山実装のコロニーを襲撃(後編) 案山子岳渓谷にニンゲンが、襲来してから3ヶ月経った。 親、姉妹も殺され家も潰されてしまった実装達は、それでも再起を図った。 急な崖の斜面にコロニーを作った山実装達は、それでも元の生活に徐々に戻りつつあった。 その後もニンゲンは、実装狩りに来たが、実装の巣が何処にあるか分からずに仕方なく引き返した。 山実装の肉は、身が締まっていて歯ごたえがあって美味いし、1度食べたらもう1度食いたくなる。 「畜生!あいつら何処に逃げやがったんだ!」 「この先は、人も入った事が無いし危険だ!もうここにはいないんじゃねーか!」 「しょうがねーなぁ〜!」 狩りに来た人間は、どうする事も出来ずに下山した。 この案山子岳渓谷以外の双葉ノ山の山中には、山実装のコロニーは3箇所ある。 1つ目は、黒髪岳渓谷黒髪滝周辺。2つ目は、竜神岳渓谷龍軍滝の上流周辺。3つ目は、絵師岳渓谷蒼龍滝周辺に住んでいると言われている。 どれもこれも、山奥に有り全て人が入った事が無い。登山慣れした健脚な者でも案内が無ければ、案山子滝渓谷に行くことすら困難。 つまりそれ以上の奥に行くのは、行った人が居らず実質無理である。 とし子の祖父も山実装の肉を食える事を楽しみにしていたが、これではどうする事も出来ない。 自分がもう1度、あの奥深い山に登るのは年齢的にきつい。 「どうしようも無い……もう1回、山実装を食ってみたいが……無理だな」そう思って肩を落としていた。 そこに2年振りに孫のあの男が帰って来た。 「爺(じじい)、どうしたんだよ!元気がねーじゃねーか?」 「おお!あきとし帰って来たんか!まあ家に上がれや!.....ところで、急にどうしたん?」 「いや!婆さんの七回忌の法事、仕事で来られなかったので今日、手を合わせに来たんだよ!」 「そうか!お母さん(あきとしの)が何度も連絡してみたが、連絡が付かなかっと言っていたぞ」 「済まねえ!糞蟲駆除の部署に廻されて、忙しくてクタクタだったからよ!」 「お前、実装駆除してたんか?」 「そうだ!それがどうかしたのかよ?」 祖父は、今迄のいきさつをあきとしに話して聞かせ、もう1度山実装の肉が食いたい。 「あの美味しい肉をもう1回食わなければ、死んでも死に切れん!」と切々と語った。 「なぁ〜に言っているんだよ!爺、そんな糞蟲、俺が捕まえて来てやるよ!」 「何だとぉ〜!あの山は、険しい道を登って行くんだぞ!無理だ!」 「爺は、知らねぇ〜だろうけど、俺はあの山はガキの頃何度も何度も登ったぜ!向かいのよしあきと!」 「本当か?!」 「ああ!あの山には、案山子以外に俺の知っているだけでも3つのコロニーがあったぜ!」 「そ……その話もっときかせろ!」 爺の目は、さっきのうつろな目と違い子供が欲しい物を見る時の目の様に輝いていて食い入る様に話を聞いてきた。 「あんな山奥だからなぁ〜!開発されたりしてねーだろうし。昔のままだろうな!環境も良いから実装の個体数は、増えても減ったりはしてねーと思うぜ!」 更にあきとしは、自分が子供の時に見て来た事や山奥へ行くアクセスを鮮明に覚えていた。 黒髪に行くには、丸太を渡ったな。龍軍に行くには、山道が崩落していたから迂回して、蒼龍を経由して行ったなぁ〜。 ただ蒼龍を経由した場合、龍軍に行くには、渓流を歩く事になるから長靴が必要だぞ!途中大きな滝もあったな!」 そうそう!あの辺は、流れが速いからうっかりしていたら滝から真っ逆さまだ!」 「あ…….あんな危険なとこガキの時に行ったのか!凄いな!お前!」 「山実装も見たぜ!しかしなぁ〜俺はその頃は実装に興味が無かったからスルーしたけどな!いや!単なる登山だよ!登山!よしあきに連絡着けてみる」 よしあきの返事は、「今、黒髪市に出張に来ている。そんな面白い事なら今日中に仕事を終わらせて、4〜5日休暇を取ってそっちに行く!」との返事だった。 よしあきが来ると2人は、昔の記憶を頼りに地図を描き出した。 「案山子岳渓谷の実装が、巣を移すなら渓流の上流か、渓谷北側の斜面しかねーな!」 「取り敢えず2人で登って見る、昔の様に良く切れる登山ナイフを持って行くか!」 次の朝、「おい!爺、山実装を2〜3匹持って帰って来てやっからよ!待ってろ!」そう言って2人は出かけた。 案山子岳渓谷までは、実装狩りに何度か人が通っているので、難なく来る事が出来た。 双眼鏡を使って、渓谷北側の斜面を見ると山実装が、巣穴を出たり入ったりしている。 「どうする、ここの実装を狩るか?」そう言ってよしあきが、スリング式のパチンコを取り出した。 「待て!一応、龍軍迄行って見よう、多分道はもうないだろうが、この奥まで村の奴が,行くために道を付けて置いた方が良さそうだ!」 「そういや、熊や猪はいなかったっけ?」 「こんな深い山だぜ!偶々出会わなかっただけだろう!」 「ガキの頃そんな事考えた事無かったもんなぁ〜!俺達、結構危険な事をしていたんだなぁ〜」 2人は、渓谷の一番奥を目指して歩いていった。 案山子渓谷の岩を乗り越えて、渓谷の川歩きをして進んで行くと、例の丸太が橋の様に渓流に横たわっていた。 「見ろ!昔のままだぜ!まだ丸太の橋がある!」 そう言いながら、歩いていると黒髪滝の水の落ちる音が聞こえて来た。 耳を澄ますと、「デス!デス!」「デス!デス!」「テチ!テチ!」の声が聞こえる。 携帯リンガルを起動すると「案山子渓谷に又ニンゲンが来たそうデス!」 「あそこも大変デスネ!」 「ママァ〜!ニンゲンは、こんな奥まで来ないテチネ〜!」 「大丈夫、こんな奥までニンゲンが入って来れないデス!」3匹の実装が、世間話をしていた。 「ほほう!ここにも山実装が、沢山いるなぁ〜!残念ながらこんな奥まで人間は入って来るのだよ!」 「こいつらに気付かれたら、ニンゲンが来たと大騒ぎになる。さっさと行くぞ!」 2人は、気付かれない様にこっそり黒髪渓谷を通り過ぎた。 再び歩き出すと、昔のまま崩落した山道に出くわした。 「おい!よしあき見ろ!崩落した場所を実装が通った足跡が付いている。あいつらもここを通り道にしているいやがるんだ!」 「もしかして、絵師岳を経由しなくても龍軍滝にダイレクトに行けるんじゃねーか!」 「実装道の上側を通って行くぞ!此処を通過出来れば、時間もだいぶ余裕が出来る」 2人は、実装の足跡がついた崩落した土砂の上を通過した。 崩落していた場所は、長い間風雨にさらされていて傾斜が緩くなっていて通れる様になっていた。 2人は、ほどなく龍軍滝の手前の道に出た。滝の音も聞こえる。 龍軍滝渓谷の岩陰から伺うと、山実装達が沢山いる。 こんな山奥の渓谷までニンゲンなんかは来ないとタカを括っているのだろう。 空を見ると雲行きが怪しい。一雨来る前に下山した方が良さそうだ。 「ちぇ!山の天気は変わり易いからな!」そう舌打ちをしながら引き返そうと思った。 こんな奥まで道を着けたのだ。 地図を書いてやりゃ村人が勝手に行くだろう。 「おい!よしあき、今回はこの辺で引き返すか?」 「そうだな!道も着けたし、天気も崩れそうだからな!これからは村人が好きな様に開発するだろうな!」 「黒髪と案山子の仔実装を2匹ずつ、周囲の実装達に解らない様に持ってかえるか!爺の土産に!」 そう言いながら、俺達は来た道を戻って行った。 黒髪に着くと、やっぱり呑気に仔実装が4匹程浅瀬で戯れていやがる。 「よしあき、4匹とも捕まえて帰るか!」 「OK!」 俺達は、持って来たY字型パチンコを取り出し、強力なネムリ弾を仔実装が声を出せない様に……。 ≪パシーン!≫「……」≪パシーン!≫「……」≪パシーン!≫「……」≪パシーン!≫「……」喉元を狙った。 案の定4匹とも声も出さずに倒れた。傍らの岩でうたた寝をしている成体が、目を覚ますとやばいので、そいつにも2発ネムリ弾を撃ち込んだ。 周囲に山実装が居ないことを確認して4匹の仔実装をリュックに入れて、案山子渓谷に向かった。 案山子に着くと眠っている仔実装の毛を抜き、服を破り捨て、水の流れの速い所に持って行き糞抜きをした。 どうせ案山子の実装は、俺達の存在に気が付いているだろう。 「此処まで、来られるものなら着て見やがれデス!」位に思っているんだろうが、思い知らせてやる。 黒髪で捕まえた仔実装の口から水を入れると、それに合わせる様に排泄溝から糞が流れ出た。再びロープで括って木に吊るした。 そして、案山子渓谷の北側斜面に巣を作って住んでいる、仔実装目掛けて普通のパチンコを撃ち込んだ。 「テチャァ〜!」「テッチィ〜!」崖から落ちてきた仔実装、各自2匹ずつゲットした。 案山子の実装は、俺達が、まさか飛び道具を使うと思っていなかったみたいだ。 崖の巣穴周辺の実装は、明らか動揺している。ザマ見やがれ〜! リンガルを起動させると「ニンゲンに見つかったデスゥ〜!」「ワ……ワタシの子供が……捕まったデスゥ〜!」「ちょ……長老に報告……」 「そんな事よりワタシの子供達も捕まって……ああっ!髪の毛が抜かれているデスゥ〜!」 「ワタシの子は、髪の毛を抜かれて、服を破かれ、禿裸にぃ〜!お腹も裂かれて川で洗われているデスゥ〜!」 捕まえた仔実装は、禿裸にして奴らに見える様に腹を裂いて、食えない内臓を捨てて持って帰った。 「急ごう!雨が降るぞ」そう言って山道を早足で歩いて下って行った。 雨が降るまでに登山道を下りて来て、車に乗った途端雨が降り出した。 .............................................................................................................................................................. その頃、黒髪滝渓谷では、既に大雨になっていた。 ネムリが切れ、雨に打たれて目が覚めた親実装は、「長女ぉ〜!次女ぉ〜!三女ぉ〜!四女ぉ〜!一体……一体、何処へ行ってしまったのデスゥ〜!」必死になって探した。 山実装も飼実装の様に糞蟲でなければ、仔実装を大事にする。 大雨の中を必死になって探すものの、既に連れ去られた子供がそこに居る訳がない。 「オロロ〜ン!オロロ〜ン!子供達ぃ〜!何処へ……何処へ行ったデスゥ〜!」 薄暗く見通しの悪い渓谷を、夢中で探している内に足を滑らせて増水している川に転落。 ≪バッシャ〜ン!≫「デ……ス!ブク、ブク、ブク…溺れ……る……だ、誰か助け……」≪ゴボ!ゴボ!ゴボ!≫親実装は、一足早く黄泉の国に旅立つ事になった。 危機管理もせず、毎日毎日呑気に寝て過ごしているから、こんな災難が降りかかる事になるのだろう。 ........................................................................................................................................................... 家に帰ったあきとしは、よしあきの家族を呼んで実装鍋に舌鼓を打った。 今回、この二人のお陰で案山子渓谷以外に黒髪、龍軍に実装が居る事がハッキリした。 「黒髪で捕まえて来た仔実装の肉は、柔らかく口の中で溶けてしまいそうだ!本当に美味い!」 「案山子の実装は、こりこりして歯ごたえがある!これも美味いぞ!同じ山に住んでいても環境や食糧によってこれ程、食感が違うのか!」 「あきとし!よしあき!有難うこれで俺も悔いを残さず婆さんの所に逝ける!」爺がそう言って喜んだ。 「何言ってやがる!爺さん未だ蒼龍と龍軍の実装肉食ってねーだろ!あそこは、案山子や黒髪には、無い様な木の実があったからなあ、多分味も違うそ! それじゃあ!そこの2箇所の実装肉を次に帰って来た時に取って来てやるから、それまで死ぬなよ!」そう言って笑いとばした。 FIN
1 Re: Name:虐侍 2017/10/12-04:24:22 No:00004969[申告] |
1匹の糞虫を始末しなかったために訪れるコロニー崩壊いいですね
実装鍋がどんな感じなのかはわからないですが ここでは下処理したのを生きたまま投入と考えて描きました ■この画像に関連するリンク[お絵かき板 ]■ |
2 Re: Name:匿名石 2017/10/13-00:59:17 No:00004975[申告] |
挿絵の鍋が美味そうじゃのう。
食材に慈悲は無い、イヤーッ! |
3 Re: Name:匿名石 2017/10/14-02:42:56 No:00004981[申告] |
うまそうだけど野菜以外のものから緑色が出てくるのはやっぱり気味が悪い
この気味の悪さも含めたゲテモノ食いが実食と言えば実食なんだが |
4 Re: Name:匿名石 2017/10/19-23:42:03 No:00005005[申告] |
何と言うか
実装石って糞蟲とか、名前に「石」って付くから 恐ろしく灰汁が強そうだよな、食材としてw |