、若者の口に無理やり水煮を全部詰め込んでやった。
だが、それも長続きはしなかった。

もはや屋内に食材はなく、徐々に体力を奪われていた若者は、浅い呼吸と微睡を繰り返すだけとなっていた。



……。



流石に今回の状況はひどすぎる。 俺は糞蟲の女神様を本気で呪った。
どうせ今頃、空の上で、あのノーパンビッチは手を叩いて喜んでいる事だろうな。



…そんな時、ふと思い出した。



そもそも今回、女神様は、鍋スクをお望みだったのだ。
それがうまくいかず、きっと悲哀スクに方向転換したのだろう。

女神様の期待する結末は、なんだ?
若者と共に死ぬ? それとも前回みたいに俺が人間を殺して生き延びる?

なら、女神様の思い描いているストーリーの裏をかくならば、どういう立ち回りをするべきか?



そんなの決まってる。



“ 自ら鍋になって喰われてやる ” しかないじゃないか。




俺は、久々に自分の体を改造した。
腕を継ぎ足して伸ばしていき、伸びた腕を喉の奥へ押し込み、先端の顎を使って自分の糞袋を引き摺り出す。

暖を兼ねて、若者の傍で煮立たせていた鍋にゆっくりと浸かり、自分の体を熱湯消毒する。


全身が焼け爛れ、骨が軋み、眼球は今にも破裂しそうだ。気を抜けば、一瞬で意識が飛ぶだろう。
だが、それでも俺は、ここで倒れるわけにはいかない。


俺は

こいつに

喰われてやらねば、ならない。


十分に煮沸消毒された体を鍋から引き上げ、俺は若者が火傷しない程度に体を冷ますと、
瀕死の体で這いずりながらも若者の口の中へ侵入した。


届け、どうか届け。


俺の命を、どうか、こいつが生きるための糧にしてくれ……。



暗く、そして、どこか懐かしい肉壁に到達した俺は、
胃液の広がる床へ体をそっと横に倒し、静かに目を閉じると、朦朧としていた意識を手放した…。










暗転









数日後、若者が目を覚ますと、そこは病院のベットの上だった。

バイトの日になっても連絡のつかなかった若者を心配した工場長が、
わざわざ若者の自宅に様子見に来てくれたことで、若者はギリギリのところを発見・救出されたのだという。

だが、若者は自分の命を救ってくれたのが工場長だけではない事を知っていた。
朦朧とする意識の中、“何か”が自分の口の中に入っていくのを理解していた。

打つ手のなくなった、あの孤立した空間で、餓死を待つだけだった若者を、
あの風変りな実装石が、自分の命を投げうって、文字通り若者の血肉となって助けてくれたのだ。

若者は病院のベットの上で慟哭した。



新しく立て直されたアパートに、退院した若者が帰宅する。
倒壊した家屋はすっかり綺麗に修繕されていた。


栄養つけろ、退院祝いだ、と、バイト先の工場長が贈与用の実装石パックをたくさん手渡してくれた。


若者は、泣きそうになりながら、それでも工場長の善意を無碍にできず、それを受け取った。
いや工場長だけではない、これを受け取らないのは、あの風変りな実装石に対しても失礼だ。


そんな事を思い浮かべながら、若者は重い足を引きずって新居の台所に立つ。


台所で真空パックを開封すると、さっそく仔実装石が息を吹き返してテチテチ騒ぎ始めた。
もしかしたら…、と期待してリンガルを起動させるが、表示された言葉は罵詈雑言だけだ。


…ああ、やはり、あの実装石が特別だったのだな。


そう思うと、若者は仔実装を絞め落とし、
全身にタレを塗り付け、添え付けられていた偽石を包丁の背で荒く砕くと仔実装の上に振りかけて焼き始めた。

オーブンレンジの中では、タレを塗り付けた仔実装の皮膚が、バリッと音を立てて小さく裂ける。
砕かれて表面に撒かれた偽石は、オーブンの加熱により、溶けた飴のように広がって仔実装の体を照りつける。

なんとも香ばしい匂いと煙が静かな部屋の中に立ち込めてきた…。




……



数十分後には調理も終わり、
若者は、誰もいなくなった狭い部屋の中で、一人寂しい夕食を摂り始めた。


「……。
 ……んめぇ。
 ……うめぇっす。
 …うぅ…うっ…うおっ…ぐぅっ…。」


若者は、ボロボロと涙を零し、嗚咽をもらしながら、実装石の照り焼きを食べ続けた。

あの風変りな実装石のために用意した座布団には、もう誰も座らないのに。
それでも若者は、自分の対面に、1品多く作った実装石の照り焼きを置く。

照り焼きを咀嚼する度に、彼の頬を涙が伝う。
味は良い、工場長の言う通り旨い…。歯ごたえも旨味も好物の魚に負けていない。
タレだって旨い、多めにもらった自慢のタレをつけてこんがりと焼き上げたのだ。
外はパリパリ、中はホロホロ、偽石の食感も良いアクセントで本当うまいんだ…。

それなのに、どうしてだろうか。なんで、こんなに嚥下したくないのか。
若者は嗚咽と共に吐き出しそうになるのを堪えながら、それでも喰らう。



喰わなきゃならない。
喰って生きねばならない。



若者は、そう自分に言い聞かせながら、実装石の肉を噛みしめ、嗚咽と共に飲み込む。

食いかけの仔実装に振りかけられた偽石の上に、ぽろぽろと若者の涙が落ちて煌めいた。

…そう、これは、命の煌めき。

彼から、若者へと。

“次”へ 繋ぐために贈られた命の輝きなのだから。

だからこそ、笑顔で感謝をしなきゃならない。

最後の一口を食べ終えた若者は、泣きそうな顔を何とか笑顔で取り繕う。

そして、手を合わせて、目を瞑り、あいつの事を思い浮かべながら呟いた…。



「……命を……ごちそうさまでした………」











暗転












「……え?
 ……いや……え?
 ……えー…っと……これで…終わり? …え?…マジなの?
 いやーんっ!!ムッキーッ!!! こんなの鍋スクじゃない!!ただの悲哀系感動スクじゃないの〜ッ!!!
 なんで食用として誕生の流れから、この流れになるのよぉ〜!!!
 せめてお前が若者を食い殺して意地汚く生き延びろよぉ〜ッ!!!」



再び幽体となった俺の目の前で、
糞蟲のノーパン女神様が喚き散らしておいでだ。



「 俺から言えるのはただ一言。 女神ザマァm9(^Д^) 」



俺は女神を指差しながら、
最高に邪悪な笑顔を浮かべて揶揄う。



「やだもーっ!あんたが分かんないッ!
 あんた生き延びたいんじゃないのッ!?
 ヒャッハーを殺してでも生きてたじゃないのっ!!!
 人殺しに躊躇のない奴だと思ってたのにッ!!」



女神様は歯を食いしばり、
両手をブンブンと上下に振りながら悔しそうに呻く。



「うん、そうだよ?
 でも、俺もう死んでるし?
 何をしてでも生き伸びるっていう気にはならないかなぁ?
 その場のノリを一番に、あと糞蟲テラちゃんの悔しがる顔が見れる選択を重視したいな(*´ω`*)」



欲しいものが手に入らず駄々をこねる子どものように、
キーキーと叫ぶ、この性悪女神様は存外可愛い。

俺は、ほっこりとした気持ちで、生温かい侮蔑の笑顔を女神に向ける。



「腹立つ!なんか腹立つ!その笑顔ッ!!
 糞蟲はあんたじゃないのっ!もうっ!もうッ!!」


ダンッ!ダンッ!


女神様はノーパンなのも忘れて、何度も足元の雲を踏み鳴らす。

足を踏み鳴らす度に、袴の裾がめくれているのだが、
怒り心頭なのか気にする心の余裕はないようである。

折角なので、俺は涅槃スタイルで寝そべり、真正面からその様子を眺めた。
うむ、とても良いアングルだ。ばっちり見える。



「はっはっはっ!
 眼福、眼福!
 んっふっふっ、絶景ですなぁ!」


「って、また覗いてるッ!?
 スケベっ!変態っ!!
 女神に欲情するなッ!!もう!もう!私を馬鹿にしてぇっ!!
 あんたなんて、はやく転生しちゃえっ!!!」


糞蟲のノーパン女神様は、涙目になりながら俺を睨みつけると、
指先を俺に向けて、一気に下へと振り下ろす。



ブンッ!



その瞬間。
俺の体は、一切の慈悲もなく急激に墜落を始めた。
どうやら前回までは、ノーパン様なりに手心を加えてくれていたらしい。


ははは、神様の割に煽り耐性がないねぇ。
次は、どうやって揶揄おうか。
それとも、ちょっと優しくして、上げ落とししてやろうか(笑)


そんな不謹慎な事を考えながら、俺の意識は再び霧散していった…。







第三話へ続く 




{後書き}
皆さん!
ねぇ!ちょっと皆さん!前回スクのレスNo:00004958見て頂けました!?
見ましたよね!?見てますよね!?見てない!?じゃあ見てください!!

http://jissou.pgw.jp/bbs_up_back/index.cgi?res=15771

虐待さんに扉絵を描いてもらえました!超うれしいですッ!見た後すぐに画像保存しました!
すぐ返事したかったのですが、どうせならスクで謝辞を述べたいと思って急いでスクを書き上げました!

虐待さん!素敵な絵を本当に本当にありがとうございましたッ!m(_ _)m

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1 Re: Name:匿名石 2017/10/12-21:18:56 No:00004973[申告]
うひょ小ネタも面白い、と言うか個人的に凄まじくタイムリーなネタがw
次回も期待させてもらっちゃいますよ!
2 Re: Name:匿名石 2017/10/14-08:37:28 No:00004984[申告]
いや、パンツ履けよw
3 Re: Name:匿名石 2017/10/14-12:03:18 No:00004987[申告]
女神の世界にはパンツが無いのかも
4 Re: Name:匿名石 2017/10/15-01:50:02 No:00004989[申告]
いいやつにはいいやつな対応で返す主人公好き
5 Re: Name:匿名石 2017/10/17-02:06:20 No:00004994[申告]
このまま毎回女神様のさーびすしーんが恒例になるのかな?
  ∧_∧  +
 (0゚・∀・)   ワクワク
 (0゚∪ ∪ +   テカテカ
 と__)__) +
6 Re: Name:匿名石 2017/10/17-15:22:54 No:00004997[申告]
>このまま毎回女神様のさーびすしーんが恒例になるのかな?
だんだんそれが楽しみに
7 Re: Name:匿名石 2017/10/20-07:28:17 No:00005006[申告]
>虐待さん!素敵な絵を本当に本当にありがとうございましたッ!m(_ _)m
いえいえ、こちらこそいいスクを読ませて頂きありがとうございます
楽しみにしております
■この画像に関連するリンク[お絵かき板 ]■
8 Re: Name:匿名石 2017/10/20-22:19:34 No:00005008[申告]
虐侍先生!なんか出てます!(必要な報告)
9 Re: Name:謎の覆面の男 2017/10/21-03:17:56 No:00005009[申告]
虐待さん、またまた素敵な挿絵ありがとうございます!!
悔しがる女神様と太々しい涅槃スタイルの主人公の対比が素晴らしいです^^
もちろんチラ見せのサービスも(笑)
ありがたやありがたや(ー人ー)
10 Re: Name:匿名石 2017/11/29-20:06:34 No:00005095[申告]
面白いはー

実装石って身体性能自体がチートだから超回復がチートに見えないっていう
というか100年間は生き続けるってルールだから無理して生きる意味ないよね?
11 Re: Name:匿名石 2023/06/28-17:14:13 No:00007379[申告]
倒れている若者の隣で湯を張っておもむろにそこに浸かりだす実装石って絵面が
初期のカオスを思い出す異様さがあってちょっと面白い
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