「ヒャッ…ハッ…」
おやおや、あの虐待派、ついに倒れたぞ。
無理もない。こんな夏の日差しが照りつける炎天下の中
水分補給はおろか帽子すらかぶらずに、１時間以上も
バールのような物を振り回していれば当然の結果だわな。
こんな時間にぐったりしてる実装石を追い回した所で
面白くも無いだろうに。
お、なんとか立ち上がって木陰まで歩いてまた倒れたぞ。
どうしようか。観察派の俺にとって節操の無い虐待派は
邪魔以上の何者でも無いんだが、一応奴等も人間だしな。
「どうしましたか？大丈夫ですか？救急車を呼びましょうか？」
とりあえず近づいて話しかけてみる。
「うう、しばらくこうしていれば大丈夫だと思います。悪いですけど出来れば
水が飲みたいんです…」
丁度空になったペットボトルを持っていたので、水をくむために
水道まで歩いていった。
水道の蛇口をひねってボトルに水を入れていると、おこぼれに
預かろうとする実装石がわらわらと寄って来た。
それを見て、むくむくと悪戯心が首をもたげた。普段さんざんぱら
観察を邪魔されてる虐待派だ。少しくらいちょっかいを出しても
罰は当たるまい。
寄ってきた実装石を三匹ほどチョイスして、水でよ〜く濡らすと
虐待派の倒れている木陰まで戻った。
「はい、水です」
「あ、すみません…」
差し出したペットボトルの水をたちまち飲み干す虐待派。
「あと、これ。実装石を濡らして来ました。良く洗って来たから
臭く無いと思います。実装石は体温が低いそうですから、
こいつらを首筋に当てておくと良いですよ。」
彼は一瞬嫌な顔をしたが、背に腹は替えられなかったのだろう、
実装石を抱えて、首筋に押し当てた。
実装石達は最初暴れていたが、木陰で涼しい場所だと言う事も有って
すぐに大人しくなった。
彼も気持ちが良かったのだろう、苦しそうだった表情が、かなり
穏やかになって来ている。
そうこうしているうちに、虐待派も実装石も寝息を立てて寝てしまった。
仲良く木陰で昼寝をする虐待派と実装石。
観察派にとって、これほど面白い絵面は無い。
周りをみると、ちらほらいる観察派と思わしき連中がこちらを見ている。
あからさまににやにやしている奴もいれば、必死に笑いをこらえている
奴もいる。

虐待派の彼は、結局日没まで実装石を抱えて木陰で寝ていた。

さて、その後。
例の虐待派は実装石と仲良く昼寝をしていたと言う噂が広まり、
おおっぴらに虐待を出来ないでいるらしい。
時々公園で顔を見かける事があるが、目が合うと恥ずかしそうに
目礼をして、何もせずさっさと立ち去ってしまう。
人間としては結構まともな奴だったみたいだな。良かった。
当分は、平穏に実装石の観察が出来る事だろう。
(10.8.13投下スクを微修正)



いつものように公園へ実装石の定点観測に出かけ、広い公園に点在するコロニーを
のぞいてまわる。特に変わった事は無かったが、最後にまわったコロニーの
実装石にとっては深く掘られたトイレの糞溜まりの中に、禿裸にされ四肢を食いちぎられた
仔実装が血涙を流して仰向けに浮かんでいた。
確かこのコロニーの連中は糞虫ばかりだったな。その中で１匹だけまともそうな仔実装が
いたが、虐められていたっけ。恐らくこいつがその仔実装なのだろう。可哀想に。
冬に備えて家畜にされてしまったらしい。救ってやりたい気持ちは有るが、ぐっと
我慢してその場を離れた。実装石に直接手を出してはいけないのが観察派の原則だ。
嫌な気分を切り替える為に、芝生で遊んでいた実装親子にちょっかいを出した後
その辺に有ったベンチに座り、今日撮ったデジカメ映像とメモの整理をし始める。
夏の間はとても無理だったが、最近ようやっと涼しくなって来たから出来る事だ。
と、
「ヒャッハー！」
例によって虐待派が「の、様な物」を振り回しながら公園に走り込んで来た。
何もそこまでテンプレに徹しなくても良いのに。
ん？見ない顔だな。新参者か。この夏の間に実装虐待に目覚めた輩だな。
新参者は俺の目の前を通り、一直線に糞虫コロニー目指して走って行く。糞虫虐専か。良い事だ。
…あれ？
糞虫コロニーに突撃した新参者の「ヒャッハー」が聞こえて来ない。変だなと思っていると
「こおの糞野郎共があああああああ！！！！」
虐待派とは思えない怒気を含んだ咆吼が聞こえて来た。
その後、ダンボールの潰れる音、実装石達の悲鳴、肉の弾ける音がしばらく続いた。

少しの間を置いて、コロニーの有った茂みから新参者が出てきた。全身に実装石の返り血を浴びて
赤緑色になり、物凄い形相で歩いて来る。「の、様な物」はベルトに差し、大事そうに何かを
抱えている両手は、実装石の糞でまみれていた。
見てみると新参者の抱えている物は、あの、糞溜まりに落とされていた仔実装だった。
新参者に声をかける。
「おい、兄ちゃん」
「ああ！？」
物凄い形相でにらむ新参者に、持っていたタオルとコンビニ袋を黙って差し出す。
「あそこに水道があるから」
しばらく立ちつくしていた新参者は、タオルと袋を受け取ると、ぼそっと言った。
「…ありがとうございます」
水場に向かう彼の背中を見送りながら、虐待派を気取る連中にも良い奴はいるんだな、と思った。
(10.9.21投下スク)