「1万匹目の御利用、ありがとうございます!」 「デェ?」 二葉市のとある公園にて、毎度毎度のように仔を放り出す親実装。 出産した我が仔達の粘膜を取り終え、一息付いていた親実装は突然現れた男の言葉に首を傾げた。 男は親実装の反応を意に介した様子もなく、一方的に喋り続ける。 「選ばれた親実装様には、記念として豪華懐石料理が振る舞われます。よろしいですか?」 「デッスゥ!」 『テッチューン♪』『レチューン♪』『レフー♪』 『選ばれた』『豪華』とう単語に反応した実装石達は内容の半分も理解せずに歓声を上げた。 男は親実装を抱えて個室から素早く運び出し、トイレ外にいつの間にか設置してあった飼い実装用のテーブルセットに着席させた。 「ささ、まずは食前酒をどうぞ。甘くて美味しいですよ」 男は着席した親実装目の前に間髪入れずにグラスを置き、なみなみと薄緑色のリキュールを注ぐ。 甘い香りに引き付けられた親実装は間髪入れずにグラスを傾けて中身を飲み干し、お代わりを催促する。 ボトルの底に緑色の石の破片を堆積させたリキュールを何杯も親実装はお代わりし、満足気に酒臭いゲップを放った。 飲み始めて十数分が経過してたが、親実装は酒が入ってたので全く気にもしなかった。 「デス、デスッデスデスッ!」 酒気を帯びて気が無駄に大きくなったのか、赤ら顔の親実装は男に料理を持ってくるよう催促を始める。 男はにっこりと嗤い、鷹揚に頷いた。 「解りました。では先付け八寸となります『肉と分葱の酢味噌和え、手まり寿司、あんかけつくね』です。どうぞご賞味ください」 親実装の前に出されたのは、八寸の盆に盛られた料理だった。 細切りにして湯通しした肉と分葱を酢味噌で和えたもの。 薄くスライスした肉を酢で軽く締め手まり寿司にしたもの。 肉をすり身にして丸めた物を出汁で火を通し、上に餡をかけたもの。 行儀も糞も無く親実装は手づかみでガツガツ食べる。 どれも実装石好みにやや甘めに味付けされていたので、どんどん食が進む。 たちまち八寸盆は料理の残骸だけとなり、それを浅ましく親実装は盆を持って舐め取っていく。 「続きましてはお造りです。『締め立て』の新鮮な素材を使っておりますよ」 親実装が舐め尽くした八寸盆を素早く下げた男が、盆を取り上げられて抗議の声を上げる親実装の前に次の皿を出す。 皿の上には薄切りにされたピンク色の肉が扇状に盛り立てられていた。 焼き霜にされた皮付きの薄切り肉と湯引きで皮を剥いた皮なしの肉が半々。 男の言う通りに『締め立て』なのか僅かに肉がピクピク痙攣していた。 「このタレをつけて食べてください。精が付きますよ」 八寸と同じく飛び掛かろうとする親実装を制し、男がタレの入った小鉢を差し出す。 小さな緑色の粒々が入ったタレをつけると言うよりは薄切り肉の上にぶちまけ、やっぱり飛びついてがっつき始める。 親実装にとって指図される覚えはないので当然なのだ。男も理解しているのか苦笑するのみ。 「デッス〜ン♪ デスデスデスッ」 薄切りにされた肉は美味だった。タレを付けると尚美味だった。 これ程美味を味わったのは初めてだ、薄切りの肉を一度に何枚も口に放り込みつつ親実装は酩酊したちっぽけな脳髄で感じていた。 「さて、今度は焼き物になります……ああ、杯が空いてますよ。ドンドン飲んでくださいね」 親実装の前の皿が下げられ、焼き物の皿が入ってくる間にも親実装は酒を呑み続ける。 男の方も親実装の飲みっぷりを目一杯賛辞しながら、飲み干した次の瞬間には御酌をしている。 焼き物はタレがタップリ掛かった胴体を丸ごと使った大振りな照り焼きだった。 男が手に持った小袋をテーブルの角に叩き付けると、何かが砕ける音と共に痙攣していた照り焼きが大きく戦慄き動くのを止めた。 「さ、これで旨味がたっぷり増しました。どうぞ召し上がってください」 これまた親実装はガツガツと食していく。 味が徐々に濃くなっているのは、味付けが濃い方を好む実装石が食べるものである事を想定しているからだろう。 親実装も食べることと飲む事に夢中だ。 「本来は煮物が付く筈だったのですが、『素材』の数が足りず揚げ物とお食事になります。どうかご了承ください」 人間がゴチャゴチャと言っているが、そんな事はどうでもいい早く次を持ってこい。 そう喚く親実装に男は頷くと、厨房の代役をしてるらしい公園の入り口に停車中のキャンピングカーから皿と小さな釜を持ってくる。 「揚げ物はかき揚げと姿揚げ、ご飯は混ぜご飯となります」 揚げ物は切り刻んだ肉と小さい動物と覚しき肉塊を掻き揚げたもの。 姿揚げはかき揚げよりもやや大きめな四股がある肉塊を丸ごと揚げたものだった。 それに赤色と緑色に染められたご飯が付く。 美味い、美味い、美味い、美味い! 健啖という領域を凌駕した勢いで親実装は揚げ物とご飯を平らげていく。 例えばの話、愛護派からチョコレートや金平糖を貰ってもこんなに美味しいと感じないんじゃないんだろうかと思える話。 尤も彼女の住む場所では愛護派は殆ど居ないので彼女の妄想であったが。 親実装は頭巾、顔面、涎掛け、実装服を散々汚しながら揚げ物とご飯を食らい尽くした。 「デザートは、寒天菓子となります」 「デスー」 差し出された寒天菓子を、流石に満腹になったのかゆっくりと食べていく。 真っ白に色が抜けた蛆のような物が中央に浮いている寒天菓子を食べ終えると、実装石は両足をテーブル上に投げ出し盛大な汚らしいゲップを放った。 「如何でしたか豪華懐石料理は?」 「デス、デスーン、デスデス♪」 バカニンゲンにしては気の利いた料理デス、これからも私の料理番を任せるデス、だからワタシをお前の家で飼うデス。 そう上機嫌でコメントした実装石に対し頷きながら、男は車の方から何かを持ってくる。 「了解しました。では、飼い実装記念としてこちらを進呈しましょう」 男はそう言うなり神業とも言うべき手管で実装石の汚れきった実装服を瞬時に脱がせ、代わりにピンク色の服を素早く着せた。 フリルとリボンを沢山あしらえた、野良が羨望と嫉妬に猛り狂うような派手極まるデザイン。 酒と料理ですっかりご満悦していた実装石は新しく輝かしい生活を意味する服を着せられ有頂天になっていた。 「デスーンデスデスデスゥーン♪」 お前は気に入ったデス。お前にはワタシの股座を舐める権利を与えてやるデス。 そう上機嫌に言い放った実装石の言葉を受け、男は一部始終をカメラ(リンガル付き)に納めていた男と板前らしい男に合図を送る。 「では、少し家に帰って歓待のパーティーを準備します。ホンの少し、本当に少しだけ……ここでお待ち願いませんか飼い実装様?」 ゲップゥとガスを尻から放ちつつ、実装石は高慢に頷いた。 下僕のささやかな願いを叶えてやるのも、高貴なる者の務めだと言わんばかりに。 男達はテーブルセットの上で横になって食休みを始めた実装石に一礼した後、素早く機材を片付けてキャンピングカーを発進させた。 そしてキャンピングカーは少しだけ公園の外周を移動した後……窓を開けて超望遠カメラを突き出す。 実装石は満腹と酩酊で満足な気分だった。 服を与えられ、これから人間の家に迎えられる。 伝説の『飼い実装』になり、贅沢三昧出来る。 「デププ♪」 だから、すっかり忘れていた。 先程産んだ仔達の存在を。 仔達がどうして姿を現さないのかを。 綺麗な飼い実装の服を茂みの中から、憎悪と嫉妬と羨望の目で見ている赤と緑色の目を。 その目の群れが放置されたテーブルセットに横たわる彼女に対し、数を増やしながら包囲し始めているのを。 「デププ、デッスーン♪」 男が再度現れた時、どうやって男をより従属させるか考え耽っている実装石は全くを持って気付かなかった。 完 ———————————— 感想を何時もありがとうございます。 過去スク 【微虐】コンビニでよくある事 【託児】託児オムニバス 【託虐】託児対応マニュアルのススメ 【虐】夏を送る日(前編) 【虐】急転直下(微修正) 【日常】実装が居る世界の新聞配達(微修正) 【虐】山中の西洋料理店 【観・虐】実装公園のトイレで休日ライフ 【虐・覚醒】スイッチ入っちゃった 【虐夜】冥入リー苦死実増ス 【冬】温かい家(改訂版) 【虐】繭を作った蛆 【教育】神父様の教え 【哀】風の吹く町 【哀】【春】急転直下2 【哀・虐】桜の季節 【虐】繊維蟲 【餌】釣り場での託児 【虐・哀】春が過ぎた季節 【託児】託児オムニバス2 【哀】初夏を迎える季節 【ホラー】シザー・ナイト 【ホラー】幽霊屋敷 【託児】託児とペットボトル(仔) 【食】秋のお楽しみ 【観】防波堤の磯 【託児】託児オムニバス3 【哀】柿の赤らむ季節