タイトル:【愛虐】 愛され誤られる幸運と愛され護られる不運
ファイル:【愛虐】動物好きだが愛誤はしない.txt
作者:ジャケットの男 総投稿数:27 総ダウンロード数:1523 レス数:5
初投稿日時:2017/04/22-17:57:45修正日時:2017/04/22-17:57:45
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『 愛され誤られる幸運 と 愛され護られる不運 』




※この作品は、リンガルは登場しませんが、読者用に実装石の声はバイリンガルで記載されています。
 なので作中の実装石の鳴き声は作中のニンゲンサンには通じていないことを前提にお読みください。



【動物好きの飼い主さんの朝】


…麗らかな日差しが窓辺を照らす。

目を閉じていても眩しい朝日が瞼を透かし、彼はたまらず跳ね起きる。
柔らかな羽毛布団を何とか引き剥がし、軽く伸びをする頃には、完全に日の出を迎えていた。


揺れるカーテンの隙間から漏れた光が、窓辺に置かれている家主の居ない水槽に差し込み、
必要以上に光を乱反射させていたのが彼を起こした原因のようだ。


…いや、違うか。
本来なら、この時間は水槽の家主が、回し車をカラカラと音を立てながらちょこまかしている時間帯だった。

彼が起きるまで、その家主は回し車や砂浴び場を懸命に散らかし、音を立てる。
彼が起床したことを悟ると、空になった餌皿の前で、可愛らしく鎮座して餌が補充されるのを待つ。

在りし日の水槽の家主の姿を、今でも目を閉じれば寸分違わぬ姿で瞼の裏に写すことができた。
しかし、現実には、もう、あのうるさい同居者はいない。

だが…、それも仕方のないことだ。どうしようもない、寿命だったのだから。
彼が家主の健康に細心の注意を払っていたからか、家主は本来の寿命である3年を優に越して生きていたのだ。

5年も生きれば十分だろう。


カラカラカラ……


そう思いながらも、彼は物憂げに回し車を指で弾いて空回りさせる。

車が回る。

家主のいない水槽の中で、くるくると、くるくると…。







【愛誤派なご主人様の朝】


…麗らかな日差しが窓辺を照らす。
彼女は部屋の中が温まっていく感覚にまどろんでいた。

だが、彼女の微睡を妨げる者が、けたたましい鳴き声をあげる。


「テチャァァァ!!!!(腹減ったテチ、この糞ドレイ女!)」


耳を塞いでいたとしても漏れ聞こえるほどの金切り声が鳴り響き、彼女はたまらず跳ね起きる。


「ふあぁーあ、てちちゃん、おはよー♪
 いつも起こしてくれてありがとうね〜♪」


彼女は花のほころぶような眩しい笑顔で、枕元の小さな箱の中にいるソレに話しかけた。


「テチュ〜!テチュテェェエ!(あいさつなんて糞の役にも立たないテチ!さっさとウマウマを用意するテチュ!)」


花柄のミニチュアベッドとピンクのネグリジェに身を包んだソレは、飼い主の優しい抱擁を受けながら、
さも不快な事のように、醜く顔を顰めて鳴き喚く。


「はいはい♪ 今朝ごはんにするねー♪
 ごはんができるまで、ほら、大好きなナッツを食べて待っててね〜♪」


彼女は、化粧台の上に置いているアーモンドチョコの箱から一粒チョコを取り出すと、ソレの喉元をくすぐった後に抱えさせて手渡す。


「テッチュ〜ン♪(ウマウマてっちゅ〜ん♪) カリカリカリ!
 テ!?テチャ!(は!?まったく気の利かないドレイテチ!この程度で高貴な私が満足すると思うテチ?マカダミアンナッツを常備しておけテチ!)」


ソレはいやらしく目と口元を歪めて、涎と軟便を零しながらチョコを平らげる。
数秒で食いつくしたかと思うと、彼女にむけて唾をまき散らしながら、鳴き喚いていた。


「もー、てちったら、ほんと元気ね♪
 …そういえば、あの人、最近飼ってたチビちゃんが亡くなったのよね…。
 大丈夫かしら?さみしい想いしてないかしら?何かしてあげられたらいいんだけど……。
 ああ!そうだわっ♪」


パンッ!


「テヂャ!?(ひっ!?な、なにごとテチ!?どこが爆発したテチ!?)」


彼女は名案を思い浮かべると、思わず手を打ち鳴らす。
その破裂音に驚いたソレは、忙しなく周囲を警戒して見渡していた。
驚きのあまり、軟便を垂らしたばかりの総排泄口からプリプリと新たな糞をひり出している。


「あははは、ごめんねー、てち驚かしちゃったねー。
 …ねー、てち? 私の彼がね、今とっても寂しい想いしてるんだ。
 しばらくでいいから、てちの元気いっぱいの声で応援してあげてくれない?」


彼女は、ソレのパンコンをウェットティッシュで優しく拭ってあげると
内緒話をしている少女のように、キラキラと目を輝かせてソレに囁いた。







【動物好きの飼い主さんの処にやってきた仔実装】


職場の後輩から実装石を押し付けられた。
新人指導の時に懐かれて以来、妙に馴れ馴れしい女だと思っていたが、最近は特に距離が近い。

誰から聞いたのか、彼が長年飼っていたハムスターを亡くして落ち込んでいるからと、
頼んでもいないのに仔実装石を押し付けてきたのだ。

実装石なんて飼ったことがないと言ったのだが、どうにも聞く耳を持ってくれない。
ハムスターの飼い方と変わりないなんて言っていたが、本当にそうなのか?

小さなプレゼント箱の中でガサゴソと動き回り、テーンテーンと鳴き声をあげる仔実装を抱えて、
彼は困惑しながら家路についた。


「テェ〜ン!テェ〜ン!(糞ドレイ女〜!どこいったテチ〜!はやく高貴な私を迎えにくるテチ〜!)」


箱を開けてみると、赤と緑の涙を流しながら、地団駄を踏んでいるハムスター姿の寝間着を着た仔実装の姿があった。


「テっ!?(おまえ誰テチ!?あたらしいドレイテチ!?)
 テプププ! てちゅふ〜ん♪(テプププ!新しいドレイは雄テチ!つまり高貴な私の可愛い子孫を残すための種ドレイテチ♪)」


仔実装石は、箱の中を覗き込む彼を見上げて、下卑た笑顔を浮かべながら仰向けになり股を広げる。
彼は、そんな仔の仕草を見ながら、疑問符を浮かべて見ていた。


「ん?何の仕草だ、これ?
 ハムスターと同じだとしたら…。腹を出してジタバタしてるって事は興奮してるってことかな?
 だとすると、迂闊に触ると咬まれるな。よし、このまま水槽に入れて、しばらくソッとしておいてやるか。」


彼は、仔実装の求愛のポーズを怯えていると判断し、直接手を触れる事は一切せず、
仔を箱から水槽の中に転がして移し替えた。


「テッ!?テヂャ!?(テ!?ここは何テチ!?なんで見えてるのにアッチに行けないテチ!?)
 テジャ!テヂュ〜!(おい!!種ドレイ!私は高貴な仔実装テチ!早くそこのフカフカ布団の上で寝かせろテチ!)」


仔実装は水槽のガラスに張り付きながら、興奮した様子でテチテチと鳴いている。
そんな姿を見て、ひどく興奮している事を悟った彼は、新しい環境にハムスターを慣らすための小道具を使用することにした。


「まあ、そりゃいきなり知らないところに移されたら、混乱するよなあ。お前も災難だよな。
 なるべく刺激しないようにするから。安心してくれ。」


彼は、優しい手つきで水槽に真っ黒の布を掛ける。
視覚を遮られた仔はパニックになり、水槽の中を出鱈目に走り回る。


「テチャアアア!!(真っ暗怖いテチー!!)」


ガンッ!ゴンッ!


「テベ!?(イタイイタイテチ!?なんか堅いのにぶつかったテチ!?)」


ジャッジャッジャッ!


「ヂィィィィ!!!(ひぃぃあああああ!!!!なんかお靴の中に堅い粒が入ってきたテチ〜!!!)」


カララララッ!


「テヂャアアア!!!(ぎゃああああああ!!!手と足が変なのに絡まって動けないテチ!コレぜったい拷問器具テチ!ギャクタイハテチ!!!)」


黒い布に覆われた水槽から忙しなく鳴り響く音は、在りし日の彼の同居者を彷彿とさせた。


「うん、うるさいのはアレだが…。なんだろう、あいつが戻ってきたみたいだな…。」


彼は、水槽の中を楽し気に騒ぎまわる新たな小さい同居人に苦笑しながら床に就いた。








【チョコ?ひまわりの種?とんでもない、そんな健康に悪いものあげるわけないでしょ!】


ピピ!ピピ!ピピピピッ!
ピッ…


「ふわぁぁ〜………んー……」


珍しく目覚ましの音で起きてしまった。
朝日は昇っているが、暗幕を垂らした水槽からは物音ひとつしない。

水槽の中の仔実装を刺激しないように、そ〜っと暗幕を捲ると、
仔実装は、回し車の傍で、ぐったりと横になっていた。

どうやら遊び疲れて寝ているようだ。

仔実装を起こさないように、彼は静かに水槽の蓋を開けて、
餌皿の中に牧草とニンジンの皮、キャベツの芯、おからを補充しておいた。

できれば餌を食べている所を眺めて和みたいところだが、まだ家に来たばかりで環境に慣れていないだろう。
なるべくストレスを与えないように、一人でいる時間を多めに作ってあげないとな。

え?ヒマワリの種は入れないのかって?
ダメダメ、たまにあげる分には、うるさく言うつもりはないけど。
ハムスターが種を好んでるからって、そればっかりあげたら体に悪いよ。

油脂成分が多い食べ物は、小動物には極度の肥満を招いて危険なんだよ。
特に餌が豊富にあると、小動物ってのは、好みの餌しか食べなくなるし。

人間みたいに嗜好食品として自制できるわけじゃないから。
なので、彼は絶対にナッツ類なんかを小動物には与えない。

彼は、寝ている仔実装を起こさないように、そっと蓋と暗幕を元に戻すと仕事に出かけた。

…もちろん、彼は知らない。
実装石が孤独に弱い事を、夜行性ではない事を、すでに飽食の限りを尽くして味覚が汚染されている事を。





【いちいち( )つけるのが面倒くさいので仔実装パート】


「テハッ!?(はっ!ここはどこテチ!?
 ふぅぅ…さっきはひどい目にあったテチ…。
 まさか足が輪っかに嵌って気を失うまで回転させられてたなんて…思い出したら気持ちわるくなっテチ…。
 クンクン!これは! ごはんの匂いがするテチュ〜ン♪)」


私が、回し車の刑から解放されて、疲労困憊の体を横にして休息を取っている間に、
どうやらドレイニンゲンが食事を用意していったようだ。

ポテポテと楽し気に餌皿に向かう私。
だが、いざ辿り着いて皿の中を見た私は、絶句した。

なにせ、そこには枯れた雑草(に見える)と生ゴミ(に見える)しか入っていないのだから。
高貴な自分に不釣り合いな餌だ。

これは断固抗議しなければならない。


「テチ!(高貴な私に対する侮辱テチ!ごはんは寿司ステーキ金平糖以外は、新鮮なウマウマ以外ありえないテチ!
 夜が明けたら、断固あの糞ドレイ男に抗議するテチ!なんなら糞喰らわせてやるべきテチ!
 そもそも、あのドレイ女が着せたこの寝間着はなんテチ!むちゃくちゃ蒸れてキモチワルイテチ!)」


私は、毛むくじゃらの寝間着を脱ぎ捨てて、餌皿の上に糞を塗りたくった後、
暗闇が晴れて、男が自分の傍に傅く時を、今か今かと待ち構えていた。


……だが、どれほど待っても夜が明けない。なぜだろうか、オカシイ。
夜が明けないだけなら、まだ、良い。事態はそれだけでは済んでいないのだ。

一声泣けば、即座にドレイ女は飛んできて世話をしてくれたのに、
あのドレイ男は、どれだけ泣き叫んでも来てくれないのだ。
こんな可愛く可憐で高貴な私が、必死になって叫んでも来ないなんて明らかにオカシイ。

叫び続けたせいか、ひどく喉が渇く。
だが、餌皿はあるが、水皿が見当たらない。どこにあるのか。

仔実装は暗闇の中を手探りで散策する。
そうする事で、なんとか閉じ込められた水槽内の全体像を認識できるようになった。

どうやら、周囲は冷たい氷のような物で覆われているようだ。
なるほど、あのドレイ女が甘いウマウマの汁を飲む時に使ってたグラスとか言うやつと同じ素材だな。
だから見えてても、前に進むことができなかったのだ。あのドレイ男め。高貴な私をウマウマ汁の入れ物に入れるとは何たる不遜!

だが…、それにしては妙だ。
地面は荒い砂で敷き詰められているし、押すとカラカラと回る訳の分からない丸い形の柵があるし。
カラカラの横には、何やらよくわからない段差もある…。こう暗くては迂闊に登って確認することもできないのだが…。

不気味なのは、餌皿の横に取り付けられている尖がりがついたボトルだ。
あれはいったいなんだ?この暗がりで万一こけてしまったら、あの尖がりに串刺しになってしまうではないか。
先端からは何やら冷たいモノが滴っていたし…。

……なるほど、読めてきた。
どうやら、高貴な私に一目惚れして、ギャクタイハと呼ばれるドレイニンゲンの男が私を攫ったのだろう。

という事は、あのカラカラは拷問器具で間違いない。あの尖がりは恐らく毒を塗った罠に違いない。
この明けない夜も、拷問のための装置か何かだろう。
食事は普通の匂いだったが明らかな生ゴミであるところを見るに、私の心を折るための心理的な嫌がらせだろう。

全く、これだから童貞はダメだ。恐怖で縛れば、この高貴なる私を好き放題にできるとでも思っているのだろうか。
…しかし、さて、どうしたものか。
いずれドレイ女が救出に来てくれるだろうが、その前に飢えと孤独でパキンしてしまいそうだ。

背に腹は代えられない。
まずは生き抜くことに集中しよう。

生ゴミでも喰わないよりは喰った方がマシだ。少なくとも昨夜の拷問で消費した体力は回復する。
…しかし、こうなっては糞を塗り付けたのは失敗だったな。

私は、深々とため息をつきながら糞まみれの生ゴミをもそもそと食べ始めた。

丁度その時…。


パサッ


「あ、食事中だったか、悪い悪い。お前が寝たら、あとで餌足しておくからな。」


パフッ


一瞬だけ暗黒が晴れて、あのドレイ男が私を覗き込む。
だが、すぐに訳の分からない言葉を吐いて再び暗闇に私を閉ざしてしまった。


ああああ……あああああああッ!!!???
高貴な私が、寄りにもよってギャクタイハのドレイニンゲンに!
糞まみれの食事を卑しく食べている所を見られてしまった!!!!





【動物好きの飼い主さんは食糞に理解があります】



「テヂャアアアアア!!!???(ああああ……あああああああッ!!!???)」


タイミング悪く、仔実装が食事をしている最中に暗幕を捲ってしまった。
ハムスターの寝間着は着心地が悪かったのか、無造作に脱ぎ捨てられていたので、あれは後で回収しておくか。
しかし、嫌にドタバタと騒ぎ続けているな。どうやら急に食事中の姿を見られて驚き鳴き叫んでいるのだろう。

悪い事をしたと思いつつも、彼は一安心する。

なるほど、ハムスターとそんなに変わらないというのは本当らしい。
しっかり牧草と野菜を食べてくれているようだし、食糞も見られた。

ハムスターのように食物繊維を盲腸で分解し、食糞により炭水化物として再吸収する習性を持っているのだろう。
この分なら、ここに慣れるまでの間は、しばらく暗幕をつけたまま、そっと一人にしておいた方がいいだろうな。

餌と水だけ補充して、1週間も手つかずにしておけば、水槽内に自分の匂いが沁み込んで安心してくれるだろう。


「テェェェェン!テェェェェン!!(テーン!もう終わりテチー!高貴な私が糞喰い見られたテチー!)」


どうやら、まだ興奮が冷め止らぬ様子。
刺激しないように、物音すら立てず、一人で安静にさせておいてやろう。




【そろそろ悲惨な仔実装パート】


ああ、あれからどれくらい経ったのだろうか。
昼夜の間隔すらなくなってきた。

もう何日も、自分以外の声を聴いていない。それどころか自分がこの暗闇の中で立てる音しかしない。
空腹に耐えかねて少量の生ゴミを食いつくし、空腹と口渇を癒すために軟便を啜るように舐め取り過ごしてきた。

だが、それでも、この暗闇が明ける事はない。自分以外の何かを見ることができない。
孤独で気が狂いそうになる。

いつも気付いた時には、生ゴミは補充されている。
補充のタイミングを狙えば、もしかしたら、あの男の顔を見ることができるかもしれない。

そう思い、寝ずの番で餌皿を見張っているのだが、
私が疲労困憊で意識の途絶えるタイミングを狙って、あの人は餌を補充しているようだ。

ああ、どうか。どうか顔を見せてほしい。
私以外の誰かが、そこにいるのだと、存在しているのだと、どうか確かめさせてほしい。

何度かそんなやり取りを繰り返していた時、
いつの間にか、毒の塗られた尖がりが跡形もなく消え去った。

そして餌皿の横に、並々と水を蓄えた水皿が追加されたのだ。
これは心底、嬉しかった。私は、あの方に膝をつき感謝した。


だが、それでも私の孤独は続く。


ああ、孤独も辛いが、体臭もそろそろ気になる。

あの女性に保護されていた時は、小まめに体を洗ってもらえていたが、
ここに来てからは全く体を洗えていない。

体を洗いたいが、貴重な飲み水を洗体には使えない。
腕を軽くこすると、ボロボロと垢が零れ落ちている。

ああ、そういえば隅の方に、サラサラの砂があったな。
あれで体を擦れば、多少はマシになるだろうか?


……
………


私は、砂浴びをしながらふと正面を見据える。
そこには、透明な壁に薄っすらと映る自分の姿が見えた。

獣のように砂にまみれて垢を落とす私は、
どう考えても高貴な存在ではないだろう。

ああ、何か、もう…。
考えることが、バカバカしくなってきた…。





【動物好きの飼い主さんは愛誤派の飼い主さんがお嫌い】


「あなたが虐待派だとは思ってもみなかったわ!!!
 私のてちちゃんをこんな扱いしてるなんてっ!!!」


家に帰ったら、なぜか仔実装石を押し付けてきた後輩の女性が自宅に上がり込んで何やら叫んでいた。
怖いので即座に逃げ出して警察に通報した。

数台のパトカーが自宅付近に止まり、後輩の女性が複数の警察官に取り押さえられて連行されていく。

彼は、そんな彼女の後姿を慄きながら眺めつつ、
水槽の中で呆けたように彼を見上げている仔実装を安心させるように一撫でしてから、警察の事情聴取に応じるのだった。




【あなたはそこにいますか?】


彼は、その後、勝手に彼女から絶縁状を叩きつけられたのだが、
そもそも付き合ってすらいないのに、おかしなことをする人だと首を捻りながらも、
彼女を刺激しないように怯えながら、押し付けられた仔実装を返却しようとした。

だが、何が気に入らなかったのか、彼女は仔実装の引き取りを拒否して、
新しい仔実装石を購入するように要求してきたので、裁判官立ち合いのもと、手切れ金のつもりで彼女の要求に応じた。


…あれから5年。
今でも、彼の部屋の水槽の中で、楽し気に駆け回る裸の仔実装の姿がそこにある。


カラカラカラッ!


「テチュ〜!(ただの発声)」


彼が仔実装の傍に手を近づけると、仔実装は回し車から降りて、ぽてぽてと彼の掌の上に乗る。


「テチュ〜ン♪(解読不能)」


仔実装は、彼を見上げて小首を傾げながら一鳴きすると、彼の掌から降りて、
餌皿からニンジンの皮を一欠けら口に頬張り、階段状に取り付けられた板をちょこまかと登る。

一番上に設置された小部屋にニンジンの欠片を吐き出すと、部屋の隅の寝藁の下に隠した後、
小さく丸くなってスースーと眠りはじめた。


「テー…ちぃー…(解読不能)」


未だ、仔実装が成長する兆しは見えない。
いや、衰える様子すら見えはしないのだ。

今日も仔実装は、牧草を食み、野菜くずを齧り、糞を啜り、回し車をカラカラ回し、楽し気に過ごしている。

どれだけ懸命に駆けたとしても、決して前に進むことのない回し車の中で、
彼の接し方が変わらない限り、仔実装は延々と単調な日々を繰り返すのだ。




延々に、永遠に、
くるくると…、クルクルと…、狂々と…。




くるくると渦を巻く“唐草模様”のように、狂々と…。







{ 後書き }

うまいもん食って、好きな事して、太く短く生きるのと、
徹底的に管理された飼育環境で、細々とした味気ない食事と、単調な運動を強いられて、細く長く生きるのと、

さてさて、どちらが幸せなのでしょうね?


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1 Re: Name:匿名石 2017/04/22-18:49:26 No:00004659[申告]
実装石のメンタルが実装石な限り、どっちに転んでも最期は不幸せ
メンタルを実装石じゃない感じに矯正されきった場合のみ幸せになり得る
2 Re: Name:匿名石 2017/04/22-18:59:22 No:00004660[申告]
ペットの正しい飼い方を知っている主人公と
分不相応なワガママを言う実装石の組み合わせは
この作者さんの十八番、本領発揮、面目躍如、ってとこデスね
3 Re: Name:匿名石 2017/04/23-12:36:15 No:00004664[申告]
この男スゲェ!
糞蟲性を矯正し小動物のようなペットに見事に調教してみせた!
調教上手で責任感のある良い飼い主に恵まれて良かったね実装ちゃん!
末長く飼われてね!
4 Re: Name:匿名石 2017/04/23-21:03:22 No:00004668[申告]
楽しく読めました
これはイイ仔実装ですね
生意気だった仔実装が行儀良くなる様子が素晴らしかったです
5 Re: Name:匿名石 2023/07/27-06:33:14 No:00007641[申告]
更生したのに知能失ってネズミ堕ちしちゃうの哀しいなあ
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