タイトル:【観?虐】 ニセモノの詩・ホンモノの唄 4
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初投稿日時:2008/11/15-00:10:26修正日時:2008/11/15-00:10:26
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ニセモノの詩(うた)、ホンモノの唄(うた)

第四幕 〜歓喜の詩、敗北の唄〜 凱旋の行進曲(マーチ)

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「なら、オマエは我が仔を絶対に間違えないデスゥ?
 それならば、次のゲームが用意してあるデッスゥ〜ン♪」

サザエは手を前に伸ばし、コロに後ろを見るように指示をした…。


「デッ…」コロはそのサザエの自信満々な態度に流されるように後ろを振り返る。

この時点で、もはや、主導権は覆しようもない形でサザエ一家が握っていた。


「デデェェェェ! リンちゃん!!」

お決まりのワンテンポ遅れた叫びが出たコロの視線の先には2匹の仔実装が居た。

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コロから向かって左の1匹は、片目は落ち、歯が折れ頬に刺さり、顔面を腫らしてはいたが、
間違えることなくリンの服、リンの青いリボンを身につけている仔実装が座り込んでいた。

もう1匹、コロから向かって右は、只でさえコロ達から見れば見るに堪えない程のボロ実装服。
顔や露出した肌に特に傷はなく、バンバンを抱えた仔実装が、その横に座り込んでいた。

傷を見れば、どちらがリンかは簡単に見分けが付きそうな物。
状況的に捕獲側が捕獲されている側より重傷を負っている事などあり得ない。
まして、傷のないほうは武器まで手にしている。


しかし、コロは次こそ”騙される物か”と、冷静では居られないのに冷静に比較しようと勤める。

なまじ半端に知能が高いため、万全を期すためにと、色々な要素を検証し始めてしまったのだ。
失敗は許されないという、飼い実装としてのプライドが高い事も災いして、ゲームに乗ってしまっていたのだ。


この冷静に比較というのが実装石の知能と思考パターンでは大きな落とし穴となる。


無事であって欲しいという願望と、さっきは服を入れ替えられたという事が重なり、
野良らしいボロ服を着ている方にも目移りしてしまうのだ。

だが、そうやってジロジロと見比べをしなければならない状況に乗っている時点で、
コロはゲームのプレイヤーですらなく、マスターが好きに使える駒やサイコロなどの備品の1つである。


「デッデ… デ… こっちデ…」

リンは左の仔…さすがに状況的にもそう感じた。


「デデ… さっきは騙されたデス… ならコッチが…  デスゥ、そう思うとコッチもそれっぽいデス…」

しかし、見るに堪えない容姿になっている物を我が仔としたくないなどという関係ない考えも無意識に生まれ。
さらに、先程のチコの件で服を入れ替えられている事も頭によぎると、
そうした余計なプライドや先入観が、思考する毎に冷静さを失わせ、全体思考が難しい実装頭脳をパンクさせる。

この場合は、”服の入れ替えをされた”事を考えだすと、
相容れない”傷を負って居ない方が怪しい”というキーワードから派生する思考を停止させ、
2つのキーワードが相互に迷彩を掛けてしまうのだ。

まして、コロにとって考慮せねばならない事柄は沢山ある。

コロは、飼い実装としての規律を守れるほどには賢いし頭の回転も速い。
しかし、考える材料たるキーワードもそれだけ増えてしまう。
そのたびに、それぞれのキーワードが思考停止して、キーワード同士の連結が悪くなるし、
混線して、関係ないキーワードを呼び寄せたり、繋げてしまったりもする。


「コッチはリンっぽい服デス…  でもコッチはまともな顔デス… でも、リンはコッチな気がするデス」

考え続け、考えると言う事が重荷になると、
やがては本能に沿って思考を停止し、指を交互に指して決めるのと同じ状態だ。


それでも、コロが決めて指さしたのは本物のリンの方である。

「デ・デ・デ   こちらデス… リンちゃんはこっち…だという要素が強い気がする感じがしたデ…ス?」

「テ…テチッ…  ママ、何をしているテチ、ワタシがホンモノテチ、ママの仔テチ(棒読み)」
指差されなかった右の仔がそう反応する。

指差して選んだ左の仔は負傷もあり、そもそも無反応に近い状態。

「ヘヒ… ヘ… ヒホハマ ヒホハマ ヒホハマ(チコ様…チコ様)」
特にコロに対してという訳でなく反応無くブツブツと呟き続けるだけ…。

舌も千切れ、言っている言葉が理解できないの相手と、
「テチャァー ハヤク、ワタシを選ばないとコイツに襲われるテチィー(棒読み)」
指差す方によって反応が変わる相手。


コロは選んだつもりが、選択に自信が全く持てない状態である。

そうなると、さらに余計な考えが天秤を揺らし始めて決断が出来なくなる。


「そっちが本物と思うデスゥ?  ならニセモノと思う方をそのご自慢の玩具で撃っちゃうデス♪
 さっきのブタみたいにハズカしいザマでぶっ倒れて立ち直れなくなるかもデッスゥ〜。
 当然、自信があるなら出来るデス〜♪  ニセモノの仔なんかボコボコに出来るデス♪
 間違えていたら自分の仔を”また”ボコボコにして、自分の無能振りを大宣伝デスゥ♪
 さらに、オマケで、間違えていたら今捕まえているこの仔も、
 間違ってもニンゲンに飼われるなどと一生勘違いしない様に髪を引き抜くデッスーン!」

「テチャァ!? どうしてそんな話になるテチィ!! ママ、ママ! もっとよく考えるテチ!!
 ワタシのタイセツなサラサラ髪の毛が掛かっているテチュ!  間違いは許されないテチ!!
 このキレイな髪が無くなったら恥ずかしいどころじゃないテチ、生きていけないテチ!
 と、と、と、とにかく間違えないように考えるテチ〜!!!」

サザエがそう付け加えると、捕獲されているベスが動揺して叫び、勝手にコロにプレッシャーを掛けてくれる。


コロはせっかく正解を決めた指を「デ…デ…」と再び左右に振り直し出す。


何しろ、飼い実装、野良実装問わず、そもそもの根源たる実装石という生物の生態が、
物を考え決断するという事に向いていない生態や思考なのだ。

サザエが用意した罠は、それを絶妙にくすぐり間違いを冒させる効果がある。

それにゲームのプレイヤーはコロではなく、これは、もはやゲームですらない。
コロが間違えるまでサザエは揺さぶりを掛けるだけ。

それは、思考の迷宮に落ちて、外野の騒音や考える事を捨てて運任せに決めた選択すら、
それ1つ1つが過度のストレスとなり肉体を緩やかに蝕む。


追いつめられ、逆に何も考えないで居るという事が出来ない。

なのに、頭に浮かぶのは選択に関係のない事ばかり。

それがさらに焦りと考える事を放棄できず、さらなる苦痛となる。


玉のようにジワジワと湧き出す汗は油分が多く粘りが強くなり、
悪戯に振りかけ染みた香水の匂いと合わさって、不快なニオイに変化して撒き散らされる。

コロは実装石として、無駄に守るべきプライドを大きくしすぎた。

捨てられない物、捨てたくない物が、その低容量な脳の処理力を超えている。
無責任に思考を放棄して選択する事も出来ない。


右か左…

たかが二択…


いや、二択だからこそ、そしてコロが飼い実装だからこそ決断が躊躇われ、躊躇いがコロを壊す。


「デェ〜  デデェェェェ…」

口は開いたまま、普段ならヨダレのよの字を出す事もないコロが垂らし放題となっている。

右と左を往復する手はガタガタと震え。
スプレーでふんわり整えた髪も、カリカリと頭を掻く為にボサボサになり、汗でべったりと張り付いている。

汗が噴き出す代謝で、緩くなった頭皮の地盤から掻く度にパラパラとフケと共に髪も落ちている。
汗の出すぎとストレスで急速に頬も痩せ始めている。

目も見開かれ、泣いているように目の周りの肉が赤く腫れ、体液が滲んでツツッと筋を描き始める。


もはや、選択が”結果を得る、出す為の選択”ではなく”選択する為の選択”になっている。

だから永遠に決断など出来るはずもない。


「この仔で間違いないデス!」左の仔を指し示してから、右の仔に向け銃を構える。
ニセモノは撃ってしまう約束だ。


「本当にそちらでイイデッスゥ?  間違いだと、まぁーた仔ゴロシデスゥ♪」

「テチャァァァ!! そんなボコボコなのお姉チャンじゃない気がするテチュ! そんなのお姉チャンと呼びたくないテチ」

「ママ、タスケテテチ、コワイテチィー(棒読み)」

「ワハヒハ ヒホハマホ フンホフヒヒャヒヘフ(ワタシは、チコ様のウンコ拭き紙になります)」


「デェー デェ やっぱりコッチな気がするデ…ス」銃身を左の仔に向け直す。

「我が仔を穴だらけにするデスゥ?   髪を抜かれるのを見たいデスゥ?」

「ワタシの髪がピンチテチィ! よく考えるテチ。 よく考えたらソッチは無事すぎて明らかにニセモノクサイテチ。
 テキトーに考えるなんて許さないテチュ!!」

「ママー、ワタシはホンモノテチュー(棒読み)」

「ヒホハマノ ヒフホホハ ハンヘモヒクヘヒ ハハラ ハハラ(チコ様の言う事は何でも聞きます。だから、だから)」


サザエは、その焦り、悩み、崩壊していく様に、その選択を攪乱させ続けた。


そうしている間に陽はすっかりと暮れ、街灯の明かりがサザエ達を照らしている。
すると、そこら辺に住んでいる生き残り野良達が集まり始める。


飼い実装が帰り、もう少し遅く付近に人目が無くなり虐待派人間が顔を見せるまでのこの時間は、
生き残りの野良達に用意された僅かな自由時間となる。

生き残りの野良達が、チョットした騒ぎに興味を惹かれて集まり出す。
公園に生き残る者達は少ないが、それでも実装石、一所に集まればそれなりの数の威圧感を生み出す。

「なにの騒ぎデスゥ?」
「あの一家が、飼い実装を捕まえたみたいデスゥ。  フルボッコで恥さらしやってるデス」

「誰がそんな恐ろしい事をやり遂げたデスゥ?!」

「あそこの茂みのナントカとか言う名前付きデスゥ」

「ササオとかナマエで呼び合ってイケスカナイヤツデスが、見直したデスゥ〜」

「テチャチャ、ママ、いつも偉そうな飼い実装がボロボロテチュ♪」
「それは実に楽しそうデスゥ♪  久しぶりに身体を洗いに出たデスが見てやるデスゥ〜♪」


その中で、それどころではないコロは、どんどん精神を壊しながら迷い続けていた。

外野が増えてあざ笑う事で、そのプレッシャーもストレスも倍増どころではない。
もう、それだけで殺す事すら可能だとサザエが感じる程に衰弱していた。


サザエが押さえつけられたベスの長い髪を軽く弄ぶ。

「そんなに悠長に考えている暇なんか無いデスゥ〜。
 そんなに考えるなら野良でも判るデス…   制限時間デス」

プチ!
「チジャァァァァァァァ!!」

1本… 髪を摘んで引き抜くと悲鳴が上がる。
悲鳴と共にブワッと血涙が、まさに噴き出した。

大した痛みではない… 気が付く方が異常な程に微かな痛みだ。

それでも、たとえ1本でも自然や不可抗力で抜ける毛でなく、他人に抜かれる事には敏感な実装石。
しかも、ベスは生まれたときから飼い実装。
髪を抜かれるという行為に悠長な抗議を出来る程の感覚では居られない。

「ビギャァァァァァァァァァ!!」
抵抗するでなく、むしろ、首に締まる紐を掻く手すらもダラリと垂れさせ泣き続けた。

雑誌の抽選付録でしかないセレブちゃん免許が、人間の厳しい監視の元に存在すると信じるからこそ、
それに致命的な損害を受けたと感じ、もうセレブにはなれないという絶望が支配する。

野良に触られ、髪を抜かれた。

世間知らずな飼いの仔実装らしい幼稚な理由から来る絶望感である。


「ベ、ベスちゃん!! ヤクソクが違うデスゥ!!」

「髪の毛一本ぐらいでガタガタ騒ぐなデスゥ。 デプププ…。
 のんびり、暢気に考えているから制限時間が来たデッスゥ♪  コレもオマエのせいデッス。
 まぁ、どうせオマエは野良に相応しい程度だから、我が仔の事なんかゼンゼン気にしていないデスゥ〜。
 仔ゴロシ大好きな野良以下のバカ親デスから、まったくもってしっかたない事デスゥ〜♪」

「テチャチャチャ、ハクジョウモノテチュ♪  オマエの親は、自分さえよければいいってハクジョウモノテチュ♪
 見捨てられたテッチ♪ オマエは見捨てられたテッチュ♪」

「デデェ!!  そんなこと… そんなことナイデス! ベスちゃん、気落ちしてはダメデス!
 ”たかが一本抜かれただけデス”誤魔化しはいくらでも…」

打ちひしがれたベスにとっては禁句を口にしてしまった。

「テェェェェ… わざとテチュ…  ママはワタシが可愛くないテチ。
 さっきワタシの仔じゃないって一回言ったテチ。ワタシのお耳も撃ったテチュ!
 ママは始めっから自分だけセレブちゃん免許取れればいいんテチュ…。
 こんな野良なんかに抜かれちゃったテチュ!! そのワタシの痛みなんかママはゼンゼン気にしていないテチィ!
 ちゃんとセレブらしいワガママが言えるワタシが免許もらえそうだから邪魔だったテチ。 邪魔してたテチュ。
 ワタシは免許あたらない生きていけないカラダになったテチ。
 全部、ママのせいテチィ!!!!!」

ベスは突然、自身に起きた理不尽な出来事を否定する為に怒りを親に向けた。

突然、動こうとした為に紐が締まり、威勢の良い叫びの後には「キュゥゥゥ…」と間抜けな吸気音をさせて座り込む。


「ベスちゃん! 違うデス… 違うんデス…  そんな、そんな事ないデスゥ」

「ならさっさと自分の仔を選ぶデスゥ。  ニセモノをソイツで撃ち殺すデスゥ♪」

サザエは、状況が変化したのを見計らい声を掛ける。

同時に、リンのフリをするタイコに目配せをする。
タイコはササっと身体を起こして、今度はリンと同じ姿勢に座り直す。

動揺したまま決断を迫られたコロは、憔悴しきり集中力を欠いたままの状態で選別すべき2匹の方に向く。

容姿が違う以外、まったく同じ姿勢…。 感覚が歪み、眩暈に似た幻視感覚で2匹の姿が歪む。


選びさえすれば状況が変わる… だが決断できる要素がない。

コロの向けるバンバンは震えて定まらない。


「さっさと選ぶデスゥ♪   次はまとめて引き抜くデッスゥ〜」

サッと左手を挙げる。それがサザエの合図。


「デッ! 待つデスゥ!!」

コロが抗議しようとしたとき、タイコは手を伸ばしてリンの耳に突き刺した小枝をズブッと突っ込む。

「ヒョホォォォォォォォ!!」

小枝が脳を貫き、反射的に身体が反応したリンが跳ね上がる様にピン!と立ち痙攣する。

迷いと憔悴、めまぐるしい状況変化、その絶妙なタイミングで起きた動きに、
選択を繰り返していたコロは、”またしても”その突然の動きに反射的に反応してしまう。


バン!


動く物に目を引かれ反応する。
選んだ方を撃つという思考と、急激に動いた者への防衛反応が、それに引き金を引くという反応を追加する。

サザエ的にはドコに当たっても、コロが左に銃口を向けて引き金を引いた事実さえあれば問題なかった。

しかし、そこはコロもまた実装石、こう言う時に限って最悪の位置にバンバンの弾が命中した。


「シュピュルワァァァァァァ!!」
リンの瞼のない眼球に至近距離でバンバンの鼓弾が直撃し、めり込んだ。

当たった衝撃で後ろに倒れ、ヒクヒクと麻痺した身体が痙攣する。

実際にはトドメを刺していたのは脳を掻き回した小枝であるが、
それに追い打ちを掛けるように、リンの残りの目を再起不能にしたのである。


肉体の自由を失い、両眼を破壊され、精神的にも再起不能な肉体となったリンは、
チコに続いて、大の字のまま天を仰いで痙攣し続けた。

いたぶられる事への逃避の為に心が壊れ、さらに脳が壊された事で苦痛が性的快感となり、
トドメの一撃が、チコには至上の快楽となって神経を破壊し尽くした。


「ヘェー  ヘェー  ヒホサハニ ナフレルノハ ヒアワヘヘッヒュー♪(チコ様に殴られるのは幸せです)」

それがリンのかろうじて言葉になった台詞で、あとはヘェー、ヘェーと言うだけとなった。


「テペラペラペラ♪  残念ハズレテッチュ〜♪」

タイコが、コロにケツを向けて振り、ケツを叩いて見せ、あっかんべーをして、
あらん限りの侮辱表現で自分達の策が成功した事をアピールする。


「デェェェ!! 違うデス! やり直しデス! 違うデス! 今のは違うデス!!」

ガクンと膝を屈したコロは、血涙を流し懸命に訴えた。

「違うデス! 違うデス! ソッチがニセモノなのは判っていたデス!  ソッチを狙ったデス!」

見苦しい後出しの意見を懸命に押し通そうと懸命に喚くコロ。
結果が判ってから言い訳をするのは知能ある生物の習性だが、それがあまりにも見苦しいのが実装石だ。


彼らは種族として現実を理解する事も引く事も知らない。
付け焼き刃的に、相手に譲る事、理解できる事をアピールしても本性はこの程度だ。

「もう結果は出たデス。  オマエはやっぱり自分の仔が判らない野良にも劣るバカデス。
 仔ゴロシは野良でもクズのする事と決まっているデス。 そうデス、野良以下の愚行なのデスゥ〜。
 なのにオマエは2度も自分の仔を撃ち殺したデッス。
 やはり、オマエはニンゲンに飼われているのがオカシイ、クズなのデス。
 ワタシからシアワセを盗み取っただけの無能者デスゥ〜♪
 クズに相応しい制裁タイムの始まりデッスゥ〜ン♪    タラコちゃん、やるデスゥ〜」

サザエが勝利の宣言にも等しい一言を述べると、
待ってましたとばかりに、ベスの首を絞めていたタラコが首の紐をゆるめて取り払う。

「テチャチャチャ  いつもはオマエ達がするのを見せられているだけだったテチ。
 ずっとワタシの番が来ないかヒヤヒヤだったテチ。
 力任せに引き抜いて、泣き喚いて許しを請うのを見下ろすのはどんな快感テッチュ〜♪
 最初のブタは股を開いてウンコを入れられるのを喜んでたテチュン♪」

「テッ…  ヒビャァァァァァ!!」
一瞬の窒息で意識が混濁して座り込んでいたベスは、
我が身に起きる事を感じて、慌てて立ち上がりなりふり構わず走り出そうとした。

しかし、両手を拡げ全力で駆け出そうとしたベスだが、
弱った仔実装の歩幅の加速力など、倍以上の大きさの成体の実装石から見れば哀れな足掻きだ。

動きだしでサザエがベスの頭巾の頭頂部を掴み、頭が露出するが頭巾は首に掛かって脱げずに引っ張られる。

ベスは逃げる動作で締まる顎紐に手を掛けて走り続けようとする。

頭巾を持ち上げれば、ベスは頭巾が顎に引っかかりつり上げられたまま足を動かし続けている。

「ンゲ ンゲェ ジャァァァァァァァ」

吊られながらも、なおも足をバタつかせるベス。

その視界に入るように悠々と回り込んだタラコは「テププププ」と溢れるばかりの笑みを見せ近付く。

「テテェ! テェェェ…   イッ・いやテチィ! いやいやいやいやテェェェチィィィ」

じらすように近付くタラコに恐怖を増大させたベスは、足をバタつかせるのを止めて、
今度は、両手を前に突き出してイヤイヤと動かす。

ボタボタと軟便が足を伝って落ち始め、瞬く間にジョーっと尿のような便になって流れ出す。

何かを話すたびに鼻水がビュッビュッと潮を吹くように噴き出し、その焦りを物語る。


「やめるデスゥゥゥ!!」

打ちひしがれたコロが、それでも腹の底からの叫びをあげる。

溢れ垂れた汗で服がべっとりと濡れて張り付き、デザイン服が見る影もないだらしない格好になっている。
汗だけで激しく体重を減らし、頬はやややつれたまま、肌の血色も見る影もなく、
自慢の手入れが行き届いてフワフワだった髪も地肌が水分を失い、汗がまとわりついて、
ボリュームが全くなくなってしまっている。

その髪を振り乱して、バンバンを構えて立ち上がるコロ。

「その仔に触れたらワタシが許さないデスゥ!」

「ママ! ママ! ママァ!!」

威勢は良かった… 迫力もあった。
しかし、場が悪かった。

そのやつれてもなお発する気迫に容姿がインパクトを高め、大抵の実装石なら向き合えば逃げ出す迫力も、
すでに周りは大多数の野良達に囲まれ、その野良達はコロのだらしない姿を見ている。

何より、コロが見据えるサザエもタラコも冷静そのものなので、
余計に端から見ている分にはコロが滑稽な道化にしか見えない。

そのためにパラパラと笑い声すら聞こえる。

コロにとって周りは全て敵という環境が、
観戦者達にその気迫を通用させず、安心感を持ってその場にいる事を許し、
観戦者がコロにプレッシャーを掛け、居るだけでサザエ達の言葉の選択肢を増やす。

それでもたじろがないコロは、銃口を迷い無くサザエに向ける。

冷静で余裕ある立ち姿ではあるが、流石に銃口が向いているサザエとタラコはその立ち姿勢のまま動けない。


「その仔を離すデス! ワタシの仔、タイセツな仔、その仔に何かしたら撃つデス! ウソじゃないデスゥ!!」

コロは、確かにその時、その瞬間は引き金を引けただろう。

「おおっと、よく考えるデスゥ。  ご自慢の玩具は何発の弾が撃てるデスゥ?
 オマエは何発撃っちゃったデッスゥ?  持ち主なら知ってて当然デス。
 賢くて親切なこのワタシだから、判ってなさそうな低脳なオマエにワザワザ教えてやるデスゥ♪
 その玩具は弾が6発出るデス。  オマエはさっきまでにバカだから5発も撃ちまくったデス。
 野良の中でも計算が出来ないクズなオマエだから判らないデスけど、残りは1発だけデッスゥ。
 そして、ワタシ達は今3人デスゥ♪  上手く当たっても、その玩具では一人しか倒せないデス♪
 ほれ、ワタシのタイコちゃんが構えて待っているデッスゥ♪」

サザエの言うとおり、リンの偽物を担当していたタイコが余裕の顔で同じバンバンを構えている。

咄嗟に、コロはサザエ達とは反対方向のタイコと銃口を向け合う。

タイコのバンバンには既に弾がないが、コロがそれを知る術は撃たせる事以外にないのだ。

「同じ玩具を持つタイコちゃんを撃つデスゥ? デプププ
 そしたら、カンタンデスゥ♪ コッチの仔ブタの玩具を使えばイイだけデッスゥーン♪」

そして、コロの意識を反対のタイコに向けさせた隙をついて、タラコの肩をトントンと叩くと、
タラコは、サザエがぶら下げるベスのポーチから素早くバンバンを引き抜いて安全装置を解除する。

コロが再び、サザエ達の方に向き直った時には、カチャリと銃身が起こされて発射準備が整っており、
コロは、フン!と銃身を突きだして、それ以上動くなという意思表示をしてみせ、
とりあえず、タラコが銃身をコロの方に向けて構える事をさせないだけで精一杯だ。


「大体、そんな行動に出て解決しようと言うのが低脳でクズでウンコなのに付け上がっただけのオマエらしい、
 超短絡的にしてどうしようもない低俗な、まさに何処かアタマのオカシイ実装石の考え方デスゥ!!
 その距離で当てられるデス? ワタシ達にはセレブらしい、もっとスマートな物の考え方が備わっているデス。
 ワタシこそ、生まれながらに選ばれたセレブちゃんだからデスゥ♪
 勘違いでニンゲンに飼われてただけで中身がウンコなオマエ達との決定的なチガイと言うヤツデッスゥ♪
 ワタシ達はいくらでも、オマエに直接当てなくても撃たせないように出来るデスゥン!!」

牽制されて動けないタラコの横に、サザエがぶら下げたベスをほんの少し差し出しただけ…。

それだけで、タラコ自身は動くこと無く、その捧げ筒になっている銃口の先にベスがいることになった。


サザエが言うとおり、仔を助ける為に暴挙にでたコロだが、
その助けるべき我が仔が銃口の先にいるのでは全てが無駄な事。

サザエは、コロに撃たせないように出来ると言ったとおりに実践して見せた。


「全く、ムダな足掻きデッスゥ〜♪  後ろのタイコちゃんを撃てば、この仔は穴だらけデスゥ♪
 仔を助ける為にコッチのタラコちゃんを撃てば、後ろのタイコがオマエを撃っちゃうデスゥ♪
 前と後ろに挟まれている時点で、そもそも弾が何発あっても間に合わないデスン♪
 せめて最後の弾で賢すぎて憎いワタシを撃つデスゥ?
 そしたらオマエ達2匹ともワタシの仔に穴だらけにされるデッスゥ。
 ムダムダムダムダムダァ!! なのデスゥ♪
 大体、ワタシ達を何とか出来たとして、もうオマエ達はタダでは済まないデスゥ♪
 周りを囲むのは全てオマエたちクズな勘違いセレブモドキに虐げられた者達デス。 ワタシの味方デッスゥ♪」

コロが周囲を見渡せば、ドコを向いても取り囲む赤と緑の瞳…。
ニマニマと笑い、罵声を浴びせ、コロと目が合うと腹を抱え笑い出す。

サザエの言うとおり、周りはコロ達を憎み、蔑み、恐れもなくなった者達に囲まれている。


「デェッ…     デェェェェッ…   デェー」
威勢の良かったコロの構える姿勢に震えが入り、徐々に膝が崩れて銃身が下を向き出す。

周りの観戦者は別にサザエの賛同者でも何でもない。 しかも実装石。
集団意識ばかりが強く、団結力も統率性にもかける野良実装石。

そもそも、何が起きているかすら判っていない者が大半を占めている。

コロの様な飼い実装を敵視はしているが、サザエの高度な目的や作戦を理解できるはずもなく、
まして、何か少しでも今の状況からサザエが不利でも見せよう物なら、
この場から居なくなるか、コロとついでにサザエ一家も血祭りに上げられる事になりかねない。

実際に全体意思は統一されておらず、目立つサザエを苦々しく嫉妬の目で見る者、
周りが見下しているので真似てはいるが、コロの気迫やバンバンが恐ろしく逃げ出したい者も大勢居て、
彼らの数匹が、ちょいと勢いに任せ行動に出るだけで、全体の流れが変わる程に不安定な状態なのだ。

その、敵ではないが味方でもない者を、サザエは上手く味方に見えるように演出したのだ。


「オマエが如何に無力で何も出来ないか良く判ったデスゥ?
 周りは全て、この数の全てがワタシの味方でオマエの敵デスゥ♪
 どんなに同情を誘おうが脅そうがオマエの味方は居ないデス…  その穴あき脳みそで理解するデス」


それだけではない、そんなあやふやなナカマの生態を肌で知るサザエは、
そんな不安定な民衆を狡猾に引きつけ、味方に引き込み、攻撃対象をコロ達にだけ向ける策を張っていた。


バン!

その周りを取り囲む野良実装達の中からバンバンの音が響き、
音がした方の集団が驚きでパニックを起こすと同時に、「ベジャァ!!」とコロが膝を屈して倒れ込む。

「デギャァァァァ!! イタイデスゥ!イタイデスゥ! 死んじゃうデスゥ!! 足から血が出てるデスゥ!!
 ご主人様ぁ! ご主人様ぁ!  タスケテデス、イタイデス、タスケテデスゥゥゥゥ」

バンバン責めに遭ったリンと同じように、コロも痛みに慣れない典型的飼い実装。

その激しい痛みに、一瞬にして家族を守る為の強固な意志も鬼の気迫も吹き飛び、
泣き喚く、ただの実装石に成り下がっていた。

間髪を入れずにサザエが大声で叫ぶ。

「見たデスゥ?  オマエはこんなに恨まれているデッス。
 この憎い飼い実装に制裁を加えたおナカマさんありがとうデスゥ。
 これこそミンナの声デス! ミンナの意思デス!
 ウンコな飼い実装は拷問虐殺殲滅デッスゥーン。  でも、皆さん落ち着いて下さいデス。
 この糞をもっと醜くドレイに落とすのはワタシ達に任せていただきたいデスゥ〜」

仰々しい振りを加えてのわざとらしい演説だ。


ナカマ達に紛れバンバンを撃ったのは、リンにバンバンを撃って撃ち慣れしたイクラ…。

巧妙に身を隠し、ナカマが集まったら、その集団の中から合図で撃つように策を与えられていた。

野良の集団の中からという事がコロに絶望を与え、コロのより弱い姿を露呈させる。

さげすまれながらも気丈に立ち上がった直後だけに、そこまでの飼い実装らしい醜態を晒せば、
野良の嫉妬心や、実装石の持つ弱者に対する習性を刺激する。


野良達は前後の細かい状況など考えずにウサ晴らしの為に団結し、
サザエの仰々しい演説に”自分達の意思で”そうしたのだと感じ、さらなるショーを期待して従うようになる。

従うというか、大人しい観衆であってくれれば良いのだ。


「ママァ!  ママ!?  ママ?」
ベスが吊られたまま慌てて母親に声を掛ける。

心配しての呼びかけではない。
何を言いながらも、もはや自分の力ではどうにもならなければ頼るのは母親しかいないのだ。


だが、その頼みの綱の母親は、その目の前でただうろたえて膝を屈していった。

痛みに肉体が耐えられず、重圧に心が折れて、コロは合唱となった嘲笑を身に受けて心が真っ白になっていた。


「諦めるテチィ♪  オマエのバカ親は、バカなりにジブンがノラに相応しいクズだと気が付いたテッチュ♪
 そもそもオマエの事よりジブンがタイセツだから、助ける気なんかサラサラなかったテッチュン♪」

笑いの合唱を背に、タラコの投げつけた言葉が2匹を真っ白にする。


これぞまさに凱歌、勝利を手にし、鳴り響く凱歌。
勝者の凱旋を迎えるは、満場の笑いによって紡がれる勇壮なる行進曲。

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つづく

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