タイトル:【馬・虐・カオス・クトゥルー】 続・桃の節句ス-MEN
ファイル:端午の節句ス-MEN.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:547 レス数:5
初投稿日時:2017/04/30-01:30:34修正日時:2017/05/07-02:15:11
←戻る↓レスへ飛ぶ

【端午の節句ス-MEN】


※この作品は、拙作「桃の節句ス-MEN」の続編です。
 未読の方は「桃の節句ス-MEN」を先に読んでおくことを
 強く推奨いたします。

※この作品には、拙作「聖バレンタインデーの虐殺」「ホワイトデー計画」
 のヒロイン「歳月 亜季(とし あき)」と「シン・実装石」のヒロイン
 「歳子 明子(とし あきこ)」がカメオ出演していますが、
 それほど重要な役でもないので、未読でも支障ありません…多分。


*** *** *** *** *** *** *** *** ***


『ダンゴ見つけるデスゥ!』

『『『『『見つけるデスゥゥゥ!!!』』』』』

『古い家のダンゴに願えばなんでも望みが叶うデスゥ!』

『『『『『叶うデスゥゥゥ!!!』』』』』

『この「古い家異本」にそう書いてあるデスゥ!』

『『『『『あるデスゥゥゥ!!!』』』』』

『ワタシ達の救世主、あの黒いニンゲンが
 ワタシ達をダンゴ秘密教団の楽園に導いてくれるデスゥ!』

『『『『『ダンゴ!ダンゴ!ダンゴ!ダンゴ!ダンゴ!』』』』』


*** *** *** *** *** *** *** *** ***


「屋根よ〜り〜高〜いウジの〜ぼ〜り〜♪」

山中にある小さな集落の古い一軒家の屋根の上で
調子っぱずれな歌を歌っている黒い服の男。
その手には三匹のウジ実装が刺さった竹串。
三匹とも頭を貫かれているが、不思議なことに元気に生きており、
風に泳ぐ鯉のぼりのように体をくねらせている。

『高いレフ〜。いい眺めレフ〜。』

『見るレフ〜、ニンゲンがゴミのようレフ〜。』

『『『『『レピャピャ!レピャピャピャ!!!』』』』』

大きな皿の上に置かれた豆腐やチーズには
同じように生きたウジ実装を三匹ずつ刺した串が
20本ばかり立ててある。

「もうそろそろいいじゃろう。」

「では始めるか。」

黒い服の男達の一人が指を鳴らすと小さな火が現れ、
豆腐やチーズの周りに置かれた桜のチップに燃え移る。
すかさず別の男が小さな穴を開けた一斗缶を皿にかぶせる。

『な、なんレフ!?』

『暗いレフ!』

『けむいレフ!』

『ドレイニンゲン、灯りをつけるレフ!』

『換気扇を設置するレフ!』

『環境の改善を要求するレフ!』

『謝罪と賠償も要求するレフ!』

『とにかくなんとかするレフ〜!!!』

活きウジの燻製。
もちろん豆腐やチーズも一緒に美味しい燻製になる。
お手軽なアウトドア料理だ。

「やれやれ、最近のウジ実装は妙に賢くなりおって煩いのう。」

「そこが面白いんじゃないですか。」

既にチータラや裂きイカ、柿ピー等を用意していた男達は
ウジ実装の悲鳴を肴に屋根の上でビールや日本酒を飲み始める。


*** *** *** *** *** *** *** *** ***


「あれ、店長?今日はお店に来る日でしたっけ?
 スクの方は順調に書き進んでますか?」

実装ショップ『ミドリの小人』でアルバイトをしている
女子大生の歳子 明子(とし あきこ)は、
年を取っているのか若いのかよくわからない
背の高い男に話しかける。

「ちょっと近くに用事があったのでね。
 ついでに店の様子も見ておこうかな、と。」

「店は順調ですよ。
 グッズも実装石も前年同月と比べて微増ではありますが、
 売り上げが伸びています。」

「うん、結構、結構。
 これもひとえに看板娘のトシ子君のおかげかな。」

「そう思ったら給料を上げてくださいよ。」

本名ではなく愛称で呼ばれた明子は
親し気というよりは馴れ馴れしい言葉遣いで、
店長との会話を楽しんでいるようだ。

「うちの時給は地域で一番だよ?
 そのうえ給与以外の余禄もあるし、
 まだ何か欲しいのかい? 」

「だって店長、この前私の時給を下げたじゃないですか。」

「それは君が勝手に危険な改造実装を作って、
 お客さんに売ったりしたからでしょ。
 反省してないなら、減給期間を延長しちゃうよ?」

「いや、反省していないというわけでは…
 ただちょっと言ってみただけですぅ。
 それよりも店長、本業であるはずのショップが「ついで」
 なんて不謹慎ですよ。
 いったい、どんな用事だったんですか?」

「んー、ちょっと暗躍をね。」

「暗躍…ですか?」

「そうそう、小豆を煮てから砂糖を練り込んで、
 ドロドロの餡(あん)になったら
 水分が飛ぶまでガスバーナーで加熱して…って、
 それは餡焼くやがなー!」

「なんです、それ?」

「いや、だから暗躍と餡焼くをかけて…ね?」

「餡…焼く?」

「ゴメン、気にしなくていいから、
 仕事を続けてください。」


*** *** *** *** *** *** *** *** ***


数日前の深夜。

町外れの公園で集会を開いていた実装石達が、
整然と列を作って歩き始めた。
向かう方角にあるのは山。
山のどこかにある古い家には
どんな願いでも叶えてくれるというダンゴがあるという。

町から離れるにつれ道の両側の民家がしだいにまばらになり、
茶畑やイモ畑が増え、やがて杉林になる。
実装石達は黒い服の男の言いつけを守って畑の農作物を荒らすこともせず、
ただ歩き続ける。

飼いも野良も、成体も仔も混じった謎の集団。
実装石とは思えないほどのスピードで、
実装石とは思えないほど規律正しく、
ただひたすらに歩き続ける。
昼も夜も。
ただひたすらに。

どんな願いでも叶えてくれるというダンゴを求めて。


*** *** *** *** *** *** *** *** ***


「本来ならば我が主、蓮田(はすた)が出席するべきところ、
 不在のため、失礼だとは思いながら…」

「はっはっは、今更な〜に堅苦しい事を言っとるんだ、
 倍悪兵衛(ばいあくへえ)殿。」

「そうそう、蓮田殿の代わりを倍悪兵衛殿が務めるのは、
 いつものことではないか。」

活きウジの燻製が出来上がるのを待つ間も
黒ずくめの男達は酒を飲みながら、
仕事の話や職場の人間関係の話で盛り上がっている。

「蓮田殿も倍悪兵衛殿という優秀な部下がいるからこそ、
 安心して諸国漫遊の旅に出かけられるのであろうが。」

「ほんに、倍悪兵衛殿はまだ若いのによく頑張っておられる。」

「それにつけても、蓮田殿は風の向くまま気の向くまま、
 まさに風来坊ですな。」

「風属性だけにな。」

「「「「「はっはっはっはっは!」」」」」


*** *** *** *** *** *** *** *** ***


「あれ?店長、まだ店にいたんですか?
 デスゥなんとかいうスクの締め切りは大丈夫なんですか?」

「トシ子君、まだ店にいたはひどいなあ。
 まるで僕が役立たずのお飾り店長で、
 店にいると優秀なバイトのトシ子君の仕事の邪魔ばかりしていて、
 スクを投稿してもダウン数は伸びないし、感想掲示板のレスも少ない
 不人気スク師で、生きているだけで限りある地球の資源を無駄遣いしている
 最低な寄生虫野郎みたいじゃないか。」

「いや、私はそこまでひどい事は言ってませんが…」

「はっはっは、それはまあ冗談だけどね。
 でもプロの小説家と違って締め切りがあるわけじゃないし、
 季節ネタや時事ネタでなければ投稿のタイミングも自由だし、
 いや、季節ネタや時事ネタであっても投稿のタイミングは自由だし、
 結構楽しいものだよ、物語を作るというのは。」

「ふーん、そういうものですか。」

「それで、なんで僕がまだ店でウロウロしているかと言うとだね、
 実はついさっき、古い知り合いから仕事を頼まれたんだよ。
 集団で歌って踊れるような賢い実装石を48匹集めて欲しい、ってね。」

「えー、そんなの無理ですよ。
 歌って踊るだけならいくらでもいますけど、
 集団行動ができる実装石なんて、考えられないです。」

生まれながらにして利己的な実装石が他の実装石と力を合わせることなんて、
まずあり得ない。
少石数の家族ならともかく、48匹なんて大石数で歌って踊るなど
まず不可能だ。
実装石を知っている人間にとっては常識である。

「そうでもないさ。条件次第では糞蟲でも集団行動を取ることがある。
 要は自分の利益になると思い込ませてやればいいのさ。」

店長と呼ばれた男は、窓から山の方を見ながら答えた。

「それに紳士とのつながりは大事にしておかないとね。
 実装石に関わる者として。」


*** *** *** *** *** *** *** *** ***


『全体、止まるデス!』

先頭を歩いていた実装石が号令をかけると、
行進していた実装石の列はピタッと歩を止める。

林の中の開けた場所。
地面に置かれた皿の上には柏餅が山盛りになっている。

『休憩デス。この柏餅はダンゴからの御恵みデス。
 感謝していただくデス。』

この柏餅は公園を出発する際に全員に配られたものと同じ柏餅だ。
凄く甘くて凄く美味しい。
食べると力が湧いてくる。
疲れを忘れ、長い間空腹を感じなくなる。
特別な柏餅だ。

ここで普通の実装石なら我先にと争って
柏餅を奪い合うところだが、
この集団は行儀よく列を作って並び、
一匹が一個を手に取ると次の実装石に場所をゆずっていく。
そして全員に柏餅が行き渡るのを待って、
全員で食べ始める。

『レピャッ!』

実装石に齧られた柏餅が悲鳴を上げる。
柏の葉につつまれているのは餅ではなく
ウジ実装だ。
腹の中には緑色のウンコの代わりに
甘くて美味しいアンコがたっぷりとつまっている。

『レピャッ!』

実装石達は同族食いというタブーを
まったく気にせずに、ただ黙々と柏餅を食べる。


*** *** *** *** *** *** *** *** ***


『レピャッ!』

「…まったく、あの時の成後 補鉄夫(なるあと ほてぷ)の
 泣きっ面といったら…」

「普段は這い寄る混沌だのエリアマネージャーだの威張っているくせに、
 久遠牙(くとおが)殿の炎には、手も足も出んかったのぉ。」

「「「「「はっはっはっはっは!」」」」」

『レフレフー…』

完成した活きウジの燻製をつまみながら
酒を飲む忍業の旧月のメンバー達。
実糞被害から世界を守る正義の味方といっても、
上司の悪口で盛り上がるのは普通のサラリーマンと同じだ。

「成後補鉄夫と言えば風の噂に聞いたのだが、
 種部 肉裸(しゅぶ にくら)殿に接触したらしい。」

「ほう、それはそれは。
 種部肉裸殿が覚醒するきっかけになるやもしれませんな。」

『レピャ!』

「種部肉裸殿の技も、久しぶりに見たいものじゃな。」

「やはり男ばかりだと色気というものがありませんからな。」

『レフ…』

「特に種部肉裸殿の技は、色々とエロエロだからのう。」

「「「「「はっはっはっは!」」」」」

『レピャッ!』

「しかし、いまだ種部肉裸殿が覚醒した気配は無い。
 ということは成後補鉄夫め、失敗しおったか。」

「焦ることもあるまい。種部肉裸殿もいずれ覚醒しよう。
 楽しみが少し先に延びただけのこと。」

『レピャ!』


*** *** *** *** *** *** *** *** ***


実装石達が旅立つさらに数日前のこと。

「ボンジュール、歳月(とし)先生。」

「えっ、店長さん!?どうしてここに?」

授業が終わり、職員室で日報の作成も終わった双葉高校の化学教師
歳月 亜季(とし あき)は、表向きは明日の実験の準備という口実で、
化学準備室でコーヒーを飲みながら
実装石を虐待する新しい方法をぼんやりと考えていたところだった。

防犯上の理由から、外部の人間が勝手に校内に入ってくることはない筈だが、
実装ショップ『ミドリの小人』の店長、鳴音 玄人(なるおと くろひと)が
双葉高校内に現れたのはこれで2度目である。

「ちょっと歳月先生にご相談したいことがありまして…。
 あ、コーヒーいい香りですね。ブラジル産ですか。」

「インスタントです。店長さんも一杯いかがですか?」

「メルシー。
 なんか催促したみたいで済みませんね。
 あ、砂糖は1個、ミルク多目でお願いします。」

ポットの湯をビーカーに入れアルコールランプに火を点ける亜季に、
図々しくも好みの味付けまで指示した鳴音は、
黒いスーツのポケットから何か暗赤紫色の物が入っている
フリーザーバッグを取り出した。
3個…4個…5個…6個…7個…8個…
さらに反対側のポケットからも
6個…7個…8個…

「まるで手品みたいですね。
 それで、中身は何です?」

「小豆を煮て砂糖を練り込んだ、いわゆる餡子(あんこ)という物です。」

亜季はコーヒーを淹れる手を止めてフリーザーバッグのジッパーを開き、
中身を覗き込む。

「ははあ、これは小倉餡ですね。
 店長さんの手作りですか。」

「ご名答。実装石に食べさせてやろうと思いまして。」

「店長さん、いつから愛護派に宗旨替えを?」

客用のカップにインスタントコーヒーを入れて
ビーカーで沸かしたお湯を注ぎながら尋ねる亜季。
もちろん本気で質問しているのではなく、鳴音をからかっているのだ。

「やあ、これはいわゆる上げ落としで言うところの上げ用ですよ。
 それで、通常より腹持ちのいい餡子が作りたいので、
 先生の「殺実装剤」に使われていた吸水樹脂を少し混ぜたら
 どうかなー、と思いまして。」

「なるほど。でも上げ用ならアクリル系やシリコン系よりも
 グルコマンナンが向いているかもしれませんね。
 はい、コーヒーどうぞ。砂糖1個ミルク多目です。」

「ありがとうございます。
 それで、グルコマンナン…ですか
 どんな物なんです?」

「コンニャクの主成分である水溶性多糖類で天然の高分子吸収体です。
 カロリーが無いので人間のダイエットにも使われている安全な
 …聞いたことありませんか?」

「あー、なんかなんとなく聞いたことがあるような…。」

「グルコマンナンを混ぜれば膨潤作用で満腹感も得られるし、
 消化吸収が遅くなるので腹持ちが良くなると思います。
 そうだ、上げに使うなら砂糖だけじゃなく人工甘味料も添加して
 激甘にしちゃいましょう。
 砂糖の200倍甘いアスパルテーム、同じく200倍甘いアセスルファムカリウム、
 600倍甘いスクラロースなんかは甘みは強いけど不自然な味になるので、
 2種類以上をブレンドするのが最近のトレンドですね。」

「アスパ…?アセス…?」

「そうするとグルコマンナンを混ぜるにはこの小倉餡はちょっと水分が
 多いので、加熱して余分な水分を飛ばしましょう。
 鍋が無いから…金網の上にアルミホイルを敷いてブンゼンバーナーで
 焼けばいいかな?」

「餡を焼くんですか?」

「餡を焼く…
 んー、焼くって言うか…
 焼く…のかな?」

「とにかく餡を焼いて水分を飛ばすわけですね。
 あと、疲れを忘れるように興奮剤的なものも配合したり
 することもできちゃったりなんかします?」

「疲れを忘れさせる興奮剤ならアンフェタミンとかメタアンフェタミンが
 最強ですが、法律上の問題もあるので、カフェインで代用しましょう。
 ちょうどインスタントコーヒーがあるので、抽出できるし…。
 あぁーっ、そうだっ!
 餡に練り胡麻も混ぜてコクを出しちゃったりしても美味しいかもっ!
 材料費はもちろん店長が全額出してくれるんですよねっ?」

「え、ええ、もちろんですとも。」

「あとはさらに食いつきが良くなるように、
 バニラエッセンスとかで甘い香りを付けてやればパーペキだわ!
 フッフッフッフ…」

どんどんアイデアが湧いて出る歳月亜季を見て
苦笑する鳴音玄人だった。


*** *** *** *** *** *** *** *** ***


今日も林の中の開けた場所には大きな皿が地面に置かれ、
柏餅が山盛りになっている。

『休憩デス。この柏餅はダンゴからの御恵みデス。
 感謝していただくデス。』

1日に1回か2日に1回。
実装石達が疲れたり空腹で歩けなくなる頃に休憩所が現れ、
そこには必ず柏餅が置かれている。
凄く甘くて凄く美味しい。
食べると力が湧いてくる。
疲れを忘れ、長い間空腹を感じなくなる。
特別な柏餅だ。

ダンゴがあるという古い家を探し求める実装石達は
行儀よく並んで、全員で柏餅を食べ始める。

『レピャッ!』

実装石に齧られた柏餅がいつものように悲鳴を上げる。
ウジ実装の腹の中に緑色のウンコではなく
甘くて美味しいアンコがたっぷりとつまっているのも
いつもの通りだ。

『『『レピャッ!』』』

ダンゴからの恵みだという柏餅があるおかげで食べる物には困らないが、
実装石達はこの旅に出てから一睡もしないで歩き続けている。
いったい何日眠っていないだろうか。

幸いにして虐待派に殺されたり車にはねられたり
ネコやクロバサに食べられたりした者はいない。
体力の限界を超えて歩けなくなったり偽石が崩壊して
脱落した者もいない。

飼いも野良も、成体も仔も、一緒に出発した仲間は
一匹も欠けること無くここまで来ることができた。
それもこれもダンゴからの恵み、特別な柏餅のご利益であろう。
しかしいつまで歩き続ければ古い家に着くのだろうか。

まだ見ぬダンゴを山に求めて、
実装石の集団は歩き続ける。


*** *** *** *** *** *** *** *** ***


「ほーれほれ、もっと飲まんかい。」

「もう充分にいただいて…っとっとっと。
 すみません、ありがとうございます。
 それでは御返杯を…」

「これはかたじけない。
 おっとっとっと…。
 …ん?」

「お客さんのようだな。」

「うむ。」

数瞬後、山中の集落を囲む林の中から現れた実装石の群れ。
成体だけではなく仔も何匹か混じっているが、
服や体の汚れ具合から見て、かなり遠くから渡りをしてきたようだ。

『『『『『ダンゴ、ダンゴ、ダンゴ、ダンゴ…』』』』』

「ほほう、今日は端午の節句ではなく
 団子の節句らしいぞ。」

「不快者共(ふかいものども)か。
 わざわざ我らの酒宴に現れるとは、命知らずな奴らよ。」

「はて?渡りにしては飼いが混じっているな。」

「元飼いでございましょう。」

「それにしてもこやつら、妙な雰囲気ですぞ。」

体はやせ衰えているが、目にはギラギラとした生気があふれている。

『見るデス!古い家デス!
 きっとあそこにダンゴがあるデス!』

『『『『『ダンゴォーッ!ダンゴォーッ!』』』』』

屋根の上の黒ずくめの男達が目に入らないのか、
古い民家に向かって殺到する実装石達。

「どおれ、ちょっと相手してやるか。」

ある男は屋根から風のように飛び、
ある男は炎がゆらぐように姿が消え、
ある男は水が染み込むように屋根の中に消え、
ある男は飛び降りる前から地上に立っていた。

次々と目の前に現れた男達にやっと気づいた実装石達は
キキキーッというブレーキ音が聞こえそうな勢いで急停止した。

『デデッ!あなたたちは何者デスッ!?』

「なんだかんだと聞かれたら」 

「答えてあげるが世の情け」 

「実装の糞害を防ぐため」 

「世界の平和を守るため」 

「愛と真実の虐殺を貫くラブリーチャーミーな正義の味方」 

「深海の支配者、苦取夫(くとるふ)!」

「くすぐる悪夢、内藤権太(ないとうごんた)!」

「一にして全、夜具外雄(よぐそとおす)!」

「夢見る混沌、浅遠洲(あさとおす)!」

「灼熱の炎、久遠牙(くとおが)!」

「宇宙駆ける疾風、倍悪兵衛(ばいあくへえ)!」

「団一致の会極東第三遊撃部隊、忍業の旧月のみんなには
 ホワイトホール、白い明日が待ってるぜ!」

「なーんつってな。」

(ちゅどーん!)

なぜか地面が爆発し、6色の煙が立ち昇った。


*** *** *** *** *** *** *** *** ***


『みんな黒い服だけどナルオトホテプさんとは違うデス。
 敵デス?味方デス?』

「ほう、成後補鉄夫が裏で糸を引いているのか。」

「我々のところに送り込んできたということは、
 こいつらを殺せという意味であろうかのう。」

『な、何を言ってるデス!ワタシ達はダンゴを探しに来たのデス!
 ダンゴを見つければどんな夢も叶うとナルオトホテプさんに教えてもらったデス!
 この「古い家異本」にもそう書かれているのデス!』

「古い家異本って…おめえ、そりゃあただの枯れ葉じゃねえか。」

『デッ!?デデッ!?』

確かに実装石が大事そうに持っていたのはただの枯れ葉の束だった。

『そんな、なんでデスゥ!?』

「さて、それじゃあ、そろそろ死のうねぇ。」

内藤権太が名状しがたきバールのようなものをスラリと抜いた。

「いや待て。その前に…」

ヒュッ!

カツ!カツ!カツ!

夜具外雄が投げた串が地面に刺さった。
活きウジの燻製を作るのに使っていた串である。

「あっれえ?見つかっちゃいましたか?」

人間が隠れられるはずのない細い竹の陰から黒いスーツを着た男が現れた。
人懐こい笑顔を浮かべたその男は痩せ型で背が高く、
若いのか年をとっているのかよくわからない不思議な雰囲気をまとっていた。


*** *** *** *** *** *** *** *** ***


「竹の細い影を使って影縫いの術を防ぐとは、
 さすがですな、エリアマネージャー殿。」

皮肉なのか本気で感心しているのか、
どちらとも読み取れない表情で
苦取夫が話しかける。

「影縫いの術とは物騒だなあ。
 もし本当に当たったらどうするつもりです?」

「影縫いの術程度のもの、あなたならどうという事もないでしょう。」

一歩前に出て黒いスーツの男と向き合ったのは
炎属性の術を得意とする久遠牙である。

「這い寄る混沌、無貌の神、黒い男、
 そして我らが有能なエリアマネージャー。
 この実装石の群れはあなたの仕業ですね。」

「糞蟲を潰すのは簡単すぎて面白くないですからねえ。
 希望に向かって努力した末に絶望するコースに乗せて
 観察したら面白いかなあ…と。
 これでも結構手間暇をかけているんですよ。
 栄養価は低いのに空腹感や疲労感を感じなくなる餌を
 美人の先生に開発してもらったり…」

「それは楽しそうですなあ。」

ピリピリと張り詰めた気を放つ久遠牙とは異なって
好々爺然とした夜具外雄がにこやかに相槌をうつ。

「いやいや、そちらこそ屋根の上で
 活きウジの燻製を作りながら酒を飲んだりするのは
 なかなかに楽しそうですねえ。
 色々と話もはずんでいたようで。」

「はっはっはっは。」

「あっはっはっは。」

『デスゥ?』

実装石達は何が起こっているのか理解できないでいた。
同じ場所でありながら違う空間にいて、
異なった時間の流れの中にいる黒ずくめの男達が
何を話しているのかまったく聞こえなかったからだ。


*** *** *** *** *** *** *** *** ***


「絶望するのを観察するってえことは、
 何か面白い趣向でも用意してるのかい?」

上司ではなく同僚と話すような気軽さで
浅遠洲が話しかける。

「面白いって言うとハードルが上がっちゃうんでアレなんですけどね。
 まあ、こうやって殺そうかなあって計画は一応…。」

その言葉を聞いた内藤権太が
倍悪兵衛の陰にこっそりと隠れる。

「それじゃあ、我々は手を出さずに
 エリアマネージャーの腕前を見物させてもらおうか。」

「うむ…」

夜具外雄がパチンと指を鳴らすと2つの空間がつながり、
同じ時間が流れ始めた。

「それじゃあ、実装石のみなさんよく頑張りましたー。
 こちらが古い家神殿となっておりまーす。」

ツアーガイドのようなノリで
実装石の群れを一軒の古い民家の中に誘導する成後補鉄夫。

『デ?大丈夫デス?
 さっきの怖いニンゲン達に殺されたりしないデス?』

普通ではない男達に殺されかけた実装石達は何度も何度も後を振り返って、
黒ずくめの男達が民家の中に入って来ないことを確認しながら、
成後補鉄夫の後について行く。

「さあさあ、こちらへどうぞー。」

玄関から勝手にあがりこむと、部屋の中央には囲炉裏がある。
典型的な古民家のイメージだ。
そして火のついていない囲炉裏の前には
三方(さんぽう)に白い紙を敷いて月見団子のように盛り付けた
たくさんの団子があった。

『ダンゴ!みんなダンゴデスゥ!』

『やったデス!とうとうダンゴを手に入れたデスゥ!』

『やっと長くて辛かった旅が報われるデスゥ!』

『これで貧乏な野良の生活ともおさらばデス!
 飼いになってドレイニンゲンに世話をさせるデスゥ!』

『スシでもステーキでもコンペイトウでも食べ放題デスゥ!』

『ワタチは躾けと称してワタチを虐待する黒いジャケットのニンゲンをブチ頃すテチ!
 そしてもっと優しい愛護派のニンゲンをドレイにするのテチ!』

「みなさんすばらしい夢をお持ちですねえ。
 さあさ、それではみなさん団子を一つずつどうぞ。」

口々に願望を垂れ流す実装石達にも笑顔を絶やさず、
白くて丸いダンゴを実装石に手渡しで配る成後補鉄夫。

『デ?ワタシの分が無いデス。』

「もちろん有りますよ。
 あなたは旅の間、リーダーとしてみんなを率いてきたので、
 後で特別なダンゴを用意してあるんです。」

成後補鉄夫がリーダー格の実装石の耳元で囁く。

『特別なダンゴデスか!?すごいデスゥ!
 ワタシはセレブデスゥ!』

「団子は全員に行き渡りましたか?
 それじゃあ、一口に食べちゃってくださーい。」

『『『『『『『『『『デッスゥー♪』』』』』』』』』』

リーダー格の実装石以外の全員が口の中に団子を放り込み、
クッチャクッチャと咀嚼する。

『甘いデスゥ!』

『美味しいデスゥ!』

『でもなんだか気分が…ゲッ、ゲゲッ!』

団子を食べた実装石達が総排泄孔から、口から、
さらに鼻からも耳からも目からも、
全身の穴という穴から糞をあふれさせて悶絶する。

『みんなどうしたんデス!?
 ナルオトホテプさん、これはいったいデスゥ?』

「ウチのバイトの女の子は、市販の薬を組み合わせて
 新しい効果の薬を作るのが得意なんですよねえ。」

『そんな話はどうでもいいデス!
 みんなが!みんながデスゥ!』

「これは低圧ドドンパと弱嘔吐性ゲロリ、実装軟化剤、
 さらに低濃度コロリを絶妙な割合で混合して作った毒餌で、
 穴開き死食(あなひらきししょく)っていうらしいですよ。」

『アナヒラキシーショック…デスゥ?』

「このままではみんな何時間も苦しんでから死にます。
 糞まみれでね。」

『そんな、なんでこんな事をするデス!?
 あなたはワタシ達を救ってくれるんじゃないんデスか!?』

「私はね、実装石が大嫌いなんですよ。
 特に自分勝手でワガママで身の程を知らない糞蟲がだぁーいっ嫌いなんです。」

『ワタシ達は幸せになりたいだけデスゥ!
 それのどこがいけないんデスゥ!?』

「自分で努力もしないで、他人に幸せにしてもらう事ばかり夢見る、
 自分勝手でワガママで、感謝する事を知らない糞蟲ども。
 それのどこがいけなくないというんです?」

『そんな!それ以外にどんな生き方があるというんデス!』

「ほらね、そんな糞蟲だからこそあなた達は選ばれたんですよ。
 私の実験に。」

普段は感情が読めない笑顔を浮かべている成後補鉄夫が、
今は怒りや憎しみの感情を隠しもせずにリーダー格の実装石を責める。

「さあ、食べなさい。
 あなた達が喉から手が出るほど欲しがっていた団子です。」

『嫌デスゥ!それを食べたら苦しんで死んでしまうデスゥ!
 ワタシはまだ生きたいデスゥ!幸せになりたいデスゥ!』

「あなたには幸せに生きる未来などありません。
 どんな苦しい死に方をするか、選べるのはそれだけです。」

リーダー格の実装石の頭の中に突然、自分が虐待されているビジョンが浮かんだ。
強制出産させられた仔供達は目の前で虐待されて次々と死に、
それでもさらに強制出産させられた仔供達は互いに殺し合うように仕向けられ、
何ケ月も手足を切り取られ、針で全身を刺され、火で焼かれ続け、
満足に再生もできない干物のような体になっても活性剤に漬けられた偽石のせいで死ぬこともできず、
殺して欲しいと願うだけの毎日。
最後には偽石が消耗しきってしまい黒い涙を流しながら苦しんで死んでゆく自分の姿を。

『そんな!いくらなんでもこれはひどいデスゥ!』

「どっちの死に方を選びますか?
 死ぬよりもつらい虐待を延々と受け続けてから死ぬのと、
 毒入り団子を食べて仲間と一緒に死ぬのでは?」

『どっちも嫌デスゥ!』

「団子を食べないのなら、虐待ですね。
 この世の苦痛を全て体験する虐待のフルコース。
 ちゃんとデザートも用意してありますよ。」

『そんな…デスゥ…』

リーダー格の実装石は観念したのか、ゆっくりと団子に手を伸ばした。

「そうです、それでいいんです。」

しかし目をつぶり、団子を口に入れる寸前で手が震えて止まってしまう。

『やっぱり嫌デズゥー!死ぬのは怖いデズゥー!』

「では虐待の方がいいんですね?」

『虐待は嫌デスゥー…死ぬのも怖いデスゥー…
 嫌デスゥー…怖いデスゥー…嫌デスゥー…怖いデスゥー…』

リーダー格の実装石の両目から黒い涙が流れ出したかと思うと、

パキン

と固い物が砕ける音がした。
それきりリーダー格の実装石は何も言わなくなった。


*** *** *** *** *** *** *** *** ***


パチパチと拍手の音が響いた。

「いやー、言葉責めだけで偽石を崩壊させるとは、
 面白いものを見せてもらいました。」

いつの間にか成後補鉄夫の近くには忍業の旧月のメンバーが集まっていた。

「実装石の死体と糞を片付けたら、一緒に一杯やりませんか。
 まだ酒も活きウジの燻製も残ってるんで。」

「ははは、実はそれが目当てで実装石どもをここに送り込んだんですよ。
 活きウジの燻製に目が無いもので。」

「こいつは予想外だ、一本とられた。」

「はっはっはっはっは。」

楽しそうに笑うメンバーの輪から離れた場所で、
久遠牙だけが不機嫌そうに黙って立っていた。


【終】





[スク投稿リスト]
・マラ実装エステの時代   08.01.02
・デスゥ・ノート①     08.01.30
・デスゥ・ノート②     08.02.01
・デスゥ・ノート③【完】  08.02.03
・48匹目の実装石     11.01.15
・シン・実装石       16.10.20
・聖バレンタインデーの虐殺 17.02.11
・桃の節句ス-MEN     17.02.24
・ホワイトデー計画     17.03.07
・トシアキ兄弟       17.04.15
・本作           17.04.30


(スクの日付は初稿の完成日であり、修正版と入れ替えたスクは
 スクアップローダーの表示年月日と異なる場合があります)

。

■感想(またはスクの続き)を投稿する
名前:
コメント:
画像ファイル:
削除キー:スクの続きを追加
スパムチェック:スパム防止のため7004を入力してください
1 Re: Name:匿名石 2017/04/30-09:58:52 No:00004673[申告]
上げ落としはいいものだなあ
2 Re: Name:ジャケットの男 2017/05/04-02:18:29 No:00004679[申告]
新作ありがとうございます。開幕から爆笑しました。
実装石が深き者ども扱い(笑)
確かに(欲)深き者どもなので適役ですねw

そしてルルイエ!ダゴン!
ニャル様がエリアマネージャーだって!?(爆笑)

躾嫌いの仔実装…よし、じゃあ家においで(/・ω・)/
3 Re: Name:デスゥ・ノートの作者 2017/05/07-07:45:39 No:00004686[申告]
ある時は団一致の会極東支部の有能なエリアマネージャー、成後補鉄夫。
またある時は実装ショップ『ミドリの小人』の役に立たないお飾り店長、鳴音玄人。
しかしてその実態は、あまり人気のないスク師、デスゥ・ノートの作者でございます。

えーと、このたびは有名な人気スク師のジャケットの男さんにお褒めいただき恐縮であります。(土下座)

また、自分のスクに黒いジャケットの男を無断で登場させてしまって、どうも申し訳ございません。(ジャンピング3回転半土下座)

かくなるうえは、この「超ハイレグのエッチな水着」でティンダロスの猟犬を召喚して食べられるという荒業でお詫びを…
おっ、さっそく来やがったな!
痛てっ!
このお、噛んだら痛えじゃねえか!
痛てて、痛てて!
やっぱり誰か、助けて!助けてーっ!
(ムシャムシャ、バキボキ、ガリゴリ、ゴックン!)
4 Re: Name:匿名石 2017/10/17-01:37:38 No:00004993[申告]
旅をする謎の実装石の集団、不思議な能力を持つ黒ずくめの男達、実装ショップの頼りにならない店長・・・

三者の視点で進んでいく三つの異なったストーリーが最後にひとつにつながるという凝った構成は実装石のスクでは珍しい

クトゥルー神話やポケモンなどの元ネタを知らなくてもそれなりに楽しめる内容だがギャグテイストで虐待シーンをサラッと軽く流してしまうのがこの作者の持ち味なので
ネチっこく丁寧に描写されている虐待シーンが好きな人にはちょっと物足りないかも
5 Re: Name:匿名石 2021/05/03-22:05:27 No:00006333[申告]
今年も5月5日、端午の節句がやってくるなぁ
戻る