『 夢にまで見た異世界転生なのに実装石とかマジですか!? 』 前回のあらすじ 電車に轢かれて、挽肉になってしまった主人公。 気付いたら、地球の女神テラに幽体のまま招かれる。なんと異世界転移させてもらえるらしい! 地球の女神テラに見送られアイルビーバックしつつ転移した先は並行世界の実装石のいる地球だった! 実装石に転生してしまった主人公、さっそく高高度から落下して圧潰、一度目の実生を終えてしまう! 主人公に与えられた能力は2つ!偽石の偶然の紛失と極限まで高められた再生能力のみ! 100年の間、実生を強いられて、心が折れたら地球消滅のチキンレースが 今、始まる! 果たして、主人公の異世界転移二度目の実生はどうなってしまうのか!? 〜 第一話:トンネルを抜けると、そこは虐待派のおうちだった 〜 気付くと俺は、薄暗く生温かく狭苦しい場所に存在していた。 徐々にハッキリとしてきた思考をフル回転させて、周囲の様子を窺うと、どうやら俺と同じように蠢く存在が複数いた。 そいつらはどうも、この薄暗い場所の中で唯一、光の漏れ出ているトンネルの出口へと向かって這いずっているようだ。 情報収集をしようと声を出そうとしたが、薄い膜が口腔内を含む全身を覆っているせいで声が出せない。 仕方なく俺も周囲を真似て、腹這いになり、匍匐前進の要領で薄暗いトンネルを突き進む。 しばらく進むと、トンネルの先に見えた小さな光は、次第に大きくなっていき、 前後左右から全身を緩く締め付ける狭苦しい壁から解放される頃には光溢れる世界へ脱出する事ができた。 「テッテレー!(私、爆誕!はやく体の粘膜を舐め取レフ!このままじゃ蛆ちゃんになっちゃうテフ!)」 「テッテレー!(おはよう愚民ども、さっそく私に仕える栄誉を与えるテフ!)」 「…テ…テ…テ、テッテレー!?(ぐ…げふ…げほっ、マジかよ、これ言わないと口腔内の粘膜を吐き出せない仕組みなのかよか!?)」 前を這っていた仔実装を呼び止めようと声を出したが、口腔内に詰まっていた粘膜のせいで咽てしまう。 仕方なく周囲の発声を真似てみると、すんなりと粘膜を嘔吐できたのだから実装石の生態とは恐ろしい。 辺りを見渡せば、どうやら、ここは床に直置きされた水槽の中の様だ。 水槽の中には、俺を含めて総勢5匹の粘膜を纏った仔実装がイゴイゴと這い回ってる。 …だが、オカシイな? 本来、生まれてすぐに親実装が仔実装の粘膜を舐め取ってくれるはずなのだが? と、思って自分が這い出てきた方向に振り返り、親実装を見上げてみると……。 「デー…(あ゛ー…)」 親実装石は、確かにそこにいた。 だが、生まれ出た俺たちの事なぞ見守ってくれていない。 言葉にならない声を漏らしながら。 まるで呼吸のついでに漏れ出た空気が声帯を震わせているだけのような、そんな意味のない言葉を漏らしている。 ただ、それだけだ。 目に光など宿っていない。 白濁こそしてはいないが、もはや、その赤緑の双眸には、生気の欠片も残ってはいなかった。 親実装の額には、まるで刃物で抉ったかのように、 “ おもちゃ製造機 ” といった日本語が彫られている。 まるで、俺の未来の姿を投影しているかのようだ。 いや、何もしなければ、遠からず、コレと同じ状態にされるだろうな…。 ああ、やべぇ…。 虐待派に捕まる事くらいは想像してたが、まさか、いきなり自家生産してる虐待派の家に生れ落ちるとは…。 さっさと自死してリセットするか? …ん、いや、まだ偽石が体内にある? 何故だ? ふむ。誕生の度に偽石がランダムに紛失する…って能力の傾向を掴むためにも、まだ様子見する段階か? ガチャッ! 「ヒャッハー!ただいまーっと! お? さっそくオモチャが追加されてるじゃねえか! ひーふーみー…今回は5つか。よーしよし、優しい俺様が、さっそく粘膜を洗い流してやるぜぇぇぇ?」 部屋の扉が無遠慮に開かれたかと思うと、世紀末ファッションの男が颯爽と現れた。 間違いなく虐待派のお兄さんといった風貌の男だ。 虐待派の男は、生れ落ちた俺たち5石を乱暴に引っ掴むと、 鼻歌まじりに台所に向かって歩き出す。 「テッテフ?(お、ドレイ人間テチ?)」 「テッフーン!(おい、ドレイ!レディは優しく扱えテフ!)」 「テヒュー(ドレイさん粘膜を優しく舐め取レフ、そろそろ粘膜乾いてキツいテヒュ)」 俺以外の仔実装は、そんな感じのどうでもいいセリフを吐いていた。 親の様子に気付いている気配もなく、さっそく糞蟲発現を連発している。 あの親実装の様子じゃ、胎教もまともにされてなかっただろうに、 どうやったら、こうも性格が歪むのか。 ああ、胎内にいるうちから、しっかりと意識あったからなあ…。 微睡みの中で、好き勝手に妄想してたら、そりゃ思考も歪むか。 「テフー?(イモウトチャ、さっきから黙ってるけど、どうしテフ?)」 「テー(ああ、いや、何でもない、気にするな)」 「テッテフ?(イモウトチャ、なんか喋り方がおかしくないテフ?大丈夫テフ?)」 恐らく一番初めに這い出た長女らしき仔実装が、俺に話しかけてきた。 糞蟲発言してた割には、家族愛はそこそこある個体ということだろうか? 「テーフ(いやいや、大丈夫ですよ、ご心配なく姉上)」 「テッ!? テフ…(あ、姉上!? ずいぶん賢いイモウトチャテフ…まあ大丈夫なら別にいいけどテフ…)」 などという心温まる会話をしているうちに台所に着いたようだ。 キッチンスペースの先には玄関口があり、通路の途中にはシャワールームが見える。 どうも、この虐待派の家は、ワンルームマンションのようだ。 先ほどの水槽が置かれていた部屋が寝室兼リビングで、ドアを隔ててキッチンや風呂場、玄関があるという間取りか。 なんて事を考えていると、男は俺たちをキッチンのシンク内に放り出す。 ボテッ! 「テジャ!?テフーッ!?(痛いテチ!?おいドレイ!レディは丁寧に扱えと言ったばかりテフ!丁寧の意味も分からない馬鹿なんテフ!?)」 尻もちをつきながら、吠える妹仔実装。 投げ捨てられなかっただけ十分に丁寧なのでは?と思う俺は、だいぶ擦れているのだろうか? まあ、そんな叫び声もお構いなしに、男は蛇口を目一杯捻ると滝のような冷水をシンク内に座り込む俺たちに浴びせてきた。 ジョボボボボボッ!!! 「テガゴボッ!?(テヂャー!?冷たいテフ!水はいやテフ!暖かいお風呂を要求するテフッ!!)」 「テヂュッ!?(イタイイタイテフー!!水に潰されちゃうテヂュッ!?)」 「ふ〜ふ〜ふふ〜ん♪」 ジャバジャバジャバッ! ゴシッ!ゴシッ! 「テジャアアアア!!!!(ギャああああああ!!!!粘膜どころか皮が剥がれるテヂャァァァァ!!!)」 阿鼻叫喚の叫び声をBGMに、男は機嫌よく仔実装を順番にタワシでゴリゴリと洗い、次々と粘膜を削ぎ取っていく。 「テェ…(イテテテ……あー……この流れだと、たぶん、偽石除去とかされるんだろな…そこで紛失か……)」 などと呟いているうちに、タワシによるブラッシングは終了したようだ。 虐待派の男は、果物ナイフを取り出すと、手際よく仔実装達の腹を掻っ捌いて1石ずつ偽石を取り出していく。 ズバッ! グリッ!ブヂュッ! 「テギョーーーー!!!??(ぎゃあああああ!?殺されるテチー!!!??)」 「テヂャアアアアア!!!シャアア!!!!!!(お腹イタイイタイいやいやテヂャ!!!大事なオイシとっちゃダメテチ!!!!!!)」 仔実装の叫び声が室内に反響する。まあ、だからといって男の手が止まる訳ではないが。 男は慣れた手つきで抉り出した偽石を次々と栄養剤の瓶に漬け込んでいく。 抵抗しても無駄だろうと、俺は目を瞑り歯を食いしばって、腹に果物ナイフが突き刺さる感触を受け入れた。 すんなりと腹は縦に割かれ、今まさに俺の体内の偽石が男によって抉り出されそうになる瞬間。 「テヂャアア!!!(賢いイモウトチャのオイシとるなテヂャア!!!)」 ガブッ!! 台所に運ばれている途中に話しかけてくれた長女が、男の腕に飛びかかって咬みついた。 「痛ってぇぇぇッ!!?」 虐待派の男は、長女仔実装に噛みつかれ、反射的に俺と偽石を放り出す。 男の手から離れた偽石が、蛇口から流れっぱなしだった水の流れに乗って、排水溝に吸い込まれた…。 紛失って…、こういう流れなのかよ…。 「このっ…クソムシがあああアアアッ!!!!!!!」 ドガッ! 「テブッ!?(ごふっ!?)」 ゴッ! 「テヂィッ!(や、やめてッ!)」 ブヂッ!!! 「ヂッ!?(ギャッ!?)」 俺を守ろうとしてくれた長女は、男の怒涛の殴打を受けてしまう。 殴打の度に、体は歪に歪んでいき、頭蓋は陥没し、仕舞には下半身を丸ごと圧潰されてしまった。 そんな姉の姿を見せつけられ、俺以外の仔実装達は、糞を漏らしながら抱き合って震え始めた。 「ヒャッハー!汚物は消毒ダァァァ!!!!」 バシャァァァッ!!! 「テヂィィィッ!!?(ぎゃああああ!!!熱い熱いテヂィィィッ!!?)」 仕上げとばかりに、男は蛇口の冷水を止めて、俺たちに熱湯を振りかける。 1石は、叫び声をあげてシンク内を転げまわり、2石は熱湯をかけられた瞬間に仮死状態となり、 下半身を潰された長女は舌を突き出して痙攣している。 俺はというと、被害を最小限に抑えるため、2石と同じように仮死状態を装って直立不動で地面に倒れた。 男はそんな俺たちを見て、留飲を下げたらしく、それ以上の加害行為には至らなかった。 俺たちの後ろ髪をまとめてつまみ、リビングまで運ぶと無遠慮に水槽内に俺たちを放り投げる。 高所からの転落により、5石とも半身の骨が砕けたらしく、意識を保っていた1石も仮死状態となった。 長女は悲惨なもので、もともと圧潰していた下半身が落下の衝撃により千切れてしまった。 俺はというと、高所からの転落死は1度目の実生で経験済みだったので冷静に対処する。 地面に落ちる直前に手足を伸ばして衝撃を吸収させることで、体幹の臓器の破損を防ぎ、 そのまま仮死状態を演じ続けて、虐待派の男の様子を観察した。 「あっちゃぁ…ちょっと初日からやりすぎたか…。 やっぱオモチャは長く遊ばなきゃつまんねぇしなぁ…。 仕方ねー、遊ぶのは明日にして、栄養剤打って餌ばら撒いて今日は寝るか…。」 虐待派の男は、ボリボリと頭を掻きながら残念そうに呟くと、 まずは長女の千切れてしまった胴体の断面に栄養剤を塗り付けて整復する。 長女の千切れた体が辛うじてつながったのを確認すると、 5石全員の胸へ無遠慮に注射針を刺していき、栄養剤を注入した。 ゆっくりと仔実装達の自己修復が始まるのを見届けると、 男は溜息をつきながら、俺たちの上に実装フードをまき散らして水槽から離れる。 そして自分の夕食を済ませ、しばらくテレビをみてダラダラした後、 リビングに布団を敷き、部屋の電気を消して眠りについた。 パチッ… 暗転 「…ぐぅぅ……ごぉぉ………ごがっ……」 虐待派の男のいびきをBGMに俺は仮死状態の演技を解く。 周囲の仔実装達は、仮死状態に陥ったままだったが、 その体は、ゆっくりと砕けた骨がつながり始めてる。 長女の体も、薄っすらと皮膚が貼り始めていた。 俺の体も今のところは、皆と同じ程度の再生状態だ。 体の中心が熱い。吐き気を催すほど満腹感を感じる。 栄養は十分に足りている筈なのだ。それなのに、 再生能力極振りの俺と他石に差がないのは何故だ? そんな事を考えながら、俺は曲がったままの右手を見つめた。 すると…。 メキッ! ゴキゴキゴキッ! 突然、右手の骨が軋み始めて、瞬時に整復が始まった。 それと同時に、栄養剤によって満たされていた満腹感が緩やかに引いていくのを感じる。 ふむ? 体内の栄養を任意に消費して再生能力を活性化させるっていうのが、 再生能力極振りの機能なのだろうか。 いいね、任意で再生能力をコントロールできるっていうのは利点だな。 普段は再生能力が高い事を隠して普通の実装石に擬態する事ができる。 ならば、さっそく、再生と消費の相関についてトライ&エラーだな。 そんな事を考えると、俺は四肢に意識を集中させて再生を始める。 すると、ほんの数秒で、四肢は健常な状態に復元された。 それと同時に、体内を満たしていた栄養素が明らかに目減りするのを感じる。 右手1つの再生で消費した量の3倍といったところか。 四肢の再生にかかる栄養消費量に変化はない、と。 再生の仕方や損傷の程度によって変化はあるのか? 俺は、徐に自分の右手を食い千切り、嚥下する。 消費と補充が拮抗していたのだろうか。 嚥下した右手が消化されるのを感じても、体内に栄養が補填される感覚はない。 再び右手に意識を集中すると食い千切られた右手の断面がブクブクと盛り上がり、 瞬く間に先ほどと同じ形の右手が生えた。まるで某アニメの緑肌の人のようだ。 ズアッ!とか叫びたいな、これ(笑) さて、肝心の栄養の目減りだが…。 最初に右手を再生した時と同じ程度の緩やかな消費のようだ。 どうも損傷の程度に関係なく、四肢の再生に掛かる栄養消費量は一定のようだ。 よしよし、何かあった時は遠慮なく四肢を犠牲にできるな。 後は、体幹…主要臓器の再生にかかる消費量を知りたいが…。 ちょっと栄養減ってるし、フードを食べて栄養補給してからにするか。 ボリボリッ… うげっ、くっそマズイ…。 俺は吐き気を抑えながら、自分の体の半分はあろうかというフードを1ブロック嚥下する。 だが、補填された栄養素は右手一つ分といったところだった。 胃が満たされる感覚が得られるのだろうが、これ1つで右手一つ分は、栄養効率が悪すぎる…。 うーん、栄養剤が定期的に手に入らなければ瞬間再生は危険? 体幹再生の消費エネルギーがどの程度か分からないし、 まずは再生の幅を確認する方向で進めるか…。 そんな事を考えながら、俺は右手に歯を立てて切れ目を入れてボキッと捩じり折る。 切断された右手を断面にくっ付けて意識を集中すると、ボコボコだった断面は滑らかに癒着・再生した。 消費エネルギーは………。 …ん? 歯で切り取った部分の補填以外は、ほとんど減ってないのか。 ……もしかして、再生に必要な分の肉を外部から補充すれば消費エネルギーを節約できる、とか? いいね、楽しいね! こりゃあ、他の個体の生体パーツを取り込む実験するしかないでしょ! 俺は、そんな事を考えつつ、 仮死状態の妹実装に忍び寄った。 「……テ…(……う…)」 意識確認のため、見開かれた目を突いてみたが、 妹は小さなうめき声をあげるだけで起き出す気配はない。 俺は、妹の仮死を確認した後、その左足を付け根からゴッソリと噛み千切った。 ガブリッ… ボギッ…ブヂッ… 「……テ……(…うぐ…)」 妹は、左足を削ぎ落されても、小さく呻いただけで仮死状態のままだった。 ふむ…。 足一本を落とされても起きないとは、仮死状態に陥るのは危険すぎる。 やはりヤバいと思ったら、仮死より、さっさと自死した方が賢明だな。 と、考えつつ、俺は右手の表面を薄く齧り取ると、妹から拝借した左足の断面を接着させた。 想像通り、左足は右手の延長として問題なく癒着した。 稼働確認すると、継ぎ足した部分に左足の関節がそのまま増設されたようだが、スムーズに屈曲可能だ。 しかし、実装石の神経組織はどうなってるのやら。 おそらく神経叢ごと再生・癒着しているのだろうが、 出鱈目につなげたとしても、接着した神経同士が近場の回路と自動接合するのだろうか? …と、肝心のエネルギーは、どうなった? …うーん、どうも増設分は勘定に入らないらしい。 栄養は増えてもなければ減ってもいなかった。 俺は、右手を伸展・屈曲させながら稼働確認を続ける。 シュッ! シュッシュッ! 右手を折り曲げて、腰の捻りを入れれば、風を切る軽快な音が響く。 おお、実装石基準に見れば、割とまともなパンチを打てるようになったようだ。 やはり関節の有無は重要だな。 しかし、右手だけ長いというのも、ちょっとバランスが悪いか。 どうせだし、取り敢えず、もう1本もらっておくかな。 俺が再び妹の足の付け根に歯を立てて噛み千切った直後に…。 「テッ!?(はっ!?私、どうなったテチ!?) テヂャッ!!(って、なんでオネチャ、私の足を食べてるテチッ!!)」 さすがに足2本分のダメージを受けると、仮死状態も解除されるらしい。 仮死から目覚めた妹が、さっそくテチテチと騒ぎ始めようとしたので…。 シュッ! ボグッ! 「ヂッ…!(げふっ…!)」 俺は素早く妹の顔面に向かい、右手を折り曲げて腰を捻り、体重を乗せたパンチを叩き込む。 まずは喉だ。パンチ一発で気管が潰れて妹は声を挙げなくなるが、俺は執拗に頭蓋の破壊に取り掛かる。 喉を潰しても、仮死から目覚めた以上、回復したら煩くなる。まだまだ実験し足りないのだ。 せっかくトライ&エラーしている時に、こいつらに叫ばれて虐待派を起こされては実験ができなくなる。 シュッ!シュッ! ドゴッ!バキッ! シュッシュッ! ボグッ! シュッ! メギッ! パキンッ…… 執拗に頭蓋に向かって釣瓶打ちを繰り返していると、 キッチンにつながるドアの向こう側から、小さくガラスの割れる音がした。 そのまま妹は、目を白濁させると、舌をだらしなく吐き出して動かなくなった。 よし、これでゆっくり実験できる。 パキンした個体の肉が増設に使えるか分からないが、試すにはちょうど良い塩梅の死体ができたな。 暗転 気付いたら3時間が経過していた。 虐待派の男は、まだ涎を垂らし寝息を立てていたが、俺は興奮冷め止まぬ状態にあった。 結論から言おう。 ごめん、遊び過ぎた。 俺の体は、実装石と名乗る事すら悍ましいほどに魔改造されていた。 四肢は人間のように上腕・前腕、大腿・下腿のごとき関節を持ち、 その先には、悉く歯を携えた顎関節が増設されていた。 もちろん、咬筋ごと先端に移植したので、強力な咀嚼力はそのまま再現可能だ。 取り扱いも、指先の屈曲・伸展と同じ感覚で、上顎・下顎の開閉を行える。 これは、便利だ。転生の度に、積極的に増設を狙いたいな。 他にも、髪は移動の邪魔になるので自ら引き千切り、 代わりに、視野を広げるための目を4つほど側頭部と後頭部へ視神経ごと増設した。 感覚としては全天周モニターのような映像が随時、俺の脳に送り込まれてくるのだが、 別に脳細胞が焼き切れるほどの情報量じゃない。 え、そんな大々的に改造繰り返していて、他の姉妹に気付かれなかったのかって? ははは、四肢全てに顎関節がついてるって時点で、まあ、お察し頂けているだろうが、 ええ、もちろん姉妹仲良く、俺の実験の糧となって頂きました、これで死ぬまでズッ友だよ(笑) そうそう、体幹の消費エネルギーも判明した。 体幹の再生エネルギー量は、面積の二倍程度だった。 例え心臓だろうと、腕1本分のエネルギーがあれば再生できる。 試してはいないが、恐らく実装の生態的に、脳も瞬間再生が可能だろう。 この法則でいくなら、腕4本分もエネルギーの備蓄があれば、頭部すら瞬間再生が可能だ。 あ、そうそう。 それと実装石が共食いに走りやすい理由も判明した。 再生のための栄養効率が半端ないんだわ、マジで。 自分の四肢を再生させたいなら、格下の実装石の頭を一つ噛み砕けばエネルギーが事足りるんだよ。 同格を2石まるごと食べれば、自分を丸ごと再生させてもお釣りが来るエネルギーが補充できる。 フードで換算すると、自分の24倍もの量を摂らなければ再生のための栄養補充ができないのだ。 そりゃー、同族食いに走るよな。 あ、もちろん栄養剤を打たれた姉妹たちとは、別の個体で確認したよ。 え、補充はどうしたかって? そんなの、ここにオモチャ製造機があるんだから、いくらでも補充が効くじゃない(笑) まあ、栄養剤があれば注射器1本分で十分だから、そっちの方がより効率いいんだけどね。 さあて、再生能力の検証は十分行えた。まあ、実装石以外の生体パーツを取り込めるかどうかの実験はまだだけど。 それは、これからやる事の後で、ゆっくり実験できるだろうし、さっそく今回のトライ&エラーの仕上げをしますかね。 俺は、邪悪な笑みを浮かべて、 四肢の先端に増設された顎を使い、オモチャ製造機という名の肉壁を足場に水槽を這い上がる。 水槽の頂上に到達した後は、そのまま地面に向かって腹這いに飛び降りる。 そして着地の瞬間に、倍に伸びた手足を突き出して、衝撃のエネルギーを分散させた。 イテテテ…。だが、これで、体幹をノーダメージで守ることができる。 まあ、栄養剤入りの姉妹たちも食べてるから4回くらい全身潰れても即再生可能だけどね(笑) では、今回のトライ&エラーのメインディッシュに取り掛かりましょうか。 題目はこちら! “ 実装石は人間を殺すことができるか? ” ははは、できるわけない(笑) どれだけ体を魔改造したからって、実装石の体じゃ、襲っても返り討ちに会うだけだ。 勝負をしたいなら、同格になるまで体を肥大化させるくらいしか方法なんてない。 ……って思うじゃん? 実装石も人間も同じ土俵で比べようとするから、そんな風に思うんだよ。 まあ、たぶん、実装石のいる世界の人らじゃ、考えもつかない方法だろうけどな。 なんでデカくなる必要があるんだよ。 俺は、いびきをかいて大きく開かれた虐待派の男の口の中に侵入する。 口の中に侵入した後は、即座に自分の手足の中間を食い千切り、削ぎ落せる部分は全部投げ捨てた。 先端の顎は便利なので、短く切りそろえた手足の先端に新たに増設するが、体面積は極力圧縮させる。 さあ、これで喉頭蓋を潜り抜けられる。 …準備は万端だ、それじゃ目指そうか。 “ お 前 の 気 管 支 を ” 暗転 「では、次のニュースです。 先週、自宅内で変死体として発見された故〇〇さんの司法解剖の結果、 死因は、実装石の肉片が気管支を閉塞させた事による窒息死であった事が判明しました。 ですが遺体には各所を荒々しく解体されたような損壊が見られており、 警察は、本件を怨恨による殺人・死体損壊の他殺事件として、関係者への捜査を開始しております。」 「次のニュースです。 本日未明、国道〇〇号の道沿いで、大型トラック1台と乗用車1台の追突事故が発生しました。 この事故で、大型トラックの運転手・〇〇さんが意識不明の重体、 乗用車に乗っていた〇〇さん、〇〇さんが搬送先の病院で死亡が確認されました。 なお、追突事故の現場周辺には激しく損壊した人体の一部や実装石と思われる肉片が散乱しており、 警察は現場を封鎖して、事故の原因究明を行っております。この影響で国道〇〇が渋滞しており…… 暗転 俺は再び成層圏の片隅を幽体で漂いながら、憎々し気に下界を見下ろした。 「チッ…。イイ感じだったのになぁ…。 まさか、全然関係ない場所でリセットを喰らうとか、不運すぎるだろ実装石の一生って…。」 俺は胡坐をかきながら、ガリガリと頭を掻く。 そんな俺の目の前に、悪魔がフッ…と現れた。 「あひゃひゃひゃひゃ!!! いやー!あんた面白いねー♪ まさか実装石が人を殺せるとは思わなかったわ♪ しかも、並みの虐待派よりも、えげつない実装石虐待してるじゃん(笑) あんた、こっちに生まれてたら、良い実験派になれたと思うわよ〜♪ しかし残念だったわね〜(笑) せっかくあそこまで魔改造できたのに〜♪ このまま改造を続けられれば、もしかしたら魔王にでも成れたかもしれないのに事故死とかっ(笑)」 こちらの世界の自称女神様が、嫌らしい笑みを浮かべて手を打ちながら俺に語り掛ける。 「はっ…、どうせ、下の事故もお前の仕業だろ…。 まあ、別に今回のトライ&エラーで得られた情報としちゃ十分だよ。 能力の検証と、どんだけ事を上手く積み上げても、お前の気分次第で簡単にぶち壊してくれるってな…。」 俺は苦虫を噛み潰したように、顔をしかめて吐き捨てた。 「あっひゃっひゃっひゃっ! 私、なーんにもしてないんだけどね〜? 言っても信じてくれないよね〜??(笑) うへへ、これが100年続くのよ? どう? 嫌でしょ? 悲しいでしょ? 賽の河原の石積みたいでしょ? げふふっ♪ さって、それじゃあ、名残惜しいけど、さっさと次の実生に逝ってもらいましょ〜かねっ♪」 女神は、実装石そっくりの下卑た嗤いを漏らしつつ、俺の頬を撫でて囁いた。 そして俺の意識は遠退き、霧散した…。 目覚めた時には、きっと三度目の実生に挑む事となるだろう。 だが、お前は一つ勘違いをしている。まあ態々教える気にはならんがな。 俺はこれっぽっちも残念とは思ってない。むしろ楽しいぜ? お前の脚本は退屈凌ぎにゃ、丁度いい。 これはな “ お前 と うちの女神さま(笑) ” とのチキンレースじゃねえんだよ。 “ お前 と 俺 ” とのチキンレースなんだぜ? そこを間違えるなよ? お前の予想の斜め上に逝く演出を演じ続けてやるよ。 お前が泣いて笑い転げて、笑い死ぬまで何度でもな。 YOEEE!!!俺に喧嘩売った事を後悔させてやる。 だから覚悟しておきなよ、クソムシの女神様。 そんな事を思い浮かべながら、俺の体は下界に向かって崩れ落ちて逝く。 折角なので煽っておこうと成層圏に留まったままの女神を見上げると…。 あ、こいつパンツ履いてないじゃん。 図らずも巫女服の袴の裾から、割と眼福な光景を目に焼き付け、 取り敢えず挑発の意味を込めて、思いっきりスケベ顔を女神に向けてやった。 どうやら糞蟲の女神様も、下から見上げられる状況に気付いたらしく、 顔を真っ赤にしながら袴の裾を押さえると、堕ち逝く俺を睨みつける。 まあ、そんなこんなで俺の意識は完全に途絶えた。 第二話へ続く {後書き} 皆さん、お久しぶりです。多忙と風邪のせいで、前シリーズから作品投稿の間隔がだいぶ空いてしまいました(;´・ω・) というわけで、素直に生存報告を出せなかったのPN変更と作風を変えて投稿してます(笑) だいぶ作風を変えましたが、お楽しみ頂けましたでしょうか? え、前のPN? それは、ひ・み・つ( *´艸`) 前のPNで投稿した作品も、創作意欲が湧いたら続きを書きたいと思いますが、今しばらくは今作を中心に執筆していきますね( ;´Д`)φ
1 Re: Name:匿名石 2017/10/07-22:16:47 No:00004933[申告] |
こりゃあ面白い。
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2 Re: Name:匿名石 2017/10/08-17:40:12 No:00004943[申告] |
まあこの世界は剪定事象確定みたいだしやりたい放題してもいいんでないかい? |
3 Re: Name:匿名石 2017/10/09-10:47:52 No:00004947[申告] |
異世界転生モノとかなろうでたくさんアリすぎだよな~と思いながら読んでみたけど
面白い!! 先が気になるよ! |
4 Re: Name:匿名石 2017/10/09-22:37:38 No:00004951[申告] |
※3
まあ、そうなんだけど そうなるまでの日々の中で遺族や関係者の苦しみとかあるわけで 100年後消えるまでは生きてない世代の人間にとっては今主人公を殺すために起こった事故こそ問題で まあ、いいや、悪い方のテラ、糞蟲並みに酷い死に方しろ |
5 Re: Name:匿名石 2017/10/10-11:19:20 No:00004955[申告] |
ここまでの話で一番人としてマトモな感性を持った名有りキャラが
オネチャ(主人公を助けてくれた実装石)という異常事態。 |
6 Re: Name:匿名石 2017/10/10-14:11:44 No:00004957[申告] |
うっひょ予想できなかった展開だわ、次も予想できん!期待して全裸待機するぜ!
あと糞虫世界の女神のサービスシーン良かったれす(^q^) |
7 Re: Name:虐侍 2017/10/10-17:55:49 No:00004958[申告] |
面白いですねぇ~続きが気になります ■この画像に関連するリンク[お絵かき板 ]■ |
8 Re: Name:4957ですけど 2017/10/11-04:26:03 No:00004964[申告] |
虐侍さん!感謝しまくっても良いですか良いですねありがとう(^q^) |
9 Re: Name:謎の覆面の男 2017/10/12-07:14:00 No:00004970[申告] |
虐待さん!素敵な扉絵を本当にありがとうございましたッ!m(_ _)m |
10 Re: Name:匿名石 2023/06/28-22:58:35 No:00007377[申告] |
ほとんど痛みを感じてなさそうでずっと(笑)って余裕ありそうに笑ってる主人公は別にどうなってもいいんだけど
いきなり実装石ぶつけられて大事故になった人間さんが可哀そうすぎる… |